えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

ミュージカルセーラームーンシリーズ最終章!お得なチケット販売中。

レビュー

エンターテイメント性に溢れた礼真琴の初東上主演作品!宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

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宝塚星組の二番手男役として活躍する礼真琴の、東京での初主演となる『ATERUI─阿弖流為』が、新装なった日本青年館ホールで上演中だ(6日まで)。

『ATERUI─阿弖流為』は、2000年に吉川英治文学賞を受賞した高橋克彦の小説「火怨 北の燿星アテルイ」をもとに、大野拓史が宝塚ミュージカルに仕上げた作品。8世紀、東北へ支配領域を拡大しようとした大和朝廷が蝦夷討伐に乗り出す中、蝦夷の「人」としての誇りを守る為に朝廷軍に立ち向かった、若きリーダー阿弖流為の生きざまが描かれている。

【STORY】 
8世紀。東北地方で発掘される豊かな金鉱を得ようと、東北を支配領域に治めるべく朝廷は蝦夷討伐に乗り出していた。ある夜、その朝廷に与し蝦夷を裏切ったと思われていた伊治の蝦夷の長・伊治公鮮麻呂(壱城あずさ)は、各地の蝦夷の長を集め、自らの命と引き換えに参議・紀広純(輝咲玲央)の首を取る計画を打ち明ける。鮮麻呂が朝廷に与していたのは、全てこの機会を得る為の身を挺した偽りだったのだ。その尊い犠牲による図り事を聞く長の息子たちの中に、ひと際強い光を放つ眼差しを持った若者がいた。彼こそが、胆沢の長の息子であり、のちに蝦夷の命運を担う阿弖流為(礼真琴)だった。 
鮮麻呂の遺志を受け継いだ阿弖流為は、仲間と共に蝦夷の為に立ち上がることを決意する。だが、多勢に無勢の朝廷軍と戦うことを無謀だと思う阿弖流為の父の従者・飛良手(天華えま)は、朝廷に蝦夷の動きを内通することで生き残りを企てるが、阿弖流為の熱い説得によって翻意し、忠実な側近となる。阿弖流為の想いはただ一つ。蝦夷を獣同然に扱い、同じ人とは見なさない朝廷に、蝦夷も同じ人だと認めさせることだった。 
そんな中、阿弖流為は、黒石の蝦夷の長の跡継ぎ・母礼(綾凰華)と、その妹佳奈(有沙瞳)に出会う。天性の軍略の才を持つ母礼は、以後阿弖流為の片腕の軍師となり、その知略に長けた奇襲作戦と阿弖流為の勇猛果敢な働きぶりは、蝦夷に度重なる勝利をもたらす。嫁いだ先が朝廷軍に襲撃され寡婦となっていた佳奈は、阿弖流為に希望を見出し、阿弖流為もまた佳奈に惹かれ、二人は深く心を寄せるようになる。
だが、続く敗戦に業を煮やした朝廷は、都随一の武人と謳われる坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)に、蝦夷征伐を任じる。欲に溺れず、ただ桓武天皇(万里柚美)の命を受けた武人としての役目を全うしようとする田村麻呂には、これまでのような奇襲作戦は通用しない。阿弖流為は身を捨てて蝦夷を守ろうとした鮮麻呂の遺志に思いを馳せ、ある策略を講じる決意をして……。

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8世紀に実在した蝦夷の勇者阿弖流為の生きざまは、様々な形で映像化や、舞台化がなされてきた。特に東北地方が未曾有の大災害に見舞われた東日本大震災の後には、東北の復興を応援しよう!という趣旨のもとに、多くの作品が生まれている。そんな中にあって、宝塚歌劇が改めて阿弖流為を主人公にしたミュージカル作品を作るに当たり、原作に求めたのが高橋克彦の「火怨」だったことが、まず何よりも優れた選択眼と言えるものだった。
と言うのも、原作小説は上下巻、1000ページにも及ぶ大作だが、読み進めて感嘆するのが、出てくる若者たちが、いずれ劣らぬ良い男ばかりだということなのだ。阿弖流為と言えば、当然対に出てくるのは坂上田村麻呂ということになるが、軍師の母礼、腹心の部下となる飛良手をはじめ、それこそ今流行りの乙女ゲームもかくやとばかりに、良い男のオンパレード。おそらく読めば誰かしらタイプの男性が見つかるだろうというほど、友情に厚く、義に熱い男たちが繰り広げる闘いが迫力たっぷりに描かれていて、これはカッコ良い男を演じさせたら右に出る者のない、宝塚の男役の為にあるような題材に違いなかった。

その原作の特性を、脚本・演出の大野拓史が良く生かしている。何しろ原作が大長編なので、そのどこを切り取るか?によって作品の印象は全く異なるものにもなるところを、阿弖流為を軸に蝦夷の良い男たちをくまなく網羅し、舞台に設置された特大の映像パネルを駆使して、読みにくい漢字の多い登場人物の紹介から、場所の移り変わり、自然描写までをスピーディに押し進めた手腕はたいしたもの。更に阿弖流為の成長物語でもあるが故に、原作小説では下巻になってやっと登場する坂上田村麻呂も実に自然に物語の序盤から登場させ、阿弖流為の好敵手としての立場を明確にしていたし、徹底的に男の物語の原作には描かれていない、ヒロイン佳奈の心理や人生を書き加えるなど、宝塚版ならではの改変も当を得ている。これは資料を深く読み込む劇作家大野の特徴が吉に出た好例で、高橋恵と玉麻尚一のどこかアニメソングにもつながる高揚感を持った音楽の数々の力も加わり、徹底的なエンターティメント作品に仕上がっていた。これによって主人公の辿る結末がわかっている物語が、暗く沈んで終わることを防ぐことにもつながったし、阿弖流為の選ぶ決断の基に鮮麻呂の存在があったことを、制約のある時間の中できちんと書き込んだ故の成果でもあった。

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そんな作品で「主演・礼真琴」という大クレジットが映像に出たほどの華やかな東京初主演となった礼真琴の阿弖流為が、非常に柄に合っている。元々原作を読んでいる時から、礼の声で台詞が聞こえてくるという現象に陥ったくらい、この役は合うだろうという予感があったが、それが見事に的中して、血気盛んな熱い男が、リーダーとして成長し、身を捨てても蝦夷の誇りを守るに至る流れを、的確に表現している。星組の若き二番手スターとなってから、黒い役が続いていて、それはもちろん男役礼真琴の成長には役立つものではあろうと思いつつも、若々しいヒーローも観たいとも願っていた時期だけに、豊かな歌唱力と俊敏な身体能力が共に生かされた阿弖流為は打ってつけだった。新しい劇場のこけら落とし公演の大任を任され、それをきちんと代表作と呼べるものに仕上げた礼の自力に、改めて感心する主演ぶりだった。

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ヒロイン佳奈の有沙瞳は、嫁ぎ先の里が滅ぼされ、朝廷に復讐を誓う寡婦という、原作とは全く異なる設定を、陰影深く演じて見応えがある。佳奈がただの良妻賢母ではないヒロイン像になったことで、作品全体にも深みが増したし、礼との並びも良く似合って美しい。星組に加入以来、柔らかさと愛らしさを増していて、歌唱力も十分。ますます楽しみな娘役に成長している。

更に、この作品で礼に負けず劣らずの存在感を示したのが、坂上田村麻呂の瀬央ゆりあ。礼主演の公演で二番手格の役柄を演じたのは『鈴蘭(ル・ミュゲ)─思い出の淵から見えるものは─』に続いて二度目となるが、その『鈴蘭』から約1年半、ここまで男役スターとしての押し出しと、華やかさを身に着けていたとは、と、驚かされる変貌ぶりに感嘆した。朝廷の中で唯一蝦夷を「人」として認め、尊重もしている武人を堂々と演じていて、礼に対して全く不足がない。こうなってくると持ち前の容姿の良さも光ってくるから、逸材揃いの95期生の中に、また1人目が離せない男役スターが育ってきた格好だ。期待したい。

