えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

『HEADS UP!』

レビュー

少女漫画の金字塔の見事な舞台化で輝く、柚香光東上初主演作品!宝塚花組公演『はいからさんが通る』

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宝塚花組の男役スターとして進境著しい柚香光の東上初主演作品である、宝塚花組公演ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』が日本青年館ホールで上演中だ(30日まで)。

「はいからさんが通る」は1975年〜77年に「週刊少女フレンド」で連載された大和和紀の少女漫画。大正浪漫華やかなりし頃の東京を舞台に、未だ女性の生き方に大きな制約があった時代に、快活にひたむきに生きる「はいからさん」花村紅緒と、祖父母の代からの許婚で、日本人の父とドイツ人の母の間に生まれた眉目秀麗で笑い上戸の陸軍少尉、伊集院忍との運命の恋が描かれる、波乱万丈な王道ラブコメ。作品は連載当時から大人気を博し、アニメ化、舞台化、テレビドラマ化、実写映画化と、時代を超えて様々なメディアに取り上げられ、本年から来年にかけて新たな劇場版アニメーションも公開予定の、不朽の名作として少女漫画の歴史に燦然と輝き続けている。
宝塚歌劇では、1979年に平みちの伊集院忍、花鳥いつきの花村紅緒他の出演で、テレビドラマが作られているが、以来、40年近く待望論の絶えなかった舞台化が遂に実現。宝塚期待の男役スター柚香光の東上初主演公演として上演されることになった。

【STORY】
時は大正七年、春四月。陸軍少尉・伊集院忍(柚香光)は幼い頃に定められた許婚のもとを初めて訪ねる道すがら、自転車で暴走してくる少女に遭遇。派手にひっくり返って、赤いリボンを捻じ曲げたまま、自分に猛抗議をしてきた「ハイカラ娘」を、まるでつむじ風のようだ、と感じる。
そのハイカラ娘こそが、忍の運命の相手・花村紅緒(華優希)だった。かつて忍の祖父と紅緒の祖母は二世を誓った恋人同士だったが、御一新の世に、公家の家柄の伊集院家と、代々徳川家に仕えた旗本の花村家の婚礼は叶わず、二人はやむなく引き裂かれてしまう。その別れに際して二人は、いつの日か身分や家柄に縛られない平和な世が来た暁には、ふたつの家をひとつにしようとの誓いを立てる。だが、両家に生まれたのは共に男の子。二人の願いは、三代目である忍と紅緒に引き継がれたというのだ。
恋も結婚も自分で選ぶ!良家の殿方の申し入れを待つような人生はまっびら!と思っていた紅緒には、到底納得できない話だったが、両家も、更に忍も結婚してから愛を育めば良いと、この婚約になんら不満はない様子。たまりかねた紅緒は、忍に恋している同級生の華族令嬢・北小路環(城妃美伶)、幼馴染で紅緒を慕う歌舞伎の女形役者・藤枝蘭丸(聖乃あすか)の協力のもと、伊集院家の嫁としては到底受け入れられない娘の烙印を押されるべく、嫁入り修行の行儀見習いに入った伊集院家で大騒動を繰り返すが、それらの顛末を面白がるばかりの忍を筆頭に、伊集院家の人々に次第に愛されていく。しかも紅緒自身がいつしかそんな忍に惹かれていく自分に戸惑いを覚えるようになる。だが、そんな中、忍と紅緒の婚約披露の席で起きた騒動から紅緒は伊集院家を飛び出し、酔った勢いで忍の亡き戦友の内縁の妻である柳橋の芸者・吉次(桜咲彩花)にからんでいた陸軍中佐・印念(矢吹世奈)に酒を浴びせかけてしまう。駆け付けた忍のとりなしでその場は収まり、二人は互いの気持ちが更に深く近づいたことを悟るが、忍の上官であった印念中佐は憤懣やるかたなく、そこに配属された者はやがてシベリア戦線に送られることを承知で、忍を小倉連隊へと転属させる。
自分の為に、忍が左遷されたことに苦しむ紅緒を励ました忍は、今度東京に戻った時には正式に結婚しようと誓いを交わして紅緒の元を去るが、ほどなくしてシベリアの前線に送られる。その極寒の地で忍は、孤立した小隊を守る為決死の脱出を試みるが、傷ついた部下・鬼島軍曹(水美舞斗)を助けに戻った際コサック兵に襲われ行方知れずとなってしまう。
やがて、紅緒のもとに忍戦死の報せが届き……。

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基本的に舞台空間を縦三段で展開できるように作りつけられた一杯飾りのセットに、映像を組み合わせて舞台は展開するのだが、何よりも驚かされたのはコミックスにして全8巻、しかも大正7年のシベリア出兵からはじまり、関東大震災をクライマックスとする長大な原作世界のすべてを、2時間半の作品にまとめあげた脚本・演出の小柳奈穂子の手腕だった。原作世界が大河ドラマの場合、多くはそのどこかに焦点を絞って作品が作られるものだし「はいからさんが通る」の過去の映像などの作品群も、ほとんどがそうした手法を取っている。だが、今回の宝塚版に際して原作の大和和紀氏から、物語全体を舞台化して欲しいとの要望があったそうで、その原作者の想いを見事に具現化し、しかも単なるダイジェスト版に陥ることなく、波乱万丈な激動の時代に、運命の恋を貫く忍と紅緒の姿を浮かび上がらせた小柳の仕事ぶりは、賞賛に値する。これによって、それぞれにスピンオフが作られるほど、良い男揃いの原作世界の人気キャラクターが、ほぼ舞台に網羅されることになったし、何よりも、才色兼備でなくドジでおっちょこちょいのヒロインが、様々なタイプのイケメン登場人物すべてから愛されるという、1970年代の少女漫画の、王道ラブコメに共通した世界観を、決して否定はしないままほんの僅かに後退させ、過酷な運命の中で、自ら未来を切り開いていくヒーローとヒロインの歴史大河ドラマ色を前に出した視点が効いていた。この世界観なら、永遠に変わらないようでいて、やはり少しずつ色を変えている現代の「乙女の夢」に、作品がすんなりと着地することができる。これは、今やこうした長大な原作ものを宝塚化する作業においては、確実に一、二を争う小柳奈穂子の面目躍如たるもので、軽快なリズムとテンポをもった主題歌にのって、登場人物が勢ぞろいする冒頭からフィナーレまで、1つの無駄もなくスピード感を保って舞台が進む様はあっぱれだった。

そんな作品の中で、原作のキャラクターに扮した花組の面々の、原作再現率の高さがいずれも完璧なばかりでなく、演じたスターの個性も決してかき消えていないことがすばらしい。

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その筆頭が言うまでもなく伊集院忍に扮した柚香光。日本陸軍の軍服姿で舞台のセンターに登場した刹那から、「生き少尉」という最大級の賛辞を大和氏から贈られたのも納得の、完璧なビジュアルを披露。日本陸軍の軍服だから、当然ながら宝塚で通常スターが履く膝までを隠す丈でなく、極普通のロングブーツなのだが、それでも長い手足のスタイルは全く損なわれることなく美しく、彫りの深い顔立ちも混血の少尉そのままだ。しかも、どんなに気障に決めても嫌味にならない二枚目男役の押し出しの中に、素の茶目っ気とどこかやんちゃな少年性が覗く柚香の個性が、笑い上戸という原作設定の忍に打ってつけで、その明るさが際立つからこそ、物語後半の悲痛な表現も生きてくる。踊れる人ならではの身体能力の高さも、漫画世界が動き出した姿にピッタリのキレの良さを示していて、実際、ここまで全てが整った東上初主演も珍しいというほどの、文字通りの代表作を一気に勝ち得たのは、、やはり柚香光というスターが星を握って生まれてきた人である証だろう。話題性1つを取っても十分大劇場で通用した作品を、敢えて短期の別箱公演にぶつけてきた歌劇団の力の入り方も含めて、今後柚香がどこまで大きなスターとなっていくか、その輝く道程がハッキリと見えた公演として、長く語り継がれるものになるに違いない。

その相手役、と言うよりも、原作世界の揺るぎない主人公・花村紅緒には、華優希が抜擢された。花組の直近の大劇場公演『邪馬台国の風』新人公演のヒロインで注目を集め、そのまま一気に紅緒役へと駆け上がった、謂わばシンデレラガールで、当然ながらまだ技術的に拙いところも見受けられるものの、むしろそれすらが紅緒らしさに通じる、体当たりの熱演が清々しい。宝塚のオリジナル作品のヒロインと比べても、格段に出番も多く、役割も大きい紅緒を一心不乱に演じている華を、微笑んで見守る柚香から、自然な包容力が生まれる力にもなっていて、この抜擢は大正解。誰もが応援せずにはいられない、愛すべき紅緒像を描き出していて、『ハンナのお花屋さん』の舞空瞳同様、花組娘役の台風の目になりそうだ。注目していきたい。

