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国境を超えて世界中で愛され、第39回日本漫画家協会賞大賞を受賞した安倍夜郎の『深夜食堂』。ドラマ、映画も大ヒットを記録したこの人気作品が心温まるミュージカル作品となって、新宿シアターサンモールで10月26日から上演中だ(11日まで)。

日本で生まれ、メディアミックスの人気作品となった『深夜食堂』はお隣の国韓国で初ミュージカル化がなされた。脚本は第2回「韓国ミュージカル・アワーズ」で脚本賞を受賞したジョン・ヨンが担当。作曲は、日本でも話題となった『キム・ジョンウク探し( 『Finding Mr.DESTINY)』『オー!あなたが眠っている間に』など韓国ヒット作の常連となっているキム・ヘソンが担当。今回の公演は謂わばその逆輸入となる上演で、演出は重層的でミステリアスな作風と同時に、人間模様を細やかに描き分ける荻田浩一が手がけ、マスター役の筧利夫をはじめ、多彩なジャンルから集まったキャスト陣が、深夜にひっそりと開店する「めしや」に集う人々を、ユーモアとペーソスを加えて演じている。

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【STORY】 
深夜0時、看板もないその食堂は静かに店を開ける。メニューは豚汁定食だけだが、勝手に注文すれば出来るものは出してくれる。タネも仕掛けもないそんなマスターの素朴な料理を求めて、今日も「めしや(深夜食堂)」には、大勢の常連客が、それぞれの想いの中で、心の拠り所になるメニューを注文していく……
 
舞台は上手に「めしや(深夜食堂)」の店内。下手に夜の街のネオンというワンシチュエーションの中で進んでいく。様々な人の出入りはあるし、そこではケンカも、恋も、親子の情も、悲しい思い出も語られるが、決して派手なことは起こらない。それでも登場人物それぞれが抱える孤独、人のぬくもりを求める心が、大笑いしながら客席に共振していく様が見事だ。およそミュージカルらしからぬ筋立てだと思うのに、不思議なほどどのナンバーも世界観から浮くことなく、場面を飛翔させ、また何事もなかったかのように「深夜食堂」の店内に収れんされていく様は、ミュージカルならではの喜びに満ちている。原作はもちろん、様々なメディアで展開されているこの作品がミュージカルとして成立すると信じた、韓国のクリエーターたちの慧眼に驚かされるし、その「翻案ミュージカル」を生まれ故郷の日本の感覚に親和させた、荻田浩一の丁寧な仕事ぶりも光った。

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そんな「深夜食堂」で常連客を迎えるマスターを演じる筧利夫は、過去に何か大きな傷を負っていることが明らかで、だからこそ誰がどんな事情を抱えていても、黙々と料理を差し出すマスターを、飄々とした佇まいの中で演じている。台詞の声に独特の味わいと軽やかさがあり、それがミュージカルナンバーのソロで声を張った時のパワフルさとのよい対比を生んでいて、マスターの奥深い人物像がより一層表現されていた。動きの決して多くない中で、筧が放つ存在感が作品の要になっている。
 
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マザコンで、ストリッパーのマリリンにぞっこんの忠の藤重政孝は、一見およそ頼り甲斐がないようでいて、芯に揺るぎないものを持つ男を巧みに表出している。外見がカッコ良くなってしまうと違ってしまう忠を、思い切りよく具現化していて尚、母親に向ける眼差し、マスターに敢えて過去を尋ねる心根が実にカッコいい。歌唱力にも秀で、本人はもちろんキャスティングの妙に喝采だった。

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ゲイバーのママ小寿々の田村良太は、正直に言うとはじめにキャスティング表を見た時に、歌唱力抜群の若々しい田村が初老のゲイバーのママ役?と、二度見したほど驚きがあったのだが、初老という設定こそややぼかしていたが、舞台では実にしっとりとした落ち着きと、恋に一途な想いを表現した小寿々になりきっていて、これはもう脱帽もの。もちろん持ち前の歌唱力も活かされ、自分からは距離のあっただろう役柄に果敢に挑戦し、大きな成果を納めた田村に敬意を表したい。

