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明日海りお率いる花組がオリジナル作品二本立てに挑んだ絢爛の舞台、宝塚歌劇花組公演ミュージカル『MESSAIAH─異聞・天草四郎─』ショー・スペクタキュラー『BEAUTIFUL GARDEN─百花繚乱─』が、東京宝塚劇場で上演中だ(14日まで)。

ミュージカル『MESSAIAH─異聞・天草四郎─』は、江戸時代初期に起こった、日本史上最大の一揆「島原の乱」の最高指導者として歴史に名を残す天草四郎の謎多き人生を、新たな視点で描いた原田諒の作品。歴史上の通説とは全く異なる描き方ながら「神とは、信仰とは」という命題に果敢に切り込んだ意欲作になっている。

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【STORY】
寛永十四年(1637年)春、東シナ海。倭寇の頭目夜叉王丸(明日海りお)は、仲間の不動丸(飛龍つかさ)、多聞丸(一之瀬航季)らと共に、南蛮渡来の財宝が眠るという伝承を頼りに、数年振りに日本を目指していた。だがその最中突然の嵐に見舞われ、船は難破。仲間は散り散りになってしまう。
時は移り、明暦二年(1656年)江戸城。南蛮絵師・山田祐庵(柚香光)は、若き将軍・徳川家綱(聖乃あすか)から呼び出され「島原の乱」で一揆軍が立てこもった原城で見つかったという未完成の聖母マリアの絵を見せられ驚愕する。それはかつて祐庵が描ききれなかったマリア像に違いなかった。家綱から「島原の乱」の真実を知りたいと請われた一揆軍唯一の生き残りである祐庵は、自身にとって最も辛い記憶である二十年前の出来事を語りはじめる。
再び時は遡り、寛永十四年。九州天草の地。ここはかつてキリシタン大名・小西行長の領地であったことからキリスト教が広く人々に浸透し、禁教となった現在でも密かに信仰を持ち続ける人々が復活祭の祈りを捧げていた。そこに不審な男が流れ着いたという報せが入り、小西行長の遺臣・渡辺小左衛門(瀬戸かずや)が駆け付ける。果たして男は嵐の海から奇跡的に天草に打ち上げられた夜叉王丸だったが、彼は倭寇の頭目であることは勿論、名さえ名乗のろうとはしなかった。だが、そんな夜叉王丸が禁教を取り締まる幕府の間者等ではなく、いつか自分たちにとって大切な人物となると直感した小左衛門は、妻・福(桜咲彩花)の父・益田甚兵衛(一樹千尋)に夜叉王丸の世話を頼む。快く引き受けた甚兵衛は夜叉王丸に「四番目の子」として「益田四郎時貞」の名を与えて迎え入れる。素性も知れぬ自分を何ひとつ訊かずに受け入れてくれた天草の人々に、夜叉王丸=四郎はかつてない想いを抱くようになる。
そんなある日、四郎はやはり難破した船から生き残って天草にたどり着いた不動丸、多聞丸に再会。この地に眠る財宝を探そう!という二人の話しを、人々の貧しい暮らしを見て来た四郎は一笑に伏すが、対岸の島原と天草の間にある岩ばかりと聞かされていた無人の島・湯島に何かあるに違いないという二人の言葉に動かされ、密かに湯島に渡る。
そこで四郎が見たのは財宝ではなく、数多の聖人画だった。それはリノの洗礼名を持つ南蛮絵師・山田右衛門作(のちの祐庵)が、人目を忍んで人々の信仰の為に描き続けているものだった。ご禁制の聖人画を見られた以上生きて帰す訳にはいかないと、刀を手にして四郎に斬りかかろうとしたリノを止めたのは、聖人画のモデルを務めていた島原の娘・流雨(仙名彩世)だった。流雨の美しさと毅然とした振る舞いに心惹かれながら四郎は湯島を後にする。
だが、流雨が忘れられず数日後再び湯島に渡った四郎は、自らの出世欲の為だけに領民から過酷な年貢を取り立てるばかりか、干ばつで作物が実らず年貢を納められない一家を皆殺しにする等の圧制を強いてきた島原藩主・松倉勝家(鳳月杏)が、民の苦しみを見かねた流雨の兄・松島源之丞(和海しょう)の命を賭した救済嘆願を聞き入れる代わりに、流雨を城にあげよと命じたことを知る。民を人とも思わぬ松倉のもとに行けば、流雨がどんな目に遭わされるか知れたものではない。流雨を守るべく四郎はリノと共に天草に流雨を伴うが、自分を匿えば天草の人々にまで迷惑がかかる、島原の人々が少しでも救われるなら城にあがると、身を挺する覚悟を決めた流雨は島原に戻ろうとする。そこへ宗門改めに藩の侍が駆け付け、踏み絵をためらったリノを庇い自ら踏み絵を踏んで見せた四郎は、懺悔を勧める人々に「死して魂が救われることを待つのではなく、自分たちの手で今この世界に理想の『はらいそ』を創ろう!」と説く。禁じられた信仰にすがりいつか「はらいそ」(天国)に迎え入れられることだけを信じて、艱難辛苦に耐えてきた人々は四郎の姿に希望を見出し、彼こそが「MESSAIAH=救世主」だと信じてついに立ち上がる決意を固め……

