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アパートの一室で繰り広げられる密室状態での騙し合い、更に暗闇でのクライマックスの衝撃が観る者を釘づけにするサスペンスミステリー『暗くなるまで待って』がW主演の加藤和樹&凰稀かなめ他、魅力的なキャストを擁して池袋のサンシャイン劇場で開幕した(2月3日まで)。

『暗くなるまで待って』は1966年にフレデリック・ノットが書き下ろし、ブロードウェイでも上演されたサスペンスミステリーの傑作。1967年にはオードリー・ヘップバーン主演によりハリウッドで映画化され、世界にその名を轟かせた。日本でもこれまでに何度も上演されてきたが、今回は朝海ひかる、加藤雅也出演による2009年版以来の、約10年ぶりの上演となり、情感豊かな演出で定評ある深作健太演出により、より心理劇の緊迫感が高まった舞台が展開されている。

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【STORY】
交通事故で視力を失なった若き妻スージー(凰稀かなめ)は、カメラマンの夫サム(松田悟志)から預かった人形の話を聞かされる。そのままサムが仕事に出かけた留守に、スージーの元にはサムの友人、知人、また刑事が次々と訪れ、言葉巧みに人形のありかを問いただす。実はその人形には麻薬が仕込まれていて、三人の男達、ロート(加藤和樹)、マイク(高橋光臣)、クローカー(猪塚健太)は、人形を手に入れようとやっきになっていたのだ。だが次第に彼らの言動に不審を抱いていったスージーは、買い物の手伝いをしてくれている少女グローリア(黒澤美澪奈)の協力を得て、彼らの正体を次々と暴いていく。だが、それは三人の中でも最も冷徹で残忍な男である、ロートの魔の手がスージーに忍びよることでもあって……

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この作品の面白さはなんと言っても、目が見えないという大きなハンディを背負っていると思われたヒロインのスージーが、目が見えないからこその鋭敏な聴覚や皮膚感覚で、あの手この手で彼女を騙そうとする男達の嘘を看破していくことにある。男達は健常者故のある意味の侮りで、スージーとの会話を交わしながら人形を探す為、また互いの連携の為に様々な行動に出るのだが、その細かな動作のすべてを、スージーが感じ取り聞き分けていく様には驚きと共に自然な感銘を受ける。そこには作者の人間の持つ無限の可能性への尊敬の念が根底にあり、だからこそ暗闇の中で力関係が見事に逆転していくクライマックスの緊迫感が、単なる着想の勝利だけに終わらず、この作品から50年以上の時を経て尚、傑作としての輝きを失わせない根幹になっている。
更に夫のサムやグローリアが、目が見えないスージーをただ闇雲に手助けするのではなく、何でも自分でやってみよう、必ず一人でできるのだと、劇中で彼女を思うからこそ敢えて過度に手をさしのべない姿勢には学ぶことも多く、そんな細かい会話や態度がすべてクライマックスにつながる重要な伏線になっているのも見事。これらをはじめとした登場人物の複雑な心理の綾を的確にすくい取った深作健太の演出が、片時も目を離せない心理戦の舞台を丁寧に紡いでいる。何よりも作品の休憩をカットし、物語を一気にラストまで運んだ大英断が、緊迫感を維持したままドラマを一気呵成に押し進めた効果は絶大で、息もつかせぬ作品世界を客席に提示したのが秀逸だった。今も全く色あせない朝倉摂の装置、時計の音、冷蔵庫のモーター音などの効果も見逃せない。

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そんな作品世界に生きた役者たちが、それぞれ的確に役柄を表出し、新境地とも言いたい迫真の演技を見せているのが素晴らしい。
そもそもの計画を練り上げる三人の悪党のボス、ロートを演じた加藤和樹は、特にミュージカル界での大役を立て続けに演じ快進撃を続けている勢いそのままに、徹底的に残忍で冷徹な男を十二分に表現している。ここまで救いのないヒール役は初めてということだが、これまで明朗なヒーローだけでなく、一癖も二癖もある役柄にも果敢に挑んできた経験が生き、自分の欲望にあまりにも忠実なロートの一種の狂気が、申し分のないルックスから放たれる怖さには比類のないものがある。スージーを騙す過程ではブラフをかける幾つかの役割りを変装とともに演じ分け、加藤の様々な顔が観られるのも大きな魅力のひとつ。この経験が更に大きな飛躍の糧になるだろうことを確信させる、見事な演じぶりだった。

