えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

宝塚ジャーナルは2019年2月20日に引っ越しました。
新しい記事はこちらから読めます。

レビュー

望海風斗&真彩希帆コンビによる、これぞ決定版の風格を備えた上演!宝塚雪組公演『ファントム』

_B5A3881_OK

宝塚歌劇当代一の歌唱力を誇る雪組トップコンビ望海風斗&真彩希望を擁して、至福の音楽を届ける宝塚雪組公演三井住友VISAミュージカル『ファントム』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(10日まで)。

怪奇小説を代表する作品として知られるガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」を基に、アーサー・コピット脚本、モーリ・イェストン作詞・作曲で生み出されたミュージカル『ファントム』は、1991年テキサスで初演。その後全米各地のツアー公演、更に世界各地での上演と、ブロードウェイで上演されていない作品としては稀有な成功を納めている。日本初演は2004年の宝塚歌劇宙組公演で、2006年、2011年の花組公演と回を重ねてきた。その過去2回の花組公演に出演していた望海風斗が、かねて念願だったというファントム役に挑んだ今回の4演目は、決定版とも呼びたいクオリティーの高さを誇る仕上がりとなっている。
 
【STORY】
19世紀後半のパリ。オペラ座通りで歌いながら楽譜を売る娘クリスティーヌ(真彩希帆)の歌声に惹かれたオペラ座のパトロンの1人シャンドン伯爵(彩凪翔/朝美絢Wキャスト)は、彼女に歌のレッスンを受けさせるべく、オペラ座の支配人キャリエール(彩風咲奈)の元を訪ねさせる。だが時を同じくしたオペラ座ではキャリエールが支配人の座を解任され、新たな支配人ショレ(彩凪翔/朝美絢Wキャスト)とその妻でプリマドンナのカルロッタ(舞咲りん)がオペラ座を牛耳ろうと画策。クリスティーヌも体よくカルロッタの衣装係にさせられてしまう。だが、オペラ座にいられるだけで幸せと喜ぶクリスティーヌの歌声を聴き、心震わせている男がいた。彼こそがオペラ座の地下深くに隠れ住むと恐れられる伝説の怪人=ファントム(望海風斗)だった。クリスティーヌが自分の音楽を託すに値する歌姫だと直感したファントムは、仮面で顔を隠したまま彼女を指導。瞬く間に歌の才能を開花させたクリスティーヌは団員たちが歌を競い合うコンテストに参加し、圧倒的な歌唱で絶賛を浴びる。そんなクリスティーヌをカルロッタはオペラ座で主役を歌うように推薦するが、そこにはライバルの登場を許せないカルロッタの計略が隠されていて……

_B5A3953_OK

アメリカで生まれたこのミュージカル『ファントム』は、作品そのものの誕生が主人公にあたかもシンクロしたかのように、数奇な運命をたどっている。元々アーサー・コピットとモーリ・イェストンがガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」を基に、外見に欠陥を抱えながらも豊かな才能と純粋な心根の持ち主として、怪人と呼ばれた男の人生をミュージカル化しようと動きはじめたのは、1983年だったという。このテーマは今日本でも愛されている『ノートルダム・ド・パリ』等の成功例もあり、ブロードウェイへの上演を目指して着々と準備が進んでいたが、1986年同じ作品を原作とするアンドリュー・ロイド=ウェバーのミュージカル史に燦然と輝く傑作『オペラ座の怪人』がロンドンで開幕。同時にブロードウエイでの上演も決まり、ロイド=ウェバー版が世界を席巻していくのと共にミュージカル『ファントム』の出資者は潮が引くように去っていってしまった。その為ミュージカル『ファントム』が世に出るのには、更に年月を要したし、現実にブロードウェイでの上演は今も実現していない。知名度という意味でのみ言えば、ロイド=ウェバーの『オペラ座の怪人』がやはり遥かに高いのは、日本の演劇界に於いても変わらない事実だろう。
そんなコピット&イェストン版の『ファントム』本邦初演を担ったのが、宝塚歌劇団だったというのはやはり決して偶然ではない。実際劇団四季の『オペラ座の怪人』が一世を風靡した日本で、同じ原作を基にした別のミュージカルを上演しようというのは、計り知れないほどの勇気を必要とする決断だ。見比べてみれば両者には全く別のアプローチがあることがわかるが、それでも『オペラ座の怪人』がミュージカルのひとつの代名詞とも呼べる存在になっていた2004年の段階で『ファントム』の上演に踏み切ることができたのは、宝塚歌劇団自体が一般のミュージカル界とは一線を画す、ひとつのジャンルであったからに他ならない。もちろん『エリザベート』という宝塚歌劇団で初演ののち、一般ミュージカルの舞台として上演する作品の例はすでに登場していたが、当時両者は現代ほど近いところに位置してはいず、あくまでも互いが固有の文化だった。そのある意味の特殊性があったが故に、和央ようか&花總まりで初演されたミュージカル『ファントム』は、異形に生まれ付いたエリックの孤独な魂が辿る悲劇にファンタジーの香りも加味した、「宝塚歌劇」の世界の中で成立する作品になっていた。その色合いは春野寿美礼&桜乃彩音の2006年、蘭寿とむ&蘭乃はなの2011年、共に花組での上演時にも変わらないものだった。この宝塚歌劇での上演があった上で、梅田芸術劇場製作バージョンも日本に根付くことが可能になった経緯には、揺るがないものがあると思う。

だが、2011年の花組公演の後、宝塚でのミュージカル『ファントム』が沈黙を守っていた7年間だけを考えても、宝塚歌劇を取り巻く環境は激変を遂げていた。まず創立100周年という大きな節目を経て、かつて確かにあった女性だけの歌劇団=お嬢様芸という宝塚を斜めに見る目線が確実に減少していったこと。宝塚歌劇団の演出家である小池修一郎が日本ミュージカル界をも支える演出家となり、海外ミュージカルの初演をまず宝塚が担い、次いで一般ミュージカルとして上演されるという流れが、あたかも既定路線のようになっていったこと。世に「2.5次元」と呼ばれる漫画世界を苦もなく具現化する、美しき男優たちが続々と登場して、宝塚歌劇の男役と男優の差異を一気に縮め、海外ミュージカルではなく宝塚発のオリジナル作品も一般舞台で上演することが可能になったこと。これらの様々な要素が宝塚歌劇とミュージカル作品とを、非常に乱暴にくくるならば同じ土俵で語ることを容易にしているのが現代だ。
 
 _B5A4579_OK

そんな2019年に、宝塚歌劇団に望海風斗と真彩希帆という、かつてトップコンビの歌唱力がここまで揃ってハイレベルな例があっただろうか?と驚かされるほどの歌声を持つ二人がいた。この奇跡が7年ぶりにミュージカル『ファントム』を自信をもって世に送り出すことを、宝塚歌劇団に決断させたのは論を待たないだろう。実際望海と真彩のこれが音楽の天才だ、これが音楽の天使だ、と誰をも納得させる歌の力と、それがあるからこその芝居の深み、豊かな表現力にはただひれ伏すしかない。
元々美しいものは心も美しい、「美は正義なり」の世界観の中で成立している宝塚歌劇にとって、外見に欠陥を持つ異形の主人公というのは、決して親和性の高い存在ではない。それが宝塚であるが故に欠陥の描き方には大きな制限があるし、その制限の中での表出だけを見ると、もちろん想像力で補う必要があるのはわかるが、この程度の欠陥で一目見た父親さえもが恐慌する、という設定を納得させるのがどうしても難しくなる。本当の姿を見せて欲しいと自ら熱望しながら、恐怖のあまり叫び声をあげて去っていくヒロインが、とんでもなく非礼な女性に見えるのも、宝塚と異形の表現とのせめぎ合いから生まれる言わば齟齬だった。

だが望海風斗のどこまでも伸びるロングトーンと魂の絶唱が劇場中に響き渡る時、それらの軋みは完全に雲散霧消していった。世間を知らないが故に純粋で、そのあまりの純粋さが成人男性としての常識や己を律する規範を逸脱していく、主人公ファントム=エリックの悲劇がまっすぐに届けられる様には、おそらく誰もがエリックの心情にシンクロし味方になるだろう、哀しいまでの愛しさを湧き上がらせる力があった。それが謎を謎として残すことでファントムの存在をミステリアスにスケールアップしている『オペラ座の怪人』と、ファントムと呼ばれるしかなかった無垢な青年の人生を描いたこの『ファントム』との違いをより鮮明にしたばかりでなく、モーリ・イェストンの書いたクラシカルで美しい音楽の魅力を、あますところなく表現して見せてくれている。そう、「くれている」と言いたいほどの、出色の出来に接してみて改めて、この作品への縁の中でいつかはと心に期していたというエリック役を、今トップスターの地位を得た望海が演じることができた。このことひとつをとっても、演劇の神が確かにいることを信じられる尊い時間だった。

