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2016年早霧せいなトップスター時代の宝塚歌劇団雪組で上演され、大きな話題を独占した浪漫活劇『るろうに剣心』が、宝塚退団後の早霧せいなを再び主演の緋村剣心役に迎えて、男女の俳優たちの共演により新橋演舞場で上演中だ(11月7日まで。のち、11月15日〜24日大阪松竹座でも上演)。

浪漫活劇『るろうに剣心』は、シリーズ累計6000万部という想像を絶する人気を誇る和月伸宏の大河漫画「るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜」(集英社ジャンプコミックス刊)を原作に、小池修一郎が宝塚バージョンとして初舞台化を果たした作品。すでにテレビアニメ化、実写映画化と多彩なメディアミックスが繰り広げられていたが、生身の人間が客席と一体となる劇場空間で人気キャラクターを演じる醍醐味が、宝塚ファン、原作ファンのみならず、更に大きなうねりを巻き起こし、早霧せいなの緋村剣心をはじめとした雪組スターたちの見事なキャラクター再現率と、宝塚版だけに新登場した加納惣三郎が繰り広げる浪漫活劇として、熱狂を呼ぶ舞台となった。
そんな作品が、新たに男女が演じる一般公演として蘇る、しかも宝塚歌劇団を卒業し、表現者としての一歩を踏み出していた早霧せいなが、男優たちも集う舞台で再び男性役である緋村剣心を演じるという、驚きと興奮に満ちた企画は、発表されるや否や大きな注目を集め、和の殿堂新橋演舞場に新しい風を吹かせている。

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【STORY】
動乱の幕末に伝説の人斬り抜刀斎として恐れられ、明治維新後は「不殺」を誓い、あてのない旅を続ける流浪人・緋村剣心(早霧せいな)。ある日剣心は、東京に「神谷活心流・緋村抜刀斎」を名乗る辻斬りが横行していることを知り、流儀を汚されたとして、抜刀斎を追う神谷活心流の師範代神谷薫(上白石萌歌)に出会う。共に名を騙られた2人は協力してことを納め、それをきっかけに剣心は神谷道場に居候をすることに。そこで、新時代に様々な想いを抱えながら生き抜く人々とふれあい、仲間を得、また薫の存在にも我知らず心の傷を癒されてゆく剣心。だが、そんな出会いの中に、かつて幕末の京都で対峙した因縁の相手である、元新撰組隊士・加納惣三郎(松岡充)がいたことから、事態は大きく動きはじめ……。

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女性が舞台で「男役」として理想の男性像を描き、この世にはいない夢の具現化であるその「男役」に客席から夢を仮託する。宝塚歌劇の世界は本来、そんな舞台と客席がある種の共犯関係になっているからこそ成立する幻想空間として、104年もの歴史を紡いできた。だから宝塚歌劇団という夢の園を去る時には、スターたちは男役ではなくなり、そのスターがその後芸能活動をするしないに関わらず、男役として演じた理想の男性たちは、記憶の中だけに留められる幻になる。それが長きに渡って当然のことと考えられてきた、ある意味の約束事だった。

