宝塚ジャーナル

えんぶ4月号

OG公演レビュー

見事なスペクタクル歴史ファンタジー劇! 児玉明子脚本・演出、茅田砂胡原作の舞台『デルフィニア戦記 第一章』上演中!

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原作の『デルフィニア戦記』は茅田砂胡の小説で、これまでシリーズ18作、累計320万部を突破する大ヒット・ライトノベルだ。デルフィニアという国をめぐる壮大なファンタジーであり、とある陰謀により命を狙われるデルフィニアの若き国王・ウォルと、謎の少女・リィの友情の冒険が描かれた、1つの国の歴史小説でもある。小説が発表されるや、画集、朗読CDなどが発売され、いずれも大ヒットになった。
今作は、2.5次元舞台で注目されている児玉明子を脚本・演出に迎え、1月20日から29日まで、舞台『デルフィニア戦記』として天王洲 銀河劇場で上演される。その初日前に通し舞台稽古が公開された。

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【あらすじ】
妾腹の生まれでありながら、デルフィニア前国王の亡き後、善政を敷いてきた国王のウォル(蕨野友也)。だが、ペールゼン(山本亨)ら貴族の陰謀によって国外に追放されていた。ペールゼンは「改革派」を名乗り、執拗なまでにウォルを殺害しようとする。絶体絶命の窮地に陥った時に、「異世界から落ちてきた」という謎の少女リィ(佃井皆美)が助太刀をする。彼らは「同盟者」として、国を取り戻すために仲間を集めるのだ。騎士団長ナシアス(細貝圭)、副団長のガレンス(須藤公一)、幼馴染のイヴン(山口大地)、ドラ将軍(三田村賢二)、その娘のシャーミアン(綾那)。彼らは徐々に力をつけ始め、「国王軍」を結成し、ペールゼン討伐に向かう。
しかし、ペールゼンは、ウォルの養父フェルナン(小林勝也)を投獄し、いとこであるバルロ(林剛史)を軟禁し、とある嘘の秘密を暴露して口車にのせて対抗する。無駄な命が奪われること、そして、自分が王位ではないかもしれないという事実が彼を悩ませ始める。そんな時に、リィの一声により事態は動き始めるのだ。「今のおまえには王冠よりも欲しいものがあるんじゃないのか?」。

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紗幕越しの暗い牢獄の中、手錠をかけられた手をじっくり眺めるウォルの養父のフェルナン伯爵のかすかな祈りからこの舞台が始まる。か細い目の瞬き、声の震え、命の灯火さえない老体を、読売演劇大賞優秀男優賞を3度も受賞した小林勝也がじっくりと演じているのだから、演劇ファンはもちろん、原作のフェルナン・ファンもたまらない、身悶えんばかりの投獄された苦しさが滲みでているオープニングに圧倒される。
そして残党狩りに追われたウォル達のダイナミックな殺陣が始まるのだが、殺陣師の栗原直樹によるアクションが冴え渡る。追われる身の必死の抵抗が息をつかせぬほどダイナミックな殺陣に宿っている。そしてボンジュイという地図にもない異国を探している剣の達人でもある少女リィに助けられるところから舞台は急展開を見せていく。

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舞台装置はシンプルである。中央に回転舞台があり、上手に階段。中央に台座。ここを舞台に、殺陣あり踊りあり、演技あり長ゼリフありのストーリーが進んでいく。元宝塚歌劇団の演出家で、退団後に手がけた『NARUTO―ナルト―』や『FAIRY TAIL』などのトリッキーな演出で有名な児玉明子だが、「今回は人間同士の物語ですから、トリックを多用する場面は少ない」(えんぶ2月号)と語っている通り、転換はアンサンブルのダンスや出演陣の歌で見せ、どちらかといえば人力で話が進んでいく。
だからこそだろうか、俳優陣の演技は迫力に満ちている。ウォルの蕨野友也は、性格上、影を背負った国王を演じているのだが、リィというどこか天然の友人に導かれて、立派な一人の国王として成長していく様は惚れ惚れする。立ち回りは初めてだそうだが、特撮ものなどで活躍してきただけに、敵を斬る動き、剣を交わすアクションは堂に入っている。

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リィの佃井皆美は、まさに天然でいて不思議ちゃん。どこの国からきたのかさえわからないリィの、不思議なキャラクターと存在感を、芯を感じさせながら演じている。ジャパンアクションエンタープライズに所属して、戦隊ドラマの経験もあるだけに殺陣は実に見事で、剣の交わす時の回り込み、切り返しなどは滑らかに魅せる。

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ナシアス役の細貝圭は、たぐいまれなる剣の達人でウォルに忠誠を誓う義の男を颯爽と演じている。殺陣はまるで中世のスペインの闘牛士のように華麗だ。とくにライバルのバルロ(林剛史)との、己のプライドをかけた丁々発止のやり取りからの殺陣は見せ場だ。

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ナシアスのライバルでウォルの従兄弟・バルロの林剛史は、不遇にもペールゼンに軟禁され、しかもペールゼンの口車に乗ってウォルを殺しにくる。内心ではペールゼンへの不信を持ちつつ、国のために従う葛藤は見ていて苦しくなる。
 
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幼馴染のイヴン役の山口大地は、忍者的な素早い動きをアクロバティックに演じていて、大立ち廻りでは冴え渡る。敵の上を飛び跳ね、階段から回転して飛び降り、敵を蹴り飛ばし殴りとばす、その様はアニメの世界と錯覚するほど。

ドラ将軍の三田村賢二は、ウォルに的確なアドバイス(主に反対意見)を伝える中に、揺るぎない忠誠心を滲み出させている。その娘のシャーミアンの綾那は、線の細さに似ず、殺陣にセリフに縦横無尽に駆け巡る。

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ガレンスの須藤公一は大きな体躯を活かし、大ぶりの剣で勇ましく敵をなぎ倒す様がダイナミック。愛嬌のある顔とは正反対のキャラというギャップが映えて、カッコ良ささえ感じさせる。

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女官長カリン役は大沢逸美。実はある事情で息子を失っていて、子供を持つ女性の業や、王妃に仕える身分の辛さを、朗々と感情を込めて語る長ゼリフが切ない。いわばこのデルフィニアの悪しき歴史を語るのだが、その様は感動的だ。

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デルフィニアの外交官を務めるブルクス・大原康裕は、ペールゼンの策略にはまっていく様子は、観ている側に腹立たしささえ感じさせてくれる。

ペールゼン役の山本亨は、デルフィニアのすべての諸悪を握っているという役どころだが、前国王のドゥルーワへの忠誠心ゆえであり、ただの悪役ではない。また朗々とした長ゼリフや、ウォルとの殺陣でも惹きつける。
 