一方そのエリックに音楽を託される真彩希帆もまた、高音域までも無理なく豊かに響く歌声で、天与の才能を持った音楽の天使を具現化している。真彩の凄さは、冒頭パリで楽譜を売っている時の歌声を、確実にエリックに磨かれる前の状態としてセーブしているにも関わらず、すでにその歌が心地よいことで、そこから更にクリスティーヌの歌唱力が劇中格段に進歩していく様にも目を瞠る、見事としか言いようのない歌いっぷり。「私の真の愛」で、エリックに素顔を見せて欲しいと訴える歌にも特段の吸引力があり、エリックが仮面を外す決意をすることにも無理がない。何よりクリスティーヌが非礼な女性に見えなかった、歌の力がここまで作品を支えるのかという事実には、胸をつかれる想いがした。
 
_G0A0448_OK

この唯一無二のコンビを取り巻く雪組メンバーも多彩で、その筆頭のキャリエールの彩風咲奈は、彼女本来の美点である育ちの良さを感じさせる、どこか鷹揚な持ち味が、思えば全ての判断が後手後手に回ってしまうキャリエールという人物の、エリックとは違う意味での世間知らずな部分に整合性を与えている。エリックの外見の欠陥について語り合う場面の台詞が全く無神経に聞こえず、本音を言い合える上で尚深くエリックを愛している会話に写ったのは彩風なればこそで、ラストのキャリエールの行動に自然につながる妙味を生んでいる。キャリエール最大の見せ場でもあるエリックとの二重唱「お前は私のもの」も、あの望海と対等に歌えていると思うと、彩風の確かな地力を改めて感じさせるものになった。

シャンドン伯爵とショレを交互に演じた彩凪翔と朝美絢は、シャンドン伯爵がかの『オペラ座の怪人』ではラウル役に当たる、と考えただけでかなり驚くほど、実は非常に為所に乏しい役柄だというところに、ここまで経てきた経験値の高さで、あくまでもスッキリとした二枚目像を構築した彩凪に一日の長はあるものの、朝美の思い込んだら一直線な表現にも観るべきものが多い。一方のショレ役は、その朝美が非常に思い切ったアクの強い造形で役者魂を感じさせれば、彩凪がどこか「ヘタレ」風味の気弱さを見せていて、双方非常に面白いWキャストになった。

またカルロッタの舞咲りんも、歌唱力に定評のある人ならではの思い切り外した歌いっぷりで、新任のプリマドンナが「歌えない」という設定を余裕をもって表現しているし、オペラ座の音楽教師ガブリエルの梨花ますみ、楽屋番ジャン・クロードの奏乃はると、バレエ教師マダム・ドリーヌの早花まこ等が、台詞のないところでもオペラ座の人間模様に確かな深みを与えている。モンシャルマンの透真かずき、ルドゥ警部の真那春人のくっきりとした造形も目立つし、目立つと言えばオペラ座の団員セルジョと、若かりし頃のキャリエールを演じる永久輝せあの視線を集める力には感嘆するばかり。同じく団員リシャールの煌羽レオ、ソレリの彩みちる、フローレンスの星南のぞみ、ラシュナルの綾凰華など、雪組の活きの良い面々が役柄を明るく、闊達に描くことで地下のエリックの世界との対比がより生きた。

_B5A4166_OK

その光り溢れる世界と、闇の世界の対比を描くことを意識したという映像のチョン・ジェジンの仕事は、説明過多に感じる向きもあるやに思うが、初めてこの作品の世界に触れる人には丁寧な作り。一新された稲生英介の装置と共に、新生『ファントム』をわかりやすく提示している。特に今回の『ファントム』では、エリックの従者が沙月愛奈、笙乃茅桜、鳳華はるな、諏訪さき、眞ノ宮るい、縣千の精鋭ダンサー6人に絞られ、エリックが街で救った浮浪者という設定は変わらないが、舞台での役割としては『エリザベート』の黒天使にやや寄った感覚があり、彼女たちの優れたダンス力と共に、エリックの心情も伝わってくる効果になった。またエリックの母ベラドーヴァが、第二ヒロインと言っても過言ではない大きな描き方になり、エリックの母親への思慕とクリスティーヌへの愛が重なり合うことが視覚的にもハッキリと示され、演じる朝月希和の母性の表出も当を得ている。可憐な容姿も役柄によくあった。幼いエリックの彩海せらの幸福な時代のエリックが、伸び伸びとしているだけに切ない。

こうした新たな工夫はもちろん、ショー作家としての才能を常に安定して見せている演出の中村一徳ならではのフィナーレの作り込みも多彩で、組の中心メンバーだけでなく、この作品を最後に雪組組長の大任から離れて専科に異動する梨花ますみ、この公演をもって退団する陽向春輝にも大きな見せ場を作った粋なはからいも美しい。総じて、ミュージカル作品としての『ファントム』、現代の宝塚歌劇が描く『ファントム』の決定版と呼んで、決して大袈裟ではないだろう完成度を示した仕上がりで、望海&真彩以下、舞台を彩るメンバー全員に畏敬の念を抱く舞台となっている。

_B5A5078_OK

また、作品の初日を前に囲み取材がおこなわれ、雪組トップコンビ望海風斗と真彩希帆が記者の質問に答えて、公演への抱負を語った。

_B5A4994_OK

まず望海からトップ披露だった昨年の公演に想いを馳せた「昨年も『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』で、ここで取材をさせて頂いて、もう一年経ったんだと。本当にあっという間だったなという気持ちでここに立っているのですが、大劇場でやってきた『ファントム』を東京のお客様にも楽しんで頂けるように、もっともっととブラッシュアップして東京にやって参りましたが、お客様が入ったらまた変わってくると思うので、それを1回1回大切に感じながら深めていきたいと思います」との真摯な挨拶が。

_B5A5001_OK

続いて真彩から「望海さんもおっしゃったように、大劇場で公演してきたものが東京に来て、お客様やオーケストラの先生方のお力をお借りして、どのように変化していくのかを、自分自身もしっかりと吸収して公演を頑張りたいと思っております。精進して参ります」という真彩らしい、決意を秘めた言葉があり、場は清々しい雰囲気に。

_B5A5014_OK

その中で、念願だった『ファントム』主演への想いを訊かれた望海が「音楽に導いてもらって芝居も深まっていくのが、この作品の素晴らしさ」と語れば、真彩も「この作品は音楽の力がすごく大きな割合を占めていると感じています」と述べ、互いがモーリ・イェストンの音楽に魅了されていることを感じさせていた。

_B5A5053_OK

また「互いの歌をどう感じるか?」という質問に望海が「よく高い声が出るなと思います。自分が導いているのですが、あぁよく出るなと」と笑顔で言うと真彩が「1幕最後の歌声が本当に素晴らしくて、私は気絶しているのですが、気絶していても起きたいくらい!」と朗らかに応えて、絶大な歌唱力を誇るトップコンビの相性の良さが伝わる時間になっていた。

_B5A5037_OK

尚、囲み取材の詳細は舞台写真の別カットと共に、3月9日発売の「えんぶ」4月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!
 

〈公演情報〉
宝塚雪組公演
三井住友VISAミュージカル『ファントム』
脚本◇アーサー・コピット
作詞・作曲◇モーリ—・イェストン
潤色・演出◇中村一徳
出演◇望海風斗 真彩希帆 ほか雪組
●1/2〜2/10◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



えんぶショップ全品セール実施中


kick shop nikkan engeki 

初演から45年の節目に蘇るまばゆい作品世界『ベルサイユのばら45』〜45年の軌跡、そして未来へ〜開幕!

