宝塚ジャーナル

えんぶ4月号

宝塚公演レビュー

龍真咲の個性が際立つサヨナラ作品、宝塚月組公演『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』『Forever LOVE!!』

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宝塚歌劇100周年の記念公演を担当し、100年の祝祭を牽引した最後のトップスター龍真咲の退団公演である、簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』シャイニング・ショー『Forever LOVE!!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(9月4日まで)。

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ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』は戦国乱世を駆け抜けた織田信長の生涯を、同時代に生きた人びとと共に描くロック・ミュージカル。退団公演に際して、織田信長を演じたいという龍真咲本人の希望があったそうで、大野拓史が作・演出を担当。戦国ものとしても、宝塚の日本ものとしても、異色の仕上がりとなっている。

物語は、織田信長と言えば誰でもが思い出すだろう「人間五十年、下天のうちにくらぶれば 夢幻のごとくなり。一度生を受け滅せぬ者のあるべきか」と『敦盛』を舞う、龍真咲=信長の姿を見せてから、ロックミュージックが炸裂する中、一気に桶狭間の戦いへと遡ってはじまる。
尾張の戦国大名・織田信長(龍真咲)は、桶狭間の戦いで駿河の今川義元(光月るう)を討ち果たし、天下統一への道を歩むことになる。だが、都に昇る為には美濃を滅ぼさねばならない。美濃は信長の正室・帰蝶(愛希れいか)の故郷。帰蝶は美濃を滅ぼさず尾張に留まることを信長に懇願するが、すでに天下を視野に入れていた信長がその願いを聞き届けるはずもなかった。信長は将軍足利義昭(沙央くらま)を奉じ都へ入り、帰蝶との間には深い溝が残る。それでも自身に敵対するものを次々と滅ぼし、目的へと突き進む信長。家臣の羽柴秀吉(美弥るりか)や、義昭の家臣・明智光秀(凪七瑠海)は、その孤高な決意に畏怖の念を抱くが、一方で実妹お市の方(海乃美月)を嫁がせ一度は同盟を結んだ浅井長政(宇月颯)や、実弟信行(蓮つかさ)をも容赦なく打ち捨てていく信長に、憎しみを抱く者も少なくなかった。
そんな信長を取り巻く人々の心の闇に乗じて、1人の男が近づく。ローマ出身の騎士・ロルテス(珠城りょう)。自身の出生の為に心ならずも日の当たらない道を歩んできたこの男が、覇者への道を突き進む信長の天下統一の大望に、不穏な影を落としてゆき……。

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戦国乱世の中で、一際の輝き、異彩を放つ人物として人気の高い織田信長は、創作の世界でも様々な形で描かれてきた。宝塚でもかつて植田紳爾の作品『うつしよ紅葉』(1976年)で若き日の信長が取り上げられているが、桶狭間の戦いに向かう信長の姿で幕を切っていたのは、後に天下獲りへと向かう信長の行動に相当ブラックな側面がある為でもあったろう。だが、それからちょうど40年。100周年を迎え更に次の100年へと歩みをはじめた宝塚では、そんな信長の後半生を堂々と主人公として描ける時代が訪れていた。しかも、雅な美しさではなくロック・ミュージカルの強烈なアクセントの中で、ある意味のダークヒーローが躍動している。そのことにまず大きな感慨を覚えた。
であればこそ、作品に実験的な部分が多いこともまた事実で、これは大野作品の常でもあるが、作家の側が溢れる情報量をすべて舞台に注いでしまうが為に、1度の観劇ですべてを理解するのが難しいきらいがあるのは否めない。物語は10年単位で飛び、更に史実の展開と、実在の人物を使った作者の創作である展開とが混線している。特にロルテスの暗躍からクライマックスを迎えたかに見えたドラマが、ほぼ説明なく歴史に名高い本能寺の変へと向かう唐突感など、全体の流れには推敲の余地があるとも思われた。

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だが、作者である大野が「本作は『織田信長=龍真咲』それだけを信念に作られている」とプログラムで言い切った通りの見方をすれば、自ずと受け取り方は変わってくる。ここには頂点を極めるものの孤独と、だからこその畏敬の念が深く描かれていて、それがすなわち龍真咲を、ひいては宝塚のトップスターという孤高の立場の、輝きと同じだけ重いことは想像に難くない責務を照射している。その中で、龍本人の持つ闊達さ、自由さに代表される色濃い個性が、舞台を覆い尽くすパワーが、作品の瑕疵を凌駕していく様には圧倒される。信念の為にはどんな行動にも言い訳を由としない信長像が、龍本人が己を貫く姿勢と相まって、舞台上の人物が信長なのか龍なのか、その境界さえ定かでなくなる時、そこに残るのはこれが龍真咲という月組を率いたトップスターの退団公演なのだという想いだけだ。そうなればラストシーンにも得心が行き、ただ去りゆく龍の唯一無二の姿のみが強い光を残す。これぞ龍マジックであり、同時に宝塚のトップスター退団公演だけが持つマジックとも言えるものだった。

