えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

宝塚ジャーナルは2019年2月20日に引っ越しました。
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OG公演レビュー

年末恒例笑って泣ける時代劇&豪華歌謡ショーでおくる『歳が暮れ・るYO 明治座大合戦祭』開幕!

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様々なジャンルのスターたちが勢ぞろいし、4時間に渡る豪華公演を繰り広げる『歳が暮れ・るYO 明治座大合戦祭』が日本橋浜町の明治座で上演中だ(31日まで。のち2019年1月19日大阪・梅田芸術劇場メインホールでも上演)。

この公演は演劇製作会社る・ひまわりと老舗大劇場の明治座がタッグを組み、2011年から続いている“祭”シリーズと呼ばれる作品の第8弾。日本の歴史に題材を求めた芝居と、出演俳優たちのキャラ祭りでもあるオリジナルユニットショーという、3部仕立てで構成された4時間超えの舞台は、「この舞台を観ないと年が越せない!」という多くのファンを生み出し続け、年末の風物詩ともなっている。
そんな公演の平成最後となる『歳が暮れ・るYO 明治座大合戦祭』は、武田の嫡男として生まれながら、戦いを嫌い、平安な世を願い続ける武田晴信(後の信玄・佐奈宏紀)と、異形として生れついた己の境遇を嘆き、無慈悲な世を恨み続けてきた山本勘助(内藤大希)との出会いが、戦国最強と謳われた武田軍誕生につながっていく秘話を描いた『風林火山す・る』と、芝居のキャラクターと演じる本人たちが融合したオリジナルユニットが繰り広げる熱いライブ『KAI ROCK FESTIVAL』の、明治座の伝統にのっとった1幕&2幕芝居、3幕歌謡ショーの2回の休憩込みトータル4時間越えで展開されていく。

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第1部『風林火山す・る』は、3人の少年(松本岳、近藤頌利、松村優)が廃墟となった古い劇場を探検に訪れると、劇場の番人(加藤啓)が現われ、舞台上に時が止まったように佇んでいた登場人物たちが動き出す…という凝ったオープニングからスタート。謎の男(槙尾ユウスケ)が1冊の本を手に、武田信玄と山本勘助の物語を読み進めていく。

ここからは“祭”シリーズ恒例となった、歌あり踊りあり笑いあり涙ありの歴史エンターテインメントが怒涛のように繰り広げられる。基本的に装束も話し方も時代考証無視の煌びやかさ満載だから、もちろんこの時代のことを全く知らなくても十分楽しめるのだが、学校で習う程度の知識があると「おっ!」と感心するくらいに、ハチャメチャな世界のようでいて、歴史の事実はきちんと押さえている脚本のほさかようの作劇が深い。特に今回の『風林火山す・る』は、戦国最強の武田軍の将・武田晴信(信玄)と軍師・山本勘助という、頻繁に映像化、舞台化がなされてきた、日本の歴史上でも人気の時代と人物たちが描かれているだけに、そのオールスターぶりが楽しい。演出の板垣恭一が出演者たちそれぞれの武器や個性を、ケレン味たっぷりに盛り込んでいることも活きていて、30人近い出演者全員に見せ場が作られ、作品全体はもちろん、誰をお目当てに客席に座っても満足できるエンターテインメントになっているのが素晴らしい。

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そんな公演でW主演を務める1人、武田晴信の佐奈宏紀は、鮮やかな薔薇柄のケープという、この衣装が着こなせる人もそうそういないだろう、と思わせる衣装に負けない華やかさで舞台に位置している。戦乱の世に生まれながら戦いを好まないという、この作品の武田晴信像に真実味を持たせているのも見事で、晴信の語るある意味の夢物語をいつしか信じたい気持ちにさせる主演ぶりだった。

もう1人の主演者山本勘助の内藤大希は、一転生まれついての異形の者として忌み嫌われているという立場からの登場だが、その暗い設定があるだけに、自らの境遇を嘆く「ひとりきりで生まれて」や、心の内を吐露する「夢は見ない」などのソロナンバーの圧倒的な歌唱力が光り輝く。まさに劇中の空気を一瞬で変えるショーストップの趣で、非常に効果的なW主演となった。

また勢いのある若手たちに混じって、各ジャンルの主演クラスの人材が参加しているのも“祭”シリーズの醍醐味で、ミュージカル俳優として多くの舞台に出演してきた泉見洋平が今川義元に扮し、持ち前の歌唱力はもちろん、思い切り振り切った役柄を体当たりで演じているのも目を奪う。

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一方、元宝塚宙組トップスターの貴城けいが、上杉謙信を演じて、男役経験者ならではの立ち居振る舞いと、女優として輝かせてきた美しさ双方を十二分に活かした、美しき毘沙門天に説得力を与えている。更に武田信虎の加藤茶がコメディアンの軽みを巧みに織り交ぜて、作品を支えて大きなアクセントになっていた。

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彼らを中心に登場人物が動いていくのだが、武田家では冒頭から賑々しく登場する武田軍の四天王・飯富虎昌の兼崎健太郎、板垣信方の中村龍介、小山田虎満のKIMERU、甘利虎泰の滝口幸広が、それぞれの役柄の個性をきっちりと造形しているし、晴信思いの弟・信繁の永田聖一朗は甘やかさ、天然な鋭さを持つ同じく弟の信廉の田中涼星の飄々とした佇まいも後の展開に生きていく。高坂弾正の松本岳、真田幸綱の近藤頌利、内藤昌豊の松村優は、冒頭の少年役から作品世界に入ってくる流れを面白く作り、晴信の正妻・三条の方の隅田美保のしとやかであろうとしながら、こぼれ出る破天荒も笑わせる。