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そんな紅緒を思う、良い男軍団では、職業夫人として編集者を目指す紅緒が務める出版社の編集長・青江冬星の鳳月杏の存在感が際立つ。物語の展開上、主な出番はほぼ2幕からなのだが、日本人で巻き毛のロングヘア—の男性という、これぞ漫画世界の登場人物を悠々と表出していて、出番の遅さを全く感じさせない力には舌を巻く。出版社の名前が「冗談社」というネーミングからもわかる通り、女性に触れられると蕁麻疹が出るという、単なる二枚目なだけではないカリカチュアされた設定も、抜群のプロポーションで余裕にこなし、紅緒を巡って忍と三角関係になる終盤のドラマをよく支えていた。
キャラクターの再現率という点では、こちらもピカイチの鬼島森悟の水美舞斗は、馬賊の装束の着こなしも完璧で、一見強面だが、信義に厚く、情も深い男の中の男を骨太に演じて見応えがある。特に、やはり柚香との同期ならではの阿吽の呼吸が、少ない出番で忍と鬼島の絆を現す原動力になっていて、これはキャスティングの妙。男役としてますます力をつけていて、この人の主演作も是非観てみたい。
紅緒を慕っているだけでなく、紅緒が幼馴染の彼を守ろうとすることでドラマが動くキーパーソンでもある藤枝蘭丸の聖乃あすかは、何よりも美しい男役であることが、この役柄に生きている。まだ男役として発展途上なことも、歌舞伎の女形である蘭丸を演じるには効果的な要素になっていて、振袖姿もなんとも艶やか。作品の重要なポジションをしっかりと務めていた。

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また、ヒロイン経験のある娘役が、それぞれの役柄に力を発揮しているのも大きな要素で、北小路環の城妃美伶は、華やかな容姿と洗練された娘役芸が、お転婆でじゃじゃ馬という設定の紅緒との対比をよく現し、役柄の存在価値を高めている。2幕冒頭の「モダンガール」のナンバーも豊かな歌声で盛り上げ、新しい生き方を模索する華族女性を見事に表現していた。芸者・吉次の桜咲彩花も、たおやかでいながら一本筋の通った気風の良さも持ち合わせた柳橋の芸者を、馥郁と演じていて、作品の良いアクセントになっている。若手娘役が台頭している花組だが、やはり彼女たちの地力は貴重で、今後も大切に遇して欲しい。もう1人、後半の鍵を握る女性ラリサに扮した華雅りりかも、難しい役どころを悲しみと哀れさを保って表現していて好感が持てる。出番の多寡としても今回のラリサの塩梅は絶妙で、粘着質の嫌な女に陥らなかったのは、小柳の筆と華雅の端正な演技故だろう。

難しい役どころと言えば印念中佐の矢吹世奈も、忍と紅緒の運命を流転させる陰湿な男を精一杯演じていて、まだ新人公演学年の男役であることを考えると、超のつく好演。原作とは異なり役柄に救いがあるのも小柳の優れた配慮で、良い経験になったことと思う。力のある人だからこそこういう役柄が回ってくるが、爽やかな持ち味が似合う役も観てみたい。更に、こちらも原作再現率が高く、しかもコメディリリーフとしても秀逸なのが、牛五郎の天真みちる。この人の一挙手一投足に可笑しみがあり、かつ温かい個性は貴重の一語で、作品に豊かさを与える力になった。如月の毬花ゆめも、漫画が動き出したかのような造形で惹きつける。もちろん、専科から特出の伊集院伯爵の英真なおきの、権高さの中にある愛らしさの表出は喝采ものだし、そんな英真に対して全くひけをとらない演じぶりを示した伊集院伯爵夫人の芽吹幸奈、紅緒の父・花村政次郎の冴月瑠那らの好演も見逃せず、和海しょう、春妃うらら、亜蓮冬馬ら、ポイントの出番の面々も個性をよく発揮していて、軽やかに弾む舞台を支えていた。

たったひとつの惜しまれる点は、これだけの話題作でありながら公演期間が短く、チケット入手の困難さが壮絶を極めたことで、希望しながら観劇が叶わなかった観客も多くいたことと思う。柚香光の代表作になるのは論を待たないから、いずれかの時期でもっと大きな劇場、ゆくゆくは大劇場での上演も検討して欲しいと切に願うが、そんな願いを持てる優れた作品を生み出した花組メンバーにまずは拍手を贈りたい仕上がりとなっている。


〈公演情報〉
宝塚花組公演 ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』
原作◇大和和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート)
脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇柚香光 ほか花組
●10/24〜30◎日本青年館ホール
〈料金〉S席 6,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



誰か席に着いて
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胸躍るロマンティック冒険活劇の快作!宝塚月組公演『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』上演中!

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アレクサンドル・デュマの「三銃士」を基に、小池修一郎が全く新しい発想で描きだした、宝塚月組公演三井住友VISAカードシアター浪漫活劇(アクション・ロマネスク)『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(10月8日まで)。

『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』は、今尚世界中で愛され、読み継がれ、幾多の映像、演劇、アニメ、人形劇等々、あらゆるジャンルでの創作が続いている、アレクサンドル・デュマの傑作小説「三銃士」の主人公ダルタニアンと、アラミス、アトス、ポルトスの三銃士が、原作設定のルイ13世時代を飛び出し、フランスのブルボン王朝に燦然と輝く太陽王ルイ14世時代で活躍するという、脚本・演出の小池修一郎の大胆な発想で生み出された爽快なエンターテインメント作品となっている。

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【STORY】
17世紀のフランス。太陽王と称されるルイ14世(愛希れいか)はまだ年若く、母であり摂政であるアンヌ(憧花ゆりの)、その後ろ盾であるマザラン枢機卿(一樹千尋)の助言のもとに国を治めているが、イタリア人であるマザランとそのファミリーがフランスを牛耳っている現状に、国民の不満の声が高まっていた。
そんな国王が隊長を務め、国家と王家を守護する任務にあたっている銃士隊一の剣の使い手ダルタニアン(珠城りょう)は、銃士隊の仲間であり「三銃士」と謳われる、元修道士でありながらも世紀の色男と言われるアラミス(美弥るりか)、銃士隊隊長代理で沈着冷静なアトス(宇月颯)、大酒飲みだが大胆不敵なポルトス(暁千星)との固い友情を育みながら、任務に誇りを持ち日々邁進を重ねていた。
そんなダルタニアンに国王の剣の稽古の師範代を務めよという命がくだる。バレエに夢中の国王ルイは剣の稽古に身が入らず、何かと理由をつけては次々と指南役を罷免し続けていたのだ。三銃士に励まされ、緊張しながら王宮に伺候したダルタニアンは、アンヌ、マザラン、国王のいとこモンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)、マザランの甥で護衛隊隊長のベルナルド(月城かなと)らの見つめる前で、ルイとの手合わせを命じられる。生来ひ弱なルイの指南には手加減を加えるように、と申し渡されていたダルタニアンだったが、次第に熱を帯びた稽古の中で、つい剣を振り払ったはずみでルイを倒してしまう。激昂したルイはダルタニアンを自分の指南役には不適格と断じたばかりか、銃士隊の解散も考えると言い放って去っていく。
その夜、落ち込むダルタニアンを三銃士が慰めていた酒場に、ベルナルド率いる護衛隊が現われ、銃士隊がマザラン枢機卿を侮辱したとして乱闘がはじまってしまう。その騒ぎの中、ダルタニアンはルイーズという娘を助ける。ルイ14世に目通りした話を聞きたがるルイーズに、ダルタニアンは自分が如何に王家と国家を愛し、それを守護する職務に誇りを持っているか、更に、国王はマザランの言いなりになるのではなく、自らフランスを治めるべきだ、そうしないと国民の信頼を失ってしまうと語る。熱心に耳を傾けていたルイーズだったが、ダルタニアンが彼女のことを訊こうとすると、慌てて逃げ帰ろうとし、行かせまいとしたダルタニアンは、思わずルイーズに口づけをする。剣一筋に生きてきたダルタニアンだったが、この一夜の出会いで、ルイーズに心を奪われてしまったのだ。
そんな中、銃士隊に突然の解散命令が下る。狼狽する銃士たちを前に、ダルタニアンは護衛隊に武力を集中する為に、銃士隊解散を狙ったマザランの策略を言い当てるが、三銃士をはじめ誰にも国王の名で発令された命令を取り消すすべはなかった。散り散りになる仲間たち。だが、失職したはずのダルタニアンに、もう1度国王ルイの師範代をせよとの呼び出しがかかる。再びルイと面会したダルタニアンは、ルイが抱えていたブルボン王朝を揺るがす大きな秘密を知ることになって……

