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OG公演レビュー

ブラッシュアップされた作品と深みを増した役者陣の好演で輝くミュージカル『レディ・ベス』上演中!

一幕ラスト

約半世紀に渡り、英国に繁栄をもたらした女王エリザベス1世。彼女が女王になるまでの苦難の道程と、あったかも知れない恋を描き出した、ミュージカル『レディ・ベス』が有楽町の帝国劇場で上演中だ(18日まで。のち、大阪梅田芸術劇場メインホールにて11月28日〜12月10日まで上演)。

ミュージカル『レディ・ベス』は、『エリザベート』『モーツァルト!』で日本にウィーンミュージカルブームを巻き起こした、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイと、いずれの作品でも日本版潤色・演出を務めた日本ミュージカル界のヒットメーカー小池修一郎がタッグを組み、2014年に世界初演の幕を開けた作品。
ヘンリー8世の娘として生まれながら、母アン・ブーリンは処刑され、異母姉メアリー・チューダーとの相克の中、女王として即位するまでに、波乱の日々を過ごした若き日のエリザベス女王“レディ・ベス”を主人公に、彼女の人生を取り巻いた人々を個性豊かなミュージカルナンバーで描き出した一編として、高い関心を集めた。
今回はそんな作品の3年ぶりとなる再演で、メインキャストは初演オリジナルキャストが続投。ブラッシュアップされた演出とストーリー展開に新曲も加えた、より完成度の高い作品となっている。

花總・山崎

【STORY】
16世紀イギリス。
ヘンリー8世の王女として生まれたレディ・ベス(花總まり、平野綾・Wキャスト) は、母親のアン・ブーリン(和音美桜)が反逆罪で処刑された為、家庭教師ロジャー・アスカム(山口祐一郎)、養育係キャット・アシュリー(涼風真世)ら、数少ない味方となる人々と共に、ハートフォードシャーで暮らしていた。
ある日、時の英国女王であり、ベスの異母姉であるメアリー・チューダー(未来優希、吉沢梨絵・Wキャスト)の側近、大司教スティーブン・ガーディナー(石川禅)が、家宅捜索と称して押し入ってくる。熱心なカトリック信者であるメアリーの即位を快く思わない人々は、プロテスタントを信仰しているベスこそ真の女王に相応しいと考えていて、ガーディナーはカトリックにとって脅威となる可能性のあるベスを排除する機会を狙っていたのだ。
ガーディナーはベスが父王ヘンリーから受け継いだ、今は禁書となっているプロテスタントの聖書を所持しているのを発見。女王への反逆の明確な証拠品として押収して去っていく。王女を王女とも思わない振る舞いに憤慨したベスは、ガーディナーから父の形見を取り戻そうと、森の近道に馬車を走らせて後を追う。
だが、難路に馬車が脱輪。立ち往生したベスは、若き吟遊詩人ロビン・ブレイク(山崎育三郎、加藤和樹・Wキャスト)と出会う。自分とは全く異なる世界に住んでいるロビンの自由闊達さに、ベスは反発しながらも惹かれていき、ロビンも身分の違う王女という垣根を越えて、ベスを思うようになる。

平野・加藤

だが、星の動きを読むロジャー・アスカムは「貴女はこの国を統べる運命の元に生まれている」と預言し、1人の女性として生きることを考えてはいけないとベスを諭す。
一方、メアリー女王がスペイン大使シモン・ルナール(吉野圭吾)を通じて、スペイン王子フェリペ(平方元基、 古川雄大・Wキャスト)との結婚を進めていることが広まると、英国民の反メアリーの気運は一層高まり、ベスを王位に就けるべく反乱を起こす者たちが現われる。すぐさま鎮圧されたこの反乱にベスは全く無関係だったが、ガーディナーはこの機を逃さず、ベスを反乱の首謀者として捕らえ、ロンドン塔に送る。
この門をくぐれば、生きて外に出ることはないと言われるロンドン塔で、ベスは悪夢にうなされながら、これまで自分を日陰者の境遇に落とした憎い母親と思い込んでいたアン・ブーリンも、自分と同じように無実の罪を着せられたのではないかと考えはじめ、そんなベスをアンの霊がただ静かに見守っていた。
ところが、絶対絶命と思われたベスに、思いがけない救いの手が伸びる。それはメアリー女王との婚礼の為にイギリスへとやってきたスペイン王子フェリペだった。政略結婚の為に英国入りしたフェリペ王子は、この婚礼に英国民がどの程度理解を示しているかを探ろうと、王子随行の貴族を名乗り市民に接触。情報を集めた相手が偶然にもロビンとその仲間たちだったのだ。ベスが国民に熱い支持を得ていることを知ったフェリペは、メアリー女王との婚姻の条件として、ベスをロンドン塔から出すことを要求。これによってロンドン郊外のウッドストックへ移されたベスを追ったロビンは、遂にベスと再会、二人だけの時間を持つ。だが、あと一歩で公にベスを処刑できる機会を失したガーディナーが、今度こそベスを抹殺せんともくろみウッドストックに現れて……

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すべてが星の定める運命のもとに動いていることを現す、回転する天文時計の上で繰り広げられる物語は、大筋では変わらないものの、初演の流れが細かく整理されている。最も大きな変化としては、語り部でもあるロジャー・アスカムが冒頭に歌うこの物語の人物関係を、子役が演じるリトル・ベスと、リトルメアリーを含めて視覚的に提示した点だった。特にカトリックとプロテスタントの根深い宗教対立は、もちろん詳しい方も多いだろうが、一般的には日本人にとって難しい部分が多く、これを「離婚が許されないカトリック」「離婚、再婚が許されるプロテスタント」という、非常に簡潔な一面のみをクローズアップして見せたのは、演出の小池修一郎の英断だったと思う。これによって、父王が自分の母親からベスの母親に心を移し、母と離婚する為にプロテスタントに改宗し母と自分を捨てた、というメアリー女王から見たことの成り行きが視覚的に示され、こんないきさつがあったのなら、確かにメアリーはプロテスタントも異母妹のベスも許しがたいだろう、とすんなり思えるのはやはり大きなことだった。細かく言えば、同じ年ごろの子役が演じる為に、リトル・メアリーとリトル・ベスの年齢差がわからない、などの意見もあるとは思うが、エリザベス1世が英国で最も偉大な女王と呼ばれる名君であることは周知のこととしても、異母姉メアリーとの確執には、どうしてもそこまで馴染みがない観客も一定数いるだろうから、ある意味の単純化はミュージカル作品にとって効果的だった。

