えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

宝塚ジャーナルは2019年2月20日に引っ越しました。
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宝塚公演レビュー

21世紀ならではのヴァンパイア誕生!宝塚宙組『ヴァンパイア・サクセション』

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現代を生きる耽美ではないヴァンパイアを描いた、真風涼帆を中心とした宝塚宙組公演ミュージカル・プレイ『ヴァンパイア・サクセション』が、KAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(23日まで)。

永遠の命を持ち、夜毎美女の生血を求めてさすらう吸血鬼=ヴァンパイア伝説は、数々の物語を生んでいて、これまでに宝塚でも取り上げられている。と言うのも、本来の成り立ちに幻想性と虚構性のある宝塚の男役にピッタリの題材だからなのだが、今回石田昌也が描いたヴァンパイア像は、そんな耽美でシリアスでファンタジーなイメージを裏切るかなりの変化球。その意外性が、作品の最大の眼目となっている。
 
物語は、現代2015年のニューヨークからはじまる。この時代に蘇ったヴァンパイア、シドニー・アルカード(真風涼帆)は、およそ700年の間、眠りと目覚めを繰り返すうちに「退化という進化」を遂げ、人の生き血を必要とすることもなくなり、かつては最大の敵であったヴァンパイア研究家の末裔ノイマン・ヘルシング(愛月ひかる)と友情を育み、新聞記者兼小説家であるノイマンに、700年間見聞きしてきた歴史のあれこれを、小説のネタとして提供しながら生活を営んでいた。ある日、ノイマンの出版記念パーティを兼ねたハロウィン・パーティに参加したシドニーは、歯科医を目指す女子大生ルーシー・スレイター(星風まどか)に出会い、元彼で幼馴染のランディ・ケンパー(和希そら)からのアプローチを持て余していたルーシーの、恋人を装う役目を引き受けてしまう。9.11のテロ事件で両親を失ったトラウマを抱えつつ前向きに生きようとするルーシーと行動を共にするうちに、限りある命の輝きに惹きつけられるシドニー。そんな彼に、生死の狭間を彷徨う幽霊のカーミラ(伶美うらら)は、ヴァンパイアが人間になる条件は「誰かを真剣に愛し、愛されること」だと告げる。永遠の命か、限られた命か。心揺れるシドニーだったが、一方彼の背後には、永遠の命の謎に迫るES細胞研究家のジェームズ・サザーランド(華形ひかる)をはじめ、永遠の命を軍事利用しようとする極秘の国家プロジェクトが暗躍して……。
 
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現代を生きるヴァンパイアが、生き血を必要としない体質に変化していて、人間との共生が可能になっている、という発想がまずよく考えられているのだが、更に、鏡に映らない、写真に写らない、日に当たれない、ニンニクが食べられないなどの「不便」を抱えて人間を羨ましがっているあたりは、作品がコメディとして定義されているならではのことだろう。とにかく、舞台にはポップで軽いノリの台詞がポンポンと飛び交っていて、軍事利用を目的として永遠の命を求める人間側の、よく考えたらかなりシビアな部分を覆い隠している。これが、元々スマートフォンや、SNSなどの現代ならではのツールや、9.11などの現実の問題とは、決して相性が良いとは言えない「宝塚」の虚構性と題材とをつなぐ緩衝材となっていて、ヴァンパイアものの謂わば定番のテーマでもある限りある命の美しさと、今を懸命に生きることの尊さに帰結する展開は実にハートフルだ。中で、ここをもう1歩押せば、もっとラブロマンスの香りが際立つだろうに、と思わせるところで、笑いに走る部分も散見されるのだが、それが石田昌也という作家らしいある種の照れを感じさせて微笑ましくもある。作品がロマンスに真っ正直にならずとも、宝塚の男役と娘役という虚構の美があれば、十分舞台はロマンチックになることを、この作家は熟知しているのだろう。相当にひねったヴァンパイアものの発想を含めて、あらゆる意味で石田ワールドならではの作品になっていると言えよう。

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そんな作品で、人間への羨望を抱えながら生きるヴァンパイア、シドニーを演じた真風涼帆の悠然とした男役らしさが、役柄によく活きている。元々常に舞台に大きさを感じさせて、おそらく世に言う耽美でシリアスなヴァンパイア役も、個性にピッタリなはずの人だけに、人と共生することに、様々な不便とちょっとした困惑も抱えているという、シドニーへの説得力が全身からにじみでる演じぶりが見事だ。永遠の命か、限りある命かの悩み、また、ヴァンパイアとしての本能が目覚めかける描写のコントラストも効いていて、作品が敢えて描こうとしていない耽美な香りが、本人から立ち上るのは天晴れの一言。舞台のセンターが本当に似合う実にスターらしいスターとして、今後がますます期待される抜群の存在感だった。
そのシドニーに恋する女子大生ルーシーを演じた星風まどかは、宙組のというより宝塚全体でも際立つ抜擢が続く期待の新進娘役。当然ながらあまりにも可憐で、女子大生というより高校生に見えるほどだが、700歳のヴァンパイアと、うら若き乙女という今回の作品の設定には相応しいキャスティングと言えそうだ。当然ながらまだ似合う役柄が限られる中で、ひたむきにルーシーと向き合う姿が、作品のテーマに重なっていたのは、石田の起用法の賜物でもあるだろう。ますます研鑽を積んで欲しい。

