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宝塚公演レビュー

ポップに賑やかに弾ける朝夏まなと&実咲凜音コンビの集大成 宝塚宙組公演『王妃の館』『VIVA! FESTA!』

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トップスター朝夏まなとと共に、宙組の中心を成してきたトップ娘役実咲凜音の退団公演となる宝塚宙組公演ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(30日まで)。

ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』は、「鉄道員」「壬生義士伝」など数々の傑作小説を世に送り出した作家浅田次郎のベストセラー「王妃の館」を原作に、宝塚歌劇ならではの演出を加えて作り上げられたミュージカルで、脚本・演出を担当する田渕大輔の大劇場デビュー作品。太陽王ルイ14世が残した「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)」を舞台に、曰く付きのツアーに参加した個性豊かな登場人物たちが織りなす人間模様をコミカルに描きながら、それぞれが新しい明日への一歩を踏み出す姿が綴られていく。

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【STORY】

パリ、シャルル・ド・ゴール空港の到着ロビー。ここには今日も花の都パリを目指し、世界中から多くの旅行者たちが訪れている。そんな観光客の中に、日本からのツアーの一行がいた。かつて17世紀フランスに君臨した太陽王ルイ14世の居城であり、現在は一見客お断りの高級ホテルとして旅行者たちの垂涎の的になっている「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」に宿泊できるという、パックツアーには有り得ない夢の企画に大金を投じた彼らは、いずれも一筋縄ではいかない個性的な面々ばかり。中でも、恋愛小説の鬼才と謳われる著名な小説家、北白川右京(朝夏まなと)は、団体行動を嫌って度々行方をくらまし、このツアーを企画した弱小旅行会社の社長兼添乗員の桜井玲子(実咲凜音)を手こずらせていた。
だが、玲子の悩みは、右京の単独行動よりも、更に大きなところにあった。と言うのも、玲子の経営する旅行会社は倒産寸前の状態にあり、その危機を乗り越える為に彼女は、このツアーに大きなブラフを仕掛けていたのだ。それは、右京たちが参加している「光ツアー」のメンバーだけでなく、旅行者の社員である戸川光男(桜木みなと)がアテンドし、時を同じくしてこのパリに到着した格安料金の「影ツアー」の一行と双方に、「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」の同じ客室を使用させ、ダブルの利益を得ようという奇策だった。
実は超高級ホテルである「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」も、現在深刻な経営難に陥っていて、これはホテル側と玲子が、互いの起死回生の為にタッグを組んだ計画的なダブルブッキングだったのだが、そう簡単にことが進むはずはない。客室に落ち着いた途端、小説を書きたいからディナークルーズには参加しない、と言い張る右京と玲子が押し問答をしている最中、同じ部屋を使う影ツアーの宿泊客が現れ、すんでのところで鉢合わせになったが為に、右京はこのからくりを悟ってしまう。
すべては終わったと観念した玲子は、右京に心から侘びてツアーの中止を申し出るが、以外にも右京はこの計画に加担する代わりにツアーを続行することを希望した。傍目にはセレブな人気作家を気取っている右京だったが、その実、現在小説家として大きなスランプに陥っている彼は、「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」への滞在をきっかけに、ルイ14世を主人公にした恋愛小説を書きあげることで、なんとか苦境を脱しようとしていたのだ。しかも、そんな右京の前には、客室の肖像画からルイ14世(真風涼帆)その人の亡霊が現れ、右京はルイの言葉から、太陽王にも秘めたる恋があったことを知ってしまう。これ以上の創作のヒントはない!利害の一致した右京と玲子は、ツアーの完遂を試みるが、「光ツアー」と「影ツアー」それぞれの旅行者たちは、2人が想像もしていなかった事情を様々に抱えていて……

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作品に接してまず、感じたのはパリの街、そしてルイ王朝華やかなりし頃のロココ文化と宝塚の親和性の驚異的な高さだった。舞台はパリだが、登場人物はほとんど日本人ばかりという設定の中に、いきなり17世紀ロココの世界が展開されて、ここまで違和感がない舞台を創れるのは、宝塚を置いて他にはないだろう。これはまず第一には、「王妃の館」という小説を宝塚で上演しようという企画自体の発想の勝利だし、更にその原作世界の中から「宝塚化」に向けた美しいアレンジを巧みに施した脚本・演出の田渕大輔の見事な手腕の賜物だった。
例えば原作世界では桜井玲子(この役名も原作とは異なる)と戸川光男は元夫婦だし、光ツアーの観光客でトランスジェンダーのクレヨン(本名:黒岩源太郎・蒼羽りく)が失恋した相手は、パリの現地ガイド・ピエール(和希そら)なのだが、それら宝塚にとってはやや複雑すぎる人間関係を綺麗にカットして、本来は群像劇である作中から、右京と玲子を主人公としてピックアップし、作中に実際に起こる出来事に話を集中させることに成功している。
更に何よりも大きかったのは、原作では右京が描く小説世界、謂わば「劇中劇」ならぬ「小説中小説」としてのみ描かれていたルイ14世を、右京たち登場人物の目に映る亡霊として登場させ、作品世界の現実の中に引っ張り込んだことだ。これにより、ルイが300年もの間失った恋の相手を探し続けている、という実に宝塚らしい美しい展開が加味され、前述したロココ世界との見事な親和性と相まって、宝塚でしか描けない「王妃の館」が出来上がったことは賞賛に値する。ここ最近の宝塚作品としては、1、2を争うほど多くの役どころを登場させ、しかもそれぞれのドラマがある設定をきちんとさばき、誰もが成長し、新しい明日に向かっていく結末へと導いた田渕の手腕には、注目すべきものがあった。盆や、セリ、銀橋、花道など、宝塚大劇場ならではの舞台機構も巧みに使いこなしていて、これが大劇場デビューとは末頼もしい人材が現れたものである。新しい才能の将来に期待したい。

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そんな作品で主人公北白川右京を演じた朝夏まなとは、物語の大きなベクトルをルイの恋物語が担い、更に起承転結の「転」の部分を、莫大な負債を抱えてパリで心中する為にツアーに参加した下田夫妻(寿つかさ、美風舞良)が握っているという、主人公としてはかなり難しい展開の中で尚、揺るぎない主役として劇中のセンターに位置し得たことに感嘆する。特に、冒頭から中盤まで、変わり者の人気小説家という設定を、長い手足を駆使した朝夏ならではのアクションでエキセントリックに現しているからこそ、流行作家であることにしがみつこうとするあまりにルイを傷付けたことを悔い、下田夫妻を救う為に奔走するうちに、ただ小説を書くことを愛していた自分の純な部分を取り戻し、更に成長していく。そんな右京の変化が美しく伝わる表現が胸に染みる。特にルイを騙すつもりはなかった、という告白が決して言い訳ではないことが伝わる、真摯な演技が、宝塚の北白川右京像を見事に具現していた。

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一方、桜井玲子の実咲凜音は、自分の会社とキャリアを守ろうとがむしゃらに突き進む女性が、ふと立ち止まった、その瞬間の、諦めだけではない、どこかで肩の荷が下ろせた安堵をきちんと見せていて好感が持てる。『エリザベート』のタイトルロールを務め上げたトップ娘役の退団作品と考えると、いささか軽い役にも思えるが、『王家に捧ぐ歌』のアイーダの後に『メランコリック・ジゴロ』のフェリシアを演じた時同様、パワー全開の一直線ではないからこその、柔らかな魅力がある。何より、どこかさばさばとした現代感覚や潔さといった、実咲凜音という娘役が宝塚に登場した時の、新鮮な個性が思い出される役柄だったことは、結果として彼女の退団公演を思い出深いものにもしていた。最後に朝夏の右京と、日本に帰ってからまた新しい関係がはじまる、という展開も宝塚版だけの工夫で、朝夏&実咲の集大成に相応しい余韻ある終わり方が素晴らしい。