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そして冒頭でも述べたように、フェルナン役の小林勝也が素晴らしい。牢獄で今まさに息絶えんとするシーンで、養父として幼きウォルを育てたという誇りが語られるのだが、ようやく再会できたウォルに「お前は国王であり、私の手から離れた存在であるのだ」と冷たく言い放つ。凛とした決意と深い愛。原作でも名シーンとなっている場面をひときわ美しく表現、ベテランの凄みを感じさせてくれた。

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舞台全体の流れは主に4つのパラグラフに分かれていて、殺陣のシーン、モノローグや長ゼリフ、言葉がぶつかり合うダイアローグ、流れるような転換シーン、この4つをトランプのディーラーように巧みに組み合わせて、テンポよく切り出し配置していく児玉明子の手腕には目をみはる。なおかつ物語への理解が深いので、大切なシーンや言葉のチョイスなど、再現性と組み立てが絶妙なのだ。そのおかげで、原作ファンはもちろん、原作を知らない人間が観ても物語に入り込めるようにできている。 
そんな児玉の原作への愛と、小説の舞台化というプレッシャーに真っ向から向かい合ったカンパニーの力が、今回の成功に繋がったと言えるだろう。
副題に「第一章」とついているように、今回は原作の3、4巻を描いているが、この先、第二章、第三章と繋がっていくことへの、大きな期待も抱かせてくれる見事な舞台が誕生した。

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【囲みインタビュー】

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細貝圭、佃井皆美、蕨野友也、山本亨
 
この『デルフィニア戦記』の公開舞台稽古の前に囲みインタビューが行われ、蕨野友也、佃井皆美、細貝圭、山本亨が登壇した。

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蕨野友也(ウォル役)
原作の世界観を、演出家の児玉さんが丁寧に描いてくれました。ファンの期待を裏切らない『デルフィニア戦記』になっていると思います。殺陣が多い舞台です。初めての立ち回りですが、先輩方にたくさんのご指導を受けて本日を迎えることができました。最初は、殺陣師の方につけていただいて、5回剣を振っただけで疲れて立てないことがありました。筋肉痛が続く毎日で、先輩方についていかなくちゃいけないところから始まっていますので、これからご覧いただく方には、蕨野が成長したところを見せられると思います。小林勝也さん演じますフェルナン伯爵の最後は、原作のファンの方達も「もう一度見たいシーン」投票で1、2位を争う印象的なシーンですので、そこは小説も読んで、気持ちを込めてしっかり演じるようにしました。本日初日を迎えるにあたり、素晴らしい劇場で上演させていただくので、緊張感もありますし誇りもあります。
 
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佃井皆美(リィ役)
ついにきたかという感じです。稽古が1ヶ月と少しあったのですが、本当にあっという間で夢みたい。緊張していますが、楽しみにしてくださるみなさんのためにも精一杯やるぞという気持ちです。一番のシーンは、ペールゼンとウォルが戦うシーンです。手に汗握るようシーンで、わーっと泣きそうになりました。原作のファンで、リィが大好きだったので、自分が演じるということになった時に、彼女を深く追求していくのが大変だったし楽しかったですね。

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細貝圭(ナシアス役)
役者陣は年齢差がありますが、すごく仲が良いので、年齢を超えた座組として、1ヶ月間以上も稽古したので、早くお客さんの前で演じたいと思います。蕨野くんは殺陣や演技はほとんど初めてとおっしゃっていましたけど、現場ではそんな感じはなかったです。あまり言葉で引っ張っていくタイプではなくて、背中を見てそれについていく座長だなと。僕は、親友であるバルロとの対立が、今まで信頼していた仲間と対立し戦わなければならない、差し違えて死んでしまうところまで、ナシアスの気持ちが揺れ動いてしまうところなど考え抜いて演じています。

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山本亨(ペールゼン役)
みんなで稽古をしてきたものをお客様にぶつけて、怪我なく千秋楽を迎えたいと思います。原作のファンの方によろこんでいただけるように一生懸命演じたい。実は稽古が進むにつれて蕨野くんに無視されるようになって、冷たくなっていくので、「蕨野ー!」みたいな感じで少し腹を立てていたら、親の敵ということで、ウォル役に没入してると聞いて、ウォルの佇まいが彼の中に入ってきたんだなと思って感心しました。ペールゼンは権力者になりたかったのではなくて、彼なりの正義があったと思うので、5年間国を治めてきた人間としての手腕がバックに見えたらありがたいなと思っています。

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〈公演情報〉 
『デルフィニア戦記』第一章
原作◇茅田砂胡『デルフィニア戦記』(C★NOVELS/中公文庫)
脚本・演出◇児玉明子
出演◇蕨野友也、佃井皆美、細貝圭/小林勝也、山本亨 他
●1/20〜29◎天王洲 銀河劇場
〈料金〉特製台本付き1階席10,900円、特製台本付き2階席9,900円、特製台本付き3階席8,900円、1階席8,900円、2階席7,900円、3階席6,900円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉舞台「デルフィニア戦記」チケット窓口 03-6265-8518
〈公式サイト〉http://delfinia-stage.jp
 
(C)茅田砂胡(C★NOVELS/中公文庫)・舞台「デルフィニア戦記」製作委員会



【取材・文・撮影/竹下力】





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古川雄大、大野拓朗、生田絵梨花、木下晴香、清新なキャストが生み出す新たな世界。ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』上演中!

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世界を席巻したジェラール・プレスギュルヴィック作の大ヒットミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が、主なキャストを一新して、東京・赤坂ACTシアターで上演中だ(2月14日まで。のち、2月22日〜3月5日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演)。

シェイクスピアの不朽の名作を題材に、どれをとっても心に響くジェラール・プレスギュルヴィックの名曲の数々を配したフレンチ・ミュージカルとして、世界中で愛され続ける『ロミオ&ジュリエット』。今回の上演は、本邦初演である2010年の宝塚星組公演以降、雪組、月組、再び星組で上演されてきた宝塚版と、2011年、2013年の男女キャストによる日本オリジナルバージョンのすべてを潤色・演出している小池修一郎が、キャスト、演出プラン、振付、美術、衣装を一新。謂わば2017年版の『ロミオ&ジュリエット』を生み出すという話題が、大きな反響を集めている。