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一方ヒロイン・スージーの凰稀かなめは、宝塚歌劇の男役トップスターだった時代から、その抜群の美貌と圧倒的なプロポーションにまず目を奪われる人だったが、その奥に深い芝居心を持ち、突き詰めた演技者であることを感じさせてきた「芝居の人」の面が、退団後大きく現れてきたことをこのスージー役で更に明確に示している。視力を失ったスージーが、時に拗ねることも怯えることもありながらも、運命を呪うのではなく、むしろできない自分に腹を立てているという不屈の精神の表現が、夫のサムや、初めは自分に反発している少女グローリアとの会話からきちんと立ち上ってくる。それが、大きな困難に直面していくスージーの機転と勇気、更に愛する者を守ろうとする気概に繋がり、観客が掛け値なく応援したくなるヒロイン像を示している。次々に襲いかかる事態に対処していく表情も豊かで、退団後の初ストレートプレイ作品で、文化庁芸術祭新人賞授賞につながった『さよなら、チャーリー』に続いての快演、今後の活躍への更なる期待が高まった。

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詐欺の仲間に引き入れられるマイクの高橋光臣は、これまで多く演じてきたキャラクター性の強い役柄から一転、正統派二枚目の香りを際立たせて強い印象を残している。スージーに自分は味方だと思いこませる過程の駆け引きが絶妙で、そのブラフの奥にある心根にロートとは異なる温度があることが、自然に伝わってくる。端正な顔立ちも役柄によく合い、これを契機に王道のヒーロー役も是非観てみたいと思わせる、魅力的なマイクだった。

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もう1人の詐欺仲間クローカーの猪塚健太は、目鼻立ちのハッキリした風貌に茶髪のヘアメイクが抜群に似合い、沸点の高い役作りが3人の性格の違いを如実に表している。強面で押してくるようでいて、どこかでは小心者の面もある。そんなクローカーの複雑さに真実味があり、追い詰め追い詰められるギリギリの表現も巧み。それぞれに悪事に荷担した思いも、動機も違う三人三様の「悪党」が決してグルーブ芝居にならなかったのが、作品の醍醐味を深めた。

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スージーの夫サムの松田悟志は、作中の男性陣の中で唯一のストレートな好人物をてらいなく描き出している。限られている出番の中で、スージーを慮り様々な行動をするサムの良き夫としての顔をきちんと残すことによって、後々の展開でスージーがサムの為に奮う勇気ににも説得力を与えていて、作品の重責をよく担った。

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グローリアの黒澤美澪奈は、スージーに対してはじめ心を開いていないという設定が、作中大変重要な要素になるところを、時にエキセントリックに表現して目を引く。揺れ動く少女の心がやがて大きくスージーの力になっていく、作中のグローリアの成長が終幕の大きな感動につながる変化を的確に表して、舞台に寄与していた。

全体にまさに息もつかせぬ展開で、2019年年頭にして、見逃せない作品のひとつに必ずや数えられるだろう迫真の舞台が出現したことに拍手を贈りたい。

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【囲み取材】

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猪塚健太、高橋光臣、加藤和樹、凰稀かなめ、松田悟志 深作健太
 
初日を前日に控えた1月24日、囲み取材が行われ、キャストを代表して加藤和樹、凰稀かなめ、高橋光臣、猪塚健太、松田悟志、そして演出の深作健太が公演への抱負を語った。

──いよいよ明日から初日を迎える今の心境から教えてください。
加藤 稽古を重ねて参りましてひとつひとつのチャレンジを皆でして試行錯誤をしながら、遂さっきまでやって参りました。正直良い意味でも悪い意味でもどうなるかわからないところがあって。やはり実際にお客様が入った劇場の中に立ってみないとわからない部分があるので、果たしてこの舞台がお客様にどう見えるのか?というプレッシャーも感じつつ、良い緊張感でもあります。
凰稀 今日の舞台稽古までかなり色々と変更点がありまして、でもそれはもっともっと良くする為に、スタッフの方々や出演者の皆が色々言い合いながら創ってきた舞台だからでもあります。私自身サスペンスの舞台は初めてで、お客様からどういう反応を頂けるのかが全くわからないので、かなりドキドキはしているのですが、この世界に引き込めるように自分自身も楽しんでやっていきたいという気持ちでいっぱいです。
高橋 まずここまで稽古をしてきて、このメンバーでできたことがすごく嬉しかったので、それをお客様に感じて頂けるのではないかな?という実感があります。暗闇の中で音に敏感な舞台なので、お客様が咳などをするとスージーが気づいちゃうので(笑)、そのくらい静寂がポイントにもなりますから、ご覧になるお客様にも是非ご一緒に楽しんで頂ければと思います。
猪塚 1ヶ月近く稽古してきて昨日から舞台稽古がはじまったんですけれども、照明や音、皆さんのが芝居を含めてすごいものが出来たな!という確信を得たので、早く観に来てくださった方をゾクゾクさせたいですね。それのみです。 