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トップ娘役の愛希れいか演じる信長の正室・帰蝶は、信長への愛を根底に抱き続けながら複雑さも併せ持つ役どころ。単純に一途な愛ではないだけに、宝塚の娘役としては相当に難役だが、キャリアを活かして毅然と演じきった。次期トップスターに決定している珠城りょうのロルテスの策謀がこの作品の胆でもあり、もう少し信長との直接対決が欲しい部分はあるが、珠城の骨太な個性によく適していて、舞台の展開に呼応するように歌う銀橋の歌に迫力があった。明智光秀の凪七瑠海、羽柴秀吉の美弥るりかは、観客側にこの人物は後にこうなるという予備知識が、十分あることに寄りかかった作中の書き込みを、それぞれのスター性で更に膨らませていて、改めて貴重な人材だと思わせた。足利義昭の沙央くらまが硬軟使い分けた巧みな演じぶりで、専科からの特別出演の意義を感じさせるし、浅井長政の宇月颯が少ない出番で、悩み多き武人を役柄が期待した通りの二枚目として造形していて見事。お市の海乃美月との並びも雅やかだ。女役に回った妻木の朝美絢の硬質な美しさが効果的だし、妻木に恋する佐脇良之の暁千星との関係が後の展開を暗示して、期待の若手男役たちの使い方としてなかなかに魅せる。毛利良勝の紫門ゆりや、前田利家の輝月ゆうまら、織田家家臣団が群舞に気を吐く中、黒人家臣である弥助の貴澄隼人が、作中数少ない信長の温情ある一面を表して秀逸。他に、秀吉の妻ねねの早乙女わかばの娘役らしいたおやかさ、宣教師オルガンティノの千海華蘭のコケティッシュさ、織田信行の蓮つかさの真っ直ぐさなどが目を引いた。

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そんな終わってみれば、龍真咲の退団が何よりも大きく浮かび上がる芝居のあとに控えたのは、更に徹頭徹尾龍退団にフィーチャーしたシャイニング・ショー『Forever LOVE!!』で、藤井大介の作。宝塚に相応しく永遠に輝き続ける「愛」をテーマに、様々な愛の形を綴るという大枠があるものの、ピンクの大洪水からはじまるプロローグから、黄金の世界のクライマックスまで、清々しく龍サヨナラ一色。

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宇月、紫門、朝美、暁を率いて、龍ならではと思える極彩色のスーツで決めるコンガ、龍と愛希に珠城も加わったトリオが異色の銀橋、凪七、美弥、沙央がそれぞれ女役に扮して、龍とからむアドリブも交えた展開、男役龍真咲が大きなセットにもなって登場するダンスナンバーと、龍の魅力を多角的に描き出している。

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愛希を中心とした迫力のダンスシーンあり、萌花ゆりあ、有瀬そう、真愛涼歌、翔我つばき、夢羽美友の、龍と同時退団のメンバーへの餞、また、龍と沙央、萌花、綾月せりの同期生だけの惜別シーンなど、とにかく盛りだくさん。欲を言えば、やはり龍真咲トップ時代を共に走った愛希との掛け合いが何か欲しいところだったが、黒燕尾で大階段に立つ龍の孤高は、この興行全体を貫く姿としては相応しかったのかも知れない。出演者全員が一途に龍を盛り立てる、退団公演の美徳に溢れたショー作品だった。

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初日を控えた8月5日、通し舞台稽古が行われ、月組トップコンビ龍真咲と、愛希れいかが囲みインタビューに応えて公演への抱負を語った。

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その中で、9月4日の卒業のその日まで走り抜け、燃え尽きたいとの強い決意をにじませた龍は、大きなものを見据えている清々しい表情を見せ、作品への手応えも十分な様子。ラストとなる「宝塚の男役」をまず自ら楽しみたいと意欲的に語った。

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一方の愛希は、そんな龍の姿勢からパワーをもらえると語り、前に進み続ける龍にしっかりと付いて行きたいとこちらも意欲的。共に感傷に浸るのではなく、更に前身しようという意志が感じられる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は9月9日発売の「えんぶ」10月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!



〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演
簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター
ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』
作・演出◇大野 拓史
簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター
シャイニング・ショー『Forever LOVE!!』
作・演出◇藤井 大介
出演◇龍真咲、愛希れいか ほか月組
●8/5日〜9/4日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

北翔海莉の魅力が輝く宝塚星組公演『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』『THE ENTERTAINER!』

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華やかなオペレッタとショーという充実の二本立てで展開する、宝塚星組公演MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』──ヨハン・シュトラウス二世 オペレッタ「こうもり」より──と、ショー・スぺクタキュラー『THEENTERTAINER!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(6月19日まで)。

MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』は、ヨハン・シュトラウス二世の最高傑作と称されるオペレッタ作品「こうもり」を、谷正純がミュージカル化。目にも耳にも鮮やかな作品に仕上がっている。

高名な物理学者であるファルケ博士(北翔海莉)は、仮装舞踏会からの帰り道、したたかに酔い、こうもりの扮装をしたままアイゼンシュタイン侯爵(紅ゆずる)に、公園の大理石像に結びつけられ置き去りにされてしまう。それは、独身貴族のファルケ博士と違い、恐妻家のアイゼンシュタイン侯爵が、妻が怖いから飲み明かす約束を反故にするとは言い出せずにした、謂わば苦肉の策だったのだが、そのまま朝を迎えた公園でファルケ博士は人々の笑い者になり「こうもり博士」と蔑称されるハメに陥ってしまう。このまま黙ってはいられない。ファルケ博士は、アイゼンシュタイン侯爵に一泡吹かせるべく、侯爵家のメイド・アデーレ(妃海風)、侯爵夫人のロザリンデ(夢妃杏瑠)、侯爵家の執事アルフレード(礼真琴)、更に旧知のロシア皇太子オルロフスキー公爵(星条海斗)ら多くの人々を巻き込み、壮大で愉快な復讐劇を企てて……

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オペレッタというものが総じてそうであるように、物語のストーリー自体は基本的に他愛ないものだ。更に今回は主人公を、原典のオペレッタ「こうもり」のアイゼンシュタイン侯爵から、ファルケ博士に置き換える措置がなされていて、侯爵とその妻の不倫がらみの恋愛劇から、ファルケ博士とヒロインとなった侯爵家のメイド・アデーレとの恋模様が主軸になっている。その為、宝塚らしい品の良さがある一方で、どうしてもやや説明不足の印象を拭えない面も残るのは、やむを得ないところだったろう。けれども、そうした些末なことはどうでもよくなる音楽の魅力にあふれているのも、またオペレッタ作品ならでは。耳になじんだ著名なメロディーが次々と繰り出されることによって生まれる高揚感は、実に贅沢なものだ。

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もちろんそれには、出演者がクラシック音楽の魅力をあますところなく伝える歌唱力を持っていることが必須になるが、そこは、主演の北翔海莉が他を圧する豊潤な歌声で、舞台を支えまたリードする盤石の構えなのが頼もしい。専科時代の主演作として、やはりオペレッタ作品であるレハールの『THE MERRY WIDOW』を経験している人でもあるが、実際のところ北翔主演ということが、宝塚がオペレッタ作品に取り組める決め手となったと言っても過言ではないだろう。ある時はたっぷりと、ある時は洒脱で粋にと、緩急自在の歌声が、作品を成功へと導く力となっている。また元々の持ち味の中に温かさがある人だけに、ファルケ博士の復讐劇に微笑ましさもにじませる、馥郁たる主演ぶりだった。
また、アデーレの妃海風も、コロラトゥーラソプラノの聞かせどころとして知られる「侯爵様,あなたのような方は」など、名曲中の名曲をよく歌いこなしていて、歌えるコンビの安定感が際立つ。役柄が持つ「女優になりたい」という思いが、野心ではなく憧れに映るのも、宝塚のヒロインに相応しく、清潔感のあるアデーレだった。
更に忘れてならないのが、アイゼンシュタイン侯爵の紅ゆずる。何しろ原典のオペレッタでは主人公の役柄だから、時としてダブルトップのようにさえ見える大役を、この人らしい軽妙な演技で笑いの渦を巻き起こしている。こうした役どころはもうすっかり手の内にあり、楽々と演じているのがオペレッタらしい快さにつながっていた。
 
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他にも、執事アルフレードの礼真琴、弁護士プリントの七海ひろき、刑務所長フランクの十輝いりすなどが、それぞれの持ち場で躍動。これが退団公演となる十輝の、鷹揚としたどこか大陸的な持ち味の可笑しみは、まさに有終の美で、改めて退団が惜しまれたし、ファルケ博士の助手として、十碧れいや、麻央侑希、瀬央ゆりあ、紫藤りゅうなど、星組が誇る男役スターたちが活躍しているのも嬉しい。一方で、ファルケ博士の恩師ラート教授の汝鳥伶、オルロフスキー公爵の星条海斗の専科勢が、独特の存在感と歌声で魅せる好助演も光り、ロザリンデの夢妃杏瑠、イーダの綺咲愛里、レプロフ伯爵夫人の組長万里柚美ら、娘役陣も充実。名曲中の名曲「シャンパンの歌」で迎える大団円まで、賑やかで華やかな世界観が広がっていった。何よりも、80人になんなんとする出演者の1人1人が、細かく芝居をしダンスでまたコーラスで盛り上げる集団の妙と、豪奢なセットと衣装の魅力は宝塚ならでは。ここでしか味わえない贅沢な時間が流れていた。

