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帝劇ミュージカル『1789』

レビュー

不老不死の苦悩から浮かび上がる愛の尊さを描く愛月ひかる東上初主演作品! 宝塚宙組公演『不滅の棘』

不滅 愛月ソロ

宙組の男役スターとして進境著しい愛月ひかる、待望の東上初主演作品である、宝塚歌劇宙組公演ロマンス『不滅の棘』が、日本青年館ホールで上演中だ(29日まで)。

『不滅の棘』は、チェコの代表的な作家カレル・チャペックの戯曲「マクロプロス事件」をもとに、木村信司がヒロインの設定をヒーローに置き換え、新たな脚本として書き下ろした作品。2003年に当時の花組トップスター春野寿美礼主演で初演され、純白で統一されたセットと衣装、望まぬままに永遠の命を与えられた青年が辿る数奇な運命を描いた、非常に歌の比重が高いオペラティックな作風などが話題となり、大好評を博した。以来、約15年。新トップスター真風涼帆率いる新生宙組で、ますますの活躍が期待されている愛月ひかるを中心とした宙組選抜メンバーで、待望の再演の幕が開くこととなった。

不滅 椅子

【STORY】

1603年、ギリシャ・クレタ島。医師ヒエロニムス・マクロプロス(水香依千)は、国王ルドルフ2世を欺むき、不死の秘薬と偽って王に渡した薬の効力がないことが発覚し、王の差し向けた刺客に襲われ命を落とす。だが、1人残された息子のエリィ・マクロプロス(愛月ひかる)は、衝撃の事実を知り呆然としていた。父が研究していた薬の中で、ただ1つ本当に不老不死の効果をもたらす薬を、知らぬ間に自分が飲まされていたというのだ。望まぬままに不死の命を得てしまったエリィは、1人悲嘆に暮れる。

1816年、プラハのカレル橋。不死の身のまま今は、宮廷のお抱え歌手エリィ・マック・グレゴル(愛月)として生きる彼に、物乞いの女性が「施しを」と声をかける。その日自分が寝泊まりをするに足りる金額だけを残して、財布ごと女性に投げ与えてしまうエリィ。ところが、物乞いに身をやつしていたのは、彼を慕い続ける令嬢フリーダ・プルス(遥羽らら)だった。ひたすらにエリィの愛を乞うフリーダに、例え誰を愛してもその相手は自分を置いて世を去ってしまうと、自らに人を愛することを禁じてきたエリィの心は揺れ動き、二人は1つの影となってカレル橋を去っていく。

1933年、プラハ。4代前から引き継いだ、100年に及ぶ裁判の原告であるフリーダ・ムハ(遥羽・二役)は、弁護士コレナティ(凛城きら)の助言を無視し、訴えを最高裁に持ち込んだものの、敗訴の判決が下るのは確実との報せに苛立っていた。コレナティの息子アルベルト(澄輝さやと)は、確たる証拠もないまま訴訟を急ぐフリーダの姿勢の理解に苦しむが、フリーダは人は100%死ぬのだから、生きている間にお金が欲しいのだとキッパリと言い放つ。
そこへ突然、公演の為にプラハに滞在中の有名歌手エロール・マックスウェル(愛月)が現れ、呆気にとられる一同をよそに、フリーダの訴訟に興味を示したばかりか、100年も前の事件についての有力な情報を次々と明かしだす。
そんな彼の様子にアルベルトは強い不信感を抱くが、裁判の結論をひっくり返せるかも知れない新事実にフリーダは飛びつき、コレナティもその情報を裏付ける証拠さえあるなら、と言い募る。するとエロールは、証拠は訴訟相手のプルス男爵邸の書棚にあるはずだから、今夜盗みに行こうとこともなげに提案する。見ず知らずの、しかも大スター歌手が何故自分の訴訟に、そこまで協力しようとするのかを、さすがに訝しんだフリーダに、エロールは「お前には幸せになって欲しい」と、謎のような言葉を残し、アルベルト、コレナティと共にプルス男爵邸に向かう。

プルス男爵邸にはフリーダの訴訟相手の男爵未亡人タチアナ(純矢ちとせ)と、酒に溺れる日々に幻覚さえ見るようになっている息子ハンス(留衣蒔世)と、そんな兄を心から案じるクリスティーナ(華妃まいあ)が暮らしていて、泥酔したハンスを巡ってこの日も口論が続いていた。そこに忍び込んだエルーロたちは、折悪しくクリスティーナに気づかれ、アルベルトとコレナティを逃がしたエロールは、恐慌して銃を構えるクリスティーナを懐柔しようとするも失敗。背中を撃たれてしまう。人を撃ってしまったと取り乱すクリスティーナに、エロールは傷口をかばいながらも、明日の公演を必ず観に来て欲しいと告げて姿を消す。

翌日の夜、エロール・マックスウェルが負傷したらしいというゴシップ記事をよそに、エロールは何事もなかったかのように舞台に姿を現わした!100年前の事件を詳細に語り、背中に銃弾を受けたはずなのに、華麗に歌うエロール・マックスウェルは何者なのか?。フリーダ、アルベルト、クリスティーナ、タチアナ、ハンス、コレナティ。彼をめぐる人々の渦の中で、事態は次第に不穏な様相を呈していき……。

不滅 全景

永遠の命を得る、不老不死を扱った物語は、古今東西数多く創作されていて、奇しくも現在宝塚大劇場で上演中の『ポーの一族』を含めて、宝塚の舞台にも幾たびか登場している。ただ、それらの多くは所謂「吸血鬼伝説」を基にしていて、永遠の命をつなぐ為には、人の生き血を、つまり、同時代に生きる人の命を奪う必要がある、人外の者の苦悩と、当然ながら人々に弾圧される姿が描かれていくものがほとんどだ。そこには不老不死=人ならざる者という図式が横たわっていて、それ故に、永遠の命を得た者は、鏡に映らない、太陽の光に弱い、十字架に含まれた信仰を恐怖するなどの、様々な弱点も抱えている。
一方、この作品『不滅の棘』が描いているのは、不老不死の身となる秘薬によって、人ならざる者でなく、人として300年以上の年月を生きている男の物語だ。老いることもなく、病に倒れることもなく、死ぬこともない。如何に若く美しくいられるかを、非常に手近なものでは化粧品から、高度なものでは整形手術などによって、追い求める人々が決して少なくない、アンチエイジング全盛の現代の目から見れば、『不滅の棘』の主人公は、人類の究極の夢を叶えた人物とさえ言えるかも知れない。

けれども、作品が決してハッピーな色合いのものではなく、更に、主人公のエリィ=エロールが、全く幸福に見えないのは何故かと考えた時、やはりいくら肉体が永遠に老いず、死なないとしても、人の精神がそれだけの年月を健全なまま耐えることはできないのだろうという、想いに至らざるを得ない。誰を愛しても、誰と友情を育んでも、その相手は必ず老いていき、やがて天寿を全うし、去っていってしまう。そんな数限りない別れをただ見送るばかりで、自分だけが変わらないまま、永遠に置き去りにされるのだ。それは想像しただけでも、背筋が凍るほど恐ろしい終わりなき時間に違いない。主人公の目に映る世界のすべてが、凍り付いた白に覆われているのも理解できる。

だからこそ、別れを恐れ、他者と行きずりでない関わりを持つことを禁忌としていた主人公が、ただ1人愛した人の面影さえ、今はおぼろになってしまった哀しみと、それでも尚300年の時を経て、その「愛した記憶」が時折胸を疼かせる『不滅の棘』として、永遠に残る、というタイトルに帰結するロマンの香りが、なんと切なくも美しいことか。ここには、こうした永遠の命を描いた物語のある種のセオリーとも言える、限りある命の尊さに帰結するだけに留まらない、人を愛することへの想いの深さと、畏敬の念がある。木村信司という劇作家が描くテーマや、書く言葉には、しばしばこちらの心の襞のようなものを、真っ直ぐに射抜いてくる、成人男性がつまびらかにするには、ためらいも大きいのではないかと思うほどの清らかさがあるが、その純なものがこの作品の中に、それこそ棘のように潜んでいて胸に染みる。それでいて、エンターテイメント性や、宝塚の男役ならではの気障さや、ポップな遊び心もあって、作品のバランスも良い。改めて、15年ぶりにこの作品が、愛月ひかる主演によって蘇ったことに、喜びを感じる仕上がりとなった。