更に、全体の主人公をタイトルロールの「レディ・ベス」に集約する脚本・演出・音楽の改変がなされていて、劇場が帝国劇場であるだけに、女優芝居華やかなりし頃を彷彿とさせるような流れになったことで、物語が格段に観易くなっている。やや過剰かな?と思えた初演のコメディタッチも品良く後退して、偉大な女王が生まれるまでの、若き日のレディ・ベスの人生にストーリーがスッキリとまとまっていて好感を持った。特に、終幕のベスとロビンのデュエット曲が改変されたことで、ロビンがベスの背負っている運命、ノブレス・オブリージュ(高貴な身は義務を伴う)を理解し、この恋は互いの胸の中に永遠に消えないと歌い上げながら、女王に敬意を払うに至る心情の変化がわかりやすくなり、ロビンからある種の駄々っ子めいた面が取り払われたことは大きかった。この再演でベスが揺るぎない主人公になって尚、ロビンがむしろ初演よりも良い男として作中に立って見えるのは、偉大なエリザベス女王の人生に「あったかも知れない秘めたる恋」の、美しさにつながっていた。

そうした、作品の細かい変化に、初演からの3年間で役者たちが経て来た蓄積が、濃い陰影と深みを与えている。

花總ソロb

タイトルロールのレディ・ベスは、花總まりが、宝塚時代から変わらない「当代の姫役者」としての力量を発揮している。本来の持ち味が気品高い人なだけでなく、一挙手一投足にまで徹底的に創り込まれたプリンセスとしての風格があり、『エリザベート』などの主演経験も大きく作用し、可憐で美しい生まれながらの王女を体現していた。

平野ソロb

一方の平野綾は、ある意味王位から遠ざけられていたが故に自由に生きいきと生きていた王女が、真のプリンセスとしての自覚に目覚め、遂にクイーンとなるまでの変化が巧み。この3年間で舞台女優としての蓄積と研鑽を重ねたことがよくわかる、初演時とは格段に進歩した舞台ぶりを披露していて目を瞠る。二人のアプローチが異なるだけに、これは実に見応えのあるWキャストとなった。

山崎ソロb

そんなベスと恋に落ちる吟遊詩人ロビン・ブレイクは、山崎育三郎が華やかなルックスと、甘い雰囲気を活かして実に軽やか。元々ミュージカル界のプリンスの1人だが、初演からの3年間で一般知名度が飛躍的に高まっただけに、多彩な魅せ方も会得していて、なんともチャーミング。「自由」を体現する役柄にますます相応しくなった。

加藤ソロ
 
もう1人のロビン、加藤和樹は、無頼の流れ者を気取っていても、根が真っ直ぐで誠実な人物であることがよく伝わる演じぶりで目を引く。この期間に彼も『1789〜バスティーユの恋人たち』での帝国劇場主演をはじめ、大きな作品を次々に経験してきた力が、ロビンを懐深い人物に見せる効果になった。この二人のWキャストも全く色合いが違い、ベス二人とのそれぞれの組み合わせでまた見え方が異なるので、ついつい様々な組み合わせで再見したくなる魅力を生んでいた。

花總・石川・涼風・山口

ベスの教育係のキャット・アシュリーの涼風真世は、ソロナンバーの「大人になるまでに」を実に巧みにたっぷりと歌っていて、曲の難度があたかも高くないかのように聞かせる力量が相変わらず素晴らしい。温かな雰囲気もよく出ている。また、ストーリーテラーも担う家庭教師ロジャー・アスカムの山口祐一郎は、もうその存在だけで作品が豊かになるほどの、何か「山口祐一郎」というひとつのキャラクターであり、ジャンルとなっている存在感を放っていて、いてくれるだけで安心な気持ちになる。作品の中で虐げられているはずのベスの方が、メアリーより環境が豊かに見えるのは、この二人の存在故だろう。

未来・平方
平野・吉沢

その対比として、孤独を抱えていることが感じられるメアリー女王は、未来優希が迫力の歌唱と貫禄で、吉沢梨絵が美しさの中にある憎しみの表出で、やはりそれぞれのメアリーを活写。「悪魔と踊らないで」の歌い方もそれぞれ個性的で、こちらのWキャストも実に面白い。

古川・吉野

もう一組のWキャストフェリペ王子は、平方元基の押し出しが格段に良くなり、初演から変わらぬ古川雄大の圧倒的な美しさと、全く甲乙つけ難い王子像で、やはり是非双方を観て欲しいWキャスト。再演の改変で持ちナンバーが一部カットになったが、二人共に出番の多寡に左右されない本人たちのスター性で役を膨らませているのが頼もしい。フェリペの衣装は相当に難易度が高いものだが、二人共に見事に着こなしているのもあっぱれだ。

花總・和音

他にアン・ブーリンの和音美桜の歌唱力はやはり絶大だし、シモン・ルナールの吉野圭吾の良い意味のアクとワイルドさ、ガーディナー大司教の石川禅の食わせ者感が、いずれもベスに立ちはだかる敵として効果的で、再演版の改変で骨太な雰囲気が増したのによく合っている。さらに、ロビンの仲間たち加藤潤一、寺元健一郎、石川新太をはじめ、大谷美智浩、中山昇、秋園美緒、真記子等々、日本のミュージカル界を支える面々がコーラスに厚みを与え、「秘めた想い」「神よ祝福を与えん」「晴れやかな日」など、作品を盛り立てる大ナンバーを聞かせ、世界初演から3年、格段に進歩した2017年版の『レディ・ベス』に寄与していた。 

山崎・アンサンブル

〈公演情報〉
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ミュージカル『レディ・ベス』
劇作・脚本・作詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽◇シルヴェスター・リーヴァイ
演出・翻訳・修辞◇小池修一郎
出演◇花總まり、平野綾(Wキャスト) / 山崎育三郎、加藤和樹(Wキャスト) / 未来優希、吉沢梨絵(Wキャスト) /平方元基、 古川雄大(Wキャスト) / 和音美桜 / 吉野圭吾 / 石川禅 / 涼風真世 / 山口祐一郎 / 他 
●10/8〜11/18◎帝国劇場 
〈料金〉S席 13500円 A席 9000円 B席 4000円 
〈お問い合わせ〉帝国劇場:03-3213-7221 
●11/28〜12/10◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席 13500円 A席 9000円 B席 5000円 
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800 
http://www.tohostage.com/ladybess/
 


【取材・文/橘涼香】



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老舗デパートの中にある三越劇場で繰り広げられる新作オリジナルミュージカル『デパート!』上演中!

