IMG_9893

19世紀末に一斉を風靡した芸術スタイル「デカダンス」の申し子、オスカー・ワイルドの代表作『ドリアン・グレイの肖像』を、鬼才荻田浩一が20世紀末ロンドンに移して描くミュージカル『ドリアン・グレイの肖像』が、銀座の博品館劇場で上演中だ(30日まで。のち10月10日〜11日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでも上演)。

IMG_00005

『ドリアン・グレイの肖像』は、この上なく美しい青年ドリアン・グレイが、享楽主義者のヘンリー・ウォットン卿に感化され、淫らで不道徳な生活へと堕ちていく中で、自らの美貌を永遠に留める為ならば魂を差し出しても構わない、と神の摂理に背いた願いを持ったことから起こる、数奇な運命を描いた作品。作者であるオスカー・ワイルド自身を象徴する作品として知られ、これまでにも幾度となく舞台化、映像化が為されてきた。
今回のミュージカル『ドリアン・グレイの肖像』は、オスカー・ワイルド自身を題材にしたミュージカル『WILDe BEAUTY』も手掛けている荻田浩一が、原作の時代設定を20世紀末、1990年代のロンドンに移し、現代のドリアン・グレイを描くことを目指した作品となっている。

IMG_9184

【STORY】
1990年代、ロンドン。映像作家のバジル(法月康平)は、路地裏で出会った天使のように美しい青年ドリアン・グレイ(良知真次)に惹かれ、彼の美を芸術そのものと考えその姿をカメラに収める。
バジルは芸術家たちが集う秘密クラブ『悪の華』へドリアンを伴う。芸術家たちが自由に、自らが求める美を創造するこの秘密クラブを主宰し、「卿」と呼びならわされるヘンリー・ウォットン(東山義久)は、ドリアンを芸術家たちのミューズと認める。更に、ドリアンに単なるモデルではなく、君自身が芸術家になるべきだと囁き不品行な生活へと誘おうとし、自らの妻ヴィクトリア(東京公演・彩輝なお、大阪公演・星奈優里)がドリアンに関心を示すこともむしろ推奨する。バジルは『悪の華』にドリアンを伴ったことを激しく後悔するが、ドリアンはヘンリーやその妹グラディス(風花舞)らの享楽的なものの考え方に染まっていき、自分に芸術としての価値を与えている自らの美貌が永遠に衰えず、自分の美を切り取り封じ込めたはずの写真、映像、肖像画が老いていくことを願う。

IMG_9361

その頃、ドリアンの叔母を名乗る女性アガサ(剣幸)は、探偵のエイブラハム(風間由次郎)に、ドリアンの捜索を依頼していた。かつて高名なカメラマンであったアガサはドリアンに惹かれ、彼を撮影するが、会心の1枚と信じた写真に写っていたものに驚愕し、ドリアンの元を去ったものの、時を経て再びドリアンを見たいと願っていた。
一方ドリアンは街角で即興劇を演じる女優シビル(蘭乃はな)と出会い愛し合うようになっていたが、ドリアンに夢中になったシビルが自らを独占し、束縛しようとすることに幻滅し、シビルを容赦なく棄ててしまう。絶望したシビルは自ら命を絶ち、シビルの弟のジェイムズ(木戸邑弥)は姉を死に追いやったドリアンに復讐を誓う。
シビルの自殺に刑事アラン(村井成仁)も動き出すが、常に若く美しいままのドリアンの周辺では、更に醜悪な事件が起こっていき……。

IMG_9650

美しいものを見ることは誰にとっても心躍る豊かなものに違いない。外見ではなく内面の美しさこそが何よりも尊いと説くのは、人が如何に外見の美しさに惑わされ、我を忘れるかが自明の理であるからこそだろう。極単純に美しい方が第一印象の良さは飛躍的にあがるし、美しいことによって開く世界は、そうでないことの何倍も多い。
けれども一方で美しさを、それも人が羨むほどの美しさを持って生まれた人にしかわからない苦悩があるのもまた事実のようだ。実際に美貌を持って生まれたが故に、老いていくことの恐怖で精神を病んでいった女優の話しや、美貌を留めようとしたが故に惨たらしい犯罪に手を染めたことで歴史に名を留める美女の話しも残っていて、つまりそれほど「美」とは人にとって、永遠に渇望されるものなのだなと思わされる。
そんな美への妄執を描いた、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』が、世紀末の一過性の流行に留まらず、今尚読み継がれ、幾たびとなく舞台、映像の世界に登場するのは、美に執着する人間の業を作品が描き出しているからこそで、今回脚本・演出の荻田浩一が舞台を20世紀末にスライドさせたのは、美への渇望というテーマの普遍性を信じた故だろう。実際、肖像画が本人に代わって醜く老いていくという原作の描写を、特殊効果がいくらでも加えられる映像にしてしまって成り立つのだろうか?と企画を聞いた時には、やや不安な思いも残ったものだが、そこは独特の世界観と才能を輝かせる荻田浩一のこと。肖像画1枚に集約されていた原作の老いていく象徴を、更に広げることで、ドリアンが若さを保つ為に養分にしているものが「芸術家の才能」という、新たなドラマが生まれる様にはここにしかない魅力がある。