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そんな作品の後に続いたのが、ショー・スぺクタキュラー『THE ENTERTAINER!』で、野口幸作の大劇場デビュー作品。トップスター北翔海莉を「究極のエンターティナー」と位置付けてのショー作品で、MGMミュージカル映画を思わせる、古き良き宝塚レビューの香りが満載なのが、リズミカルでスピーディで、観客参加型も目に立つようになった昨今の宝塚ショー作品群の中で、むしろ新鮮に映る。

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華やかなプロローグ、スパニッシュラテン、人海戦術のロケット、そしてデュエットダンス。それら、どこか懐かしい、だからこそ新しいテイストの詰まった作品を新人作家が提示してきたことは、ショー作品が重要な柱の1つである宝塚歌劇にとって喜ばしいことに違いない。期待のショー作家の誕生を祝したいと思う。ここでも、歌やダンスはもちろん、ピアノの弾き語りまでを披露した北翔の「ザ・エンターティナー」ぶりが際立ち、北翔が率いるからこその、今この時の星組が輝いているのが、深い余韻を残していた。

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初日を控えた5月13日通し舞台稽古が行われ、トップスター北翔海莉とトップ娘役の妃海風が囲み取材に応えて、作品への抱負を語った。

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まず北翔が「報道関係者の皆様、本日はお忙しい中ありがとうございました。本日から6月19日まで『こうもり』『THE ENTERTAINER!!』2作品共再演ではなく、星組のオリジナル作品で今回は皆様にご披露致します。今の星組生が持つ力を最大限に発揮して、究極のエンターティ—ナー目指して頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します」

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また妃海が「こうして集まってくださりありがとうございました。『こうもり』も『THE ENTERTAINER!!』も、大劇場で関西のお客様と一緒に楽しく公演して参りましたので、東京の皆様とも是非一緒に楽しめたらなと思います。どうぞよろしくお願い致します」と挨拶、記者の質問に応えた。

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中で、オペレッタ作品を本公演でやりたいという夢が叶ったという北翔がその挑戦を喜ぶと、妃海も宝塚ならではのツボの詰まったオペレッタ作品、宝塚ミュージカルになっていると語り、それぞれ作品への手応えは十分の様子。また、ショーでお気に入りのシーンを問われて、間髪を入れず北翔のシーンをあげた妃海に「2人一緒のシーンがいいんじゃない?」と北翔が返すひとコマもあり、1つ1つの質問に対して、必ずお互いに目を合わせて、相談し、また補足する2人のコンビネーションの良さと信頼関係が伝わり、終始温かで和やかな空気が広がる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は、7月9日発売の演劇ぶっく8月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!



〈公演情報〉
宝塚星組公演
MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』─ヨハン・シュトラウス二世 オペレッタ「こうもり」より─
脚本・演出◇谷正純
ショー・スぺクタキュラー『THE ENTERTAINER!』
作・演出◇野口幸作
出演◇北翔海莉 妃海風 ほか星組
●2016年5/13〜6/19◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001



【取材・文・撮影(囲み会見)/橘涼香 撮影(舞台)/岩村美佳】



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粟根まこと、松永玲子ほか、キーポイントQ&A【演劇人の活力源】など連載中!
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21世紀ならではのヴァンパイア誕生!宝塚宙組『ヴァンパイア・サクセション』

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現代を生きる耽美ではないヴァンパイアを描いた、真風涼帆を中心とした宝塚宙組公演ミュージカル・プレイ『ヴァンパイア・サクセション』が、KAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(23日まで)。

永遠の命を持ち、夜毎美女の生血を求めてさすらう吸血鬼=ヴァンパイア伝説は、数々の物語を生んでいて、これまでに宝塚でも取り上げられている。と言うのも、本来の成り立ちに幻想性と虚構性のある宝塚の男役にピッタリの題材だからなのだが、今回石田昌也が描いたヴァンパイア像は、そんな耽美でシリアスでファンタジーなイメージを裏切るかなりの変化球。その意外性が、作品の最大の眼目となっている。
 
物語は、現代2015年のニューヨークからはじまる。この時代に蘇ったヴァンパイア、シドニー・アルカード(真風涼帆)は、およそ700年の間、眠りと目覚めを繰り返すうちに「退化という進化」を遂げ、人の生き血を必要とすることもなくなり、かつては最大の敵であったヴァンパイア研究家の末裔ノイマン・ヘルシング(愛月ひかる)と友情を育み、新聞記者兼小説家であるノイマンに、700年間見聞きしてきた歴史のあれこれを、小説のネタとして提供しながら生活を営んでいた。ある日、ノイマンの出版記念パーティを兼ねたハロウィン・パーティに参加したシドニーは、歯科医を目指す女子大生ルーシー・スレイター(星風まどか)に出会い、元彼で幼馴染のランディ・ケンパー(和希そら)からのアプローチを持て余していたルーシーの、恋人を装う役目を引き受けてしまう。9.11のテロ事件で両親を失ったトラウマを抱えつつ前向きに生きようとするルーシーと行動を共にするうちに、限りある命の輝きに惹きつけられるシドニー。そんな彼に、生死の狭間を彷徨う幽霊のカーミラ(伶美うらら)は、ヴァンパイアが人間になる条件は「誰かを真剣に愛し、愛されること」だと告げる。永遠の命か、限られた命か。心揺れるシドニーだったが、一方彼の背後には、永遠の命の謎に迫るES細胞研究家のジェームズ・サザーランド(華形ひかる)をはじめ、永遠の命を軍事利用しようとする極秘の国家プロジェクトが暗躍して……。
 