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老舗中の老舗デパート、三越百貨店日本橋本店の中にある、今年、開場90周年を迎えた三越劇場で、デパートを舞台にした新作オリジナルミュージカル『デパート!』が上演中だ(7日まで)。

この作品は、かつてデパートでの買い物が憧れだった時代から、若い世代にファストファッションや、ネットショッピングが主流となっている今の時代を迎えて、なお燦然と輝くデパートを舞台に、働く人々、お客様、様々な思いと事情を抱えた「人の集まる場所」で繰り広げられる人間模様を描いたミュージカル。
演出にミュージカル俳優として活躍中の原田優一、脚本に緻密で軽快な会話劇を得意とする脚本家・演出家の登米裕一、作曲・音楽監督にミュージカル『Color of Life』の伊藤靖浩と、いずれも新進気鋭の若きクリエーターたちが集い、日本の新しいオリジナルミュージカルの創造に力を注いだものとなっている。

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【STORY】
創業130年を迎えるスクエアデパート。そこにはいつも変わらぬホスピタリティーあふれた接客と、格式あるここでしか手に入らない逸品を備えた品ぞろえの、風格ある老舗デパートならではの日常が続いている。
だが、従業員たちは笑顔の下でそれぞれに、異なる悩みを抱えていた。
お得意様係のモリス(太田基裕)は、社長のファーガソン(畠中洋)の息子。つまりゆくゆくはこの老舗デパートの経営に関わるべき青年だが、真面目一方で要領が悪い。今日もモリスは「季節に叶ったここにしかないものを売ってくれ」という常連客オズマン(浜畑賢吉)と、その妻ミセスオズマン(出雲綾)への対応に四苦八苦。そんな息子にこのデパートが守っていけるのかと、ファーガソンも頭を抱えている。
一方、フロアマネージャーのビビ(シルビア・グラブ)は、スクエアデパートの伝統と格式を重んじるあまり、大胆な改革には極めて慎重。時代に合わせた新たな企画が必要だと主張する部下のナミ(前島亜美)と、意見の対立が続いていた。そんなデパート内の微妙な空気をすべて察知しているインフォメーション係のマリ(愛加あゆ)は、今日も噂話に花を咲かせているが、地方からデパートを訪ねてきたピート(染谷洸太・橋本真一Wキャスト)が、売り場に案内した自分に一目惚れをしたことには全く気付いていない。それだけでなく、役者を志すもオーディションに落ち続け、警備員のアルバイトがやめられないイギー(岡田亮輔)も、マリをイケてるなと、軽く意識している。
そうした人間模様をデパートの創業者の霊であるトト(畠中・二役)が見つめている中、デパートが1年で最も忙しいクリスマスセールに向けて、あらゆる問題が連鎖し、ついに大騒動に発展してゆき……。

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かつて「デパートに行く」という行為自体が、紛れもなく「ハレの日」だった時代があることを、知らない世代も多くなっているのかも知れない。けれども確かに「よそゆき」のお洋服を着て(この「よそゆき」という言葉自体すでに極めて死語に近いと思うが)、家族揃ってデパートに出かける1日、そこでの買い物や、食事、屋上での遊具遊びなどのすべてが、特別な贅沢と、家族の幸福の象徴だった時代が、そう遠くない過去には確かにあったのだ。それは、テレビも電話も音楽も、すべてが家族のだんらんの中ではなく、個々それぞれの閉じた楽しみとなっている現代、洋服はファストファッション、買い物はスマホやパソコンからネット通販が、当たり前になっている今となっては、まるで別の世界に思える郷愁だ。
そんな、デパート栄光の時代の風格を今も残す日本橋三越本店にある、三越劇場。世界初の百貨店の中の劇場として誕生し、創立90年を迎え、創設当時のままのロココ調の内装を守り続ける劇場で、デパートを舞台にしたオリジナルミュージカルを創ろう。この原田優一が発想した粋な仕掛けが、作品の根幹を支えている。風格あるデパートの中を通って、デパートの中にある劇場で、デパートの物語を観る。「アテガキ」という言葉は通常演じる役者を想定して書かれた役柄や、脚本に使われるが、この作品はまさに、三越劇場そのものに「アテガキ」されている、居心地の良さがある。デパートを愛する創業者の霊が今もここにとどまっているという設定が、全く突飛に感じられないのは、この劇場が持つレトロさと重み故のことだ。

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そして、デパートが今抱えている、栄光の時代が過ぎていった現代に、それでも買い物はデパートでなければならないと、顧客に思ってもらえる最大の方策は何か?という問題が、この作品の人間関係の中にも、きちんと投影されているのが絶妙だ。登場人物が抱える世代間ギャップ、思いの違い、対立が、守るべきものと変えていくべきもの、更に、決して変えてはいけないものを浮かび上がらせていく。その最後に残るのは、人と人が対面することでしか育まない体温のあるぬくもりと、愛。あらゆる世代の異なる考え方を持つ「デパート」が舞台だからこそ、この真意が無理なく浮かび上がる様が美しい。

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そう思って観れば、ここに集った役者たちの経歴や年齢もまた、見事に多岐に渡っている。東宝ミュージカル、宝塚歌劇団、劇団四季、音楽座、2.5次元等々。日本が、現在のミュージカル全盛時代を作り上げるのに、欠かせなかったカンパニーや、ジャンルのベテランから新進までが、新しいオリジナルミュージカルを創る為にそれぞれの力を発揮し、想いをつなげている。しかも誰もが見事に歌い、踊る力も持ち合わせているから、全編の多くが歌で綴られるミュージカル創りに無理がない。基本的に群像劇だから、すべての人に見せ場があり、役者個々のやり甲斐も大きいだろうし、人と人が創り出すぬくもりがダイレクトに伝わってくる良さは、舞台作品ならではのものだ。