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松田 珍しいくらいに同世代が集まった、世代幅の狭い作品だなと思っていて、僕はそういう作品がはじめてなものですから、どういう風な稽古を経て劇場に入っていくのかな?と思っていたのですが、なんと言いますかある種クラスメイトのような仲間意識が芽生えて。そして本当に些細な、こと細かなことでもすぐその場で話し合う、すごく素敵な現場になっていますので、このチームワークが舞台の上でどのように花開くか?という部分と、それがそのまま生み出す緊張感につながっていくと思います。スタッフ・キャスト一丸となって最後までしっかりと緊張感を持って作っていきたいなということです。
深作 この作品は一昨年亡くなられた演出家の青井陽治先生、美術の朝倉摂さんはじめ本当に多くの先輩達が創ってきた作品で、それを今僕が演出させて頂くということに大きな喜びと同時にプレッシャーを感じております。そして本当に信頼すべきはこの素晴らしい役者さんたちで、デビュー以来ずっと一緒の戦友だと思っている加藤和樹君、今回初めてご一緒するのですが本当に頼りになる凰稀かなめさんはじめ、皆さんと一緒に創っている舞台だと感じられるので、このカンパニーの温かさをそのまま舞台上に持っていければと思っています。今はドキドキしながらも良い感じに仕上がっていますので、後は一刻も速くお客様にお渡ししたいなと、そんな気持ちでおります。
──オードリー・ヘップバーンの映画版などが大変有名な作品を上演するにあたって、深作さんならではのこだわりは?
深作 何よりも1966年に書かれた作品を、2019年の東京で上演する意味をというものがあります。でもこのキャストの皆さんがスージーやロートの今までのイメージを一新して、皆さんの新しいものを創ってくださっていますし、ホラーやサスペンスの映像作品があふれている今、生の舞台でしか感じられない本当のサスペンス劇を届けることができたらなと。ラスト20分間の暗闇でのクライマックスが本当に素敵な作品になろうとしていますし、それを皆さんに劇場で生で体感して怖がって頂けたらという気持ちで演出をしています。

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──その暗闇の中の20分間の芝居ということですが、実際に演じてみて難しかった点などは?
加藤 先ほど(高橋)光臣さんが言ったように、人って暗闇になると耳が鋭敏になるんですね。ひとつひとつの音、自分の足音だったり呼吸など、普段の芝居でも意識しないといけないのですが、それがより繊細に意識していかなければいけないんだということに気づきました。やっぱり観ている側だった時と、演じる側の今とでは思った以上に繊細なので、特に見えていない(凰稀を示して)彼女はね。
凰稀 本当に暗闇の中で動き回っているので、私は目が見えない役なので実は暗闇の方がすごく楽で(笑)、ライトが当たっている方が見えないと言うか、霞んで見えるので(笑)。
──暗闇の芝居で特に気をつけていることはあるのですか?
凰稀 あまり明るくなったのか暗くなったのかがよくわからなくて(笑)。
加藤 本当に見えてないんです(笑)。
凰稀 本当に見えていないからぶつかって行っちゃうので(笑)、痣だらけになっています。
高橋 (袖に)はける時もずっと見えない芝居ではけて行ってますから。
凰稀 今もよく見えていないんです(笑)。
──また、加藤さんは本格的な悪役がはじめてということですが。ロート役はいかがですか?
加藤 わからないんですよね。わからないというのは未だにロートの本質がどこにあるのか、毎回変化していくんじゃないかなと。彼を掘り下げれば掘り下げるほど色々な表現の仕方がある。彼の人格を形成しているものはいったい何だろうと考えていくと、様々ななやり方がやればやるほどあふれてくるんです。そのどれも間違いじゃないし、でもどれも正解じゃない気がして。つかめそうでつかめない、それを追い続けていくんだろうなと思います。
──高橋さんは二枚目の役が久しぶりとインタビューなどでおっしゃっていましたが。
高橋 いや久しぶりと言うか(笑)、僕面白い役が大好きなので、ついつい面白いことをやりたくなってしまうのですが、この芝居に関してはそれをとにかく封印しなければならないので、そのストレスは半端じゃない(笑)。
猪塚 マジですか?!(笑)
高橋 そう(笑)。マイクは詐欺師なのですが、職業は確かに犯罪者なんですがまともな人と言うか、常識人で。世の中には色々な職業の人がいますが、まともな職業の人が必ずしもまともな人か?と言われたら「クエスチョン」だし、犯罪者だから悪い人かと言うと、もしかしたら悪いことをしながら良いこともしているかも知れない。そんな風にマイクというのは掴みどころのない役だなとずっと感じながら演じているので、それをスージーがどう感じてくれるのかを、舞台上でこれから本番に入っていく中で1日1日楽しみにしています。