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現代を生きるヴァンパイアが、生き血を必要としない体質に変化していて、人間との共生が可能になっている、という発想がまずよく考えられているのだが、更に、鏡に映らない、写真に写らない、日に当たれない、ニンニクが食べられないなどの「不便」を抱えて人間を羨ましがっているあたりは、作品がコメディとして定義されているならではのことだろう。とにかく、舞台にはポップで軽いノリの台詞がポンポンと飛び交っていて、軍事利用を目的として永遠の命を求める人間側の、よく考えたらかなりシビアな部分を覆い隠している。これが、元々スマートフォンや、SNSなどの現代ならではのツールや、9.11などの現実の問題とは、決して相性が良いとは言えない「宝塚」の虚構性と題材とをつなぐ緩衝材となっていて、ヴァンパイアものの謂わば定番のテーマでもある限りある命の美しさと、今を懸命に生きることの尊さに帰結する展開は実にハートフルだ。中で、ここをもう1歩押せば、もっとラブロマンスの香りが際立つだろうに、と思わせるところで、笑いに走る部分も散見されるのだが、それが石田昌也という作家らしいある種の照れを感じさせて微笑ましくもある。作品がロマンスに真っ正直にならずとも、宝塚の男役と娘役という虚構の美があれば、十分舞台はロマンチックになることを、この作家は熟知しているのだろう。相当にひねったヴァンパイアものの発想を含めて、あらゆる意味で石田ワールドならではの作品になっていると言えよう。

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そんな作品で、人間への羨望を抱えながら生きるヴァンパイア、シドニーを演じた真風涼帆の悠然とした男役らしさが、役柄によく活きている。元々常に舞台に大きさを感じさせて、おそらく世に言う耽美でシリアスなヴァンパイア役も、個性にピッタリなはずの人だけに、人と共生することに、様々な不便とちょっとした困惑も抱えているという、シドニーへの説得力が全身からにじみでる演じぶりが見事だ。永遠の命か、限りある命かの悩み、また、ヴァンパイアとしての本能が目覚めかける描写のコントラストも効いていて、作品が敢えて描こうとしていない耽美な香りが、本人から立ち上るのは天晴れの一言。舞台のセンターが本当に似合う実にスターらしいスターとして、今後がますます期待される抜群の存在感だった。
そのシドニーに恋する女子大生ルーシーを演じた星風まどかは、宙組のというより宝塚全体でも際立つ抜擢が続く期待の新進娘役。当然ながらあまりにも可憐で、女子大生というより高校生に見えるほどだが、700歳のヴァンパイアと、うら若き乙女という今回の作品の設定には相応しいキャスティングと言えそうだ。当然ながらまだ似合う役柄が限られる中で、ひたむきにルーシーと向き合う姿が、作品のテーマに重なっていたのは、石田の起用法の賜物でもあるだろう。ますます研鑽を積んで欲しい。

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ヴァンパイアVSヘルシング教授という、ヴァンパイアものの大定番を180度ひっくり返して、ヴァンパイアの親友として登場したノイマンの愛月ひかるが、男役としてぐんぐん伸びている様には目を惹きつけられる。2枚目役はもちろん、かなり思い切った色の濃い役柄にも果敢にチャレンジしてきた実績が、今まさに花開こうとしていて、このノイマン役も硬軟のさじ加減が絶妙。元々姿の良さはとびっきりだけに、どこまで飛躍していくのかが楽しみだ。また、ヒロイン経験も豊富な伶美うららが、今回はシドニーにだけ見える幽霊カーミラとして登場して、舞台をよく支えている。メインとなるのは相当に派手な衣装だが、それでも品が悪くならないのはこの人の輝かしい美貌故。やはり、特別な華やかさを備えている娘役であることが1歩引いてみて際立つので、今後も大切に遇して欲しい。また、ルーシーの元彼として登場したランディの和希そらの溌剌とした演技に勢いがある。星風との並びも最もよく似合っていて、この2人で青春ものも良いのではないかと思わせた。