IMG_9078

宝塚歌劇団の代表作『ベルサイユのばら』が、1974年の初演から45年を迎えたことを、作品所縁の宝塚OGたちが集って祝う祭典『ベルサイユのばら45』〜45年の軌跡、そして未来へ〜が、東京国際フォーラムホールCで本日1月27日から開幕する(2月9日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて2月16日〜24日まで上演)。

IMG_7459
IMG_7512

『ベルサイユのばら』はフランス大革命の嵐の中断頭台の露と消えた王妃マリー・アントワネット、その恋人でスウェーデン貴族のフェルゼン伯爵等実在の人物に、女性でありながら王家を守護する軍人になるべく、男の子として育てられた男装の麗人オスカル、その乳兄弟アンドレら、創作の人物を絡めて描かれた池田理代子の大人気少女漫画を、宝塚歌劇団が初めて舞台化した作品。原作の名場面を大胆に取り込んだ脚本・演出の植田紳爾の、歌舞伎世界にも通じる手法が功を奏し、後に「マリー・アントワネット編」と呼ばれた1974年月組での初演は瞬く間に大評判に。続く1975年花組、雪組で連続上演された「オスカルとアンドレ編」でその人気は不動のものとなり、宝塚歌劇と言えば誰でもが『ベルばら』を連想すると言われるほどの、メガヒット作品に成長していく。その後も節目、節目で演じるスターに合わせ「フェルゼン編」「アンドレ編」「オスカル編」等、少しずつ変容を続けながら、「今宵一夜」「バスティーユ」「牢獄〜断頭台」など、「『ベルサイユのばら』〇〇の場」と言いたい形での名場面が受け継がれ、この作品をテレビで観たのが入団のきっかけ、という次代のスターを次々と生み出しながら、今も宝塚歌劇の金字塔として輝き続けている。

そんな作品の初演から45年を祝うスペシャルステージの、初日開幕を控えた26日にメディア向けの公開ゲネプロが行われ、公演替わりの華やかなスターたちを擁する舞台が全容を現した。
 
IMG_6855
IMG_6936
IMG_6876
IMG_6891
IMG_7090

ステージはお馴染みの「ご覧なさい、ご覧なさい、ベルサイユのばら」という開幕の歌からスタート。宝塚歌劇の現役生として専科から特別出演の華形ひかると、OGの緒月遠麻を中心としたプロローグの後、1974年の月組初演に出演している宝塚歌劇団の数少ない現役生である、やはり専科から特別出演の汝鳥怜の紹介による歌とトークのコーナーへ。

IMG_6963
IMG_6968

『ベルサイユのばら』に関わった数多くのスター達が、公演替わりで出演する趣向のステージだけに、
厳密に言って同じ内容の回はひとつもないというスペシャル感が満載な中、初代マリー・アントワネットの初風諄がこの人の歌からすべてははじまった「青きドナウの岸辺」を変わらぬ歌声で披露。2代目オスカルの安奈淳が「愛の巡礼」、3代目オスカルの汀夏子が「ばらベルサイユ」、初代オスカルにして2代目アンドレでもある榛名由梨が「心の人オスカル」と名曲を歌い継いでいく。70年代のスターたちは、やはりひと際個性的でそれぞれの歌が味わい深い。

IMG_7018
IMG_7026

作者の植田紳爾が加わり初演時の思い出のトークに。漫画世界を人が演じる、現在は「2.5次元」と呼ばれている世界観を知る由もなかった、45年も前に大人気漫画を演じた折りのプレッシャーと、鬘等のクオリティーも当然ながら現代とは比べようもなかった時代に、多くの人に愛されているキャラクターを如何に美しく舞台に乗せる為に払われた有形無形の努力が語られ、伝説の誕生を感じさせる。
中でも『ベルサイユのばら』の輝かしい歴史に連なり、今は帰らぬ人となった初代アンドレの麻生薫、2代目マリー・アントワネットの上原まり、4代目オスカルの順みつき、そして忘れ得ぬダンサートップスターで、俗に「踊るフェルゼン編」とも呼ばれるほどに、美しいフォルムのフェルゼンを創出した大浦みずきがいてくれたら、この公演の2幕で披露するフィナーレナンバーの再現を見事に踊ってくれただろう、でもきっと皆ここに来て観ていてくれるに違いない、という言葉には涙を禁じ得なかった。

IMG_7079
IMG_7087

続くソングコーナーは、平成の『ベルサイユのばら』の出演者たちが揃い、麻路さきの「白ばらのひと」一路真輝の「愛の巡礼」杜けあきの「心の白薔薇」紫苑ゆうの「結ばれぬ愛」日向薫の「ばらのスーベニール」。これも公演替わりで登場人数も歌われる曲も変わっていくが、例えばこの日の一路真輝の「愛の巡礼」のように組み合わせによっては、同じ曲が登場することもあるからこそ、歌い手によって全く別の曲に聞こえるという興趣が感じられた。それぞれが宝塚の一時代を背負ってきたスターだけに、1曲1曲にその人の持つ世界観が瞬時に立ち上る様が圧巻だ。

IMG_7111
IMG_7153
IMG_7219
IMG_7262
IMG_7338
IMG_7363
IMG_7350

ここまでのキャストメンバーで「愛あればこそ」の大合唱のあとは、いよいよ本格的な扮装による舞台の名場面がダイジェストで綴られる。1幕のダイジェストは「オスカル&アンドレ編」。近衛隊からフランス衛兵隊に転属したオスカルが、衛兵隊士たちと衝突しながら心を通わせていく場面、ベルナールを中心とした革命の炎の高まりを描くナンバー、橋上でのアンドレの最期、そして「バスティーユ」と想像以上に本格的なダイジェスト上演だ。初日のキャスト稔幸オスカルと水夏希アンドレ、朝海ひかるオスカルと湖月わたるアンドレの二組が場面をつないでいく。誰もが扮装をして全く違和感がないばかりか、それぞれの歌唱力が現役時代よりも格段にアップしているのが、場面の感動を更に深める。全公演に出演する華形ひかるのベルナール、緒月遠麻のアランらが固める中、こういうダイジェスト上演、しかもメンバーが公演替わりでというレアな形態に耐えるのが、『ベルサイユのばら』の宝塚歌舞伎とも言える名場面自体が持つ力だなと感じられた。

IMG_7708
IMG_7656
IMG_7750
IMG_7793
IMG_7831
IMG_7870
IMG_7969
IMG_8123

休憩を挟んだ2幕は「フェルゼンとアントワネット編」の名場面ダイジェストで開幕。アントワネットを糾弾する民衆たち、そのアントワネット救出に向かうフェルゼンの「駆けろペガサスの如く」、そして名場面中の名場面「牢獄〜断頭台」へと続いていく。初日のフェルゼン和央ようか、アントワネット白羽ゆりの組み合わせが新鮮でありつつ相性が良く、歌うように語られる台詞の数々が美しい。汝鳥怜メルシー伯爵の登場も、直近の宝塚歌劇での上演バージョンと歴代スターたちをつなぐ役割を果たしてくれる。

IMG_8214
IMG_8300
IMG_8350
IMG_8387
IMG_8437

悲しみの断頭台が光り輝くフィナーレの大階段に変貌する、これぞ宝塚歌劇の『ベルばら』セオリーが、ここでも見事に踏襲されてのフィナーレナンバーもこれまた名場面揃い。「小雨降る路」「薔薇のタンゴ」「ボレロ」の再現が、どんな悲劇もフィナーレを観ている内に心躍らせて劇場を後にできるという、宝塚マジックを知らしめる。ここもすべて公演替わりの出演で、どの組み合わせを選ぶかは悩ましいばかり。この日はフィナーレの歌う紳士Sとして登場した水夏希が、どこか空恐ろしいほどシャープなカッコよさを示した他、「小雨…」の湖月と朝海、「薔薇の…」の稔、「ボレロ」の和央と朝海が、振付陣のスタッフワークの見事さにも思いを致せる踊りっぷりで魅了した他、ビッグサプライズで汀夏子も登場。熱く濃い「炎の妖精」と呼ばれたスターの健在ぶりを示してくれた。最後は全員が登場してのパレードで、本番の熱気はいかばかりかと思わせるステージの幕が下りた。

IMG_8486
IMG_8498
IMG_8661
IMG_8691
IMG_8781
IMG_8892

こうして『ベルサイユのばら45』〜45年の軌跡、そして未来へ〜に接して改めて思うのは、『ベルサイユのばら』という作品の持つ不思議な力だ。初演から45年。もちろん今の時代のミュージカルとは全く違う概念で編まれている作品だし、独特の様式美は宝塚歌劇の世界の中でも、古典に属するものになっている。旧いと感じる人もいるだろう。それでもこの良い意味で臆面のない煌びやかさ、2500人の大劇場のてっぺんから、裸眼で観ても理解できる大向こうに訴えた非現実が、宝塚歌劇という世界の根本にある大切なものをそのまま示しているのは変わらない。ここにさえくれば3時間の間だけどんなに辛い現実も忘れることができる、徹底的に創り込んだ夢の世界への飛翔を『ベルサイユのばら』は担い続けてきた。揺らがないこの信念がある限り、この作品は不死鳥で、こうしてお祝いの宴に歴史を創ったスターたちが参集することを可能にしている。公演替わりのスターたちが演じる45年分の回顧にして、新たな歴史のはじまり。そんな作品の未来を映す、スペシャルなステージを是非多くの人に体感して欲しい。

IMG_9042
IMG_9047
 IMG_9059
IMG_9039

〈公演情報〉
『ベルサイユのばら45』〜45年の軌跡、そして未来へ〜池田理代子原作「ベルサイユのばら」より〜
監修◇植田紳爾
構成・演出◇谷正純
音楽監修◇吉田優子
出演◇初風諄 / 榛名由梨 / 汀夏子 / 安奈淳 / 麻実れい / 日向薫 / 紫苑ゆう / 杜けあき / 涼風真世(東京公演のみ) / 一路真輝 / 麻路さき / 稔幸 / 和央ようか / 湖月わたる /星奈優里 / 彩輝なお /  朝海ひかる /貴城けい /  水夏希 /壮一帆 /  白羽ゆり / 凰稀かなめ(東京公演のみ) / 汝鳥伶(宝塚歌劇団) / 華形ひかる(宝塚歌劇団) / 他
※出演キャストは公演毎に異なります。詳細は公式ホームページにてご確認下さい。
●1/27〜2/9◎東京国際フォーラムホールC
●2/16〜24◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席13,000円、A席9,000円、B席5,000円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 東京 0570-077-039  大阪06-6377-3800(10時〜18時)
公式ホームぺ—ジ http://www.umegei.com/versailles45/



【取材・文・撮影/橘涼香】




えんぶ最新号


kick shop nikkan engeki 

加藤和樹、凰稀かなめが新境地を拓いたサスペンス劇の傑作『暗くなるまで待って』開幕!