そんな2017年版のコンセプトは、破壊された近未来を思わせる世界の中で繰り広げられる『ロミオ&ジュリエット』の物語だ。このコンセプトは元々、ポップなリズムを持つ楽曲もある作品に合わせて、ミニ丈のスカートや、ジーンズ生地などの衣装も登場しつつ、全体的にはロマンティックな作りだった宝塚版よりも、リアリティがあるものを作ろうと考えたという小池修一郎が、2011年に男女キャストによる日本オリジナルバージョン用に想定していたものだったという。誰もが知っているロミオとジュリエットの物語を 21世紀の現代にも一遍のリアリティを感じてもらえるようにしたい、という思いがそこにはあったそうだが、準備の最中東日本大震災が勃発。自身も阪神・淡路大震災の被災者だった小池は、このタイミングで破壊された世界を観るのは、人の心として辛いだろう、との想いでこのコンセプトを封印。現代の物語というテイストは残しつつ、ロマンティックに、オシャレな方向に修正して出来上がったのが、2011年と2013年の上演スタイルだったそうだ。果たして、登場する若者たちが皆スマホを持ち、ロミオとジュリエットが秘密裏にあげた結婚式の写真が瞬く間に拡散し、フェイスブックや荷物を運ぶカートも登場。更にはロレンス神父がパソコンでアロマオイルの作り方を検索しているなど、斬新な仕掛けの数々には驚きの声も上がったものだった。

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その強烈な記憶を経て、今回、そもそものはじまりのコンセプト「失われた世界での『ロミオ&ジュリエット』の物語」に立ち返る、という2017年版の新演出に注目が集まった訳だが、実際に舞台に接してみると、2011年&2013年に提示された世界は、小池がそもそも想定していた世界から、実はあまり大きくは離れていなかったことがまず鮮明になった。若者たちの手にするスマホも、ロレンス神父の操るパソコンも、この舞台にもそのまま登場していて、メールの一斉送信がそれと特定されてはいないが、LINEになったのだなとわかる映像が加えられていたりという、現代のツールを持ち込んでいるならではの、謂わば流行りもののマイナーチェンジはあるものの、そこに大きな変化はない。だから、この4年間の間に個人の携帯電話を持つ時期が、ますます低年齢化している今の目で見ると、18歳になるまでは携帯電話を持つことを禁じられているというジュリエットの設定が、より苦しくなった感は否めなかった。ロレンス神父があまりにも重大な話をたった1通のメールで済ませることにもやはり違和感が残るし、そもそも通信手段がここまで容易な世界では、ロミオのヴェローナからの永久追放の重みも、どうしても変わってこざるを得ない。

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だが、そうした現代の機器がもたらすなにがしかの軋みを、戦いにより崩壊した近未来で争う2つの勢力という、どこかざらざらとした焦燥感さえ感じさせる設定の迫力が凌駕してくるのもまた事実だ。それは大きな戦いを示唆する映像をバックに「死」のダンサーが登場する幕開きから、それぞれの旗印を掲げて一触即発の状態にある2派に分かれた若者たちの、止めようもない暴力性が爆発する冒頭の展開ですでに大きなうねりとなって舞台を支配していく。ベンヴォーリオ、マーキューシオ、ティボルト等、主要メンバーももちろんだが、R&Jダンサーと名付けられたアンサンブルメンバーが創り出す狂気すれすれの緊迫した空気感と迫力が、KAORIalive、AKIHITO、小尻健太という、ジャズ、ヒップホップ、コンテンポラリーの世界で台頭する面々の優れた振付を得て生み出す熱量の高さには、計り知れないものがあった。

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これがあるからこそ、ロミオとジュリエットの出会い、すべての争いと憎しみを越える愛の、清新さと強さとが作中にそそり立ってくる。特に今回「死」のダンサーが、かなりの部分で踊ることなく気が付くとセットの高みに佇んでいる、という静けさを湛えた故に、若者たちの暴走の前に立ちふさがる「死」の不気味さがより強調されたのは、興味深い仕掛けだった。何より終幕、誰もが知っているロミオとジュリエットの物語の結末が、「死」の勝利でなく、「死」の敗北=「愛」の勝利に変換される瞬間の鮮やさは、いつまでも目に残るものとなっていた。

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思えば、ここまで争いの絶えない世界にリアリティがあるのは、すべての人類の抱える悲痛な課題故だが、だからこそその争いを終わらせる唯一の力は「愛」である、という作品の崇高なテーマが、鮮烈に浮かび上がる様には悲しいほどの美しさが宿っていた。ここに小池が向かおうとした『ロミオ&ジュリエット』のシンプルな真髄がある。映像の使い方などには、ともすると説明過多な印象を残す部分もあったものの、作品の根幹に向かう視点がブレないことで、様々な試みもまた、1つに収斂されていったと言えるだろう。更に、この作品を唯一無二のものにしている、ジェラール・プレスギュルヴィックの名曲の数々には、やはり何ものにも代えがたい魅力がある。これほどすべてのミュージカルナンバーが名曲揃いという作品も、そう多いものではない。例えるならば、レナード・バーンスタインが『ウェスト・サイド・ストーリー』を、アンドリュー・ロイド=ウェバーが『オペラ座の怪人』を、クロード=ミッシェル・シェーンベルクが『レ・ミゼラブル』を、シルヴェスター・リーヴァイが『エリザベート』を、それぞれがそれぞれの作品の楽曲の数々を書いた時と同様に、クリエイターには神が宿る瞬間がある。プレスギュルヴィックにとって、その瞬間がこの『ロミオ&ジュリエット』を書いた時だったことは、疑いようもない。すべての楽曲たちの、類い稀な多彩さと魅惑にはただ平伏すばかりだ。

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そんな楽曲と、新たな世界観を新鮮なキャストたちが見事に支えている。前回公演から引き続いての出演となったロミオ役の古川雄大は、この期間に様々な役どころに挑んできた経験の蓄積で、より大きくなった存在感に加え、文字通りの貴公子ぶりが、互いが一目で恋に落ちる『ロミオ&ジュリエット』という物語の根幹を支える力になっている。言うなれば持ち前のビジュアルの良さに、役者としての力量が追いついて来ていることが如実に表れたロミオで、ミュージカル界の次世代のプリンスとしてますます台頭していくことだろう。更なる活躍が楽しみだ。

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もう1人のロミオの大野拓朗は、如何にも育ちの良い好青年らしい、甘く、優しい雰囲気に秀でている。長く親しまれている『ロミオ&ジュリエット』の物語世界のロミオ像が担っているイメージにぴったりで、何よりもミュージカルデビューだった『エリザベート』の皇太子ルドルフ役から、長足に進歩した歌唱力に驚かされた。この作品を愛し出演を念願していたという大野が、夢を叶える為にコツコツと積み重ねてきた努力が手に取るようにわかる仕上がりで、その真摯な姿勢に敬意を表したい。長い公演期間にまだまだ伸びしろがあると感じられるのも頼もしい。