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キリスト教に限ったことではないが、死後魂が救われると説くあらゆる宗教には、それぞれの神を信仰し、教えを守り、祈りを捧げる敬虔な人々の、現実世界に降りかかる苦難を、なぜ神は救済できないのか?という根本的な命題を常に隣り合わせにしている。例えば病に臥した期間のことを「神が休養をお与えくださった」と表現するのをしばしば耳にするし、夭折した幼子を「神に深く愛されたが故にあまりにも早く天に召された」と語ることも多い。どんな迫害にあおうとも信仰を貫いた人を殉教者と崇めるのは、その最たるものと言えるかも知れない。
もちろん信じる神、宗教があることがどれほど人の心に安らぎをもたらすかは計り知れないし、宗教が生活に深く根付いた国の人々の行動に畏敬の念を抱き、とても敵わないと思わされることもしばしばある。だがその一方で、何故救われるのは死後の魂だけなのか?と思わざるを得ないほどの苛烈な運命に見舞われる人々が、歴史上も現在も世界に絶えないことを、神、宗教、信仰がどう説くのかにもまた、あまりに重いものがある。

原田諒が描いたミュージカル『MESSAIAH─異聞・天草四郎─』には、この軽々に口にするのが極めて難しい問題に、天草四郎という歴史上確かに実在していたが、その実像はほとんど明らかになっていない人物を擁して、真っ直ぐに切り込んだ鮮やかさがある。弱冠十六歳の少年が島原の乱の総大将であったという事実から、カリスマとして描かれ続けてきた天草四郎には、新約聖書でキリストが為したとされる「奇跡」に準ずる、例えば目の不自由な人の視力を取り戻したにはじまり、果ては大阪夏の陣で散ったと信じられていた豊臣秀頼が、生きて天草に逃れたのちの落し胤だ、までの、ほとんど「源義経=ジンギスカン説」に近い伝承が残っている。それらどう考えても創作であろうと思われるが「事実」として流布されてきた逸話に比して、原田が大胆に提示した天草四郎像に、むしろ説得力があるのに驚かされる。天草四郎は世界を見て来た倭寇の頭目で、弾圧される人々が苦しい暮らしの中で尚よそ者の自分を受け入れ、家族として遇してくれた。その人々の心根の中にこそ神があると感じ、この人々と共に生きている今の世に理想の世界を創ろうと立ち上がる。もちろん倭寇の頭目だった人だから、人心を掌握するリーダーとしての資質も、戦闘能力も持ち合わせている、という流れに無理がない。しかも四郎自身が、キリシタンとしての信仰を持ったのかどうかは、どこにも描かれていない。いないが故に「神とは、信仰とは」という非常にデリケートな部分を迷いなく口にすることができる。この仕掛けは実に巧妙で、「異聞・天草四郎」と、史実に反していますと宣言された、完全な創作の世界の中の天草四郎が、人々に「救世主」と崇められる物語に実存感を与えていた。