IMG_6735

アパートの一室で繰り広げられる密室状態での騙し合い、更に暗闇でのクライマックスの衝撃が観る者を釘づけにするサスペンスミステリー『暗くなるまで待って』がW主演の加藤和樹&凰稀かなめ他、魅力的なキャストを擁して池袋のサンシャイン劇場で開幕した(2月3日まで)。

『暗くなるまで待って』は1966年にフレデリック・ノットが書き下ろし、ブロードウェイでも上演されたサスペンスミステリーの傑作。1967年にはオードリー・ヘップバーン主演によりハリウッドで映画化され、世界にその名を轟かせた。日本でもこれまでに何度も上演されてきたが、今回は朝海ひかる、加藤雅也出演による2009年版以来の、約10年ぶりの上演となり、情感豊かな演出で定評ある深作健太演出により、より心理劇の緊迫感が高まった舞台が展開されている。

IMG_6598

【STORY】
交通事故で視力を失なった若き妻スージー(凰稀かなめ)は、カメラマンの夫サム(松田悟志)から預かった人形の話を聞かされる。そのままサムが仕事に出かけた留守に、スージーの元にはサムの友人、知人、また刑事が次々と訪れ、言葉巧みに人形のありかを問いただす。実はその人形には麻薬が仕込まれていて、三人の男達、ロート(加藤和樹)、マイク(高橋光臣)、クローカー(猪塚健太)は、人形を手に入れようとやっきになっていたのだ。だが次第に彼らの言動に不審を抱いていったスージーは、買い物の手伝いをしてくれている少女グローリア(黒澤美澪奈)の協力を得て、彼らの正体を次々と暴いていく。だが、それは三人の中でも最も冷徹で残忍な男である、ロートの魔の手がスージーに忍びよることでもあって……

IMG_6168

この作品の面白さはなんと言っても、目が見えないという大きなハンディを背負っていると思われたヒロインのスージーが、目が見えないからこその鋭敏な聴覚や皮膚感覚で、あの手この手で彼女を騙そうとする男達の嘘を看破していくことにある。男達は健常者故のある意味の侮りで、スージーとの会話を交わしながら人形を探す為、また互いの連携の為に様々な行動に出るのだが、その細かな動作のすべてを、スージーが感じ取り聞き分けていく様には驚きと共に自然な感銘を受ける。そこには作者の人間の持つ無限の可能性への尊敬の念が根底にあり、だからこそ暗闇の中で力関係が見事に逆転していくクライマックスの緊迫感が、単なる着想の勝利だけに終わらず、この作品から50年以上の時を経て尚、傑作としての輝きを失わせない根幹になっている。
更に夫のサムやグローリアが、目が見えないスージーをただ闇雲に手助けするのではなく、何でも自分でやってみよう、必ず一人でできるのだと、劇中で彼女を思うからこそ敢えて過度に手をさしのべない姿勢には学ぶことも多く、そんな細かい会話や態度がすべてクライマックスにつながる重要な伏線になっているのも見事。これらをはじめとした登場人物の複雑な心理の綾を的確にすくい取った深作健太の演出が、片時も目を離せない心理戦の舞台を丁寧に紡いでいる。何よりも作品の休憩をカットし、物語を一気にラストまで運んだ大英断が、緊迫感を維持したままドラマを一気呵成に押し進めた効果は絶大で、息もつかせぬ作品世界を客席に提示したのが秀逸だった。今も全く色あせない朝倉摂の装置、時計の音、冷蔵庫のモーター音などの効果も見逃せない。

IMG_6724

そんな作品世界に生きた役者たちが、それぞれ的確に役柄を表出し、新境地とも言いたい迫真の演技を見せているのが素晴らしい。
そもそもの計画を練り上げる三人の悪党のボス、ロートを演じた加藤和樹は、特にミュージカル界での大役を立て続けに演じ快進撃を続けている勢いそのままに、徹底的に残忍で冷徹な男を十二分に表現している。ここまで救いのないヒール役は初めてということだが、これまで明朗なヒーローだけでなく、一癖も二癖もある役柄にも果敢に挑んできた経験が生き、自分の欲望にあまりにも忠実なロートの一種の狂気が、申し分のないルックスから放たれる怖さには比類のないものがある。スージーを騙す過程ではブラフをかける幾つかの役割りを変装とともに演じ分け、加藤の様々な顔が観られるのも大きな魅力のひとつ。この経験が更に大きな飛躍の糧になるだろうことを確信させる、見事な演じぶりだった。

IMG_6431

一方ヒロイン・スージーの凰稀かなめは、宝塚歌劇の男役トップスターだった時代から、その抜群の美貌と圧倒的なプロポーションにまず目を奪われる人だったが、その奥に深い芝居心を持ち、突き詰めた演技者であることを感じさせてきた「芝居の人」の面が、退団後大きく現れてきたことをこのスージー役で更に明確に示している。視力を失ったスージーが、時に拗ねることも怯えることもありながらも、運命を呪うのではなく、むしろできない自分に腹を立てているという不屈の精神の表現が、夫のサムや、初めは自分に反発している少女グローリアとの会話からきちんと立ち上ってくる。それが、大きな困難に直面していくスージーの機転と勇気、更に愛する者を守ろうとする気概に繋がり、観客が掛け値なく応援したくなるヒロイン像を示している。次々に襲いかかる事態に対処していく表情も豊かで、退団後の初ストレートプレイ作品で、文化庁芸術祭新人賞授賞につながった『さよなら、チャーリー』に続いての快演、今後の活躍への更なる期待が高まった。

IMG_6642

詐欺の仲間に引き入れられるマイクの高橋光臣は、これまで多く演じてきたキャラクター性の強い役柄から一転、正統派二枚目の香りを際立たせて強い印象を残している。スージーに自分は味方だと思いこませる過程の駆け引きが絶妙で、そのブラフの奥にある心根にロートとは異なる温度があることが、自然に伝わってくる。端正な顔立ちも役柄によく合い、これを契機に王道のヒーロー役も是非観てみたいと思わせる、魅力的なマイクだった。

IMG_6544

もう1人の詐欺仲間クローカーの猪塚健太は、目鼻立ちのハッキリした風貌に茶髪のヘアメイクが抜群に似合い、沸点の高い役作りが3人の性格の違いを如実に表している。強面で押してくるようでいて、どこかでは小心者の面もある。そんなクローカーの複雑さに真実味があり、追い詰め追い詰められるギリギリの表現も巧み。それぞれに悪事に荷担した思いも、動機も違う三人三様の「悪党」が決してグルーブ芝居にならなかったのが、作品の醍醐味を深めた。

IMG_6212

スージーの夫サムの松田悟志は、作中の男性陣の中で唯一のストレートな好人物をてらいなく描き出している。限られている出番の中で、スージーを慮り様々な行動をするサムの良き夫としての顔をきちんと残すことによって、後々の展開でスージーがサムの為に奮う勇気ににも説得力を与えていて、作品の重責をよく担った。

IMG_6501

グローリアの黒澤美澪奈は、スージーに対してはじめ心を開いていないという設定が、作中大変重要な要素になるところを、時にエキセントリックに表現して目を引く。揺れ動く少女の心がやがて大きくスージーの力になっていく、作中のグローリアの成長が終幕の大きな感動につながる変化を的確に表して、舞台に寄与していた。

全体にまさに息もつかせぬ展開で、2019年年頭にして、見逃せない作品のひとつに必ずや数えられるだろう迫真の舞台が出現したことに拍手を贈りたい。

IMG_6681

【囲み取材】

IMG_5791
猪塚健太、高橋光臣、加藤和樹、凰稀かなめ、松田悟志 深作健太
 
初日を前日に控えた1月24日、囲み取材が行われ、キャストを代表して加藤和樹、凰稀かなめ、高橋光臣、猪塚健太、松田悟志、そして演出の深作健太が公演への抱負を語った。