そして、この作品を宝塚ならではのものにし得た、ルイ14世に扮した真風涼帆は、彼女独特の大きな芸風が「太陽王」に打ってつけ。コスチュームもよく似合い、堂々とした立ち居振る舞いで作品世界の空気を一気に変えてしまうのには舌を巻く。朝夏が次公演での退団をすでに発表していて、今後ますます注目が集まること必至の男役だが、悠揚迫らぬスター性は頼もしい限りだ。そのルイが300年思い続けている月の女神ディアナの伶美うららも、少ない出番で絶大なインパクトを残すことに成功していて、ドレス姿も美しく、やはり「美は正義なり」の宝塚を体現する娘役だと感じる。東京公演の演出変更で、2人の息子プティ・ルイ(遥羽らら)も加わって、3人が絵姿になる終幕も当を得ていて、より完成された大団円になった。ルイの侍従ムノンの松風輝も滋味深い良い芝居をしているだけに、ショーを休演しているのが気がかりだが、1日も早い全快を祈っている。
 
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更に、とにかく登場人物が多いので、宙組メンバーの多くが働き場を得ていることが嬉しい中で、大団円のすべてを握る金沢貫一の愛月ひかるの、思い切りの良い演技は喝采もの。宝塚の二枚目男役としては、かなり酷な「秘密」を抱えている役柄だが、彼女の芝居のおおらかさがその「秘密」をも笑い飛ばせる効果になっている。相手役のミチルの星風まどかも、ショートパンツから伸びる足も健康的で、良く柄に合った。戸川光男の桜木みなとは、小心者の添乗員の告白に影ツアー全員が加担してやる展開に、納得できる好青年ぶりで役を支えたし、そこに思惑を秘めていることをきちんと表した丹野夫妻の凜城きらと彩花まりも達者。専科から出演の元定時制高校教師・岩波の一樹千尋の、重石としての役割はやはり貴重だし、その妻正枝の花音舞が、違和感なく一樹に添っていてこれは嬉しい驚き。物語の重要な山場を作る下田夫妻の寿と美風が、組長、副組長ならではの深い芝居を見せたのに、全く引けを取らない右京の編集者早見リツ子の、純矢ちとせの上手さも際立つ。彼女に恋をするピエールの和希そらの、パリジャンぶりも実に決まっていた。
そして、特筆すべきはクレヨンの蒼羽りく。本来女性が男性を演じる「男役」が当たり前に「男性」として存在する宝塚の中で、その男役が男性でありながら、性自任は女性のトランスジェンダーを演じるというハードルは恐ろしく高い。実際、これまで特に現代劇で、こうした役柄が宝塚作品に登場することは極めて稀だったと思うが、そのハードルを軽々と、むしろ楽しそうに乗り越えていて驚かされた。これは蒼羽自身が男役として、1つの完成された形を手の内に入れているからこそできた離れ業だろう。宙組の貴重な戦力として、今後も大切にして欲しい人材だ。そんなクレヨンに愛される警官、近藤誠の澄輝さやとも、如何にも堅物な真面目人間が、クレヨンに感化されていく流れを、台詞がないところでもよく表現している。原作の書かれた年代がかなり前なので、LGBTに対する侮蔑的な言葉がどうしても出てくるのだが、過度のひっかかりを与えなかったのはたいしたもの。硬質な美しいマスクも役柄をよく助けていて、良い組み合わせの2人だった。

何よりも、誰かの為に笑う、そして自分の為に笑うことの尊さが、ポップなコメディからしみじみと立ち上る終幕が美しく、宝塚版ならではの『王妃の館』が完成していることを喜びたい。

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そんな作品の後に控えたのが、スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』で中村暁の作。人々が非日常の空間に集う FESTA(祭り)をテーマに、リオのカーニバル、中欧・北欧に伝わるヴァルプルギスの夜、スペインの牛追い祭り、日本のYOSAKOIソーラン祭りなど、世界各地の FESTAを描いた各場面が、宙組のパワー漲るメンバーによって繰り広げられていく。

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所謂お国めぐり形式で、レビューとしては王道中の王道の作りだが、「祭り」に特化したことによって、各場面場面の色合いが明確に分かれつつ、どの場面も盛り上がりと勢いがあるのが嬉しい。中でも、朝夏の闘牛士と蒼羽の牛が繰り広げるダンサー同士ならではの高度なダンスは見ものだし、真風と実咲が組んだことで新鮮さが出たストーリー性のあるシーンも面白く、愛月を中心とした若手男役たちの場面の颯爽とした雰囲気も良い。何よりも「YOSAKOIソーラン」の「ソーラン」と宙組をかけて「ソーラン、宙組!」と盛り上げた中詰めは、長く語り草ともなろう宙組でしかできない名場面となった。

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一転、澄輝と桜木の歌からはじまるフィナーレは、退団する実咲と男役たちの場面あり、伶美中心のロケットあり、と宙組のスターたちを立てつつ、朝夏まなとの頭文字「M」の隊形に揃った男役たちからはじまる大階段の黒燕尾のダンス、そしてトップコンビの名残のデュエットダンスと、盛りだくさん。朝夏&実咲コンビのフィナーレを飾る花束のように、宙組の総力を挙げた見応えあるレビューとなっている。

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また、初日を前に、囲み取材も行われ、宙組トップコンビ朝夏まなとと実咲凜音が、公演への抱負を語った。

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その中で、芝居について、個性豊かなキャラクターが暴れ回る作品の中から、心温まるラストに至る流れで明日への活力を得て頂けたら嬉しいと朝夏が語ると、コメディならではの難しさがあるので、新鮮さを大切にしたいと実咲が語るなど、それぞれ作品への思いの深さを感じさせる一コマも。

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一方ショーについては、それぞれにお気に入りのシーンがありつつ、「でもやっぱりソーラン宙組!が好きです!」と一致した答えに至って、コンピのあうんの呼吸は健在。

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更に、次公演での退団を発表した朝夏に心境を尋ねる質問もあった中で「今はとりあえず実咲を無事に送り出すことが私の使命だと思いますので、 しっかりとサポートしたいです」と朝夏がキッパリと答えたのがなんとも印象的。退団時期が重ならなかったからこそ、コンビとして互いを尊重しようとする姿勢がにじみでる、朝夏&実咲コンビの美しきラストランに思いを馳せる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、5月9日発売の「えんぶ6月号」に舞台写真の別カットと共に掲載致します。どうぞお楽しみに!

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〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』
原作◇浅田次郎 「王妃の館」(集英社文庫刊)
脚本・演出◇田渕大輔
スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』
作・演出◇中村暁
出演◇朝夏まなと、実咲凜音 ほか宙組
●2017/3/31日〜4/30日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001

※Chateau  の「a」には「^」がつきます。





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】





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新生月組が一丸となって盛り上げる珠城りょうトップお披露目公演 宝塚月組『グランドホテル』『カルーセル輪舞曲』

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新トップスター珠城りょうのお披露目公演である、宝塚月組公演、ザ・ミュージカル『グランドホテル』と、モン・パリ誕生90周年レビューロマン『カルーセル輪舞曲』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(26日まで)。

ザ・ミュージカル『グランドホテル』は、1928年のベルリンを舞台に、高級ホテルを訪れた人々が1日半のうちに繰り広げる様々な人生模様を描いたミュージカル。原典の映画は群像劇を総称する「グランドホテル形式」という言葉を産んだ作品としても知られ、1989年トミー・チューンの演出・振付により、ブロードウェイで上演されたミュージカル版はトニー賞5部門を受賞。宝塚歌劇では、同氏を演出・振付に迎えて、1993年に上演された涼風真世、麻乃佳世を中心とする月組での初演が大きな喝采を集めた。今回はそれ以来、ほぼ四半世紀ぶりとなるとなる待望の再演で、トミー・チューンを特別監修に、岡田敬二、生田大和が演出を担当。新トップスター珠城りょうが実は破産状態にあるものの、貴族のプライドを失わないフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵に。また、トップ娘役の愛希れいかが世界的なバレリーナ、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤに扮した、謂わば『グランドホテル』〜ガイゲルン男爵編〜の趣のある作品になっている。