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その、原田版・天草四郎に明日海りおが扮したことが、この作品の力感を存分に高めている。元々明日海りおに天草四郎が似合うのではないか?という発想には、天草四郎が十六歳の少年とされていることや、伝えられている装束からの神がかり的な人物像と、透明感とフェアリー的資質を併せ持つ明日海の個性とが合致したことが始まりだったろう。だが前作『ポーの一族』で永遠の少年に扮したばかりの明日海に、続けざまに少年役を演じさせることを、おそらく避けたのではないか?というめぐり合わせが好転して、花組トップスターとして年月を重ねた明日海のカリスマ性が、作品の四郎の骨太な存在感と完全にリンクしたのが活きていた。四郎をメサイアと天草の人々が手を伸ばし取り囲む場面、一揆軍の砦となった原城での死闘、人々の屍が十字架となる大階段。原田の絵創りの上手さと、明日海のトップランナーぶりが、怒涛のように展開する物語に芯を通していて、今更ながらに明日海の充実ぶりが際立つ舞台になっているのが素晴らしい。

流雨の仙名彩世は、四郎との交流は実はかなり少ないが、その中で二人が思いを交わしたことが伝わるのはやはり固定されたトップコンビを敷く宝塚のスターシステムあったればこそ。何より仙名の流雨の表現から、四郎に対する愛が「敬愛」でもあり「崇拝」でもあることが伝わるのが、この作品の中では効果的で、常日頃主演コンビの恋愛要素が薄いことが、宝塚の座付き作者としては課題だと思われる原田の作風が、今回は逆に上手く機能する形になった。

柚香光の山田祐庵=リノは、物語の語り部でもある役どころ。島原の乱一揆軍の唯一の生き残りである、という歴史の事実に役柄が寄りかかっている部分が大きく、流雨への想い、更に四郎との関わりにはどうしてももう一場面欲しい。だが、だからこそ流雨をめぐる四郎との三角関係ではなく、リノのキリシタンとしての深い信仰心と、四郎が説く現世での「はらいそ」の輝きとのせめぎ合いによる苦悩が前に出たことを考えると、この関係性にも得心がいく思いがする。柚香の鋭さのある存在がリノの懊悩をよく現していて、彼の魂が救われる終幕に涙を禁じ得なかった。

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その「神とは、信仰とは」という作品を貫くテーマに沿って、多くの役柄が書き込まれているのも原田作品の進化として評価できる点で、一樹千尋、高翔みず希、瀬戸かずや、桜咲彩花、城妃美怜、華優希、舞空瞳など天草の人々が、それぞれに四郎を受け入れる敬虔なキリシタンとしての度量の大きさを感じさせて、物語をスムーズに進めている。おだやかな性質の役柄は久しぶりに思える瀬戸がここに入った効果が大きいし、城妃演じる咲が四郎にほのかな想いを寄せ、咲に恋心を抱いている長一郎の帆純まひろが四郎に反発するなど、サイドストーリーも丁寧だ。
一方、我が国を代表する歴史小説家・司馬遼太郎に「日本史のなかで、松倉重政という人物ほど忌むべき存在は少ない」と言わしめたほどの悪政を敷いたことで知られるが、その息子の勝家を演じる鳳月杏が、宝塚でしかも二枚目男役がここまで悪役を演じることは極めて異例と言える人物を果敢に描き出した上で、ほのかに色気もあるのが驚異的だ。領民が蜂起するのを当然と思わせた凰月の役割は大きい。更に、江戸幕府側では、実質四万石の石高を十万石と過大に見積もった松倉に疑惑の目を早くから向けた鈴木重成の綺城ひか理、そもそもこの物語をはじめるきっかけを作る将軍・徳川家綱の聖乃あすかが、共に非常に重要な役柄を、真摯にかつ涼やかに演じていて目を引く。鈴木が一揆軍への憐憫抑えがたく持ち帰った聖母マリアの絵が家綱に渡り、絵師であるリノ=祐庵の元に帰ったことで、祐庵の、更に「はらいそ」に行ったすべての人々、引いては観客にも救いをもたらす展開は、見事の一言。若き二枚目の二人が重責を果たした功績も光る。その流れが美しいだけに、本来「知恵伊豆」と評され、歴史上徳川幕府300年の礎を創った人物でもある老中・松平信綱の水美舞斗の役回りがやや割を食った格好にはなったが、水美のすっきりと美しいこの時代に忠実な装束の着こなしが醸し出す、静謐な佇まいが役柄を助けていて地力を感じさせた。