──いよいよ明日から初日を迎える今の心境から教えてください。
加藤 稽古を重ねて参りましてひとつひとつのチャレンジを皆でして試行錯誤をしながら、遂さっきまでやって参りました。正直良い意味でも悪い意味でもどうなるかわからないところがあって。やはり実際にお客様が入った劇場の中に立ってみないとわからない部分があるので、果たしてこの舞台がお客様にどう見えるのか?というプレッシャーも感じつつ、良い緊張感でもあります。
凰稀 今日の舞台稽古までかなり色々と変更点がありまして、でもそれはもっともっと良くする為に、スタッフの方々や出演者の皆が色々言い合いながら創ってきた舞台だからでもあります。私自身サスペンスの舞台は初めてで、お客様からどういう反応を頂けるのかが全くわからないので、かなりドキドキはしているのですが、この世界に引き込めるように自分自身も楽しんでやっていきたいという気持ちでいっぱいです。
高橋 まずここまで稽古をしてきて、このメンバーでできたことがすごく嬉しかったので、それをお客様に感じて頂けるのではないかな?という実感があります。暗闇の中で音に敏感な舞台なので、お客様が咳などをするとスージーが気づいちゃうので(笑)、そのくらい静寂がポイントにもなりますから、ご覧になるお客様にも是非ご一緒に楽しんで頂ければと思います。
猪塚 1ヶ月近く稽古してきて昨日から舞台稽古がはじまったんですけれども、照明や音、皆さんのが芝居を含めてすごいものが出来たな!という確信を得たので、早く観に来てくださった方をゾクゾクさせたいですね。それのみです。 

IMG_6400
 
松田 珍しいくらいに同世代が集まった、世代幅の狭い作品だなと思っていて、僕はそういう作品がはじめてなものですから、どういう風な稽古を経て劇場に入っていくのかな?と思っていたのですが、なんと言いますかある種クラスメイトのような仲間意識が芽生えて。そして本当に些細な、こと細かなことでもすぐその場で話し合う、すごく素敵な現場になっていますので、このチームワークが舞台の上でどのように花開くか?という部分と、それがそのまま生み出す緊張感につながっていくと思います。スタッフ・キャスト一丸となって最後までしっかりと緊張感を持って作っていきたいなということです。
深作 この作品は一昨年亡くなられた演出家の青井陽治先生、美術の朝倉摂さんはじめ本当に多くの先輩達が創ってきた作品で、それを今僕が演出させて頂くということに大きな喜びと同時にプレッシャーを感じております。そして本当に信頼すべきはこの素晴らしい役者さんたちで、デビュー以来ずっと一緒の戦友だと思っている加藤和樹君、今回初めてご一緒するのですが本当に頼りになる凰稀かなめさんはじめ、皆さんと一緒に創っている舞台だと感じられるので、このカンパニーの温かさをそのまま舞台上に持っていければと思っています。今はドキドキしながらも良い感じに仕上がっていますので、後は一刻も速くお客様にお渡ししたいなと、そんな気持ちでおります。
──オードリー・ヘップバーンの映画版などが大変有名な作品を上演するにあたって、深作さんならではのこだわりは?
深作 何よりも1966年に書かれた作品を、2019年の東京で上演する意味をというものがあります。でもこのキャストの皆さんがスージーやロートの今までのイメージを一新して、皆さんの新しいものを創ってくださっていますし、ホラーやサスペンスの映像作品があふれている今、生の舞台でしか感じられない本当のサスペンス劇を届けることができたらなと。ラスト20分間の暗闇でのクライマックスが本当に素敵な作品になろうとしていますし、それを皆さんに劇場で生で体感して怖がって頂けたらという気持ちで演出をしています。

IMG_6350

──その暗闇の中の20分間の芝居ということですが、実際に演じてみて難しかった点などは?
加藤 先ほど(高橋)光臣さんが言ったように、人って暗闇になると耳が鋭敏になるんですね。ひとつひとつの音、自分の足音だったり呼吸など、普段の芝居でも意識しないといけないのですが、それがより繊細に意識していかなければいけないんだということに気づきました。やっぱり観ている側だった時と、演じる側の今とでは思った以上に繊細なので、特に見えていない(凰稀を示して)彼女はね。
凰稀 本当に暗闇の中で動き回っているので、私は目が見えない役なので実は暗闇の方がすごく楽で(笑)、ライトが当たっている方が見えないと言うか、霞んで見えるので(笑)。
──暗闇の芝居で特に気をつけていることはあるのですか?
凰稀 あまり明るくなったのか暗くなったのかがよくわからなくて(笑)。
加藤 本当に見えてないんです(笑)。
凰稀 本当に見えていないからぶつかって行っちゃうので(笑)、痣だらけになっています。
高橋 (袖に)はける時もずっと見えない芝居ではけて行ってますから。
凰稀 今もよく見えていないんです(笑)。
──また、加藤さんは本格的な悪役がはじめてということですが。ロート役はいかがですか?
加藤 わからないんですよね。わからないというのは未だにロートの本質がどこにあるのか、毎回変化していくんじゃないかなと。彼を掘り下げれば掘り下げるほど色々な表現の仕方がある。彼の人格を形成しているものはいったい何だろうと考えていくと、様々ななやり方がやればやるほどあふれてくるんです。そのどれも間違いじゃないし、でもどれも正解じゃない気がして。つかめそうでつかめない、それを追い続けていくんだろうなと思います。
──高橋さんは二枚目の役が久しぶりとインタビューなどでおっしゃっていましたが。
高橋 いや久しぶりと言うか(笑)、僕面白い役が大好きなので、ついつい面白いことをやりたくなってしまうのですが、この芝居に関してはそれをとにかく封印しなければならないので、そのストレスは半端じゃない(笑)。
猪塚 マジですか?!(笑)
高橋 そう(笑)。マイクは詐欺師なのですが、職業は確かに犯罪者なんですがまともな人と言うか、常識人で。世の中には色々な職業の人がいますが、まともな職業の人が必ずしもまともな人か?と言われたら「クエスチョン」だし、犯罪者だから悪い人かと言うと、もしかしたら悪いことをしながら良いこともしているかも知れない。そんな風にマイクというのは掴みどころのない役だなとずっと感じながら演じているので、それをスージーがどう感じてくれるのかを、舞台上でこれから本番に入っていく中で1日1日楽しみにしています。

IMG_6564

──では皆さんからおススメの見どころと意気込みをお願いします。
加藤 今ここにいるキャストと楽屋にいるキャストを含めても、本当に少ない人数でやっていますし、でも1人1人にちゃんと意味と言いますか役割があって、特にスージーはグローリアという少女がいなければお芝居が成り立たないですし。その中で(自分は)悪い奴ですけれども、悪い奴は悪い奴なりに頑張ろうかなと思っています(笑)。それぞれが生きている過程なども見どころで、もちろん『暗くなるまで待って』というタイトル通りの暗闇の対決は見どころですけれども、1人1人の生き様なども感じて頂けたら良いなと思っています。大きな怪我をしないように頑張りたいと思います。
凰稀 加藤さんもおっしゃった暗闇での対決もそうなのですが、私は人と人との関わり、グローリア、マイク、サム…ロートさんとはちょっとわからない、最後の方しか会わないのですが(笑)、人と人との関わりから生まれてくるものがあって。このお話で一番大切なのは、サムが最初にスージーに言う「(グローリアに)『ありがとう、良い子ね』って言ってあげたらいいよ」ではないかと感じていて。その言葉からグローリアも変わっていくし、マイクも感覚が変わっていく。そういう関わりの中で伝わっていくものを感じて頂けたら面白いのでは、という気がします。
高橋 暗闇がお客様にとって魅力的になるのか、ストレスになるのかそれ次第だと思うので、それを如何に喜んでもらえるかというところを。僕らはあまり暗闇のシーンはないので、スージーとロートの暗闇のシーンまでに如何に物語を持っていけるかというところだと思うので、なんとか頑張りたいです。
猪塚 僕はこの作品は体感型サスペンスエンターテイメントだと思っていて、皆さん作品を観にきて頂いた上で、一緒に体感してもらって『暗くなるまで待って』の世界にどっぷりつかってもらいたいなという意気込みがありますので、是非そんな楽しみ方もして頂けたらなと思っています。
松田 今皆さんがおっしゃった通りで、共犯者でも被害者でもどちらの視点に立ってもハラハラドキドキすることは間違いないです。本当に色々なそれぞれの思惑が重なり合っていて、どこに本筋が流れていくのかな?というくらいすべてが複雑に絡み合っていますので、皆さんそれぞれの気持ちで観て頂いて、作品を味わって頂きたいなと思います。
深作 映画が有名な作品で、更に色々なメディアでの展開が出てきてもいますが、やはり劇場でしか体感できない芸術、エンターテイメントになっています。この劇場にお出かけ頂いて、客席の中で暗闇の面白さ、怖さを体験して頂けたらなと思います。是非皆様劇場に足をお運びください。

IMG_5798
 
〈公演情報〉
暗くなるまで待って画像
『暗くなるまで待って』
作◇フレデリック・ノット 
訳◇平田綾子 
演出◇深作健太
出演◇加藤和樹 凰稀かなめ/高橋光臣 猪塚健太 松田悟志  ほか 
●1/25〜2/3◎東京・サンシャイン劇場 
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京/サンライズプロモーション東京  0570-00-3337(全日10:00〜18:00)
●2/8〜10◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
●/2/16・17◎名古屋・ウインクあいち
●2/23◎福岡・福岡市民会館 大ホール 
〈公演HP〉http://wud2019.com



【取材・文・撮影/橘涼香】




えんぶ最新号


kick shop nikkan engeki

新トップコンビお披露目で華やぐ宝塚歌劇月組公演ミュージカル『ON THE TOWN』上演中!

