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栄えある創設20周年を迎えた宙組初の日本物ショーである─本朝妖綺譚─『白鷺の城』と、万能の天才レオナルド・ダヴィンチの若き日にあったかも知れない恋を描いたミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』が東京宝塚劇場で上演中だ(24日まで)

─本朝妖綺譚─『白鷺の城』は、陰陽師・安部泰成(真風涼帆)と人心を惑わす妖狐・玉藻前(星風まどか)が千年に渡って転生を繰り返しながら、相争いつつ惹かれ合う姿をショー形式で描いた大野拓史の作品。江戸時代初期の魑魅魍魎が巣食う「白鷺城」からはじまり、平安時代後期、泰成と玉藻前の間にある運命のそもそもの起点となった平安時代中期の泰成の祖先を巡る物語、陰陽道を学びにきた遣唐使が九尾の狐の結界を解く古代中国、戦国時代の北関東、と巡って「白鷺城」に帰り、更に稲荷神社の祭礼の夜へと巡っていく流れになっている。

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作・演出の大野拓史は、宝塚の日本物ショーには大きく分けて見取りのバラエティー形式のものと、ストーリー性を有する舞踊詩があるとプログラムの作者言で述べている。前者は「選り取り見取り」から来ている様々なシチュエーションの舞踊を並べた、多種多様なスター性が見られる形式の利点はあるが、その違いを表現する引き出しが求められ、日本物の上演経験の少ない宙組にはいささか不利な面があると説く。一方、後者は歌と舞踊でストーリーを綴っていく形式で、ミュージカルがあくまでも芝居、散文であるのに対して、詩的な情感に重きを置くもので、一貫した状況がある取り組み易さの反面、変化に乏しくなる傾向のある形式だという。この解説は非常に簡潔で分かりやすく、今回の『白鷺の城』はその双方を合体させることで、両者のメリットとデメリットを克服しようとしたものだ、という作者の狙いもなるほど良く伝わってくる。実際に舞台は、泰成と玉藻前の祖先から受け継がれた定めによる結びつきという太い線を通しながら、各場面に大きな変化があり、当然ながら装束も振付も場面によって見事に変化するし、陰陽師と妖しの者の結びつきを映像も交えて描いた新しさもあって、45分間という上演時間が更にあっという間に感じられるテンポの良さも持っている。

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ただ一方で、これは日本物ショーに限らず大野拓史作品に常に横たわる問題なのだが、プログラムの解説に事細かに記されている、作者の知識量と登場人物や場面に込められた想いが、舞台を観ているだけでは理解しきれない側面がある。これが今回の作品にも立ち現れているのは否めない。特にプログラムの場面解説で「〇〇は語る」という言葉が度々出てくるが、当然ながら実際の舞台の上では台詞として発せられる訳ではないから、多くは想像力で補填しなければならない。もちろんこれはバレエ作品も同様だから、ショー作品を創る上でこの扱いは極めて正しいが、ここまで各場面の設定が緻密で複雑だと、マイムだけで全ての流れを理解するのはかなり難しくなってくる。それでいて「理解しなくて良い、感じれば良い」というほど抽象的な作風ではなく、極めて高い物語性を有している作品だから、どうしても受け手が理解しなければと思う分「何がなんだかわからなかった」に陥る危険性もまた高くなってしまう。陰陽師と妖しの者が転生を繰り返しながら強く惹きつけ合っていく、という設定がとても魅力的なだけに、この提示はあまりにももったいなかったと感じる。何故なら基本的に、全ての登場人物に深い背景があり意味があるとする大野拓史という劇作家の作風が、本来極めて散文的だからだ。感性だけを伝える詩の世界と大野の作風には開きがあって、時には演劇さえ飛び越えて小説世界のようでさえある作品を発表してきた作家が、自作に舞踊詩の要素を取り入れようとしたそのチャレンジ精神はおおいに買うが、やはりその世界観には乖離があった。ショー作品として考えると役柄が極端に少なく、宙組の多くのメンバーがアンサンブル状態だったのも一考を要する点で、着想が素晴らしいだけに、もう一度芝居として大野がこの作品に取り組める機会があることを願いたい。