他に倭寇の頭目としての四郎の仲間である不動丸の飛龍つかさの豪放磊落な持ち味、残念ながら休演となった亜蓮冬馬に変わって多聞丸を快活に演じた一之瀬航季も、天草の人々とのカラーの違いを鮮明に出していて効果的だった。何より過去の大劇場公演の原田作品としては、最も人が描けていることが宝塚期待の作・演出家の成長を感じさせて嬉しく、すべてを浄化する「はらいそ」の場面の輝かしさと共に心に残る作品となった。

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そんなある意味で重いテーマに斬り込んだ作品のあとに、心躍る華やかなショーがあるのが宝塚歌劇の素晴らしさで、ショー・スペクタキュラー『BEAUTIFUL GARDEN─百花繚乱─』がなんとも美しい。花組の多彩な陣容を「百花繚乱」と例えた作者の野口幸作の視点が効いていて、美しい庭園の映像から蝶の舞い踊るプロローグ、パリ、アンダルシア、トロピカルな熱帯、ローマ、ニューヨークと、レビュー大定番のお国巡り形式をとりながら、スターたちの大活躍が楽しめる。

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特に明日海&仙名のクラシカルでノーブルな持ち味と、柚香のシャープでエッジィな個性がそれぞれの場面の色合いを鮮やかに変えていく効果が大きい。明日海の深みのある美しさと豊かな歌唱力、観ている者までがつくづく「楽しそうだなぁ」と心躍る柚香の踊りっぷりにも惚れ惚れする。

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更に、アンダルシア、ローマとドラマ性の高い場面が二つ入っていて、こうした構成はややもすれば重くなるケースも見受けられるものだが、明日海の相手役を仙名と、女性役に回った柚香に振り分けたことで、その危険を楽々と回避している。両場面、また芯となる場面もあり大活躍の水美のジャンプアップも頼もしい上で、瀬戸、鳳月にも働き場が多い目配りが良い。娘役も同様で、華、舞空と期待の新進娘役をあげながら、桜咲、城妃、音くり寿にも活躍の場がきちんと設けていて周到。しかも、この公演で退団する天真みちるに、彼女がその知名度を飛躍的に高めた「タンバリン芸」をストレートに連想させる、タンバリンを無理なく持たせるシーンを作るあたりは涙が出るほど。

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作者の想いが溢れすぎて、常に退団公演か?と思わせてしまう歌詞をトップスターに書いてしまうのだけが問題と言えば問題だが、ポップスをふんだんに入れても全体の質感がエレガンスなのが野口の大いなる美点で、ショー作家の期待の星として、今後の活躍への楽しみが高まる優れたショー作品となっている。

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また初日を前に花組トップコンビ明日海りおと仙名彩世が囲み取材で、記者の質問に応えた。

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中で、二作品の見どころを問われた明日海が芝居は立場の違う役柄を演じつつの、ショーでは「百花繚乱」の名の通りの、全員の総力戦をあげ、花組の団結を表現する。

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仙名も芝居でそれぞれが深めた役柄の関係性によるエネルギーと、ショーの盛りだくさんなワクワク感を語り、トップコンビの二人が全員での舞台創りに懸ける想いを感じさせた。

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更にそれぞれの好きなシーンは、囲み取材に登場した衣装を着る場面であるフィナーレナンバーだと意見が一致。お互いが見て好きなシーンでは、仙名が中詰めで着ている白いメルヘンチックな衣装を羨ま しいとつぶやいた明日海が「あ、着たいという意味ではないです」と笑わせる一コマも。明日海の素敵なところを語りだして止まらなくなった仙名と共に、トップコンビの和やかさを感じさせる時間になっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に11月9日発売の「えんぶ」12月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!

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〈公演情報〉
宝塚歌劇花組公演
ミュージカル『MESSAIAH─異聞・天草四郎─』
作・演出◇原田諒
ショー・スペクタキュラー『BEAUTIFUL GARDEN─百花繚乱─』
作・演出◇野口幸作
出演◇明日海りお、仙名彩世 他花組
●2018/9/7〜10/14◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.000円 S席8.800円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文・撮影(囲み会見)/橘涼香 撮影(舞台)/岩村美佳】




舞台『刀使ノ巫女』


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