IMG_4129

105周年を迎えますます意気上がる宝塚歌劇団が、月組を牽引するトップスター珠城りょうと、新トップ娘役美園さくらをはじめとした選抜メンバーで年始に送る、ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』が東京国際フォーラムホールCで上演中だ(20日まで)。

ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』は、レナード・バーンスタイン作曲、ジェローム・ロビンス振付により1944年に初演された作品。1949年にジーン・ケリー主演による映画化『踊る大紐育』が世界的な大ヒットとなったのをはじめ、2014年のブロードウェイ・リバイバル版上演時にも、トニー賞作品賞を含む4部門でノミネートされるなど、大好評を博した。日本でも同じ2014年大人気アイドルグループV6の20th Century、坂本昌行、長野博、井ノ原快彦の主演で初演され、宝塚OGの真飛聖、樹里咲穂が出演している。
そんな作品が、今回初めて宝塚歌劇団で上演されることとなり、潤色・演出を野口幸作が担当。麻咲梨乃、KAZUMI-BOY、桜木涼介、三井聡、永野亮比己という個性的な振付陣が揃い、往年の名作の宝塚版に挑んでいる。

IMG_4195

【STORY】
1944年ニューヨーク早朝6時。海軍水兵のゲイビー(珠城りょう)は、仲間のチップ(暁千星)、オジー(風間柚乃)と共に、24時間の上陸許可を得て初めての大都会、ニューヨークの波止場に降り立つ。早速チップが父親にもらったというガイドブックを頼りに、街へ繰り出す三人。この24時間で大都会を満喫し、まだ見ぬ恋人にも出会いたい!と心躍らせ地下鉄に乗った刹那、ゲイビーは車内に貼られた「今月のミス・サブウェイ」のポスターに写るアイヴィ・スミス(美園さくら)に一目惚れしてしまう。
「絶対にこの娘を探し出す!」と意気込むゲイビーに、はじめはとても無理だと反対していたチップもオジーも協力することになり、「アイヴィ・スミスはカーネギーホールで歌とバレエを、美術館で絵画を勉強中」というプロフィールを頼りに、三人はタイムズスクエアで午後8時半に再会する約束を交わし、手がかりを求めて街に散っていく。
だが、地下鉄会社の上層部に会ってアイヴィの情報を得ようと考えたチップは、タクシードライバーのヒルディ(白雪さち花)に惚れ込まれ、博物館を訪れたオジーは人類学者のクレア(蓮つかさ)に研究対象の「ピテカントロプス・エレクトス」にそっくり!と興味をそそられ、それぞれあっという間にカップル成立。一方、アイヴィを探して街を歩き続けたゲイビーは、ようやくカーネギーホールに到着。遂にスタジオで歌のレッスンをするアイヴィにめぐり会い、タイムズスクエアでデートの約束を取り付け仲間たちと合流するが、約束の時間になってもアイヴィは現れず……

ミュージカル『ON THE TOWN』は、そもそも三人の水兵が上陸許可を得た24時間の間に恋を見つけるものの、不確かな未来に向かって旅立っていかなければならない、人生の悲哀が根底にある作品だ。そこには彼らが再び船に乗り込み赴く先が戦地であるという現実を覆い隠すように、全体の筋立てをコメディーにして、有り得ない偶然や、馬鹿騒ぎをダイナミックなダンスで綴り、未来に希望を見出す仕掛けが施されている。しかもそこに、これぞアメリカのカラッとした感触があるのが特徴で、徹底的なニューヨーク賛歌、海軍賛歌のエンターテインメントに寄せた映画版ほどではないにしても、船へと戻っていく三人の水兵を見送る三人の女性たちとの別れは、「素敵な思い出が出来た!きっとまたいつか!」という、あくまでも前向きなものだ。三人に代わって新たにまた別の三人の水兵たちがニューヨークに降り立つ、新しい明日がまた始まる!という幕切れも、ペーソス以上にガッツがあるのが、さすがはブロードウェイ・ミュージカルだなと思わせる。
今回の宝塚版の上演でも、その色合いは保たれているばかりでなく、音楽監督・編曲と海軍の帽子をかぶって自ら指揮棒も振る甲斐正人が率いるオーケストラの生演奏の迫力と、アンサンブルの群舞で押してくるパワーが、宝塚の美点をよく現している。潤色・演出の野口幸作の目配りも効いていて、三人が繰り広げる大筋の脇に、三人が気づかないままおかしていくもめ事によって、警官を先頭に彼らを追いかけていく人々が増えていくくだりや、博物館での顛末、ゲイビーを元気づけようと店から店をはしごしていく最中に関わる人々など、どこかではちゃんと1人1人が際立つように、出演者全員を立てている気配りが宝塚ならではだ。

ただ一方で、物語全体が三人の水兵と三人の恋人たちという群像劇で作られている為、月組新トップコンビ珠城りょうと美園さくらのお披露目作品という観点で見ると、やや難しさもあったように思う。特にゲイビーとアイヴィが劇中なかなか巡り合えない設定だけに、他の二組のカップルの関係ばかりがぐいぐいと進展していく1幕の流れには、トップスターを頂点とする宝塚歌劇と作品の成り立ちに開きも感じた。だからと言って版権の関係で場面をカットするという訳にはいかない以上、演出のテンポ感をもう少しあげても良かったかも知れない。
それでもゲイビーが二組と合流する2幕になると全体もグッとしまってくるし、ゲイビーとアイヴィが手を取り合うことが、新トップコンビの出会いと重なるようにも感じられ、作品の終わりがより前向きに見えたのも現代的。ここからはじまる新しい月組にも期待が高まった。

IMG_4957-2

そんな群像劇でセンターを務める大任を託された珠城りょうの、おおらかで正統派の持ち味が、この旧き良き時代の作品に殊の他よく合っている。『雨に唄えば』でも感じたことだが、この人の芯に落ち着きのある男役像は、こうした古典作品を引き立たせる何よりの力になる。トップスターが幻想シーンとフィナーレナンバーを除いて水兵姿のまま、というだけでも宝塚歌劇としてはかなり特殊ケースだが、ゲイビーが喜びに溢れた姿、運命の恋人に会えない切なさ、恋を失ったと思い込んで落ち込む姿、等々を表情豊かに見せることで、その特殊さを払拭していて頼もしい。それだけに、フィナーレで登場した士官姿は待ってました!というばかりで、実に魅力的だった。

その珠城の相手役として新トップ娘役になった美園さくらは、台詞発声の声質が抜群に美しいだけでなく、今回かなり露出の多い衣装が続く中で、ポージングも常に美しい美点を披露。通常宝塚のオリジナル作品であれば、トップ娘役にはあまり回ってこないだろうシーンもあるアイヴィ役を、独特の個性でクリアしていて、珠城とのコンビで新たな魅力、新たな作品を紡いでいってくれる可能性を感じさせた。大劇場公演のお披露目に『宮本武蔵』が控えている振り幅も、トップ娘役として貴重な経験になるに違いない。

IMG_4813

また、トップスターである珠城に対して舞台上でほぼ同格の役柄を、組の次世代のメンバーが務めていることにも、月組の力強さを感じる。その1人暁千星は、24時間のニューヨーク観光を綿密に計画してガイドブックに首っ引きだったチップが、友情の為説を曲げ、更に思わぬ女性から惚れ込まれ…という予期せぬ出来事の連続の中で逞しくなっていく様を自然体で見せている。チップに夢中になるタクシードライバー・ヒルディを、上級生の白雪さち花がパワフルに演じ、その振り切りぶりで過度なセクシャルムードに倒れないことも良いコントラストになっていて、チップに残る少年性にあざとさがないのも暁の個性故。はじめ押されっぱなしだったチップが、終盤にはきちんとヒルディをかばっている姿にも、チップのドラマが感じられた。

もう1人オジーの風間柚乃は宝塚メモリアルの100期生が、珠城と暁を向こうに回して、なんら不足のない骨太な演技を披露していることに舌を巻く思いがする。珠城りょうというスターがそもそもどっしりとした落ち着きを誇っているのに、更に地に足がついて見える風間の堂々とした舞台ぶりはほとんど驚異的で、それでいながら決して地味に倒れない絶妙な上手さは、末頼もしいを通り越して空恐ろしいほど。そんなオジーの恋人になる人類学者クレアに、本来男役の蓮つかさが扮したが、同じく芝居巧者の蓮が悪びれないあっけらかんさをよく表現していて、このカップルを観ているだけでもなんとも心憎いやりとりが多くあり、抜擢の理由がよくわかる面白さだった。

