彩吹真央の『ロコへのバラード』が、より大人のタンゴ世界となって帰ってきた。
９月19日に幕を開けたこの舞台は、２年前に彩吹の女優としての初主演作として上演された。ピアソラの名曲である｢ロコへのバラード｣をタイトルに付けてあるように、ブエノスアイレスを舞台に、アルゼンチンタンゴの歌と踊りを堪能できるステージとなっている。
今回はキャストが半分ほど入れ替わっていて、石井一孝やChizuko（チヅコ）、西島千博は初演から続けて出演。Claudio Villagra（クラウディオ・ビシャグラ）、石井一彰、大月さゆ、進藤学、Andres Gonzalez(アンドレス・ゴンザレス）が、今回初参加のメンバーとなる。
【物語】
マリア（彩吹）は40歳、姉を亡くして古い家を畳たたんで下町の小さな部屋へ引越すことになり、荷づくりと本棚の整理をしている。姉を亡くしたので下町の小さな部屋に移るのだ。マリアはオラシオ書店に勤めていて、エンリケ（進藤学）という同僚もいる。書店では店長のオラシオ（石井一孝）の好意で、マリアが朗読会を行なっていて、その会にはロミーナ（チヅコ）と夫のハビエル（クラウディオ）、若いカップルのアメリータ（大月）とミゲル（石井一彰）、椅子職人のラロ（西島）などが集まってくる。２組のカップルはそれぞれ愛の悩みを抱えていて、マリアはそんなカップルの要望に応えて本を選んで朗読する。
演奏のキンテート･オセイロと世界的奏者の小松亮太のバンドネオンが、今回も甘く鋭くアルゼンチンの哀歓を奏でて、居ながらにしてブエノスアイレスの夜に連れ込んでくれる。 
初演とストーリーはほとんど一緒だが、キャストが変わると作品から伝わってくるものは明らかに変化する。まず若い書店員役の進藤学が加わったことで、マリアと店長だけだった書店に新しい風が吹き込まれ、活気や生活感が前面に出るようになった。
またチヅコの夫役のクラウディオ・ビシャグラのタンゴは、エンターティナーとしての表現の豊かさを感じさせるもので、踊るその身体の深いところから言葉が湧き出てくるかのようで、セクシーで官能的なだけでなく、観るものを物語世界に引き込む圧倒的な力を持っている。
そんなタンゴの魅力を、幻想の男フリオ役のアンドレス・ゴンザレスや進藤学も、あらゆる場面で見せてくれる。とくに2人が男同士で踊るフィナーレのデュエットは、熱く妖しくパワーが絡み合って、今回ならではの見どころの１つだ。
初参加組の大月さゆと石井一彰のカップルは、キュートなのにどこか強いアメリータと、ひよわに見えて誠実さを感じさせるミゲルがいいバランスで、また、大月の明るい持ち味は、劇中劇の子供時代などを、より楽しく見せることに役立っている。
初演で、日本人初のタンゴコンテスト世界チャンピオンの凄みを見せてくれたチヅコは、今回もしなやかでキレのある素晴らしいダンスを見せてくれる。正確で早いステップや相手に全身を預けるリフトなどで見せる技術は世界的なダンサーならでは。クラウディオが振付けたフィナーレの「クラウディオ＆チヅコ」のデュエットは、まさにハイレベルで圧巻そのものだ。
西島千博はマリアをひそかに愛する椅子職人のラロで、今回も温かな笑顔で作品世界を照らす存在だ。彩吹のマリアと踊るバレエシーンでは、振付家としてストーリー性を膨らませ工夫を加えている。
店長のオラシオの石井一孝は、この書店に集まる人々を愛し、見守る存在として今回も物語を語り見事なタンゴを聴かせてくれる。とくにタイトル曲である「ロコへのバラード」はドラマティック。
そしてマリアの彩吹真央は、なによりもまず「大人の女」になっていた。それは衣裳の一部がより大胆に作り直されていたこともあるが、官能や欲望を持ち合わせた１人の女性、そして40年生きてきた生活を感じさせる１人の「女」になっていた。初演で感じた童女のような世慣れていない部分は残しつつ、自分なりに暮らしに根を生やして生きてきた人間の強さや、そこから外へ向いて出ていこうとする前向きな意志を持った女性の、人間としての魅力に溢れたマリアがそこにいた。
この作品は背景に置かれている美術の「家系樹」に重ねて、過去と未来を繋いでいく生命を描く物語でもあるのだが、今回の彩吹マリアは、その「家系樹」から解放されて、自分らしく生きていく１人の女性の姿として強く印象に残った。
タンゴ・ミュージカル
『ロコへのバラード』2013
作・演出◇小林香
音楽監督◇小松亮太
振付◇Claudio Villagra、Mario Morales、西島千博、港ゆりか
出演◇彩吹真央／Claudio Villagra、Chizuko／石井一彰、大月さゆ、進藤学、Andres Gonzalez／西島千博（特別出演）／石井一孝
ゲスト出演◇小松亮太
演奏◇キンテート･オセイロ
●9/19〜29◎東京グローブ座
〈料金〉S席 8,500円、A席 5,500円、プレミアムシート11,000円（全席指定／税込）
〈問合わせ〉アトリエ・ダンカン 03-3475-0360（平日12：00〜18：00）
●10/4、5◎サンケイホールブリーゼ
〈料金〉8500円（全席指定／税込）
〈問合わせ〉ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888（11：00〜18：00）
〈公式HP〉http://www.duncan.co.jp/web/stage/loco/
【取材・文／榊原和子 写真提供／アトリエ・ダンカン】
☆話題の舞台を“お得に”観る！チケット日時・枚数限定、お得に販売中！