不滅 主演コンビ

と言うのも、愛月の持つどこか素朴で、人間らしい温かみのある個性と、宝塚の二枚目男役になる為に生まれたかのような抜群のプロポーションで繰り出す、気障にキメた男役度の高さという、二つの魅力の色合いの差異が、300年の時を生きることになるエリィ=エロールの造形に生きているのだ。特に、冒頭永遠の命を得てしまったことに慟哭する青年という、実に短いが、大変重要なシーンで愛月が見せる純粋さ、真っ直ぐさが、役柄が永遠の時を生きる間に、澱のようにたまっていく虚無感との落差を鮮明に表してくる。更にそれでいながら、宮廷歌手のエリィや、大スター歌手エロールの中にも、300年の時のはじめには、純粋で温かい青年だった、という人物の根っこが透けて見えるのが、愛月が演じるならではの主人公像として、新鮮かつ魅力的だった。初演の春野寿美礼の、これぞカリスマの大スターぶりももちろん魅力だったが、愛月の人間味の垣間見える造形が、また新たな作品の輝きを生んだことは、再演に当たっての大きな成果と言える。何より、宙組の前任トップスター朝夏まなとの時代に、二枚目男役としては稀有な、振り幅の大きい個性的な役柄を次々と演じてきた愛月が、その経験を肥しにして、尚かつ「これぞ宝塚の二枚目スター!」と呼びたい、胸のすくカッコよさを見せたことは、男役愛月ひかるにとって貴重なポイントとなるに違いない。名歌手の誉高かった春野に合わせて書かれた、まるでオペラのような楽曲の数々をきちんと歌いこなしたのも好印象で、宙組の新たな時代に、貴重な生え抜きスターとしてますます活躍してくれることだろう。その道程に注目していきたい。

相手役のフリーダを演じた遥羽ららも、新人公演ヒロインや、バウホール公演での準ヒロインを経て、東上公演の初ヒロインの座を勝ち取った。彼女の個性に適っているのは、1816年に登場し、主人公の心に永遠の棘を残すフリーダ・プルスの方だが、出番としては圧倒的に「お金が欲しいの!」と直截に言い切る、1933年のフリーダ・ムハが多い。こうした現代的な役柄では、しばしば苦戦の跡を感じさせていた遥羽だけに、成果に注目していたが、今回は思い切りの良い演技で、相当な進歩が見られるのが何より。1場面の出番のフリーダ・プルスが印象的なのも作品にとって必要なことだし、フリーダ・ムハが最後に取る行動が、主人公の積年の虚しさをある意味浄化するのに、遥羽の湿度の高い演技が生きてもいて、宝塚のヒロインとしてはかなり難しい設定をよく支えていた。

フリーダ・ムハを愛するアルベルトの澄輝さやとは、美しいマスクの中に、常に知的なものがあるのが、役柄に新たな効果を生んでいた。初演の瀬奈じゅんの陽性な個性は、春野のクールを互いに照射して高め合ったものだが、愛月の根底にある温かみと、澄輝の精巧なカットグラスのような個性もまた、違った意味で照射しあっていて、これはキャスティングの妙。その澄輝に対して、かなり若い時の子供なのだろうなとは思わせるものの、飄々と父親として位置できる凛城きらの力量も貴重だ。

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また、準ヒロインとも言えるクリスティーナの華妃まいあが、如何にも宝塚の娘役らしい愛らしさと、健気さを見せていて、宙組は現トップ娘役・星風まどかの快進撃の影で、下級生の娘役にやや光が当たりにくかった時期があるが、華妃を含めて、今後また新たな娘役たちが台頭してくることだろう。そんな期待を抱かせるに十分な存在感だった。その兄、ハンスの留依蒔世は、今回は彼女の盤石の武器である歌唱力以上に、演技力で目を惹きつけたのが収穫。欲を言えばやはりもっと歌って欲しい人だが、作品の大切なアクセントになっていて、成長を感じさせた。二人の母タチアナの純矢ちとせは、一癖も二癖もある食えない母親でありつつ、十分に魅力的な女性でもあるという役柄を、いとも軽々と演じていて、もうこういったポジションは彼女の独壇場。主人公が辿った足跡を証明する存在でもある、老女カメリアの美風舞良は、思い切った年輪の造形で、脚本が求めた役割をきっちりと果たしていて手堅い。

他にもエロールのコーラス・ガール愛白もあ、花咲あいり、桜音れい、花菱りず、道化の星月梨旺、掃除婦の里咲しぐれ等印象的な役柄や、楽曲の極めて多い作品の中で、ソロを担う人材も多く、カンパニーも充実。15年ぶりの再演が、作品を新たに磨き上げ、鮮烈な印象を残す舞台となったことを喜びたい。


〈公演情報〉
宝塚宙組公演 ロマンス『不滅の棘』
原作◇カレル・チャペック
脚本・演出◇木村信司
出演◇愛月ひかる ほか宙組
●1/23〜29◎日本青年館ホール
〈料金〉S席 6,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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少女漫画の金字塔の見事な舞台化で輝く、柚香光東上初主演作品!宝塚花組公演『はいからさんが通る』

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宝塚花組の男役スターとして進境著しい柚香光の東上初主演作品である、宝塚花組公演ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』が日本青年館ホールで上演中だ(30日まで)。

「はいからさんが通る」は1975年〜77年に「週刊少女フレンド」で連載された大和和紀の少女漫画。大正浪漫華やかなりし頃の東京を舞台に、未だ女性の生き方に大きな制約があった時代に、快活にひたむきに生きる「はいからさん」花村紅緒と、祖父母の代からの許婚で、日本人の父とドイツ人の母の間に生まれた眉目秀麗で笑い上戸の陸軍少尉、伊集院忍との運命の恋が描かれる、波乱万丈な王道ラブコメ。作品は連載当時から大人気を博し、アニメ化、舞台化、テレビドラマ化、実写映画化と、時代を超えて様々なメディアに取り上げられ、本年から来年にかけて新たな劇場版アニメーションも公開予定の、不朽の名作として少女漫画の歴史に燦然と輝き続けている。
宝塚歌劇では、1979年に平みちの伊集院忍、花鳥いつきの花村紅緒他の出演で、テレビドラマが作られているが、以来、40年近く待望論の絶えなかった舞台化が遂に実現。宝塚期待の男役スター柚香光の東上初主演公演として上演されることになった。

【STORY】
時は大正七年、春四月。陸軍少尉・伊集院忍(柚香光)は幼い頃に定められた許婚のもとを初めて訪ねる道すがら、自転車で暴走してくる少女に遭遇。派手にひっくり返って、赤いリボンを捻じ曲げたまま、自分に猛抗議をしてきた「ハイカラ娘」を、まるでつむじ風のようだ、と感じる。
そのハイカラ娘こそが、忍の運命の相手・花村紅緒(華優希)だった。かつて忍の祖父と紅緒の祖母は二世を誓った恋人同士だったが、御一新の世に、公家の家柄の伊集院家と、代々徳川家に仕えた旗本の花村家の婚礼は叶わず、二人はやむなく引き裂かれてしまう。その別れに際して二人は、いつの日か身分や家柄に縛られない平和な世が来た暁には、ふたつの家をひとつにしようとの誓いを立てる。だが、両家に生まれたのは共に男の子。二人の願いは、三代目である忍と紅緒に引き継がれたというのだ。
恋も結婚も自分で選ぶ!良家の殿方の申し入れを待つような人生はまっびら!と思っていた紅緒には、到底納得できない話だったが、両家も、更に忍も結婚してから愛を育めば良いと、この婚約になんら不満はない様子。たまりかねた紅緒は、忍に恋している同級生の華族令嬢・北小路環(城妃美伶)、幼馴染で紅緒を慕う歌舞伎の女形役者・藤枝蘭丸(聖乃あすか)の協力のもと、伊集院家の嫁としては到底受け入れられない娘の烙印を押されるべく、嫁入り修行の行儀見習いに入った伊集院家で大騒動を繰り返すが、それらの顛末を面白がるばかりの忍を筆頭に、伊集院家の人々に次第に愛されていく。しかも紅緒自身がいつしかそんな忍に惹かれていく自分に戸惑いを覚えるようになる。だが、そんな中、忍と紅緒の婚約披露の席で起きた騒動から紅緒は伊集院家を飛び出し、酔った勢いで忍の亡き戦友の内縁の妻である柳橋の芸者・吉次(桜咲彩花)にからんでいた陸軍中佐・印念(矢吹世奈)に酒を浴びせかけてしまう。駆け付けた忍のとりなしでその場は収まり、二人は互いの気持ちが更に深く近づいたことを悟るが、忍の上官であった印念中佐は憤懣やるかたなく、そこに配属された者はやがてシベリア戦線に送られることを承知で、忍を小倉連隊へと転属させる。
自分の為に、忍が左遷されたことに苦しむ紅緒を励ました忍は、今度東京に戻った時には正式に結婚しようと誓いを交わして紅緒の元を去るが、ほどなくしてシベリアの前線に送られる。その極寒の地で忍は、孤立した小隊を守る為決死の脱出を試みるが、傷ついた部下・鬼島軍曹(水美舞斗)を助けに戻った際コサック兵に襲われ行方知れずとなってしまう。
やがて、紅緒のもとに忍戦死の報せが届き……。