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対するジュリエットは、生田絵梨花の1つの瑕疵もない完璧な乙女ぶりに感心させられる。宝塚の娘役とはまた違った、もう少しリアリティを伴いつつも、「乙女」というある意味の記号に己を完全に同化させることのできる力量は、他の追随を許さない。さすがは大人気アイドルグループの一員として、「アイドル」というやはり1つの記号の中で勝負している人ならではの強さがあった。彼女が出演することによって、初めて「ミュージカル」の世界に足を踏み入れた観客も多いだろうことも併せて、果敢な挑戦の大いなる意義に拍手を贈りたい。歌唱も健闘していて、大野同様更に伸びる力も感じさせた。

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もう1人のジュリエットの木下晴香は、この大作ミュージカルのヒロインを射止めたことによって、女優デビューを果たしたシンデレラガール。それだけに新鮮さはとびっきりだし、そもそも歌唱力を競うテレビ番組で注目を集めた人だから、透明感のあるソプラノが耳に心地よい。芝居面にまだ硬さが残るが、きっと公演ごとに表現力を増していくことだろう。今後に注目していきたい。

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また、ロミオ&ジュリエットだけでなく、重要な若者たちの役どころもすべてWキャストなのが、この公演の眼目でもあって、組み合わせにもこだわり始めると何度でも足を運びたくなる魅力的な面々が顔を揃えている。

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ベンヴォーリオの馬場徹 には、作中1人だけ生き残る役柄に相応しい誠実さがあり、一方の矢崎広には鋭利な痛みがある。大曲の「どうやって伝えよう」もそれぞれの色合いで歌っていて、広がるイメージの違いが興味深い。

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そして、思えばこの人の死がすべての歯車を狂わせる、物語のキーマンでもあるマーキューシオは、平間壮一と小野賢章。2人共に、役柄に不可欠な危なさと狂気が感じられる。その中で平間のダンスの切れはやはり見事だし、小野の豊かな台詞表現はドラマをグイグイと引っ張っり、双方武器となる長所を、役柄によく活かしている。

s 広瀬2撮影/田中亜紀
s田中亜紀 渡辺1撮影/田中亜紀

また、従姉妹のジュリエットを密かに愛しているという、このフレンチミュージカル独自の解釈が加えられて、より大きな役柄になっているティボルトは、渡辺大輔が想いの持って行き場のないいら立ちをストレートに表したのに対して、広瀬友祐が内に籠る屈折感をにじませたのが面白い。双方のアプローチが、役者の個性とも合致していて、見比べる妙味の多いWキャストになった。

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もう1組、これは経験者によるWキャストである「死」のダンサーの大貫勇輔が、表現力をより増した造形を披露したのに対して、宮尾俊太郎がバレエダンサーならではの、静謐な佇まいで作品全体に影を落とす役柄を支えたのが、やはりそれぞれならでは。特に今回の「死」は動きがかなり減っているので、本人の存在感が相当に要求される難役となっていることもあり、経験者の2人が出演した効果は大きかった。

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Wキャストの面々をしっかりと受け留める大人たちは、キャピュレット夫人の香寿たつきが、愛のない結婚への絶望と、失われていく自らの若さへの焦燥を、きめ細かく表現している。同じ宝塚のトップスター経験者であるこの役どころの前任者涼風真世が、彼女ならではの魔性の女的な表現を全面に出して演じた記憶が鮮明なところを、芝居心に秀でた香寿ならではの造形で、新たなキャピュレット夫人を創り出していて見応えがあった。

【R&J2017】舞台写真(C)田中亜紀 阿部、秋園2撮影/田中亜紀

もう1人の宝塚出身者秋園美緒が、宝塚時代から定評があった歌唱力をフルに発揮して、大きなナンバーがあるモンタギュー夫人の高音部を絶妙に歌い上げたのが頼もしい。アンサンブルとして地道に活動を続けてきた秋園が、近年、『エリザベート』のリヒテンシュタイン、そして今回のモンタギュー夫人と、大きな役どころで活躍しているのは、実に嬉しいことだ。

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また、乳母に扮したシルビア・グラブは、キャスト発表当初は、持ち味と役柄が或いは香寿と逆でも良いのではないか?との思いも抱いたものだが、高音部まで力強さを必要とする大ナンバー「あの子はあなたを愛している」の見事な歌いぶりはもちろん、一見態度が豹変するようでいて、実は常にジュリエットを思い、本気で良かれと思って発言している乳母役の持つ元々の難しさを、きちんとクリアしたのはたいしたもの。幕を開けてみれば納得のキャスティングになっていた。

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一方、ロレンス神父の坂元健児は、生来の個性に憎めない軽やかさがあるのが、取り返しのつかない掛け違いを招く役柄に、従来のイメージとは異なる色彩を加えていて新鮮だった。この神父像であれば、やがてまた神を呪う心から立ち直るのではないか?と思えたのは、今回の世界観による終幕に相応しいし、潤沢な歌唱力は改めて言う必要もないほど充実している。

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撮影/田中亜紀

更に、モンタギュー卿の阿部裕が骨太な造形で、パリスの川久保拓司が個性的な作りこみで、 大公の岸祐二が豊かな歌唱力でそれぞれの役柄を印象的に描いている中、 キャピュレット卿の岡幸二郎の存在感が、大きく目を惹きつける力になっている。いつまでもオシャレで、いつまでも若く美しいミュージカル俳優であり続けてきた岡が、ジュリエットの父親役を演じている姿には、観る側にある種の感慨を起こさせるが、大ナンバーの「娘よ」を、決して持ち前の声量で歌い上げるのではなく、切々と娘への想いを訴える芝居歌として表現していたのにはただ感服。岡が今後更に役幅を広げて行く、1つのエポックメイキングに立ち会っている気持ちがした。

他に、前述したようにアンサンブルメンバーも1人1人が個性的にこの世界の登場人物に成りきって、様々なダンスシーンをあくまでも芝居として盛り上げたのが素晴らしく、悲劇の中に高らかに愛の尊さを唄う『ロミオ&ジュリエット』の美しき真髄を感じられる舞台となっている。