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ヴァンパイアVSヘルシング教授という、ヴァンパイアものの大定番を180度ひっくり返して、ヴァンパイアの親友として登場したノイマンの愛月ひかるが、男役としてぐんぐん伸びている様には目を惹きつけられる。2枚目役はもちろん、かなり思い切った色の濃い役柄にも果敢にチャレンジしてきた実績が、今まさに花開こうとしていて、このノイマン役も硬軟のさじ加減が絶妙。元々姿の良さはとびっきりだけに、どこまで飛躍していくのかが楽しみだ。また、ヒロイン経験も豊富な伶美うららが、今回はシドニーにだけ見える幽霊カーミラとして登場して、舞台をよく支えている。メインとなるのは相当に派手な衣装だが、それでも品が悪くならないのはこの人の輝かしい美貌故。やはり、特別な華やかさを備えている娘役であることが1歩引いてみて際立つので、今後も大切に遇して欲しい。また、ルーシーの元彼として登場したランディの和希そらの溌剌とした演技に勢いがある。星風との並びも最もよく似合っていて、この2人で青春ものも良いのではないかと思わせた。

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また、ヘルシング教授に変わって、ヴァンパイアを追う存在として登場した華形ひかるは、専科に異動以来、華々しい好助演を連発しているが、今回も深い思いとペーソスを感じさせる演技で魅了する。さほどに多くはない出番で終幕のクライマックスを支えたのは、華形なればこそだろう。活きの良い熱いダンサーとして知られた人が、ここまで演技巧者になっていることに感動を覚える。もう1人、専科から特出の京三沙の老女役も、限りある命の尊さを静かに伝える貴重な存在が際立っていた。こうした専科勢の好演と共に、美風舞良、松風輝、美月悠、春瀬央季ら、宙組の貴重な人材も適材適所で活躍していて、バランスの良い座組になっているのが何より。異色のヴァンパイアものとして、作品を出演者全員が輝かせているのが印象に残った。


〈公演情報〉
宝塚宙組公演
ミュージカル・プレイ『ヴァンパイア・サクセション』
作・演出◇石田昌也
出演◇真風涼帆 ほか宙組
●5/17〜23◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席7,800円、A席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)



【取材・文・撮影(1幕)/橘涼香 撮影(2幕)/岩村美佳】



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原作世界と宝塚歌劇の見事な融合 宝塚雪組公演『るろうに剣心』

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和月伸宏の大人気コミックス『るろうに剣心』の宝塚バージョンである、宝塚雪組公演・浪漫活劇『るろうに剣心』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ。(5月8日まで)

1994年、週刊少年ジャンプにて連載開始以来、シリーズ累計売上5900万部を超える大ヒットコミックスとなった『るろうに剣心』は、アニメ化、また実写映画化と、多彩なメディアミックスも展開。そのいずれもが、大きな支持を集め、日本のみならず世界中で愛され続けている。今回はそんな作品の、初のミュージカル化、宝塚バージョン化であり、早霧せいなと咲妃みゆを中心とした雪組が、宝塚大劇場での大ヒット上演に続いて、満を持しての東京公演となった。

動乱の幕末に伝説の人斬り抜刀斎として恐れられ、明治維新後は「不殺」を誓い、あてのない旅を続ける流浪人・緋村剣心(早霧せいな)。ある日剣心は、東京に「神谷活心流・緋村抜刀斎」を名乗る辻斬りが横行していることを知り、流儀を汚されたとして、抜刀斎を追う神谷活心流の師範代神谷薫咲妃みゆ)に出会う。共に名を騙られた2人は、協力してことを納め、それをきっかけに剣心は神谷道場に居候をすることになる。そこで、新時代に様々な想いを抱えながら生き抜く人々とふれあい、仲間を得、また薫の存在にも我知らず心の傷を癒されてゆく剣心。だが、そんな出会いの中に、かつて幕末の京都で対峙した因縁の相手である、元新撰組隊士、加納惣三郎望海風斗)がいたことから、事態はまた大きく動きはじめ……。

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長大な原作漫画を宝塚の舞台に乗せるにあたり、脚本・演出を担当する小池修一郎は、主には「東京編」と呼ばれる、原作の導入部分を下敷きにしている。だが、まずその中にも、原作世界では後に明かされるエピソードである、剣心の過去、人斬抜刀斎と呼ばれた男が、「不殺」の誓いをたてるに至る想いと、頬の十文字傷のいきさつまでを、物語の流れの中に巧みに挿入していて、実にすっきりと筋を通している。特に、幕末の動乱から、明治維新に至る時代の流れ、更に今回宝塚バージョンのオリジナルキャラクターとして登場した、作品のキーマンである加納惣三郎と剣心との因縁までを、冒頭からほぼ15分間という怒涛の流れの中で描いた展開は、目にも鮮やかだった。そこから、1幕のほとんどは、原作お馴染みの人気キャラクターの登場と紹介を中心に描かれてゆくが、1幕のラストから2幕にかけて、加納の館である「プチ・ガル二エ」を中心に物語が展開していくと、一気に舞台は宝塚バージョンならではの世界へ。明治の文明開化の時代に日本に押し寄せた西洋の香りという形で、自然に宝塚ならではの華やかな世界と、原作世界を融合させた手腕が光る。中でも、加納なくしては物語が進まないストーリー運びでありながら、原作世界の人気キャラクター達の行動と、剣心の生き様とが全く浮かずに両立しているのは、数多くの人気海外ミュージカルの宝塚化に大きな功績を残してきた小池ならではの技だろう。単純に人気作品を宝塚で上演したにとどまらず、宝塚ならではのミュージカルに昇華させた力量は、さすがの一言だ。