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基本的に舞台空間を縦三段で展開できるように作りつけられた一杯飾りのセットに、映像を組み合わせて舞台は展開するのだが、何よりも驚かされたのはコミックスにして全8巻、しかも大正7年のシベリア出兵からはじまり、関東大震災をクライマックスとする長大な原作世界のすべてを、2時間半の作品にまとめあげた脚本・演出の小柳奈穂子の手腕だった。原作世界が大河ドラマの場合、多くはそのどこかに焦点を絞って作品が作られるものだし「はいからさんが通る」の過去の映像などの作品群も、ほとんどがそうした手法を取っている。だが、今回の宝塚版に際して原作の大和和紀氏から、物語全体を舞台化して欲しいとの要望があったそうで、その原作者の想いを見事に具現化し、しかも単なるダイジェスト版に陥ることなく、波乱万丈な激動の時代に、運命の恋を貫く忍と紅緒の姿を浮かび上がらせた小柳の仕事ぶりは、賞賛に値する。これによって、それぞれにスピンオフが作られるほど、良い男揃いの原作世界の人気キャラクターが、ほぼ舞台に網羅されることになったし、何よりも、才色兼備でなくドジでおっちょこちょいのヒロインが、様々なタイプのイケメン登場人物すべてから愛されるという、1970年代の少女漫画の、王道ラブコメに共通した世界観を、決して否定はしないままほんの僅かに後退させ、過酷な運命の中で、自ら未来を切り開いていくヒーローとヒロインの歴史大河ドラマ色を前に出した視点が効いていた。この世界観なら、永遠に変わらないようでいて、やはり少しずつ色を変えている現代の「乙女の夢」に、作品がすんなりと着地することができる。これは、今やこうした長大な原作ものを宝塚化する作業においては、確実に一、二を争う小柳奈穂子の面目躍如たるもので、軽快なリズムとテンポをもった主題歌にのって、登場人物が勢ぞろいする冒頭からフィナーレまで、1つの無駄もなくスピード感を保って舞台が進む様はあっぱれだった。

そんな作品の中で、原作のキャラクターに扮した花組の面々の、原作再現率の高さがいずれも完璧なばかりでなく、演じたスターの個性も決してかき消えていないことがすばらしい。

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その筆頭が言うまでもなく伊集院忍に扮した柚香光。日本陸軍の軍服姿で舞台のセンターに登場した刹那から、「生き少尉」という最大級の賛辞を大和氏から贈られたのも納得の、完璧なビジュアルを披露。日本陸軍の軍服だから、当然ながら宝塚で通常スターが履く膝までを隠す丈でなく、極普通のロングブーツなのだが、それでも長い手足のスタイルは全く損なわれることなく美しく、彫りの深い顔立ちも混血の少尉そのままだ。しかも、どんなに気障に決めても嫌味にならない二枚目男役の押し出しの中に、素の茶目っ気とどこかやんちゃな少年性が覗く柚香の個性が、笑い上戸という原作設定の忍に打ってつけで、その明るさが際立つからこそ、物語後半の悲痛な表現も生きてくる。踊れる人ならではの身体能力の高さも、漫画世界が動き出した姿にピッタリのキレの良さを示していて、実際、ここまで全てが整った東上初主演も珍しいというほどの、文字通りの代表作を一気に勝ち得たのは、、やはり柚香光というスターが星を握って生まれてきた人である証だろう。話題性1つを取っても十分大劇場で通用した作品を、敢えて短期の別箱公演にぶつけてきた歌劇団の力の入り方も含めて、今後柚香がどこまで大きなスターとなっていくか、その輝く道程がハッキリと見えた公演として、長く語り継がれるものになるに違いない。

その相手役、と言うよりも、原作世界の揺るぎない主人公・花村紅緒には、華優希が抜擢された。花組の直近の大劇場公演『邪馬台国の風』新人公演のヒロインで注目を集め、そのまま一気に紅緒役へと駆け上がった、謂わばシンデレラガールで、当然ながらまだ技術的に拙いところも見受けられるものの、むしろそれすらが紅緒らしさに通じる、体当たりの熱演が清々しい。宝塚のオリジナル作品のヒロインと比べても、格段に出番も多く、役割も大きい紅緒を一心不乱に演じている華を、微笑んで見守る柚香から、自然な包容力が生まれる力にもなっていて、この抜擢は大正解。誰もが応援せずにはいられない、愛すべき紅緒像を描き出していて、『ハンナのお花屋さん』の舞空瞳同様、花組娘役の台風の目になりそうだ。注目していきたい。

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そんな紅緒を思う、良い男軍団では、職業夫人として編集者を目指す紅緒が務める出版社の編集長・青江冬星の鳳月杏の存在感が際立つ。物語の展開上、主な出番はほぼ2幕からなのだが、日本人で巻き毛のロングヘア—の男性という、これぞ漫画世界の登場人物を悠々と表出していて、出番の遅さを全く感じさせない力には舌を巻く。出版社の名前が「冗談社」というネーミングからもわかる通り、女性に触れられると蕁麻疹が出るという、単なる二枚目なだけではないカリカチュアされた設定も、抜群のプロポーションで余裕にこなし、紅緒を巡って忍と三角関係になる終盤のドラマをよく支えていた。
キャラクターの再現率という点では、こちらもピカイチの鬼島森悟の水美舞斗は、馬賊の装束の着こなしも完璧で、一見強面だが、信義に厚く、情も深い男の中の男を骨太に演じて見応えがある。特に、やはり柚香との同期ならではの阿吽の呼吸が、少ない出番で忍と鬼島の絆を現す原動力になっていて、これはキャスティングの妙。男役としてますます力をつけていて、この人の主演作も是非観てみたい。
紅緒を慕っているだけでなく、紅緒が幼馴染の彼を守ろうとすることでドラマが動くキーパーソンでもある藤枝蘭丸の聖乃あすかは、何よりも美しい男役であることが、この役柄に生きている。まだ男役として発展途上なことも、歌舞伎の女形である蘭丸を演じるには効果的な要素になっていて、振袖姿もなんとも艶やか。作品の重要なポジションをしっかりと務めていた。

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また、ヒロイン経験のある娘役が、それぞれの役柄に力を発揮しているのも大きな要素で、北小路環の城妃美伶は、華やかな容姿と洗練された娘役芸が、お転婆でじゃじゃ馬という設定の紅緒との対比をよく現し、役柄の存在価値を高めている。2幕冒頭の「モダンガール」のナンバーも豊かな歌声で盛り上げ、新しい生き方を模索する華族女性を見事に表現していた。芸者・吉次の桜咲彩花も、たおやかでいながら一本筋の通った気風の良さも持ち合わせた柳橋の芸者を、馥郁と演じていて、作品の良いアクセントになっている。若手娘役が台頭している花組だが、やはり彼女たちの地力は貴重で、今後も大切に遇して欲しい。もう1人、後半の鍵を握る女性ラリサに扮した華雅りりかも、難しい役どころを悲しみと哀れさを保って表現していて好感が持てる。出番の多寡としても今回のラリサの塩梅は絶妙で、粘着質の嫌な女に陥らなかったのは、小柳の筆と華雅の端正な演技故だろう。

難しい役どころと言えば印念中佐の矢吹世奈も、忍と紅緒の運命を流転させる陰湿な男を精一杯演じていて、まだ新人公演学年の男役であることを考えると、超のつく好演。原作とは異なり役柄に救いがあるのも小柳の優れた配慮で、良い経験になったことと思う。力のある人だからこそこういう役柄が回ってくるが、爽やかな持ち味が似合う役も観てみたい。更に、こちらも原作再現率が高く、しかもコメディリリーフとしても秀逸なのが、牛五郎の天真みちる。この人の一挙手一投足に可笑しみがあり、かつ温かい個性は貴重の一語で、作品に豊かさを与える力になった。如月の毬花ゆめも、漫画が動き出したかのような造形で惹きつける。もちろん、専科から特出の伊集院伯爵の英真なおきの、権高さの中にある愛らしさの表出は喝采ものだし、そんな英真に対して全くひけをとらない演じぶりを示した伊集院伯爵夫人の芽吹幸奈、紅緒の父・花村政次郎の冴月瑠那らの好演も見逃せず、和海しょう、春妃うらら、亜蓮冬馬ら、ポイントの出番の面々も個性をよく発揮していて、軽やかに弾む舞台を支えていた。

たったひとつの惜しまれる点は、これだけの話題作でありながら公演期間が短く、チケット入手の困難さが壮絶を極めたことで、希望しながら観劇が叶わなかった観客も多くいたことと思う。柚香光の代表作になるのは論を待たないから、いずれかの時期でもっと大きな劇場、ゆくゆくは大劇場での上演も検討して欲しいと切に願うが、そんな願いを持てる優れた作品を生み出した花組メンバーにまずは拍手を贈りたい仕上がりとなっている。


〈公演情報〉
宝塚花組公演 ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』
原作◇大和和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート)
脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇柚香光 ほか花組
●10/24〜30◎日本青年館ホール
〈料金〉S席 6,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



誰か席に着いて
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胸躍るロマンティック冒険活劇の快作!宝塚月組公演『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』上演中!