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今川家軍師の太源雪齋の谷戸亮太と、家臣・庵原忠胤の二瓶拓也のカリカチュアされた動きの中にある本気。上杉家軍師の宇佐美定光の小早川俊輔、直江兼続の加藤啓の歴史上の人気キャラクター揃い踏みに説得力を与える個性。諏訪家の諏訪頼重の久ヶ沢徹が醸し出す歴史ものとしての重みと、その娘諏訪姫の井深克彦の茶目っ気の対比が生む絶妙なバランス。強いインパクトを残す村上家の村上義清の木ノ本嶺浩の登場シーンと歌等、各々の活躍が舞台を盛り上げる。語り部として登場する謎の男の槙尾ユウスケと、謎の青年の杉江大志も物語の展開をフォローしつつ、自らの存在でも話を引っ張る力になった。

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更に物柔らかだが、戦国の世に暗躍している顕如の辻本祐樹が醸し出す食わせ物感が実に巧みで、側近の下間信康の大薮丘とのかなり捻じれた関係性も目を引く。大薮丘は体調不良の為28日公演を残念ながら休演した井澤巧麻(29日以降の出演については追って発表)に代わって、山本勘助の弟・光幸も二役で務めたが、とても代役とは思えない見事な演じぶりで公演を支えた。井澤の1日も早い復帰を願うと共に大薮の健闘を称えたい。

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この全員が揃っての第1部1幕ラストの大ナンバー「正しい道」の盛り上がりには、グランドミュージカルさながらの趣があり、見てのお楽しみとなる第1部2幕と、更に盛り上がること間違いなしの第2部ショー『KAI ROCK FESTIVAL』と共に、平成最後の年末を是非劇場で彼らと共に熱く過ごして欲しい舞台となっている。

【コメント】 
初日を前にW主演の佐奈宏紀と内藤大希から公演への意気込みを語るコメントが届いた。

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佐奈宏紀
柄にもなくたくさんの不安を抱えながら稽古に入ったのですが、毎日稽古をしていく中で、漠然と悩んでいたことにも先輩が的確なアドバイスをくださり、皆さんに助けて頂きひとつひとつ具体的に解消されていきました。普段は同世代の共演者が多いので、先輩がいっぱいいて、惜しみなく頼っていい、皆さんが頼らせてくれる環境がる・ひまわり作品の良いところだと思います。そして何より(W主演の)大希君がいつもニコニコと受け入れてくれる感じが本当に支えになっています。
お芝居は歴史ものなので難しいイメージを持たれるかもしれませんが、言葉も現代にも置き換えられたり、物語も身近で誰でも当てはまる内容だったりするので、メッセージもガツンと届くと思いますし、感じてほしいと思います。また、二部のユニット「TONO&KERAI」は先輩に頼らず若手だけで何とかできないかと皆で試行錯誤して作り上げましたが、稽古で出し切った感じがするので、10公演最後まで同じテンションで乗り切れるかというのも見どころかもしれないです(笑)。

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内藤大希
去年初めて参加させて頂いた“祭”シリーズですが、W主演決定の発表から約半年(8月に上演した)リーディング公演ではお客様の前でお披露目があり、昨年W主演の安西・辻本両座長からバトンを引き継ぎ、日に日に実感しています。演出の板垣さんのもと、(W主演の)佐奈と二人で自分たちができることを頑張る、二人の力を出し惜しみせず全力で稽古から臨んで本番を皆様に観に来て頂くということを念頭に稽古に励んできました。たくさんのスタッフ・共演者に支えられて最終稽古を終え、これから皆様に観て頂くのが楽しみです。

〈公演情報〉
『歳が暮れ・るYO 明治座大合戦祭』
演出◇板垣恭一
脚本◇ほさかよう
出演◇佐奈宏紀(W主演) 内藤大希(W主演)/ 辻本祐樹 / 泉見洋平 / 貴城けい / 加藤茶 ほか
●12/28〜31◎明治座
〈料金〉S席12,000円 A席5,800円
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター03-3666-6666(10時〜17時)
●2019/1/19◎梅田芸術劇場 メインホール
〈料金〉S席12,000円 A席8,000円 B席4,000円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場06-6377-3800(10時〜18時)



【取材・文・撮影/橘涼香】






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劇作家たちの創作の苦闘を笑いとともに描くブロードウェイ・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』上演中!

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福田雄一の最新作ブロードウェイ・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』が、12月17日から東京国際フォーラム ホールC で上演中だ。(30日まで。そののち2019年1月11日〜14日◎大阪 オリックス劇場で上演)
 
本作は、1990年代にケイリーとウェインのカークパトリック兄弟のアイデアから始まり、2015年にブロードウェイで上演。アメリカの演劇・ミュージカル界で最も権威ある賞であるトニー賞で9部門ノミネート、1部門受賞という快挙を成しとげた。タイトルの「Something Rotten!(サムシング・ロッテン!)」とは、「何かが、腐っている!」という意味。ハムレットの一節からの引用で、こんなふうに複数の戯曲、ミュージカル作品へのオマージュが散りばめられたコメディミュージカルだ。

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物語の背景は16世紀末。絶大な人気を誇るウィリアム・シェイクスピアを相手に、ニックとナイジェルのボトム兄弟が競いながら、舞台芸術業界で成功を目指す。『コーラスライン』、『アニー』、『レ・ミゼラブル』などの人気ミュージカル作品や、シェイクスピア作品を彷彿とさせるシーンの数々が、舞台・ミュージカルファンの心をくすぐる作品となっている。
 初の日本語版上演では、演出・上演台本を現代のヒットメーカーであり、「笑い」と「ミュージカル」をこよなく愛する福田雄一が手がけ、出演者は中川晃教、西川貴教、瀬奈じゅん、橋本さとし、平方元基、清水くるみと豪華なキャスト陣が熱い舞台を繰り広げている。 