IMG_4439

そうした女性役の大役が上級生や男役に回っていることもあって、娘役たちに役が少ないのは痛しかゆしではあるが、役柄のダイナミックさや色合いを考えると、今回に於いてはこのキャスティングが妥当だったと思う。中では大きな役柄のアイヴィの声楽教師マダム・ディリーの夏月都のエキセントリックさは相変わらず絶好調だし、ヒルディのルームメイト・ルーシーの叶羽時が、思い切りの良い「可愛くない女性」の造形で役者魂を感じさせれば、晴音アキも豊かな歌唱力とコメディセンスで魅了する。歌唱力と言えば男役陣の一角、輝月ゆうまもクレアの婚約者ピットキンで、壮大だからこそ切なくも可笑しいソロナンバーを聞かせるし、場末のショーのチープ感を巧みに表出する千海華蘭も随所で活躍。警官コンビとして持ち前の品の良さを発揮する紫門ゆりやと、惜しくもこの公演で退団となった輝生かなでのダンス力も輝くだけに、せめてこのクラスにはもう少し大きな役があればとどうしても思うが、その中で、それぞれの持ち場を真摯に務める姿に感動を覚えた。玲実くれあ、春海ゆう、颯希有翔、佳城葵らもポイントポイントで目引くし、若手期待株の天紫珠李、彩音星凪、結愛かれん、礼華はるも「ここにいます!」ときちんとアピールしてくる力を改めて感じた。

ここに現在宝塚バウホールで主演公演『Anna Karenina(アンナ・カレーニナ)』を上演中の美弥るりかを筆頭に、月城かなと、海乃美月などがいることを考えると、月組の層の厚さは大変なもので、この往年の名作ミュージカルを支えた新トップコンビを筆頭とした、月組の地力を改めて感じる公演となっている。

〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』
作曲◇レナード・バーンスタイン
脚本・作詞◇ベティ・コムデン
脚本・作詞◇アドルフ・グリーン
原案◇ジェローム・ロビンス
潤色・演出◇野口幸作
出演◇珠城りょう、美園さくら ほか月組
●1/6〜20◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席 8,800円 A席 6,000円 B席 3,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時〜18時)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/
   

 
【取材・文・撮影/橘涼香】






『暗くなるまで待って』


kick shop nikkan engeki 

宝塚宙組が臨んだ新たな挑戦の舞台『白鷺の城』『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチの描いた記憶─』

B5A0475

栄えある創設20周年を迎えた宙組初の日本物ショーである─本朝妖綺譚─『白鷺の城』と、万能の天才レオナルド・ダヴィンチの若き日にあったかも知れない恋を描いたミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』が東京宝塚劇場で上演中だ(24日まで)

─本朝妖綺譚─『白鷺の城』は、陰陽師・安部泰成(真風涼帆)と人心を惑わす妖狐・玉藻前(星風まどか)が千年に渡って転生を繰り返しながら、相争いつつ惹かれ合う姿をショー形式で描いた大野拓史の作品。江戸時代初期の魑魅魍魎が巣食う「白鷺城」からはじまり、平安時代後期、泰成と玉藻前の間にある運命のそもそもの起点となった平安時代中期の泰成の祖先を巡る物語、陰陽道を学びにきた遣唐使が九尾の狐の結界を解く古代中国、戦国時代の北関東、と巡って「白鷺城」に帰り、更に稲荷神社の祭礼の夜へと巡っていく流れになっている。

B5A0523

作・演出の大野拓史は、宝塚の日本物ショーには大きく分けて見取りのバラエティー形式のものと、ストーリー性を有する舞踊詩があるとプログラムの作者言で述べている。前者は「選り取り見取り」から来ている様々なシチュエーションの舞踊を並べた、多種多様なスター性が見られる形式の利点はあるが、その違いを表現する引き出しが求められ、日本物の上演経験の少ない宙組にはいささか不利な面があると説く。一方、後者は歌と舞踊でストーリーを綴っていく形式で、ミュージカルがあくまでも芝居、散文であるのに対して、詩的な情感に重きを置くもので、一貫した状況がある取り組み易さの反面、変化に乏しくなる傾向のある形式だという。この解説は非常に簡潔で分かりやすく、今回の『白鷺の城』はその双方を合体させることで、両者のメリットとデメリットを克服しようとしたものだ、という作者の狙いもなるほど良く伝わってくる。実際に舞台は、泰成と玉藻前の祖先から受け継がれた定めによる結びつきという太い線を通しながら、各場面に大きな変化があり、当然ながら装束も振付も場面によって見事に変化するし、陰陽師と妖しの者の結びつきを映像も交えて描いた新しさもあって、45分間という上演時間が更にあっという間に感じられるテンポの良さも持っている。

B5A0671

ただ一方で、これは日本物ショーに限らず大野拓史作品に常に横たわる問題なのだが、プログラムの解説に事細かに記されている、作者の知識量と登場人物や場面に込められた想いが、舞台を観ているだけでは理解しきれない側面がある。これが今回の作品にも立ち現れているのは否めない。特にプログラムの場面解説で「〇〇は語る」という言葉が度々出てくるが、当然ながら実際の舞台の上では台詞として発せられる訳ではないから、多くは想像力で補填しなければならない。もちろんこれはバレエ作品も同様だから、ショー作品を創る上でこの扱いは極めて正しいが、ここまで各場面の設定が緻密で複雑だと、マイムだけで全ての流れを理解するのはかなり難しくなってくる。それでいて「理解しなくて良い、感じれば良い」というほど抽象的な作風ではなく、極めて高い物語性を有している作品だから、どうしても受け手が理解しなければと思う分「何がなんだかわからなかった」に陥る危険性もまた高くなってしまう。陰陽師と妖しの者が転生を繰り返しながら強く惹きつけ合っていく、という設定がとても魅力的なだけに、この提示はあまりにももったいなかったと感じる。何故なら基本的に、全ての登場人物に深い背景があり意味があるとする大野拓史という劇作家の作風が、本来極めて散文的だからだ。感性だけを伝える詩の世界と大野の作風には開きがあって、時には演劇さえ飛び越えて小説世界のようでさえある作品を発表してきた作家が、自作に舞踊詩の要素を取り入れようとしたそのチャレンジ精神はおおいに買うが、やはりその世界観には乖離があった。ショー作品として考えると役柄が極端に少なく、宙組の多くのメンバーがアンサンブル状態だったのも一考を要する点で、着想が素晴らしいだけに、もう一度芝居として大野がこの作品に取り組める機会があることを願いたい。

B5A0585

その中で陰陽師・安部泰成に扮した真風涼帆と、妖狐・玉藻前の星風まどかがトップコンビであること、この二人はどのような装束でどんな時代に立ち現れてもコンビである、という宝塚歌劇の約束事が作品を格段に観易くしたのもまた間違いない。特に真風の星組時代に培った日本物経験が大きく舞台に貢献したし、陰陽師という特殊な能力を持つ人物のミステリアス感が、真風の個性ともピタリと合っていて、物語に大きな芯を通して魅力的だった。その分日本物初挑戦でこの役柄を演じた星風まどかの負担は大変なものだったと思うし、宝塚歌劇の日本物と言えばの重鎮・松本悠里が出演しているだけに、松本の曲線と星風の直線の違いが立ち現れたが、これはむしろ違って当然。懸命に奮闘した星風の経験値の蓄積を期待したい。
変則的な「チョンパ」と言えるプロローグに続く平安時代のセンターと、戦国時代の軍師岡見宗治の芹香斗亜が、華やかに場面を支えてやはりこの人も花組時代に蓄えてきた日本物経験を活かし、二番手男役の矜持を示したし、松本の葛の葉の夫である安部保名の愛月ひかるが、一場面に集約された役柄を実に美しく務めている。宮本無三四の桜木みなとの存在感が骨太さを増し、同じ役割の明覚の寿つかさと共に、導入部分の説明役をよく担っていた。他に目立つのが鳥羽上皇の凛城きらと、白拍子や戦国時代の女性・八重などの天彩峰里ぐらいというのが、前述したようにショー作品としては残念な部分で、録音とは言え松本悠里に台詞があったのはいつぶりだろう…とにわかには思い出せないほど多くの挑戦を含んだ舞台が、別の形で発展してくれることを期待したい。

B5A0805

そんな異色のショー作品の後に位置したのが、ミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』で、田渕大輔の作品。『王妃の館』で大劇場デビューを果たした田渕の大劇場二作目にして初のオリジナルもので、万能の天才として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチの、若き日にあったかも知れない恋が、名画「モナ・リザ」の誕生秘話に絡めて描かれていく。と書けばもちろんすぐにわかるように、実在した人物を使った架空の物語なのだが、この作品から立ち上がるものが、劇作家・田渕大輔の心象風景にどうつながっていくのだろうか?にやや複雑な感情も抱いた。


