劇中で歌われる「JUMP！」という曲のエネルギーをそのまま演じるエネルギーへと転換させたような、明るく勢いのある新人公演だった。
学年を重ねたから出せるような大人の男の抜け感や小粋さ、ラスベガスが舞台になることでのゴージャスさが求められるのが、この『オーシャンズ11』という作品。その雰囲気を満足に出せるようになるには、舞台人としてまだまだ技術的にも足りない点があるのは致し方ない。けれど「JUMP！」。どんな壁も、どんな崖も、ひとっ飛びしてみせる、という出演者の思いがあふれ出ていたので、新人公演の面白さを十分に堪能し、観ていてとても楽しい気持ちになれた。
主演をつとめた芹香斗亜は花組に組替えになる前、星組時代にも『オーシャンズ11』に出演していて新人公演ではラスティ役を演じている。今回はステップアップして主役のダニー役。また本公演では注目若手男役枠であるライナス役を任され『オーシャンズ11』の主要な役を総なめしているような感じ。芹香に対する期待がうかがい知れる。自分が本公演で演じている役だからというのもあるのかもしれないが、新人公演では芹香のライナス（優波慧）を見つめる目がものすごく優しかったのが印象に残った。ライナスの情けなさにちょっと呆れながらも、お前ならできるだろ？と遠目から見守っている、年の離れた兄といった風。そんな時おり見せる優しげな表情から芹香自身が持つ甘い魅力がふわっと広がった気がした。芹香の柔らかい個性とダニーという役のちょい悪っぽさがほどよくミックスされた納得の主演ぶり。
ダニーの相棒、ラスティ役には水美舞斗。この水美が中心となって歌う「JUMP！」がとても良かった。伸びやかで、押し出しの良い歌声を聞かせながらも、男役としてきっちりとキザった表情なりを入れてくる水美。台詞声なども含め芝居センスが良く、アドリブでも笑いをとるなど堂々とした舞台姿に頼もしさすら感じた。芹香との並びもキャラクターの違う長身同士で華やか。
本公演で水美と共にモロイ兄弟を演じている柚香光は、ラスベガスのホテル王、ベネディクト役。線は細いが役作りは濃く、本公演、新人公演を含めて、これまで紅ゆずる、天寿光希、望海風斗らがベネディクトを演じてきたが、一番ベネディクトとしてしっくりきたのは柚香のベネディクトかもしれない。恋人の前だけでは甘い顔をし、裏では非道なホテル経営。憎みきれない･･･けれども悪役然としている、そのバランスがちょうど良い。
ダニーとベネディクト、二人の男性から思いを寄せられるヒロイン、テスには桜咲彩花。クラシックな娘役らしさが魅力的だったが、テスとしてはもう少し遊びのある大人っぽさがあった方が良かったかもしれない。役作りは個性が違う分、難しい点もあったのだろうが、歌、芝居共に安定した出来。また他の役で真ん中に立つ姿を観てみたくなった。
そのほか天真みちる（ソール）、真輝いづみ（イエン）、冴華りおな（ルーベン）、大河凜（バシャー）、和海しょう（フランク）、舞月なぎさ（リビングストン）、優波慧（ライナス）、蘭舞ゆう（バージル・モロイ）、矢吹世奈（ターク・モロイ）がオーシャンズ11メンバー。
天真が出過ぎない抑えた演技で老け役を見せ、またオールバックにシケ、浅い黒塗りで登場した大河のバシャーにいままでのイメージなかった色っぽさがあった。
娘役ではクィーン・ダイアナ役の仙名彩世が目を引いた。『ファントム』の新人公演で演じたカルロッタ、『おかしな二人』のセシリーと続いて、もう濃い女役ならお手の物、といった安定感すら出てきたが、次回出演作『フォーエバー・ガーシュイン』では初のヒロイン役が決まっている。どんなヒロイン像を見せてくれるかが楽しみだ。
一本物を短くまとめての構成だが、物語上必要な部分をつなぎ合わせて無理のないストーリー展開となっていた。東京公演から加わった2階席まで使った演出は新人公演でも行われ、客席も盛り上がる。欲を言えばもっとこの新人公演メンバーでのミュージカルナンバーも観てみたかったが、上演時間の都合上、大幅なカットは仕方が無い。
宝塚の100周年以降を担っていくのが、今、新人公演の舞台をつとめている世代になるのだと思うと感慨深い。素直にこれから先の宝塚に希望と期待と抱かせてくれた新人公演だった。
花組新人公演
『オーシャンズ11』
脚本◇小池修一郎
新人公演演出◇田渕大輔
●4/11◎東京宝塚劇場
【文／岩見那津子】
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