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浪漫活劇=アクション・ロマネスクと題されたこの作品には、その言葉通りのロマンと冒険がぎっしりと詰まっている。それは開幕していきなりアラミスの美弥るりか、アトスの宇月颯、ポルトスの暁千星、そして真打ちダルタニアンの珠城りょうがそれぞれセリ上がりながら歌い継ぎ、多くの銃士隊員の壮大なダンスナンバーへと発展する「All for One」1曲で、まず心をわしづかみにされる魅力だった。
ここで、ダルタニアンをはじめとした銃士たちの衣装が、ブルーデニムという軽やかさも良い。デニム生地を使った衣装というとフレンチミュージカルの『ロミオとジュリエット』や、最近ではバウホール作品の『パーシャルタイムトラベル 時空の果てに』等が思い出されるが、その中でも作品の世界観を一目で表わしたという点において、この銃士隊にブルーデニムを使った判断が効いていた。アニメの主題歌もかくやとばかりのキャッチーな音楽(太田健)、衣装(有村淳)と、聴覚と視覚で、ルイ14世時代に活躍するダルタニアンと三銃士という、デュマの原作にも、史実にもとらわれない、宝塚版だけの『All for One』が怒涛のように展開することを、一気に認知させてくれる。
そこからはもう、物語のテンポの良さと、東京宝塚劇場のステージ、セリ、階段、盆、銀橋、花道といた舞台機構のすべてを縦横無尽に使い尽くした見事な転換とで、一気呵成に進むドラマに魅せられていくばかり。時に『ロミオとジュリエット』だったり、時に『るろうに剣心』だったり、時に『スカーレット・ピンパーネル』だったりと言った、小池修一郎が手掛けてきたこれまでの作品を思わせる仕掛けが出てくることも、むしろ喜びにつながっていくほど舞台は弾みに弾む。レイピアの殺陣をはじめとした効果音の使い方もテンポの良さを増幅させるし、特に台詞からミュージカルナンバーに至る流れが、1拍の無駄もなく全くひっかかりがないのは驚嘆すべきことだ。海外ミュージカルの潤色・演出で宝塚歌劇のみならず、日本のミュージカル界の巨星となっている小池の、ミュージカル創りのノウハウが如何に優れたものであるかが、図らずもしっかりとこの舞台に現れていて胸躍った。

しかも何よりも良いのは、17世紀のフランスを舞台にしながら、この作品が王道の「ラブコメ」を貫いていることで、冒険活劇とブルボン王朝とラブコメが、ここまでしっくりと馴染む世界は宝塚をおいて他にないだろう。もちろん重厚な悲劇も、新たな挑戦作もそれぞれに魅力があるが「ああ正しい宝塚を観た!こんな作品が観たかった!」という気持ちになれる王道作品には、やはり代え難い魅力がある。

その満足感の中に、このドラマの登場人物たちが、珠城りょう、愛希れいかのトップコンビ以下、月組の陣容にピッタリとハマった、あてがきの見事さが大きく寄与していることも見逃せない。スターが作家に愛されている作品ほど、観客が幸せになれるものはないのだ。

その1番手はもちろんダルタニアンの珠城りょうで、ガスコーニュ生まれで、父親の教育のもと剣の道に邁進し、国王と国家を守る銃士隊の一員であることに誇りを持つ真っ直ぐな青年という設定が、まるで珠城その人のようにマッチして個性を輝かせている。元々どっしりとした貫禄を下級生時代から持っていた人だが、月組の未来を担うべく早くから次々に大きな役柄を演じ続けていた中で、基本的に各時代のトップスターよりも上背があり、体躯もしっかりしていたから、学年よりずっと大人の役が回ってくることが多く、どこか影のある役も多かった。それだけに、このダルタニアンの清々しさ、おおらかな優しさが、珠城本来の魅力を開花させた様には目の覚めるばかりの効果があった。「この地上の何処かに」の晴れやかで、伸びやかな歌声も心地よく、トップスターとして2作目の公演で、早くも真価を発揮したのが嬉しい。

そんな珠城に、ルイ14世として対峙する愛希れいかが、入団当初は男役だった経歴を如何なく発揮している。愛希がルイを演じるというところで、ブルボン王朝が抱えている秘密というのは言ったも同然だし、事実作中でもその秘密は非常に早い段階でつまびらかになるのだが、それでもこれは元男役のトップ娘役・愛希れいかがいたからこそ実現した設定なのは間違いない。さすがは昔とった杵柄で、男役姿に違和感がなく、だからこそ真実を明かした心の叫びも真に迫り、壁ドンをはじめとした珠城との少女マンガの世界さながらの恋模様も適度にコミカルで、かつ胸キュンでなんとも愛らしい。バレエシーンもふんだんにあり、余人に代えがたい役柄となった。

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そんな二人を支える、三銃士の面々もそれぞれの個性をよく活かしていて、目に耳に楽しい。世紀の色男、というキャッチフレーズで登場するアラミスの美弥るりかは、その華やかな容姿ばかりでなく、女性への気遣い、髪の跳ね上げ方、足の組み方などの実に細かい部分で、アラミス像を創りこんでいる。この人の華があることによって、ダルタニアンの実直さも活きる効果も生んでいて、美弥ならではの美しきアラミスが見事だった。フィナーレ冒頭の歌手の煌めきも目を奪う。
銃士隊の隊長代理アトスの宇月颯は、銃士隊全員を統括する役柄を、的確な演技力と髭の似合うダンディーなビジュアルで活写している。常に先を読むアトスの行動は、作中でも物語を大団円に導く重要なポジションを占めていて、起死回生の計画を歌い上げる歌唱も十全なら、キレのある動きでの殺陣やダンスも見惚れるばかり。コツコツと精進を重ねてきた実力派が、相応の働き場を得て輝いている姿は、後進の何よりの励みになることだろう。確かな成果を喜びたい。
もう1人の三銃士ポルトスの暁千星は、自身に役柄を近づけたポルトス像を披露。健康的な個性の持ち主だし、元々原作設定にこだわっていない作品だから、大酒飲みではなく、大食漢でも良かったかな?とは思うが、王宮に偵察に行きながら酒瓶に手を伸ばしてしまうという小芝居も楽しく、衛兵姿もとぴっきり可愛い。ダルタニアンを含めた四銃士の個性が、多彩に分かれたのも効果的だったから、暁のポルトスとして面白く観られた。

彼らに立ちはだかるマザランファミリーでは、マザランの甥ベルナルドの月城かなとの比重が大きい。この役を美弥という考え方も或いはあったかも知れない、というほどの役柄だが、主人公の敵方に回ることが多かった美弥が、共に戦う三銃士という配置は新鮮だったし、これが本公演の月組には初加入となる月城にとっても、「壁」をキーワードに徹底的な敵役ではなく、コメディリリーフの香りさえあるベルナルド役に挑めたのは、良い経験となったことだろう。事実大劇場上演時よりずっとコメディの間が良くなっていて、当たり役の蒼紫を思わせる二刀流のサービスまであり、上々の月組デビューとなったのが何よりだった。

マザランファミリーは大人数で、束ねるマザラン枢機卿の一樹千尋の重厚感と食わせ物感は最早絶品の粋だし、ベルナルドの兄フィリップの紫門ゆりやは、本人は香りに慣れすぎて感じなくなっている香水マニアの、はた迷惑感を嫌味なく見せた。姪たちの中ではやはりマリー・ルイーズの早乙女わかばの美貌が光り、こせついたところのないおっとりした芸風が、紫門同様役に生きた。紫乃小雪の愛らしさも目立つだけに退団が惜しまれる。
ベルナルドの護衛隊では、千海華蘭と輝月ゆうまの色濃い造形が光るし、銃士隊から護衛隊に寝返る貴澄隼人と春海ゆうも、重要なアクセントになっている。貴澄はダルタニアンの回想シーンの父親役、輝月はルイの回想シーンのルイ13世役で、それぞれソロも取り、歌唱力も活きた。ソロと言えば、銃士の夢奈瑠音、蓮つかさもそれぞれ良い歌を聞かせたし、やはり退団の輝城みつるに目立つ場面がきちんとある目配りも美しい。

元銃士という位置づけでダルタニアンたちに加担するビゴーの綾月せり、その妻シモーヌの白雪さち花の剣戟一座が重要な関わりをもってくるのも脚本の面白さで、二人が呼び込みでラップを歌うぶっ飛び感も楽しめる。二人に育てられたジョルジュの風間柚乃は、作品のキーマンともいえる役柄を果敢に演じ、演技巧者の片りんを感じさせて末頼もしい。

王宮ではアンヌの憧花ゆりのの重石がありつつ、ちょっとした台詞で笑わせる緩急が光るし、スペイン王女マリア・テレサの海乃美月のコケティッシュな演じぶりも巧み。肖像画通りの難しい髪型を再現しているが、十分愛らしく公演毎に綺麗になっていて、娘役としてますます磨きがかかってきた。ルイお抱えの振付師リュリの佳城葵も良い味を出しているし、ボーフォール公爵の光月るうが極自然に大物感を発揮して、マザランに格負けしていない。

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そして、特筆すべきはモンパンシェ公爵夫人の沙央くらま。専科転出後、更に進境著しい演技派男役だが、小池作品では過去も様々な女性役を演じてきていて、今回はそれらすべての経験がつぎ込まれたかのような、美しく、艶やかで、思い込みが激しく憎めないという女性像を生き生きと演じ、出てくる度に場を浚う快演だった。公演中に次に出演が決まっている雪組公演での退団が発表され、ファンの心中やいかばかりかだし、フィナーレのグラマラスビューティぶりを見ると、これからまだまだたくさんの可能性を秘めていた人だと思えるだけに、ここでの退団発表は無念だが、『All for One』大成功の一翼を担った功績は長く記憶されることだろう。男役に戻っての集大成となる次公演の大いなる成果を祈っている。