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そんな作品の中で、緋村剣心として躍動した早霧せいなが素晴らしい。この人の雪組トップスターとしてのお披露目作品だった『ルパン三世』では、人気キャラクターの再現率に目を瞠らせたものだが、今回の剣心役は、その再現率にとどまらず、常にスターとしての明るさを保ちながら、どこかで張りつめた弦のような鋭さも併せ持つ、早霧せいなその人の個性までを、役柄に投影させることに成功している。人斬り抜刀斎としてのヒヤリとした刃のような表現と、流浪人・緋村剣心としての、どこかコミカルさもあるほのぼのとした温かいキャラクターの表現。それらの演じ分けの見事さには、早霧の持つ多面体の魅力が活きていて、更に日本物の豊富な経験による立ち居振る舞いとが、宝塚ならではの剣心を生み出している様は圧巻だった。トップ就任以来破竹の勢いで進んでいる人だが、また1つ大きな代表作に出会ったようだ。

対する神谷薫の咲妃みゆは、常に役への憑依を感じさせる演技力の中にも、今回は快活な明るさを前面に出して、役柄をよく表出している。剣心に惹かれていく娘心のひたむきさも真に迫り、正面からラブロマンスを描いた作品ではない中で、きちんと宝塚のヒロインとして立てていたのは、咲妃の地力と、更には早霧&咲妃コンビの結束の固さの表れと言えるだろう。また、二番手男役の為に、つまりは望海風斗の為に書き下ろされたキャラクター加納惣三郎の望海は、幕末から明治の時代にある種の狂気を持って生き抜く男の妄執を巧みに表して目を奪う。他の登場人物がほぼ、原作で高い人気を誇っているキャラクターなだけに、1人拠り所は自分だけという形は、逆に困難な面もあったと思うが、持ち前の歌唱力を駆使して、宝塚版ストーリーを動かした力量は大きなものだった。

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その原作の人気キャラクターたちでは、斎藤一の彩風咲奈が確実に一皮剥けた存在感を示して、スターとしての大きさを獲得しているのが光る。武田観柳の彩凪翔も思い切った悪役の造形で気を吐いているし、相楽左之助の鳳翔大は、抜群のプロポーションとキャラクターが役柄にベストマッチ。高荷恵の大湖せしるは、ミステリアスな美女役でまさに有終の美を飾っているし、四乃森蒼紫の月城かなとは、その冴え冴えとした美貌がまるで原作から抜け出したかのよう。他にも、人斬りであった過去の幻影として剣心の心の闇に浮かび上がる、剣心の影の永久輝せあ、もうけ役の少年明神弥彦の彩みちるなど、多くの人材が大活躍。もちろん、専科の夏美よう、美城れんらの好助演をはじめ、雪組のベテランから新進までのメンバーが、作品の中に多彩に躍動しているのが頼もしかった。

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何よりも、雪組のスター達の層の厚さが、個性的なキャラクター満載の原作世界を支え、更に宝塚作品として輝かせているのが嬉しく、充実の公演が展開されていることを喜びたい。

初日を控えた4月1日、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと、咲妃みゆが囲み取材に応じた。

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まず早霧が「本日はお忙しい中、朝早くからお集り頂きありがとうございます。早霧せいなでございます。よろしくお願いします」。また咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして誠にありがとうございます。咲妃みゆでございます。よろしくお願いします」と挨拶。記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚版ならではの魅力を問われた早霧が、アニメとも映画とも一味違う宝塚ならではの華やかさを挙げると、咲妃も宝塚版オリジナルのストーリー展開のスピーディさを挙げて、共に作品への手応えは十分の様子。また、早霧が演じていて大切にしていることとして、人斬りであった時と、流浪人である剣心の二面性をハッキリ描くことに注力していると真摯に語ると、咲妃が、早霧のその二面性の表現の素晴らしさを感じると共に、薫としても時折影が差す剣心に気づきながら、普段の温かい顔を見せてくれることで、惹かれる気持ちが強くなると、役柄の心理を丁寧に説明。2人の演じぶりの中に、2人ならではの呼吸が育っていることが巧まずして感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、5月9日発売の演劇ぶっく6月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!