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そして、前述したように良い男揃いの登場人物の中では、やはり母礼の綾凰華が目を引く。原作小説の中では完全に二番手の役柄であることもあって、沈着冷静な軍略の天才として、全体の中でのカラーの違いが鮮明に描かれ、綾もまたその役の性格をよく表している。正直、プログラムにこの人の扮装写真がないのが、なんとも不自然なほどの大役を手中に納めているから、新天地となる雪組での活躍が楽しみだ。飛良手の天華えまは、はじめは阿弖流為に対して反旗を翻し、それがあったからこそ最後まで阿弖流為につき従う重要なポジション。顔立ちがソフトな人だけに、阿弖流為を裏切ろうとする描写がもう一息鋭くても良いか?と思わせはするが、腹心の部下として阿弖流為に心酔する様はきちんと伝わり、若手ホープらしい明るさが印象的だった。また、阿弖流為の仲間の中では伊佐西古のひろ香祐の骨太さが光ったし、阿弖流為に対して距離を取る蝦夷である諸絞の音咲いつきも、少ない描写で阿弖流為への屈折した思いをよく表現している。この公演を最後に娘役への転向が発表されているが、男役として有終の美を飾っていて、娘役・音咲いつきの誕生にも期待が膨らんだ。
他に、桓武天皇で男役に回った万里柚美、どこにいても愛らしく、娘役の良心とも鑑とも思える坂上全子の音波みのりをはじめ、何しろ最下級生の鳳真斗亜まで、出演者全員に役があるという大野の脚色が、それぞれの今後にどれほどの糧になったかと思うと、この作品に出演したメンバーの幸運を思わずにはいられない。分けても特筆すべきは鮮麻呂の壱城あずさで、阿弖流為の生きざまの指針となる、つまりはこの作品の骨子となる人物を、決意と哀惜を込めて演じていて、壱城の多彩な経歴の中でも屈指と言える名演だった。

そんなすべてのメンバーに働き場の多い充実した作品が、礼を筆頭に星組の明日を担うだろう人材に用意されたことを喜びたい舞台となっている。



〈公演情報〉
宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

原作◇高橋克彦「火怨 北の燿星アテルイ」(講談社文庫刊)
脚本・演出◇大野拓史
出演◇礼真琴 ほか星組
●7/31〜8/6◎日本青年館大ホール
〈料金〉S席 7,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




妃海風コンサート2017






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平成のゴールデンコンビ早霧せいな・咲妃みゆ退団公演 宝塚雪組『幕末太陽傳』『Dramatic“S”!』上演中!

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平成のゴールデンコンビと謳われ、雪組を牽引してきたトップコンビ早霧せいな、咲妃みゆの退団公演となる、宝塚雪組公演かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(23日まで)。

まず芝居は、かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』。鬼才川島雄三監督が1957年に発表した、日本映画史に燦然と輝く同名代表作を、宝塚歌劇団が初めてミュージカル化して上演した。「居残り佐平次」を中心に「品川心中」他いくつかの古典落語を組み合わせ、実在した品川の遊郭・相模屋を舞台に起こる様々な人間模様を軽妙なタッチで描いた傑作映画を、川島監督を崇拝し、監督のようなプログラムピクチャーの作り手になりたいと熱望して、劇作家の道を志したという小柳奈穂子が、念願の作品に取り組めた喜びが浮かび上がるような舞台となっている。

【物語】
時は幕末、文久二年のこと。北の吉原と並び称された南の品川宿に、その海鼠壁から土蔵相模と呼ばれた旅籠「相模屋」があった。その相模屋にある日佐平次(早霧せいな)という町人がふらりとやってきて、仲間たちと豪勢な芸者遊びに興じるが、仲間からわずかの割り前を受け取った佐平次は、寝屋へ誘う女郎おそめ(咲妃みゆ)も遠ざけて悠々と1人寝を決め込む。実はこの佐平次、お大尽遊びができる金など全く持ち合わせていなかったのだ。翌朝、堂々と居残りを決め込んだ佐平次は、番頭や若い衆顔負けの仕事ぶりで相模屋を駆け回り、次々と起こる騒動を持ち前の度胸と才覚で解決していく。そんな日々の中で、はじめは恥をかかされたとお冠だったおそめや、異人館焼き討ちの計画を練る高杉晋作(望海風斗)ら長州藩士たちとも交友を深めた佐平次は、いつしか廓の人気者となるが、実は佐平次は誰にも明かしていない秘密を抱えていて……

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映画と同じ軽妙なナレーションからはじまる舞台は、とにかく勢いが良く、弾むテンポにあふれている。基本的に群像劇なので登場人物が大変多く、雪組の豊富な人材がきめ細かく登用されていて、組の勢いがそのまま作品に現れているのも良いし、佐平次のキャラクターを1曲で表す「居残り稼業」。おそめと佐平次が新しい世界を夢見る「ここではないどこか」。佐平次、おそめ、高杉晋作がそれぞれの明日を目指す「朝陽の向こう」など、ミュージカルナンバーがいずれも佳曲揃いで、小柳が原作映画を巧みにミュージカルの世界に乗せた手腕が光る。
特に「朝陽の向こう」は、「トリデンテ」とも称されて雪組の一時代を築いた早霧、咲妃、望海体制のラストランにまことに相応しい美しい場面で、この場面があることによって、原作映画では、佐平次が1人でどこまでも生き抜いて行こうと駆けだすラストシーンであるのを、佐平次とおそめが共に手を取り合って走り去るという、トップコンビの退団に寄せた展開への書き換えが、自然になる効果ともなっていた。非常によく考えられたウェルメイドな世話物に仕上がっていて、さすがは作家が長年愛した世界だけのことはある。おそらく小柳としてはある意味本懐を遂げた仕上がりだったろう。その熱量の高さは客席からもひしひしと感じられた。

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ただ、作品の出来栄えが優れていることは十二分に評価した上で、どうしても胸の底に小さな違和感が残る。それは、平成のゴールデンコンビと謳われ、そのコンビとしての存在を愛し、惚れ込み、今、最後の別れの時、過ぎ去っていく1日、1日を、時間よ止まれと叶わぬ願いを持ちながら過ごしているだろう多くの観客を生んだ、早霧せいなと咲妃みゆという、宝塚史上に残る名コンビの退団公演に、この作品が最も相応しいものだったのだろうか?という思いだ。
もちろん、佐平次の軽妙洒脱な味わいと、胸のうちにある真実の思いを演じるのに、当代のトップスターの中でも最も相応しいのは早霧だったと思う。娘役という領域からは確実に外の位置にある、失った板頭の地位の復権を目指す女郎おそめにしても、憑依型の突き詰めた芝居をする咲妃あったればこそ成立したものに違いない。芝居巧者の2人がいてこそ、この作品が宝塚ミュージカルとして生れ出ることができた。その挑戦への勝利は見事なものだ。
かつて同じ雪組のトップスターだった一路真輝も、退団公演に大きな賭けだった黄泉の帝王トートを演じ、それが今日宝塚の財産となった『エリザベート』を生み出している。何より宝塚百年の歴史は、そうした果敢な挑戦の上にこそ築き上げられた栄光の軌跡だ。それも十分わかっている。それでも心のどこかではやはり、早霧と咲妃の2人が共にいるだけで、共に笑いあい、見つめあってくれているだけで観ている者も幸福になれたこのコンビの集大成には、宝塚王道の男役と娘役、プリンスとプリンセスの恋物語を、宝塚という夢の園にいる間にしか叶わないロマンチックな、永遠に心に残るラブシーンを期待していたと言ったら、それはこれだけ完成度の高い作品を用意した小柳に、あまりに酷な望みだろうか。実際のところこれは、仮にこの作品が2人の通過点だったとしたならば、全く、何一つ感じなかっただろう思いだから、つくづく宝塚という世界で劇作家を貫くのには、難しい問題が多々あると思う。作家が本懐を遂げることと、去りゆくトップコンビに本懐を遂げさせること、引いてはこの夢の世界の住人を愛した観客に悔いはないと言わせること。この両立が叶う道さえあれば、これに勝るものはないに違いないのだが。

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その中で、前述したように早霧の佐平次の縦横無尽の活躍ぶりには、素直に見惚れる。本来は胸の病を抱え死を決意して流れて来た品川で、再びまだまだ生き抜いて行こうという活力を得ていく佐平次の変化を、他者と接している時のあくまで軽妙な立ち居振る舞いと、ふと1人になって見せる孤独の影とを、絶妙に活写していて感嘆させられる。羽織をつかった相当に難度の高い所作も、難しいことをやっているとは全く感じさせずにこなしていて、「あっぱれ!」の一言。「日本物の雪組」を率いた早霧ならではの、自力を感じさせる軽やかさだった。
一方の咲妃も、板頭の座を奪われた女郎こはるとの大立ち回りもあり、人気回復の最終手段とばかりに心中を持ちかけた相手をあっさり見捨てる変わり身の早さといい、宝塚の娘役を完全に振り切った役柄に堂々と対峙したのは、やはりこの人の深い芝居心のなせる業だろう。それでいて決して愛らしさを失わないのが咲妃ならでは。トップコンビとして考えれば、多いとは言えないポイント、ポイントの芝居の中で、2人が共に駆け去っていくラストシーンに無理なく、互いの関係を寄り添わせていったコンビの力も光った。

