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105周年を迎えますます意気上がる宝塚歌劇団が、月組を牽引するトップスター珠城りょうと、新トップ娘役美園さくらをはじめとした選抜メンバーで年始に送る、ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』が東京国際フォーラムホールCで上演中だ(20日まで)。

ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』は、レナード・バーンスタイン作曲、ジェローム・ロビンス振付により1944年に初演された作品。1949年にジーン・ケリー主演による映画化『踊る大紐育』が世界的な大ヒットとなったのをはじめ、2014年のブロードウェイ・リバイバル版上演時にも、トニー賞作品賞を含む4部門でノミネートされるなど、大好評を博した。日本でも同じ2014年大人気アイドルグループV6の20th Century、坂本昌行、長野博、井ノ原快彦の主演で初演され、宝塚OGの真飛聖、樹里咲穂が出演している。
そんな作品が、今回初めて宝塚歌劇団で上演されることとなり、潤色・演出を野口幸作が担当。麻咲梨乃、KAZUMI-BOY、桜木涼介、三井聡、永野亮比己という個性的な振付陣が揃い、往年の名作の宝塚版に挑んでいる。

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【STORY】
1944年ニューヨーク早朝6時。海軍水兵のゲイビー(珠城りょう)は、仲間のチップ(暁千星)、オジー(風間柚乃)と共に、24時間の上陸許可を得て初めての大都会、ニューヨークの波止場に降り立つ。早速チップが父親にもらったというガイドブックを頼りに、街へ繰り出す三人。この24時間で大都会を満喫し、まだ見ぬ恋人にも出会いたい!と心躍らせ地下鉄に乗った刹那、ゲイビーは車内に貼られた「今月のミス・サブウェイ」のポスターに写るアイヴィ・スミス(美園さくら)に一目惚れしてしまう。
「絶対にこの娘を探し出す!」と意気込むゲイビーに、はじめはとても無理だと反対していたチップもオジーも協力することになり、「アイヴィ・スミスはカーネギーホールで歌とバレエを、美術館で絵画を勉強中」というプロフィールを頼りに、三人はタイムズスクエアで午後8時半に再会する約束を交わし、手がかりを求めて街に散っていく。
だが、地下鉄会社の上層部に会ってアイヴィの情報を得ようと考えたチップは、タクシードライバーのヒルディ(白雪さち花)に惚れ込まれ、博物館を訪れたオジーは人類学者のクレア(蓮つかさ)に研究対象の「ピテカントロプス・エレクトス」にそっくり!と興味をそそられ、それぞれあっという間にカップル成立。一方、アイヴィを探して街を歩き続けたゲイビーは、ようやくカーネギーホールに到着。遂にスタジオで歌のレッスンをするアイヴィにめぐり会い、タイムズスクエアでデートの約束を取り付け仲間たちと合流するが、約束の時間になってもアイヴィは現れず……

ミュージカル『ON THE TOWN』は、そもそも三人の水兵が上陸許可を得た24時間の間に恋を見つけるものの、不確かな未来に向かって旅立っていかなければならない、人生の悲哀が根底にある作品だ。そこには彼らが再び船に乗り込み赴く先が戦地であるという現実を覆い隠すように、全体の筋立てをコメディーにして、有り得ない偶然や、馬鹿騒ぎをダイナミックなダンスで綴り、未来に希望を見出す仕掛けが施されている。しかもそこに、これぞアメリカのカラッとした感触があるのが特徴で、徹底的なニューヨーク賛歌、海軍賛歌のエンターテインメントに寄せた映画版ほどではないにしても、船へと戻っていく三人の水兵を見送る三人の女性たちとの別れは、「素敵な思い出が出来た!きっとまたいつか!」という、あくまでも前向きなものだ。三人に代わって新たにまた別の三人の水兵たちがニューヨークに降り立つ、新しい明日がまた始まる!という幕切れも、ペーソス以上にガッツがあるのが、さすがはブロードウェイ・ミュージカルだなと思わせる。
今回の宝塚版の上演でも、その色合いは保たれているばかりでなく、音楽監督・編曲と海軍の帽子をかぶって自ら指揮棒も振る甲斐正人が率いるオーケストラの生演奏の迫力と、アンサンブルの群舞で押してくるパワーが、宝塚の美点をよく現している。潤色・演出の野口幸作の目配りも効いていて、三人が繰り広げる大筋の脇に、三人が気づかないままおかしていくもめ事によって、警官を先頭に彼らを追いかけていく人々が増えていくくだりや、博物館での顛末、ゲイビーを元気づけようと店から店をはしごしていく最中に関わる人々など、どこかではちゃんと1人1人が際立つように、出演者全員を立てている気配りが宝塚ならではだ。

ただ一方で、物語全体が三人の水兵と三人の恋人たちという群像劇で作られている為、月組新トップコンビ珠城りょうと美園さくらのお披露目作品という観点で見ると、やや難しさもあったように思う。特にゲイビーとアイヴィが劇中なかなか巡り合えない設定だけに、他の二組のカップルの関係ばかりがぐいぐいと進展していく1幕の流れには、トップスターを頂点とする宝塚歌劇と作品の成り立ちに開きも感じた。だからと言って版権の関係で場面をカットするという訳にはいかない以上、演出のテンポ感をもう少しあげても良かったかも知れない。
それでもゲイビーが二組と合流する2幕になると全体もグッとしまってくるし、ゲイビーとアイヴィが手を取り合うことが、新トップコンビの出会いと重なるようにも感じられ、作品の終わりがより前向きに見えたのも現代的。ここからはじまる新しい月組にも期待が高まった。