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【STORY】
1928年、ベルリンにある世界に名だたる高級ホテル「グランドホテル」には、今日も回転ドアを潜り抜けてやって来ては、また去っていく人々の人生が交錯している。
ここに長期滞在しているフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(珠城りょう)は、人生に快楽のみを追い求めるハンサムな貴族として、ホテルに関わる人々の羨望を集める存在だ。出産が長引いているフロント係のエリック(朝美絢・暁千星Wキャスト)の妻に、花を贈ることも欠かさないなど、洒脱さを示しながら悠々自適に暮らしている。だが、その実フェリックスは、ホテルの滞在費を半年以上も滞納しているほど、多額の借金を抱え困窮しており、彼の傍には今日も、借金の取り立て人である運転手(宇月颯)が忍び寄ってきていた。
そんな時フェリックスは、5回目の引退興行の最中である世界的プリマ・バレリーナ、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ(愛希れいか)をロビーで見かけ、その美しさに圧倒される。けれどもグルーシンスカヤ自身は、バレリーナとしての自分に自信を失いかけていて、22年間彼女への思いをひた隠しにしながら、献身的につき従うラフェエラ(暁千星・朝美絢Wキャスト)に、キャンセル料を工面して公演を中止したいので、所有している高価なダイヤモンドとルビーのネックレスを売りさばくよう頼んでいた。
そこへ、ユダヤ人簿記係オットー・クリンゲライン(美弥るりか)も回転ドアを通って現れる。実は不治の病に冒されているオットーは、全財産を現金に換え、ただ働きづめに働いて来たこれまでには手に出来なかった、新しい人生を求めて「グランドホテル」に宿泊しようとしていたのだ。だが、彼の貧しい身なりを見た支配人(輝月ゆうま)は、予約は取れていない、今日は満室だとオットーをホテルから追い出そうとし、確認を懇願するオットーとの間で押し問答が続いていた。その様子を見かねたフェリックスの口添えで、一転宿泊を許されたオットーは、初めて会った本物の貴族であるフェリックスに深く感謝する。
そこにまた、フリーのタイピスト、フリーダ・フラム(通称フラムシェン、早乙女わかば・海乃美月Wキャスト)がやってくる。ホテルに宿泊しているプライジング社長(華形ひかる)の「秘書募集」の求めに応募してきた彼女は、いつかハリウッドスターになる夢を持ち続けているものの、早急にまとまった額の金銭を必要とする事情を抱えていた。そんなフラムシェンをダンスの相手に誘ったフェリックスは、彼女をオットーに紹介しダンスの相手をしてやってくれと耳打ちする。初めてのダンスに夢中になるオットーだったが、フラムシェンを探しに現れたプライジング社長は、かつての部下であるオットーの名前すら覚えてはいなかった。
その一方運転手は、借金の返済の為にグルーシンスカヤが舞台に立っている間にネックレスを盗んでこいと、フェリックスを唆す。やむなくグルーシンスカヤの部屋に忍び込んだフェリックスは、マネージャー(光月るう)と興行主(綾月せり)の懇願を受けて舞台に立ったものの、アンコールの拍手さえ沸き起こらなかった空席だらけの客席にショックを受け、公演の途中でホテルの部屋に逃げ帰ってきたグルーシンスカヤと鉢合わせしてしまう。だが、この予期せぬアクシデントによる出会いが、フェリックスとグルーシンスカヤに、思いもかけなかった情熱の火を灯すことになり……

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1989年にトミー・チューンが、映画で有名だった『グランドホテル』をブロードウェイミュージカルとして上演した折には、「ミスター・ブロードウェイ」の手で鮮やかなミュージカルとして生まれ出た、作品に対する世界の評価は絶大なものだった。だからこそそんな伝説と数々の受賞歴を引っ提げて、宝塚版としてこの作品が1993年に本邦初演されたことにも、特別な輝きがあったのは間違いない。それは当時、宝塚随一のフェアリーとして礼賛されていたトップスター涼風真世が、自身の退団公演にも関わらず、重篤な病を抱えているしがない簿記係を演じるという、宝塚歌劇のセオリーからすれば、極めてイレギュラーなキャスティングを押し通すだけのパワーだった。実際に、美しい正方形が並ぶマス目の床に、金と赤の椅子が整然と置かれ、回転ドアを通って人々の人生がひと時ふれあい、またすれ違っていく、新たな様式美に満ちた舞台は、宝塚を観ているということ以上に、新しいブロードウェイミュージカルの風を感じさせてくれる興奮に満ちていた。

それからほぼ四半世紀。作品は様々な形で日本の舞台を彩ってきている。特に、現在イギリス気鋭の演出家として世界から注目を集めているトム・サザーランドが、新たな視点を持ち込んで、主要役のほとんどをWキャストとしただけでなく、それぞれ2チームの結末が異なるという、極めて刺激的な演出で展開された新たな『グランドホテル』が、我が国でわずか1年前に上演され、ミュージカル通の間で大きな話題と絶賛を集めていたことが、この宝塚版への見方を否応なく変えた面はあると思う。まず端的に言って、初演から経た年月がプラスに働いたのは、この作品で月組のトップスターとして正式な披露をする、しかも近年では異例と言える若い学年でのトップ就任となった珠城りょうが、男役としてのカッコよさを追求できるフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵を演じられたことだ。これはやはり、ブロードウェイミュージカルを宝塚作品に変換する為の、大きな功績と仕掛けになっていた。一方、ガイゲルン男爵を主役にする為と、宝塚歌劇の二本立て公演の上演時間の制限とによって、多くのキャラクターのエピソードがカットされたのが、やはり作品全体に少なからぬ影響を与えている。特に「時間が残り少ない」とすべての登場人物が口にする、その切迫感がどこにあるのかを示すものが薄くなっているのは惜しまれる点だ。この「時間が残り少ない」という感覚は、ポピュリズムに覆われようとしているのを感じざるを得ない、今現在の世界の空気に、これは決して幸福なことではないながらピッタリと合致するものなだけに、そのヒリヒリとした感触が遠のいたのはもったいなかった。

けれども、また視点を変えると、トミー・チューン版だけが持つ様式美、回転ドアと、マス目の床と、赤のビロード張りの金色の椅子という装置に、宝塚ならではの美が実に巧みに生かされていることもまた浮かび上がってくる。まず何よりも、椅子を動かし、決められたマス目の中で立ち、歌い、時に踊り続ける出演者たちの、統一された集団の美しさが比類ない。これだけの大人数を、ホテルの従業員や客といった、名前のない役どころ、所謂アンサンブルに使える劇団は、宝塚を置いて他にはない。しかも、その大人数が必要に応じて個性を際立たせ、また一瞬にして個の魅力を消し、集団としてのユニゾンに徹する様は見惚れるばかりだ。そこには確かに、宝塚にしか成し得ない世界観を持った『グランドホテル』が広がっていて、改めて多くの人の人生が1つのホテルを通り過ぎていく、という作品の骨子を支えていた。

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そんな中で、フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵に扮した、珠城りょうの美丈夫ぶりは注目に値する。最初に新人公演で抜擢された入団2年目という段階から、どっしりと落ち着いた魅力を放っていた珠城は、これまでの道のりでも実年齢にあった若い青年役よりもむしろ、もう少し大人の役に輝きを見せる人として深い印象を残してきた。それが今回の男爵役に無理を感じさせない力になっている。特に、珠城が非常に誠実な、好人物を演じられる魅力に長けていることがはっきり表れたのは、ここからトップスターとして歩み出す珠城の指針を極めて明確に示したと思う。この人には、王道のスターの香りと存在感が確かに備わっている。それだけに必要に迫られて盗みにまで手を出していても、ジゴロにはなれない貴族の強いプライドを持つ男爵の屈折した面よりも、根は鷹揚で、良い家柄の生まれの高貴な男という面が、鮮明に前に出る形になった。その為例えば、宝塚版初演の男爵役久世星佳の表現を好むところなどからは、或いは違和感を生じさせるかも知れない。だが、今回取り入れられた男爵の大ナンバー「Roses At The Station」で回想される、野原を駆けまわっていた少年の日々、そのまぶしく清らかな少年時代をこの男爵が確かに持っていた人物であることが、納得できる男爵像は、珠城時代のはじまりにとって決して悪いものではなかった。クラシックな正統派スターの誕生を、改めて喜びたい。