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高杉晋作の望海は、作品中最も二枚目な役柄に、貫禄と凄味を与えていて心憎いほど。仲間たちとのやりとりにも自然にリーダーの風格があり、星乃あんりのこはるとの間に、深い思いがあるのでは?と感じさせたのも良い彩りになっている。何より、佐平次とのやりとりに早霧と望海が重ねてきた日々が投影されて見えることが、味わいを深めた。これも前述した通り、早霧、咲妃、望海で歌われる「朝陽の向こう」の美しさは比類なく、原作通りだから仕方がないとは言え、終幕のおそめの墓探しのくだりがやや過剰に思われるほど、宝塚としてのカタルシスを持った名シーンとなっていた。

更に、群像劇であるこの作品の何よりの美点として、多くの雪組生が大活躍しているのが目に耳に楽しい。相模屋の若旦那徳三郎の彩風咲奈は、よく考えるとかなりどうしようもないぼんぼんなのだが、そこに憎めない愛嬌がにじみでるのは、彩風の芝居力とスター性の賜物。こういう役柄を品を崩さずに演じられる男役に成長していることを、改めて印象づけていて素晴らしかった。次期トップ娘役に決まっている女中おひさの真彩希帆の、しっかり者ぶりとの対比も良く出ている。長州藩士の久坂玄瑞の彩凪翔も、キリリとした二枚目の作りできちんと若い藩士たちが一目置く人物を造形している。次代を担う望海にとっても、ますます頼もしい男役の戦力になることだろう。同じ長州藩士たちはいずれも生き生きとしているが、中でも志道聞多の煌羽レオの的確な演じぶりが光る。タイミングと運に恵まれず、惜しくも新人公演主演を逃した人だが、本来ルックスも自力も十分に備わっているので、今回の活躍は嬉しい限り。この調子で組のアクセントとなっていって欲しい。また、こはるを巡って実の親と争いになる清七の永久輝せあは、もうこの役柄が如何にも軽く見えるほどのスター性と勢いに驚かされた。末頼もしいホープとして、ますます伸びていってくれることだろう。

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また、退団者にも大きな役柄があるのは、これは小柳の座付き作家としての粋なはからいで、こはるの星乃あんりは、咲妃と真っ向勝負する役柄を、実に魅力的に演じている。むしろ子役が似合うほどの愛らしい娘役だった星乃が、こんなにも艶やかな娘役となって去っていくことが惜しまれてならない。まだまだ可能性のあった人だと思うが、最後にこの大役を手にできたことが何よりだった。高杉の望海との言葉に出さない思いの交感も良い。おそめの心中相手に選ばれてしまう貸本屋金蔵の鳳翔大は、どこまでも朗らかでおおらかな芸風が、人の好い金蔵に打ってつけだった。彼女のキャリアの中の金字塔は『るろうに剣心』の相楽左之助なのは間違いないが、この金蔵も彼女でなければできない味わいを残した役柄となっていたのが嬉しい。長州藩江戸詰め見廻役鬼島又兵衛の香綾しずるは、『ドン・ジュアン』の亡霊役の快演と言うより、更に怪演とも言いたい演技が鮮烈で、雪組の重石的存在としてより一層活躍してくれるだろうと信じていただけに、このタイミングでの退団には驚きを禁じえなかったが、この時代では年かさになる男性を、おかしみを秘めて楽々と演じていて、更に退団が惜しまれた。

他に、相模屋を切り盛りする夫妻の梨花ますみと奏乃はるとの、奏乃が入り婿という関係性が二人によく合っていたし、おそめに借金の返済をせっつくおくまの舞咲りんのアクの強い演技は捧腹絶倒。非常に贅沢な汝鳥怜、悠真倫の専科勢の投入を含めて、雪組が総力を結集した群像劇となっている。

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そこから一転、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』は、ショースター(Show Star)として輝く、早霧せいな(Seina Sagiri)が率いる、雪組(Snow troupe)の魅力を、共通する「S」をキーワードに詰め込んだショー作品で、中村一徳の作。組の人員の総力戦で押してくる中村作品の常のスタンスを守りつつ、後半から怒涛のように早霧、咲妃コンビのサヨナラ一色になる、これぞ退団公演のショーという作りに大きなカタルシスがある。

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中でも、Bryant Baldwin振付によるジャジィーなカッコよさにあふれる「Song&Dance」の小粋なスピード感はため息ものだし、雪組の次代を担う望海と真彩の顔見世、彩風、彩凪、永久輝と、やはり次世代の重要人物たちを押し立てつつ、早霧&咲妃コンビが創り上げた現雪組の集大成も存分に魅せるバランス感覚が絶妙。特に雪組カラーのペパーミントグリーンで描かれる「Snow Troupe・絆」は、2人と共に退団する鳳翔、香綾、星乃、桃花ひな、蒼井美樹への贐あり、早霧と咲妃のデュエットダンスありと、もう涙なくしては見られない美しさ。早霧が雪組生全員と1人1人目を合わせていく時間、その間トップスターが客席に背を向けることになる時間が、ここまで尊く温かく感じられる劇団は、宝塚をおいて他にないだろう。舞台だけでなく、客席を含めたすべてが宝塚という幻想共同体を担っていることが、改めて感じられる得も言われぬ名場面だった。

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「別れの曲」で踊られる早霧と咲妃の名残の純白のデュエットダンスの後ろに「See you Again Sagiri」=「また会いましょう!」との電飾を配してくれた心憎いばかりの配慮と共に、宝塚のショー作家中村一徳の白眉たる作品に仕上がっていて、去りゆくトップコンビと今しか見られない、早霧が率いた雪組の残像を鮮やかに残す、優れたショー作品となっている。

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また初日を前に、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが、囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

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まず早霧から「今日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。千秋楽まで雪組公演の宣伝をよろしくお願いします!」と朗らかな笑いを誘う挨拶があった。

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続けて咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして本当にありがとうございます。最後まで雪組一丸となって頑張って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」との挨拶があり、続いて記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚としては異色な『幕末太陽傳』に取り組んだ気持ちを問われた早霧は、退団公演がこの作品、この役に決まった時には戸惑いもあった、としながらも退団公演を意識せず新たな挑戦をできる舞台に取り組めたと、意欲的。映画らしさと同時に宝塚らしさも備えた作品になっていると自信を見せた。

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また咲妃も退団公演の役が女郎役ということに、ファンの方々も驚いたようだったが、取り組むにつれおそめが素敵な女性だと思えて、早霧さんと同じくやりがいを感じている、とこのコンビらしく互いが同じ地点を見つめていることをにじませていた。

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特に、ショーのデュエットダンスでは、振りとしてさほど大がかりなことをしていない中で、どこか芝居のように見せられるのが3年間コンビを組んできた自分たちならではのものになっているのではないか、と早霧が語ると、とても一言では語れない思いがある…と咲妃が思いを込めて早霧を見つめる一幕も。更に雪組全員と瞳を合わせる場面では、日々グッとくるものがあり、パワーをもらっていると語る早霧の、組への思いがあふれでるよう。そんな早霧とコンビを組ませて頂いたからこそ、様々な挑戦ができたと語る咲妃の視線に、早霧がわざと知らん顔をして場が笑いの渦に包まれるなど、最後の日まで温かく絵のように美しいトップコンビの絆が感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇雪組公演
かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』
〜原作 映画「幕末太陽傳」(C)日活株式会社 監督/川島雄三 脚本/田中啓一、川島雄三、今村昌平〜
脚本・演出◇小柳奈穂子
かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』
作・演出◇中村一徳
出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組
●2017/6/16日〜7/23日◎東京宝塚劇場?
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



栗山千明、溝端淳平出演『ミッドナイト・イン・バリ』お得なチケット販売中! 