【あらすじ】
ルネサンス時代のイギリス。売れない劇作家であるニック(中川晃教)は弟のナイジェル(平方元基)と共に自身の劇団を運営していた。
時代の寵児であり、スーパースターの劇作家シェイクスピア(西川貴教)にニックは対抗心をむき出しにするが、劇団運営に行き詰まり、妻ビー(瀬奈じゅん)の目を盗んで予言者ノストラダムス(橋本さとし)のもとを訪ねる。そして、彼のお告げに従い、世界初の歌って踊る「ミュージカル」を書こうと決意するのであった。
その後もノストラダムスのもとへ通うが、出てくるのは頼りない予言ばかり…ヒット確実な作品タイトルは『オムレット』(実は『ハムレット』の間違い)だと言われ、ニックはミュージカル『オムレット』を生み出すために悪戦苦闘する。
作家の才能を秘めている弟のナイジェルは、兄の言うことを聞きつつも「卵の物語なんか書きたくない!」と思い悩む。そんななか、出会った美しい清教徒の娘ポーシャ(清水くるみ)と恋に落ち、新たなインスピレーションが生まれていた。
一方、『ロミオとジュリエット』に続く大ヒット作を書かねば」と人知れず思い悩んでいたシェイクスピアは、以前からナイジェルの才能に目をつけていて、彼からなんとか次作のアイデアを得ようと画策する。そして「トービーベルチ」と名乗る役者に化け、ニックの劇団に潜入し、後の大ヒット作となる『ハムレット』の土台となるアイデアをどんどん盗んでいくが…
 
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時代はルネッサンスへと遡る。ニックとナイジェルのボトム兄弟は、劇団を運営しているが借金だらけ。流行作家シェイクスピアへの対抗心に燃えるニック。

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志があるもののうまくいかないニックに、夫を心から愛している妻のビー(瀬奈じゅん) は、助け合うのが夫婦、と働きに出ることを思いつく。
 
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予言者トーマス・ノストラダムス(橋本さとし) に会いに行ったニック。未来では「ミュージ力ル」が大流行すると予言するノストラダムス。

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南ロンドンの路上でナイジェルとポーシャ(清水くるみ) が偶然の出会いをする。惹かれあう若い2人。 
詩が好きで才能あふれるナイジェルとキュートなポーシャだが、彼らの恋は波乱万丈だ。 

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庭園での朗読会で、ウィリアム・シェイクスピア(西川貴教) が登場。待ちかねた民衆が熱狂する。

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シェイクスピアは才能あるナイジェルに近づこうとしていた。

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シェイクスピアは「トービーベルチ」と名乗る役者に化け、ニックの劇団に潜入する!

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シェイクスピア作品や有名ミュージカルをネタに織り込み、荒唐無稽なストーリーで展開するミュージカルだが、中川晃教と西川貴教という希代のエンターテイナー2人の共演というゴージャス感のうえに、瀬奈じゅんや橋本さとしが華やかに力強く舞台を彩り、平方元基と清水くるみの若々しさ甘さが加わり、アンサンブルはじめ、脇役たちのダンスや歌も迫力満点、見どころ満載の舞台となっている。 
福田雄一らしい出演者ネタや日本のミュージカル界の小ネタなどもふんだんに混ぜ込んであり、一度ではキャッチできないほどの情報量が、これでもかというほど押し寄せる。
笑い疲れるほど笑ったあと、物語の通奏低音として織り込まれているクリエーターであることの苦悩、家族や恋人への愛、そしてバカバカしいほど一生懸命に生きる人間たちの姿、そんな真っ当なことが心に残るミュージカルだ。


〈公演情報〉
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ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
作詞・作曲◇ウェイン・カークパトリック、ケイリー・カークパトリック
脚本◇ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
演出・上演台本◇福田雄一
出演◇中川晃教 西川貴教 瀬奈じゅん
平方元基 清水くるみ/橋本さとし ほか
●2018/12/17〜30◎東京 東京国際フォーラム ホールC
〈料金〉S席12,500円 A席9,500円 B席7,000円(全席指定・税込)    
●2019/1/11〜14◎大阪 オリックス劇場
〈料金〉平日:S席11,000円  A席8,000円  B席6,000円
    土日祝:S席11,500円  A席8,500円  B席6,500円
〈お問い合わせ〉キョードー東京 0570-550-799 (オペレーター平日11:00〜18:00、土日祝10:00〜18:00)

【文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】



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一層彩りを深めた迷宮への誘い『ダンスカンタービレ2018』上演中!

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DIAMOND☆DOGS(D☆D)のメンバーとして活躍するかたわら、優れたクリエーターとして構成・演出・振付のジャンルでも才能を発揮している森新吾が中心になって繰り広げる、ショーアクト『ダンスカンタービレ2018』Mori Shingo & 8 Foxy Girlsが銀座の博品館劇場で上演中だ(16日まで)

『ダンスカンタービレ』は、昨年5月に森新吾初の主演作品として発信したショーアクトで、19世紀末のロンドンを震撼させた「切り裂きジャック」をモチーフに、森と風花舞をはじめとした女性陣だけで紡がれた作品。そのダークでミステリアスな、感性を刺激するステージは大好評を博し、D☆D充電期間中の2018年、森はこの作品を核に「カンタービレシリーズ」と銘打った新プロジェクトを始動。11月にサイエンスホールで上演された男優だけのストーレートプレイ『アクトカンタービレscene1 〜 Smoky Dog 〜』が喝采を集めたのち、1年半ぶりの再演となる、今作品『ダンスカンタービレ2018』の幕が開いた。

