宝塚ジャーナル : 『今度は愛妻家』瀬奈じゅんインタビュー

ミュージカル等で活躍中の瀬奈じゅんが、自身２度目のストレートプレイ、『今度は愛妻家』に出演する。2012年に瀬奈が出演して好評だった『ビューティフル・サンデイ』と同じく脚本・中谷まゆみ、演出・板垣恭一というコンビが、2002年に発表した作品である。映画化もされていて、02年に行定勲の監督で、豊川悦司と薬師丸ひろ子が主人公の夫婦役を演じて大ヒットしている。

元売れっ子カメラマンの北見俊介は、ある事をきっかけに、仕事もせずだらけた日々を過ごしている。妻のさくらはマイぺースな天然人で、あれこれうるさいくらいに夫の世話をやく。そんな２人と周りにいる人間たちが織りなす、カラッと笑えてホロッと泣けて、ちょっとシリアスな物語である。 

この作品のあとには、６月に帝劇でミュージカル『シスターアクト』の主演も控えている瀬奈に、本作と近況を語ってもらった。

真面目に演じるなかでゆとりを持って遊びたい

──前回の『ビューティフル・サンデイ』は、作品の内容も瀬奈さんの自然な演技も好評でしたね。

すごく楽しい公演でした。自然な芝居、といろいろな方に言っていただいて嬉しかったです。私自身もどちらかというと、コスチュームもので大きなお芝居をする舞台よりは、こういう芝居の方がやりやすいなと感じています。それは俳優さんなら皆さん同じかもしれませんが。

──今回は、また同じ作家と演出家のコンビということで、期待できそうですね。

とても素敵な作品で、台本をいただいたとき嬉しかったです。それにご一緒するのが前回と同じ葛山信吾さんということも嬉しくて、すべてにおいて、私の理想の男性なんです（笑）。

──すごく真面目な方だと聞いています。

そうなんです。その「真面目」というところが私は大好きです。生意気な言い方かもしれませんが、人としても俳優としても、その真面目さと素直さが素晴らしいんです。私もけっこう真面目なほうで、仕事に関しても理想はこうでありたいと考えるほうですし、そのなかでゆとりを持って遊びたい。そういうことが葛山さんとはご一緒にできるので、すごく心地いいんです。

当たり前ということの大切さを教えてくれる

──今回の作品は、夫婦のお話ということですが。

夫婦って一緒にいるのが当たり前、そばにいてくれるのが当たり前みたいに思いがちですよね。でも決して当たり前ではないんですよね。そういう夫婦の絆とか空気感、その当たり前の素敵さを教えてくれる作品だと思います。

──02年に映画になってヒットしましたね。

さくらの役を薬師丸ひろこさんが演じられていました。私は薬師丸さんが大好きなんです。ああいうふうになりたいなと思う女優さんの１人です。

──さくらは旦那さんの世話をやきすぎる奥さんということですが、瀬奈さんにもそういう部分がありますか？

あると思います（笑）。でも別に、とくに世話をやいている気持ちはなくて、母の姿を見ていたのでその通りにしているだけなんです。たとえば、母は毎朝毎晩、車で父を駅まで送り迎えしていたんですね。私もそれを見ながら育ってきたので、旦那様を送り迎えするのは当たり前と思っていました。でも彼にしてみたら歩いて行きたい日もあるみたいで、最近はそのあたりがわかるようになりました。とはいえ、私はやはり母がお手本なので、つい世話をやいてしまうんですよね（笑）。

──お母様は典型的な日本の主婦という感じの方なのですね。

食事中も全然座らないんです。みんなの世話ばかりやいて、「お母さんも座って食べて」と言われるくらい動いているんです。だから私も、旦那様が帰ってきたらまずビールを出すとか、次々にお料理を出すとか、動いているのが当たり前だと思っていますし、食べ終わったお皿などもすぐ片付けようとするので、ときどき「落ち着いて一緒に座っててよ」と言われたりしています（笑）。

──さくらさんと重なりますね。そんなさくらという役をどう演じたいと考えていますか。
さくらと俊介の関係を中心に物語が進んでいくので、さくらがどう動いたら、俊介の心がわかりやすくなるか、どうしたら彼の心の機微が見えてくるのかと、いつも考えています。彼がいい男に見えるための素材でありたいし、彼の内面を引き立たせるための存在でありたいと思っているんです。

今の時代の感覚を作品に取り入れたい

──この作家はボーダーな存在をよく描いていて、前回の『ビューティフル・サンデイ』はゲイの若い男性が登場しました。今回も村井國夫さんがそういう役割りですね。

村井さんは以前、『蜘蛛女のキス』（92年）でそういう役を演じられて、すごく素敵でした。でもご本人は、今回は“見るからに”というのではない役作りをされると思います。今の感覚を取り入れる方なので、いかにもという感じは現代ではウソくさくなると考えていらっしゃる。そういう感覚がすごいなと思います。この作品自体も2002年に発表されたときと2014年の今では、お客様の受け取り方も違っているはずなので。

──「今」を映し出すことが大事、ということですね。

そう思います。さくらの役も専業主婦なのですが、今は、専業主婦が当たり前の時代ではないですよね。ですからさくらの気持ちがわからない人もいると思うんです。お芝居の中で、「あなたが仕事をやめろと言ったからやめたのよ」というセリフがあるのですが、今は「仕事をやめろ」という男性は少ないので、そこは私たちの世代やもっと若い世代には新鮮に映るかもしれません。それをうまく逆手にとれば、この夫婦の関係性について、考えてもらえるきっかけになるという気もします。