と、とても書ききれないほどの役があり、そのすべてで出演者一同がそれぞれのカラーで舞台に息づいたことが嬉しく、宝塚の宝塚たる魅力にあふれた、爽快なオリジナルミュージカルが生まれたことを誇らしく思える舞台となっている。


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また、初日を前に囲み取材も行われ、月組トップコンビ珠城りょうと愛希れいかが公演への抱負を語った。

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はじめに珠城りょうが「本日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。今日から東京公演がはじまります。大劇場では本当に多くのお客様にお越し頂いて、 皆様が楽しんでくださったのが私達にも伝わり、大変気持ちのいい公演期間でございました。 東京公演でもたくさんのお客様に楽しいひと時をお届けできるように頑張って参りたいと思います。本日は短い時間ではございますが、よろしくお願い致します」と挨拶。

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続いて愛希れいかが「本日はお忙しい中お集まりくださいまして、誠にありがとうございます。私自身もこの公演をさせて頂き、とても楽しくて、本当にワクワクして毎日公演をさせて頂きました。東京の皆様にもそういう気持ちがしっかりと伝わるように「明日からも頑張ろう!」という気持ちになってもらえるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します」と挨拶。続けて記者の質問に答えた。 
 
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その中で、特に苦労した点は?という質問に珠城が、やはりこの世界ならではのレイピアを使った殺陣が、剣の長さもあり西洋剣術の独特さもあり、はじめはとても大変だった。と語ると、愛希がルイ14世の声を如何に低く発声するかに腐心したという、それぞれこの公演ならではの特徴をあげて振り返っていた。

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また、お互いに好きなシーンは?との問に、珠城が愛希のルイ14世の出生の秘密が明かされる「呪われた運命」を挙げると、愛希が珠城のダイナミックな立ち回りを挙げて、それぞれの目線で互いの魅力を語りあう、和やかな空気に場が和んだ。

6囲み

一転フォトセッションでは、愛希がルイ14世の衣装だったこともあって、男役同士のようなキリッとした空気感が立ち昇り、この公演限定の雰囲気が醸し出されたのが印象的な時間となっていた。

またこの日は特別に、作・演出家の小池修一郎の囲み取材も行われ、小池から見た珠城&愛希をはじめとした月組の魅力や、潤色・演出作品と、オリジナル作品のそれぞれの作り方の違いなどが、真摯な言葉で語られる貴重な内容となっていた。

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この珠城&愛希、小池修一郎の囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に11月9日発売の「えんぶ」12月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演
三井住友VISAカードシアター アクション・ロマネスク(浪漫活劇)
『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇珠城りょう、愛希れいか 他月組
●9/1〜10/8◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.000円 S席8.800円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-00-5100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


妃海風コンサート『Magic!』
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エンターテイメント性に溢れた礼真琴の初東上主演作品!宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

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宝塚星組の二番手男役として活躍する礼真琴の、東京での初主演となる『ATERUI─阿弖流為』が、新装なった日本青年館ホールで上演中だ(6日まで)。

『ATERUI─阿弖流為』は、2000年に吉川英治文学賞を受賞した高橋克彦の小説「火怨 北の燿星アテルイ」をもとに、大野拓史が宝塚ミュージカルに仕上げた作品。8世紀、東北へ支配領域を拡大しようとした大和朝廷が蝦夷討伐に乗り出す中、蝦夷の「人」としての誇りを守る為に朝廷軍に立ち向かった、若きリーダー阿弖流為の生きざまが描かれている。

【STORY】 
8世紀。東北地方で発掘される豊かな金鉱を得ようと、東北を支配領域に治めるべく朝廷は蝦夷討伐に乗り出していた。ある夜、その朝廷に与し蝦夷を裏切ったと思われていた伊治の蝦夷の長・伊治公鮮麻呂(壱城あずさ)は、各地の蝦夷の長を集め、自らの命と引き換えに参議・紀広純(輝咲玲央)の首を取る計画を打ち明ける。鮮麻呂が朝廷に与していたのは、全てこの機会を得る為の身を挺した偽りだったのだ。その尊い犠牲による図り事を聞く長の息子たちの中に、ひと際強い光を放つ眼差しを持った若者がいた。彼こそが、胆沢の長の息子であり、のちに蝦夷の命運を担う阿弖流為(礼真琴)だった。 
鮮麻呂の遺志を受け継いだ阿弖流為は、仲間と共に蝦夷の為に立ち上がることを決意する。だが、多勢に無勢の朝廷軍と戦うことを無謀だと思う阿弖流為の父の従者・飛良手(天華えま)は、朝廷に蝦夷の動きを内通することで生き残りを企てるが、阿弖流為の熱い説得によって翻意し、忠実な側近となる。阿弖流為の想いはただ一つ。蝦夷を獣同然に扱い、同じ人とは見なさない朝廷に、蝦夷も同じ人だと認めさせることだった。 
そんな中、阿弖流為は、黒石の蝦夷の長の跡継ぎ・母礼(綾凰華)と、その妹佳奈(有沙瞳)に出会う。天性の軍略の才を持つ母礼は、以後阿弖流為の片腕の軍師となり、その知略に長けた奇襲作戦と阿弖流為の勇猛果敢な働きぶりは、蝦夷に度重なる勝利をもたらす。嫁いだ先が朝廷軍に襲撃され寡婦となっていた佳奈は、阿弖流為に希望を見出し、阿弖流為もまた佳奈に惹かれ、二人は深く心を寄せるようになる。
だが、続く敗戦に業を煮やした朝廷は、都随一の武人と謳われる坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)に、蝦夷征伐を任じる。欲に溺れず、ただ桓武天皇(万里柚美)の命を受けた武人としての役目を全うしようとする田村麻呂には、これまでのような奇襲作戦は通用しない。阿弖流為は身を捨てて蝦夷を守ろうとした鮮麻呂の遺志に思いを馳せ、ある策略を講じる決意をして……。

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8世紀に実在した蝦夷の勇者阿弖流為の生きざまは、様々な形で映像化や、舞台化がなされてきた。特に東北地方が未曾有の大災害に見舞われた東日本大震災の後には、東北の復興を応援しよう!という趣旨のもとに、多くの作品が生まれている。そんな中にあって、宝塚歌劇が改めて阿弖流為を主人公にしたミュージカル作品を作るに当たり、原作に求めたのが高橋克彦の「火怨」だったことが、まず何よりも優れた選択眼と言えるものだった。
と言うのも、原作小説は上下巻、1000ページにも及ぶ大作だが、読み進めて感嘆するのが、出てくる若者たちが、いずれ劣らぬ良い男ばかりだということなのだ。阿弖流為と言えば、当然対に出てくるのは坂上田村麻呂ということになるが、軍師の母礼、腹心の部下となる飛良手をはじめ、それこそ今流行りの乙女ゲームもかくやとばかりに、良い男のオンパレード。おそらく読めば誰かしらタイプの男性が見つかるだろうというほど、友情に厚く、義に熱い男たちが繰り広げる闘いが迫力たっぷりに描かれていて、これはカッコ良い男を演じさせたら右に出る者のない、宝塚の男役の為にあるような題材に違いなかった。

その原作の特性を、脚本・演出の大野拓史が良く生かしている。何しろ原作が大長編なので、そのどこを切り取るか?によって作品の印象は全く異なるものにもなるところを、阿弖流為を軸に蝦夷の良い男たちをくまなく網羅し、舞台に設置された特大の映像パネルを駆使して、読みにくい漢字の多い登場人物の紹介から、場所の移り変わり、自然描写までをスピーディに押し進めた手腕はたいしたもの。更に阿弖流為の成長物語でもあるが故に、原作小説では下巻になってやっと登場する坂上田村麻呂も実に自然に物語の序盤から登場させ、阿弖流為の好敵手としての立場を明確にしていたし、徹底的に男の物語の原作には描かれていない、ヒロイン佳奈の心理や人生を書き加えるなど、宝塚版ならではの改変も当を得ている。これは資料を深く読み込む劇作家大野の特徴が吉に出た好例で、高橋恵と玉麻尚一のどこかアニメソングにもつながる高揚感を持った音楽の数々の力も加わり、徹底的なエンターティメント作品に仕上がっていた。これによって主人公の辿る結末がわかっている物語が、暗く沈んで終わることを防ぐことにもつながったし、阿弖流為の選ぶ決断の基に鮮麻呂の存在があったことを、制約のある時間の中できちんと書き込んだ故の成果でもあった。