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〈公演情報〉
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
原作◇ウィリアム・シェイクスピア 
作◇ジェラール・プレスギュルヴィック 
潤色・演出◇小池修一郎(宝塚歌劇団) 
出演◇古川雄大・大野拓朗(Wキャスト)/生田絵梨花(乃木坂46)・木下晴香(Wキャスト)/馬場徹・矢崎広(Wキャスト)/平間壮一・小野賢章(Wキャスト)/渡辺大輔・広瀬友祐(Wキャスト)/大貫勇輔・宮尾俊太郎(Kバレエカンパニー)(Wキャスト)/ 香寿たつき/シルビア・グラブ/坂元健児/阿部裕/秋園美緒/川久保拓司/岸祐二/岡幸二郎/他 
●2017/1/15〜/2/14◎赤坂ACTシアター (東京)
〈料金〉S席13,00円、A席9,000円、B席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10時〜18時)
●2017/2/22〜3/5◎梅田芸術劇場 メインホール (大阪)
〈料金〉S席13,00円、A席9,000円、B席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800(10時〜18時)
〈公式ホームページ〉http://romeo-juliette.com




【取材・文・撮影/橘涼香】


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柚希礼音を中心に弾ける、ポップな音楽に満ちた色鮮やかな祝祭劇『お気に召すまま』

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演劇界最高峰のトニー賞受賞者である演出のマイケル・メイヤーと音楽のトム・キッドが、柚希礼音を中心とした日本の個性豊かな役者たちと、全く新しいポップでロックなシェイクスピア世界を描き出した意欲作『お気に召すまま』が、日比谷のシアタークリエで1月4日に初日を開けた(2月4日まで)。

没後400年を経た今も、世界中で上演が続いている演劇界の巨星ウィリアム・シェイクスピア。その作品群の中で、最も幸福な喜劇とも呼ばれる『お気に召すまま』は、これまでも様々な形で上演されているが、今回、マイケル・メイヤーが選んだのは、作品の設定をアメリカが最も幸福だった1960年代に移し替えるという試みだった。これにより劇中の宮廷はアメリカの政治の中心地であるワシントンD.Cに、アーデンの森はヒッピーの聖地サンフランシスコのヘイト・アシュベリーになり、日本にも大きな影響を与えたヒッピームーブメントの香り溢れる、独特の世界観の中で舞台は進行していく。

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【STORY】
ワシントンD.C.で暮らすオーランド—(ジュリアン)は、跡継ぎである兄オリヴァー(横田栄司)に虐げられ、当然の権利である学業も満足に受けていないことに不満を募らせ、自らの進路を切り拓く為多額の報奨金が得られる拳闘の試合に挑むことにする。一方、政界から追放された父親と離れ、姉妹同然に育った従姉妹のシーリア(マイコ)と共に暮らす娘ロザリンド(柚希礼音)は、挑戦者が勝った試しのないこの試合に臨もうとする見知らぬ若者を気の毒に思い、無謀な挑戦を諦めるようオーランド—を説得に行くが、一目会ったその瞬間に2人は互いに恋に落ちてしまう。
しかし、オーランド—が試合に勝利して一躍ヒーローとなったことから、兄オリヴァーの弟への嫉妬の念が噴出。命を狙われる身となったオーランド—はヒッピーの聖地ヘイト・アシュベリーに逃げ延びる。時を同じくして、シーリアの父であり、政界を牛耳るフレデリック(小野武彦)から追放を命じられたロザリンドも、彼女を心底案じて父親に逆らいロザリンドと行動を共にすると宣言したシーリアと道化者のタッチストーン(芋洗坂係長)と共に、ヘイト・アシュベリーへ向かう。
ヘイト・アシュベリーではロザリンドの父フレデリック(小野武彦・二役)が、悲観主義者のジェークイズ(橋本さとし)や、歌い手のアミアンズ(伊礼彼方)等と共に、悠々自適な生活を送っていた。その仲間へと迎え入れられたオーランド—は、ロザリンドへの思いの丈を込めた無数の詩を木々に書き留めて歩くが、同じヘイト・アシュベリーで、男装して身分を隠し、羊飼いたちと暮らしていたロザリンドのもとに、シーリアがその詩が書かれた紙を持ち帰る。オーランド—もヘイト・アシュベリーにいる!そう気づいたロザリンドは一計を案じ、男装したままオーランド—と対面。自分をロザリンドだと思って、恋の告白の練習をしてみたら?と持ちかけて……。

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舞台に接してまず感じるのは、シェイクスピア作品独特の言葉遊びや、比喩表現をたっぷりと含んだ台詞が、実にすんなりと耳に馴染んでくることだった。それは舞台を彩る俳優たちが、膨大な台詞を滑らかに伝えてくれる高い技術を持っていることはもちろんだが、「日本語として耳で聞いて、この台詞は面白いか?きちんと意味が通じるか?」に、細心の注意を払ったというマイケル・メイヤーの優れた感性が、台詞の隅々にまで活かされている証拠でもある。日本語を母国語としていない演出家が、この作業に費やした労力は途方もないものだったはずだが、これによって物語は「シェイクスピア=古典」という図式から解き放たれて軽やかさを増し、ストーリー自体が持っている良い意味の他愛なさと、祝祭感を増幅する力となっていた。
 
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しかも、白1色の背景の中で、スーツ姿やワンピース姿の登場人物が織りなしていた宮廷=ワシントンD.C.のシーンから、ミュージシャンたちが舞台上で音楽を奏でるアーデンの森=ヘイト・アシュベリーへと舞台が移るとき、背景は色鮮やかにキッチュに染まる。その劇的な変化が、この作品のポップな味わいをより高めてくれる。
もちろん出演者たちの衣装も一転して、ベルボトムのジーンズや、フリンジのついたバックスキンのベスト、ペーズリー柄のマキシワンピースなど、ヒッピー文化の象徴でもあったものに変わるのだが、今見るとレトロでもあるそのファッションは、フォークロアの流行で一昨年あたりから、日本でも新たなブームとなり、若者たちの心をつかんだこともあって、リアルな可愛らしさも十分に感じさせる。

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そこに、トム・キッドの書き下ろしたキャッチーなフォークロックの新曲が、ジェファーソン・エアプレインやフランク・シナトラの既成曲と絶妙に溶け合い、自由を謳歌するハッピーなオーラを振りまいていて、なんとも効果的なのだ。
その音楽を、楽器を奏でながら歌う伊礼彼方や、ミュージカルでも優れた才能を発揮しているジュリアンが、それぞれ歌いあげるシーンは、「音楽劇」と呼んでもいいほどの魅力を放っている。他にもカートに乗って登場する子役たちや、金属的なセットなど、シェイクスピア作品の時代設定を1960年代に移しただけではない、まさに現代を感じさせる表現も盛り込みつつ、作品の魅力は損ねずに新たな読み解きとして提示してみせる。そんなマイケル・メイヤーの独創的な表現が劇場中に満ちているのだ。