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アレクサンドル・デュマの「三銃士」を基に、小池修一郎が全く新しい発想で描きだした、宝塚月組公演三井住友VISAカードシアター浪漫活劇(アクション・ロマネスク)『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(10月8日まで)。

『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』は、今尚世界中で愛され、読み継がれ、幾多の映像、演劇、アニメ、人形劇等々、あらゆるジャンルでの創作が続いている、アレクサンドル・デュマの傑作小説「三銃士」の主人公ダルタニアンと、アラミス、アトス、ポルトスの三銃士が、原作設定のルイ13世時代を飛び出し、フランスのブルボン王朝に燦然と輝く太陽王ルイ14世時代で活躍するという、脚本・演出の小池修一郎の大胆な発想で生み出された爽快なエンターテインメント作品となっている。

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【STORY】
17世紀のフランス。太陽王と称されるルイ14世(愛希れいか)はまだ年若く、母であり摂政であるアンヌ(憧花ゆりの)、その後ろ盾であるマザラン枢機卿(一樹千尋)の助言のもとに国を治めているが、イタリア人であるマザランとそのファミリーがフランスを牛耳っている現状に、国民の不満の声が高まっていた。
そんな国王が隊長を務め、国家と王家を守護する任務にあたっている銃士隊一の剣の使い手ダルタニアン(珠城りょう)は、銃士隊の仲間であり「三銃士」と謳われる、元修道士でありながらも世紀の色男と言われるアラミス(美弥るりか)、銃士隊隊長代理で沈着冷静なアトス(宇月颯)、大酒飲みだが大胆不敵なポルトス(暁千星)との固い友情を育みながら、任務に誇りを持ち日々邁進を重ねていた。
そんなダルタニアンに国王の剣の稽古の師範代を務めよという命がくだる。バレエに夢中の国王ルイは剣の稽古に身が入らず、何かと理由をつけては次々と指南役を罷免し続けていたのだ。三銃士に励まされ、緊張しながら王宮に伺候したダルタニアンは、アンヌ、マザラン、国王のいとこモンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)、マザランの甥で護衛隊隊長のベルナルド(月城かなと)らの見つめる前で、ルイとの手合わせを命じられる。生来ひ弱なルイの指南には手加減を加えるように、と申し渡されていたダルタニアンだったが、次第に熱を帯びた稽古の中で、つい剣を振り払ったはずみでルイを倒してしまう。激昂したルイはダルタニアンを自分の指南役には不適格と断じたばかりか、銃士隊の解散も考えると言い放って去っていく。
その夜、落ち込むダルタニアンを三銃士が慰めていた酒場に、ベルナルド率いる護衛隊が現われ、銃士隊がマザラン枢機卿を侮辱したとして乱闘がはじまってしまう。その騒ぎの中、ダルタニアンはルイーズという娘を助ける。ルイ14世に目通りした話を聞きたがるルイーズに、ダルタニアンは自分が如何に王家と国家を愛し、それを守護する職務に誇りを持っているか、更に、国王はマザランの言いなりになるのではなく、自らフランスを治めるべきだ、そうしないと国民の信頼を失ってしまうと語る。熱心に耳を傾けていたルイーズだったが、ダルタニアンが彼女のことを訊こうとすると、慌てて逃げ帰ろうとし、行かせまいとしたダルタニアンは、思わずルイーズに口づけをする。剣一筋に生きてきたダルタニアンだったが、この一夜の出会いで、ルイーズに心を奪われてしまったのだ。
そんな中、銃士隊に突然の解散命令が下る。狼狽する銃士たちを前に、ダルタニアンは護衛隊に武力を集中する為に、銃士隊解散を狙ったマザランの策略を言い当てるが、三銃士をはじめ誰にも国王の名で発令された命令を取り消すすべはなかった。散り散りになる仲間たち。だが、失職したはずのダルタニアンに、もう1度国王ルイの師範代をせよとの呼び出しがかかる。再びルイと面会したダルタニアンは、ルイが抱えていたブルボン王朝を揺るがす大きな秘密を知ることになって……

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浪漫活劇=アクション・ロマネスクと題されたこの作品には、その言葉通りのロマンと冒険がぎっしりと詰まっている。それは開幕していきなりアラミスの美弥るりか、アトスの宇月颯、ポルトスの暁千星、そして真打ちダルタニアンの珠城りょうがそれぞれセリ上がりながら歌い継ぎ、多くの銃士隊員の壮大なダンスナンバーへと発展する「All for One」1曲で、まず心をわしづかみにされる魅力だった。
ここで、ダルタニアンをはじめとした銃士たちの衣装が、ブルーデニムという軽やかさも良い。デニム生地を使った衣装というとフレンチミュージカルの『ロミオとジュリエット』や、最近ではバウホール作品の『パーシャルタイムトラベル 時空の果てに』等が思い出されるが、その中でも作品の世界観を一目で表わしたという点において、この銃士隊にブルーデニムを使った判断が効いていた。アニメの主題歌もかくやとばかりのキャッチーな音楽(太田健)、衣装(有村淳)と、聴覚と視覚で、ルイ14世時代に活躍するダルタニアンと三銃士という、デュマの原作にも、史実にもとらわれない、宝塚版だけの『All for One』が怒涛のように展開することを、一気に認知させてくれる。
そこからはもう、物語のテンポの良さと、東京宝塚劇場のステージ、セリ、階段、盆、銀橋、花道といた舞台機構のすべてを縦横無尽に使い尽くした見事な転換とで、一気呵成に進むドラマに魅せられていくばかり。時に『ロミオとジュリエット』だったり、時に『るろうに剣心』だったり、時に『スカーレット・ピンパーネル』だったりと言った、小池修一郎が手掛けてきたこれまでの作品を思わせる仕掛けが出てくることも、むしろ喜びにつながっていくほど舞台は弾みに弾む。レイピアの殺陣をはじめとした効果音の使い方もテンポの良さを増幅させるし、特に台詞からミュージカルナンバーに至る流れが、1拍の無駄もなく全くひっかかりがないのは驚嘆すべきことだ。海外ミュージカルの潤色・演出で宝塚歌劇のみならず、日本のミュージカル界の巨星となっている小池の、ミュージカル創りのノウハウが如何に優れたものであるかが、図らずもしっかりとこの舞台に現れていて胸躍った。

しかも何よりも良いのは、17世紀のフランスを舞台にしながら、この作品が王道の「ラブコメ」を貫いていることで、冒険活劇とブルボン王朝とラブコメが、ここまでしっくりと馴染む世界は宝塚をおいて他にないだろう。もちろん重厚な悲劇も、新たな挑戦作もそれぞれに魅力があるが「ああ正しい宝塚を観た!こんな作品が観たかった!」という気持ちになれる王道作品には、やはり代え難い魅力がある。

その満足感の中に、このドラマの登場人物たちが、珠城りょう、愛希れいかのトップコンビ以下、月組の陣容にピッタリとハマった、あてがきの見事さが大きく寄与していることも見逃せない。スターが作家に愛されている作品ほど、観客が幸せになれるものはないのだ。