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とは言っても『ダンスカンタービレ2018』は、昨年春の初演バージョンから更に深化を遂げ、作品の持つ物語性の骨子こそ変わらないものの、一層深い彩りと夢とうつつの狭間の迷宮を立ち上らせている。初演を観た方にも「そう来たか!」という驚きや発見があるだろうし、今回の上演で初めて作品に接する方、特に『アクトカンタービレscene1 〜 Smoky Dog 〜』から続いてこの作品の扉を開けた方には、森新吾というクリエーターの振り幅の広さが実感できるに違いない。

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実際、初演時はゲストだった町田慎吾が、森演じる男の良心とも、影とも、はたまた現実の姿とも見える役柄を演じることで、木野村温子と共に創り出す異空間の意図するところが明確になっていたり、そのゲストが日替わりで演じていた刑事役を、初参加の田野優花が女刑事として通して演じることで、更に大きな仕掛けが用意される等、作品の見え方がより鮮明になった部分は大きい。だがそれでいて、敢えて正解を求めようとしていない、理解するのではなく感じて欲しい、見た人の数だけ感じかたがあって良いという余白があるのもこのショーアクトの豊かさで、それが森新吾その人のものづくりに対する懐の深さを感じさせていた。

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何より構成・演出・振付・主演を務める森の、確実に増したセンターを務める力が作品に芯を通している。それは初主演の機会だったこの作品の初演時よりも、この2018年バージョンが深みを増した最も大きな理由のひとつで、物語の中心にいることに森自身が格段に馴染んできたのを感じる。やはりライトの中で、舞台の上でこそ表現者は育っていくのだなと深い感慨を覚えた。クリエーターの森が、表現者の森に求めるものも、この後もっと深くなっていくに違いない。そう実感できる主演ぶりに拍手を贈りたい。

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同じく初演からの続投組では、もはや別格の感さえある風花舞の表現力が更に凄味を増していて目が離せない。謂わば物語の円の最も外側から周り続けなから、やがて核心へと迫ってくる役柄だが、持ち前の男前なダンスの切れ味と、元宝塚月組トップ娘役という出自から放つ無垢なものが、並び立って作品を底支えした力は絶大だった。

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また、森を取り巻く女性たちの中でも大きなパートを担っている藤田奈那の表現力が格段の進歩を遂げているのも大きく、初演時に残っていた固さが完全に払拭され、しなやかに舞台に位置していたのが、役割りをより鮮やかにする効果になった長岡美紅、PSYCHE、橋本由希子もそれぞれの表現がより豊かになり、舞台上での個性が更に明確になって、持ち場を固めているのが頼もしい。

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他方、初参加のメンバーでは、舞羽美海の宝塚雪組でトップ娘役を務めていた当時から群を抜いていた愛らしさ、可憐さがジャンルの異なるダンサーの中でひと際輝いただけでなく、退団後育んできた妖艶さや女性美が相まって何とも蠱惑的。優れたダンサーでもある一面も存分に発揮されていて、舞台をより高みへ引き上げる一翼を担っている。

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女性刑事役も務める田野優花は、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』のサリー役が打ってつけだった姿を思うと、同じ女性かと見まごうほどのシャープな表現で魅了する。この人が新たに刑事役に扮したことが作中大きな意味を持つが、その展開を唐突に感じさせない存在感が際立った。伊藤佳耶芽もこの個性溢れる陣容の中で、きちんと自分自身を魅せているのが才能を感じさせた。

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そして町田慎吾が加わったことが前述したように、作品の骨格をより鮮明にしていて、元々憑依型の表現者である町田の、突き詰めた役柄の造形が強烈なインパクトを放っている。時にただ通り過ぎるだけという出番もある中にも、必然と意味を感じさせるのは流石の一言。ダンスと表現が全く浮かずに融合しているのも素晴らしい。この町田が対照にいることによって、木野村温子が誘う背徳の香りもよりくっきりと立ちあがる効果になっていて、初演時に比して一層役柄の必要性が高まり、木野村の身体表現はもちろん、怖さのある笑顔が印象的だった。

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これら新しい組み立て方によって日替わりゲストの出番が集約されたからこそ、その日替わり感が強まっていて、「悪の華」を思わせた初日の東山義久がもたらした残像がなんとも強烈。 中塚皓平、植木豪、長澤風海が刻むアクセントも、それぞれに鋭いものがあるだろう。
 
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総じて、クリエーターとしてはもちろん表現者としての森新吾の確かな進化が感じられる舞台になったことが嬉しく、「カンタービレシリーズ」の発展に更なる期待の高まる舞台となっている。 

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〈公演情報〉
『ダンスカンタービレ2018』Mori Shingo & 8 Foxy Girls
構成・演出・振付◇森新吾  
出演◇森新吾/風花舞 舞羽美海 藤田奈那/長岡美紅 PSYCHE 伊藤佳耶芽 橋本由希子 木野村温子/田野優花  町田慎吾 
日替りゲスト◇東山義久(12日) 中塚皓平(13日) 植木豪(13日夜・15日夜・16日) 長澤風海(13日夜・14日・15日昼) 
●12/12〜16◎博品館劇場 
〈お問い合わせ〉博品館劇場 03-3571-1003



【取材・文・撮影/橘涼香】



『暗くなるまで待って』


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ピアフそのものと感じさせる大竹しのぶ渾身の熱演と絶唱『ピアフ』上演中!