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キャストたちは、まずヒロイン・ロザリンドを演じている柚希礼音が実にチャーミング。冒頭のワンピース姿も新鮮だし、ヘイト・アシュベリーに向かってからのジーンズ姿は、やはり身に馴染んでいて自由さを増すとともに、より一層輝いている。それでいて、宝塚で培ったキザでカッコいい男役姿とはまた違った、女の子が一生懸命演じている男の子という設定に相応しいボーイッシュな魅力があって、これは宝塚時代からのファンの目にも、嬉しい姿に違いない。特にラストのラスト、それもカーテンコールの後に、宝塚の男役トップスターだった柚希礼音ならではの、シャレたエピローグが用意されているので、柚希のスター性と共に乞うご期待である。もちろん、宝塚時代の柚希を知らなくても、シェイクスピア作品のエンディングとして面白く観られるだけでなく、作品タイトルに帰結するものにもなっていて、マイケル・メイヤーやトム・キッドの粋な仕掛けに感動すら覚えるのだ。

冒頭から舞台を引っ張るオーランド—のジュリアンは、まずその台詞術の見事さは圧倒的。トム・キッドの新曲「ロザリンド」も美しく豊かに歌い切り、観客を作品世界にがっちりと引きこむ牽引車の役割を十二分に果たしていた。ロザリンドをひたすら恋し、ロザリンドからも一目で愛される青年として、常に清々しく舞台に位置したのも好印象だった。

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ロザリンドを姉とも自らの片割れとも慕うシーリアのマイコは、シェイクスピア作品には初挑戦とのことだが、台詞の発声が美しく、声もよく通り、クルクルとよく動く表情も豊か。清潔感のある美貌も活き、純粋で愛らしいシーリアそのもので、女優としての可能性の広がりを感じさせた。

また、悲観主義者のジェークイズに扮した橋本さとしが、やはり群を抜く存在感。「この世界はすべてこれ一つの舞台、人間は男女を問わずすべてこれ役者にすぎぬ」にはじまる、シェイクスピア作品の中で最も有名で、その作劇の根幹を成しているとも思える台詞も、印象的に客席に届けていて、俳優としてノリにノっている彼の地力を示していた。冒頭部分でもう一役、ルヴォーとしても登場するが、自身が変身の妙を楽しんでいることが伺えて、観ている側にもその楽しさが伝わってくる。

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二役を演じ分けると言えば、ロザリンドの父とシーリアの父、追放された者と追い落とした者を、佇まいまで変化させて表現した小野武彦の巧みさには目を瞠る。一方、1人の人間の心もちの激変を唐突感なく伝えたオリヴァーの横田栄司は、その確かな演技力で役を光らせている。出て来ただけで味わいのある青山達三、とびきりの個性派・芋洗坂係長、小柄さと美声で一際目立つ入江加奈子など、実力派揃いの出演者が舞台狭しとひしめく中で、歌い手として舞台を浚ったアミアンズの伊礼彼方の存在が、トム・キッドの音楽の素晴らしさを余すところなく伝えてくれていたのが、まさにこの作品の贅沢さを象徴していた。

アメリカではなくこの日本で、ブロードウェイの才能が集って、アメリカン・シェイクスピアともいうべき新たな舞台を、日本の素晴らしいキャストたちと共に創り出したこの『お気に召すまま』。その意味は大きく、これまで数々の優れた舞台を生んできたシアタークリエ10周年の開幕に相応しい、冒険と演劇の豊かさあふれる舞台となっている。


〈公演情報〉
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『お気に召すまま』
作◇ウィリアム・シェイクスピア
演出◇マイケル・メイヤー
音楽◇トム・キット
出演◇柚希礼音、ジュリアン、橋本さとし、横田栄司、伊礼彼方、芋洗坂係長、平野良、古畑新之、平田薫、武田幸三、入絵加奈子、新川將人、俵木藤汰、青山達三、マイコ、小野武彦 ほか
●2017年1月4日〜2月4日◎シアタークリエ
〈料金〉11,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777


【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝】







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一瞬たりとも目が離せない緊張感あふれるサスペンス。直人と倉持の会Vol.2『磁場』開幕!

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俳優竹中直人と作・演出家倉持裕がタッグを組む直人と倉持の会、その第2弾となる『磁場』が、本多劇場で12月11日から上演中だ。(25日まで。そののち来年1月21日まで、大阪、島根、名古屋、神奈川と巡演)

2013年12月に行われた直人と倉持の会の第1回『夜更かしの女たち』は、ペンギンプルペイルパイルズの主宰で作・演出でもある倉持裕の作る研ぎ澄まされた上質なストーリーと、コメディからシリアスまで幅広く演じる演技派の竹中直人が、ぶつかり合い火花をちらした傑作だった。そして、満を持しての第2弾となる今回の『磁場』は、とあるホテルのスイートルームを舞台にした心理サスペンス劇。
 
共演陣は、渡部豪太、大空祐飛、長谷川朝晴、黒田大輔、玉置孝匡、菅原永二、田口トモロヲと一癖も二癖もある俳優たちが、竹中の脇を固めている。

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【あらすじ】
ある劇団の脚本を務めている柳井(渡部豪太)は、小さな演劇脚本賞の受賞をきっかけに映画のシナリオの執筆を依頼される。そして執筆のために高級ホテルのスイートルームに缶詰にされ、プロデューサーの飯室(長谷川朝晴)と監督の黒須(田口トモロヲ)と打ち合わせをしている。映画の題材は第二次世界大戦前後に活躍した日系アメリカ人の芸術家、マコト・ヒライだという。
意気揚々と映画作りに燃える3人。すると、スポンサーの大富豪であるマコト・ヒライの大ファンを自認する加賀谷(竹中直人)と彼の秘書である赤沢(菅原永二)がやってきて、脚本の進捗状況を確認し始めるようになる。初めは柳井の才能に惚れ込んだ加賀谷だが、脚本の出来上がりが遅くなるにつれ、確認の執拗さはだんだんすごさを増して、柳井、飯室、黒須を悩ませ始める。
しまいには、加賀谷の秘蔵っ子であるという椿(大空祐飛)という謎の女優をつれて、マコト・ヒライの母親役を演じさせろと懐柔してくる。柳井は次第に狂気に冒され自分を見失い始め、ますます筆が進まなくなり、最後には劇団の先輩である姫野(黒田大輔)をアシスタントとして引っ張ってくるのだが、事態はますます混乱して……。

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開演前のSEからすでに舞台は始まっている。インドネシアのガムランのようなエキゾチックな打楽器の音楽が劇場を異空間につれていく。暗転しノイズをスピーカーからわめき散らし、光の渦に包まれ舞台が開けると、そこは名前もわからない高級なホテルの一室だ。 
そこに名前すらない(登場人物はみな苗字だけだ)人物がやってくる。話していることもとある映画(マコト・ヒライすら誰だかわからない)を作ろうとする3人。彼らに映画を作れと迫る謎の出資者。
まるで不条理劇のように、何でもない、どこでもない、どうしてもない、誰でもない、何日もない、時間の経過の概念だけが舞台奥のライトの加減でうっすらとだけわかる舞台。ただはっきりとわかっているのは、映画の脚本を書くという行為だけだ。
 