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その中で太田基裕の華と繊細な持ち味が、文句なしに応援したい青年像をきちんと描いたし、前島亜美の歯に衣着せぬ物言いが嫌味にならないのは、本人のアイドル性の賜物。クルクルとよく変わる表情がコケティッシュでありつつロマンチックなのは愛加あゆならでは。幻想シーンのダンスも美しい。

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また、現代を代表している役柄の岡田亮輔が見せる変化が、作品のロマンにつながれば、染谷洸太の一本気さが役柄の純真をよく支えている。個性の異なる橋本真一がどう演じるのかも楽しみだ。彼ら若手の活躍を受け留める面々も、畠中洋が二役を八面六臂の活躍で見せれば、シルビア・グラブはこれぞショー・ストップ!の大ナンバーを歌い上げる。そんな彼女に負けず劣らずの美声披露する、出雲綾の温かさも厚みを加え、ミュージカルの生き証人浜畑賢吉の存在が見事な重石となる。十全なカンパニーが日本のオリジナルミュージカルの創造に寄与している。

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生演奏による音楽もミュージカルの良さを伝えていて、新しいオリジナルミュージカルの創造の、第一歩が刻まれたことを何よりも尊びたい舞台となっている。
 
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〈公演情報〉
チラシ表面

ミュージカル『デパート!』
演出◇原田優一
脚本◇登米裕一
音楽◇伊藤靖浩
出演(50音順)◇出雲綾、太田基裕、岡田亮輔、シルビア・グラブ、染谷洸太(Wキャスト)、橋本真一(Wキャスト)、畠中洋、浜畑賢吉、前島亜美、愛加あゆ
●11/1〜7◎日本橋・三越劇場(日本橋三越本館6階)
〈料金〉S席8,500円 A席7,000円(全席指定・税込)
〈劇場お問い合わせ〉三越劇場 0120-03-9354(10:30〜18:30)



【取材・文・撮影/橘涼香】


花組芝居『黒蜥蜴』お得なチケット販売中!
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疾走するスピード感と表現力の進化を伴った DANCE OPERA『SWAN 2017』上演中!

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男性エンターテイメント集団として活躍を続けるDIAMOND☆DOGS(以下D☆D)が結成15周年を迎え、多彩に展開されている15周年記念公演シリーズのひとつ、 DANCE OPERA『SWAN 2017』が北千住のシアター1010で上演中だ(29日まで)。

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DANCE OPERA『SWAN』は、チャイコフスキーの「白鳥の湖」をモチーフに、2008年にD☆Dが立ち上げたDANCE OPERAシリーズの記念すべき第1弾となった公演。リーダー東山義久を筆頭に、少しずつ入れ替わりを続けていたD☆Dの、現在のメンバー7人が固まり、7人で創り上げた新たなステージとして、大きな反響を呼び、翌年再演もされている。
その意味でも、今回D☆D15周年記念の公演に、この作品が取り上げられたことは、まさしく節目の年に相応しく、劇場サイズもスケールアップし、D☆Dのメンバーに加えて、大和悠河、町田慎吾、橋田康、長澤風海の豪華ゲストが集った、熱い舞台が展開されている。

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スチールの鉄骨を組み立てた象徴的な舞台で、物語は進んでいく。上海の裏社会の内部抗争、勢力争いが基本にあり、東山義久、町田慎吾、中塚皓平が次期総帥の座を争う中、彼らの過去、亡くした命、警察の介入などが、森新吾、小寺利光、和田泰右、橋田康、長澤風海らが、入り乱れて綴られていく。彼ら、男たちのすべての動きに、ある意味で翻弄され、ある意味ですべての要因でもある美しきミューズが大和悠河。これらドラマの推移はほぼダンスのみで表現される為、会話らしいものはほとんどないが、ストーリーテラーとして語り、歌う咲山類とTAKAが物語世界をポイント、ポイントで提示していて理解は難しくない。

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ただ、そのドラマ性の提示が決して単なる説明に終わらず、観る者の想像力をかき立て、それぞれの解釈に余白を与えていることが、この年月で培ってきたD☆D力と自信をたくまずして浮かびあがらせているのが感慨深い。挑戦に次ぐ、挑戦を重ねてきた彼らの表現力の深化と進化が、この構成を可能にしていて、東山義久の常に変わらぬ圧倒的なオーラはもちろん、クリエーターとして自分自身の効果的な使い方を熟知してきたのだな、とつくづく感じさせる森新吾をはじめ、メンバー全員がますますそれぞれの個性をくっきりと際立たせているのが、作品を奥深いものにしている。

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しかも、D☆Dの舞台ならではの、畳みかけるダンスシーンの数々、それも多彩で殺陣やアクションをも内包した、ジャンルレスに連なるダンス、ダンス、ダンスの連鎖が生み出す疾走感、スピード感が、ここにしかない迫力を生み出してくる。この15年間で、更にこの作品が生まれてからの8年間で、D☆Dの7名がスピード感を全く鈍らせることなく、表現力を増したからこその、新しいDANCE OPERA『SWAN 2017』が生まれ出た醍醐味には大きなものがあった。

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そんな作品の熟成に寄与したゲストたちは、まず町田慎吾が、眉ひとつ動かさず人を殺すというクールな役柄に、完全に憑依したかのように位置しているのに瞠目させられる。本人の持つ、優しさや温かさを銀の縁の眼鏡の中に封じ込めていて、優れた役者としての力量を確かに感じさせていた。また、長澤風海は、常のユニセックスな妖精を思わせる個性を、裏をかき、更にまたその裏をかくという役柄で、どこか悪魔のような冷たさに変換させたのが印象的。彼らのクールの中に、パッショネイトでダイナミックな熱血漢を思わせる、橋田康が加わった効果も大きかった。

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そして、男たちに流されているようでいて、結局は彼女の存在が男たちを狂わせているファムファタールに扮した大和悠河の美しさが圧倒的。どこかこの世の者でないような、人形のような完璧な美が、実は深い悲しみと葛藤を抱えている女性の心根をミステリアスに見せていて、作品の根幹を支えていた。特に、東山と大和が放つスターオーラが屹立しているからこそ、二人の関係がわかるし、ラストの展開はこの二人ならばこそ可能になった仕掛けで、眩惑に満ちた魅力があった。

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何よりD☆D全員が出演した前作、『WILDe BEAUTY〜オスカー・ワイルド、或いは幸福の王子』から、わずかにひと月あまりで、これだけの新しい作品を創りあげたのは驚くばかりで、D☆Dの地力と、可能性を改めて感じさせる舞台となっている。

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〈公演情報〉
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DANCE OPERA『SWAN 2017』
構成・演出・振付◇D☆D
音楽◇la malinconica T-LAYLA
出演◇東山義久 森新吾 小寺利光 中塚皓平 和田泰右 咲山類 TAKA/町田慎吾 橋田康  長澤風海/大和悠河
●10/25〜29◎シアター1010
〈お問い合わせ〉キョードー東京0570-550-799(平日11:00〜18:00/土日祝10:00〜18:00)
http://www.diamonddog-s.com



【取材・文・撮影/橘涼香】



誰か席に着いて
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海洋冒険ファンタジーに込められた寓意『ポセイドンの牙』Version蛤 上演中!