その1番手はもちろんダルタニアンの珠城りょうで、ガスコーニュ生まれで、父親の教育のもと剣の道に邁進し、国王と国家を守る銃士隊の一員であることに誇りを持つ真っ直ぐな青年という設定が、まるで珠城その人のようにマッチして個性を輝かせている。元々どっしりとした貫禄を下級生時代から持っていた人だが、月組の未来を担うべく早くから次々に大きな役柄を演じ続けていた中で、基本的に各時代のトップスターよりも上背があり、体躯もしっかりしていたから、学年よりずっと大人の役が回ってくることが多く、どこか影のある役も多かった。それだけに、このダルタニアンの清々しさ、おおらかな優しさが、珠城本来の魅力を開花させた様には目の覚めるばかりの効果があった。「この地上の何処かに」の晴れやかで、伸びやかな歌声も心地よく、トップスターとして2作目の公演で、早くも真価を発揮したのが嬉しい。

そんな珠城に、ルイ14世として対峙する愛希れいかが、入団当初は男役だった経歴を如何なく発揮している。愛希がルイを演じるというところで、ブルボン王朝が抱えている秘密というのは言ったも同然だし、事実作中でもその秘密は非常に早い段階でつまびらかになるのだが、それでもこれは元男役のトップ娘役・愛希れいかがいたからこそ実現した設定なのは間違いない。さすがは昔とった杵柄で、男役姿に違和感がなく、だからこそ真実を明かした心の叫びも真に迫り、壁ドンをはじめとした珠城との少女マンガの世界さながらの恋模様も適度にコミカルで、かつ胸キュンでなんとも愛らしい。バレエシーンもふんだんにあり、余人に代えがたい役柄となった。

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そんな二人を支える、三銃士の面々もそれぞれの個性をよく活かしていて、目に耳に楽しい。世紀の色男、というキャッチフレーズで登場するアラミスの美弥るりかは、その華やかな容姿ばかりでなく、女性への気遣い、髪の跳ね上げ方、足の組み方などの実に細かい部分で、アラミス像を創りこんでいる。この人の華があることによって、ダルタニアンの実直さも活きる効果も生んでいて、美弥ならではの美しきアラミスが見事だった。フィナーレ冒頭の歌手の煌めきも目を奪う。
銃士隊の隊長代理アトスの宇月颯は、銃士隊全員を統括する役柄を、的確な演技力と髭の似合うダンディーなビジュアルで活写している。常に先を読むアトスの行動は、作中でも物語を大団円に導く重要なポジションを占めていて、起死回生の計画を歌い上げる歌唱も十全なら、キレのある動きでの殺陣やダンスも見惚れるばかり。コツコツと精進を重ねてきた実力派が、相応の働き場を得て輝いている姿は、後進の何よりの励みになることだろう。確かな成果を喜びたい。
もう1人の三銃士ポルトスの暁千星は、自身に役柄を近づけたポルトス像を披露。健康的な個性の持ち主だし、元々原作設定にこだわっていない作品だから、大酒飲みではなく、大食漢でも良かったかな?とは思うが、王宮に偵察に行きながら酒瓶に手を伸ばしてしまうという小芝居も楽しく、衛兵姿もとぴっきり可愛い。ダルタニアンを含めた四銃士の個性が、多彩に分かれたのも効果的だったから、暁のポルトスとして面白く観られた。

彼らに立ちはだかるマザランファミリーでは、マザランの甥ベルナルドの月城かなとの比重が大きい。この役を美弥という考え方も或いはあったかも知れない、というほどの役柄だが、主人公の敵方に回ることが多かった美弥が、共に戦う三銃士という配置は新鮮だったし、これが本公演の月組には初加入となる月城にとっても、「壁」をキーワードに徹底的な敵役ではなく、コメディリリーフの香りさえあるベルナルド役に挑めたのは、良い経験となったことだろう。事実大劇場上演時よりずっとコメディの間が良くなっていて、当たり役の蒼紫を思わせる二刀流のサービスまであり、上々の月組デビューとなったのが何よりだった。

マザランファミリーは大人数で、束ねるマザラン枢機卿の一樹千尋の重厚感と食わせ物感は最早絶品の粋だし、ベルナルドの兄フィリップの紫門ゆりやは、本人は香りに慣れすぎて感じなくなっている香水マニアの、はた迷惑感を嫌味なく見せた。姪たちの中ではやはりマリー・ルイーズの早乙女わかばの美貌が光り、こせついたところのないおっとりした芸風が、紫門同様役に生きた。紫乃小雪の愛らしさも目立つだけに退団が惜しまれる。
ベルナルドの護衛隊では、千海華蘭と輝月ゆうまの色濃い造形が光るし、銃士隊から護衛隊に寝返る貴澄隼人と春海ゆうも、重要なアクセントになっている。貴澄はダルタニアンの回想シーンの父親役、輝月はルイの回想シーンのルイ13世役で、それぞれソロも取り、歌唱力も活きた。ソロと言えば、銃士の夢奈瑠音、蓮つかさもそれぞれ良い歌を聞かせたし、やはり退団の輝城みつるに目立つ場面がきちんとある目配りも美しい。

元銃士という位置づけでダルタニアンたちに加担するビゴーの綾月せり、その妻シモーヌの白雪さち花の剣戟一座が重要な関わりをもってくるのも脚本の面白さで、二人が呼び込みでラップを歌うぶっ飛び感も楽しめる。二人に育てられたジョルジュの風間柚乃は、作品のキーマンともいえる役柄を果敢に演じ、演技巧者の片りんを感じさせて末頼もしい。

王宮ではアンヌの憧花ゆりのの重石がありつつ、ちょっとした台詞で笑わせる緩急が光るし、スペイン王女マリア・テレサの海乃美月のコケティッシュな演じぶりも巧み。肖像画通りの難しい髪型を再現しているが、十分愛らしく公演毎に綺麗になっていて、娘役としてますます磨きがかかってきた。ルイお抱えの振付師リュリの佳城葵も良い味を出しているし、ボーフォール公爵の光月るうが極自然に大物感を発揮して、マザランに格負けしていない。

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そして、特筆すべきはモンパンシェ公爵夫人の沙央くらま。専科転出後、更に進境著しい演技派男役だが、小池作品では過去も様々な女性役を演じてきていて、今回はそれらすべての経験がつぎ込まれたかのような、美しく、艶やかで、思い込みが激しく憎めないという女性像を生き生きと演じ、出てくる度に場を浚う快演だった。公演中に次に出演が決まっている雪組公演での退団が発表され、ファンの心中やいかばかりかだし、フィナーレのグラマラスビューティぶりを見ると、これからまだまだたくさんの可能性を秘めていた人だと思えるだけに、ここでの退団発表は無念だが、『All for One』大成功の一翼を担った功績は長く記憶されることだろう。男役に戻っての集大成となる次公演の大いなる成果を祈っている。

と、とても書ききれないほどの役があり、そのすべてで出演者一同がそれぞれのカラーで舞台に息づいたことが嬉しく、宝塚の宝塚たる魅力にあふれた、爽快なオリジナルミュージカルが生まれたことを誇らしく思える舞台となっている。


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また、初日を前に囲み取材も行われ、月組トップコンビ珠城りょうと愛希れいかが公演への抱負を語った。

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はじめに珠城りょうが「本日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。今日から東京公演がはじまります。大劇場では本当に多くのお客様にお越し頂いて、 皆様が楽しんでくださったのが私達にも伝わり、大変気持ちのいい公演期間でございました。 東京公演でもたくさんのお客様に楽しいひと時をお届けできるように頑張って参りたいと思います。本日は短い時間ではございますが、よろしくお願い致します」と挨拶。

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続いて愛希れいかが「本日はお忙しい中お集まりくださいまして、誠にありがとうございます。私自身もこの公演をさせて頂き、とても楽しくて、本当にワクワクして毎日公演をさせて頂きました。東京の皆様にもそういう気持ちがしっかりと伝わるように「明日からも頑張ろう!」という気持ちになってもらえるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します」と挨拶。続けて記者の質問に答えた。 
 
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その中で、特に苦労した点は?という質問に珠城が、やはりこの世界ならではのレイピアを使った殺陣が、剣の長さもあり西洋剣術の独特さもあり、はじめはとても大変だった。と語ると、愛希がルイ14世の声を如何に低く発声するかに腐心したという、それぞれこの公演ならではの特徴をあげて振り返っていた。

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また、お互いに好きなシーンは?との問に、珠城が愛希のルイ14世の出生の秘密が明かされる「呪われた運命」を挙げると、愛希が珠城のダイナミックな立ち回りを挙げて、それぞれの目線で互いの魅力を語りあう、和やかな空気に場が和んだ。