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もちろん、せっかく長い年月をかけて築き上げてきた男役芸が、宝塚歌劇団を離れた刹那無に帰ることを惜しむ声もあったし、実際に劇団での当たり役に外部の舞台でもう1度挑んだスターがいなかった訳ではない。けれどもそれらの多くは宝塚OGが集っての公演や、極小規模の公演に限られ、演劇界がそうした公演を見つめる眼差しも、決して温かいものだけではなかったのが現実だ。
だが、早霧せいなが再び宝塚歌劇団の男役トップスター時代に演じた、緋村剣心を新橋演舞場と大阪松竹座で演じるという、この浪漫活劇『るろうに剣心』の企画には、そうしたこれまでの試みを遥かに超えた、興行としてのスケールがあった。誰もが驚いた企画ではあったが、そこに宝塚を退団していながら、また男性を演じるの?といったシニカルな目線が注がれることが、さほど多くなかったのは、ある意味更に大きな驚きと言えた。
実際、それほど時代は変わっていたのだ。ひとつには宝塚歌劇団が100周年の祝祭を超え、最早日本の伝統芸能、ひとつのコンテンツとして認められていたこと。もうひとつには、世に「2.5次元」と呼ばれる舞台が隆盛を極め、男役もかくやとばかりの汗臭さのない美しい男子が溢れかえり、男優と男役の差異を日に日に縮めていたこと。これらが、こうした新たな挑戦をキワモノとしてではなく、きちんとした作品として提示できる土壌を生んでいた。そのことがハッキリ証明されたのが、この舞台の最も大きな功績で、それほど早霧せいなの緋村剣心には、激動の時代に翻弄され、価値観のすべてが覆された1人の人間が、それ故に到達した「不殺の誓い」を胸に、己の信念に従って生きていく姿が決して重くならず飄々と表現されていた。もちろん剣心というキャラクターそのものに「小柄」という設定があったことや、作品自体に漫画原作ものならではのファンタジー性があったことなど、このチャレンジを後押しした様々な要素が噛み合っての舞台であることも確かだが、あくまでも男優、女優という括りを超えて、1人の俳優が演じる緋村剣心がそこにいる、しかもより進化して舞台に生きているという感覚が芽生えたのは、新しい可能性の扉を開いたものに他ならなかった。
更に基本的には宝塚バージョンに準拠した展開の中で、こちらは男優陣が演じるからこそのパワーとスピード感を増した殺陣が、場面も増え尺も長くなって大きな迫力を生む力になっているし、舞台機構を縦横無尽に使うことにかけては、他の追随を許さない小池修一郎の演出が、新橋演舞場の花道や、思いもかけない空間の使い方などを駆使した舞台には、高揚感が満ちている。

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その中で、激動の時代に受けた傷に固執し、謂わば時代への復讐を果たすという妄執に執り付かれている、つまり剣心の対照として描かれる、小池版『るろうに剣心』オリジナルキャラクター加納惣三郎に扮した松岡充が、禍々しさを内に秘めた存在感で、役柄を効果的に見せている。特に冒頭に登場する新選組隊士時代の扮装が非常によく似合っていて、これは予想外の喜びだった。

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神谷薫の上白石萌歌は、やはり剣心が早霧なだけに宝塚版薫役の咲妃みゆの面影が強く残る中で、溌剌とした薫像をきちんと見せていて、湿度の高くないカラッとした明るさが、上白石の薫の魅力を振りまき、こちらも上々の仕上がりを見せている。
 
更に、日本の男優がこんなにも揃いに揃って美しくなったからこそ、こうした企画が成立するのだなぁ、とつくづく思わせる男優たちでは、斎藤一の廣瀬友祐が難しい髪型も楽々とこなし、幕府に殉じて散ることができなかった新選組隊士の数少ない生き残りとして、世の中を醒めた目で見つつ、己の哲学にのっとって生きている男を巧みに表現している。

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同じく華々しく闘いで果てることができなかった御庭番衆・四乃森蒼紫の三浦涼介は、本人自体に非現実感がある独特の個性で、蒼紫のその名の通り蒼く静かに燃えている胸の炎を見事に体現している。もう一役の桂小五郎での出番も充実しているし、何より『1789〜バスティーユの恋人たち〜』を経て、歌唱力が一段と伸びていることを感じさせて頼もしい。あっ!と声をあげること間違いなしの、蒼紫の登場シーンにも是非注目して欲しい。

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悪役であるだけでなく、人間的に小物でもあるという、二枚目俳優が演じるには難しい役柄の武田観柳の上山竜治が、思い切りのよい突き抜けたキャラクター造形を見せたのも役者魂を感じさせるし、相良左之助の植原卓也は、この役柄にはやや繊細な二枚目すぎるか?と思わせた持ち味を、闊達さを前面に出した演技で役柄に近づけた見事さが目を引く。緋村抜刀斎(剣心の影)の松岡広大の身体能力の高さから繰り出される、鮮やかな殺陣の数々にも見惚れるばかり。明神弥彦を本物の少年が演じるのも外部版ならではの見どころで、加藤憲史郎、大河原爽介、川口調が少年が張る意地を健気に見せている。