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星組新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里華やかにお披露目!宝塚歌劇星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』

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宝塚星組の新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里のお披露公演である、宝塚歌劇星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(6月11日まで)。

ミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』(※以下、『スカーレット・ピンパーネル』)は、1997年にブロードウェイで初演され、大ヒットを記録したミュージカル。バロネス・オルツィの小説「紅はこべ」を原作に、大革命勃発後の恐怖政治の嵐吹き荒れるフランスで、次々と処刑されていく罪なき貴族たちを救うべく、イギリス貴族のパーシー・ブレイクニーが仲間たちと秘密結社を結成し、スリルと知恵で歴史の荒波に立ち向かう冒険活劇の要素と、それによってすれ違う夫婦の心理描写を描いた娯楽作品は、フランク・ワイルドホーンの数々の名曲と共に喝采を集めた。
 
このブロードウェイミュージカルに、ワイルドホーンが宝塚版の為に書き下ろした佳曲「ひとかけらの勇気」を主題歌に据え、王大使ルイ・シャルルの救出劇という新たな軸を加えた、小池修一郎の潤色・演出による宝塚バージョンが2008年宝塚星組により本邦初演。安蘭けい、遠野あすか、柚希礼音らによる上演は絶賛を集め、第16回読売演劇大賞優秀作品賞、第34回菊田一夫演劇大賞を受賞。 続く2010年、霧矢大夢、蒼乃夕妃、龍真咲、明日海りおらによる月組での再演も大好評で、常に再演の呼び声の高い 宝塚歌劇の人気演目に成長を遂げた。また、昨年、石丸幹二、安蘭けい、石井一孝らの出演による、梅田芸術劇場企画・制作の男女版の上演も大ヒットを飛ばしていて、日本ミュージカル界全体でも、広く愛される作品として定着している。
 
今回の上演は、そんな作品の宝塚歌劇での3演目であり、本邦初演である08年の星組公演時に、新人公演で主人公パーシー・ブレイクニーを演じ、一躍スターダムに躍り出た紅ゆずるが、星組のトップスターとしての披露公演で、再びパーシーを演じるという、ドラマティックな邂逅による舞台となっている。

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【STORY】

1794年のフランス、パリ。1789年に起こったフランス大革命から数年が経ったパリの街では、ロベスピエール(七海ひろき)を指導者とするジャコバン党によって、貴族たちが次々と捕らえられ、公正な裁判もないままに断頭台へと送られる日々が続いていた。そんなフランス革命政府の敷く恐怖政治に異を唱える人物がいた。彼の名はパーシヴァル・ブレイクニー(パーシー・紅ゆずる)。イギリス貴族である彼は、誰にもその正体を知られぬまま、赤い星型の花「スカーレット・ピンパーネル」と名乗り、無実の罪で処刑されていくフランス貴族を密かに救い出しては、国外に亡命させる活動を続けていた。
 
そんな日々の中でパーシーは、コメディフランセーズ劇場の花形女優マルグリット(綺咲愛里)と恋に落ち、二人は電撃的に婚約。海を渡りイギリスでパーシーの妻となる道を選んだマルグリットは、最後の舞台で観客に別れの挨拶をしていた。だが、思いあまって革命政府を批判する発言をしたマルグリットに、ロベスピエールは怒り、配下の公安委員ショーヴラン(礼真琴)が公演の中止と劇場の閉鎖を言い渡す。かつてマルグリットとショーヴランは革命の夢を追い、共に闘った同士だったが、マルグリットは恐怖政治に疑義を感じ、ショーヴランはロベスピエールのもと、粛清の道を突き進むことが革命の成功をもたらすと信じ、互いの道は遠く離れていた。
それでもマルグリットとの絆は切れていないと思いこむショーヴランは、劇場の閉鎖を解くことの引き換えに、反共和派の貴族で「スカーレット・ピンパーネル」の正体を知る人物と目されているサン・シール侯爵(夏樹れい)の居所を教えろとマルグリットを脅す。悩んだ末、マルグリットは侯爵に決して危害を加えないという条件で、侯爵の隠れ家を知らせる手紙をショーヴランに渡してしまう。だが、ショーヴランがそんな約束を履行するはずもなく、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を決して明かさなかった侯爵は、断頭台へと送られる。
 
そんな顛末を露知らぬまま、イギリスに戻ったパーシーとマルグリットは、大勢の友人たちに祝福され、結婚式を挙げていた。だが、幸福の絶頂にあるパーシーは、「スカーレット・ピンパーネル」として共に行動している友人デュハースト(壱城あずさ)から、フランスでサン・シール侯爵が処刑されたことを知らされる。侯爵の隠れ家を知っていたのはパーシー、デュハースト、もう1人の「スカーレット・ピンパーネル」の仲間であるフォークス(天寿光希)、マルグリットの4人だけだった。新婚の妻を疑うことなど思いも及ばないパーシーだったが、やがてその疑惑は紛れもないものとなる。

マルグリットへの愛と懐疑との間で懊悩するパーシーは、その思いをねじ伏せるが如く、更に信頼できる仲間を増やし、再びフランスへ渡る。彼の最も大きな目的は、王大使ルイ・シャルル(星蘭ひとみ)の奪還だった。パーシーと行動を共にする者の中には、マルグリットの弟アルマン(瀬央ゆりあ)もいたが、パーシーはマルグリットの安全の為と説き、アルマンにもマルグリットに自分たちの正体を明かさないよう固く言い渡す。そんな日々の中で、突然人が変わったようによそよそしくなった夫に戸惑うマルグリットの元へ、フランス政府特命全権大使となったショーヴランが再び現れる。
ショーヴランはなんと、パリで活動するアルマンを捕らえた。弟の命を救いたければ、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を探る手伝いをしろと、更なる脅しをかけてきた。パーシー、マルグリット、ショーヴラン、それぞれの愛と思惑は、フランスとイギリスを股にかけて揺れ動いていき……。

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7年ぶりに、宝塚歌劇版の『スカーレット・ピンパーネル』に接して改めて感じるのは、潤色・演出の小池修一郎の鮮やかな仕事ぶりだ。原作小説の「紅はこべ」、更に、昨年梅田芸術劇場の企画・制作で、ガブリエル・バリーの潤色・演出で上演された、よりブロードウェイ版に近い『スカーレット・ピンパーネル』の記憶が鮮烈な時期であるだけに、宝塚版の為に書き下ろされた主題歌「ひとかけらの勇気」をパーシーの行動の軸に置き、その最終目標を王大使ルイ・シャルル奪還に据えた、作劇の見事さが際立つ。そこには如何にも宝塚に相応しい、ヒーローのヒーローたる真っ直ぐな意志が明確に見えていて、冒険活劇としての妙味と、スピード感が増幅される効果となって表れている。更になんと言っても『ベルサイユのばら』を伝家の宝刀とする宝塚歌劇において、王妃マリー・アントワネットの遺児であるルイ・シャルルが、無事に国外に逃げ延びたというエピソードが、どれほど観客の心をつかんだかは計り知れない。この優れた着眼点を持った『スカーレット・ピンパーネル』が、引いては、宝塚に『ベルサイユのばら』とはまた違った視点の、フランス大革命ものを描き出す原動力となったことは間違いないだろう。
この作品の成功があったればこそ、のちに小池自身が手がけた『1789〜バスティーユの恋人たち』や、植田景子の『ジャン・ルイ・ファージョン─王妃の調香師─』、小柳奈穂子の『ルパン三世─王妃の首飾りを追え』、原田諒の『瑠璃色の刻』が生まれ、更に今年11月、生田大和が『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』を発表することが決まっている、宝塚歌劇の「フランス大革命ものシリーズ」とも呼びたいほどの、あらゆる角度から、それぞれの切り口で、若手作家たちがフランス大革命に題材を求める道が開かれたと言っても過言ではない。
もちろん、大劇場空間をいっぱいに使って、ブレイクニー邸の図書室がデイドリーム号の甲板になる爽快感を頂点とする、劇場機構の巧みな使い方や、パーシー、マルグリット、ショーヴランの三角関係の美しい描き方も含め、宝塚版ならではの構築の見事さも健在で、梅田芸術劇場版の為に書き下ろされ、今回、七海ひろきが演じることで役の比重が大きくなったロベスピエールの為に宝塚版にも採用された新曲を、「ロベスピエールの焦燥」として取り込んだ巧みさ(梅芸版は、ロベスピエールを演じる役者がイギリス皇太子プリンス・オブ・ウェールズも二役で演じたので、全く曲の置かれた設定が違うとは言え)は、アレンジャーとしての小池修一郎の力量と才気を、再確認させるものに他ならなかった。

