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ミュージカル『タイタニック』が3年ぶりに帰ってきた。
現在、東京公演を10月1日から開幕、13日まで日本青年館ホールにて上演中だ。(10月17日〜22 日まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで公演)
その舞台の観劇レポートを、プレスコールの写真(オープニング場面のみ)とともにお届けする。

ミュージカル『タイタニック』は、豪華客船タイタニック号の沈没という歴史上の出来事をベースに、乗船していた人々の人生にスポットを当て、船の沈没という状況の中で描き出していく群像ミュージカルの傑作だ。1997年にピーター・ストーン原作、『NINE』『グランドホテル』『ファントム』など数々のヒットミュージカルを手がけたモーリー・イエストンの音楽・作詞で、ブロードウェイで上演され、1997年度トニー賞、最優秀ミュージカル作品賞、最優秀ミュージカル脚本賞、最優秀作詞作曲賞、最優秀ミュージカル装置デザイン賞、最優秀絹曲賞の5部門受賞の快挙を果たした。
 
その作品をもとにトム・サザーランドの新演出で、タイタニック号沈没後100年を迎えた2013年、ロンドンで上演されて大評判となり、2015年には日本版が初演、こちらも大人気を博した。今回はその再演となる。

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トム・サザーランドの演出の大きな特徴は、「船の悲劇ではなく、実際にそこに生きた人々の物語である」という考えで解釈、新たに作り直されたところにある。  
その具体的な例では、もとの台本では冒頭は設計者アンドリュースがタイタニックの偉大さを語るシーンだったが、沈没事故の責任を問う裁判の場面に変更され、被告席に立つ船主イスメイがタイタニックに託した人類の夢を語るという形になっている。 
また舞台美術に関しても、装置を絢燭に大掛かりに作ってしまうことで、「船」そのものに必要以上に観客の注意が向いてしてしまうことを避けるために、基本的に舞台奥のバルコニーと可動式の階段のみというシンプルなものにしている。

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さらに、ブロードウェイ版の台本では30人程だったキャスト数を20人程に減らし、これにより1人の役者が演じる人物の数が多くなり、例えば1人のキャストが一等客から三等客まで、早替えをしながら演じ分けていく。これは「タイタニック号の沈没は階扱社会の終焉である」という演出家の解釈に基づいたシステムで、「着ている服が違うだけで、一等客も三等客も、中身は皆同じ1人の人間なのだ」というメッセージが込められている。

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そのほかにも氷山衝突事故及び沈没の責任の所在を問う場面なども変更され、人間を尊重するトム演出の信念があらゆる場面で生きて、壮大な人間ドラマを構築することに成功している。

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キヤストには、初演に続き同じ役で出演する加藤和樹、藤岡正明、戸井勝海、薄田英佑、上口耕平、小野田鶴之介、栗原英雄、安寿ミラ、佐山陽規。初演とは別の役に挑戦する鈴木壮麻と菊地美香。新キャストとして加わる相葉裕樹、渡辺大輔、木内建人、百名ヒロキ、吉田広大、小南満佑子、屋比久知奈、豊原江理佳と、多彩な顔ぶれでの今回の上演となった。

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オープニング「出航」の場面、舞台上にタイタニック号の内部と甲板の風景が広がる。
次々と乗り込んでくる関係者、乗り組み員、そして船の客たち。 
M1の序曲では全キャスト22人が次々とタイタニック号への希望と夢を歌い上げるハーモニーが美しく迫力がある。

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船の関係者は、設計士アンドリュース(加藤和樹)、オーナーのイスメイ(石川禅)、スミス船長(鈴木壮麻)、そして一等航海士マードック(津田英佑)、二等航海士ライトーラー(小野田龍之介)、見張り係フリート(吉田広大)、通信士ブライド(上口耕平)、一等客の客室係エッチス(戸井勝海)、機関士バレット(藤岡正明)、さらにバンドマスターのハートリー(木内健人)やベルボーイ(百名ヒロキ)らが乗船している。

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乗船客は一等から三等まで分かれていて、豪華な待遇の一等客、富裕層と貧しい階級の中間にいる二等客、船底に押し込まれる三等客。タイタニック号に乗り合わせたそれらの人々が、それぞれの価値観や人生観、夢、愛を歌い上げ、その中に英国の階級社会や新天地アメリカへの期待などが浮かび上がる。