ピアフ()「私の回転木馬」

フランスが最も愛したと言われる歌手エディット・ピアフの愛と歌と波乱に満ちた人生を、大竹しのぶが歌い演じる舞台『ピアフ』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(12月1日まで。のち、広島、香川、大阪でも上演)。

ブロードウェイ、ウエストエンドで歴代の名女優によって演じ継がれてきたパム・ジェムスの傑作戯曲『ピアフ』を大竹しのぶが初めて演じたのは2011年のこと。2008年ジェムス自身がロンドンのドンマーウェアハウスでの上演の為に決定版として書き下ろしたものの日本初演で、大竹の熱演、熱唱、栗山民也の演出と共に瞬く間に大評判となり、大竹は読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。その後、2013年、2016年の再演も大好評で、2016年大晦日の第67回NHK紅白歌合戦で「愛の讃歌」を大竹が熱唱。ピアフが憑依したと絶賛される大竹の歌唱が更に注目を集め、2018年4演目となる今回の公演も、発売わずか3日間で約18.000席が全席完売という熱狂を巻き起こしている。

【STORY】
エディット・ピアフ──本名エディット・ガシオン(大竹しのぶ)は、フランスの貧民街で生まれ、路上で歌いながら命をつないでいた。ある日、ナイトクラブのオーナーがエディットに声をかける。
「そのでかい声、どこで手に入れた」
「騒がしい通りで歌っても、歌をきいてもらうためだよ!」
オーナーに気に入られたエディットの歌声は「ピアフ──小さな雀」の愛称と共に、たちまちにして大評判となる。だが、彼女の心は常に愛を求め、孤独を恐れ続け、歌手としての成功がその渇望を埋めることはなかった。戦争、そして数々の恋、別れ。すべてがエディットを追い詰め、アルコール、やがてはドラッグへと手を染め、心と身体が蝕まれてゆく。それでもそれらすべてを糧にしたようにエディットはマイクの前に立ち、「愛」を歌い続ける……。

ピアフ(ぶ)とシャルル(宮原浩暢)

この作品の特徴は、ピアフの47年間の人生を数々の短いシーンの連続で表現していることだ。もちろん字幕などで年代や場所は提示されるものの、全体の流れとしては謂わばエピソードの畳みかける羅列で、短い場面が移る毎にピアフの置かれた状況や、直面している問題が変化しているから、観る者にも演劇的なイマジネーションの喚起を要求してくる。それでいて、観ていて全く混乱がないのは、劇中に差し挟まれた「愛の讃歌」「私の回転木馬」「バラ色の人生」「水に流して」等々の、ピアフの歌の数々が場面の飛翔を効果的につないでいるからに他ならない。歌手エディット・ピアフが劇中で役として歌っている設定、つまり音楽がドラマを進めるミュージカルとは異なる手法でありながら、紛れもなく音楽によってドラマが運ばれていく鮮やかさは、この作品にしかない醍醐味だ。演出の栗山民也が4演目にして更にスピーディに作品をブラッシュアップしていることも、この効果を高める要因になっている。

そして何よりも大竹しのぶのピアフの見事さが、作品に太く確かな芯を通していることが、すべての根幹を握っている。「ピアフが舞い降りた」とも、「ピアフが憑依した」とも称される大竹の渾身の熱演には、最早畏敬の念を覚えるほどの凄味がある。実際幕が下りて、いったいどの瞬間に大竹は、自分自身を取り戻すのだろう…と、想像しようとしても全く見当がつかないほど、劇中の大竹は愛を求め、苦しみにのたうちながらも、歌うことをやめなかったピアフその人にしか見えない。魂の歌声の数々も胸を打ち、決して品が良いと言えないピアフの数多の言動が、歌っている時だけは神々しさを湛えるのも、すでに演技の域を超えているのではないか?と思わされ、終幕の「水に流して」の絶唱にはただ涙を禁じえない。チケットが売り切れなのに、こんなことを書くのも憚られる想いがするが、それでもこの「ピアフ=大竹」の歌唱は、やはりこの劇中で『ピアフ』が上演されている劇場の客席でなんとしても聴いて欲しい、そんな想いが湧き上がる舞台だ。

ピアフ(大竹しのぶ)「愛の讃歌」
 
また共演者が主な役柄だけでなく、様々な時代と立場でピアフと関わった人々を演じていくのもこの作品の特徴で、全員で歌われる「リリー・マルレーン」の力感など、大竹を囲む面々の力も作品にしっかりと寄与している。
中でも、大竹と共に初演からこの作品への出演を続けている梅沢昌代、彩輝なお、辻萬長が舞台『ピアフ』に欠かせないピースとして果たす役割が大きい。
ピアフの生涯の親友トワーヌの梅沢は、ピアフの環境がどう変わろうと友人であり続けるという、稀有な人物設定に真実味を与える地に足のついた演技で魅了する。粗野でちゃっかりしたところもありながら、心根は真摯なこの友がいたことが、劇中のピアフのひいては観客の救いにもなる存在としての梅沢の功績が、2016年菊田一夫演劇賞受賞につながったのも当然とうなづける。
また、マレーネ・デートリッヒの彩輝は、誰に対しても自我を貫き通すピアフに対等にものが言える、ほぼ唯一アドヴァイスができる人物として強い印象を残している。元宝塚歌劇のトップスターだった人ならではの男装の美しさ、ゴージャスなドレスの着こなしも鮮やかで、演じ歌うことに抑制を利かせられるマレーネをピアフの対照として描き出し、出番の長さ以上に劇中に屹立させた様には、女優・彩輝の成長も感じさせた。もう一役これも大きな役柄で、ピアフの秘書を務める極度の近眼の女性を演じるが、マレーネとの出番が相当な早替わりであるはずなのに、ちゃんと全く別の人物として登場してくるのも見応えがある。
もうひとり、そもそもピアフを見出すナイトクラブのオーナーなどを演じる辻も、ここからピアフの運命が変わっていく人物を、大きな造形で演じて抜群の安定感。最早この人が「そのでっかい声、どこで手に入れた」という台詞を発してくれることが、この作品が動き出す合図とも感じられて、ワクワクさせられる。