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 〈公演情報〉
宝塚雪組公演
浪漫活劇『るろうに剣心』
原作◇和月伸宏「るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜」(集英社ジャンプコミックス刊)
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇早霧せいな 咲妃みゆ ほか雪組
●2016年4/1〜5/8◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉03-5251-2001



【取材・文・/橘涼香 撮影/大倉英揮】



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龍真咲の魅力と個性が煌めくステージ『Voice』

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宝塚月組トップスター龍真咲の多面的な魅力を詰め込んだ、龍真咲コンサート『Voice』が、赤坂ACTシアターで上演中だ(31日まで。のち、大阪梅田芸術劇場シアタードラマシティで、4月8日〜20日まで上演)。

宝塚100周年の寿ぎを牽引した、最後のトップスターである龍真咲は、本年9月4日をもって宝塚歌劇団を退団することをすでに発表していて、この作品が宝塚スターとしての龍の、最後のコンサートとなる。そんな機会に相応しく、月組精鋭メンバーと共に作りだされたステージの1幕は、さながら龍真咲というスターの、壮大なサヨナラショーといった趣があった。

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舞台は、遠い未来。そこでは人々から歌や踊り芝居という自由な娯楽は失われている。そんな時代で考古学を研究する1組の男女ルリ美弥るりか)とミツキ海乃美月は、廃墟のような建物に迷い込む。実は古い劇場だったそこには、未来に「声」を伝えたいと願った人々が遥か昔、密かに作った「Voice Robot」たちが眠っていた。歌や踊り芝居を葬った人間を敵とみなしているロボットたちは、自分たちの存在を知ってしまった2人を排除しようとする。だが、その時ロボットたちのリーダーMASA-O龍真咲が現れ、2人が「声」を取り戻し、歌うことができたら、仲間と認めようと提案する。けれども歌も踊りも芝居も知らない2人には、容易に歌うことはできない。「せめて見本を見せて欲しい」と懇願する2人に、MASA-Oをはじめとしたロボットたちは、一夜限りのショーを開催することになって……

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こうしたミュージカル仕立ての設定から、ステージには龍の懐かしい、また輝かしい軌跡を次々に思い起こさせる数々の歌が登場する。ここで披露されるのは、大劇場で、中でも龍がトップスターとして演じてきた作品からのナンバーがほとんどなのだが、まず目を瞠らされるのは、その演目の多彩さだ。『ロミオとジュリエット』『明日への指針〜センチュリー号の航海日誌』『PUCK』『1789〜バスティーユの恋人たち』等々をはじめとして、珠玉のショー作品まで。これらのラインナップから、龍真咲というスターが、どれほど多くの名作に取り組み、構築し、その魅力を輝かせてきたかが一望できる。そこにはあまりにも懐かしい龍のこれまでが詰まっているし、更に驚かされるのは、それらが龍の個性的な歌声によって、他の誰とも違う龍真咲だけの色合いを有していることだ。それはどちらかと言えば全体がナチュラルな方向に向かっていると思える近年の宝塚スターの中で、稀有な色濃さを示してきた、龍ならではの魅力が如実に現れた舞台となっていて、そこで煌めき歌い踊る龍の姿はただまぶしいばかりだ。これは、龍真咲というスターに思いを持つすべての観客が、涙なくしては見られないステージだし、改めて龍の歌声、タイトルの『Voice』にフィーチャーした作・演出の小柳奈穂子の着眼点にも敬服させられる。モノトーンで統一された世界観もスタイリッシュで美しい。

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そんな、感動の1幕から一転、龍の関西人らしいノリの良さと、ビビッドな色合いが弾ける2幕は、様々な要素が満載。見事な早替わりによって、龍が大劇場以外の、所謂別箱で演じてきた作品群を振り返るコーナーもあるが、ここも涙、涙の1幕とは全く違う抱腹絶倒な展開だし、このアイディアを思いついたのは一体誰!?と問わずにはいられない、宝塚ファンなら爆笑すること間違いなしの、大パロディ小道具もあって、笑い過ぎて涙が出てしまうほど。観客参加型のコーナーも含め、まさに何でもありのたたみかける展開から、徐々にビートが加速して、ラストの盛り上がりに到達する流れの良さが圧巻だった。龍のスター性と、キラキラ感と、サービス精神とが、実に巧みなハーモニーとなって、作品を支えている。

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それでいながら特徴的なのは、共演のメンバーそれぞれにもきちんと見せ場が作られていることだ。1幕でストーリーを語った美弥と海乃はもちろん、上級生から下級生まで1人1人の出演者が大スクリーンで紹介され、しかもそれが単なるメンバー紹介に終わらず、龍を含めた様々な組み合わせで、入れ替わり立ち代わりを繰り返しながら巧みに披露されていく構成には感心した。これは、トップスターとしての日々を燃焼してきた龍が、組のメンバーに送る温かいまなざしの故だろうし、出演した1人1人にとって、組の未来を築く為の優れた経験になったに違いない。美弥、紫門ゆりや、千海華蘭、朝美絢の女役のコケティッシュさや、関西人をカリカチュアして演じた貴澄隼人の思い切りの良さなど、新しい発見もあり、龍の同期生である萌花ゆりあ、綾月せりとの、宝塚ならではの交流もあり、実に多彩でユニーク。思えばそれは、龍その人の個性そのままに通じるステージと言えるのだろう。まるでスターを鏡のように映し出した、見事な作品となっていた。

その中で、龍が熱く、濃い魅力を更に加速させる強いエネルギーを放っていることが嬉しく、龍真咲の時代の華麗なるフィナーレに向けた、壮大なパーティにも似た迫力のステージが体感できる仕上がりだった。