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その中で陰陽師・安部泰成に扮した真風涼帆と、妖狐・玉藻前の星風まどかがトップコンビであること、この二人はどのような装束でどんな時代に立ち現れてもコンビである、という宝塚歌劇の約束事が作品を格段に観易くしたのもまた間違いない。特に真風の星組時代に培った日本物経験が大きく舞台に貢献したし、陰陽師という特殊な能力を持つ人物のミステリアス感が、真風の個性ともピタリと合っていて、物語に大きな芯を通して魅力的だった。その分日本物初挑戦でこの役柄を演じた星風まどかの負担は大変なものだったと思うし、宝塚歌劇の日本物と言えばの重鎮・松本悠里が出演しているだけに、松本の曲線と星風の直線の違いが立ち現れたが、これはむしろ違って当然。懸命に奮闘した星風の経験値の蓄積を期待したい。
変則的な「チョンパ」と言えるプロローグに続く平安時代のセンターと、戦国時代の軍師岡見宗治の芹香斗亜が、華やかに場面を支えてやはりこの人も花組時代に蓄えてきた日本物経験を活かし、二番手男役の矜持を示したし、松本の葛の葉の夫である安部保名の愛月ひかるが、一場面に集約された役柄を実に美しく務めている。宮本無三四の桜木みなとの存在感が骨太さを増し、同じ役割の明覚の寿つかさと共に、導入部分の説明役をよく担っていた。他に目立つのが鳥羽上皇の凛城きらと、白拍子や戦国時代の女性・八重などの天彩峰里ぐらいというのが、前述したようにショー作品としては残念な部分で、録音とは言え松本悠里に台詞があったのはいつぶりだろう…とにわかには思い出せないほど多くの挑戦を含んだ舞台が、別の形で発展してくれることを期待したい。

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そんな異色のショー作品の後に位置したのが、ミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』で、田渕大輔の作品。『王妃の館』で大劇場デビューを果たした田渕の大劇場二作目にして初のオリジナルもので、万能の天才として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチの、若き日にあったかも知れない恋が、名画「モナ・リザ」の誕生秘話に絡めて描かれていく。と書けばもちろんすぐにわかるように、実在した人物を使った架空の物語なのだが、この作品から立ち上がるものが、劇作家・田渕大輔の心象風景にどうつながっていくのだろうか?にやや複雑な感情も抱いた。


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と言うのも、主要な登場人物たちの性格がいずれもかなり拗れているのだ。野心と支配欲の塊のフィレンツェの統治者ロレンツォ・デ・メディチ。聖職にありながら大きな陰謀を企てる為に、美しい少女を洗脳してきたフィレンツェ司祭グイド。兄・ロレンツォに全ての望みを握りつぶされていると憤り続ける弟のジュリア—ノ。ロレンツォの完璧な妻を演じつつ、復讐の為に弱い者を殺めることも厭わないクラリーチェ。敬愛も友情も恩義も金貨の前には意味をなくす少年・サライ。仮に今の世であるなら、誰しもがカウンセリングを受けた方が良いのでは…と思わされる人々の思惑が交錯する中で、少年の日の淡い恋、聖少女の面影を追い続ける主人公レオナルド・ダ・ヴィンチと、周りの男性ほぼ全てから求められながら、自らが罪深きものだと思い込まされているヒロイン・カテリーナが居並ぶと、メディチ家を陥れたいと画策するフランチェスコの存在が、むしろスコンと明快に感じられるくらいだ。この展開だと、タイトルにある「異人たち」=普通の人とは違って優れた人という、当然万能の天才レオナルド・ダヴィンチら、芸術家たちにかかっていると思われた言葉は、或いは一癖も二癖もあり過ぎる周りの人物たちのことだったのか?と思わされた。

もちろんだからこそ、レオナルドの純愛が清らかに浮かび上がる様は宝塚歌劇の香り深いものだったし、人が空を飛ぶ装置の開発とカテリーナの心の開放を重ねた場面は、伸びやかに美しい。空を飛ぶ小鳥に託した冒頭から続くメタファーも効いていて、作者が歴史の事実の行間に見出したものと、描こうとした世界の魅力もよくわかる。ただ、例えば史実としてこの時点でロレンツォが落命するはずがないとしても、場面の描き方としてはどう見ても命を落としたようにしか見えないに始まる、作者にとっては当然のことが、受け手にとっては混乱を招くものになるのは、やはり舞台芸術の表現としては一考を要するのではないか。舞台上で活躍する登場人物が少なく、新人公演主演経験を持つ男役たちが、レオナルドの工房仲間に終始しているのも惜しまれる。脇の役柄を活躍させる為の酒場のダンスシーンや、カーニバルのシーンをもうひと息華やかに盛り上げるだけで、全体の印象はずいぶん変わってくるだろうし、今回は大野の日本物ショーも役柄が少なく、二作品が似た問題を抱えていたことも影響しあったと思う。事実、物語が終わった後のフィナーレの小粋さ、楽しさは比類ないものだったから、この田渕の持つセンスが、作品の中にも活かされていくことを期待したい。

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その中で、レオナルド・ダ・ヴィンチに扮した真風涼帆が、心の中にある聖少女を真っ直ぐに思い続ける青年として、主人公をてらいなく描いたのが、作品の清涼剤になっている。天才の若き日を描いた作中には、ほとんど芸術家としての葛藤は描かれていないものの、真風本人の持つ神秘性が余人とは違う雰囲気を自然に醸し出して、役柄に陰影を与えた効果は絶大で、フィナーレナンバーの女役たちを率いた場面のカッコ良さと共に、作品を見事に牽引していた。