その珠城の相手役を引き続いて務めることになったトップ娘役の愛希れいかの出来栄えが、全体からも頭1つ抜けていて、強烈に目を引かれる。全盛期を遠く過ぎたプリマバレリーナというには、当然ながらいささか若いが、それを適度な貫録と大物感で補い、世界に名を成した人だけが持つエキセントリックさを巧みに表現していて、突然現れた男爵との恋に少女の心を取り戻していく過程が一層鮮やかだ。もともと抜群のダンス力を誇る人でもあって、バレリーナならではの日常にも現れる足の運び、立ち姿などにリアリティーがあり、恋に落ち踊る情熱を取り戻したグルーシンスカヤのナンバー「Bonjour,Amour」の喜びの爆発の表現には、涙さえ誘われる。愛と死が手を結んだことを表す「Death/Bolero」の珠城との高度なリフトを含んだダンスナンバーも素晴らしく、珠城&愛希コンビのデュエットダンスが、月組の新たな呼び物になるだろう予感も十分。男爵を主役に据えたことで、どう描くかに注目していたラストシーンも、回転扉から出て行く愛希のグルーシンスカヤと、入ってくる珠城の男爵、純白の衣装の2人が回転扉の中で瞳を交わす演出が、作品中の白眉と言ってもよい鮮やかな余韻を残していて、秀逸だった。トップ披露作品でトップスターが銀橋に出ないというのは確かに異例だが、レビューが後に控えていることも考えると、ここで幕を切る選択も十分可能ではなかったかと思う。それほど美しいシーンを、新コンビ2人が創り出していて、今後への期待が高まった。

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宝塚版初演でも、外部公演でも芯となる人物、オットー・クリンゲラインに扮した美弥るりかは、華やかな容姿を眼鏡の奥に潜め、命の残り火を見つめている人物の悲哀と、虚無感と、だからこそ燃え盛る生への執着を静かに、だが見事に表現している。初演でこの役を演じた涼風真世の大ファンだったという美弥が、今月組で新トップの珠城を支える立場で同じ役を演じるという、何かのはからいかのような機会を確実に捉え、着実な実績を残したことは、美弥るりかというスターにとっても大きなエポックになることだろう。男爵とチャールストンを踊り興じる姿の我を忘れた没頭ぶりも、死の恐怖を抱えた人のギリギリの行動に見えて、病だけでなく時代がユダヤ人のオットーにそれを許さないことを承知で、平穏な未来が彼に訪れることを祈らずにはいられない、「オットー・クリンゲライン閣下にお車を!」の終幕のエリックの台詞が、胸にしみる演じぶりだった。

そのホテルのフロント係エリックと、グルーシンスカヤの付き人を交互に演じたのが、朝美絢と暁千星。暁のエリックには、この作品中「時間は残り少ない」ことが希望につながっている、唯一の人物に相応しい明るさがあり、子供の誕生を喜ぶ歌声も実に伸びやか。観る度に歌が上手くなっていて伸び盛りの勢いを感じさせる。一方の朝美は、感情を押し殺したホテルマンになろうと努めながらも、根の優しさが邪魔をするギャップを丁寧に表現した役作り。その丁寧さが、更にラファエラの造形にも生きていて、グルーシンスカヤへの複雑な愛情に、ほの昏いものもにじませた好演だった。暁がグルーシンスカヤへの純粋な憧れと敬愛で、ひたすらに彼女の楯となろうとするラファエラだったのと併せて、各役、両者の個性の違いが面白かった。

もう1人、ハリウッドスターを夢見るフラムシェンもWキャストで、早乙女わかばと海乃美月。『1789〜バスティーユの恋人たち』でも、主人公ロナンの恋人役であるオランプをWキャストで演じていて、月組の重要な娘役としての地位を確立している2人だ。華やかな存在感で早乙女が、安定した歌唱力で海乃がそれぞれ際立ち、これもまた見比べる楽しさのあるWキャスト。プライジング社長から提示される、謂わば愛人契約をビジネスと割り切れると信じて引き受けてしまうことが、悲劇を呼ぶ役どころだけに、そういう行動に出ざるを得なかったフラムシェンの切迫感を、もう少し強く出しても良い気もするが、2人共に比較的余裕を強調した演技なので、そういう演出意図なのだろう。宝塚の娘役としては難しい役柄に、果敢に挑んでいた。

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そのプライジング社長は、専科から特出の華形ひかる。専科に転出以来、所謂外箱公演で数多くのヒットを飛ばしてきていたが、本公演には久しぶりの登板。基本的に彼女はスターだし、更に明るさと朗らかさを有した魅力的な人だけに、もちろん健闘しているが、柄違いの香りは拭えなかった。特にプライジングがどれだけ追い詰められ、破滅的な心境に陥っているかを表すエピソードがごっそりカットされているので、ともするとただの好色な男性に見えかねないのは、あまりにも気の毒だ。折角の人材、是非配慮を持った起用を願いたい。
こうした全体のシーンの取捨選択によって、割りを食った役柄がある一方で、男爵が主役になったことで俄然大きな役柄として際立ってきたのが、男爵に借金返済を迫る運転手役の宇月颯。物語が男爵を軸に動くだけに、その男爵を追い詰め、次の行動、その次の行動へと促していく運転手役は、宇月の色気たっぷりの、妖しさもにじませた凄味の表出と相まって、作品の展開を握っている存在ともなっていたのが嬉しい発見だった。起用に応えた宇月の快演と共に、群像劇のどこにフォーカスを置くかによって、作品の見え方がかくも変わることを証明した役柄として印象深い。
そんな作品のストーリーテラーとして、グランドホテルのすべてを見つめ続けているドクターに扮した専科の夏美ようが、決して出過ぎず、けれど気配を消し過ぎもせず、常に全体を俯瞰して舞台に位置する按配が絶妙。作品の重石として得難い存在感を示していた。

他に「グランドホテル」で踊り続ける盲目の伯爵夫人・憧花ゆりのと、ジゴロ・紫門ゆりやが、初演ほどには効果的に見えなかったのは、演者ではなく演出の問題ではないかと思われるのが惜しまれる点だったが、前述したようにコールドの美しさが特に印象的で、新生月組の総力を結集したテクニカルでありつつ、様式的な舞台となっている。
 
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そんな作品の後に、美しい回転木馬のシルエットからスタートするのが、日本初のレビュー「モンパリ」誕生90周年を記念したレビュー『カルーセル輪舞曲』で稲葉太地の作。90年前に、パリから学び宝塚に蒔かれた「レビュー」の種が、今、こんなにも大きな花を咲かせました、と、高らかに歌い上げたレビュー讃歌が晴れやかだ。
特に、ひと昔、ふた昔前までの宝塚で当たり前だった花の都パリへの徹頭徹尾の賛美が、あくまでも敬意は持ちながら品良く後退して、宝塚レビューを誇らかに提示してくるのは、やはり現代のレビュー作家である稲葉ならではの感性の賜物だろう。何より王道のお国巡りレビューが、パリからはじまり、世界各地を周り、宝塚に帰ってくる、宝塚伝統の黒燕尾のダンスが「モンパリ」の音楽で展開される見事さ、この誇り高き宝塚讃歌には、胸を熱くさせるものがある。

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しかも素晴らしいのは、この作品がレビュー誕生90周年を寿ぐだけでなく、新トップスター珠城りょうのお披露目をも、華やかに提示していることで、どこへたどり着くのかはわからないが、旅のはじまりに胸は震える、と珠城が晴れやかに歌う時、月組の新たな未来への夢が大きく膨らんでいくのを感じた。特に、珠城に添うだけでなく1人で立派に場面を持つことができる愛希の、まるでバービー人形のようなプロポーションとダンス力、ファンタジックなシーンにピッタリの美弥るりかの、華やかな容姿とスター性の上に、正統派二枚目であるトップスターの珠城が揃った陣容は、ラストランがはじまっている雪組のトップ、トップ娘役、二番手男役の「トリデンテ」と称される強力さを思い起こさせるものがあり、新たなトリデンテ伝説が新生月組ではじまる予感を覚えた。