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初出航の希望に満ちて進むタイタニック号だが、一刻も早くニューヨークに到着して、この船の素晴らしさを宣伝したいオーナーのイスメイ(石川禅)は、スミス船長(鈴木壮麻)にスピードを上げるように指令を出す。 
設計士のアンドリュース(加藤和樹)は安全に進むべきだと主張するが、スミス船長は通信士ブライド(上口耕平)が伝えた氷山の情報を軽視。イスメイの指令通りにスピードを上げたタイタニック号は、氷山へ衝突する。 

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難破したタイタニック号、乗船していた人々の悲劇が始まる。
一等客室のためスペースを取られ、救命ボートは乗客者全員の分は用意されていなかった。そのために振り分けられる船客たち。一等客の女子供から順に優先的に避難することになり、三等客は出てこられないように鍵をかけられてしまう。改めて浮き彫りになる階級格差や人間の卑しさ。だが同時にそんな中で人としての尊厳を保つ人々もいて、その美しさと気高さには胸を打たれる。

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約2時間30分の上演時間に、全29曲もの歌がふんだんに散りばめられ、それぞれの登場人物の感情や思いが丁寧に紡ぎ出され、どれも聴き応えがある。
なかでも暗示的なのは、1幕終わりに見張り役のフリート(吉田広大)、船内の船長(鈴木壮麻)とマードック(津田英佑)とライトーラー(小野田龍之介)たちが歌い上げる「月無夜」、また、そこに流れるバンドマスター・ハートリー(木内健人)の「秋」。どちらもメロディが美しいが、これからの航海の不安を感じさせるような曲調になっている。 

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機関士のバレット(藤岡正明)のソロも印象的で、苛酷な労働への怒りを歌う「バレットの歌」、そして恋人への無線の電文を歌う「プロポーズ」のリプライズも含めて、その人間らしさが心に残る。
 
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階級が違うことでアメリカに駆け落ちするカップル、チャールズ・クラーク(相葉裕樹)とキャロライン・ネビル(菊地美香)のデュエット曲「この手をあなたに」は、階級を超える2人の愛を力強く優しく伝える。
また、二等客室のビーン夫妻の妻のアリス(霧矢大夢)は、上流社会への憧れがあるが、そんな妻に夫のエドガー(栗原英雄)は「人間に上下はない」と歌う。含蓄に富んだ歌だ。

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三等客の中にいる3人のケイト、ケイト・マクゴーワン(小南満佑子)、ケイト・マーフィー(屋比久知奈)、ケイト・ムリンズ(豊原江里佳)。アイルランド出身の3人が、新天地アメリカでの夢を他の移民たちとともに歌う合唱曲「なりたい メイドに」は、彼らの夢と希望が溢れている。

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避難場面では、一等客室のストラウス夫妻が歌うデュエット「今でも」が心に沁みる。夫のイシドール(佐山陽規)を残して自分だけ避難することを拒むアイダ(安寿ミラ)、長年連れ添った夫婦の絆を感じさせる歌だ。

そして最後のシーンで歌われる船を離れていく人々との別れの合唱「また明日、きっと」が、切なさを掻き立て、出航前に歌われた「いつの世も」と主題歌「征け、タイタニック」が、フィナーレでレクイエムのようにリプライズされる。どの曲も名曲揃いで、だからこそこのタイタニック号の悲劇が、ことさら胸に迫る。
登場人物たちそれぞれの人生の重みを感じる作品だけに、もし複数回の観劇が可能であれば、さまざまな人物の生き方を通して、また作品世界を見直してみたくなる、そんな奥の深い傑作ミュージカルだ。

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〈公演情報〉
ミュージカル『タイタニック』
脚本ピーター・ストーン
作調・作曲モーリー・イエストン
演出トム・サザーランド
出演◇ 加藤和樹、石川禅、藤岡正明、戸井勝海、相葉裕樹、津田英佑、渡辺大輔、上口耕平、小野田龍之介、木内健人、百名ヒロキ、吉田広大、栗原英雄/
霧矢大夢、菊地美香、小南満佑子、屋比久知奈、豊原江理佳、須藤香菜/
安寿ミラ 佐山陽規 鈴木壮麻
● 10月1日(月)-- 10月13日(土) 日本青年館ホール
 ●10月17日(水)-- 10月22 日(月)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 (東京) 0570-077-039  (大阪)06-6377-3888
公式twitter〉@MusicalTitanic



【文/佐藤栄子 撮影/友澤綾乃 】


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