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そんな作品で「主演・礼真琴」という大クレジットが映像に出たほどの華やかな東京初主演となった礼真琴の阿弖流為が、非常に柄に合っている。元々原作を読んでいる時から、礼の声で台詞が聞こえてくるという現象に陥ったくらい、この役は合うだろうという予感があったが、それが見事に的中して、血気盛んな熱い男が、リーダーとして成長し、身を捨てても蝦夷の誇りを守るに至る流れを、的確に表現している。星組の若き二番手スターとなってから、黒い役が続いていて、それはもちろん男役礼真琴の成長には役立つものではあろうと思いつつも、若々しいヒーローも観たいとも願っていた時期だけに、豊かな歌唱力と俊敏な身体能力が共に生かされた阿弖流為は打ってつけだった。新しい劇場のこけら落とし公演の大任を任され、それをきちんと代表作と呼べるものに仕上げた礼の自力に、改めて感心する主演ぶりだった。

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ヒロイン佳奈の有沙瞳は、嫁ぎ先の里が滅ぼされ、朝廷に復讐を誓う寡婦という、原作とは全く異なる設定を、陰影深く演じて見応えがある。佳奈がただの良妻賢母ではないヒロイン像になったことで、作品全体にも深みが増したし、礼との並びも良く似合って美しい。星組に加入以来、柔らかさと愛らしさを増していて、歌唱力も十分。ますます楽しみな娘役に成長している。

更に、この作品で礼に負けず劣らずの存在感を示したのが、坂上田村麻呂の瀬央ゆりあ。礼主演の公演で二番手格の役柄を演じたのは『鈴蘭(ル・ミュゲ)─思い出の淵から見えるものは─』に続いて二度目となるが、その『鈴蘭』から約1年半、ここまで男役スターとしての押し出しと、華やかさを身に着けていたとは、と、驚かされる変貌ぶりに感嘆した。朝廷の中で唯一蝦夷を「人」として認め、尊重もしている武人を堂々と演じていて、礼に対して全く不足がない。こうなってくると持ち前の容姿の良さも光ってくるから、逸材揃いの95期生の中に、また1人目が離せない男役スターが育ってきた格好だ。期待したい。

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そして、前述したように良い男揃いの登場人物の中では、やはり母礼の綾凰華が目を引く。原作小説の中では完全に二番手の役柄であることもあって、沈着冷静な軍略の天才として、全体の中でのカラーの違いが鮮明に描かれ、綾もまたその役の性格をよく表している。正直、プログラムにこの人の扮装写真がないのが、なんとも不自然なほどの大役を手中に納めているから、新天地となる雪組での活躍が楽しみだ。飛良手の天華えまは、はじめは阿弖流為に対して反旗を翻し、それがあったからこそ最後まで阿弖流為につき従う重要なポジション。顔立ちがソフトな人だけに、阿弖流為を裏切ろうとする描写がもう一息鋭くても良いか?と思わせはするが、腹心の部下として阿弖流為に心酔する様はきちんと伝わり、若手ホープらしい明るさが印象的だった。また、阿弖流為の仲間の中では伊佐西古のひろ香祐の骨太さが光ったし、阿弖流為に対して距離を取る蝦夷である諸絞の音咲いつきも、少ない描写で阿弖流為への屈折した思いをよく表現している。この公演を最後に娘役への転向が発表されているが、男役として有終の美を飾っていて、娘役・音咲いつきの誕生にも期待が膨らんだ。
他に、桓武天皇で男役に回った万里柚美、どこにいても愛らしく、娘役の良心とも鑑とも思える坂上全子の音波みのりをはじめ、何しろ最下級生の鳳真斗亜まで、出演者全員に役があるという大野の脚色が、それぞれの今後にどれほどの糧になったかと思うと、この作品に出演したメンバーの幸運を思わずにはいられない。分けても特筆すべきは鮮麻呂の壱城あずさで、阿弖流為の生きざまの指針となる、つまりはこの作品の骨子となる人物を、決意と哀惜を込めて演じていて、壱城の多彩な経歴の中でも屈指と言える名演だった。

そんなすべてのメンバーに働き場の多い充実した作品が、礼を筆頭に星組の明日を担うだろう人材に用意されたことを喜びたい舞台となっている。



〈公演情報〉
宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

原作◇高橋克彦「火怨 北の燿星アテルイ」(講談社文庫刊)
脚本・演出◇大野拓史
出演◇礼真琴 ほか星組
●7/31〜8/6◎日本青年館大ホール
〈料金〉S席 7,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




妃海風コンサート2017






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平成のゴールデンコンビ早霧せいな・咲妃みゆ退団公演 宝塚雪組『幕末太陽傳』『Dramatic“S”!』上演中!

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平成のゴールデンコンビと謳われ、雪組を牽引してきたトップコンビ早霧せいな、咲妃みゆの退団公演となる、宝塚雪組公演かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(23日まで)。

まず芝居は、かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』。鬼才川島雄三監督が1957年に発表した、日本映画史に燦然と輝く同名代表作を、宝塚歌劇団が初めてミュージカル化して上演した。「居残り佐平次」を中心に「品川心中」他いくつかの古典落語を組み合わせ、実在した品川の遊郭・相模屋を舞台に起こる様々な人間模様を軽妙なタッチで描いた傑作映画を、川島監督を崇拝し、監督のようなプログラムピクチャーの作り手になりたいと熱望して、劇作家の道を志したという小柳奈穂子が、念願の作品に取り組めた喜びが浮かび上がるような舞台となっている。

【物語】
時は幕末、文久二年のこと。北の吉原と並び称された南の品川宿に、その海鼠壁から土蔵相模と呼ばれた旅籠「相模屋」があった。その相模屋にある日佐平次(早霧せいな)という町人がふらりとやってきて、仲間たちと豪勢な芸者遊びに興じるが、仲間からわずかの割り前を受け取った佐平次は、寝屋へ誘う女郎おそめ(咲妃みゆ)も遠ざけて悠々と1人寝を決め込む。実はこの佐平次、お大尽遊びができる金など全く持ち合わせていなかったのだ。翌朝、堂々と居残りを決め込んだ佐平次は、番頭や若い衆顔負けの仕事ぶりで相模屋を駆け回り、次々と起こる騒動を持ち前の度胸と才覚で解決していく。そんな日々の中で、はじめは恥をかかされたとお冠だったおそめや、異人館焼き討ちの計画を練る高杉晋作(望海風斗)ら長州藩士たちとも交友を深めた佐平次は、いつしか廓の人気者となるが、実は佐平次は誰にも明かしていない秘密を抱えていて……

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映画と同じ軽妙なナレーションからはじまる舞台は、とにかく勢いが良く、弾むテンポにあふれている。基本的に群像劇なので登場人物が大変多く、雪組の豊富な人材がきめ細かく登用されていて、組の勢いがそのまま作品に現れているのも良いし、佐平次のキャラクターを1曲で表す「居残り稼業」。おそめと佐平次が新しい世界を夢見る「ここではないどこか」。佐平次、おそめ、高杉晋作がそれぞれの明日を目指す「朝陽の向こう」など、ミュージカルナンバーがいずれも佳曲揃いで、小柳が原作映画を巧みにミュージカルの世界に乗せた手腕が光る。
特に「朝陽の向こう」は、「トリデンテ」とも称されて雪組の一時代を築いた早霧、咲妃、望海体制のラストランにまことに相応しい美しい場面で、この場面があることによって、原作映画では、佐平次が1人でどこまでも生き抜いて行こうと駆けだすラストシーンであるのを、佐平次とおそめが共に手を取り合って走り去るという、トップコンビの退団に寄せた展開への書き換えが、自然になる効果ともなっていた。非常によく考えられたウェルメイドな世話物に仕上がっていて、さすがは作家が長年愛した世界だけのことはある。おそらく小柳としてはある意味本懐を遂げた仕上がりだったろう。その熱量の高さは客席からもひしひしと感じられた。

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ただ、作品の出来栄えが優れていることは十二分に評価した上で、どうしても胸の底に小さな違和感が残る。それは、平成のゴールデンコンビと謳われ、そのコンビとしての存在を愛し、惚れ込み、今、最後の別れの時、過ぎ去っていく1日、1日を、時間よ止まれと叶わぬ願いを持ちながら過ごしているだろう多くの観客を生んだ、早霧せいなと咲妃みゆという、宝塚史上に残る名コンビの退団公演に、この作品が最も相応しいものだったのだろうか?という思いだ。
もちろん、佐平次の軽妙洒脱な味わいと、胸のうちにある真実の思いを演じるのに、当代のトップスターの中でも最も相応しいのは早霧だったと思う。娘役という領域からは確実に外の位置にある、失った板頭の地位の復権を目指す女郎おそめにしても、憑依型の突き詰めた芝居をする咲妃あったればこそ成立したものに違いない。芝居巧者の2人がいてこそ、この作品が宝塚ミュージカルとして生れ出ることができた。その挑戦への勝利は見事なものだ。
かつて同じ雪組のトップスターだった一路真輝も、退団公演に大きな賭けだった黄泉の帝王トートを演じ、それが今日宝塚の財産となった『エリザベート』を生み出している。何より宝塚百年の歴史は、そうした果敢な挑戦の上にこそ築き上げられた栄光の軌跡だ。それも十分わかっている。それでも心のどこかではやはり、早霧と咲妃の2人が共にいるだけで、共に笑いあい、見つめあってくれているだけで観ている者も幸福になれたこのコンビの集大成には、宝塚王道の男役と娘役、プリンスとプリンセスの恋物語を、宝塚という夢の園にいる間にしか叶わないロマンチックな、永遠に心に残るラブシーンを期待していたと言ったら、それはこれだけ完成度の高い作品を用意した小柳に、あまりに酷な望みだろうか。実際のところこれは、仮にこの作品が2人の通過点だったとしたならば、全く、何一つ感じなかっただろう思いだから、つくづく宝塚という世界で劇作家を貫くのには、難しい問題が多々あると思う。作家が本懐を遂げることと、去りゆくトップコンビに本懐を遂げさせること、引いてはこの夢の世界の住人を愛した観客に悔いはないと言わせること。この両立が叶う道さえあれば、これに勝るものはないに違いないのだが。