〈公演情報〉
宝塚月組公演
龍真咲コンサート『Voice』
作・演出◇小柳奈穂子
出演◇龍真咲 ほか月組
●3/26〜31◎赤坂ACTシアター
〈料金〉S席7,800円 A席5,000円
〈問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
●4/8〜20◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉S席7,800円
〈問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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轟悠によって広がる宝塚の可能性。花組公演『For the people─リンカーン 自由を求めた男─』

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奴隷解放を成し遂げ、今尚アメリカにおける最も偉大な大統領と呼ばれる、エイブラハム・リンカーンの生涯を描いた、宝塚花組公演ミュージカル『For the people─リンカーン 自由を求めた男─』が、KAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(10日まで)。

アメリカ合衆国第16代大統領であるエイブラハム・リンカーンの、あまりにも有名なゲッティスバーグ演説「人民の人民による人民のための政治」を耳にしたことがないという人は、おそらくいないのではないか。この作品は、人は生まれながらにして平等であり、肌の色、人種に関わらず、すべての人々が人間としての尊厳を与えられるべきである、という崇高な信念に基づいて行動したリンカーンの、時代と格闘した激動の人生を、今や、宝塚の象徴的立場にある稀代の男役轟悠を得て、若手作家の原田諒が描き出した意欲作だ。

物語は1841年の、アメリカ合衆国イリノイ州スプリングフィールドからはじまる。州下院議員で弁護士のエイブラハム・リンカーン(エイブ・轟悠)は、今日も無実の罪で訴えられている黒人を助けるべく法廷に立っていた。見事な弁論で無罪を勝ち取ったエイブだったが、黒人というだけで不当な扱いを受けるアメリカ合衆国の奴隷制度そのものをなくす以外には、この現状を打破する道はないとの思いを新たにする。
そんなある日、エイブは地元社交界のパーティで、トッド家の令嬢メアリー仙名彩世と知り合う。メアリーは奴隷制度を容認する民主党気鋭の政治家スティーブン・ダグラス瀬戸かずやからの求婚を受けていたが、黒人メイドの窮地を救ったリンカーンの姿に好意を寄せ、またエイブも誇り高いメアリーに惹かれていく。
折から、マサチューセッツでは黒人奴隷解放運動家フレデリック・ダグラス柚香光が、無許可で集会を開いたという咎で連行される事件が起きていた。やはり奴隷制はアメリカ全土の問題だと再認識したエイブは、ホイッグ党から国政を目指す決意を固め、その志に共感する弁護士仲間のジョン・スチュアート高翔みずき、ウィリアム・ハーンドン鳳真由、助手のエルマー・エルスワース水美舞斗、そして生涯の伴侶となったメアリーの協力を得て、ワシントンD.Cに向かう。だが、折も折アメリカとメキシコの間で戦争が勃発。連邦議会で激しく対立したエイブとスティーブンだったが、更なる奴隷の投入によって領土を広げ国力を高める政策を掲げる民主党に国民の支持は集り、ホイッグ党は弱体化。エイブは1度は国政から身を引くことを余儀なくされる。だが、黒人奴隷解放運動を続けるフレデリックと出会い、「あなたこそが我々の希望の星だ」との想いを託されたエイブは、共和党を立ち上げ再び国政へ、更にはホワイトハウスを目指して邁進する。だが、奴隷解放を志すエイブの台頭は、豊かな農地と財産を維持する為に、奴隷制度を欠くべからざるものとしていた南部諸州の離反を招き、アメリカ合衆国は国を二分する南北戦争へとひた走ってゆき……

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これまでも、バレエ・ダンサーのヴァーツラフ・ニジンスキー、戦場写真家のロバート・キャパ、大マフィアのアル・カポネなど、実在の人物に作品の題材を求めてきた原田諒だが、今回のエイブラハム・リンカーンには、当然ながら多くの展開を政治劇に費やす必要があるという課題があった。更に、黒人を奴隷として扱って来たアメリカ合衆国が、今も解決したとは到底言い難い人種差別問題に正面から取り組むことも不可欠で、これまで以上に宝塚の舞台でミュージカル化することの難しさが横たわっていたと思う。もちろん世間一般のイメージよりは遥かに、硬派な作品も取り上げてきているのが宝塚の歴史だが、単純にリンカーンと言えば誰でもが思い浮かべるだろう、豊かなあごひげを蓄えたビジュアルが、宝塚の二枚目スターに相応しいか?ということだけでも、困難は小さくなかったと思われる。
 
だが原田は、若き日のリンカーンの崇高な理想と、恋、挫折からの復活などにほぼ1幕を割くことによって、作品に主人公の成長物語としての爽やかさを表出することに成功している。特に後世伝えられところによると「悪妻」だったとの評価も聞かれるメアリーを、リンカーンの理想に共鳴し、苦難を共にし、主人公を愛するヒロインとして造形したことで、ロマンスの香りと、大統領の妻であるが故の悩みという、家族劇の側面も加味したのは、優れた効果になっていた。これまでどちらかと言えば、ヒロインを描くことは得手ではないのか?と感じさせてきた原田作品が、こうした題材の中にあってもきちんとロマンスを構築したことは、宝塚というフィールドで活躍する劇作家である原田諒にとっても大きな進歩だろう。主役に集中し勝ちだった作劇に、多彩な人物を活躍させることができているのも嬉しいことだ。
更に近年の原田作品では、もう1つの楽しみとも言える松井るみの装置とのタッグが今回も健在で、様々に可動する階段を用いたスピーディな展開が作品の怒涛のような流れを助けている。中でも、あっ!と言わされたラストシーンの階段の妙は、2階以上の席から観るとより美しいに違いない。秀逸な発想に拍手を贈りたい。