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そんな作品で星組トップスターとしての披露を飾った紅ゆずるは、前述したように、初舞台から7年目までの若手だけで上演される、宝塚独自の「新人公演」という一夜限りの公演で、その初舞台から7年目のラストチャンスにして、初主演を勝ち取り、パーシー・ブレイクニーを体当たりで演じたことによって、今日トップスターにまで上り詰めるに至った人だ。宝塚というところは、初舞台間もなくから抜擢に次ぐ抜擢で、スターダムを駈け上がる人材がいる一方で、何か1つの大きな当たり役を得たことによって、一夜にして宝塚人生が全く変わるという人材もいる、リアルに劇的な世界を有している劇団だ。そこには、長くこの歌劇団を見続けている人々だけが、知ることのできるドラマが内包されていて、その一夜にして宝塚人生が変わった代表格が紅ゆずるというスターだった。
なにしろ08年初演時の新人公演のパーシー役は、紅にとって「はじめて銀橋を1人で渡った」機会だったほどで、あの一夜の成功がなかったら、今日大羽根を背負って、組全体を率いる「星組トップスター紅ゆずる」は、宝塚に存在しなかっただろう。そんな人材が、宝塚スターとしての人生を180度変えた同じ作品で、トップスターとしての披露を果たしている。この巡り合わせのドラマの前には、すべてが平伏す。フランク・ワイルドホーンの、どこまでも伸びる美声と豊かな声量なくしては歌いこなせないミュージカル・ナンバー、つまりは今の時代のミュージカルの主流となる楽曲の数々の歯ごたえの強ささえ、紅の持つドラマには敵わない。だからこそ、パーシー・ブレイクニーを出世作としたトップスターが生まれ出たことを、ただ素直に寿ぎたい。中でも紅の持ち味が「男とお洒落」のナンバーを、これまでの誰よりもウィットに富んだ色合いにしたことは、紅のパーシー独自のものだったし、そこから全体に軽快さと、洒脱さが作品に加味されたことも興味深かった。とりわけ、パーシーの変装であり、所謂コテコテに演じることも十分できるスパイ・グラバンの演技に、ある種の抑制がきちんと効いていたのは、宝塚のトップスターとなった紅の的確な判断として評価できる。洒脱なエスプリをもった、紅色に染まる新たな星組がますます楽しみになった。

その紅の相手役となった綺咲愛里も、これがトップ娘役としての正式なデビュー。これまで紅との共演経験も多く、とびきり愛らしいキュートな小顔が、紅との絶妙な好バランスを生んでいる。フランスの大女優であり、かつて革命の闘士でもあったマルグリットは、宝塚の娘役としては相当な難役に入るし、どちらかと言えばこれまで大人の個性の娘役が担当してきた役柄でもあるから、現代のアイドルに通じるルックスの綺咲には手強いものだったと思うが、台詞発声がもともとアルト系だったことや、化粧法の工夫などで、役に果敢に近づくことに成功している。何より紅との相性が良いというのは、トップコンビとしての可能性を大いに広げるものに違いなく、ここからはじまる二人を中心とした星組の未来に期待を抱かせた。

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もう1人の大役ショーヴランには、これも今回から男役二番手スターとなった礼真琴が扮した。何しろこの役は初演の柚希礼音の当たり役、柚希がのちに宝塚10年に1人の大スターと称されるスターに至る、文字通り男役として化けた役柄としての記憶が鮮烈で、その柚希に憧れて宝塚に入った礼が、ここでショーヴランを演じるということにも、やはり宝塚世界ならではのドラマがあり、感慨深いものがある。マルグリットと男女の関係にあったということを、宝塚の枠組の中で見事に香り立たせて見せた柚希の色気にはやはりまだ及ばないが、そこを目指していることはよく見て取れるし、豊かな歌声は今回の上演の白眉。いずれ『ロミオとジュリエット』のロミオや、『1789─バスティーユの恋人たち』のロナンなど、青年の輝きが似つかわしい役どころを演じる礼を観てみたいという希望は、おそらく多くの観客が持っているものだと思うが、その日の為にも、ここでショーヴラン役を演じた経験が必ずや生きてくることだろう。期待したい。

そして、今回、この人の為に役柄が膨らませられた、つまり新星星組にとって欠くべからざる存在であることが、改めて印象づけられたのが、ロベスピエールの七海ひろき。フィナーレまである宝塚には、全体の上演時間に制限がある関係上、大きなスターである七海がロベスピエールを演じるからには、いっそ梅田芸術劇場版のようにプリンス・オブ・ウェールズとの二役をさせてもいいのではないか?と思ったものだったが、とにかくロベスピエールの氷の美貌があまりにも際立っていて、誰かとてつもなく美しい人が視野をかすめた…と思うと、ほぼ例外なく七海だったのには舌を巻いた。その為、決して多いとは言い難い出番の数々がどれも印象的なものになったし、難曲中の難曲である新曲「ロベスピエールの焦燥」も、小池の構成の見事さと、本人の美しさが克服していて、まさに「美は正義なり」。宝塚の至上命題を体現する人材として、今後も是非大切に遇して欲しいスターだ。

そしてプリンス・オブ・ウェールズを演じた専科の英真なおきは初演以来の登板だが、今回コメディリリーフ的な面がわずかに後退して、皇太子はパーシー=スカーレット・ピンパーネルであるということを、実は察知しているな、と感じさせる陰影が前に出たのが面白かった。これは紅の洒脱さが勝ったパーシーとの対比としても良い効果で、さすがはベテランの妙味。冒頭スカーレット・ピンパーネルに救われる伯爵夫人の組長・万里柚美、革命政府のピポー軍曹の副組長・美稀千種も、初演以来の登板で、それぞれに深みを得た演じぶりが年月を感じさせる。
一方、マルグリットの弟アルマンの瀬央ゆりあには上り坂の勢いがあるし、この公演から星組生となったマリーの有沙瞳との並びも麗しい。有沙は組替えが1つの良い転機になったようで、実にスッキリと美しくなった。持ち前の歌唱力も光り、星組での活躍が楽しみだ。パーシーに最も近しい友人デュハーストとフォークスに、紅の盟友とも言える壱城あずさと天寿光希が配されているのも、やはり紅が内包する宝塚のドラマを更に高める効果があったし、彼女たちに、十碧れいや、麻央侑希、紫藤りゅう、綾凰華、天華えま、の星組の男役群の中心を形成するきら星たちが集った「ピンパーネル団」の華やかさも目に楽しい。彼ら全員に恋人がいることで、音波みのり以下、娘役たちにもスポットが当たるのも宝塚版ならではの美点。トップコンビの幸福感あふれるデュエット・ダンスに帰結する、フィナーレの展開も美しく、宝塚版『スカーレット・ピンパーネル』独自のオーラを感じさせる公演となっている。

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また、初日を前に通し舞台稽古が行われ、新トップコンビ紅ゆずると綺咲愛里が囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

紅は「大劇場でのお披露目公演も終えまして、東京では新たな気持ちで挑みたいと思っております。そしてちょっとずつ演出というか役作りが変わっておりまして、それをどんどん膨らませていきまして毎日、毎公演全力投球でいきたいと思っております」
 
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また綺咲が「大劇場を終えて私もまた新たな気持ちで役に思い切ってぶつかっていきたいと思いますし、1回1回の公演を大切にそして精一杯千秋楽まで進化し続ける舞台を努めたいなと思っております」

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とそれぞれに力強く挨拶。トップ披露公演に向かう意気込みの大きさを感じさせた。

特に、印象的だったのは、フィナーレのデュエットダンスの幸福感に満ちた様子を紅が「本当に綺咲を可愛いと思っている」と語ると、綺咲が「二回目の結婚式だと思っています」と答えたことで、コンビとしての2人と、劇中の役柄としての2人、双方が相まってあのハッピーオーラが劇場中に充満したのだなと感じられ、ここから歩みはじめるトップコンビへの期待が大いに高まった。

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また「大羽根を背負って見える景色は?」と問われた紅が「孤独だと感じる人もいらっしゃると聞いていましたが、私にはなんて美しい景色なんだろうという風に映りました、毎日そう感じています」と答え、トップスターという地位に就いた人だけが見ることのできる景色が、紅にとってひたすらに美しいものであることに、感動を覚える時間となっていた。
 
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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に7月9日発売の「えんぶ」8月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇星組公演
ミュージカル 『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
THE SCARLET PIMPERNEL 
Book and Lyrics by Nan Knighton  Music by Frank Wildhorn 
Based on the Novel “The Scarlet Pimpernel” by Baroness Orczy 
Original Broadway Production Produced by 
Radio City Entertainment and Ted Forstmann 
With Pierre Cossette, Bill Haber, Hallmark Entertainment and 
Kathleen Raitt 