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他にも、雪組への組替えを控えて重要なポジションを立派に務めた朝美絢、「モンパリ」へのオマージュである汽車のラインダンスを堂々と担った暁千星の巧みな使い方をはじめ、月組スターたちへの目配りが隅々にまで行き届いていて、目に耳に楽しい。ニューヨークでは朝美と共に紫門ゆりやが愛希と踊り、組長憧花ゆりの以下、多くの娘役たちが大活躍。千海華蘭と晴音アキの歌唱力も生かされている。『ノバ・ボサ・ノバ』へのオマージュを感じさせるブラジルでは、響れおな、貴澄隼人、輝月ゆうまが銀橋に出る。輝月には更にシルクロードで白雪さち花と共に抜群の歌声を披露するカゲソロがあるし、果てしない未来を目指すインド洋では、1人では越えられない荒波を、あなたの翼になり手を取りあって越えて行こう!と新生月組を高らかに宣言する「飛翔」と名付けられた佳曲を、宇月颯が見事な美声で歌い上げた。優れたダンサーとしてはかねてから定評のあったこの人が、実は優れた歌手でもあることは、これまであまり知られていず、宝の持ち腐れをもったいなく思っていたものだが、それがあたかもこの日の為の温存だったのかと思わせたほどの、秘密兵器ぶりが鮮やかだ。そしてもちろん貴千碧、咲希あかね、煌海ルイセ、美里夢乃の退団者たちへの餞があり、水先案内人として全体を引っ張る華形ひかるは、セリ上がりあり、銀橋渡りありの八面六臂の活躍で本領を発揮していて、華形ならではの魅力がショーで全開になったことに安堵した。だからと言って月組生の活躍も負けず劣らず顕著で、エトワールの麗泉里まで、見どころ満載。珠城率いる月組の、輝く未来に期待の高まる輝かしいレビューとなっている。

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また、初日を前に、囲み取材も行われ、新トップコンビ珠城りょうと愛希れいかが、新たな月組の旅立ちとなる公演への抱負を語った。

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その中で、新コンビとしての互いの魅力を問われた珠城が、トップ娘役としてのキャリアを重ねた今、大人っぽいものから可愛らしいものまで幅広く演じられるのが、愛希の魅力だと語ると、愛希は、珠城とは1学年違いという関係性から、密な立ち位置で見続けてきたが、舞台に対するまっすぐさがずっと変わらないと、珠城を語り、黒燕尾の似合う男役さんらしい男役としての、珠城の魅力を改めて真摯に伝えて、早くも互いのコンビネーションは上々の様子。

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更に、どんなトップスターになりたいか?を問われた珠城から、これまで自分が見続けてきたトップさんのいずれもが、組の中で太陽のような存在だったので、自身も組の皆を照らすような存在でありたい、という決意が語られ、新生月組の新たな船出の順風満帆な航海が予感される時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は5月9日発売の、えんぶ6月号に舞台写真の別カットと共に掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演 
ザ・ミュージカル『グランドホテル』
脚本◇ルーサー・ディヴィス
作曲・作詞◇ロバート・ライト、ジョージ・フォレスト
追加作曲◇モーリー・イェストン
オリジナル演出・振付・特別監修◇トミー・チューン
演出◇岡田敬二
演出◇生田大和
翻訳◇小田島雄志
訳詞◇岩谷時子 
モンパリ誕生90周年 レヴュー・ロマン『カルーセル輪舞曲』
作・演出◇稲葉太地  
出演◇珠城りょう、愛希れいか ほか月組
●2017/2/21日〜3/26日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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宝塚歌劇が特撮ヒーローものに挑んだ芹香斗亜東京初主演作品!宝塚花組公演『MY HERO』

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宝塚花組の二番手男役スターとして活躍している芹香斗亜の、待望の東京初主演作品である、宝塚花組公演アクションステージ『MY HERO』が、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(23日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティで4月2日〜10日まで上演)。

ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊ものなど、数多くの名作を生んでいる「特撮ヒーローもの」と呼ばれるジャンルは、子供たちばかりでなく、大人にも根強いファンを持つ日本の一大ムーブメントの1つだ。今回、作・演出の齋藤吉正は、そんな世界に着目。敢えてかなり劇画チックに舵を切ることで、宝塚の世界観と特撮ヒーローの融合を図った異色作となっている。

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【STORY】
かつて全米中の子供たちを虜にした伝説のヒーローMASK☆Jを、再び映画として蘇らせる『MASK☆J The Movie』の制作発表会見が、華やかに行われていた。主人公MASK☆Jを演じるのは、人気絶頂のイケメン俳優ノア・テイラー(芹香斗亜)だ。子供たちの夢を叶えるヒーローを演じることに意欲満々な挨拶を続けるノアだったが、実は子供が大嫌いな彼は、この仕事に対して真摯な気持ちなど持ち合わせていなかった。
というのも、ノアの父親ハル・テイラー(綺城ひか理)は、かつてMASK☆Jのスーツアクター(マスクをつけて変身後のヒーローを演じる、顔の出ないアクション俳優)として、伝説のスタントマンと呼ばれた存在だったが、撮影中の事故で死亡。幼くして父親を失ったノアは、世の中に顔も出せず、危険なアクションシーンだけを演じてきた父に対する屈折した思いから、スーツアクターを軽蔑し、必ず顔の出るスター俳優になろうと決意し、今日の地位を得ていたのだ。その為、自身のスーツアクターを務めているテリー・ベネット(鳳月杏)に対しても、ねぎらいの言葉ひとつかけるでなく、高慢な態度を取り続けていて、私生活にも大きな乱れが生じていた。
だが、そんなノアのスターを鼻にかけた享楽的な生活は、スポンサーがらみの致命的なスキャンダルで一変する。『MASK☆J The Movie』の主演は降板。これまで何かとノアをかばってきた事務所からも縁を切られ、たちまちにしてスターの座を転げ落ちるノア。『MASK☆J The Movie』があれだけ馬鹿にしていたテリーを主演に改めてクランクインするという話も、ノアはただ歯噛みして聞くしかなかった。
しかも、ひょんなことから知り合った元テニスプレイヤ—であり元グラビアアイドルのポジティブな女性クロエ・スペンサー(朝月希和)が、マネージャーとして懸命に取ってきた仕事は、なんと遊園地のヒーローショーのスーツアクターだった。どんなに落ちぶれてもスーツアクターにだけはなりたくない、父親の二の舞はご免だ!と抵抗するあまり、ノアは段取りをロクに覚えないままにマスクをつけてショーに出演し、ショーをめちゃくちゃにしてしまう。
そんなノアに「あなたは私の夢を壊した!」と泣きながら訴えたのは、福祉学を学ぶ学生マイラ・パーカー(音くり寿)だった。彼女の言葉から、伝説のヒーローMASK☆Jに本気で夢を見る人たちがいることを悟ったノアは、真剣にマスクをつけ、ヒーローを演じるようになる。そこには自分を本物のヒーローだと思い、声援を送ってくれる子供たちがいた。マスクの中から父親が見ていた景色、自分が知らなかった世界に、次第に気づかされていくノア。けれども、マイラがボランティアを務めるシルバーホーム「ネバーネバーランド」に持ちあがった新興企業「スマイルカンパニー」による買収話が、意外やノアがスターの座を追われたきっかけとなった、スキャンダルの暴露と関連していることがわかりはじめ……