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小寿々が恋するヤクザ剣崎竜の小林タカ鹿は、甘いマスクと抜群のプロポーションを駆使して、仁義を守り、強面だが心優しいヤクザをキリリと決めて演じている。こういう人物が突然歌い踊るのがミュージカルならではの可笑しみで、小林が大真面目だからこそ面白い効果を生んでいる。他にも多彩な役柄を演じ、時にはしばらく小林だと気づかなかったことさえあるので、是非注目して欲しい。

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剣崎の舎弟のゲンの碓井将大は、こういう役柄にありがちの虎の威を借る狐の小物さをふんだんに出しつつ、決して嫌味にならない可笑しみを醸し出して楽しめる。この人も他にもかなり印象的なキャラクターを演じ分けていて、その早替わり、変身の妙も楽しい。

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忠の永遠のマドンナ、マリリン松嶋のエリアンナは、ストリッパーという職業を天職だと信じ、プライドも実力も持ち合わせている女性を堂々と活写している。好きな人が変わる毎に本人の食べ物の嗜好も変わるという一途さもあって、エリアンナのパワフルボイスとチャーミングさが共に活かされた好演だった。

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路上で歌うシンガーソングライター千鳥みゆきのAMI(アミ)は、この役柄に必要不可欠な透明感が全身から感じられるのが何よりの魅力。ねこまんまが食べたいという彼女の思い出の味が、胸に迫る展開をよく支えていた。
 
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深夜食堂にいつも三人でやってきてお茶漬けを注文する「お茶漬けシスターズ」の「鮭」の谷口ゆうなは、ダイエットしなければ!という強迫観念に常にかられながら、美味しいものの誘惑に勝てないという役柄を、なんとも愛らしく演じている。豊かな歌唱力で食べることの幸福と誘惑を歌う姿は感動ものだった。

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同じくお茶漬けシスターズの「明太子」の愛加あゆは、この人が運命の人を待ち続けていて行き遅れているということは、よっぽど理想が高いに違いない!と見た傍から思わせるキュートさで、ドライな物言いとのギャップが面白い。宝塚時代に相手役だった壮一帆と、大げんかのシーンもあり、女優同士としての二人の相性の良さも再確認できるのが嬉しい。

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その「お茶漬けシスターズ」の「梅」の壮 一帆が、三人の中でも特に強烈な「いつか王子様が」思考を持ち合わせた女性を、嫌味なく思いっきりよく演じていて清々しい。愛加との言い合いでむしろ受け手になっているのも面白いし、二人が仲直りにいつも互いが頼んでいたお茶漬けを頼み合う姿にもグッとくる。元トップコンビが信頼感のある女優同士として互いにぶつかり合っている姿には、こちらも幸福にしてもらえる力があった。

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全体に、都会の片隅にそれぞれの生活には立ち入らず、でも1人ではない場所「深夜食堂」の存在が温かく、ミュージカルという演劇形態の懐深さと、人間賛歌が感じられる舞台になっている。尚、観劇中にお腹が空くこと請け合いの仕掛けもあるので、観劇帰りに大切な誰かと飲んだり食べたりもとても素敵だと思う。そんな食と心のふれあいを感じられる素敵なミュージカルだ。
 
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〈公演情報〉
AD深夜食堂
 
ミュージカル『深夜食堂』
原作著作◇安倍夜郎「深夜食堂」(小学館)
Book&Lyrics by JEONG, YOUNG 
Music by KIM, HAESUNG
演出◇荻田浩一
日本語上演台本・訳詞◇高橋亜子
出演◇筧利夫 
藤重政孝 田村良太 小林タカ鹿 碓井将大 エリアンナ AMI(アミ) 谷口ゆうな 愛加あゆ 壮 一帆
演奏◇熊谷絵梨(Pf)、相川瞳(Perc.)、中村康彦(Gt.)、中村潤(Vc.)
●10/26〜11/11◎新宿シアターサンモール
〈料金〉8,200円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉info@meshiya-musical.com
〈公式HP〉http://meshiya-musical.com
〈公式ツイッター〉@meshiya_musical



【取材・文・撮影/橘涼香】





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