潤色・演出◇小池 修一郎
出演◇紅ゆずる、綺咲愛里 ほか星組
●5/5日〜6/11日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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ボリウッドの煌めきに乗せて新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里が華やかに始動!宝塚星組公演『オーム・シャンティ・オーム〜恋する輪廻〜』

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宝塚星組の新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里コンビのプレお披露目公演、マサラ・ミュージカル『オーム・シャンティ・オーム〜恋する輪廻〜』が、有楽町の東京国際フォーラムホールCで上演中だ(18日まで)。

2007年にインド国内で大ヒットし、その後世界各地で上映され、多くの映画ファンに愛されているインド映画の傑作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』。ボリウッドのトップ舞踊監督ファラー・カーン監督、“キング・オブ・ボリウッド”と称されるシャー・ルク・カーン主演、この作品への出演をきっかけにボリウッドのディーヴァとなったディーピカー・パードゥコーンがヒロイン務めるなど、ボリウッドの粋を極めた映画として知られている。今回の星組公演は、そんな作品の舞台化で、宝塚歌劇団が初めて挑むインド映画を元にしたミュージカルとなっている。

【STORY】
1970年代のインド映画界。エキストラ俳優のオーム・プラカーシュ・マキ—ジャー(紅ゆずる)は、人気女優シャンティプリヤ(シャンティ・綺咲愛里)に密かな恋心を抱き、いつか必ずスターになってシャンティを迎えに行ける日を夢見ながら、名前もない役柄を務め続ける毎日を過ごしていた。そんなオームの想いを自身もエキストラ女優だった母のベラ(美稀千種)と、友人で脚本家見習いのパップ—(瀬央ゆりあ)は信じ、応援していた。
ある日、ロケ現場で事故が起こり、炎の中に取り残されかけたシャンティを身の危険も顧みずオームが救い出したことから、2人は急接近。シャンティから「私達は友達よ」と言われたオームは天にも昇る気持ちを抱き、何事か悩みを抱えているらしいシャンティを懸命に励ます。だが、シャンティの悩みとは、敏腕プロデューサーのムケ—シュ(礼真琴)と秘密裏に結婚している事実を世間に公表できずにいるままに、ムケ—シュをめぐる女性関係のゴシップがマスコミを騒がせていることだった。
「手を伸ばせばきっと幸せに届く」というオームの言葉に背中を押されたシャンティは、ムケ—シュに自分たちの結婚を公表して欲しいと懇願するが、すでにシャンティ主演の大作映画『オーム・シャンティ・オーム』の準備が進んでいる今、とても無理な相談だと断られ、遂にムケ—シュの子供を宿していることを打ち明ける。それは映画界で更なる栄光を手に入れようとしているムケ—シュにとって、抜き差しならない事態であり、事の顛末を立ち聞いてしまったオームにも大きな衝撃を与える話だった。進退窮まったムケ—シュは、2人の結婚を盛大に披露しようと言葉巧みにシャンティを呼び出し『オーム・シャンティ・オーム』のセットもろとも、シャンティを焼き殺そうとスタジオに火を放つ。その場に駆けつけたオームは必死でシャンティを救おうとするが、火勢はオーム1人の手に余り、自らも大怪我を負いながら助けを呼びに走り出たところで、大スターのラージェシュ・カプール(壱城あずさ)の車にはねられ、命を落としてしまう。妻の出産に立ち会おうとしていたラージェシュは事故をもみ消し、その日生まれた男の子に奇しくもオームという名をつける。
それから30年。大スターの子として成長したオーム・カプール(紅ゆずる)は、スター俳優としてボリウッドに君臨していて…

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インド映画は日本でも『ムトゥ踊るマハラジャ』がブームになった時期などを経て、仮にじっくりと観たことがないという人にも、なにがしかのイメージとしては浸透しているのではないだろうか。例えるならば突然繰り出した大人数が賑やかに踊り出し、また何事もなかったかのように去っていくシーンに象徴される、ある種の荒唐無稽なパワーと、独特の音楽などは、すでに相当な認知度を得ていると思う。
そんなインド映画の持つ力が、トップスターを中心に何があろうとも主人公が正義であることが貫かれている宝塚の世界と、極近しい親和性があることを今回の舞台『オーム・シャンティ・オーム〜恋する輪廻〜』は見事に証明している。物語はインド映画の世界では定番のひとつでもあるという「輪廻転生」をテーマにしているのだが、それが単なる生まれ変わりの神秘にとどまらない驚きをも秘めていて、冷静に考えるとやや戸惑う展開があるのも事実ではある。
けれどもこの「冷静に考えると」というところが、すでにこの作品とは相いれない思考なのは間違いなく、「どうして?」とか「何故?」とかいう疑問を差し挟んで、理由や理屈を要求するのではなく、提示された事象を、ただ提示されたままに受け留めて、主人公の純粋な恋心にときめき、適役の陰謀に怒り、悲しい別れに涙したあと、主人公の逆襲に歓呼して、煌びやかな歌とダンスがたっぷり盛り込まれた勧善懲悪の物語に浸ることこそが、観劇の正しい在り方なのだと気づかされる。しかも、一種ファンタジーに通じるその世界観が、「大スター」が存在することによって現代の物語として着地できているとなれば、もう成功は見えたようなものだ。スターの輝きがすべてをねじ伏せる物語が、宝塚に向かないはずはない。

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そんな確信を脚本・演出の小柳奈穂子はきちんと持っていたのだろう。舞台はインド映画ならではの煌びやかさと、起伏の激しい展開を直球に提示しつつ、何よりもこの公演が星組の新トップスターとなった紅ゆずるの、プレ披露公演であるいうことに徹底的にフォーカスして進んでいく。その一念に徹した潔さは爽快ですらあって、さすがは二番手時代の紅に『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』という揺るぎない代表作を用意した演出家ならではの、行き届いた目配りに感心させられた。それは、『キャッチ・ミー…』で紅の父親役を演じた専科の夏美ようが、今回の舞台ではすでに亡くなっている主人公オームの父親の遺影として、写真出演していることや、2幕で大スターとなっているオームが出演しているCM看板に、これまでの紅の主演作品の扮装写真が違和感なく網羅されているなどの、心憎い仕掛けばかりでなく、全編に渡り、芝居で、歌で、ダンスで新トップスター紅ゆずるを徹頭徹尾盛り立てる構成が心憎い。更にその手法がすなわち、インド映画のセオリーにも合致しているのだから、これは見事な企画の勝利と言えるだろう。

そんな作品で、新トップスターとして華々しく登場した紅が、実に多彩な表情を見せてくれるのが、なんとも目に楽しい。これまで紅ゆずるというスターが培ってきたパブリックイメージの中で、最も大きな認知度を得ているだろう、ちょっとおどけた表情はもちろん、どこか寂し気でピュアな顔、穏やかな優しさ、激しい感情の振幅の表現、そして、思いっきり気障に決めた姿等々。エキストラ俳優からスター俳優へと生まれ変わる役柄の、1幕と2幕の設定変化ばかりでなく、それぞれの幕の中にも、紅の様々な魅力と、表情が見えて飽きさせない。1つの作品の中で、これだけ万華鏡のように多彩なスターの魅力が堪能できるのも珍しく、従前からのファンにはもちろん、星組トップスターとしての紅の魅力に、この作品で改めて気づける人も多いことだろう。本拠地宝塚大劇場での披露公演に向けて、実に良いスタートを切ったことが頼もしい。

そうした多面的な表情で魅せる紅に対して、相手役となった新トップ娘役綺咲愛里の、ぶれない美しさが良い対照を成している。1幕では大スター女優、2幕ではその女優にそっくりなスターに憧れる娘を演じ分けるが、スター女優の時にはやや低めに発声している台詞の声に自然さがあり、2幕との対比も鮮やか。何よりスレンダーなプロポーションとキュートな小顔が、紅との相性抜群。まずビジュアル面からコンビとしての並びの良さが秀でていて、今後様々な形で二人三脚をしていく2人の豊かな可能性が感じられたのが何よりだった。