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おそらく子供の頃に、鮮やかに変身し、悪の秘密結社や、怪獣たちをカッコよく倒すヒーローたちに憧れた…という記憶を持つ人は、かなり多いのではないだろうか。それだけでなく「仮面ライダー」に代表される長い歴史を誇って来た特撮ヒーローものは、子供と一緒に画面を食い入るように見つめている母親たちの熱狂的な支持を集めて、数多くのスター俳優を生み出し続けている。けれども一方で、変身後のヒーロー、マスクの下で本人の顔を知られることなく、颯爽とヒーローを演じるスーツアクターの存在が、脚光を浴びることは極めて稀だ。
そんな世界にスポットを当てた齋藤吉正のアイディアは、なかなかに卓越したものだったと思う。特に、広く顔を知られることこそが大切で、常に美しく在ることが正義の宝塚スターと、決して顔を知られてはいけないスーツアクターを結び付けた発想は、誰しもができるものではなく、作家の意欲的な挑戦として評価できる。齋藤得意の映像でスタートする展開も、アメリカンコミックから飛び出したような快調なテンポ感を生んでいて、好感が持てた。
 
ただ一方で、様々なアイディアを詰め込み過ぎたきらいがあるのもまた事実で、中でも謎の新興企業として登場する「スマイルカンパニー」の件が、作品の非現実度をいたずらに高めてしまっているのがどうにももったいない。世界征服の計画がご近所の小狭い買収話からはじまるのは、特撮ヒーローもののある種のお約束でもあって、おそらくはそこに作家のオマージュがあるのではないか?と推察されるが、ノアと亡き父親の関係、ノアと父親の再婚相手である継母との関係、実は病を抱えていたテリーとノアの立場の逆転、更にダブル・ヒロインであるマイラとクロエとの出会いからの様々なエピソードなど、人と人との関わりを丁寧に描いただけで、十分感動作になり得る美しいテーマが作品の中にはあふれている。そこに真っ直ぐに向かう方法も、或いはあったのではないだろうか。特に専科勢を大量投入したという訳ではない若手主体の公演で、シルバーホームの老人たちが、かなりの時間を割いて登場するのは、懸命に演じているスターたちにもやや酷な気がした。

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だが、そうしたあれこれをどうでも良いか、という気にさせるのが、主演の芹香斗亜の、これぞヒーロー!と快哉を叫びたい文句なしのカッコよさだ。驕慢なスターとして登場する冒頭から、そのスターの座を追われ、自虐的な仕事にも取り組まなければならなくなる作中のノアの描写は、決して徹頭徹尾カッコよいものではない。にも関わらず、とにかく芹香はどんな時も、どんな場面でも、自分で自分を「カッコ悪いな」と吐露する時でさえも、抜群のプロポーションと男役度の高さで魅了してくれる。しかもこの人の舞台には鷹揚さと、温かな優しさがあるから、どんな場面も品が落ちない。そんな芹香演じるノアが人間として成長していく、転落からのサクセスストーリーに心躍らないはずがない。もちろんマスクをつけたヒーローとしてのアクションも見事に決まり、爽快な東京主演デビューとなった。バウホール公演での初主演から、今回の東京・大阪での二度目の主演公演まで、スケジュールの巡り合わせで時を要したが、その蓄積があってこその芹香の現在であることを思うと、スターとしての逞しさを感じる。

そんな芹香のノアの影武者的立場から、一転スター街道を昇り始めるテリーを演じた鳳月杏も、花組への加入以来、驚くばかりのスピードで階段を駆け上がっている、本人と役柄がリンクした面白さがあった。特に1幕で多く張られていた役柄の伏線がミステリアスで、何かを秘めている風情が鳳月の個性をよく活かしていたので、ここを脚本が更に効果的に回収してくれれば、より大きな役どころになった可能性もあったと思う。是非そうなって欲しいと思わせるのも、鳳月の魅力あってのことだから、重用の理由もわかろうというもの。芹香と2人でマスクのヒーローを演じるシーンは、互いのプロポーションの良さが引き立て合って素晴らしかった。

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「この物語のヒロインである」という華々しいナレーションと共に登場するマイラの音くり寿は、少女時代にノアの父親と重要な関わりを持っていた役どころ。この「少女時代」というのが、目下音の魅力が最も引き立つところでもあって、彼女の個性を脚本が良く活かしている。過去のトラウマから車椅子生活になっているという設定なので、主なシーンで車椅子に乗ったままの演技になったが、よく動く表情と美しい声で難題に果敢に挑んでいた。一方、元全米901位のプロテニスプレイヤーなる、どう考えても誇れる経歴ではない出自を、あっけらかんと自慢するアメリカン・ガール、クロエに扮した朝月希和は、これまでしっとりとした演技に成果をあげてきていた姿から一転、あくまでもポジティブな女性像が、実に魅力的だったのが大きな収穫だった。基本的に泣き顔の人だと思っていたが、こういうポップな役柄もいけるとなると、役幅がグッと広がるから、このチャンスをきっかけに更に伸びていって欲しい。クロエが元テニスプレイヤーだったことが終幕につながるので、これは是非設定をお忘れなきよう、と言ったところ。
 
ノアの父親ハル・テイラーの綺城ひか理が出番としては多くないながら、非常に重要な登場をしていて、目下大売り出し中の勢いを感じさせる。そのハルの再婚相手のメイベルに芽吹幸奈が扮して、しとやかに添えるのが花組娘役の伝統ならでは。前述の「スマイルカンパニー」は天真みちる、乙羽映見、矢吹世奈が思いっきりカリカチュアして演じていて、役者陣の奮闘には惜しみない喝采を。他に梅咲衣舞、和海しょう、華雅りりか、茉玲さや那、等がそれぞれの持ち場で奮闘していて、盛りだくさんな作品を支えていたし、冴月瑠那以下シルバーホームの老人たちの、タカラジェンヌはかくも健気で真摯な演技者であると示した姿勢に敬意を表したい。総じて出演者全員で、芹香斗亜の東京初主演作品を盛り立てた姿は清々しく、手島恭子のこれぞ特撮ヒーローもの!のワクワク感あふれる音楽と共に、宝塚の美徳を感じさせる公演になっている。

〈公演情報〉
宝塚花組公演
アクションステージ『MY HERO』
作・演出◇齋藤吉正
出演◇芹香斗亜 ほか花組
●3/16〜23◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席 7.800円 A席 5.000円
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
●4/2〜10◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉S席 7.800円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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期待の若手作家競演による色濃い二本立て。宝塚花組公演『雪華抄』『金色の砂漠』

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明日海りお率いる花組が、新進気鋭の若手作家による冒険的な作品に挑むと同時に、トップ娘役花乃まりあの退団公演でもある宝塚花組公演、宝塚舞踊詩『雪華抄』トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』が、東京宝塚劇場で上演中だ(2月5日まで)

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まず前ものに用意されたのは、チョンパと呼ばれる、日本物に欠かせない幕開きの手法(暗転の中で緞帳が上がり、その間に居並んだ出演者たちが拍子木の「チョン」という音に続いて照明が「パ」っとカット・インする舞台に勢ぞろいしている形)で、華やかに開幕する日本ものレビュー『雪華抄』で、原田諒の作品。リンカーン、アル・カポネなど、歴史上に名高いが宝塚歌劇の主人公として取り上げるのは、いささかハードルが高いと思われてきた人物を、次々に宝塚の世界に引き込み、宝塚歌劇の枠を広げる作品を発表して、内外から注目を集めている気鋭の若手作家が初めて挑む、日本ものレビューとして、注目を集めている作品だ。

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全体は、紅梅白梅の初春で幕を開け、七夕幻想と波しぶきの夏、月光の秋から雪の冬、そして再びめぐりくる桜満開の春爛漫と、春夏秋冬を追った、王道の日本ものレビューの形をきちんと踏襲しているが、そこは常に新しい視点を宝塚に持ち込んできた原田のこと。彼の作品をきっかけに、宝塚でも数々の優れた仕事を重ねている装置の松井るみはもちろん、今回新たに衣装デザイン・監修にデザイナーの丸山敬太を起用して、慣れ親しんだ宝塚の和もの世界の雅やかではんなりした色調を、もう少し濃いくっきりとした色彩にシフトさせている。特に、作品の後半、秋から冬へ、そして再び春へとめぐる流れを、「清姫綺譚」と題された「安珍清姫」の情念の恋と、その昇華に持ってきたのが、これまで芝居を書いてきた原田ならでは。明日海りおの恐ろしいほどの美貌と、花乃まりあの突き詰めた表現が、この大きな流れによく合っていて、日本ものレビューを見ながら、何か物語を見たような気持ちにさせられる、妙味があった。