ヒロイン・カテリーナの星風まどかは、周りの男性たちから求められることさえも、自分の罪深さ故と思いこまされているという非常に難しい設定の役柄な上に、名画とリンクする必要もある極めて高いハードルに立ち向かっている。正直若くしてトップ娘役に上り詰めた星風には、あまりにも大きな要求だったと思うが、髪型などにも懸命な工夫が見え、選ばれし者の責任を全うしようとする気概が感じられた。

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ロレンツォ・デ・メディチの芹香斗亜は、色濃い役柄でも品位を失わないこの人の個性が上手く作用して、魅力的な色敵役になった。役自体にドラマチックさがあるし、冒頭からの展開がややわかりにくい脚本上の問題を、美しき為政者としてきちんとねじ伏せた姿に、芹香の男役としての充実が見えていて頼もしい。

グイド司教の愛月ひかるは、謂わばこの作品のラスボス的役どころ。初登場時から食わせ物感を漂わせながらも、スッキリと美しい男役美は崩さなかったところに、こうした役柄を数多く演じてきた愛月の経験値の高さが現われている。この作品の後の博多座公演を最後に専科への異動が発表されていて、宙組の生え抜き男役としての期待が高かっただけに寂しい想いも強いが、こうした役柄を楽々と演じているのを見ると、各組に必要とされているからこその異動なのだろう。更に様々な経験を積んで、より大きな男役として飛翔する未来に期待したい。

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ジュリア—ノ・デ・メディチの桜木みなとも、非常に難しく捻じれている役柄だけに、本人の爽やかな持ち味が大きな救いになっている。長髪の鬘もよく似合い、もう少し性格的に素直なら申し分のないプリンスなのに、と思わせたのは桜木の力技に他ならず、成長著しい。他の宙組期待の若手男役たちの和希そら、留依蒔世、瑠風輝、また宙組男役の層の厚さを感じさせる澄輝さやと、蒼羽りくが、グループ芝居の中で懸命に役柄に個性を持たせようとしている健気さが宝塚の美徳そのもの。一方よく書き込まれているフランチェスコ・パッツィの凛城きらや、レオナルドらが集う工房の主ヴェロッキオの松風輝が、それぞれ味のある演技を披露。星吹彩翔、美月悠、風馬翔などの演技派にも同様の働き場があればと思うし、特にこの作品で退団する風馬には、酒場の歌手など目を引く場面もあるものの、宝塚の男役の最後に是非芝居も観たかった。
娘役ではロレンツォの妻・純矢ちとせの存在感は別格として、遥羽ららの愛らしさはやはり貴重だし、少女時代のカテリーナの夢白あやの美しさがひと際目を引くだけに、この役柄がもっと効果的に描かれていたら作品がより引き締まったと思う。中で非常に大きな役柄だが、宝塚歌劇としてここまで救いがない描き方も珍しいという、盗癖のある少年サライの天彩峰里が、果敢に役柄に体当たりしているのも印象的だった。

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他に珍しく大きな役柄ではないだけに、宙組のもうひとつの顔としての存在が静かに主張されている組長の寿つかさと副組長の美風舞良以下、短いながらももうひとつの作品を観た!と思えるほど充実感のあるフィナーレを含めて、難しい並びの作品に挑んだ宙組メンバーの奮闘が際立つ舞台となっていた。

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初日を控えた11月23日通し舞台稽古が行われ、宙組トップコンビ真風涼帆と星風まどかが作品への抱負を語った。

囲み真風

まず作品の見どころを問われた真風は、「宙組が誕生してから初の和物ショーということで、お化粧や着こなしなど課題が多かったのですが、大劇場公演を経て育んだ力をさらにパワーアップしてお見せできたらと思っております。お芝居は今の宙組に当てて描いて頂いたオリジナルなので、そこを観に来てくださった方々にも楽しんで頂けたらと思いますし、私自身は、まだまだ謎の多い人物であるレオナルド・ダ・ヴィンチということで、彼の追い求めた真実の愛や、出会う人々との関係性を日々繊細に丁寧に演じていけたら」と真摯に語った。

囲み星風

また星風は「日本物のショーはお芝居仕立てで、場面毎に色々なお色が出ていると思うので、 そこが見どころだと思います。お芝居も宙組生が集中してその日その日を生きているところが人物と重なって、繊細に描かれてるいると思うので、そこを観て頂けたら嬉しいです」と、両作品への想いを述べた。

囲みトップコンビ1

他に、和物作品への経験が深い真風が、星風を自然にリードしていることや、オリジナル作品ならではのやり甲斐を、互いが持っていることが伝わり、創設20周年を迎えた宙組がトップコンビ中心に更に未来を目指していることが感じられる時間となっていた。

囲み全身

尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に1月9日発売の「えんぶ」2月号に掲載致します。どうぞお楽しみに!

〈公演情報〉
宝塚宙組公演
─本朝妖綺譚─『白鷺の城』
作・演出◇大野拓史
ミュージカル・プレイ『異人たちのルネサンス─ダ・ヴィンチが描いた記憶─』
作・演出◇田渕大輔
出演◇真風涼帆、星風まどか ほか宙組
●11/23〜12/24◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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