──夫婦の固有な関係性のなかでならあり得ますね。

お客様もいろいろな世代の方がいらっしゃると思うので、その世代なりの感覚で受けとめていただければよいのではないでしょうか。「なぜ、結婚したら仕事をやめなきゃいけないの？」と思う方も、「そうだよね」と思う方もいらっしゃるでしょうし。

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──そして演じる瀬奈さんは、瀬奈さんの世代の感覚でということですね。

そうですね。ちょうど私たちの年頃は、ここまでキャリアを積んできたら辞めることが出来ないということと、結婚や出産とどう両立させていくか、考える年頃なんですよね。その世代ならではの結婚観もあると思いますので。

──そういう見方で考えると、主婦になったさくらが旦那様をつい構いすぎになるのもわかる気がします。

そのためにも日常部分を大事に演じたいと思っています。人間の記憶の中でいちばん残るのは、何気ない日常会話とかやり取りだと思うんです。私も結婚してまだ１年半しか経っていないのですが、いちばん大切にしているのは本当に何気ない日常生活で、たぶんその感覚をそのまま大事に演じればいいのかなと思っています。

振り幅の広い役と作品を楽しみながら

──瀬奈さんにはリアルな日常感覚があるせいか、映像の世界でもすごく自然ですね。

そうかもしれません。映像の仕事は自分でもすごくすんなりと入れました。

──今、瀬奈じゅんという女優のスタイルが、だんだん見えてきているのかなと？

いろいろなお仕事の中で、自分にとってこれがやりやすいとか少しずつわかってきました。だからといって仕事を選ぶということではなく、どんなお仕事でも精一杯やらせていただきたいと思っています。

──６月に『シスターアクト』の主演もありますが、さくらさんの役からかなり飛距離がありますね。

私、欲深いんです（笑）。『エリザベート』のような悲劇のときは、次は明るいものをやりたいなと。そうすると『エニシング・ゴーズ』がくるし、次は深い心理劇みたいなものをやりたいと思ったらドラマのお仕事がきて、ドラマの最中は舞台に出たいなと（笑）、そうしたらこの『今度は愛妻家』がきて。この舞台をやっているときは、きっと歌いたくなると思うんです。そこで『シスターアクト』ということで（笑）。すごく恵まれているなと思います。

──それは女優として振り幅の広さがあるからでしょうね。
いえいえ（笑）。でも、そういうふうに、いろいろさせていただけるので、このお仕事は面白くてやめられないですね（笑）。

先輩たちが拓いてくれた道をさらに広げていく

──そして今回、宝塚の100周年記念イベント『セレブレーション100！宝塚～この愛よ永遠に～』に、スペシャルゲストとして初参加されますね。

ちょうど６月は『シスターアクト』の公演中なのですが、１日だけ出演させていただきます。今までいつも、他の仕事とぶつかってしまって、その機会がなかったのです。今回の『セレブレーション100！宝塚』は、宝塚時代によく演出していただいた三木章雄先生で、音楽は吉田優子先生なので、１日でもいいから出させていただきたいと思いました。４月の式典のほうは『今度は愛妻家』の舞台稽古とぶつかってしまって出席できないのですが、記念公演の１つに出演するという形で、長い宝塚の歴史に参加させていただけるのはすごく嬉しいです。

──今、改めて宝塚について感じるのはどんなことですか？

退団してからも、たくさんの上級生と共演させていただくのですが、皆さん本当に素晴らしいんですよね。『エリザベート』でも、花道や袖から杜けあきさんや寿ひずるさんをいつも拝見していました。あの広い舞台を一人で埋めていらっしゃる姿とそのオーラに感動しながら、誇らしく思っていたんです。本当に宝塚ってオールマイティですよね。タップから日舞から、芸事は一通りやらせていただき、多くの舞台を踏ませてもいただけたので、舞台に立つ事にあまり恐怖を感じないんです。それはすごく武器だと思います。そういうことを上級生の方々を見ながら感じると同時に、私がこうしていろいろなことに挑戦させていただけるのも、先輩のみなさまが道を切り拓いてくださったからこそだと思います。だから私も、後輩たちのために道を作ってあげたいなと思うんです。

──そういう意味では、こういうストレートプレイも瀬奈さんが作る道の１つになりそうですね。

やはりいろいろなことが出来るように可能性を広げていく、選択肢を多く残していくことが私たちの役目だと思っています。それが卒業しても宝塚の伝統を伝えることにもつながると思いますので。これからも卒業生である誇りと品格を持って生きていきたいと思っています。

せなじゅん○74年生まれ、東京都出身。92年宝塚歌劇団に入団。05年から09年まで月組トップスターとして活躍。10年より女優としてデビュー、舞台や映像に活躍中。主な主演舞台は、『エリザベート』『ニューヨークに行きたい!!』『ビューティフル・サンデイ』『ラストダンス～the　musical 越路吹雪～』『エニシング・ゴーズ』など。また、コンサート『ALive』を10、11、13年に開催。TVドラマなど映像でも活躍中。菊田一夫演劇賞、岩谷時子賞を受賞。本年６月～７月にはミュージカル『シスターアクト～天使にラブ・ソングを～』（帝国劇場、他）に主演する。