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舞台芸術集団・地下空港の最新作『ポセイドンの牙』Version蛤が、10月13日に紀伊國屋ホールで幕を開けた(21日まで)。
 
地下空港は、1999年の旗揚げ以来、[劇場に旅をする]をテーマに、空間芸術と比喩的寓話を融合させたオリジナルの演劇スタイルを確立している。全作品の脚本・演出を手がける主宰の伊藤靖朗は、2014年にはウェールズ国立劇場の招聘を受けて渡英。現地でのリサーチを経て、2016年に発表した音楽劇『赤い竜と土の旅人』では、「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の準グランプリを受賞。2017年3月には、移動型参加型演劇『Safaring The Night』を上演するなど、意欲的な作劇で高く評価されている。今回の舞台は、2016年5月に紀伊國屋ホールで上演された『ポセイドンの牙』の改訂版にあたる。

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物語の中心となる陽気な男子高校生たち「スイサンズ」。そのリーダー格の須永宇宙期役に初舞台となる前田航基。親が牧師のインテリ道井磨多井役に初演にも出演していた原嶋元久。貝類オタクの葛崎賢人役に小早川俊輔。エロで頭がいっぱい生方英役に小松準弥。スイサンズのバカ筆頭・萩原安打尊役に森田桐矢。
また、ヒロインとなるスイサンズの憧れの武闘派美少女・寅一知花役に山下聖菜。高校生らと宝物を取り合う怪物達深海の使者・ドローナ役に森山栄治。深海の戦士・カルナ役に汐崎アイル。土地を買い漁る外資系エリート・岸部秀夫役に渡辺和貴。ポセイドンの妻に西丸優子が出演。
さらにスイサンズたちの担任教師、豊玉エリー役に、元宝塚歌劇団トップ娘役の愛原実花。海神ポセイドン役にはキャラメルボックスの看板俳優の岡田達也など豪華出演陣が揃う。

この公演の初日前に、プレス向けの公開ゲネプロと囲みインタビューが行われた。
 
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【あらすじ】
ナカツ県の乙亀(オトガメ)市にある水産高校に通う陽気なバカ男子仲間スイサンズたちはある日、自治体の資金難から母校がなんと防衛人材育成高校(男子校)へと変わる計画を聞く。海と夢と女子を愛するスイサンズはそれを阻止するべく、乙亀市海外のスニオ岬の海底に沈むと伝わる「黄金の釣針」を手に入れようと画策。しかし期を同じくして、海底に沈む太古の神々がその「釣針」をめぐり動き出すのであった…。

冒頭から客席まで巻き込んで物語が始まる。スイサンズのメンバー、須永、道井、生方、葛先、萩原や寅一らが客席に乱入。舞台上手から教師の豊玉エリーがマイクで英語を喋りながら登場。テスト結果をスイサンズのメンバーに配っていくつもりらしいのだが、その結果は…スイサンズでは、煩悶するインテリこと道井磨多井のできが一番良く、スイサンズのリーダー格の須永宇宙期の結果が最低だとわかる。

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そのまま豊玉先生は、水産高校は漁獲高の減少で、ナカツ県は125億円の財政赤字に陥り、乙亀防衛人材育成きぼう高校に名前が変わることが告げられる。しかも男子校。おまけに兵士育成学校だという。スイサンズは一斉にブーイング。さらに資金を提供してくれるのは、インドラインベストメントという化学プラント工場を建設するいかがわしいグローバル企業。それが豊玉先生から高らかに告げられると、ダンスミュージックがかかり、海洋汚染や性的欲求や戦争を例えるラップが始まる。深いテーマ性とポップなエンターテインメントを併せ持つ海洋冒険ファンタジーのスタートだ。

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舞台はすべてがクリーム色を基調としており、小道具もクリーム色、そしてジャンクなものを組み合わせた近未来的な舞台美術。舞台から吊り下げられたものは海に漂着した人工物だろう。海洋汚染の化学物質で漂白されてしまったように見える。客席にも舞台装置があり、出演者は客席や舞台を行ったり来たりする。
シーンが変わって、病室の風景になる。ベッドに寝ているのは須永の母(野々目良子)。須永は母からある話を聞く。乙亀の古い言い伝えで、スニオ岬に黄金の釣り針が沈んでおり、それで巨万の富を築ける伝説があるらしい。その話に乗って海洋実習でその岬にいくから探してみると告げる。そして帰り道、道井が美少女の寅一知花と真剣に話し合っているのを見てしまう…。舞台は次第に暴風に変わっていく。

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時を同じくして、海中では海神ポセイドンが、かつて敵対したドローナ(森山栄治)とカルナ(汐崎アイル)と戦闘をしている。ポセイドンが暴風雨は起こすと、ドローナは高濃度ヨウトネウムというポセイドンの能力を奪う汚染物質の入ったミサイルを発射させる。ミサイルの発射先はインドラインベストメントの化学プラントからで、そこからインドラインベストメントの工場長岸部秀夫が、ドローナの息子であることがわかる。ミサイルによってポセイドンの能力は奪われ、暴風雨が収まっていくのだが、海は汚れてしまう。

