ピアフ()「私の回転木馬」

フランスが最も愛したと言われる歌手エディット・ピアフの愛と歌と波乱に満ちた人生を、大竹しのぶが歌い演じる舞台『ピアフ』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(12月1日まで。のち、広島、香川、大阪でも上演)。

ブロードウェイ、ウエストエンドで歴代の名女優によって演じ継がれてきたパム・ジェムスの傑作戯曲『ピアフ』を大竹しのぶが初めて演じたのは2011年のこと。2008年ジェムス自身がロンドンのドンマーウェアハウスでの上演の為に決定版として書き下ろしたものの日本初演で、大竹の熱演、熱唱、栗山民也の演出と共に瞬く間に大評判となり、大竹は読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。その後、2013年、2016年の再演も大好評で、2016年大晦日の第67回NHK紅白歌合戦で「愛の讃歌」を大竹が熱唱。ピアフが憑依したと絶賛される大竹の歌唱が更に注目を集め、2018年4演目となる今回の公演も、発売わずか3日間で約18.000席が全席完売という熱狂を巻き起こしている。

【STORY】
エディット・ピアフ──本名エディット・ガシオン(大竹しのぶ)は、フランスの貧民街で生まれ、路上で歌いながら命をつないでいた。ある日、ナイトクラブのオーナーがエディットに声をかける。
「そのでかい声、どこで手に入れた」
「騒がしい通りで歌っても、歌をきいてもらうためだよ!」
オーナーに気に入られたエディットの歌声は「ピアフ──小さな雀」の愛称と共に、たちまちにして大評判となる。だが、彼女の心は常に愛を求め、孤独を恐れ続け、歌手としての成功がその渇望を埋めることはなかった。戦争、そして数々の恋、別れ。すべてがエディットを追い詰め、アルコール、やがてはドラッグへと手を染め、心と身体が蝕まれてゆく。それでもそれらすべてを糧にしたようにエディットはマイクの前に立ち、「愛」を歌い続ける……。

ピアフ(ぶ)とシャルル(宮原浩暢)

この作品の特徴は、ピアフの47年間の人生を数々の短いシーンの連続で表現していることだ。もちろん字幕などで年代や場所は提示されるものの、全体の流れとしては謂わばエピソードの畳みかける羅列で、短い場面が移る毎にピアフの置かれた状況や、直面している問題が変化しているから、観る者にも演劇的なイマジネーションの喚起を要求してくる。それでいて、観ていて全く混乱がないのは、劇中に差し挟まれた「愛の讃歌」「私の回転木馬」「バラ色の人生」「水に流して」等々の、ピアフの歌の数々が場面の飛翔を効果的につないでいるからに他ならない。歌手エディット・ピアフが劇中で役として歌っている設定、つまり音楽がドラマを進めるミュージカルとは異なる手法でありながら、紛れもなく音楽によってドラマが運ばれていく鮮やかさは、この作品にしかない醍醐味だ。演出の栗山民也が4演目にして更にスピーディに作品をブラッシュアップしていることも、この効果を高める要因になっている。

そして何よりも大竹しのぶのピアフの見事さが、作品に太く確かな芯を通していることが、すべての根幹を握っている。「ピアフが舞い降りた」とも、「ピアフが憑依した」とも称される大竹の渾身の熱演には、最早畏敬の念を覚えるほどの凄味がある。実際幕が下りて、いったいどの瞬間に大竹は、自分自身を取り戻すのだろう…と、想像しようとしても全く見当がつかないほど、劇中の大竹は愛を求め、苦しみにのたうちながらも、歌うことをやめなかったピアフその人にしか見えない。魂の歌声の数々も胸を打ち、決して品が良いと言えないピアフの数多の言動が、歌っている時だけは神々しさを湛えるのも、すでに演技の域を超えているのではないか?と思わされ、終幕の「水に流して」の絶唱にはただ涙を禁じえない。チケットが売り切れなのに、こんなことを書くのも憚られる想いがするが、それでもこの「ピアフ=大竹」の歌唱は、やはりこの劇中で『ピアフ』が上演されている劇場の客席でなんとしても聴いて欲しい、そんな想いが湧き上がる舞台だ。