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また、ヘルシング教授に変わって、ヴァンパイアを追う存在として登場した華形ひかるは、専科に異動以来、華々しい好助演を連発しているが、今回も深い思いとペーソスを感じさせる演技で魅了する。さほどに多くはない出番で終幕のクライマックスを支えたのは、華形なればこそだろう。活きの良い熱いダンサーとして知られた人が、ここまで演技巧者になっていることに感動を覚える。もう1人、専科から特出の京三沙の老女役も、限りある命の尊さを静かに伝える貴重な存在が際立っていた。こうした専科勢の好演と共に、美風舞良、松風輝、美月悠、春瀬央季ら、宙組の貴重な人材も適材適所で活躍していて、バランスの良い座組になっているのが何より。異色のヴァンパイアものとして、作品を出演者全員が輝かせているのが印象に残った。


〈公演情報〉
宝塚宙組公演
ミュージカル・プレイ『ヴァンパイア・サクセション』
作・演出◇石田昌也
出演◇真風涼帆 ほか宙組
●5/17〜23◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席7,800円、A席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)



【取材・文・撮影(1幕)/橘涼香 撮影(2幕)/岩村美佳】



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粟根まこと、松永玲子ほか、キーポイントQ&A【演劇人の活力源】など連載中!
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原作世界と宝塚歌劇の見事な融合 宝塚雪組公演『るろうに剣心』

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和月伸宏の大人気コミックス『るろうに剣心』の宝塚バージョンである、宝塚雪組公演・浪漫活劇『るろうに剣心』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ。(5月8日まで)

1994年、週刊少年ジャンプにて連載開始以来、シリーズ累計売上5900万部を超える大ヒットコミックスとなった『るろうに剣心』は、アニメ化、また実写映画化と、多彩なメディアミックスも展開。そのいずれもが、大きな支持を集め、日本のみならず世界中で愛され続けている。今回はそんな作品の、初のミュージカル化、宝塚バージョン化であり、早霧せいなと咲妃みゆを中心とした雪組が、宝塚大劇場での大ヒット上演に続いて、満を持しての東京公演となった。

動乱の幕末に伝説の人斬り抜刀斎として恐れられ、明治維新後は「不殺」を誓い、あてのない旅を続ける流浪人・緋村剣心(早霧せいな)。ある日剣心は、東京に「神谷活心流・緋村抜刀斎」を名乗る辻斬りが横行していることを知り、流儀を汚されたとして、抜刀斎を追う神谷活心流の師範代神谷薫咲妃みゆ)に出会う。共に名を騙られた2人は、協力してことを納め、それをきっかけに剣心は神谷道場に居候をすることになる。そこで、新時代に様々な想いを抱えながら生き抜く人々とふれあい、仲間を得、また薫の存在にも我知らず心の傷を癒されてゆく剣心。だが、そんな出会いの中に、かつて幕末の京都で対峙した因縁の相手である、元新撰組隊士、加納惣三郎望海風斗)がいたことから、事態はまた大きく動きはじめ……。

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長大な原作漫画を宝塚の舞台に乗せるにあたり、脚本・演出を担当する小池修一郎は、主には「東京編」と呼ばれる、原作の導入部分を下敷きにしている。だが、まずその中にも、原作世界では後に明かされるエピソードである、剣心の過去、人斬抜刀斎と呼ばれた男が、「不殺」の誓いをたてるに至る想いと、頬の十文字傷のいきさつまでを、物語の流れの中に巧みに挿入していて、実にすっきりと筋を通している。特に、幕末の動乱から、明治維新に至る時代の流れ、更に今回宝塚バージョンのオリジナルキャラクターとして登場した、作品のキーマンである加納惣三郎と剣心との因縁までを、冒頭からほぼ15分間という怒涛の流れの中で描いた展開は、目にも鮮やかだった。そこから、1幕のほとんどは、原作お馴染みの人気キャラクターの登場と紹介を中心に描かれてゆくが、1幕のラストから2幕にかけて、加納の館である「プチ・ガル二エ」を中心に物語が展開していくと、一気に舞台は宝塚バージョンならではの世界へ。明治の文明開化の時代に日本に押し寄せた西洋の香りという形で、自然に宝塚ならではの華やかな世界と、原作世界を融合させた手腕が光る。中でも、加納なくしては物語が進まないストーリー運びでありながら、原作世界の人気キャラクター達の行動と、剣心の生き様とが全く浮かずに両立しているのは、数多くの人気海外ミュージカルの宝塚化に大きな功績を残してきた小池ならではの技だろう。単純に人気作品を宝塚で上演したにとどまらず、宝塚ならではのミュージカルに昇華させた力量は、さすがの一言だ。