ピアフ()とシャルル(宮原浩暢)薔薇

そんな初演からのメンバーに、前回公演から続投の川久保拓司がピアフを支え続けるマネージャーを、出番の度に年齢をきちんと重ねていることを巧みに表現した演技で魅了すれば、イブ・モンタンの大田翔が伸びやかな美声を響かせるカンツォーネの魅力で強いアクセントを残している。
更に、今回公演から新たに加わったメンバーがまた豪華で、シャルル・アズナブールの宮原浩暢が持ち前の歌唱力だけでなく、演技力も長足の進歩を遂げていることを鮮やかに示してくれる。アズナブールは、奇しくもこの9月に来日コンサートを果たし、僅かひと月後の10月に94歳で帰らぬ人となったが、文字通り生涯をシャンソン歌手として全うした偉大なる歌手アズナブールを、きちんと造形して頼もしい。

ピアフ()とマルセル・セルダン(駿河太郎)

ピアフが生涯で最も愛し、その事故死から精神のバランスを崩してゆくマルセル・セルダンの駿河太郎にある温かいぬくもりを感じさせる持ち味と、ピアフ最後の恋人テオの上遠野太洸のカットガラスのような繊細な美しさが、それぞれの役柄に生きていて作品の彩りを深めている。
もう1人、冒頭の司会者をはじめ様々な役柄を演じる上原理生の参加がなんとも贅沢で、ミュージカル界の大きな存在である上原が、歌手ではない役どころで作品を支えた姿に『ピアフ』が演劇界で如何に大きな演目になっているかを改めて感じさせた。

ピアフ()とテオ・サラボ(上遠野太洸)

またこの公演に先立ち、ピアフの命日である10月10日、大竹しのぶによるピアフ楽曲初の音源化であるアルバム「SHINOBU avec PIAF」が発売。このアルバム曲を中心に、2019年1月には大竹しのぶ初のピアフコンサートが兵庫、東京、名古屋で開催されるなど、「大竹=ピアフWORLD」が更なる広がりを見せていて、舞台『ピアフ』が生み出した熱量の大きさを実感する時間になっている。

【囲み取材】
 
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彩輝なお、大竹しのぶ、梅沢昌代

この公演の初日を翌日に控えた11月3日、囲み取材が行われ、大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なおが公演への抱負を語った。

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──いよいよ明日から初日ということですが
大竹 さえちゃん(彩輝)、梅ちゃん(梅沢)はじめ初演からのメンバーと新しいメンバーと、まだ少し緊張があります。でももうはじまっちゃうので皆と力を合わせてまた新しい気持ちで頑張りたいなと思います。
梅沢 「全員野球」で頑張りたいと思います!
彩輝 皆で力を合わせて頑張ります。
──4度目の再演ということですけれども、4度目ともなると気持ちはいかがですか?
大竹 やはり4回目という方がどんどんプレッシャーが大きくなってきているかな?と思います。初めてご覧になる方もたくさんいらっしゃると思いますが、やはり1回目から2回目、3回目、といらしてくださって、4回目はどんなものになるのだろう?と楽しみにしてくださる方も多くて、ということは前よりは絶対に良いものも出さなければならない。二人とも話していたのですが「前の方が良かったね」ではなく、前はあの時のベストであった、今は今がベストなんだなと思えるようにしたいなとは思っています。
──すでにチケットは完売ということなのですが。
大竹 とてもありがたいなとは思いますが、当日券をちょっとは残さないと劇場としてはいけないんじゃないかなって(爆笑)。でもありがたいですし、あまりそういうことは考えないようにとも思っています。

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──チームワークはバッチリですか?
大竹 はい! 女三人で男共に「しっかりしろ〜!」みたいな感じで声をかけます(笑)。
──今回、CDも出されたということで。
大竹 ピアフの曲のCDとコンサートがあるんですが、CDはCDで音楽として1曲、1曲なので、やっぱりこの舞台(で歌うの)とは違う感じです。でも梅ちゃんも聞いてくれて。
梅沢 とっても良かったです。違っていてね。
大竹 そう、舞台とは違う歌い方で。でもピアフの歌というのはそれだけ皆に愛されるんだなというのをすごく思います。何十年も前の歌なんだけれども全然古くないし、悲しい歌でも力強いので聞いていて勇気をもらえるのを感じます。
──コンサートツアーは兵庫で追加公演も出たということで。
大竹 そうなんです。ありがとうございます(拍手)。でも今はこの舞台のことで頭がいっぱいで、1日、1日をね、梅ちゃんが言った言葉で「舞台に命を懸けるまではできないけれども、命を削るくらいのことは毎日」ってね。
梅沢 お芝居って完成はないから、だから毎日頑張らないといけないですし、新しい発見もありますから。


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──4演目をご一緒なさって大竹さんとはいかがですか?
梅沢 毎日毎日ライブ感がある方なんで楽しいです。決めておかなくてもその場で起こることもあって、毎日新しい場面ができていると思います。
──親友役ですよね?
梅沢 売れない娼婦なので、こんなに汚い恰好で申し訳ないのですが(笑)。
──大竹さんの魅力は?
梅沢 本当に命懸けですよ、いつも。だから悩むし、疲れるし、でも頑張るという熱があります。「まぁいいか」(※大竹が朝日新聞紙上で連載中のエッセイのタイトル)ではなくて、頑張るって言ってますね。