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そうした作家の成長を、受け留め支えたのが、作品を牽引する轟悠であったことは論を待たないだろう。奇しくも南北戦争を、南部の側から描いた宝塚の代表作の1つである『風と共に去りぬ』のレット・バトラーを、これも当たり役の1つとしている人だが、今回のエイブラハム・リンカーンで示した渾身の演技は、その当たり役をも凌駕するものに思われた。おそらくリンカーンその人が、苦境の中でも生涯貫き通した崇高な理想への情熱に通じるものを、宝塚の象徴たる轟自身もまた有しているのではないか。そう自然に想起させる、全編フルパワーの迫力と存在にはただ圧倒させられる。青年期の高揚も、戦いに挑み破れた苦難も、そこからの復活も、更には大統領であると同時に1人の父親であることへの苦汁も、すべての場面で轟悠の全身全霊の芝居には、魂を揺さぶられるし、それでいて男役の神秘、ダンディズムが崩れることがないのは驚異的だ。謂わばこれは、轟悠の、轟悠による、轟悠の為の芝居で、後半に登場する、前述したように二枚目男役には相当にハードルの高いあごひげ姿も美しく、この企画自体が轟あってこそ宝塚で成立したものだとの思いを新たにした。

その妻メアリーに扮した仙名彩世は、伝統的に上級生娘役の層が厚い花組の系譜を、今後引き継いでいくことが予見される実力派ぶりを披露。地域の花形として誇り高く美しい娘時代から、リンカーンと共に歩み、苦難の中でも彼を支え、ファーストレディとして、また1人の母として懊悩する姿に、健気さと同時に気高さがあるのが何よりもの美点。高い歌唱力も如何なく発揮し、ヒロインとして作品の華たりえていた。

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また、圧倒的な存在である轟悠に対して、花組男役陣の働き場が多いのもこの作品の特徴。自らも奴隷として半生を生き、黒人奴隷解放運動に身を捧げるフレデリック・ダグラスの柚香光は、さほどに多くはない出番の中で、実に鮮烈な印象を残している。題材が題材だけに、通常の宝塚公演よりも人種を表す黒塗りが濃いが、鋭利な刃にも似た美貌がその黒塗りに映えて、冒頭の手かせをはめられたダンスシーンだけで、特段の強いライトが当たる訳でもないながら、自身が発光しているかのような光を放つのには驚かされる。リンカーンに不屈の魂を与える人物としての説得力も十分の芝居で、作品のアクセントとなっていた。
リンカーンの生涯のライバルとなるスティーブン・ダグラスには瀬戸かずや。近年花組でその個性が着実に重用されていて、轟と四つに組むことが期待される役どころに果敢に挑んでいる。作品の中で、奴隷制度維持を訴えた民主党を代表してもいて、後半潔く時代の変換を認める姿に、後にアメリカ合衆国に黒人大統領を実現させたのも、女性大統領候補が大きく躍進中なのも、民主党なのだという、2016年、今現在へも自然に思いが馳せられる。これだけの大役の経験は瀬戸にとっても大きな糧となるに違いない。リンカーンの親友の弁護士ウィリアム・ハーンドンの鳳真由のおおらかで、真摯な役柄の造形、リンカーンの助手で、南北戦争最初の戦死者となるエルマー・エルスワースの水美舞斗の、柔らかな二枚目男役としての輝きが共に光る。また、それこそ『風と共に去りぬ』で、宝塚ファンならばお馴染みの名前だろう南北戦争南軍の将、ロバート・エドワード・リーの英真なおき、リンカーンの弁護士時代の上司ジョン・スチュアートの高翔みず希ら、ベテラン組の好助演に併せて、矢吹世奈が北軍を代表する軍人役で気を吐いたり、リンカーンの息子ボビー役の亜蓮冬馬など、若手の台頭も頼もしかった。

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何よりも基本的に、宝塚にとっては決して近くになかった題材を、轟悠以下、30名の出演者が果敢な体当たりで演じている姿が清々しく、轟悠の存在が宝塚の可能性を広げることを再認識させる力作となっている。KAAT神奈川芸術劇場に初登場した宝塚歌劇が、贅沢な劇場空間に相応しい、力強い作品を放ったことを喜びたい。


〈公演情報〉
宝塚花組公演
ミュージカル『For the people─リンカーン 自由を求めた男─』
作・演出◇原田諒
出演◇轟悠(専科)ほか花組
●3/5〜10◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席 7,800円、A席 5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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宙組が総力をあげて展開する充実の二本立て宝塚宙組公演『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』『HOT EYES!!』

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トップスター朝夏まなとが牽引し、宙組メンバーのパワーが結集する、宝塚宙組公演「シェイクスピア没後400年メモリアル」ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』と、ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(3月27日まで)。

ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』は、今尚、世界中でその作品が上演されていない日はないだろうとさえ思われる、演劇界の巨人、詩人であり、劇作家であるウィリアム・シェイクスピア本人の人生を取り上げたミュージカル。没後400年というメモリアルイヤーに合わせて、新進作家の生田大和が書き下ろしたオリジナル作品だ。

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16世紀末のロンドン。ペストの流行に怯える人々の間では、日常の困難をひと時忘れさせる演劇に熱狂が集まっていた。そんな中1本の芝居が上演される。その名は『ロミオとジュリエット』。脚本を手掛けたウィリアム・シェイクスピア
朝夏まなとは、この芝居に込めた若き日の妻アン・ハサウェイ実咲凜音との出会いを思っていた──。
時は遡り、6年前のストラットフォード・アポン・エイヴォン。劇作家となる夢を捨てきれず、革手袋職人の父親の意に背いて森で詩作にふけるウィリアムは、家の為の望まない結婚を強いられようとしている娘アンと出会う。ウィリアムの詩に興味を示したアンが、詩の朗読をはじめると行き詰まっていたウィリアムから言葉が泉のように湧き上がる。アンこそ自分の運命の人だと直感したウィリアムは、彼女に愛を告げ、その言葉の泉に魅せられたアンもウィリアムの想いを受け入れるが、その直後父親が理不尽に受けた屈辱を晴らそうと、ウィリアムは町で騒動を起こし永久追放の身となってしまう。バルコニーで互いの運命の悲劇を嘆く2人。だが、芝居を好む時の女王エリザベス1世美穂圭子)の為の一座を立ち上げようとしていた貴族ジョージ・ケアリー真風涼帆はウィリアムの才能を高く評価。2人に救いの手を伸べて結婚を許可し、ウィリアムをロンドンへと連れて行く。やがてジョージの下で劇作家として成功を納めたウィリアムは、女王との謁見も叶い、故郷からアンと息子を呼び寄せ、順風満帆に人生を送るかに見えたが、人の心を動かす彼の言葉を利用しようとするジョージをはじめ、貴族たちの思惑から、2人の間にも不穏な影が差し始めて……

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まず、演劇を志すものにとって神にも似た存在であろうウィリアム・シェイクスピアの華麗なる作品群を上演するのではなく、その本人を描こうとした生田の勇気に敬意を払わずにはいられない。何しろその存在が偉大すぎるし、更にこれだけ著名な作品たちの輝きに比して、作家本人の存在はほとんどベールに包まれている。甚だしくは現存する作品のすべてがシェイクスピアの手になるものではない?との説まであり、その制作年代すらが曖昧だ。つまりは、ほとんど何もわかっていないと言っても過言ではなく、この偉大な劇作家の人生を描くことは謂わば雲をつかむような話でもあって、これまでにもほとんど取り上げられてこなかった。

だが、生田はその何もわかっていないという点を逆手に取り、何でもありの想像の翼を広げた作品を書きあげることに成功している。何よりも面白いのは、シェイクスピアの人生に彼の作品をコラージュしたことだ。例えば、劇作家志望の青年ウィリアムが生涯の伴侶となるアンと出会うシーンは『ロミオとジュリエット』。劇作家として成功し多忙な日々を送る中で生まれたアンとの隙間に忍び寄る疑惑には『オセロー』。夫婦の絆の再確認には『冬物語』と、様々な作品の中でも最も有名な展開を、大胆にシェイクスピア本人の体験と重ね合わせている。もちろんこれはフィクションなのだが、演劇好きなら、更にシェイクスピアに詳しければ詳しいほど発見の多い、こんな作品が楽しくない訳がない。ドラマの展開はもちろん、二村周作の装置、特にシェイクスピア作品のタイトルを記したパネルなどは、思わず背景に見入ってしまったほどで、きっと天上のシェイクスピア本人も、微笑ましくうなづいてくれるのではと思える、作品の豊かさが嬉しい。この難しいチャレンジに打って出て勝利を納めた生田の手腕を高く評価したいし、芝居への愛がすなわち宝塚への愛につながることも、心地良さの所以だろう。

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中でもやはり、シェイクスピア本人を演じる主演の朝夏まなとの、どこか太陽を思わせる生来の明るさとパワーが作品に息づいている。反発していたはずの父親の為に憤ったり、口では冷たいそぶりをしていても、自身が成功を納めると父親の夢をかなえてやろうとしたり、とにかくこの作品のウィリアムは一言で言って「良い奴」で、それが朝夏の個性にピッタリと合っている。だから物語半ばで、アンに示す不審も「そんなことを言うときっと後悔するよ」が客席にストレートに伝わり、それはつまりラストの展開が読めることでもあるのだが、それが瑕疵になるどころか、大いなる魅力になるのが朝夏ならでは。実に溌剌とした主演ぶりだった。
対するアンの実咲凜音は、前作『王家に捧ぐ歌』で、大ヒロインのアイーダを演じた後なだけに、純粋な乙女を如何にも軽やかに演じている。冒頭と後半で息子をもつ楚々とした人妻というポジションになるが、こうした役柄はもうすでに手の内に入っていて、安心して観ていられる。リリカルな歌声の美しさも健在で、コンビの安定感が際立った。
シェイクスピアの才能を見抜き、その才能を愛すると同時に自らの野心にも利用しようとするジョージ・ケアリーの真風涼帆は、髭もよく似合い、色気もある万全の二番手男役として頼もしい芝居を披露。朝夏とは対照的に、どこか陰のある魅力の持ち主だけに、その立ち位置にミステリアスな香りがあるのが、役柄に更なる陰影を与えた。ジョージの妻エリザベスの伶美うららとの関係には『マクベス』を思わせる一面もあり、伶美のすさまじささえ漂う壮絶な美貌も手伝って、作品全体にとっても強いアクセントになっている。ジョージに同調する貴族たちサウサンプトン伯・ヘンリーの愛月ひかる、エセックス伯・ロバートの桜木みなとも、それぞれが個性的に役を演じて、スターとしての大きさを増していることが感じられる。