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また、早霧だけでなく宝塚OGが大活躍しているのもこの舞台の話題で、高荷恵に扮した愛原実花が、基本的に妖しくミステリアスな役柄の中に、芯の強さと純粋なものを秘めて、確かな芝居心を披露している。宝塚時代から定評のある歌唱力を随所で発揮した朱音太夫の彩花まり、キュートな魅力が全開の田村芽実と共に、コンビのような形で愛らしさを振りまいた五条まりなも活躍。中でも、出番が1幕終盤の山県友子を演じた月影瞳が、アンサンブルメンバーに混じって非常に意外性のある役柄を大胆に演じているのに、上山同様役者魂を感じさせた。
他に、ミュージカル界のベテラン宮川浩をはじめ、遠山裕介、松井工がガッチリと脇を固め、宝塚で初演された海外ミュージカルだけでなく、宝塚歌劇団のオリジナル作品が、外部作品としても通用することを示したものとして、早霧せいなを擁したこの新たな『るろうに剣心』が記憶に残るに違いない舞台となっている。

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【囲み取材】

初日を控えた10月11日囲み取材が行われ、早霧せいな、松岡充、上白石萌歌、演出の小池修一郎が記者の質問に答えて公演への抱負を語った。

──和の殿堂新橋演舞場でいよいよ『るろうに剣心』の幕が開くということで、皆様からまず今の心境を。
早霧 お稽古がはじまってからの約1ヶ月ちょっとの期間があまりに過酷で長かったので、やっとお客様の前で初日が迎えられるという、ある意味の緊張感と高揚感に包まれております。
松岡 同じです!(笑)、いや、本当に丁寧に丁寧に稽古場で創り上げてきたものを、ようやくこの新橋演舞場さんに持ち込んで、実際に舞台に立っていると違った景色が見えてくるので、本当に今の今まで最終調整を詰めているという。ですから早く完成形を作りたいのでドキドキしています。
上白石 お稽古を重ねてきてやっとこの晴れやかな舞台に皆さんと一緒に立たせて頂けることに、とてもドキドキしていますし、お稽古場とは全く違う感覚で皆さんと一緒に世界を創っていけているのを感じます。
小池 宝塚でやったものですし、基本的に一緒なのですが、男性たちと共にやる早霧剣心は確かに大変だったと思います。でもそれを完成させる素晴らしい一瞬の動きと、本人の前で言うのもなんですが、芝居がすごく上手くなったと思ったので、より濃く深いものをお見せで
──新しい殺陣が注目と言うことですが。
早霧 宝塚版よりも圧倒的に場面数としても分数としても殺陣の時間が長くなっていることは確かなので、宝塚版を観てくださっている方にもいない方にも、殺陣自体の迫力は十二分に伝わるのではないかと思っています。やはり私としては女性同士で立ち回りをしていた時とは違うスピード感と、パワーと言いますかが、圧倒的に違うということを至近距離で感じているので、そこは元男役としての誇りを賭けて戦いに挑むという形でやっております。
松岡 殺陣は本当に早霧さんが素晴らしくて、宙に浮いているんじゃないかというぐらいで。僕たちも殺陣のお稽古に入る前の段階の所作、刀を持つ武士としての気構えからやってきました。もちろん色々なタイプの殺陣があると思うのですが、伝統にのっとった殺陣をやろう!本物をやろう!というところから創造していますので、その辺りを注目して観て頂きたいと思います。
上白石 私は雪組公演を拝見していて、どちらとも知っているという状態で、今回の立ち居振る舞いや殺陣をお稽古場からずっと見てきました。女性にこそ出せる輝かしさもありますけれども、やはり男性がいることで、声量とか圧とか、何もかもがよりパワーアップしたものになっているのではないかと思います。男性陣皆さん素敵ですが、私は早霧さんの剣心しか見えていません。
松岡 ちょっと、ちょっとは見てるでしょう?(早霧が上白石に向ける松岡の視線を遮るので、会場爆笑)