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そして、やはりこの公演から星組の二番手男役として登場した礼真琴が、果敢に難役に挑んでいる。二番手の男役にはしばしば色濃い敵役が回ることもあるとは言え、今回の野心家のプロデューサー・ムケ—シュほどの敵役は、宝塚オリジナルの脚本ではまず登場してこないだろう。それほど言ってしまえば救いようのない悪役で、未だどこかに可愛らしさも秘めている若き男役スターの礼にとっては、高いハードルだったと思うが、定評ある歌唱力はもちろんのこと、台詞発声の豊かさがその挑戦を大きく助けている。聞いていて実に気持ちの良い、ビロードのような手触りを感じさせる声に、大人のワルの造形が支えられていて、ここでこれだけの難題をクリアしたことは、礼にとって大きな財産となると思う。今後に期待したい。

他に母親の息子に対する大きな愛を表現した美稀千種、大スターをカリカチュアして見せた壱城あずさ、映画監督とその息子のワガママぶりで「七光り」の力関係をくっきりと提示した如月蓮と十碧れいや、相変わらずの美声が貴重な夏樹れいなど、星組の個性的な面々の中で、主人公の親友パップ—に扮した瀬央ゆりあの躍進ぶりが一際目を引き、新トップコンビ誕生と共に星組に新しい風が吹いてきていることを強烈に印象づけていた。

何より舞台全体が煌めいているとも思えるゴールドを基調とした衣装と、インド舞踊の特徴を巧みに取り入れた振付が作品の個性を際立たせていて、宝塚とインド映画双方の良いところが、タイトル通りのマサラ(インドのミックススパイス)な味付けで、新生星組の始動を飾ったのが喜ばしく、組の明るい未来が予見できる公演となっている。

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〈公演情報〉
宝塚歌劇星組公演
マサラ・ミュージカル
『オーム・シャンティ・オーム 〜恋する輪廻〜』
(C)Red Chillies Entertainments Pvt Ltd./Asian Films Co.,Ltd.

脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇紅ゆずる 綺咲愛里 ほか星組
●1/6〜18◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席 8,800円 A席 6,000円 B席 3,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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クリスマスシーズンを彩るオリジナル作品ならではの二本立て 宝塚雪組公演『私立探偵ケイレブ・ハント』『Greatest HITS!』

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早霧せいな&咲妃みゆの絶妙なコンビぶりと組の総合力が相まって、目下ノリにのっている宝塚雪組が、久々のオリジナル作品でクリスマスシーズンを飾るミュージカル・ロマン『私立探偵・ケイレブ・ハント』とショー・グルーヴ『Greatest HITS!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(25日まで)。

ミュージカル・ロマン『私立探偵ケイレブ・ハント』は、20世紀半ばのロサンゼルスを舞台に、探偵事務所を営む主人公ケイレブ・ハントと、彼に関わる人々との交流が描かれていく作品。大掛かりな仕掛けやケレンはないが、これまで話題の原作もので多くのヒットを飛ばしてきた雪組にとって、久しぶりのオリジナルのスーツ物というところに、新鮮味と見どころがある作品だ。

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【STORY】

20世紀半ばのロサンゼルス。探偵事務所の所長ケイレブ・ハント(早霧せいな)は、共同出資者で共に事務所を営むジム・クリード(望海風斗)、カズノ・ハマー(彩風咲奈)と、主にハリウッドのセレブたちのトラブル対応にあたる日々を送っていた。ある日、ケイレブは会社側とのトラブルを抱えている、依頼人の映画監督(奏乃はると)を撮影所に訪ねるが、折も折、アンサンブルの女優アデル(沙月愛奈)が亡くなるという事件に遭遇する。
現場にはスタイリストとしてこの映画に関わっている恋人のイヴォンヌ(咲妃みゆ)も居合わせていて、2人は事態に困惑しながら、イヴォンヌの誕生日を祝うディナーの約束を確認して別れる。事務所に帰ったケイレブは、ジムとカズノと、3人それぞれが担当している案件の経過報告をし合うが、ジムとカズノが担当している案件双方から、新興のプロダクションとして台頭している「マックス・アクターズ・プロモーション」の名前が上がったことに驚く。遭遇したばかりの撮影所で亡くなった女優の所属先も、他ならぬ「マックス・アクターズ・プロモーション」だったのだ。この不自然な一致は本当に偶然なのだろうか。
そこへ行方不明の娘を探して欲しいという夫婦(鳳翔大・梨花ますみ)が事務所を訪ねてくるが、同じタイミングで警察から電話を受けたケイレブは、夫婦をジムたちに託して警察に駆けつける。ケイレブを迎えた懇意の刑事ホレイショー(彩凪翔)は、危険人物として拘留されていた男の身元引受人を託されたケイレブに、自分なら決してこんな役割りは引き受けないと釘を差すが、ケイレブにはこの依頼を断れない強い思いがあった。拘留されていた男ナイジェル(香綾しずる)は、かつてヨーロッパ戦線で共に戦った戦友だったのだ。
そんなあれこれでイヴォンヌとのディナーに大幅に遅刻したケイレブは、イヴォンヌが探偵という危険な仕事に従事しているケイレブを案じると共に、スタイリストとしての自身のキャリアアップを目指す思いの中で、ケイレブとの将来像に不安を覚えていることを知る。でも2人はお互いに愛し合っている。ケイレブはただそれだけをイヴォンヌに訴えるのだった。
そんな一夜が明けた時、事態は思わぬ進展を見せた。行方不明の娘を探していた夫婦が置いていった写真に写っていたのは、撮影所で亡くなった女優アデルだったのだ。更にそのことを夫婦が宿泊しているモーテルに知らせにいったジムは、ホレイショーと遭遇。なんとあの夫婦もひき逃げ事故にあい亡くなったと言う事実を聞かされる。最早すべてが偶然であるはずがない。ケイレブは裏世界に精通しているナイジェルからの「この件には関わるな」という忠告を聞きながらも、単身「マックス・アクターズ・プロモーション」の経営者マクシミリアン(月城かなと)を訪ねるが、そこにプレゼンに来ていたのはなんとイヴォンヌで……

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『私立探偵ケイレブ・ハント』というタイトルが示す通り、物語は紛れもなく探偵ものなのだが、その上で謎解きに主眼を置かなかったのが、この作品の個性になっている。もちろん事件は起こるし、ケイレブたちは事件解決に向けて奔走するが、そのからくりはさほど難解ではなく、黒幕に意外などんでん返しもない。事件とその解決という流れだけに絞れば、探偵を主人公とするテレビシリーズの1話と言った趣きで、革命や、戦時下などギリギリの状況で、尚明日を信じる人々を描くことが多い脚本・演出の正塚晴彦作品としては、むしろ異色な部類に入るものと言える。実際従来の正塚であれば、最も力を入れて描写したのはケイレブとナイジェルの関係だったろうし(そうした場合話は、かつて雪組で上演された正塚作品『マリポーサの花』に近づく)、謎解きに重点を置くなら、二番手の役柄になるのは当然マクシミリアンだったろう。ヒロインも事件を通じてケイレブが出会う女性、ハリエット・マクレーンにシフトしていく可能性が高い。
けれども、そうしなかったこと、物語がはじまった時すでに恋人同士であるケイレブとイヴォンヌの恋愛模様を中心に、ジム、カズノ、ホレイショー、更に探偵事務所の事務方の面々など、キャラクターの立った登場人物たちそれぞれが、日々生きている日常を切り取り、ひとつの事件を経て彼らがまたそれぞれの1歩を踏み出す様を、むしろ淡々と描いたところに、この舞台が持つ軽やかな魅力がある。
派手さはないし、鳳翔大を筆頭にあまりにもの役不足が気の毒なスターたちの存在も散見されるから、好き嫌いは分かれる作品ではあろうが、有名原作をどう宝塚化するか?に主な興趣を引かれる作品に多く立ち向かってきた雪組にとって、早霧をはじめとした主要メンバーに当てて書かれたオリジナルのキャラクターを、シャレた台詞の応酬で演じていく、こんな舞台が用意されたのは決して悪いことではなかったと思う。特に早霧&咲妃の次公演での退団が発表され、その退団公演も日本ものと決まったから、ここでスーツ物の作品、更に早霧以下、演者の個性をこそ楽しめるオリジナル物が展開されたのは良いタイミングだった。作品の主眼が主人公とその恋人の恋のゆくえに収斂されていくのも、早霧&咲妃という当代の名コンビに相応しい。