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──彩輝さんからご覧になっては?
彩輝 芝居は、おこがましいかも知れませんがとてもチャーミングで、魅力的で惹きこまれる部分があって、それは魂から演じられているところと、普段からの可愛らしさというところがあると思います。
──彩輝さんご自身は4演目でいかがですか?
彩輝 今回改めて自分の中で構築してきた部分もありますから、今はちょっと緊張しています。
──さっきおっしゃった女三人でコミュニケーションなどは?食事会なども?
梅沢 やったわね。
大竹 結構行ったね。あとは男共も連れていってあげたり(笑)。最初はやっぱり初めての人などは、女三人が怖いみたいで近寄れない感じがありましたが(笑)、今は大丈夫になりました。

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──笑福亭鶴瓶さんの息子さん(駿河太郎)が初めて参加されましたが、上達ぶりは?
大竹 それは皆一緒なんです。皆そうやって一生悩む仕事なので。
梅沢 色々な役をやるシーンがありますから、それを楽しんでねとは言いましたね。
──舞台の上でのラブシーン、裸になるシーンもあるそうですが。
大竹 彼にはね。私は裸になりません(笑)。
──キスシーンについては?
大竹 私は別に…向こうはどう思っているかわかりませんが(笑)。でも綺麗なシーンですから、私は大好きなシーンです。
──製作発表会見以降お父様の鶴瓶さんとお話されたりはしましたか?
大竹 別件でお会いしたことはありましたが、舞台に関してのお話はしませんでした。でも「観にいかなければ」という風にはおっしゃってくれていました。

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──改めて見どころは?
大竹 ピアフの時代、戦前と戦後、また人を愛するということ、愛の物語など、人として基本的なものがいっぱい詰まった話しです。やっぱりあとはエネルギーでしょうか。1場面、1場面本当に短いんですけれども、それを役者が創り上げていくエネルギーを観て頂きたいです。
梅沢 今までご覧になったお客様が「エネルギーをもらった」とおっしゃってくださるので、今回ももっと渡せたらなと思います。
彩輝 演出の栗山(民也)さんが「動物的な人間の生き様、人生をそれぞれが鮮烈に生きているということを皆で感じたら、魂が伝わる」とおっしゃっていらしたので。
大竹 「全てが電子化されていって、何も感じなくなっている若い人が多いから」と話されていて、そうじゃないものを作品から感じて「動物的に生きろ」とよくおっしゃいますね。
──素敵なナンバーが多いですが、どの曲がお好きですか?
大竹 「私の神様」とか「水に流して」が好きですね。

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公演情報〉
『ピアフ』
作◇パム・ジェムス
演出◇栗山民也 
出演◇大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なお、宮原浩暢(LE VELVETS)、上遠野太洸、川久保拓司、大田翔、上原理生、駿河太郎、辻萬長、万里紗
●11/4〜12/1◎シアタークリエ(東京)
〈料金〉11,500円(全席指定・税込)
〈キャンセル待ち受付〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)

全国ツアースケジュール
●12/4◎JMSアステールプラザ大ホール(広島)
〈お問い合わせ〉TSS事業部 082-253-1010
●12/11〜12◎レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール(香川)
〈お問い合わせ〉県民ホールチケットセンター 087-823-5023
●12/15〜17◎森ノ宮ピロティホール(大阪)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888





【取材・文・撮影/橘涼香】



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食べることの大切さと心の交流の美しさ ミュージカル『深夜食堂』上演中!

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国境を超えて世界中で愛され、第39回日本漫画家協会賞大賞を受賞した安倍夜郎の『深夜食堂』。ドラマ、映画も大ヒットを記録したこの人気作品が心温まるミュージカル作品となって、新宿シアターサンモールで10月26日から上演中だ(11日まで)。

日本で生まれ、メディアミックスの人気作品となった『深夜食堂』はお隣の国韓国で初ミュージカル化がなされた。脚本は第2回「韓国ミュージカル・アワーズ」で脚本賞を受賞したジョン・ヨンが担当。作曲は、日本でも話題となった『キム・ジョンウク探し( 『Finding Mr.DESTINY)』『オー!あなたが眠っている間に』など韓国ヒット作の常連となっているキム・ヘソンが担当。今回の公演は謂わばその逆輸入となる上演で、演出は重層的でミステリアスな作風と同時に、人間模様を細やかに描き分ける荻田浩一が手がけ、マスター役の筧利夫をはじめ、多彩なジャンルから集まったキャスト陣が、深夜にひっそりと開店する「めしや」に集う人々を、ユーモアとペーソスを加えて演じている。

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【STORY】 
深夜0時、看板もないその食堂は静かに店を開ける。メニューは豚汁定食だけだが、勝手に注文すれば出来るものは出してくれる。タネも仕掛けもないそんなマスターの素朴な料理を求めて、今日も「めしや(深夜食堂)」には、大勢の常連客が、それぞれの想いの中で、心の拠り所になるメニューを注文していく……
 
舞台は上手に「めしや(深夜食堂)」の店内。下手に夜の街のネオンというワンシチュエーションの中で進んでいく。様々な人の出入りはあるし、そこではケンカも、恋も、親子の情も、悲しい思い出も語られるが、決して派手なことは起こらない。それでも登場人物それぞれが抱える孤独、人のぬくもりを求める心が、大笑いしながら客席に共振していく様が見事だ。およそミュージカルらしからぬ筋立てだと思うのに、不思議なほどどのナンバーも世界観から浮くことなく、場面を飛翔させ、また何事もなかったかのように「深夜食堂」の店内に収れんされていく様は、ミュージカルならではの喜びに満ちている。原作はもちろん、様々なメディアで展開されているこの作品がミュージカルとして成立すると信じた、韓国のクリエーターたちの慧眼に驚かされるし、その「翻案ミュージカル」を生まれ故郷の日本の感覚に親和させた、荻田浩一の丁寧な仕事ぶりも光った。