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──では皆さんからおススメの見どころと意気込みをお願いします。
加藤 今ここにいるキャストと楽屋にいるキャストを含めても、本当に少ない人数でやっていますし、でも1人1人にちゃんと意味と言いますか役割があって、特にスージーはグローリアという少女がいなければお芝居が成り立たないですし。その中で(自分は)悪い奴ですけれども、悪い奴は悪い奴なりに頑張ろうかなと思っています(笑)。それぞれが生きている過程なども見どころで、もちろん『暗くなるまで待って』というタイトル通りの暗闇の対決は見どころですけれども、1人1人の生き様なども感じて頂けたら良いなと思っています。大きな怪我をしないように頑張りたいと思います。
凰稀 加藤さんもおっしゃった暗闇での対決もそうなのですが、私は人と人との関わり、グローリア、マイク、サム…ロートさんとはちょっとわからない、最後の方しか会わないのですが(笑)、人と人との関わりから生まれてくるものがあって。このお話で一番大切なのは、サムが最初にスージーに言う「(グローリアに)『ありがとう、良い子ね』って言ってあげたらいいよ」ではないかと感じていて。その言葉からグローリアも変わっていくし、マイクも感覚が変わっていく。そういう関わりの中で伝わっていくものを感じて頂けたら面白いのでは、という気がします。
高橋 暗闇がお客様にとって魅力的になるのか、ストレスになるのかそれ次第だと思うので、それを如何に喜んでもらえるかというところを。僕らはあまり暗闇のシーンはないので、スージーとロートの暗闇のシーンまでに如何に物語を持っていけるかというところだと思うので、なんとか頑張りたいです。
猪塚 僕はこの作品は体感型サスペンスエンターテイメントだと思っていて、皆さん作品を観にきて頂いた上で、一緒に体感してもらって『暗くなるまで待って』の世界にどっぷりつかってもらいたいなという意気込みがありますので、是非そんな楽しみ方もして頂けたらなと思っています。
松田 今皆さんがおっしゃった通りで、共犯者でも被害者でもどちらの視点に立ってもハラハラドキドキすることは間違いないです。本当に色々なそれぞれの思惑が重なり合っていて、どこに本筋が流れていくのかな?というくらいすべてが複雑に絡み合っていますので、皆さんそれぞれの気持ちで観て頂いて、作品を味わって頂きたいなと思います。
深作 映画が有名な作品で、更に色々なメディアでの展開が出てきてもいますが、やはり劇場でしか体感できない芸術、エンターテイメントになっています。この劇場にお出かけ頂いて、客席の中で暗闇の面白さ、怖さを体験して頂けたらなと思います。是非皆様劇場に足をお運びください。

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〈公演情報〉
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『暗くなるまで待って』
作◇フレデリック・ノット 
訳◇平田綾子 
演出◇深作健太
出演◇加藤和樹 凰稀かなめ/高橋光臣 猪塚健太 松田悟志  ほか 
●1/25〜2/3◎東京・サンシャイン劇場 
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京/サンライズプロモーション東京  0570-00-3337(全日10:00〜18:00)
●2/8〜10◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
●/2/16・17◎名古屋・ウインクあいち
●2/23◎福岡・福岡市民会館 大ホール 
〈公演HP〉http://wud2019.com



【取材・文・撮影/橘涼香】




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