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そんな作品でタイトルロールのケイレブ・ハントを演じた早霧は、一見クールな美青年、だが心には燃える信念を秘めていて、思いこんだらむしろ無鉄砲なまでに猪突猛進という役柄を、なんとも魅力的に演じている。さすがはオリジナルの当て書きならではの伸びやかさがあり、喜怒哀楽の表現をはじめとした一挙手一投足から目が離せない。かつて同じ正塚作品『ロジェ』で演じた殺し屋役のクールビューティぶりは今も忘れ難いが、そうした外見の美しさの中にある、早霧の熱血感な部分と、重ねて来た経験から巧まずして現れる大きさと余裕が、ケイレブの中に花開いていて見事だった。

一方、イヴォンヌの咲妃は、自身も才能があり、キャリアとスキル双方のアップに向けての目標もある自立した女性が、恋人との関係に惑うという、宝塚の娘役としては珍しいながら、現代の女性が共感しやすい役どころをきっちりと見せている。元から可憐な容姿だけではない芯の通った演技者である咲妃だが、どちらかと言えばおっとりした個性の持ち主でもあるので、今回示したシャープさは新たな魅力として印象的だった。

更になんと言っても、2人が物語の最初からすでに恋人同士だという設定に、トップコンビとしての2人のキャリアがすんなりと説得力を与えているのが強みだし、惑うイヴォンヌに対して、ストレートに想いを押していくケイレブという展開が実に新鮮。終幕イヴォンヌのスーツケースだけがパリに行ってしまったのか?が気になるところではあるが、いずれ気持ちを固めた2人が改めてパリや、ミラノへ旅立つ日もあるだろうなと思わせる、2人の未来に余韻を残すのが早霧&咲妃コンビならでは。何より、銀橋でのラブシーンのロマンチックさには脱帽だった。

ケイレブのピジネスパートナー・ジムに扮した望海風斗は、如何にもリラックスして肩の力が抜けている演じぶりが、より本人の魅力を倍化している。宝塚全体を見渡しても、目下最強の二番手と言って過言ではない望海をどの役にキャスティングするかによって、この物語の行方は全く違うものになったはずだが、それだけに敵役でないほがらかな望海を堪能できるのが、この作品のもう1つの魅力ともなっている。とても放っておけない庇護欲を掻き立てられる存在なのだろうレイラとの恋愛関係が、主人公カップルとの良い対比にもなっていて、レイラを演じる星南のぞみの、どこか未成熟を感じさせる個性も相まって効果的だった。

もう1人のビジネスパートナー・カズノに扮した彩風咲奈の、公演ごとに大きくなる存在感は目を瞠るばかり。事務所の中では1番の若手で、行動力もありつつ、年上の2人に対して妙に冷静なツッコミも入れる、この作品世界の中での「今時の兄ちゃん」をサラリと演じていて頼もしい。作劇としては有沙瞳演じる歌手ポーリーンとの間に、何か芽生えてくるのでは?と思わせる流れに、もうひと芝居欲しかったところだが、そう観る者にひっかかりを与えるのも、彩風の大きさ故だろう。

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また、探偵と刑事という異なる立場でありつつ、ケイレブとの信頼関係を築いているホレイショーの彩凪翔が、役柄に相応しい気骨のある雰囲気を巧みに醸し出しているし、そのホレイショーとコンビを組む若手刑事ライアンの永久輝せあも、上り坂のスター性でキャラクターをしっかりと立たせている。更に、ドラマのキーパーソンであるマクシミリアンの月城かなとが、比較的遅い出番を骨太に支えていて、進歩を感じさせる。純白のスーツもよく似合い、早霧と対等に渡り合う必要がある役柄に懸命に挑んだことは、組替えを控える月城にとって大きな経験となったことだろう。

そして忘れてならないのはナイジェルに扮した香綾しずるで、謂わば正塚的世界観を双肩に担った役どころを十二分に演じている。『ドン・ジュアン』の亡霊役での快演と言うより、怪演と言いたい記憶も鮮やかな今、本公演でもこうした役柄を的確に演じきったことは、今後の雪組での香綾本人の立ち位置にとっても貴重なものとなるに違いない。
 
他に、アデルの沙月愛奈、その友人ハリエットの星乃あんりが、作品のポイントとなる役どころをきちんと締めたし、探偵事務所の事務方、コートニーの早花まこ、ダドリーの真那春人、グレースの桃花ひななど、キャリアを活かした個性派たちの中に、新進男役の縣千を無理なく加えるなど、座付としての目配りも周到。トップコンビを核としたエンディングが前述したようになんともロマンチックで、観終わったあとの印象があくまでも重くならなかったのが、クリスマスシーズンによくマッチしていた。

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そのクリスマスシーズンにマッチしたという意味では、これ以上ないベストだったのが、ショー・グルーヴ『Greatest HITS!』で、稲葉太地の作。中詰めに用意されたクリスマス・メドレーが、大劇場公演時にはなんとしても早すぎる感があった分、この東京公演での季節感とのマッチングによる効果は絶大で、心躍る華やかさに満ちている。

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しかも、このショーがクリスマスシーズンに合致したのが、単純にクリスマス・メドレーがあるからだけではないのが大きなポイントで、『Greatest HITS!』というタイトルの示す通り、古今の名曲が網羅された音楽で構成されたショーの根底に、言語や民族、国境を越えて、世界をつなぐことができるのは音楽の力なのではないか?という作者である稲葉太地の壮大な思いが込められていることに、深い意味がある。

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スマートフォンで自分だけの音楽の中にに個々入りこんでいた若者たちが、今では見慣れなくなった煌めくジュークボックスから流れ出す、見知らぬ誰かと共有できる音楽によって新しい世界に誘われていくプロローグが、いつか世界の皆が肩を抱いて歌い合える日を夢見る主題歌へとつながる見事さ。自分さえよければ良いという、保護主義という名の、本来人が思っていても口にすることは謹んでいたはずの本音を、むき出しにすることに喝采が集まる、暗澹とした空気が覆う今の時代。そんな世界に、まるで夢幻としか思えない理想を、これだけ正面から、しかもエンターテイメントの中で唱えられるのは宝塚をおいて他にはないし、人々がほんの少し優しくなれる、街中のどこもかもが華やぐクリスマスシーズンに、これほど相応しいメッセージもまたない。

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そんな思いが集約されるのが、運命の歌手・望海風斗と、宿命・彩風咲奈が率いる赤と白に象徴された、戦いから逃れられないこの世界の格闘が描かれた果ての悲嘆が、人々を結びつけるものはただ愛であるという、早霧せいなと咲妃みゆによって踊られる、得も言われぬ幸福感に満ちあふれた、ミント・グリーンの衣装のデュエットダンスに昇華される一連のシーンの迫力と美しさだ。ここには早霧&咲妃というゴールデンコンビと、望海以下実力派がひしめく今の雪組ならではの力感が余すところなく活かされていて、ショー全体としても文字通りの白眉だった。決して声高ではないだけに、稲葉が発し、雪組が構築したメッセージには、心に沁み入るものがあった。何より、2016年の東京宝塚劇場の締めくくりに、宝塚ならではの美しき夢のような願いが発信されたことを喜びたい。

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初日を控えた11月25日通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが囲みインタビューに応えて、公演への抱負を語った。

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その中で作品の見どころを訊かれて、早霧はオリジナル作品ならではの雪組メンバーに当て書きされた芝居と、クリスマスシーズンにピッタリのショーの内容をあげると、咲妃も役柄に親近感を覚えてもらえるだろう芝居と、やはりこの季節にお客様と共に盛り上がれる場面が満載のショーだと呼応して相変わらずのコンビネーションの良さを発揮。

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また、ショーの内容にちなんでそれぞれのクリスマスの思い出を問われ、回答を咲妃に促して自分は発言しなかった早霧が、幼い頃の咲妃の愛らしいエピソードを聞き、自分の思い出は咲妃に負けるからと、結局回答を避けて記者たちを笑わせる一コマも。

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更に、来年7月での退団を共に発表した心境は?という質問には、心に決めていたことを公にしたことで、更に気が引き締まり、この公演に臨めるという早霧に、ゴールを設定し、限られた時間だということを実感したからこそ、最後まで早霧にしっかりとついていきたいと咲妃が語り、同じ月日を手を携えて共に歩んできたコンビならではのラストスパートに、大きな期待が高まる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は1月10日発売の「えんぶ」2月号にも舞台写真と共に掲載致します。どうぞお楽しみに!

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〈公演情報〉
宝塚雪組公演
ミュージカル・ロマン『私立探偵ケイレブ・ハント』
脚本・演出◇正塚晴彦
ショー・グルーヴ『Greatest HITS!』
作・演出◇稲葉太地
出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組
●2016年11/25〜12/25◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


柚希礼音主演『お気に召すまま』




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