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一転フォトセッションでは、愛希がルイ14世の衣装だったこともあって、男役同士のようなキリッとした空気感が立ち昇り、この公演限定の雰囲気が醸し出されたのが印象的な時間となっていた。

またこの日は特別に、作・演出家の小池修一郎の囲み取材も行われ、小池から見た珠城&愛希をはじめとした月組の魅力や、潤色・演出作品と、オリジナル作品のそれぞれの作り方の違いなどが、真摯な言葉で語られる貴重な内容となっていた。

囲み キメ

この珠城&愛希、小池修一郎の囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に11月9日発売の「えんぶ」12月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演
三井住友VISAカードシアター アクション・ロマネスク(浪漫活劇)
『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇珠城りょう、愛希れいか 他月組
●9/1〜10/8◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.000円 S席8.800円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-00-5100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


妃海風コンサート『Magic!』
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エンターテイメント性に溢れた礼真琴の初東上主演作品!宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

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宝塚星組の二番手男役として活躍する礼真琴の、東京での初主演となる『ATERUI─阿弖流為』が、新装なった日本青年館ホールで上演中だ(6日まで)。

『ATERUI─阿弖流為』は、2000年に吉川英治文学賞を受賞した高橋克彦の小説「火怨 北の燿星アテルイ」をもとに、大野拓史が宝塚ミュージカルに仕上げた作品。8世紀、東北へ支配領域を拡大しようとした大和朝廷が蝦夷討伐に乗り出す中、蝦夷の「人」としての誇りを守る為に朝廷軍に立ち向かった、若きリーダー阿弖流為の生きざまが描かれている。

【STORY】 
8世紀。東北地方で発掘される豊かな金鉱を得ようと、東北を支配領域に治めるべく朝廷は蝦夷討伐に乗り出していた。ある夜、その朝廷に与し蝦夷を裏切ったと思われていた伊治の蝦夷の長・伊治公鮮麻呂(壱城あずさ)は、各地の蝦夷の長を集め、自らの命と引き換えに参議・紀広純(輝咲玲央)の首を取る計画を打ち明ける。鮮麻呂が朝廷に与していたのは、全てこの機会を得る為の身を挺した偽りだったのだ。その尊い犠牲による図り事を聞く長の息子たちの中に、ひと際強い光を放つ眼差しを持った若者がいた。彼こそが、胆沢の長の息子であり、のちに蝦夷の命運を担う阿弖流為(礼真琴)だった。 
鮮麻呂の遺志を受け継いだ阿弖流為は、仲間と共に蝦夷の為に立ち上がることを決意する。だが、多勢に無勢の朝廷軍と戦うことを無謀だと思う阿弖流為の父の従者・飛良手(天華えま)は、朝廷に蝦夷の動きを内通することで生き残りを企てるが、阿弖流為の熱い説得によって翻意し、忠実な側近となる。阿弖流為の想いはただ一つ。蝦夷を獣同然に扱い、同じ人とは見なさない朝廷に、蝦夷も同じ人だと認めさせることだった。 
そんな中、阿弖流為は、黒石の蝦夷の長の跡継ぎ・母礼(綾凰華)と、その妹佳奈(有沙瞳)に出会う。天性の軍略の才を持つ母礼は、以後阿弖流為の片腕の軍師となり、その知略に長けた奇襲作戦と阿弖流為の勇猛果敢な働きぶりは、蝦夷に度重なる勝利をもたらす。嫁いだ先が朝廷軍に襲撃され寡婦となっていた佳奈は、阿弖流為に希望を見出し、阿弖流為もまた佳奈に惹かれ、二人は深く心を寄せるようになる。
だが、続く敗戦に業を煮やした朝廷は、都随一の武人と謳われる坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)に、蝦夷征伐を任じる。欲に溺れず、ただ桓武天皇(万里柚美)の命を受けた武人としての役目を全うしようとする田村麻呂には、これまでのような奇襲作戦は通用しない。阿弖流為は身を捨てて蝦夷を守ろうとした鮮麻呂の遺志に思いを馳せ、ある策略を講じる決意をして……。

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8世紀に実在した蝦夷の勇者阿弖流為の生きざまは、様々な形で映像化や、舞台化がなされてきた。特に東北地方が未曾有の大災害に見舞われた東日本大震災の後には、東北の復興を応援しよう!という趣旨のもとに、多くの作品が生まれている。そんな中にあって、宝塚歌劇が改めて阿弖流為を主人公にしたミュージカル作品を作るに当たり、原作に求めたのが高橋克彦の「火怨」だったことが、まず何よりも優れた選択眼と言えるものだった。
と言うのも、原作小説は上下巻、1000ページにも及ぶ大作だが、読み進めて感嘆するのが、出てくる若者たちが、いずれ劣らぬ良い男ばかりだということなのだ。阿弖流為と言えば、当然対に出てくるのは坂上田村麻呂ということになるが、軍師の母礼、腹心の部下となる飛良手をはじめ、それこそ今流行りの乙女ゲームもかくやとばかりに、良い男のオンパレード。おそらく読めば誰かしらタイプの男性が見つかるだろうというほど、友情に厚く、義に熱い男たちが繰り広げる闘いが迫力たっぷりに描かれていて、これはカッコ良い男を演じさせたら右に出る者のない、宝塚の男役の為にあるような題材に違いなかった。

その原作の特性を、脚本・演出の大野拓史が良く生かしている。何しろ原作が大長編なので、そのどこを切り取るか?によって作品の印象は全く異なるものにもなるところを、阿弖流為を軸に蝦夷の良い男たちをくまなく網羅し、舞台に設置された特大の映像パネルを駆使して、読みにくい漢字の多い登場人物の紹介から、場所の移り変わり、自然描写までをスピーディに押し進めた手腕はたいしたもの。更に阿弖流為の成長物語でもあるが故に、原作小説では下巻になってやっと登場する坂上田村麻呂も実に自然に物語の序盤から登場させ、阿弖流為の好敵手としての立場を明確にしていたし、徹底的に男の物語の原作には描かれていない、ヒロイン佳奈の心理や人生を書き加えるなど、宝塚版ならではの改変も当を得ている。これは資料を深く読み込む劇作家大野の特徴が吉に出た好例で、高橋恵と玉麻尚一のどこかアニメソングにもつながる高揚感を持った音楽の数々の力も加わり、徹底的なエンターティメント作品に仕上がっていた。これによって主人公の辿る結末がわかっている物語が、暗く沈んで終わることを防ぐことにもつながったし、阿弖流為の選ぶ決断の基に鮮麻呂の存在があったことを、制約のある時間の中できちんと書き込んだ故の成果でもあった。

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そんな作品で「主演・礼真琴」という大クレジットが映像に出たほどの華やかな東京初主演となった礼真琴の阿弖流為が、非常に柄に合っている。元々原作を読んでいる時から、礼の声で台詞が聞こえてくるという現象に陥ったくらい、この役は合うだろうという予感があったが、それが見事に的中して、血気盛んな熱い男が、リーダーとして成長し、身を捨てても蝦夷の誇りを守るに至る流れを、的確に表現している。星組の若き二番手スターとなってから、黒い役が続いていて、それはもちろん男役礼真琴の成長には役立つものではあろうと思いつつも、若々しいヒーローも観たいとも願っていた時期だけに、豊かな歌唱力と俊敏な身体能力が共に生かされた阿弖流為は打ってつけだった。新しい劇場のこけら落とし公演の大任を任され、それをきちんと代表作と呼べるものに仕上げた礼の自力に、改めて感心する主演ぶりだった。

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ヒロイン佳奈の有沙瞳は、嫁ぎ先の里が滅ぼされ、朝廷に復讐を誓う寡婦という、原作とは全く異なる設定を、陰影深く演じて見応えがある。佳奈がただの良妻賢母ではないヒロイン像になったことで、作品全体にも深みが増したし、礼との並びも良く似合って美しい。星組に加入以来、柔らかさと愛らしさを増していて、歌唱力も十分。ますます楽しみな娘役に成長している。

更に、この作品で礼に負けず劣らずの存在感を示したのが、坂上田村麻呂の瀬央ゆりあ。礼主演の公演で二番手格の役柄を演じたのは『鈴蘭(ル・ミュゲ)─思い出の淵から見えるものは─』に続いて二度目となるが、その『鈴蘭』から約1年半、ここまで男役スターとしての押し出しと、華やかさを身に着けていたとは、と、驚かされる変貌ぶりに感嘆した。朝廷の中で唯一蝦夷を「人」として認め、尊重もしている武人を堂々と演じていて、礼に対して全く不足がない。こうなってくると持ち前の容姿の良さも光ってくるから、逸材揃いの95期生の中に、また1人目が離せない男役スターが育ってきた格好だ。期待したい。