GOA0292

と言うのも、主要な登場人物たちの性格がいずれもかなり拗れているのだ。野心と支配欲の塊のフィレンツェの統治者ロレンツォ・デ・メディチ。聖職にありながら大きな陰謀を企てる為に、美しい少女を洗脳してきたフィレンツェ司祭グイド。兄・ロレンツォに全ての望みを握りつぶされていると憤り続ける弟のジュリア—ノ。ロレンツォの完璧な妻を演じつつ、復讐の為に弱い者を殺めることも厭わないクラリーチェ。敬愛も友情も恩義も金貨の前には意味をなくす少年・サライ。仮に今の世であるなら、誰しもがカウンセリングを受けた方が良いのでは…と思わされる人々の思惑が交錯する中で、少年の日の淡い恋、聖少女の面影を追い続ける主人公レオナルド・ダ・ヴィンチと、周りの男性ほぼ全てから求められながら、自らが罪深きものだと思い込まされているヒロイン・カテリーナが居並ぶと、メディチ家を陥れたいと画策するフランチェスコの存在が、むしろスコンと明快に感じられるくらいだ。この展開だと、タイトルにある「異人たち」=普通の人とは違って優れた人という、当然万能の天才レオナルド・ダヴィンチら、芸術家たちにかかっていると思われた言葉は、或いは一癖も二癖もあり過ぎる周りの人物たちのことだったのか?と思わされた。

もちろんだからこそ、レオナルドの純愛が清らかに浮かび上がる様は宝塚歌劇の香り深いものだったし、人が空を飛ぶ装置の開発とカテリーナの心の開放を重ねた場面は、伸びやかに美しい。空を飛ぶ小鳥に託した冒頭から続くメタファーも効いていて、作者が歴史の事実の行間に見出したものと、描こうとした世界の魅力もよくわかる。ただ、例えば史実としてこの時点でロレンツォが落命するはずがないとしても、場面の描き方としてはどう見ても命を落としたようにしか見えないに始まる、作者にとっては当然のことが、受け手にとっては混乱を招くものになるのは、やはり舞台芸術の表現としては一考を要するのではないか。舞台上で活躍する登場人物が少なく、新人公演主演経験を持つ男役たちが、レオナルドの工房仲間に終始しているのも惜しまれる。脇の役柄を活躍させる為の酒場のダンスシーンや、カーニバルのシーンをもうひと息華やかに盛り上げるだけで、全体の印象はずいぶん変わってくるだろうし、今回は大野の日本物ショーも役柄が少なく、二作品が似た問題を抱えていたことも影響しあったと思う。事実、物語が終わった後のフィナーレの小粋さ、楽しさは比類ないものだったから、この田渕の持つセンスが、作品の中にも活かされていくことを期待したい。

B5A0942

その中で、レオナルド・ダ・ヴィンチに扮した真風涼帆が、心の中にある聖少女を真っ直ぐに思い続ける青年として、主人公をてらいなく描いたのが、作品の清涼剤になっている。天才の若き日を描いた作中には、ほとんど芸術家としての葛藤は描かれていないものの、真風本人の持つ神秘性が余人とは違う雰囲気を自然に醸し出して、役柄に陰影を与えた効果は絶大で、フィナーレナンバーの女役たちを率いた場面のカッコ良さと共に、作品を見事に牽引していた。

ヒロイン・カテリーナの星風まどかは、周りの男性たちから求められることさえも、自分の罪深さ故と思いこまされているという非常に難しい設定の役柄な上に、名画とリンクする必要もある極めて高いハードルに立ち向かっている。正直若くしてトップ娘役に上り詰めた星風には、あまりにも大きな要求だったと思うが、髪型などにも懸命な工夫が見え、選ばれし者の責任を全うしようとする気概が感じられた。

GOAO232

ロレンツォ・デ・メディチの芹香斗亜は、色濃い役柄でも品位を失わないこの人の個性が上手く作用して、魅力的な色敵役になった。役自体にドラマチックさがあるし、冒頭からの展開がややわかりにくい脚本上の問題を、美しき為政者としてきちんとねじ伏せた姿に、芹香の男役としての充実が見えていて頼もしい。

グイド司教の愛月ひかるは、謂わばこの作品のラスボス的役どころ。初登場時から食わせ物感を漂わせながらも、スッキリと美しい男役美は崩さなかったところに、こうした役柄を数多く演じてきた愛月の経験値の高さが現われている。この作品の後の博多座公演を最後に専科への異動が発表されていて、宙組の生え抜き男役としての期待が高かっただけに寂しい想いも強いが、こうした役柄を楽々と演じているのを見ると、各組に必要とされているからこその異動なのだろう。更に様々な経験を積んで、より大きな男役として飛翔する未来に期待したい。

B5A0920

ジュリア—ノ・デ・メディチの桜木みなとも、非常に難しく捻じれている役柄だけに、本人の爽やかな持ち味が大きな救いになっている。長髪の鬘もよく似合い、もう少し性格的に素直なら申し分のないプリンスなのに、と思わせたのは桜木の力技に他ならず、成長著しい。他の宙組期待の若手男役たちの和希そら、留依蒔世、瑠風輝、また宙組男役の層の厚さを感じさせる澄輝さやと、蒼羽りくが、グループ芝居の中で懸命に役柄に個性を持たせようとしている健気さが宝塚の美徳そのもの。一方よく書き込まれているフランチェスコ・パッツィの凛城きらや、レオナルドらが集う工房の主ヴェロッキオの松風輝が、それぞれ味のある演技を披露。星吹彩翔、美月悠、風馬翔などの演技派にも同様の働き場があればと思うし、特にこの作品で退団する風馬には、酒場の歌手など目を引く場面もあるものの、宝塚の男役の最後に是非芝居も観たかった。
娘役ではロレンツォの妻・純矢ちとせの存在感は別格として、遥羽ららの愛らしさはやはり貴重だし、少女時代のカテリーナの夢白あやの美しさがひと際目を引くだけに、この役柄がもっと効果的に描かれていたら作品がより引き締まったと思う。中で非常に大きな役柄だが、宝塚歌劇としてここまで救いがない描き方も珍しいという、盗癖のある少年サライの天彩峰里が、果敢に役柄に体当たりしているのも印象的だった。

B5A1176
 
他に珍しく大きな役柄ではないだけに、宙組のもうひとつの顔としての存在が静かに主張されている組長の寿つかさと副組長の美風舞良以下、短いながらももうひとつの作品を観た!と思えるほど充実感のあるフィナーレを含めて、難しい並びの作品に挑んだ宙組メンバーの奮闘が際立つ舞台となっていた。

B5A1331

初日を控えた11月23日通し舞台稽古が行われ、宙組トップコンビ真風涼帆と星風まどかが作品への抱負を語った。

囲み真風

まず作品の見どころを問われた真風は、「宙組が誕生してから初の和物ショーということで、お化粧や着こなしなど課題が多かったのですが、大劇場公演を経て育んだ力をさらにパワーアップしてお見せできたらと思っております。お芝居は今の宙組に当てて描いて頂いたオリジナルなので、そこを観に来てくださった方々にも楽しんで頂けたらと思いますし、私自身は、まだまだ謎の多い人物であるレオナルド・ダ・ヴィンチということで、彼の追い求めた真実の愛や、出会う人々との関係性を日々繊細に丁寧に演じていけたら」と真摯に語った。

囲み星風

また星風は「日本物のショーはお芝居仕立てで、場面毎に色々なお色が出ていると思うので、 そこが見どころだと思います。お芝居も宙組生が集中してその日その日を生きているところが人物と重なって、繊細に描かれてるいると思うので、そこを観て頂けたら嬉しいです」と、両作品への想いを述べた。

囲みトップコンビ1

他に、和物作品への経験が深い真風が、星風を自然にリードしていることや、オリジナル作品ならではのやり甲斐を、互いが持っていることが伝わり、創設20周年を迎えた宙組がトップコンビ中心に更に未来を目指していることが感じられる時間となっていた。

囲み全身

尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に1月9日発売の「えんぶ」2月号に掲載致します。どうぞお楽しみに!

〈公演情報〉
宝塚宙組公演
─本朝妖綺譚─『白鷺の城』
作・演出◇大野拓史
ミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』
作・演出◇田渕大輔
出演◇真風涼帆、星風まどか ほか宙組
●11/23〜12/24◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



30%ポイントプレゼント実施中!


kick shop nikkan engeki 

記事検索
演劇キックラインナップ

演劇キック

観劇予報

宝塚ジャーナル

演劇人の活力源

日刊えんぶ

えんぶ情報館

えんぶショップ

えんぶミロクル

えんぶfacebook

広告について