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そんな作品の中で、緋村剣心として躍動した早霧せいなが素晴らしい。この人の雪組トップスターとしてのお披露目作品だった『ルパン三世』では、人気キャラクターの再現率に目を瞠らせたものだが、今回の剣心役は、その再現率にとどまらず、常にスターとしての明るさを保ちながら、どこかで張りつめた弦のような鋭さも併せ持つ、早霧せいなその人の個性までを、役柄に投影させることに成功している。人斬り抜刀斎としてのヒヤリとした刃のような表現と、流浪人・緋村剣心としての、どこかコミカルさもあるほのぼのとした温かいキャラクターの表現。それらの演じ分けの見事さには、早霧の持つ多面体の魅力が活きていて、更に日本物の豊富な経験による立ち居振る舞いとが、宝塚ならではの剣心を生み出している様は圧巻だった。トップ就任以来破竹の勢いで進んでいる人だが、また1つ大きな代表作に出会ったようだ。

対する神谷薫の咲妃みゆは、常に役への憑依を感じさせる演技力の中にも、今回は快活な明るさを前面に出して、役柄をよく表出している。剣心に惹かれていく娘心のひたむきさも真に迫り、正面からラブロマンスを描いた作品ではない中で、きちんと宝塚のヒロインとして立てていたのは、咲妃の地力と、更には早霧&咲妃コンビの結束の固さの表れと言えるだろう。また、二番手男役の為に、つまりは望海風斗の為に書き下ろされたキャラクター加納惣三郎の望海は、幕末から明治の時代にある種の狂気を持って生き抜く男の妄執を巧みに表して目を奪う。他の登場人物がほぼ、原作で高い人気を誇っているキャラクターなだけに、1人拠り所は自分だけという形は、逆に困難な面もあったと思うが、持ち前の歌唱力を駆使して、宝塚版ストーリーを動かした力量は大きなものだった。

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その原作の人気キャラクターたちでは、斎藤一の彩風咲奈が確実に一皮剥けた存在感を示して、スターとしての大きさを獲得しているのが光る。武田観柳の彩凪翔も思い切った悪役の造形で気を吐いているし、相楽左之助の鳳翔大は、抜群のプロポーションとキャラクターが役柄にベストマッチ。高荷恵の大湖せしるは、ミステリアスな美女役でまさに有終の美を飾っているし、四乃森蒼紫の月城かなとは、その冴え冴えとした美貌がまるで原作から抜け出したかのよう。他にも、人斬りであった過去の幻影として剣心の心の闇に浮かび上がる、剣心の影の永久輝せあ、もうけ役の少年明神弥彦の彩みちるなど、多くの人材が大活躍。もちろん、専科の夏美よう、美城れんらの好助演をはじめ、雪組のベテランから新進までのメンバーが、作品の中に多彩に躍動しているのが頼もしかった。

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何よりも、雪組のスター達の層の厚さが、個性的なキャラクター満載の原作世界を支え、更に宝塚作品として輝かせているのが嬉しく、充実の公演が展開されていることを喜びたい。

初日を控えた4月1日、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと、咲妃みゆが囲み取材に応じた。

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まず早霧が「本日はお忙しい中、朝早くからお集り頂きありがとうございます。早霧せいなでございます。よろしくお願いします」。また咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして誠にありがとうございます。咲妃みゆでございます。よろしくお願いします」と挨拶。記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚版ならではの魅力を問われた早霧が、アニメとも映画とも一味違う宝塚ならではの華やかさを挙げると、咲妃も宝塚版オリジナルのストーリー展開のスピーディさを挙げて、共に作品への手応えは十分の様子。また、早霧が演じていて大切にしていることとして、人斬りであった時と、流浪人である剣心の二面性をハッキリ描くことに注力していると真摯に語ると、咲妃が、早霧のその二面性の表現の素晴らしさを感じると共に、薫としても時折影が差す剣心に気づきながら、普段の温かい顔を見せてくれることで、惹かれる気持ちが強くなると、役柄の心理を丁寧に説明。2人の演じぶりの中に、2人ならではの呼吸が育っていることが巧まずして感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、5月9日発売の演劇ぶっく6月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!

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 〈公演情報〉
宝塚雪組公演
浪漫活劇『るろうに剣心』
原作◇和月伸宏「るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜」(集英社ジャンプコミックス刊)
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇早霧せいな 咲妃みゆ ほか雪組
●2016年4/1〜5/8◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉03-5251-2001



【取材・文・/橘涼香 撮影/大倉英揮】



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龍真咲の魅力と個性が煌めくステージ『Voice』

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宝塚月組トップスター龍真咲の多面的な魅力を詰め込んだ、龍真咲コンサート『Voice』が、赤坂ACTシアターで上演中だ(31日まで。のち、大阪梅田芸術劇場シアタードラマシティで、4月8日〜20日まで上演)。

宝塚100周年の寿ぎを牽引した、最後のトップスターである龍真咲は、本年9月4日をもって宝塚歌劇団を退団することをすでに発表していて、この作品が宝塚スターとしての龍の、最後のコンサートとなる。そんな機会に相応しく、月組精鋭メンバーと共に作りだされたステージの1幕は、さながら龍真咲というスターの、壮大なサヨナラショーといった趣があった。