ピアフ(大竹しのぶ)「愛の讃歌」
 
また共演者が主な役柄だけでなく、様々な時代と立場でピアフと関わった人々を演じていくのもこの作品の特徴で、全員で歌われる「リリー・マルレーン」の力感など、大竹を囲む面々の力も作品にしっかりと寄与している。
中でも、大竹と共に初演からこの作品への出演を続けている梅沢昌代、彩輝なお、辻萬長が舞台『ピアフ』に欠かせないピースとして果たす役割が大きい。
ピアフの生涯の親友トワーヌの梅沢は、ピアフの環境がどう変わろうと友人であり続けるという、稀有な人物設定に真実味を与える地に足のついた演技で魅了する。粗野でちゃっかりしたところもありながら、心根は真摯なこの友がいたことが、劇中のピアフのひいては観客の救いにもなる存在としての梅沢の功績が、2016年菊田一夫演劇賞受賞につながったのも当然とうなづける。
また、マレーネ・デートリッヒの彩輝は、誰に対しても自我を貫き通すピアフに対等にものが言える、ほぼ唯一アドヴァイスができる人物として強い印象を残している。元宝塚歌劇のトップスターだった人ならではの男装の美しさ、ゴージャスなドレスの着こなしも鮮やかで、演じ歌うことに抑制を利かせられるマレーネをピアフの対照として描き出し、出番の長さ以上に劇中に屹立させた様には、女優・彩輝の成長も感じさせた。もう一役これも大きな役柄で、ピアフの秘書を務める極度の近眼の女性を演じるが、マレーネとの出番が相当な早替わりであるはずなのに、ちゃんと全く別の人物として登場してくるのも見応えがある。
もうひとり、そもそもピアフを見出すナイトクラブのオーナーなどを演じる辻も、ここからピアフの運命が変わっていく人物を、大きな造形で演じて抜群の安定感。最早この人が「そのでっかい声、どこで手に入れた」という台詞を発してくれることが、この作品が動き出す合図とも感じられて、ワクワクさせられる。

ピアフ()とシャルル(宮原浩暢)薔薇

そんな初演からのメンバーに、前回公演から続投の川久保拓司がピアフを支え続けるマネージャーを、出番の度に年齢をきちんと重ねていることを巧みに表現した演技で魅了すれば、イブ・モンタンの大田翔が伸びやかな美声を響かせるカンツォーネの魅力で強いアクセントを残している。
更に、今回公演から新たに加わったメンバーがまた豪華で、シャルル・アズナブールの宮原浩暢が持ち前の歌唱力だけでなく、演技力も長足の進歩を遂げていることを鮮やかに示してくれる。アズナブールは、奇しくもこの9月に来日コンサートを果たし、僅かひと月後の10月に94歳で帰らぬ人となったが、文字通り生涯をシャンソン歌手として全うした偉大なる歌手アズナブールを、きちんと造形して頼もしい。

ピアフ()とマルセル・セルダン(駿河太郎)

ピアフが生涯で最も愛し、その事故死から精神のバランスを崩してゆくマルセル・セルダンの駿河太郎にある温かいぬくもりを感じさせる持ち味と、ピアフ最後の恋人テオの上遠野太洸のカットガラスのような繊細な美しさが、それぞれの役柄に生きていて作品の彩りを深めている。
もう1人、冒頭の司会者をはじめ様々な役柄を演じる上原理生の参加がなんとも贅沢で、ミュージカル界の大きな存在である上原が、歌手ではない役どころで作品を支えた姿に『ピアフ』が演劇界で如何に大きな演目になっているかを改めて感じさせた。

ピアフ()とテオ・サラボ(上遠野太洸)

またこの公演に先立ち、ピアフの命日である10月10日、大竹しのぶによるピアフ楽曲初の音源化であるアルバム「SHINOBU avec PIAF」が発売。このアルバム曲を中心に、2019年1月には大竹しのぶ初のピアフコンサートが兵庫、東京、名古屋で開催されるなど、「大竹=ピアフWORLD」が更なる広がりを見せていて、舞台『ピアフ』が生み出した熱量の大きさを実感する時間になっている。

【囲み取材】
 
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彩輝なお、大竹しのぶ、梅沢昌代

この公演の初日を翌日に控えた11月3日、囲み取材が行われ、大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なおが公演への抱負を語った。

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──いよいよ明日から初日ということですが
大竹 さえちゃん(彩輝)、梅ちゃん(梅沢)はじめ初演からのメンバーと新しいメンバーと、まだ少し緊張があります。でももうはじまっちゃうので皆と力を合わせてまた新しい気持ちで頑張りたいなと思います。
梅沢 「全員野球」で頑張りたいと思います!
彩輝 皆で力を合わせて頑張ります。
──4度目の再演ということですけれども、4度目ともなると気持ちはいかがですか?
大竹 やはり4回目という方がどんどんプレッシャーが大きくなってきているかな?と思います。初めてご覧になる方もたくさんいらっしゃると思いますが、やはり1回目から2回目、3回目、といらしてくださって、4回目はどんなものになるのだろう?と楽しみにしてくださる方も多くて、ということは前よりは絶対に良いものも出さなければならない。二人とも話していたのですが「前の方が良かったね」ではなく、前はあの時のベストであった、今は今がベストなんだなと思えるようにしたいなとは思っています。
──すでにチケットは完売ということなのですが。
大竹 とてもありがたいなとは思いますが、当日券をちょっとは残さないと劇場としてはいけないんじゃないかなって(爆笑)。でもありがたいですし、あまりそういうことは考えないようにとも思っています。