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さらに、どういうわけか、ホテルの客室係の時田(玉置孝匡)は、ホテルのオーナーと労使協定を結ぼうとしている。そんなわけもわからない空間に投げ出され、観客はただ脚本が仕上がるのかどうなのかということに意識を集中させるだけだ。そこには倉持の仕掛けがあるような気がする。「脚本を書く」という行為のみに集中させることで、劇場に流れる意識は爆発寸前の風船のようになって、そこからは、誰が引き金になって爆発させるのかわからないまま、緊迫した会話劇が続いて、観客をグイグイ『磁場』の世界に引っ張っていく。

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注目すべきはやはり竹中直人の演技だろう。細かい手の振りやステップ、表情の変化は、竹中の特徴だと思うが、ここでもそれは存分に生かされていて、緊張感の中にそっと笑いが差し込まれる。芸術への憧憬とスポンサーとしての尊大さが表裏一体にある加賀谷の、脚本ができないことへの苛立ちは、周囲に恐怖を与えていく。秘書を追い詰めてステッキで殴るシーンは、隣の部屋の出来事さえも目の前で起きているような気がするほどの迫力だし、あらゆる意味で暴力的な支配者として場を圧する。
 
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脚本が書けないでもがき苦しむ柳井の渡部豪太の演技も見逃せない。執筆は出資者のためなのか、映画を観客に届けるためなのか、加賀谷に取り込まれまいともがき、堂々巡りを繰り返す。長髪の髪をボサボサにしたりまとめたりと外見の変化で時間を表現し、追い詰められていく姿は圧巻。そしてこの役には、劇団所属の脚本家という設定もあって、作者である倉持の姿がうっすらと浮かんでいる。
 
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さらに、謎の女優・椿の宝塚出身の大空祐飛も素晴らしかった。加賀谷に飼い慣らされることに嫌気がさして不機嫌になっている様子を表情に出したかと思えば、ワインを飲む仕草や、酔っ払って苦悩する柳井に体を預けるシーンは、すらりとした体躯とあいまってとても妖艶で美しい。

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監督の黒須役の田口トモロヲは、加賀谷の提案に抗う唯一のキャラクターを演じていた。加賀谷に従ってしまう、あるいは従わなければならないキャラクターが多い中で、監督のプライドをかけて戦う決意を滲ませた姿は、思わず応援したくなるほど。だがその黒須も…。後半で見せる頭髪に愕然とさせられる。
一方、作家とスポンサーの間で調整に悩むプロデューサー飯室役の長谷川朝晴は、本来のソフトな持ち味と間のよさを生かした演技。加賀谷のご機嫌を伺わずにはいられないプロデューサーの悲哀を、リアリティのある人物像で見せる。

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加賀谷の秘書・赤沢の菅原は、奴隷のように加賀谷に従う秘書役を熱演。どんなに虐げられていても、付き従ってしまうキャラクターで、「そこまでしなくても」と思わず涙が出るほど。だが加賀谷がいないときに他人に見せる傲慢さに、彼の内面の暗さを感じるのだ。

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ホテルの客室係・時田の玉置孝匡は、制服の色や形を気にしていて、それは現オーナーへの反発も秘めているのだが、せわしなくコミカルに動く様子で笑いを誘う。柳井のアシスタントとして現れる劇団員・姫野役の黒田大輔は、ルーズで適当なのに、どこか隅のおけない人間を感じさせる。

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そんな役者たちが緊迫した会話劇の中で、的確に役を演じ、チームワークよく物語を進め、それぞれが見事にハマっているのだ。とにかくこの竹中・倉持ワールドの面白さは、劇場で体感するしかない。ぜひ本多劇場の空間で、今まさに割れんばかりの風船が目の前にあるような、緊張感のあるサスペンスを味わっていただきたい。

【囲みインタビュー】

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大空祐飛、田口トモロヲ、竹中直人、渡部豪太

この『磁場』の公開舞台稽古と囲みインタビューが、初日前日に行われ、座長の竹中直人をはじめ、渡部豪太、大空祐飛、田口トモロヲが登壇した。

竹中直人
倉持さんと素敵な俳優さんたちが集まってくださって、みんなで一生懸命頑張っていきたいと思います。今回もこちらからアイデアは出さないで、倉持さんにお任せしています。倉持さんとは3年ぶりですが、生瀬勝久さんとの「竹生企画」による『ブロッケンの妖怪』『ヴィラ・グランデ 青山〜返り討ちの日曜日〜』を入れれば、これで4回目になるんですよね。今回はかなり怖いことがどんどん重なっていく脚本の構造になっています。日常で精神的に追い込まれることはあまりないですが、衣装合わせでは、田口さんがジージャンを着るかどうかで追い込まれて、セットの隅で座って考え込んでいました(笑)。とにかく、私たちが一緒に作った直人と倉持の会vol.2『磁場』。ぜひ皆さん観に来てください。

渡部豪太
とある映画を撮ることになることになり、その脚本の執筆を依頼される脚本家・柳井を演じます。舞台はサスペンスですが、座長の竹中さんは皆さんを引っ張ってくださって、とても優しくて温かかったです。プライベートでも温かいですよ。2016年から2017年の1月21日まで、『磁場』とともにいるので、このまま年が終わるという感覚があまりないですね(笑)。

田口トモロヲ
映画監督の黒須役です。竹中直人さんとの共演は20年ぶりぐらいですが、僕も含めて歳をとりましたね(笑)。確かに、衣装さんがジージャンを着せたがるんですよね。それで追い詰められたりしましたが、竹中さんが監督役にジージャンは違うとおっしゃったおかげで助かりました(笑)。

大空祐飛
謎の大富豪の加賀谷にお世話になっている女優・椿です。素晴らしい俳優さんばかりなので、稽古場の日々が楽しいだけじゃなくて、刺激的で、1日1秒たりとも無駄にしたくなかったです。竹中さんは、お芝居同様すごく優しくしてくださって、役と重なっています。2016年はあっという間でしたが、『磁場』が今年最後の舞台になるので、この舞台とともに年越しをして、来年も良い1年にしたいなと思います。

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〈公演情報〉
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直人と倉持の会Vol.2『磁場』
作・演出◇倉持裕
出演◇竹中直人、渡部豪太、大空祐飛、長谷川朝晴、黒田大輔、玉置孝匡、菅原永二、田口トモロヲ
●12/11〜25◎本多劇場
〈料金〉6,500円(全席指定・税込)
●2017/1/15◎サンケイホールブリーゼ
〈料金〉7,000円(全席指定・税込)
●1/17◎島根県民会館大ホール
〈料金〉S席6,500円、A席5,500円(全席指定・税込)
http://mo-plays.com/jiba/




【取材・文・撮影/竹下力】



柚希礼音主演『お気に召すまま』




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3人の女性の痛快タイムスリップ・コメディ『扉の向こう側』上演中!