また、専科から特出のエリザベス1世の美穂圭子と、宮内大臣一座の役者リチャードの沙央くらまが、それぞれ大きな戦力として作品を盛り上げているのも見逃せない。美穂の位取りの高さは女王役に相応しい一級品だし、持ち前の歌唱力も万全で、ラストシーンの輝きを支えている。沙央のリチャードは、一座の役者の中でアンに密かな思いを寄せるという設定だけに、ここに沙央が入ったからこそ、群衆芝居の中から役柄が立ち上がる優れた効果を生んでいた。専科勢の助力かくあるべしの好演で、2人の力量と生田の配役の妙を共に感じた。

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一方嬉しいのは、これによって宙組のメンバーの出番が軽くなったとは全く感じられないこと。一座の役者たちには、劇中劇でシェイクスピアの著名な作品を次々に演じる妙味があって、澄輝さやと、蒼羽りく、和希そらをはじめとした多くの面々が躍動。当時の役者は男性に限られていたから、久々に男役を演じている純矢ちとせの姿も面白い。寿つかさ、美風舞良をはじめ、凜城きら、松風輝、星吹彩翔、風馬翔ら宙組をガッチリと支える個性派も大活躍で、宙組が総力をあげて作品を押し上げている様が圧巻だった。

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そんな熱量の高い芝居に対して、更に大きな熱量を放ってきたのが、ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』で藤井大介の作。宙組は朝夏の前任者の凰稀かなめ時代から芝居の1本立てに多く当たってきている組で、更にその中で数少ないショー作品がすべて藤井作品という、かなり珍しい巡り合わせになっている。その中にあって、ダンサートップスターである朝夏の為に藤井が用意した新たな仕掛けが、宝塚の象徴とも言える大階段を全場に渡って使用するという方法だった。これは順みつきの退団公演だった1983年の『オペラ・トロピカル』以来の試みと言うから、実に33年ぶりのこと。階段の上から降りてくるということは、影で階段を昇らなければならない訳で、朝夏以下宙組メンバーの運動量は相当なものだと思うが、その甲斐あって、プロローグや中詰めなど、階段を駆使した人の出入りが多層的になることが華やかさにつながっている。よほど集中していないと、その出入りの妙を見逃すほどで、階段の半ばの上手側と下手側、また階段下の前部にも新たなアクティングエリアが設けられていて、観ていて目が足りないような気持ちを味わった。

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更に、朝夏の印象的な大きな瞳にテーマを求めたことも功を奏していて、瞳にフィーチャーしたメドレーなど、全体に弾むようなメリハリがあり、ただ大階段の迫力にとどまらないテンポの良さがいい。ダンサー朝夏ならではのショパンを使ったソロダンスは見惚れるばかりだし、その朝夏、真風、愛月、実咲、怜美、星風まどかと揃えた3組のデュエットダンスなど、宙組の胎動も確かに感じられる人の配置も含め、見どころの多いショー作品となっている。

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初日を控えた2月19日、通し舞台稽古が行われ、トップコンビ朝夏まなとと実咲凜音が囲み取材に応じて作品への抱負を語った。

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まず朝夏が「本日はお忙しい中舞台稽古においでくださいましてありがとうございます。千秋楽まで宙組公演どうぞよろしくお願い致します」また実咲が「本日はお忙しい中お集まりくださいましてありがとうございます。千秋楽までお客様に楽しんで頂けますよう頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します」とそれぞれ挨拶、記者の質問に答えた。

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その中で朝夏は、偉大な劇作家シェイクスピアを演じるにあたり、あくまでも生田大和の描いたフィクションの中での、感情の振幅や、成長を大切にしていると語り、また実咲も心を大きく動かされるので、芝居の基本に立ち返る思いがすると語った。シェイクスピア作品で最も好きなものは2人共に『ロミオとジュリエット』だそうで、この作品でのバルコニーシーンの熱の入り方、互いの息の合い方が納得できる話だった。

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またショーについては、大階段がずっと出ていることで華やかさがあり、また舞台から客席の距離がとても近く感じられると口を揃え、東京公演への手応えも十分の様子。充実した公演が展開されるだろうことが確信できる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は5月9日発売の「演劇ぶっく」6月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚宙組公演
シェイクスピア没後400年メモリアル
ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』
スーパーバイザー◇小田島雄志
脚本・演出◇生田大和
ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』
作・演出◇藤井大介
出演◇朝夏まなと、実咲凜音 ほか宙組
●2/19〜3/27◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈問合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001(劇場・月曜休み)




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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