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海洋実習に来たスイサンズのメンバーたちは、元海女で水産加工業者のコシノトメ(鎹さやか)にアサリの捌き方を習うが、アサリの様子がおかしい。化学プラントの建設で、スニオ岬のあるワタツ湾ではダイオキシンが検出されたり物騒なことが起こり始めていて、その影響だとコシノトメが嘆く。そんな中、スイサンズのいるスニオ岬付近の海岸に、ワカメを大量に巻きつけたポセイドンが現れ、海の神としての能力は毒のせいで失われたが、海底には黄金の牙があると教えてくれる。そしてそれは海底の宮・ウツノミヤにあるというのだ。伝説が現実の話になり盛り上がるスイサンズたち。彼らはポセイドンと一緒に海の底に潜って行く…。

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寓意と冒険譚の混じり合ったファンタジックな物語は、ポセイドンの妻であるアムピトリテ(西丸優子)に出会ったり、イカ議長(竹岡常吉)が宮を取り仕切っていたり、アムピトリテの手下のアワビ(大塚由祈子)は、かつてスイサンズの葛崎に助けられたことがあったりと、次第にテンションがマックスになって行くのだが、その様子は遊園地のアトラクションに乗っているようで楽しい。

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須永宇宙期の前田航基は、初舞台ながらセリフがきちんと届き、ストーリーテラーとしての才能を発揮させ、スイサンズのリーダー役として舞台を引っ張る。
道井磨多井の原嶋元久はインテリだが堅物で、密かに知花を想っているいじらしさを感じさせつつ、宇宙期を体を張って助ける勇敢な少年をきりっと演じている。
小早川俊輔の葛先賢人は、アワビと仲良くなってしまうなど無類の貝類オタクぶりが面白い。また父親のプラント工場に勤める葛先棚蔵(野田孝之輔)が、外資プラント側に操られてしまうのを止めようと奮闘する姿が清々しい。

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小松準弥の生方英は、エロでチャラいキャラだが、仲間がピンチになれば真っ先に救いに走る。その切り替えが様になっていて魅力的だ。
萩原安打尊の森田桐矢はスイサンズのお馬鹿筆頭だが、自分が何よりメンバーのことを思っているという自負を感じさせて、カッコいい。
スイサンズのメンバーはそれぞれお互いを想い、いたわり、助け合う。経験が少なくて不器用だが、必死に危機を乗り越えようとする姿で人と人の繋がりや存在意義を見せてくれる。

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寅一知花の山下聖菜は、父親がボクシングジムを経営している超武闘派ということで、殺陣も見事にこなしながら、一本気で不器用な女子を見事に演じている。

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ドローナの森山栄治は、ポセイドンのライバルとして対峙し、ストーリーの核となる黄金の牙の重要性を、明晰なセリフで理解させてくれる。
その部下のカルナ(汐崎アイル)は、本来は弓の名手なのだが、古代の戦闘でPTSDを患ってしまっている。そんな複雑な役どころを笑いとともに巧みに演じている。

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外資プラントの岸部役は渡辺和貴で、まさに現代の諸悪の根源のような存在を若きフィクサーといった感じで演じ、現代に渦巻く欲望や悪意を体現する。

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アムピトリテの西丸優子は、ポセイドンの恐妻で息子トリトンを溺愛している女性としての迫力を見せる。
 
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豊玉エリーの愛原実花は、堅物だけれどどこかあっけらかんとしている英語教師役を、テンポと毒のあるセリフと屈託のない表情で魅せてくれる。やんちゃな高校生たちをまとめ、ストーリーが佳境になっていくにつれて重要になる役で、そのメリハリを、時には大人っぽく、時には無垢にあどけなく表現して、この舞台のミューズとしての役割を果たしている。

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海神ポセイドンの岡田達也は、インタビューで自ら「トリックスター」と語っていたように、海の神としての荒ぶる演技でスイサンズを困らせる存在になったり、アムピトリテに怯えたりと、変幻自在の演技力で大きな存在感を感じさせてくれる。

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演出の伊藤靖朗は、テーマとなる軍国化や海洋汚染の問題を、寓話や神話に巧みに織り込みながら、極上のエンターテインメントとして見せていく手腕が見事だ。時には客席をも巻き込みながら、現代の切迫した状況をリアルに理解させる。現代日本の深刻な状況に肉薄しながら、未来へ希望を少しでも探りたいという、強い意志を感じさせてくれる舞台となっている。
 
【囲みインタビュー】

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西丸優子、渡辺和貴、汐崎アイル、森山栄治、小松準弥、森田桐矢、山下聖菜
伊藤靖朗、愛原実花、岡田達也、前田航基、原嶋元久、小早川俊輔
 
この舞台『「ポセイドンの牙」Version蛤』の囲み取材が行われ、前田航基、原嶋元久、小早川俊輔、小松準弥、森田桐矢、山下聖菜、森山栄治、汐崎アイル、渡辺和貴、西丸優子、愛原実花、岡田達也、伊藤靖朗が登壇した。

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伊藤靖朗、前田航基、岡田達也

──前田航基さんは、舞台初出演で、初主演になりますが、舞台に立つ気持ちをお聞かせください。
前田 劇場に入って、先ほど場当たりして板の上に立たせていただきました。7年前に、「まえだまえだ」というお笑いコンビで舞台に上がっていた時は、時間が3分でしたが、今作では2時間も舞台の上で立ち続けることに、責任を感じています。逆にクイックな反応が帰ってくる楽しさを感じつつ舞台の魅力に魅せられています。
──岡田さんは、キャラメルボックスに所属され、様々な舞台に立たれていますが、伊藤靖朗さんの演出の感想を。
岡田 率直に言います。作家さんや演出家さんは、変わった方が多いんです。普通の人はいないかも(笑)。稽古場で驚いたのが、ダメ出しをしていらっしゃったのですが、言葉が止まったあと、ずっと動きだけでダメ出しをするんです。踊り出したと思ってちょっとびっくりしました(笑)。ご本人の中で言葉のニュアンスや全体の動線を整理していたんでしょうね。だんだん伊藤さんのことがわかってきて、描きたい世界観がわかってきました。見せたい絵にこだわりのある演出家さんだという演出で面白く稽古をさせていただきました。
──初演からの続投の原嶋元久さん、2016年の初演と「Version蛤」で大きく違った部分はありますか。
原嶋 主演が変わり、スイサンズのメンバーも変わり、大きくキャストが変わったので、作品に流れる空気感が違います。まるで、パラレルワールドに来たような感覚で、こういう『ポセイドンの牙』もあるんだと実感しました。
 