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そんな「深夜食堂」で常連客を迎えるマスターを演じる筧利夫は、過去に何か大きな傷を負っていることが明らかで、だからこそ誰がどんな事情を抱えていても、黙々と料理を差し出すマスターを、飄々とした佇まいの中で演じている。台詞の声に独特の味わいと軽やかさがあり、それがミュージカルナンバーのソロで声を張った時のパワフルさとのよい対比を生んでいて、マスターの奥深い人物像がより一層表現されていた。動きの決して多くない中で、筧が放つ存在感が作品の要になっている。
 
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マザコンで、ストリッパーのマリリンにぞっこんの忠の藤重政孝は、一見およそ頼り甲斐がないようでいて、芯に揺るぎないものを持つ男を巧みに表出している。外見がカッコ良くなってしまうと違ってしまう忠を、思い切りよく具現化していて尚、母親に向ける眼差し、マスターに敢えて過去を尋ねる心根が実にカッコいい。歌唱力にも秀で、本人はもちろんキャスティングの妙に喝采だった。

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ゲイバーのママ小寿々の田村良太は、正直に言うとはじめにキャスティング表を見た時に、歌唱力抜群の若々しい田村が初老のゲイバーのママ役?と、二度見したほど驚きがあったのだが、初老という設定こそややぼかしていたが、舞台では実にしっとりとした落ち着きと、恋に一途な想いを表現した小寿々になりきっていて、これはもう脱帽もの。もちろん持ち前の歌唱力も活かされ、自分からは距離のあっただろう役柄に果敢に挑戦し、大きな成果を納めた田村に敬意を表したい。

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小寿々が恋するヤクザ剣崎竜の小林タカ鹿は、甘いマスクと抜群のプロポーションを駆使して、仁義を守り、強面だが心優しいヤクザをキリリと決めて演じている。こういう人物が突然歌い踊るのがミュージカルならではの可笑しみで、小林が大真面目だからこそ面白い効果を生んでいる。他にも多彩な役柄を演じ、時にはしばらく小林だと気づかなかったことさえあるので、是非注目して欲しい。

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剣崎の舎弟のゲンの碓井将大は、こういう役柄にありがちの虎の威を借る狐の小物さをふんだんに出しつつ、決して嫌味にならない可笑しみを醸し出して楽しめる。この人も他にもかなり印象的なキャラクターを演じ分けていて、その早替わり、変身の妙も楽しい。

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忠の永遠のマドンナ、マリリン松嶋のエリアンナは、ストリッパーという職業を天職だと信じ、プライドも実力も持ち合わせている女性を堂々と活写している。好きな人が変わる毎に本人の食べ物の嗜好も変わるという一途さもあって、エリアンナのパワフルボイスとチャーミングさが共に活かされた好演だった。

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路上で歌うシンガーソングライター千鳥みゆきのAMI(アミ)は、この役柄に必要不可欠な透明感が全身から感じられるのが何よりの魅力。ねこまんまが食べたいという彼女の思い出の味が、胸に迫る展開をよく支えていた。
 
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深夜食堂にいつも三人でやってきてお茶漬けを注文する「お茶漬けシスターズ」の「鮭」の谷口ゆうなは、ダイエットしなければ!という強迫観念に常にかられながら、美味しいものの誘惑に勝てないという役柄を、なんとも愛らしく演じている。豊かな歌唱力で食べることの幸福と誘惑を歌う姿は感動ものだった。

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同じくお茶漬けシスターズの「明太子」の愛加あゆは、この人が運命の人を待ち続けていて行き遅れているということは、よっぽど理想が高いに違いない!と見た傍から思わせるキュートさで、ドライな物言いとのギャップが面白い。宝塚時代に相手役だった壮一帆と、大げんかのシーンもあり、女優同士としての二人の相性の良さも再確認できるのが嬉しい。

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その「お茶漬けシスターズ」の「梅」の壮 一帆が、三人の中でも特に強烈な「いつか王子様が」思考を持ち合わせた女性を、嫌味なく思いっきりよく演じていて清々しい。愛加との言い合いでむしろ受け手になっているのも面白いし、二人が仲直りにいつも互いが頼んでいたお茶漬けを頼み合う姿にもグッとくる。元トップコンビが信頼感のある女優同士として互いにぶつかり合っている姿には、こちらも幸福にしてもらえる力があった。

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全体に、都会の片隅にそれぞれの生活には立ち入らず、でも1人ではない場所「深夜食堂」の存在が温かく、ミュージカルという演劇形態の懐深さと、人間賛歌が感じられる舞台になっている。尚、観劇中にお腹が空くこと請け合いの仕掛けもあるので、観劇帰りに大切な誰かと飲んだり食べたりもとても素敵だと思う。そんな食と心のふれあいを感じられる素敵なミュージカルだ。
 
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〈公演情報〉
AD深夜食堂
 
ミュージカル『深夜食堂』
原作著作◇安倍夜郎「深夜食堂」(小学館)
Book&Lyrics by JEONG, YOUNG 
Music by KIM, HAESUNG
演出◇荻田浩一
日本語上演台本・訳詞◇高橋亜子
出演◇筧利夫 
藤重政孝 田村良太 小林タカ鹿 碓井将大 エリアンナ AMI(アミ) 谷口ゆうな 愛加あゆ 壮 一帆
演奏◇熊谷絵梨(Pf)、相川瞳(Perc.)、中村康彦(Gt.)、中村潤(Vc.)
●10/26〜11/11◎新宿シアターサンモール
〈料金〉8,200円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉info@meshiya-musical.com
〈公式HP〉http://meshiya-musical.com
〈公式ツイッター〉@meshiya_musical



【取材・文・撮影/橘涼香】





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