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それでいながら、宝塚の日本ものレビューに欠かせない存在である専科の松本悠里が舞う「花椿」の雅、明日海の鷹と柚香光の鷺が一騎打ちとなる「鷹と鷲」の鋭さ、二番手男役の芹香斗亜と、次期トップ娘役に決定している仙名彩世が、美しく舞う「七夕幻想」の柔らかさ、花組総出演で盛り上げる「波の華」など、組の陣容と出演者の個性を適材適所に配した流れも美しい。元々絵柄として場面を見せることに長けている原田に、レビューの演出をというのは、面白い視点だったと思わせた。総体に懐かしさと新しさが同居している日本ものレビューとなっていて、いつか原田の創る洋物のレビューも観てみたい気持ちにさせられたのは大きな収穫。今後の更なる活躍に期待したい。

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そんな美しく、でもどこか色の濃い日本ものレビューの後に登場したのが、トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』で、こちらもデビュー以来、その作品の完成度の高さが大きな話題を呼んで来た上田久美子の作品。プログラムの作者言によれば「エンターテイメントに徹っしよう!」との思いでスタートした作品作りだったとのことだが、どうして、どうして、宝塚歌劇としては、かなりの冒険作。非常にディープで、熱く濃い、狂気のような愛憎と情念の世界が展開されていく。

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物語は広大な砂漠の古代王国イスファンという架空の国で展開される。この架空の国というところが作者の眼目で、この国の王家には王子が生まれたら女の奴隷、王女が生まれたら男の奴隷を、「特別な奴隷」として1人ずつあてがい、共に成長させて身の回りいっさいの世話をさせるという仕来りがあった。と聞いただけで、どうしてその「特別な奴隷」が同性ではいけないのか、異性が四六時中共にいて育つのでは何かと話がややこしいのでは?と思うのだが、この疑問を「仕来りでございますから」の一言で押し通した作者の剛腕が、物語を怒涛のように展開させていく。
第一王女タルハーミネ(花乃まりあ)の特別な奴隷ギイ(明日海りお)は、身分こそ奴隷でありながら、誇り高く能力にも優れた美貌の男子として成長する。そんな彼が常に寝起きさえ共にして、やはり誇り高く、美しい女性へと花開いていくタルハーミネに想いを寄せないはずはない。もちろん王女も同様なのだが、奴隷に心惹かれる己を許せないプライドが立ちはだかり、2人の関係はうねりを起こしながら、張りつめた弦のような緊張を続けていく。そこに、王国の抱えるギイを巻き込んだ大きな秘密が横たわり、互いを支配することでしか想いを貫けない男女の愛は、憎しみと表裏一体となって砂漠に燃えてゆく……。

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まず基本的に宝塚の男役トップスターに奴隷を演じさせることには、相当高いハードルがあっただろう。宝塚の世界観の中には「女性が夢を見られる男尊女卑」という、実はかなり入り組んだ価値観が確かに存在していて、トップスターが虐げられる、しかも四つん這いになって足台になるなどという設定は、ただそれだけで嫌悪感を呼び起こす危険性が高い。そこに敢えて踏み込んだ上田久美子は、愛し合うことによって支配と被支配が逆転する男女の愛憎を、更に立て続く大きな出来事で二転三転させ、まさにアラベスクと題された通りの無限に展開していくドラマを仕立てた。貼られた伏線もきちんと回収しているし、そもそもの設定の大嘘は、他国の王子に疑問を呈させるなど目配りも周到で、命も罪も砕け散る美しい場所、砂漠のどこかにあるという「金色の砂漠」が指し示す、終幕への流れも壮絶だ。何より終盤のたたみ掛ける展開こそ駆け足の感が否めないが、子供時代の回想を含んだ時系列の飛翔を混乱なく提示したのは、やはり作者の確かな力量を感じさせた。一方で、主人公2人の情念と愛憎の世界があまりにディープなので、観ている側にも相当な体力が要求されるのもまた事実。コアなリピーターに最も大きく支えられている宝塚歌劇としては、あらゆる意味で挑戦的で、冒険的な作品だったと言えるだろう。

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そんなドロドロとした深く、濃い世界を支えたのは、類い稀な美貌と、真っ直ぐ役柄にのめり込んでいく芝居心とを持ち合わせた明日海りおというスターが、今花組で頂点にいたが故のことだ。この人の美しさの中には、どこかにほの昏い炎が燃えている凄味がある。それが愛と憎しみが隣あうこの世界を、ひたひたと満たして、この世ならぬ悲劇を、悲劇という名の狂気、ある意味ではすべてから解放され救われる道はここにしかなかったというラストシーンに至る、主人公がたどるドラマを支え切っていた。
同じことが花乃まりあにも言えて、宙組の愛らしい若手娘役だったところから、花組に移り、明日海の相手役を務めるに当たって、彼女が積み重ねたはずの研鑽のすべてが、この王女役に注ぎ込まれている。男役の前に対等に立ち、火花散る芝居のやりとりを怯むことなく演じきったのは、宝塚のトップ娘役としてはかなり稀な経験だったと思うが、美貌を誇る男役の相手役であること、ただ美しいだけでは食い足りないと評されてしまう、明日海りおの相手役というポジションを、この2人でなければ成立しなかったドラマで見事に締め括った。トップ娘役としての本懐を遂げた姿に拍手を贈りたい。

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この物語の語り部でもあり、主役2人と同じ立場でありながら、いつしか王女への愛も、王女からの愛も家族のような親密さに姿を変えて行く奴隷ジャーに扮した芹香斗亜は、柔らかで優しい持ち味が作品に一服の清涼剤となる効果を与えている。ドラマ全体の役割としては、常に一歩引いた傍観者である立場なので、二番手男役としては難しい立ち位置だったと思うが、この人がいなかったらドラマがどこまで殺伐としたことか、と思わせたのは芹香の存在感あったればこそ。相手役となる第二王女ビルマーヤ役の桜咲彩花の、童話の世界に出てくるお姫様をそのまま体現したたおやかさも良い。
 
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また、ヒロインの求婚者に扮する柚香光の、明日海とはまた違った直線的な美貌が作品のインパクトを高めている。奇妙な風習に疑問を呈したり、主人公が足台になる場面に「野蛮だな」と心情を吐露したりという、謂わば客席の反応の代弁者でもある役どころに、舞台に登場しただけで目を引き付ける柚香が扮した効果は絶大。ヒロインへの求愛も、これぞ宝塚男役のキメっぷりで、異色の作品と宝塚歌劇とのバランスをも担っていて頼もしい。
他に、王国が抱える闇を体現する存在である国王役の鳳月杏の色悪の魅力が、哀しみを湛えて生きる王妃役の仙名彩世の心の動きに説得力を与えて、この配役も見事。久しぶりに若々しい役どころが新鮮だった瀬戸かずやをはじめ、花野じゅりあ、水美舞斗、音くり寿などが目を引き、専科の英真なおきの好助演も得て、難しい作品に組全体で体当たりした様が、砂漠の熱風を生んでいた。

それにしても、フィナーレがついていて本当に良かったと思える重い作風は、翻せば上田久美子が宝塚のセオリーを巧みに利用しているのだとも言え、日本ものレビューの原田共々、若手ならではの攻めの姿勢にあふれた公演となっている。

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そんな公演の初日を前に、通し舞台稽古が行われ、花組トップコンビ明日海りおと花乃まりあが囲みインタビューに応じて作品への抱負を語った。

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まず何よりも、記者の質問は『金色の砂漠』の難しい設定に対して、苦労はなかったか?という点に集まったが、明日海からは「台本を読んだ時に、これは難しいと思った」という趣旨の素直な感懐が聞かれ、ただ愛しい、愛しているというだけでは済まない関係なので、千秋楽までが発展途上の日々だとの想いが語られた。

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また花乃も大劇場公演を終えても、まだまだこの作品をよくする為に何ができるかを考える毎日だとの言葉があり、千秋楽まで進化し続けるこのコンビらしい回答が揃った形となった。