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──伊藤靖朗さんの特徴は、現代に対する問題を舞台芸術やファンタジックな寓話を通して描かれると聞いています。今回の作品を通して伝えたいことは?
伊藤 稽古に入ってからも国際的に色々な事件が起こりました。これは2016年に初演した芝居ですが、そこから1年も経たないうちに、戦前の中に生きている、あるいは戦前を我々が作り出してしまっていると一層感じるようになりました。作家としては、初演よりも、時代に対して物語の願いをぶつけていきたい気持ちを強く持っています。Version蛤で意識したことは、全体のストラクチャはそれほど変わっていないのですが、より一層、お客さん自体の中に一歩進んでいく演出を選ぼうとしました。それほど危機感を持ってこの作品に臨んでいます。
──皆さん意気込みを。
前田 初めて本読みをしたのが9月11日です。早いもので1ヶ月が過ぎました。初舞台で、右も左もわからず、みなさんに迷惑をおかけすることもたくさんあったと思いますが、諦めることなく、暖かく見守ってくださったみなさんの期待に答えられる9日間にしたいです。お客さんにも僕たちのエネルギーやメッセージをしっかり持って帰っていただけるように頑張りたいと思います。
原嶋 周りが変わって新しい道井磨多井の側面を見せられたらいいですね。主演の航基をしっかり横から支えられるように、スイサンズとしてもこの作品を盛り上げていけるように、千秋楽まで頑張りたいと思います。
 
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小早川
 先日24歳の誕生日を迎え、毎日この作品の深さを感じながら、お客さんに楽しんでいただくために、生まれ変わったようにバチバチにやっていきたいと思います。

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小松
 僕の役の英くんはエロ、チャラ、バカという三拍子が揃っていて、思春期の男子高校生を全部つまらせた役なので、男子校になるのを阻止するため、女子のためにパワフルに冒険したいと思います。

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森田
 さっき、バカを取られましたが、僕がバカ役です(笑)。バカなりのパワーでスイサンズを盛り上げて、あっという間の2時間だったと思えるような作品にしたいです。

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山下
 唯一ちゃんと戦う役をいただいています。そのコントラストを出していけたら嬉しいです。

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森山
 久しぶりにがっちりメイクをさせていただいていますので、このメイクに負けない芝居をしていきたいと思います。 

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 汐崎 僕はお師匠役の森山栄治さんとご一緒させていただいて、さらに岡田達也さんという先輩にも恵まれ、座長は前田航基くんという推進力を持った方が一番前を走っていただいているので、その一員になれるように頑張りたいと思います。楽しんでいる人間を見るのは楽しいのですが、楽しいだけの作品ではありません。この作品の奥底を噛み締めながらご声援をお願いいたします。

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渡辺 本番に入ってからも岸部秀夫なりの正義とラブを追求していきたいと思います。

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西丸 
ポセイドンの恐妻で女王様なので、威厳を持って演じられたらと思っています。重いテーマの中で楽しんでいただける少しコミカルな部分を作っています。一回一回の公演を丁寧にこなしたいと思います。

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愛原
 キャスト・スタッフの皆様の力強いパワーとみずみずしさで、稽古場から毎日勉強させていただきました。
 
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岡田
 テーマはしっかりしたもので、重たいものが根底に流れている作品ですが、我々がやっているのはエンターテインメントなので、楽しくこのお芝居を観ていただけたら嬉しいですね。
 
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〈公演情報〉 
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メディアミックス・ジャパン プロデュース公演
『ポセイドンの牙』Version蛤
作・演出◇伊藤靖朗
出演◇前田航基 原嶋元久 小早川俊輔 小松準弥 森田桐矢 山下聖菜/森山栄治 汐崎アイル 渡辺和貴 西丸優子/野田孝之輔 野々目良子 竹岡常吉 鎹さやか 大塚由祈子/愛原実花 岡田達也
●10/13〜21◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般 7,500円 18歳イカシート4300円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉メディアミックス・ジャパン03-6804-5456(平日12:00〜18:00)



 
【取材・文・撮影/竹下力】




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トム・サザーランド演出×北翔海莉の女優デビューで華やぐミュージカル『パジャマゲーム』上演中!

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英国ミュージカル界の若き鬼才トム・サザーランドの演出と、元宝塚星組トップスター北翔海莉の女優デビューという、大きな話題で盛り上がるミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』が日本青年館ホールで上演中だ(15日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで19日〜29日まで上演)。

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ミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』はリチャード・ビッセルの小説「7セント半」を原作に、1954年にブロードウェイで初演された大ヒットミュージカル。1955年にトニー賞ミュージカル部門作品賞を受賞したのち、ブロードウェイや、イギリスウエストエンドで度々再演され、2006年のハリー・コニックジュニアとケリー・オハラによるリバイバル版が、同年のトニー賞ミュージカル部門リバイバル賞を受賞するなど、長く愛され続けてきた。今回の日本版上演は、トム・サザーランドによる新演出バージョンで、初演から60年近くを経た作品に時代の風を取り入れた仕上がりとなっている。

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【STORY】
1954年。周囲の工場が次々と給料アップを果たす中、賃金据え置きが続いているスリープタイト社のパジャマ工場では、労働組合が立ち上がっていた。
組合の中心人物は苦情処理係のベイブ・ウィリアムス(北翔海莉)と組合委員長プレッツ(上口耕平)。彼女達は時給7セント半の賃上げを求め、奮闘する毎日を送っている。
そんな中、社長ハスラー(佐山陽規)が雇った若き新工場長シド・ソローキン(新納慎也)は長身の二枚目。女子社員の間では、昼休みも右腕チャーリー(広瀬友祐)と共に、懸命に働く彼の噂で持ちきりだ。その様子を見ていた工場のタイムキーパー・ ハインズ(栗原英雄)は「もしや自分の恋人も?」と社長秘書であり夫婦同然の恋人グラディス(大塚千弘)の事が気がかりで仕方がない。シドの秘書メイベル(阿知波悟美)はそんなハインズを優しく諭しつつ、自らもシドに対して気配りとフォローにいそしむ。
そうした環境の中で、新工場長は現場と友好関係を築けるかに見えたが、反抗的な従業員との間で思わぬトラブルが発生し、駆けつけたベイブとシドは、組合員と工場長という相対する立場で運命的な出会いを果たす。
一目見た瞬間から惹かれあう二人だが、ベイブは自分の立場を優先するあまり、彼の誘いにつれない素振りをしてしまい……