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その中で、前述したように早霧の佐平次の縦横無尽の活躍ぶりには、素直に見惚れる。本来は胸の病を抱え死を決意して流れて来た品川で、再びまだまだ生き抜いて行こうという活力を得ていく佐平次の変化を、他者と接している時のあくまで軽妙な立ち居振る舞いと、ふと1人になって見せる孤独の影とを、絶妙に活写していて感嘆させられる。羽織をつかった相当に難度の高い所作も、難しいことをやっているとは全く感じさせずにこなしていて、「あっぱれ!」の一言。「日本物の雪組」を率いた早霧ならではの、自力を感じさせる軽やかさだった。
一方の咲妃も、板頭の座を奪われた女郎こはるとの大立ち回りもあり、人気回復の最終手段とばかりに心中を持ちかけた相手をあっさり見捨てる変わり身の早さといい、宝塚の娘役を完全に振り切った役柄に堂々と対峙したのは、やはりこの人の深い芝居心のなせる業だろう。それでいて決して愛らしさを失わないのが咲妃ならでは。トップコンビとして考えれば、多いとは言えないポイント、ポイントの芝居の中で、2人が共に駆け去っていくラストシーンに無理なく、互いの関係を寄り添わせていったコンビの力も光った。

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高杉晋作の望海は、作品中最も二枚目な役柄に、貫禄と凄味を与えていて心憎いほど。仲間たちとのやりとりにも自然にリーダーの風格があり、星乃あんりのこはるとの間に、深い思いがあるのでは?と感じさせたのも良い彩りになっている。何より、佐平次とのやりとりに早霧と望海が重ねてきた日々が投影されて見えることが、味わいを深めた。これも前述した通り、早霧、咲妃、望海で歌われる「朝陽の向こう」の美しさは比類なく、原作通りだから仕方がないとは言え、終幕のおそめの墓探しのくだりがやや過剰に思われるほど、宝塚としてのカタルシスを持った名シーンとなっていた。

更に、群像劇であるこの作品の何よりの美点として、多くの雪組生が大活躍しているのが目に耳に楽しい。相模屋の若旦那徳三郎の彩風咲奈は、よく考えるとかなりどうしようもないぼんぼんなのだが、そこに憎めない愛嬌がにじみでるのは、彩風の芝居力とスター性の賜物。こういう役柄を品を崩さずに演じられる男役に成長していることを、改めて印象づけていて素晴らしかった。次期トップ娘役に決まっている女中おひさの真彩希帆の、しっかり者ぶりとの対比も良く出ている。長州藩士の久坂玄瑞の彩凪翔も、キリリとした二枚目の作りできちんと若い藩士たちが一目置く人物を造形している。次代を担う望海にとっても、ますます頼もしい男役の戦力になることだろう。同じ長州藩士たちはいずれも生き生きとしているが、中でも志道聞多の煌羽レオの的確な演じぶりが光る。タイミングと運に恵まれず、惜しくも新人公演主演を逃した人だが、本来ルックスも自力も十分に備わっているので、今回の活躍は嬉しい限り。この調子で組のアクセントとなっていって欲しい。また、こはるを巡って実の親と争いになる清七の永久輝せあは、もうこの役柄が如何にも軽く見えるほどのスター性と勢いに驚かされた。末頼もしいホープとして、ますます伸びていってくれることだろう。

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また、退団者にも大きな役柄があるのは、これは小柳の座付き作家としての粋なはからいで、こはるの星乃あんりは、咲妃と真っ向勝負する役柄を、実に魅力的に演じている。むしろ子役が似合うほどの愛らしい娘役だった星乃が、こんなにも艶やかな娘役となって去っていくことが惜しまれてならない。まだまだ可能性のあった人だと思うが、最後にこの大役を手にできたことが何よりだった。高杉の望海との言葉に出さない思いの交感も良い。おそめの心中相手に選ばれてしまう貸本屋金蔵の鳳翔大は、どこまでも朗らかでおおらかな芸風が、人の好い金蔵に打ってつけだった。彼女のキャリアの中の金字塔は『るろうに剣心』の相楽左之助なのは間違いないが、この金蔵も彼女でなければできない味わいを残した役柄となっていたのが嬉しい。長州藩江戸詰め見廻役鬼島又兵衛の香綾しずるは、『ドン・ジュアン』の亡霊役の快演と言うより、更に怪演とも言いたい演技が鮮烈で、雪組の重石的存在としてより一層活躍してくれるだろうと信じていただけに、このタイミングでの退団には驚きを禁じえなかったが、この時代では年かさになる男性を、おかしみを秘めて楽々と演じていて、更に退団が惜しまれた。

他に、相模屋を切り盛りする夫妻の梨花ますみと奏乃はるとの、奏乃が入り婿という関係性が二人によく合っていたし、おそめに借金の返済をせっつくおくまの舞咲りんのアクの強い演技は捧腹絶倒。非常に贅沢な汝鳥怜、悠真倫の専科勢の投入を含めて、雪組が総力を結集した群像劇となっている。

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そこから一転、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』は、ショースター(Show Star)として輝く、早霧せいな(Seina Sagiri)が率いる、雪組(Snow troupe)の魅力を、共通する「S」をキーワードに詰め込んだショー作品で、中村一徳の作。組の人員の総力戦で押してくる中村作品の常のスタンスを守りつつ、後半から怒涛のように早霧、咲妃コンビのサヨナラ一色になる、これぞ退団公演のショーという作りに大きなカタルシスがある。

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中でも、Bryant Baldwin振付によるジャジィーなカッコよさにあふれる「Song&Dance」の小粋なスピード感はため息ものだし、雪組の次代を担う望海と真彩の顔見世、彩風、彩凪、永久輝と、やはり次世代の重要人物たちを押し立てつつ、早霧&咲妃コンビが創り上げた現雪組の集大成も存分に魅せるバランス感覚が絶妙。特に雪組カラーのペパーミントグリーンで描かれる「Snow Troupe・絆」は、2人と共に退団する鳳翔、香綾、星乃、桃花ひな、蒼井美樹への贐あり、早霧と咲妃のデュエットダンスありと、もう涙なくしては見られない美しさ。早霧が雪組生全員と1人1人目を合わせていく時間、その間トップスターが客席に背を向けることになる時間が、ここまで尊く温かく感じられる劇団は、宝塚をおいて他にないだろう。舞台だけでなく、客席を含めたすべてが宝塚という幻想共同体を担っていることが、改めて感じられる得も言われぬ名場面だった。

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「別れの曲」で踊られる早霧と咲妃の名残の純白のデュエットダンスの後ろに「See you Again Sagiri」=「また会いましょう!」との電飾を配してくれた心憎いばかりの配慮と共に、宝塚のショー作家中村一徳の白眉たる作品に仕上がっていて、去りゆくトップコンビと今しか見られない、早霧が率いた雪組の残像を鮮やかに残す、優れたショー作品となっている。

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また初日を前に、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが、囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

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まず早霧から「今日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。千秋楽まで雪組公演の宣伝をよろしくお願いします!」と朗らかな笑いを誘う挨拶があった。

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続けて咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして本当にありがとうございます。最後まで雪組一丸となって頑張って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」との挨拶があり、続いて記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚としては異色な『幕末太陽傳』に取り組んだ気持ちを問われた早霧は、退団公演がこの作品、この役に決まった時には戸惑いもあった、としながらも退団公演を意識せず新たな挑戦をできる舞台に取り組めたと、意欲的。映画らしさと同時に宝塚らしさも備えた作品になっていると自信を見せた。

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また咲妃も退団公演の役が女郎役ということに、ファンの方々も驚いたようだったが、取り組むにつれおそめが素敵な女性だと思えて、早霧さんと同じくやりがいを感じている、とこのコンビらしく互いが同じ地点を見つめていることをにじませていた。