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そして、前述したように良い男揃いの登場人物の中では、やはり母礼の綾凰華が目を引く。原作小説の中では完全に二番手の役柄であることもあって、沈着冷静な軍略の天才として、全体の中でのカラーの違いが鮮明に描かれ、綾もまたその役の性格をよく表している。正直、プログラムにこの人の扮装写真がないのが、なんとも不自然なほどの大役を手中に納めているから、新天地となる雪組での活躍が楽しみだ。飛良手の天華えまは、はじめは阿弖流為に対して反旗を翻し、それがあったからこそ最後まで阿弖流為につき従う重要なポジション。顔立ちがソフトな人だけに、阿弖流為を裏切ろうとする描写がもう一息鋭くても良いか?と思わせはするが、腹心の部下として阿弖流為に心酔する様はきちんと伝わり、若手ホープらしい明るさが印象的だった。また、阿弖流為の仲間の中では伊佐西古のひろ香祐の骨太さが光ったし、阿弖流為に対して距離を取る蝦夷である諸絞の音咲いつきも、少ない描写で阿弖流為への屈折した思いをよく表現している。この公演を最後に娘役への転向が発表されているが、男役として有終の美を飾っていて、娘役・音咲いつきの誕生にも期待が膨らんだ。
他に、桓武天皇で男役に回った万里柚美、どこにいても愛らしく、娘役の良心とも鑑とも思える坂上全子の音波みのりをはじめ、何しろ最下級生の鳳真斗亜まで、出演者全員に役があるという大野の脚色が、それぞれの今後にどれほどの糧になったかと思うと、この作品に出演したメンバーの幸運を思わずにはいられない。分けても特筆すべきは鮮麻呂の壱城あずさで、阿弖流為の生きざまの指針となる、つまりはこの作品の骨子となる人物を、決意と哀惜を込めて演じていて、壱城の多彩な経歴の中でも屈指と言える名演だった。

そんなすべてのメンバーに働き場の多い充実した作品が、礼を筆頭に星組の明日を担うだろう人材に用意されたことを喜びたい舞台となっている。



〈公演情報〉
宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

原作◇高橋克彦「火怨 北の燿星アテルイ」(講談社文庫刊)
脚本・演出◇大野拓史
出演◇礼真琴 ほか星組
●7/31〜8/6◎日本青年館大ホール
〈料金〉S席 7,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




妃海風コンサート2017






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平成のゴールデンコンビ早霧せいな・咲妃みゆ退団公演 宝塚雪組『幕末太陽傳』『Dramatic“S”!』上演中!

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平成のゴールデンコンビと謳われ、雪組を牽引してきたトップコンビ早霧せいな、咲妃みゆの退団公演となる、宝塚雪組公演かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(23日まで)。

まず芝居は、かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』。鬼才川島雄三監督が1957年に発表した、日本映画史に燦然と輝く同名代表作を、宝塚歌劇団が初めてミュージカル化して上演した。「居残り佐平次」を中心に「品川心中」他いくつかの古典落語を組み合わせ、実在した品川の遊郭・相模屋を舞台に起こる様々な人間模様を軽妙なタッチで描いた傑作映画を、川島監督を崇拝し、監督のようなプログラムピクチャーの作り手になりたいと熱望して、劇作家の道を志したという小柳奈穂子が、念願の作品に取り組めた喜びが浮かび上がるような舞台となっている。

【物語】
時は幕末、文久二年のこと。北の吉原と並び称された南の品川宿に、その海鼠壁から土蔵相模と呼ばれた旅籠「相模屋」があった。その相模屋にある日佐平次(早霧せいな)という町人がふらりとやってきて、仲間たちと豪勢な芸者遊びに興じるが、仲間からわずかの割り前を受け取った佐平次は、寝屋へ誘う女郎おそめ(咲妃みゆ)も遠ざけて悠々と1人寝を決め込む。実はこの佐平次、お大尽遊びができる金など全く持ち合わせていなかったのだ。翌朝、堂々と居残りを決め込んだ佐平次は、番頭や若い衆顔負けの仕事ぶりで相模屋を駆け回り、次々と起こる騒動を持ち前の度胸と才覚で解決していく。そんな日々の中で、はじめは恥をかかされたとお冠だったおそめや、異人館焼き討ちの計画を練る高杉晋作(望海風斗)ら長州藩士たちとも交友を深めた佐平次は、いつしか廓の人気者となるが、実は佐平次は誰にも明かしていない秘密を抱えていて……

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映画と同じ軽妙なナレーションからはじまる舞台は、とにかく勢いが良く、弾むテンポにあふれている。基本的に群像劇なので登場人物が大変多く、雪組の豊富な人材がきめ細かく登用されていて、組の勢いがそのまま作品に現れているのも良いし、佐平次のキャラクターを1曲で表す「居残り稼業」。おそめと佐平次が新しい世界を夢見る「ここではないどこか」。佐平次、おそめ、高杉晋作がそれぞれの明日を目指す「朝陽の向こう」など、ミュージカルナンバーがいずれも佳曲揃いで、小柳が原作映画を巧みにミュージカルの世界に乗せた手腕が光る。
特に「朝陽の向こう」は、「トリデンテ」とも称されて雪組の一時代を築いた早霧、咲妃、望海体制のラストランにまことに相応しい美しい場面で、この場面があることによって、原作映画では、佐平次が1人でどこまでも生き抜いて行こうと駆けだすラストシーンであるのを、佐平次とおそめが共に手を取り合って走り去るという、トップコンビの退団に寄せた展開への書き換えが、自然になる効果ともなっていた。非常によく考えられたウェルメイドな世話物に仕上がっていて、さすがは作家が長年愛した世界だけのことはある。おそらく小柳としてはある意味本懐を遂げた仕上がりだったろう。その熱量の高さは客席からもひしひしと感じられた。

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ただ、作品の出来栄えが優れていることは十二分に評価した上で、どうしても胸の底に小さな違和感が残る。それは、平成のゴールデンコンビと謳われ、そのコンビとしての存在を愛し、惚れ込み、今、最後の別れの時、過ぎ去っていく1日、1日を、時間よ止まれと叶わぬ願いを持ちながら過ごしているだろう多くの観客を生んだ、早霧せいなと咲妃みゆという、宝塚史上に残る名コンビの退団公演に、この作品が最も相応しいものだったのだろうか?という思いだ。
もちろん、佐平次の軽妙洒脱な味わいと、胸のうちにある真実の思いを演じるのに、当代のトップスターの中でも最も相応しいのは早霧だったと思う。娘役という領域からは確実に外の位置にある、失った板頭の地位の復権を目指す女郎おそめにしても、憑依型の突き詰めた芝居をする咲妃あったればこそ成立したものに違いない。芝居巧者の2人がいてこそ、この作品が宝塚ミュージカルとして生れ出ることができた。その挑戦への勝利は見事なものだ。
かつて同じ雪組のトップスターだった一路真輝も、退団公演に大きな賭けだった黄泉の帝王トートを演じ、それが今日宝塚の財産となった『エリザベート』を生み出している。何より宝塚百年の歴史は、そうした果敢な挑戦の上にこそ築き上げられた栄光の軌跡だ。それも十分わかっている。それでも心のどこかではやはり、早霧と咲妃の2人が共にいるだけで、共に笑いあい、見つめあってくれているだけで観ている者も幸福になれたこのコンビの集大成には、宝塚王道の男役と娘役、プリンスとプリンセスの恋物語を、宝塚という夢の園にいる間にしか叶わないロマンチックな、永遠に心に残るラブシーンを期待していたと言ったら、それはこれだけ完成度の高い作品を用意した小柳に、あまりに酷な望みだろうか。実際のところこれは、仮にこの作品が2人の通過点だったとしたならば、全く、何一つ感じなかっただろう思いだから、つくづく宝塚という世界で劇作家を貫くのには、難しい問題が多々あると思う。作家が本懐を遂げることと、去りゆくトップコンビに本懐を遂げさせること、引いてはこの夢の世界の住人を愛した観客に悔いはないと言わせること。この両立が叶う道さえあれば、これに勝るものはないに違いないのだが。