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基本的に「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語に、多彩なミュージカルナンバーが散りばめられたこの作品には、ミュージカルがハートウォーミングであり、徹底的にハッピーだった時代の美徳が詰まっている。ヒロインとヒーローは一目で恋に落ち、様々な障害を乗り越えて、大団円を迎える。意地悪なできごとも起こりはするが、本当の意味での悪人は誰もいない。すべてに安心感があり、人のぬくもりがある。そんな世界が、今の目になんと新鮮に映ることか。そこにむしろ驚かされるほどの喜びがあった。
 
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しかも、一見殺風景な工場の中を思わせる舞台面に、冒頭から可動式のミシンと従業員たちが縦横無尽に動き回り、二階建てのシドの部屋がところを変えながら場面が展開していく様は、これぞトム・サザーランドの世界。『タイタニック』『グランドホテル』と、作品に新たな視点を持ち込んで現代に提示してきた気鋭の演出家ならではのスピード感が、往年の名作の尺と、現代人の時間間隔にどうしても生まれている乖離を埋めてくれる。客席通路をほぼ舞台と同様に駆使した演出も面白く、この工夫は、スタジアム形式の梅田芸術劇場ドラマ・シティーで、より威力を発揮するに違いない。もちろん二階席のある日本青年館ホールでも、二階の観客が完全に置いてきぼりになるような動きは避けられていて、その塩梅も絶妙だ。
 
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そしてタイム・キーパーの号令の下、秒単位でパジャマを縫いあげていく従業員たちに悲壮感がなく、むしろ賃上げ要求のストライキの一環として、ゆっくり縫う抵抗運動をやっている時の方が苦しそうなのには、思わず笑ってしまった。日本の感覚だとストレートに女工哀史につながるはずの設定が、コメディになるところが面白い。何より時給7セント半の賃上げ要求という、時代感満載の設定の中に「7セント半じゃ何も買えないけれど、その7セント半の違いが、5年経てば、10年経てば、20年経てば、何千ドルの増収になる!」と、従業員たちが喜びあい、歌い踊るナンバーには、楽しさと同時に胸を打たれる思いがした。リストラや、派遣切り、人員削減が当たり前になってしまった今の時代の日本人が、時給が20円上がったから、20年後には…と夢を見ることなどほぼできはしない。そんなファンタジーとドリームがミュージカルを観ている間くらいは、あっても良いはずだ。観劇の楽しさの原点を、この作品は思い出させてくれる。

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もちろん、「スチーム・ヒート」「ヘルナンドス・ハイダウェイ」など、ミュージカル『パジャマゲーム』のナンバーであることを離れて、スタンダードナンバーとして定着している有名ナンバーをはじめとした、ミュージカル・ナンバー、ダンス・ナンバーの多彩な魅力も満載。オリジナルのボブ・フォッシーの流れをくむこれも気鋭の振付師、ニック・ウィストンの振付がオシャレに舞台を弾ませてくれる。

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そんな舞台で女優デビューを果たした北翔海莉は、元宝塚の男役スターが女優となった時に常にぶつかる、音域の違いの壁を軽々と乗り越えたのが印象的だった。元々音域の広さには定評のあった人だが、多くの元スターが苦しむ低音域と高音域の切り替えに全くひっかかりがなく、安心してソロナンバーを聞いていられるのは、さすが北翔と言える。戦う女性という設定だが、今の時代にそれを過度な男勝りの形で提示しなかったのも当を得ていて、安定の女優デビューを飾ったのが喜ばしい。原典とは異なり「スチーム・ヒート」も北翔のベイブが歌い踊る形に変更されているが、この登場が男役チックで、一瞬北翔ファンへのサービスシーン?と思わせて、あっと驚かすウイットも効いていた。

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ベイブと恋に落ちる工場長シドの新納慎也は「(北翔より)自分の方がドレスを着慣れていると思う」と制作発表の場などで笑わせていた通り、これまで個性的な役柄で多くのヒットを飛ばしてきた人だけに、天下の二枚目の役どころにスッキリと納まったインパクトが絶大だった。芝居心のある歌も豊かに響き、何より踊れる人ならではの姿勢の良さが加わり、こんなに二枚目役が似合う人だったのか!と目からウロコが落ちるような気持ちにさせてくれる。これを機会に、こうした役柄も増えてくるきっかけになることを願わずにはいられない。ドラマとしてもシドが大きなポイントを握っているだけに、新納の好演は作品を押し上げる力になっている。

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また新納同様に、新境地を拓いている人材が多くいるのもこの作品の面白さを増幅したポイントだ。この時代の作品ならではの、いわゆる古典的な「お色気担当」のグラディスを、清純派のイメージが強い大塚千弘が嫌味なくチャーミングに魅せたし、とことん前向きで欲望にも忠実なプレッツを、誠実な持ち味が魅力の上口耕平が楽しそうに色濃く造形しているのも目を引く。

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特に、日本人離れしたマスクと体躯とで色敵役のヒットが多かった広瀬友祐が、実直な良い人を素直な優しさを込めて演じているのが新鮮で、それぞれに今後、役者として更に幅を広げていける役柄を十二分に表現したのが嬉しい。もちろん海外ミュージカルならではの、年齢が上の役柄にも持ちナンバーがある利点を、阿知波悟美、佐山陽規、栗原英雄ら、ベテラン陣が巧みに見せてくれていて、贅沢な働き場の多いアンサンブルメンバーを含めて、往年のミュージカル・コメディの豊かな楽しさにあふれた舞台となっている。

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〈公演情報〉
ミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』
原作◇リチャード・ビッセル
脚本◇ジョージ・アボット、リチャード・ビッセル
作詞・作曲◇リチャード・アドラー、ジュリー・ロス
翻訳・訳詞◇高橋知伽江
演出◇トム・サザーランド
出演◇北翔海莉、新納慎也、大塚千弘、上口耕平、広瀬友祐、栗原英雄 ほか
●9/25〜10/15◎東京・日本青年館ホール
〈料金〉S席 11.500円 A席 8.500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉0570-077-039
●10/19〜29◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉11.500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉06-6377-3888
〈HP〉 http://pajama-game.jp/



【取材・文/橘涼香 撮影/竹下力】


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