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特に、ショーのデュエットダンスでは、振りとしてさほど大がかりなことをしていない中で、どこか芝居のように見せられるのが3年間コンビを組んできた自分たちならではのものになっているのではないか、と早霧が語ると、とても一言では語れない思いがある…と咲妃が思いを込めて早霧を見つめる一幕も。更に雪組全員と瞳を合わせる場面では、日々グッとくるものがあり、パワーをもらっていると語る早霧の、組への思いがあふれでるよう。そんな早霧とコンビを組ませて頂いたからこそ、様々な挑戦ができたと語る咲妃の視線に、早霧がわざと知らん顔をして場が笑いの渦に包まれるなど、最後の日まで温かく絵のように美しいトップコンビの絆が感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇雪組公演
かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』
〜原作 映画「幕末太陽傳」(C)日活株式会社 監督/川島雄三 脚本/田中啓一、川島雄三、今村昌平〜
脚本・演出◇小柳奈穂子
かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』
作・演出◇中村一徳
出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組
●2017/6/16日〜7/23日◎東京宝塚劇場?
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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星組新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里華やかにお披露目!宝塚歌劇星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』

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宝塚星組の新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里のお披露公演である、宝塚歌劇星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(6月11日まで)。

ミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』(※以下、『スカーレット・ピンパーネル』)は、1997年にブロードウェイで初演され、大ヒットを記録したミュージカル。バロネス・オルツィの小説「紅はこべ」を原作に、大革命勃発後の恐怖政治の嵐吹き荒れるフランスで、次々と処刑されていく罪なき貴族たちを救うべく、イギリス貴族のパーシー・ブレイクニーが仲間たちと秘密結社を結成し、スリルと知恵で歴史の荒波に立ち向かう冒険活劇の要素と、それによってすれ違う夫婦の心理描写を描いた娯楽作品は、フランク・ワイルドホーンの数々の名曲と共に喝采を集めた。
 
このブロードウェイミュージカルに、ワイルドホーンが宝塚版の為に書き下ろした佳曲「ひとかけらの勇気」を主題歌に据え、王大使ルイ・シャルルの救出劇という新たな軸を加えた、小池修一郎の潤色・演出による宝塚バージョンが2008年宝塚星組により本邦初演。安蘭けい、遠野あすか、柚希礼音らによる上演は絶賛を集め、第16回読売演劇大賞優秀作品賞、第34回菊田一夫演劇大賞を受賞。 続く2010年、霧矢大夢、蒼乃夕妃、龍真咲、明日海りおらによる月組での再演も大好評で、常に再演の呼び声の高い 宝塚歌劇の人気演目に成長を遂げた。また、昨年、石丸幹二、安蘭けい、石井一孝らの出演による、梅田芸術劇場企画・制作の男女版の上演も大ヒットを飛ばしていて、日本ミュージカル界全体でも、広く愛される作品として定着している。
 
今回の上演は、そんな作品の宝塚歌劇での3演目であり、本邦初演である08年の星組公演時に、新人公演で主人公パーシー・ブレイクニーを演じ、一躍スターダムに躍り出た紅ゆずるが、星組のトップスターとしての披露公演で、再びパーシーを演じるという、ドラマティックな邂逅による舞台となっている。

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【STORY】

1794年のフランス、パリ。1789年に起こったフランス大革命から数年が経ったパリの街では、ロベスピエール(七海ひろき)を指導者とするジャコバン党によって、貴族たちが次々と捕らえられ、公正な裁判もないままに断頭台へと送られる日々が続いていた。そんなフランス革命政府の敷く恐怖政治に異を唱える人物がいた。彼の名はパーシヴァル・ブレイクニー(パーシー・紅ゆずる)。イギリス貴族である彼は、誰にもその正体を知られぬまま、赤い星型の花「スカーレット・ピンパーネル」と名乗り、無実の罪で処刑されていくフランス貴族を密かに救い出しては、国外に亡命させる活動を続けていた。
 
そんな日々の中でパーシーは、コメディフランセーズ劇場の花形女優マルグリット(綺咲愛里)と恋に落ち、二人は電撃的に婚約。海を渡りイギリスでパーシーの妻となる道を選んだマルグリットは、最後の舞台で観客に別れの挨拶をしていた。だが、思いあまって革命政府を批判する発言をしたマルグリットに、ロベスピエールは怒り、配下の公安委員ショーヴラン(礼真琴)が公演の中止と劇場の閉鎖を言い渡す。かつてマルグリットとショーヴランは革命の夢を追い、共に闘った同士だったが、マルグリットは恐怖政治に疑義を感じ、ショーヴランはロベスピエールのもと、粛清の道を突き進むことが革命の成功をもたらすと信じ、互いの道は遠く離れていた。
それでもマルグリットとの絆は切れていないと思いこむショーヴランは、劇場の閉鎖を解くことの引き換えに、反共和派の貴族で「スカーレット・ピンパーネル」の正体を知る人物と目されているサン・シール侯爵(夏樹れい)の居所を教えろとマルグリットを脅す。悩んだ末、マルグリットは侯爵に決して危害を加えないという条件で、侯爵の隠れ家を知らせる手紙をショーヴランに渡してしまう。だが、ショーヴランがそんな約束を履行するはずもなく、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を決して明かさなかった侯爵は、断頭台へと送られる。
 
そんな顛末を露知らぬまま、イギリスに戻ったパーシーとマルグリットは、大勢の友人たちに祝福され、結婚式を挙げていた。だが、幸福の絶頂にあるパーシーは、「スカーレット・ピンパーネル」として共に行動している友人デュハースト(壱城あずさ)から、フランスでサン・シール侯爵が処刑されたことを知らされる。侯爵の隠れ家を知っていたのはパーシー、デュハースト、もう1人の「スカーレット・ピンパーネル」の仲間であるフォークス(天寿光希)、マルグリットの4人だけだった。新婚の妻を疑うことなど思いも及ばないパーシーだったが、やがてその疑惑は紛れもないものとなる。

マルグリットへの愛と懐疑との間で懊悩するパーシーは、その思いをねじ伏せるが如く、更に信頼できる仲間を増やし、再びフランスへ渡る。彼の最も大きな目的は、王大使ルイ・シャルル(星蘭ひとみ)の奪還だった。パーシーと行動を共にする者の中には、マルグリットの弟アルマン(瀬央ゆりあ)もいたが、パーシーはマルグリットの安全の為と説き、アルマンにもマルグリットに自分たちの正体を明かさないよう固く言い渡す。そんな日々の中で、突然人が変わったようによそよそしくなった夫に戸惑うマルグリットの元へ、フランス政府特命全権大使となったショーヴランが再び現れる。
ショーヴランはなんと、パリで活動するアルマンを捕らえた。弟の命を救いたければ、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を探る手伝いをしろと、更なる脅しをかけてきた。パーシー、マルグリット、ショーヴラン、それぞれの愛と思惑は、フランスとイギリスを股にかけて揺れ動いていき……。

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7年ぶりに、宝塚歌劇版の『スカーレット・ピンパーネル』に接して改めて感じるのは、潤色・演出の小池修一郎の鮮やかな仕事ぶりだ。原作小説の「紅はこべ」、更に、昨年梅田芸術劇場の企画・制作で、ガブリエル・バリーの潤色・演出で上演された、よりブロードウェイ版に近い『スカーレット・ピンパーネル』の記憶が鮮烈な時期であるだけに、宝塚版の為に書き下ろされた主題歌「ひとかけらの勇気」をパーシーの行動の軸に置き、その最終目標を王大使ルイ・シャルル奪還に据えた、作劇の見事さが際立つ。そこには如何にも宝塚に相応しい、ヒーローのヒーローたる真っ直ぐな意志が明確に見えていて、冒険活劇としての妙味と、スピード感が増幅される効果となって表れている。更になんと言っても『ベルサイユのばら』を伝家の宝刀とする宝塚歌劇において、王妃マリー・アントワネットの遺児であるルイ・シャルルが、無事に国外に逃げ延びたというエピソードが、どれほど観客の心をつかんだかは計り知れない。この優れた着眼点を持った『スカーレット・ピンパーネル』が、引いては、宝塚に『ベルサイユのばら』とはまた違った視点の、フランス大革命ものを描き出す原動力となったことは間違いないだろう。
この作品の成功があったればこそ、のちに小池自身が手がけた『1789〜バスティーユの恋人たち』や、植田景子の『ジャン・ルイ・ファージョン─王妃の調香師─』、小柳奈穂子の『ルパン三世─王妃の首飾りを追え』、原田諒の『瑠璃色の刻』が生まれ、更に今年11月、生田大和が『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』を発表することが決まっている、宝塚歌劇の「フランス大革命ものシリーズ」とも呼びたいほどの、あらゆる角度から、それぞれの切り口で、若手作家たちがフランス大革命に題材を求める道が開かれたと言っても過言ではない。
もちろん、大劇場空間をいっぱいに使って、ブレイクニー邸の図書室がデイドリーム号の甲板になる爽快感を頂点とする、劇場機構の巧みな使い方や、パーシー、マルグリット、ショーヴランの三角関係の美しい描き方も含め、宝塚版ならではの構築の見事さも健在で、梅田芸術劇場版の為に書き下ろされ、今回、七海ひろきが演じることで役の比重が大きくなったロベスピエールの為に宝塚版にも採用された新曲を、「ロベスピエールの焦燥」として取り込んだ巧みさ(梅芸版は、ロベスピエールを演じる役者がイギリス皇太子プリンス・オブ・ウェールズも二役で演じたので、全く曲の置かれた設定が違うとは言え)は、アレンジャーとしての小池修一郎の力量と才気を、再確認させるものに他ならなかった。