IMG_9786

特に、従来「オスカー・ワイルドの分身=ヘンリー・ウォットン卿」と捉えることが一般的な中、荻田が「オスカー・ワイルドの分身=ドリアン・グレイ」と考えていることが、作品に独特の視点を与えている。これによって、作中のヘンリー・ウォットン卿の比重が後退するのに相まって、ドリアンが唯一無二の主人公に感じられ、舞台の真ん中で進んでいる芝居だけでなく、様々な場所で幾多の人間模様が重層的に進んでいく荻田ワールドに、ドリアンという支柱が明確に屹立する効果をあげていた。

IMG_9303

そのドリアン・グレイに扮した良知真次は、ドラマが進むに連れて研ぎ澄まされた美貌が際立ってくるのが役柄の根幹を支えている。もちろん元々とても美しい人だが、本人の資質にナルシシズムに通じる色合いがあまりないこともあって、常にまとっている柔らかな雰囲気が取り払われると、ここまで凄味ある美貌だったのか!と改めて驚かされる存在で魅了する。優れた表現力も功を奏し、登場人物のすべてがドリアンに魅了され、翻弄されていく作品に説得力を持たせていた。

IMG_9784

そんなドリアンに翻弄される人々では、やはりスペシャルゲストスターの格で登場した剣幸が群を抜く存在感を示している。一見原作に準拠していると思えるドリアンを巡る物語が、外側から見ているアガサの視点が徐々に作中に入っていくことによって、思わぬ扉が開く荻田版『ドリアン・グレイの肖像』のキーパーソンでもある役柄を、剣が優れた演技力と歌唱力で表出したことが、現代の『ドリアン・グレイの肖像』の興趣になっている。
 
IMG_9461

この剣を筆頭に今回の座組では、女優陣が全員元宝塚歌劇団のトップスターであることが、荻田作品独特の世界観を担っていて、風花舞のダンス力と適度に毒のある表現力。彩輝なおのどんなに猥雑な芝居を演じていても、時にハッとさせられるほど無垢なものが香り立つ稀有な個性。清楚な外見と宝塚の娘役の殻の中にひた隠しにされていた蘭乃はなのエキセントリックさが、それぞれの役柄に生きている。彩輝に代わって大阪公演でヘンリーの妻を演じる星奈優里のしなやかな強さが、役柄にどんな変化を加えるのかも楽しみだ。

IMG_9508

一方男優陣では、法月康平の持ち前の歌唱力と格段に進化を続ける演技力。木戸邑弥の目を引かずにはおかない美貌と燃えるような瞬発力。剣と共にドラマの外から中へと向かっていく風間由次郎の漂わせる食わせ物感。村井成仁の精悍さの中にあるからこそ際立つ脆さの表現。と、それぞれが気を吐く中、劇中にセットとして掲げられるのではなく、実体として存在する「肖像画」の長澤風海の、常に変わらぬ身体能力の高さと、ドリアンに代わって穢れていく変化を確かに描き出した力量が見事だった。

IMG_9801

そしてもう1人、良知主演公演に参加した東山義久が、ヘンリー・ウォットンに濃いアクセントを残している。前述したように「オスカー・ワイルドの分身=ドリアン・グレイ」という解釈の中で、ヘンリー・ウォットンがドリアンを悪の世界に導く、という構図が劇中ではやや後退しているにもかかわらず、きちんと視線を集めるのは常にフロントランナーとして走ってきた、東山本人の力量によるところが大きい。オスカー・ワイルド自身の物語だった『WILDe BEAUTY』で、主人公をを演じている経験も生きた、如何にも贅沢な起用になり、作品に豊潤さを加えていた。

IMG_9672

総じて「目が足りない」という感覚に陥る、視覚的な情報量の多さが顕著な「荻田ワールド」が、作品の普遍性に加えて、現代に舞台を移したからこその、変わらぬものへの憧れと同時に虚しさも立ち上っていて、感性を刺激する新たな『ドリアン・グレイの肖像』となっている。

IMG_9180
IMG_9347
IMG_9376
IMG_9436
IMG_9490
IMG_9625
IMG_9584
IMG_9698
IMG_9826
IMG_9839
IMG_9887
IMG_9898
IMG_9924
IMG_9996
IMG_0012
IMG_00035
IMG_00048


〈公演情報〉
ミュージカル
『ドリアン・グレイの肖像』
原作◇オスカー・ワイルド 
脚本・演出◇荻田浩一 
出演◇良知真次 / 風花舞 彩輝なお(東京) 星奈優里(大阪) 蘭乃はな / 法月康平 木戸邑弥 風間由次郎 村井成仁 長澤風海 / 東山義久 剣幸 (Special)
9/21〜30◎博品館劇場
〈料金〉9,000円(全席指定・税込)
10/10・11◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
東京/博品館劇場 03-3571-1003
大阪/キョードーインフォメーション 0570-200-888 




【取材・文・撮影/橘涼香】


チケットのご購入で30%ポイントプレゼント!


kick shop nikkan engeki