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そんな群像劇でセンターを務める大任を託された珠城りょうの、おおらかで正統派の持ち味が、この旧き良き時代の作品に殊の他よく合っている。『雨に唄えば』でも感じたことだが、この人の芯に落ち着きのある男役像は、こうした古典作品を引き立たせる何よりの力になる。トップスターが幻想シーンとフィナーレナンバーを除いて水兵姿のまま、というだけでも宝塚歌劇としてはかなり特殊ケースだが、ゲイビーが喜びに溢れた姿、運命の恋人に会えない切なさ、恋を失ったと思い込んで落ち込む姿、等々を表情豊かに見せることで、その特殊さを払拭していて頼もしい。それだけに、フィナーレで登場した士官姿は待ってました!というばかりで、実に魅力的だった。

その珠城の相手役として新トップ娘役になった美園さくらは、台詞発声の声質が抜群に美しいだけでなく、今回かなり露出の多い衣装が続く中で、ポージングも常に美しい美点を披露。通常宝塚のオリジナル作品であれば、トップ娘役にはあまり回ってこないだろうシーンもあるアイヴィ役を、独特の個性でクリアしていて、珠城とのコンビで新たな魅力、新たな作品を紡いでいってくれる可能性を感じさせた。大劇場公演のお披露目に『宮本武蔵』が控えている振り幅も、トップ娘役として貴重な経験になるに違いない。

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また、トップスターである珠城に対して舞台上でほぼ同格の役柄を、組の次世代のメンバーが務めていることにも、月組の力強さを感じる。その1人暁千星は、24時間のニューヨーク観光を綿密に計画してガイドブックに首っ引きだったチップが、友情の為説を曲げ、更に思わぬ女性から惚れ込まれ…という予期せぬ出来事の連続の中で逞しくなっていく様を自然体で見せている。チップに夢中になるタクシードライバー・ヒルディを、上級生の白雪さち花がパワフルに演じ、その振り切りぶりで過度なセクシャルムードに倒れないことも良いコントラストになっていて、チップに残る少年性にあざとさがないのも暁の個性故。はじめ押されっぱなしだったチップが、終盤にはきちんとヒルディをかばっている姿にも、チップのドラマが感じられた。

もう1人オジーの風間柚乃は宝塚メモリアルの100期生が、珠城と暁を向こうに回して、なんら不足のない骨太な演技を披露していることに舌を巻く思いがする。珠城りょうというスターがそもそもどっしりとした落ち着きを誇っているのに、更に地に足がついて見える風間の堂々とした舞台ぶりはほとんど驚異的で、それでいながら決して地味に倒れない絶妙な上手さは、末頼もしいを通り越して空恐ろしいほど。そんなオジーの恋人になる人類学者クレアに、本来男役の蓮つかさが扮したが、同じく芝居巧者の蓮が悪びれないあっけらかんさをよく表現していて、このカップルを観ているだけでもなんとも心憎いやりとりが多くあり、抜擢の理由がよくわかる面白さだった。

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そうした女性役の大役が上級生や男役に回っていることもあって、娘役たちに役が少ないのは痛しかゆしではあるが、役柄のダイナミックさや色合いを考えると、今回に於いてはこのキャスティングが妥当だったと思う。中では大きな役柄のアイヴィの声楽教師マダム・ディリーの夏月都のエキセントリックさは相変わらず絶好調だし、ヒルディのルームメイト・ルーシーの叶羽時が、思い切りの良い「可愛くない女性」の造形で役者魂を感じさせれば、晴音アキも豊かな歌唱力とコメディセンスで魅了する。歌唱力と言えば男役陣の一角、輝月ゆうまもクレアの婚約者ピットキンで、壮大だからこそ切なくも可笑しいソロナンバーを聞かせるし、場末のショーのチープ感を巧みに表出する千海華蘭も随所で活躍。警官コンビとして持ち前の品の良さを発揮する紫門ゆりやと、惜しくもこの公演で退団となった輝生かなでのダンス力も輝くだけに、せめてこのクラスにはもう少し大きな役があればとどうしても思うが、その中で、それぞれの持ち場を真摯に務める姿に感動を覚えた。玲実くれあ、春海ゆう、颯希有翔、佳城葵らもポイントポイントで目引くし、若手期待株の天紫珠李、彩音星凪、結愛かれん、礼華はるも「ここにいます!」ときちんとアピールしてくる力を改めて感じた。

ここに現在宝塚バウホールで主演公演『Anna Karenina(アンナ・カレーニナ)』を上演中の美弥るりかを筆頭に、月城かなと、海乃美月などがいることを考えると、月組の層の厚さは大変なもので、この往年の名作ミュージカルを支えた新トップコンビを筆頭とした、月組の地力を改めて感じる公演となっている。

〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』
作曲◇レナード・バーンスタイン
脚本・作詞◇ベティ・コムデン
脚本・作詞◇アドルフ・グリーン
原案◇ジェローム・ロビンス
潤色・演出◇野口幸作
出演◇珠城りょう、美園さくら ほか月組
●1/6〜20◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席 8,800円 A席 6,000円 B席 3,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時〜18時)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/
   

 
【取材・文・撮影/橘涼香】






『暗くなるまで待って』


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