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そんな作品で星組トップスターとしての披露を飾った紅ゆずるは、前述したように、初舞台から7年目までの若手だけで上演される、宝塚独自の「新人公演」という一夜限りの公演で、その初舞台から7年目のラストチャンスにして、初主演を勝ち取り、パーシー・ブレイクニーを体当たりで演じたことによって、今日トップスターにまで上り詰めるに至った人だ。宝塚というところは、初舞台間もなくから抜擢に次ぐ抜擢で、スターダムを駈け上がる人材がいる一方で、何か1つの大きな当たり役を得たことによって、一夜にして宝塚人生が全く変わるという人材もいる、リアルに劇的な世界を有している劇団だ。そこには、長くこの歌劇団を見続けている人々だけが、知ることのできるドラマが内包されていて、その一夜にして宝塚人生が変わった代表格が紅ゆずるというスターだった。
なにしろ08年初演時の新人公演のパーシー役は、紅にとって「はじめて銀橋を1人で渡った」機会だったほどで、あの一夜の成功がなかったら、今日大羽根を背負って、組全体を率いる「星組トップスター紅ゆずる」は、宝塚に存在しなかっただろう。そんな人材が、宝塚スターとしての人生を180度変えた同じ作品で、トップスターとしての披露を果たしている。この巡り合わせのドラマの前には、すべてが平伏す。フランク・ワイルドホーンの、どこまでも伸びる美声と豊かな声量なくしては歌いこなせないミュージカル・ナンバー、つまりは今の時代のミュージカルの主流となる楽曲の数々の歯ごたえの強ささえ、紅の持つドラマには敵わない。だからこそ、パーシー・ブレイクニーを出世作としたトップスターが生まれ出たことを、ただ素直に寿ぎたい。中でも紅の持ち味が「男とお洒落」のナンバーを、これまでの誰よりもウィットに富んだ色合いにしたことは、紅のパーシー独自のものだったし、そこから全体に軽快さと、洒脱さが作品に加味されたことも興味深かった。とりわけ、パーシーの変装であり、所謂コテコテに演じることも十分できるスパイ・グラバンの演技に、ある種の抑制がきちんと効いていたのは、宝塚のトップスターとなった紅の的確な判断として評価できる。洒脱なエスプリをもった、紅色に染まる新たな星組がますます楽しみになった。

その紅の相手役となった綺咲愛里も、これがトップ娘役としての正式なデビュー。これまで紅との共演経験も多く、とびきり愛らしいキュートな小顔が、紅との絶妙な好バランスを生んでいる。フランスの大女優であり、かつて革命の闘士でもあったマルグリットは、宝塚の娘役としては相当な難役に入るし、どちらかと言えばこれまで大人の個性の娘役が担当してきた役柄でもあるから、現代のアイドルに通じるルックスの綺咲には手強いものだったと思うが、台詞発声がもともとアルト系だったことや、化粧法の工夫などで、役に果敢に近づくことに成功している。何より紅との相性が良いというのは、トップコンビとしての可能性を大いに広げるものに違いなく、ここからはじまる二人を中心とした星組の未来に期待を抱かせた。

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もう1人の大役ショーヴランには、これも今回から男役二番手スターとなった礼真琴が扮した。何しろこの役は初演の柚希礼音の当たり役、柚希がのちに宝塚10年に1人の大スターと称されるスターに至る、文字通り男役として化けた役柄としての記憶が鮮烈で、その柚希に憧れて宝塚に入った礼が、ここでショーヴランを演じるということにも、やはり宝塚世界ならではのドラマがあり、感慨深いものがある。マルグリットと男女の関係にあったということを、宝塚の枠組の中で見事に香り立たせて見せた柚希の色気にはやはりまだ及ばないが、そこを目指していることはよく見て取れるし、豊かな歌声は今回の上演の白眉。いずれ『ロミオとジュリエット』のロミオや、『1789─バスティーユの恋人たち』のロナンなど、青年の輝きが似つかわしい役どころを演じる礼を観てみたいという希望は、おそらく多くの観客が持っているものだと思うが、その日の為にも、ここでショーヴラン役を演じた経験が必ずや生きてくることだろう。期待したい。

そして、今回、この人の為に役柄が膨らませられた、つまり新星星組にとって欠くべからざる存在であることが、改めて印象づけられたのが、ロベスピエールの七海ひろき。フィナーレまである宝塚には、全体の上演時間に制限がある関係上、大きなスターである七海がロベスピエールを演じるからには、いっそ梅田芸術劇場版のようにプリンス・オブ・ウェールズとの二役をさせてもいいのではないか?と思ったものだったが、とにかくロベスピエールの氷の美貌があまりにも際立っていて、誰かとてつもなく美しい人が視野をかすめた…と思うと、ほぼ例外なく七海だったのには舌を巻いた。その為、決して多いとは言い難い出番の数々がどれも印象的なものになったし、難曲中の難曲である新曲「ロベスピエールの焦燥」も、小池の構成の見事さと、本人の美しさが克服していて、まさに「美は正義なり」。宝塚の至上命題を体現する人材として、今後も是非大切に遇して欲しいスターだ。

そしてプリンス・オブ・ウェールズを演じた専科の英真なおきは初演以来の登板だが、今回コメディリリーフ的な面がわずかに後退して、皇太子はパーシー=スカーレット・ピンパーネルであるということを、実は察知しているな、と感じさせる陰影が前に出たのが面白かった。これは紅の洒脱さが勝ったパーシーとの対比としても良い効果で、さすがはベテランの妙味。冒頭スカーレット・ピンパーネルに救われる伯爵夫人の組長・万里柚美、革命政府のピポー軍曹の副組長・美稀千種も、初演以来の登板で、それぞれに深みを得た演じぶりが年月を感じさせる。
一方、マルグリットの弟アルマンの瀬央ゆりあには上り坂の勢いがあるし、この公演から星組生となったマリーの有沙瞳との並びも麗しい。有沙は組替えが1つの良い転機になったようで、実にスッキリと美しくなった。持ち前の歌唱力も光り、星組での活躍が楽しみだ。パーシーに最も近しい友人デュハーストとフォークスに、紅の盟友とも言える壱城あずさと天寿光希が配されているのも、やはり紅が内包する宝塚のドラマを更に高める効果があったし、彼女たちに、十碧れいや、麻央侑希、紫藤りゅう、綾凰華、天華えま、の星組の男役群の中心を形成するきら星たちが集った「ピンパーネル団」の華やかさも目に楽しい。彼ら全員に恋人がいることで、音波みのり以下、娘役たちにもスポットが当たるのも宝塚版ならではの美点。トップコンビの幸福感あふれるデュエット・ダンスに帰結する、フィナーレの展開も美しく、宝塚版『スカーレット・ピンパーネル』独自のオーラを感じさせる公演となっている。

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また、初日を前に通し舞台稽古が行われ、新トップコンビ紅ゆずると綺咲愛里が囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

紅は「大劇場でのお披露目公演も終えまして、東京では新たな気持ちで挑みたいと思っております。そしてちょっとずつ演出というか役作りが変わっておりまして、それをどんどん膨らませていきまして毎日、毎公演全力投球でいきたいと思っております」
 
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また綺咲が「大劇場を終えて私もまた新たな気持ちで役に思い切ってぶつかっていきたいと思いますし、1回1回の公演を大切にそして精一杯千秋楽まで進化し続ける舞台を努めたいなと思っております」

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とそれぞれに力強く挨拶。トップ披露公演に向かう意気込みの大きさを感じさせた。

特に、印象的だったのは、フィナーレのデュエットダンスの幸福感に満ちた様子を紅が「本当に綺咲を可愛いと思っている」と語ると、綺咲が「二回目の結婚式だと思っています」と答えたことで、コンビとしての2人と、劇中の役柄としての2人、双方が相まってあのハッピーオーラが劇場中に充満したのだなと感じられ、ここから歩みはじめるトップコンビへの期待が大いに高まった。

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また「大羽根を背負って見える景色は?」と問われた紅が「孤独だと感じる人もいらっしゃると聞いていましたが、私にはなんて美しい景色なんだろうという風に映りました、毎日そう感じています」と答え、トップスターという地位に就いた人だけが見ることのできる景色が、紅にとってひたすらに美しいものであることに、感動を覚える時間となっていた。
 
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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に7月9日発売の「えんぶ」8月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇星組公演
ミュージカル 『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
THE SCARLET PIMPERNEL 
Book and Lyrics by Nan Knighton  Music by Frank Wildhorn 
Based on the Novel “The Scarlet Pimpernel” by Baroness Orczy 
Original Broadway Production Produced by 
Radio City Entertainment and Ted Forstmann 
With Pierre Cossette, Bill Haber, Hallmark Entertainment and 
Kathleen Raitt 

潤色・演出◇小池 修一郎
出演◇紅ゆずる、綺咲愛里 ほか星組
●5/5日〜6/11日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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