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そんな状況であるだけに、公演中にはこれが退団公演だという想いには全く至らないという花乃に、明日海も芝居の間にはそのような気持ちがよぎらないでくれる方が良いので、千秋楽の幕が下りた時に役を生き抜いて、やりきったという想いで晴れ晴れと卒業して欲しいというエールが贈られ、ハードルの高い作品に共に立ち向かっていく、このコンビならではの決意が伝わる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は、本誌用の舞台写真と共に3月9日発売の「えんぶ」4月号に掲載致します。どうぞお楽しみに


〈公演情報〉
宝塚花組公演
宝塚舞踊詩『雪華抄』
脚本・演出◇原田諒
トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』
作・演出◇上田久美子
出演◇明日海りお、花乃まりあ ほか花組
●2017年1/2〜2/5◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




水夏希出演、アルジャーノンに花束を




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高い美意識に貫かれた出色の舞台 宝塚宙組公演 Musical『双頭の鷲』

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宝塚を象徴する存在として、活躍を続けている専科の轟悠と、トップ娘役実咲凜音をはじめとした宙組精鋭メンバーがジャン・コクトーの世界に挑んだ意欲作Musical『双頭の鷲』が横浜のKAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(15日まで)。

『双頭の鷲』は、フランスの天才芸術家として名高いジャン・コクトーが、19世紀末に起きたアナーキストのルキーニによる、ハプスブルク家皇妃エリザベート暗殺事件に着想を得て1946年に書きあげた戯曲で、作者自ら映画化も手掛けた濃密な室内劇として、今尚世界中で高い人気を誇っている。そんな作品を、コクトーの生きた時代の空気を漂わせながら、ミュージカルとして再構築したのが、今回のMusical『双頭の鷲』で、原作を十二分に尊重しつつ、宝塚の様式美と音楽を巧みに取り入れた作品となっている。

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【STORY】

とあるヨーロッパの王国。婚礼の夜に暗殺された国王の10年目の命日である嵐の夜、クランツ城で1人、亡き夫を偲ぶ晩餐を始めようとしていた王妃(実咲凜音)のもとへ、窓から王の肖像画に生き写しの男スタニスラス(轟悠)が飛び込んでくる。彼は王妃暗殺の機会を狙うアナーキストの詩人だった。皇族でありながら自由主義に傾倒する王妃は、スタニスラスの詩を暗唱していて、暗殺者である彼をを匿い城に留め置く。全く異なる立場と境遇にありながら、同じ孤独の中に生きてきた2人は急速に距離を縮めていくが、それは2人の運命を悲劇へとひた走らせていく邂逅に他ならず……。

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ジャン・コクトーの戯曲では、6人の登場人物のみで演じられる舞台を宝塚に乗せるに当たって、脚本・演出の植田景子は、物語の中で起きる出来事を外から見つめているストーリーテラーと、パパラッチ達を置くという二重構造をしつらえている。そのことによって、作品世界は現代に引き寄せられ、事実に着想を得たフィクションをもう一度反転させ、あたかも事実であるかのように客席に届ける効果を生んでいた。特に、舞台面いっぱいにしつらえられたクランツ城の王妃の部屋が、透明なカーテンと白で統一されていて、その透明なカーテン越しにパパラッチ達が透けて見える様は、舞台前面に常にいる語り手であるストーリーテラーと共に、観客の視点を代弁する存在として静かな力を放っていた。彼らが巧みに舞台で踊り、また語る流れに少しも違和感がないのは実に見事だ。

更に感嘆させられるのは、この舞台に植田景子の高い美意識が、徹頭徹尾に貫かれていることだった。国王の肖像画、天蓋のある大きな窓といった大掛かりなものから、燭台の灯り、本、毒入りの小瓶などの小道具に至るまでの、すべてに植田景子の強いこだわりが感じられる。前述した通り白と透明で統一された舞台に、主人公の2人が心を通わせた瞬間、鮮やかな真紅が迸る美しさ。膨大な台詞劇に巧みに取り入れられたミュージカルナンバーも、少しのつかえもなく流麗に流れ、物語を運んでいく。装置の松井るみ、作曲の斉藤恒芳、振付の大石裕香、衣装の有村淳、照明の佐渡孝治、小道具の市川ふみ、などスタッフワークのそれぞれが、作品の世界観をよく理解し、植田景子の指揮の元その才能を発揮させているのが素晴らしかった。

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そうした、極めて優れた舞台成果を生んだ、そもそものはじまりに主演の轟悠がいることは論を待たないだろう。ここ数年特に、轟悠でなければ宝塚で上演を考えることは難しかったに違いない海外の戯曲や、難易度の高い題材に挑戦し、宝塚そのものの可能性を拓き続けている轟なくしては、まずジャン・コクトーの『双頭の鷲』上演という企画そのものの成立が難しかったと思う。だが蓋を開けてみれば、今や宝塚の財産演目となっているミュージカル『エリザベート』の本邦初演で、アナーキストのルイジ・ルキーニ役を演じた轟が、その『エリザベート』初演から20年の記念すべき年に、同じルキーニに想を得た、この作品のスタ二スラスを演じているという、運命に導かれたかのような合致には息をのむ凄味が感じられた。何より作品を引っ張る求心力には絶大なものがあり、ギリシャ彫刻のような顔立ちから発せられる、突き詰めた狂気の片鱗、その奥にある純粋さなどの表出のすべてが、この耽美な美しき世界を牽引していた。

そんな轟に正面から対峙したのが王妃役の実咲凜音で、宙組で直近に上演された『エリザベート』でタイトルロールを演じていた、その勢いのままに縁のあるこの舞台に飛び込んだ疾走感がある。宝塚の娘役という枠の中にはとても納まりきらない大役に全力でぶつかっていく姿に芯が通り、轟に対して一歩も引かずに渡り合ったのは天晴れ。来年4月での退団をすでに発表しているが、タカラジェンヌである間にこれだけの経験を積んだことは、実咲の将来にとっても大きな財産となったことだろう。

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この2人に立ちはだかる警察長官フェーン伯爵に扮した愛月ひかるの、現代的な作りが物語世界から浮かなかったのは、作品の二重構造の賜物であると同時に、愛月本人の宝塚スターとしての押し出しの良さ故。抜群のプロポーションも舞台に映え、進境著しいのが頼もしい。亡き国王の旧友フェリックス・ド・ヴァルレンスタイン公爵に若き二枚目の桜木みなとが配され、桜木ならではの品の良さと貴公子ぶりに役柄を引き寄せたのも面白かったし、複雑な立場にある王妃の侍女エディット・ド・ベルクの美風舞良の演じぶりも的確。2人それぞれに魅力的だったので、あとはバランスの問題か。王妃の傍近く仕える聾唖の黒人少年トニーの穂稀せりは、実直でひたむきな演技で起用によく応えた。

そして、ストーリーテラーとして作品の解説役を担った和希そらの好演が一際鮮やか。時に客席に大胆に語りかけ、時に作品に溶け込み、決して物語世界の邪魔はしないながら常に舞台に存在している。思えば難しいはずの立ち位置のさじ加減が絶妙で、『エリザベート』新人公演で演じたルキーニ役に引き続いた出色の出来だった。更に、綾瀬あきな、風馬翔をはじめとしたパパラッチの存在が、この宝塚版『双頭の鷲』に独特の世界観を持ち込んだのは冒頭述べた通りで、轟悠以下21人の出演者の力と、スタッフワークの結集がこの秀でた記憶に残すべき舞台を生んだことを喜びたい。

〈公演情報〉
宝塚宙組公演
Musical『双頭の鷲』
原作◇「L’AIGLE A DEUX TETES」 by Jean COCTEAU
提供◇ジャン・コクトー委員会会長 ピエール・ベルジェ氏
著作権代理◇(株)フランス著作権事務所
脚本・演出◇植田景子
出演◇轟悠、実咲凜音 ほか宙組
●2016/12/9〜15◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席7,800円、A席5,000円
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071
〈公式サイト〉http://kageki.hankyu.co.jp/



【取材・文・撮影/橘涼香】



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