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──ここが見どころだ!というところは?
早霧 (松岡に)どこですか?
松岡 殺陣もそうですし、ストーリー、お芝居というところで(小池)先生が本当に一切の妥協はなく、台詞回しひとつから、ただそこにいて台詞を言えば良いのではなく、心をちゃんと動かして、その心の動きに殺陣もアクションも華やかさも全部がついてくるということをみっちりとやりました。あとは究極の「2.5次元」なのではないかと思います。宝塚でトップを張って、卒業されてもう一度この作品に臨む早霧さんと、僕も90年代ビジュアル系の代表として、そういう意味では「2.5次元」の魅力は全力で目指したいと思います。
早霧 目がいくつあっても足りないぐらい見どころ満載なので、本当に舞台上くまなく色々な場所で様々なキャラクターが違う動きをしているところがとても多いです。ですからこれは1度だけの観劇では絶対に物足りない!と感じて頂けると思うので、次はこの場面のここが観たい!という気持ちを持って、お客様がきっと数回劇場に足を運んで頂ける公演になっていると思います。見どころ満載です!
上白石 1秒たりとも目が離せないあっという間の展開ですし、殺陣だったり、登場人物1人1人の心情や動きがとても繊細に、かつダイナミックに描かれているので、是非瞬きをなるべくせずに観て頂きたいなと。あとは新橋演舞場ならではの花道があって、お客様の傍を颯爽と走るなど、演舞場でしか感じて頂けない迫力があると思うので、是非風を感じて頂きたいです。

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──小池先生、花道の使い方にはどんな工夫を?
小池 歌舞伎のような使い方まではしきれていないのですが、でも色々な使い方をしていますし、おそらく「おっ!」と思って頂けるところもあるかな?と思います。
松岡 もうすべて使い切っていますよね!
小池 そうですね。ケレンとこの劇場の設備は使わせて頂いていますね。
──2018年版ならではのアピールポイントは?
小池 早霧せいなの剣心を中心に面白い個性がいっぱい集まっています。立ち回りもそうですが、別の空気と言いますか、風が起きるのではないかと思っています。そこが1番面白いところではないでしょうか。

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──では、最後に一言ずつメッセージをお願いします。
小池 今申しましたように、早霧せいなの剣心に対して松岡さん、上白石さん、皆さんが面白い個性で、今も尚細胞分裂を繰り返しているような、活性化された人たちが立ち回りを含めてすごいエネルギーを創っています。幕が開いていくとまたひとつ新たなハーモニーを生み出していくと思いますので、わたし自身もこれからどう舞台が進化していくかを楽しみにしています。
上白石 今日はたくさんお集まりいただきありがとうございました。いよいよ初日を迎えて今とても晴れやかな気持ちでいます。早霧せいなさんをはじめ私にとってたくさんの、尊敬する皆さんの背中を必死に追って、公演中もずっと進化していけたらと思っているので、皆様是非劇場に足を運んで頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
松岡 とても楽しくてドキドキして、更に優雅に過ごせる1日を、この『るろうに剣心』を観劇して頂ける皆様には提供できるのではないかと自信を持っております。ご来場お待ちしております。
早霧 私自身は剣心役は二回目となるのですが、皆さんとの一期一会の出会いを大切にして、本当に新鮮な気持ちで1回1回を全身全霊で務めて参りたいと思いますのて、どうか千秋楽まで温かく見守って頂けたら嬉しいです。ありがとうございました。

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〈公演情報〉
浪漫活劇『るろうに剣心』
原作◇和月伸宏「るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜」(集英社ジャンプコミックス刊)
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇早霧せいな、松岡充、上白石萌歌、廣瀬友祐、三浦涼介、上山竜治、植原卓也、愛原実花、松岡広大 ほか
●10/11〜11/7◎東京・新橋演舞場
〈料金〉一等席1,3000円、二等A席8,500円、二等B席6,500円、三階A席5.000円、三階B席3,500円、桟敷席14,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10時〜18時)
●11/15〜24◎大阪・大阪松竹座
〈料金〉一等席(1.2階)13,000円 二等席(3階)8,500円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800(10時〜18時)
公式サイト https://ruroken-stage.com/



【取材・文・撮影/橘涼香】




舞台『刀使ノ巫女』


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