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舞台『扉の向こう側』が好評上演中だ。(11月23日まで東京公演。そののち28日に名古屋公演)

この作品は、イギリスの喜劇王と言われるアラン・エイクボーンが、1994年に執筆した傑作戯曲。演出には大作ミュージカルから小劇場まで手がける板垣恭一があたり、主人公のSMクイーン・フィービー役には、宝塚退団後、満を持して初の”女性役”に挑む壮一帆が扮している。
またこの舞台には、壮一帆の宝塚雪組での先輩にあたる一路真輝と紺野まひるが出演、壮を含めて宝塚の男役トップ・娘役トップの経験者3人の豪華競演ということでも話題を呼んでいる。

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【STORY】
実業家リース(吉原光夫)はジェシカ(紺野まひる)とルエラ(一路真輝)という二人の妻を殺した過去を持つ。といっても、手を下したのは彼自身ではなく、彼の共同経営者のジュリアン(岸祐二)で、なぜか表沙汰にはならず、人生の成功者として日々を送っていた。
しかし、70歳になり死を意識し始めたリースは、過去の自分に自ら制裁を下すかの様に、自分とジュリアンの悪事を告白する文書を書く。その文書を法的に有効なものとするためには第三者の署名が必要だ。そこでリースは、滞在するホテルのスイートルームにSMクイーンのフィービー(壮一帆)を呼んで署名させる。
それに気づいたジュリアンはフィービーから文書を取り上げようとする。身の危険を感じ、コネクティングドアから隣の部屋に逃げ込ようとするフィービー。ところがその扉の向こうは過去と現在を繋ぐ不思議な空間となっていて、フィービーは殺害されたはずの2人の妻、ジェシカとルエラと出会う。フィービーの必死の説得で、お互いの立場をなんとか理解した3人の女たちは、自分たちの殺人事件を未然に防ごうと奮闘する……。

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殺人犯に狙われるというサスペンス性と、タイムワープものならではのファンタジックな面白さ、さらに要所要所にコメディタッチの展開が織り込まれていて、ドキドキハラハラしながらも笑えて、最後は感動が押し寄せるという、まさによく出来た戯曲。これまで何度も世界中で上演されているのも納得できる。

登場する3人の女性は、1996年のジェシカ、2016年のルエラ、2036年のフィービーと、時代も違えばタイプも違っているのだが、それぞれに魅力的で、その3人が時代を超えて力を合わせ、殺人者と闘う姿は凜々しくて、思わず喝采を送らずにはいられない。なによりも、その女性たちを演じる3人の女優が、まるで当て書きではないかと思われるほど役柄にフィットしているうえにそれぞれ好演で、そのことがこの作品の楽しさにも大きく繋がっている。

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壮一帆のフィービーは登場から強烈で、SMクイーンの「スペシャリスト」としてのお仕事を遂行しようとするなど、宝塚時代からの観客にはかなり刺激の強い役どころだが、演じる壮一帆のカラッした持ち味と、持ち前の低い声などがうまく作用。真っ直ぐで正直な人柄もチャーミングで、フィービーという女性を応援せずにはいられなくなる。
 
紺野まひるはリースの最初の妻ジェシカで、結婚したばかりの初々しい新妻として登場。タイムワープして危険を告げにきたという二番目の妻ルエラに混乱しながらも、最終的には真実を見つめる理性を持っている。優しく、だが聡明で素直な女性像は、宝塚の娘役時代の柔らかさを残す紺野だからこそ成立する役柄だ。
 
一路真輝は実業家リースの2番目の妻ルエラで、育ちも頭も良いうえに美しいという、リースの言葉通りの「完璧な女性」。フィービーとの出会いに驚きながらも全てを理解し、自分と前妻ジェシカの命を救うために敢然と行動を起こす。その勇気に一路自身の中にある母性や強さが重なって見える。そしてルエラがフィービーについて行うある決断とその結果を描くエピローグには、誰もが胸をうたれずにはいられない。

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一方の男優たちもそれぞれ実力派揃いで、成功した実業家のリースは吉原光夫。ほとんど病気で死にかけている状態の70歳時の怪演ぶりや、若い時代、また中年期と外見上も大きな変化を演じてみせ、時間経過をクリアにわからせてくれる。
事件の核心にいる共同事業者のジュリアンは岸祐二、ビジネスライクで冷酷さを漂わせる中に思いがけないトラウマがあるという男の、複雑な側面を的確に見せてくれる。
ホテルの従業員で、知らないうちに妻たちのために一役かうことになるホテルの警備員ハロルドを演じるのは泉見洋平。軽妙なユーモアで登場のたびに笑いを誘う役作りで、この芝居の中でのスパイスになっている。

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タイムワープするためのドアの仕掛けをはじめ、バスルームや窓など重要な舞台装置もリアルに重厚に作られていて、それらのセットを使って、時代の入れ替わりをスムーズに行い、ストーリーを巧みに運んでいく板垣恭一の演出。そして、仕掛けの多い舞台で、テンポよく段取りよく物語を進めていく出演者全員のチームワークの良さこそ、まさにこの作品の成功の大きなファクターで、よくできたコメディならではの面白さをみごとに伝えてくれる。

カーテンコールには全員でのちょっとしたプレゼントがあって、歌えるキャストたちによる音楽の時間に盛り上がるとともに、その歌えるキャストたちが歌を封印して芝居だけで見せるからこそ、個々の演技力や地力にあらためて感嘆する舞台となっている。

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〈公演情報〉
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『扉の向こう側』
作◇アラン・エイクボーン 
演出◇板垣恭一  
出演◇壮一帆、紺野まひる岸祐二泉見洋平吉原光夫一路真輝  
●11/11〜13◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
〈料金〉7,000円(全席指定・税込) 
11/16〜23◎東京芸術劇場 プレイハウス
〈料金〉7,800円 6,800円(全席指定・税込) 
11/28◎名古屋青少年文化センター アートピアホール
〈料金〉7,800円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜18:00)



【取材・文/榊原和子 資料提供/キューブ 撮影/岸隆子】


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