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──チームワークはバッチリですか?
大竹 はい! 女三人で男共に「しっかりしろ〜!」みたいな感じで声をかけます(笑)。
──今回、CDも出されたということで。
大竹 ピアフの曲のCDとコンサートがあるんですが、CDはCDで音楽として1曲、1曲なので、やっぱりこの舞台(で歌うの)とは違う感じです。でも梅ちゃんも聞いてくれて。
梅沢 とっても良かったです。違っていてね。
大竹 そう、舞台とは違う歌い方で。でもピアフの歌というのはそれだけ皆に愛されるんだなというのをすごく思います。何十年も前の歌なんだけれども全然古くないし、悲しい歌でも力強いので聞いていて勇気をもらえるのを感じます。
──コンサートツアーは兵庫で追加公演も出たということで。
大竹 そうなんです。ありがとうございます(拍手)。でも今はこの舞台のことで頭がいっぱいで、1日、1日をね、梅ちゃんが言った言葉で「舞台に命を懸けるまではできないけれども、命を削るくらいのことは毎日」ってね。
梅沢 お芝居って完成はないから、だから毎日頑張らないといけないですし、新しい発見もありますから。


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──4演目をご一緒なさって大竹さんとはいかがですか?
梅沢 毎日毎日ライブ感がある方なんで楽しいです。決めておかなくてもその場で起こることもあって、毎日新しい場面ができていると思います。
──親友役ですよね?
梅沢 売れない娼婦なので、こんなに汚い恰好で申し訳ないのですが(笑)。
──大竹さんの魅力は?
梅沢 本当に命懸けですよ、いつも。だから悩むし、疲れるし、でも頑張るという熱があります。「まぁいいか」(※大竹が朝日新聞紙上で連載中のエッセイのタイトル)ではなくて、頑張るって言ってますね。

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──彩輝さんからご覧になっては?
彩輝 芝居は、おこがましいかも知れませんがとてもチャーミングで、魅力的で惹きこまれる部分があって、それは魂から演じられているところと、普段からの可愛らしさというところがあると思います。
──彩輝さんご自身は4演目でいかがですか?
彩輝 今回改めて自分の中で構築してきた部分もありますから、今はちょっと緊張しています。
──さっきおっしゃった女三人でコミュニケーションなどは?食事会なども?
梅沢 やったわね。
大竹 結構行ったね。あとは男共も連れていってあげたり(笑)。最初はやっぱり初めての人などは、女三人が怖いみたいで近寄れない感じがありましたが(笑)、今は大丈夫になりました。

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──笑福亭鶴瓶さんの息子さん(駿河太郎)が初めて参加されましたが、上達ぶりは?
大竹 それは皆一緒なんです。皆そうやって一生悩む仕事なので。
梅沢 色々な役をやるシーンがありますから、それを楽しんでねとは言いましたね。
──舞台の上でのラブシーン、裸になるシーンもあるそうですが。
大竹 彼にはね。私は裸になりません(笑)。
──キスシーンについては?
大竹 私は別に…向こうはどう思っているかわかりませんが(笑)。でも綺麗なシーンですから、私は大好きなシーンです。
──製作発表会見以降お父様の鶴瓶さんとお話されたりはしましたか?
大竹 別件でお会いしたことはありましたが、舞台に関してのお話はしませんでした。でも「観にいかなければ」という風にはおっしゃってくれていました。

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──改めて見どころは?
大竹 ピアフの時代、戦前と戦後、また人を愛するということ、愛の物語など、人として基本的なものがいっぱい詰まった話しです。やっぱりあとはエネルギーでしょうか。1場面、1場面本当に短いんですけれども、それを役者が創り上げていくエネルギーを観て頂きたいです。
梅沢 今までご覧になったお客様が「エネルギーをもらった」とおっしゃってくださるので、今回ももっと渡せたらなと思います。
彩輝 演出の栗山(民也)さんが「動物的な人間の生き様、人生をそれぞれが鮮烈に生きているということを皆で感じたら、魂が伝わる」とおっしゃっていらしたので。
大竹 「全てが電子化されていって、何も感じなくなっている若い人が多いから」と話されていて、そうじゃないものを作品から感じて「動物的に生きろ」とよくおっしゃいますね。
──素敵なナンバーが多いですが、どの曲がお好きですか?
大竹 「私の神様」とか「水に流して」が好きですね。

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公演情報〉
『ピアフ』
作◇パム・ジェムス
演出◇栗山民也 
出演◇大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なお、宮原浩暢(LE VELVETS)、上遠野太洸、川久保拓司、大田翔、上原理生、駿河太郎、辻萬長、万里紗
●11/4〜12/1◎シアタークリエ(東京)
〈料金〉11,500円(全席指定・税込)
〈キャンセル待ち受付〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)

全国ツアースケジュール
●12/4◎JMSアステールプラザ大ホール(広島)
〈お問い合わせ〉TSS事業部 082-253-1010
●12/11〜12◎レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール(香川)
〈お問い合わせ〉県民ホールチケットセンター 087-823-5023
●12/15〜17◎森ノ宮ピロティホール(大阪)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888





【取材・文・撮影/橘涼香】



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