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その中で、前述したように早霧の佐平次の縦横無尽の活躍ぶりには、素直に見惚れる。本来は胸の病を抱え死を決意して流れて来た品川で、再びまだまだ生き抜いて行こうという活力を得ていく佐平次の変化を、他者と接している時のあくまで軽妙な立ち居振る舞いと、ふと1人になって見せる孤独の影とを、絶妙に活写していて感嘆させられる。羽織をつかった相当に難度の高い所作も、難しいことをやっているとは全く感じさせずにこなしていて、「あっぱれ!」の一言。「日本物の雪組」を率いた早霧ならではの、自力を感じさせる軽やかさだった。
一方の咲妃も、板頭の座を奪われた女郎こはるとの大立ち回りもあり、人気回復の最終手段とばかりに心中を持ちかけた相手をあっさり見捨てる変わり身の早さといい、宝塚の娘役を完全に振り切った役柄に堂々と対峙したのは、やはりこの人の深い芝居心のなせる業だろう。それでいて決して愛らしさを失わないのが咲妃ならでは。トップコンビとして考えれば、多いとは言えないポイント、ポイントの芝居の中で、2人が共に駆け去っていくラストシーンに無理なく、互いの関係を寄り添わせていったコンビの力も光った。

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高杉晋作の望海は、作品中最も二枚目な役柄に、貫禄と凄味を与えていて心憎いほど。仲間たちとのやりとりにも自然にリーダーの風格があり、星乃あんりのこはるとの間に、深い思いがあるのでは?と感じさせたのも良い彩りになっている。何より、佐平次とのやりとりに早霧と望海が重ねてきた日々が投影されて見えることが、味わいを深めた。これも前述した通り、早霧、咲妃、望海で歌われる「朝陽の向こう」の美しさは比類なく、原作通りだから仕方がないとは言え、終幕のおそめの墓探しのくだりがやや過剰に思われるほど、宝塚としてのカタルシスを持った名シーンとなっていた。

更に、群像劇であるこの作品の何よりの美点として、多くの雪組生が大活躍しているのが目に耳に楽しい。相模屋の若旦那徳三郎の彩風咲奈は、よく考えるとかなりどうしようもないぼんぼんなのだが、そこに憎めない愛嬌がにじみでるのは、彩風の芝居力とスター性の賜物。こういう役柄を品を崩さずに演じられる男役に成長していることを、改めて印象づけていて素晴らしかった。次期トップ娘役に決まっている女中おひさの真彩希帆の、しっかり者ぶりとの対比も良く出ている。長州藩士の久坂玄瑞の彩凪翔も、キリリとした二枚目の作りできちんと若い藩士たちが一目置く人物を造形している。次代を担う望海にとっても、ますます頼もしい男役の戦力になることだろう。同じ長州藩士たちはいずれも生き生きとしているが、中でも志道聞多の煌羽レオの的確な演じぶりが光る。タイミングと運に恵まれず、惜しくも新人公演主演を逃した人だが、本来ルックスも自力も十分に備わっているので、今回の活躍は嬉しい限り。この調子で組のアクセントとなっていって欲しい。また、こはるを巡って実の親と争いになる清七の永久輝せあは、もうこの役柄が如何にも軽く見えるほどのスター性と勢いに驚かされた。末頼もしいホープとして、ますます伸びていってくれることだろう。

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また、退団者にも大きな役柄があるのは、これは小柳の座付き作家としての粋なはからいで、こはるの星乃あんりは、咲妃と真っ向勝負する役柄を、実に魅力的に演じている。むしろ子役が似合うほどの愛らしい娘役だった星乃が、こんなにも艶やかな娘役となって去っていくことが惜しまれてならない。まだまだ可能性のあった人だと思うが、最後にこの大役を手にできたことが何よりだった。高杉の望海との言葉に出さない思いの交感も良い。おそめの心中相手に選ばれてしまう貸本屋金蔵の鳳翔大は、どこまでも朗らかでおおらかな芸風が、人の好い金蔵に打ってつけだった。彼女のキャリアの中の金字塔は『るろうに剣心』の相楽左之助なのは間違いないが、この金蔵も彼女でなければできない味わいを残した役柄となっていたのが嬉しい。長州藩江戸詰め見廻役鬼島又兵衛の香綾しずるは、『ドン・ジュアン』の亡霊役の快演と言うより、更に怪演とも言いたい演技が鮮烈で、雪組の重石的存在としてより一層活躍してくれるだろうと信じていただけに、このタイミングでの退団には驚きを禁じえなかったが、この時代では年かさになる男性を、おかしみを秘めて楽々と演じていて、更に退団が惜しまれた。

他に、相模屋を切り盛りする夫妻の梨花ますみと奏乃はるとの、奏乃が入り婿という関係性が二人によく合っていたし、おそめに借金の返済をせっつくおくまの舞咲りんのアクの強い演技は捧腹絶倒。非常に贅沢な汝鳥怜、悠真倫の専科勢の投入を含めて、雪組が総力を結集した群像劇となっている。

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そこから一転、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』は、ショースター(Show Star)として輝く、早霧せいな(Seina Sagiri)が率いる、雪組(Snow troupe)の魅力を、共通する「S」をキーワードに詰め込んだショー作品で、中村一徳の作。組の人員の総力戦で押してくる中村作品の常のスタンスを守りつつ、後半から怒涛のように早霧、咲妃コンビのサヨナラ一色になる、これぞ退団公演のショーという作りに大きなカタルシスがある。

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中でも、Bryant Baldwin振付によるジャジィーなカッコよさにあふれる「Song&Dance」の小粋なスピード感はため息ものだし、雪組の次代を担う望海と真彩の顔見世、彩風、彩凪、永久輝と、やはり次世代の重要人物たちを押し立てつつ、早霧&咲妃コンビが創り上げた現雪組の集大成も存分に魅せるバランス感覚が絶妙。特に雪組カラーのペパーミントグリーンで描かれる「Snow Troupe・絆」は、2人と共に退団する鳳翔、香綾、星乃、桃花ひな、蒼井美樹への贐あり、早霧と咲妃のデュエットダンスありと、もう涙なくしては見られない美しさ。早霧が雪組生全員と1人1人目を合わせていく時間、その間トップスターが客席に背を向けることになる時間が、ここまで尊く温かく感じられる劇団は、宝塚をおいて他にないだろう。舞台だけでなく、客席を含めたすべてが宝塚という幻想共同体を担っていることが、改めて感じられる得も言われぬ名場面だった。

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「別れの曲」で踊られる早霧と咲妃の名残の純白のデュエットダンスの後ろに「See you Again Sagiri」=「また会いましょう!」との電飾を配してくれた心憎いばかりの配慮と共に、宝塚のショー作家中村一徳の白眉たる作品に仕上がっていて、去りゆくトップコンビと今しか見られない、早霧が率いた雪組の残像を鮮やかに残す、優れたショー作品となっている。

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また初日を前に、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが、囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

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まず早霧から「今日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。千秋楽まで雪組公演の宣伝をよろしくお願いします!」と朗らかな笑いを誘う挨拶があった。

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続けて咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして本当にありがとうございます。最後まで雪組一丸となって頑張って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」との挨拶があり、続いて記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚としては異色な『幕末太陽傳』に取り組んだ気持ちを問われた早霧は、退団公演がこの作品、この役に決まった時には戸惑いもあった、としながらも退団公演を意識せず新たな挑戦をできる舞台に取り組めたと、意欲的。映画らしさと同時に宝塚らしさも備えた作品になっていると自信を見せた。

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また咲妃も退団公演の役が女郎役ということに、ファンの方々も驚いたようだったが、取り組むにつれおそめが素敵な女性だと思えて、早霧さんと同じくやりがいを感じている、とこのコンビらしく互いが同じ地点を見つめていることをにじませていた。

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特に、ショーのデュエットダンスでは、振りとしてさほど大がかりなことをしていない中で、どこか芝居のように見せられるのが3年間コンビを組んできた自分たちならではのものになっているのではないか、と早霧が語ると、とても一言では語れない思いがある…と咲妃が思いを込めて早霧を見つめる一幕も。更に雪組全員と瞳を合わせる場面では、日々グッとくるものがあり、パワーをもらっていると語る早霧の、組への思いがあふれでるよう。そんな早霧とコンビを組ませて頂いたからこそ、様々な挑戦ができたと語る咲妃の視線に、早霧がわざと知らん顔をして場が笑いの渦に包まれるなど、最後の日まで温かく絵のように美しいトップコンビの絆が感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇雪組公演
かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』
〜原作 映画「幕末太陽傳」(C)日活株式会社 監督/川島雄三 脚本/田中啓一、川島雄三、今村昌平〜
脚本・演出◇小柳奈穂子
かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』
作・演出◇中村一徳
出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組
●2017/6/16日〜7/23日◎東京宝塚劇場?
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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