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舞台は、遠い未来。そこでは人々から歌や踊り芝居という自由な娯楽は失われている。そんな時代で考古学を研究する1組の男女ルリ美弥るりか)とミツキ海乃美月は、廃墟のような建物に迷い込む。実は古い劇場だったそこには、未来に「声」を伝えたいと願った人々が遥か昔、密かに作った「Voice Robot」たちが眠っていた。歌や踊り芝居を葬った人間を敵とみなしているロボットたちは、自分たちの存在を知ってしまった2人を排除しようとする。だが、その時ロボットたちのリーダーMASA-O龍真咲が現れ、2人が「声」を取り戻し、歌うことができたら、仲間と認めようと提案する。けれども歌も踊りも芝居も知らない2人には、容易に歌うことはできない。「せめて見本を見せて欲しい」と懇願する2人に、MASA-Oをはじめとしたロボットたちは、一夜限りのショーを開催することになって……

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こうしたミュージカル仕立ての設定から、ステージには龍の懐かしい、また輝かしい軌跡を次々に思い起こさせる数々の歌が登場する。ここで披露されるのは、大劇場で、中でも龍がトップスターとして演じてきた作品からのナンバーがほとんどなのだが、まず目を瞠らされるのは、その演目の多彩さだ。『ロミオとジュリエット』『明日への指針〜センチュリー号の航海日誌』『PUCK』『1789〜バスティーユの恋人たち』等々をはじめとして、珠玉のショー作品まで。これらのラインナップから、龍真咲というスターが、どれほど多くの名作に取り組み、構築し、その魅力を輝かせてきたかが一望できる。そこにはあまりにも懐かしい龍のこれまでが詰まっているし、更に驚かされるのは、それらが龍の個性的な歌声によって、他の誰とも違う龍真咲だけの色合いを有していることだ。それはどちらかと言えば全体がナチュラルな方向に向かっていると思える近年の宝塚スターの中で、稀有な色濃さを示してきた、龍ならではの魅力が如実に現れた舞台となっていて、そこで煌めき歌い踊る龍の姿はただまぶしいばかりだ。これは、龍真咲というスターに思いを持つすべての観客が、涙なくしては見られないステージだし、改めて龍の歌声、タイトルの『Voice』にフィーチャーした作・演出の小柳奈穂子の着眼点にも敬服させられる。モノトーンで統一された世界観もスタイリッシュで美しい。

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そんな、感動の1幕から一転、龍の関西人らしいノリの良さと、ビビッドな色合いが弾ける2幕は、様々な要素が満載。見事な早替わりによって、龍が大劇場以外の、所謂別箱で演じてきた作品群を振り返るコーナーもあるが、ここも涙、涙の1幕とは全く違う抱腹絶倒な展開だし、このアイディアを思いついたのは一体誰!?と問わずにはいられない、宝塚ファンなら爆笑すること間違いなしの、大パロディ小道具もあって、笑い過ぎて涙が出てしまうほど。観客参加型のコーナーも含め、まさに何でもありのたたみかける展開から、徐々にビートが加速して、ラストの盛り上がりに到達する流れの良さが圧巻だった。龍のスター性と、キラキラ感と、サービス精神とが、実に巧みなハーモニーとなって、作品を支えている。

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それでいながら特徴的なのは、共演のメンバーそれぞれにもきちんと見せ場が作られていることだ。1幕でストーリーを語った美弥と海乃はもちろん、上級生から下級生まで1人1人の出演者が大スクリーンで紹介され、しかもそれが単なるメンバー紹介に終わらず、龍を含めた様々な組み合わせで、入れ替わり立ち代わりを繰り返しながら巧みに披露されていく構成には感心した。これは、トップスターとしての日々を燃焼してきた龍が、組のメンバーに送る温かいまなざしの故だろうし、出演した1人1人にとって、組の未来を築く為の優れた経験になったに違いない。美弥、紫門ゆりや、千海華蘭、朝美絢の女役のコケティッシュさや、関西人をカリカチュアして演じた貴澄隼人の思い切りの良さなど、新しい発見もあり、龍の同期生である萌花ゆりあ、綾月せりとの、宝塚ならではの交流もあり、実に多彩でユニーク。思えばそれは、龍その人の個性そのままに通じるステージと言えるのだろう。まるでスターを鏡のように映し出した、見事な作品となっていた。

その中で、龍が熱く、濃い魅力を更に加速させる強いエネルギーを放っていることが嬉しく、龍真咲の時代の華麗なるフィナーレに向けた、壮大なパーティにも似た迫力のステージが体感できる仕上がりだった。



〈公演情報〉
宝塚月組公演
龍真咲コンサート『Voice』
作・演出◇小柳奈穂子
出演◇龍真咲 ほか月組
●3/26〜31◎赤坂ACTシアター
〈料金〉S席7,800円 A席5,000円
〈問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
●4/8〜20◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉S席7,800円
〈問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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