IMG_0467

紅ゆずる率いる宝塚歌劇星組の選抜メンバーが、10月〜11月にかけて行う第3回台湾公演の上演作品である異次元武侠ミュージカル『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』タカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge/星秀☆煌紅』(アメイジングスター☆キラールージュ)が、東京・日本青年館ホールで上演中だ(24日まで)。

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は、台湾で「知らぬ人はいない」と言われるほど、伝統的に親しまれている人形演劇である「布袋劇」に、現代の風を持ち込んで制作された冒険ファンタジー。アニメ・ゲーム界を中心に幅広く活躍する人気シナリオライター・虚淵玄が原案・脚本・総監修を務め、2016年に日台合同映像企画として新たに制作、TV放映され、2017年新作が劇場上映、2018年にはTVシリーズ第2期の放映が決定しているなど、アジア各国で高い人気を集めている。今回の異次元武侠ミュージカル『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は、そんな作品初のミュージカル化で、宝塚得意の華麗なるビジュアル再現率が大きな話題を集める舞台が繰り広げられている。
 
IMG_0698

【STORY】
かつて魔界の軍勢が人類を滅亡させようと人間界に押し寄せた際、人々は魔神に対抗する為に強力な武器群を鍛造した。中でも最も危険な力を持つとされる聖剣「天刑劍(てんぎょうけん)」は、悪鬼の手に落ちることのないよう、刀身のみの状態で鍛劍祠(たんけんし)の祭壇に祀られて、柄と鍔が取り付けられ本来の姿が戻った時にだけ、初めて台座から引き抜けるようその力を封じ込められていた。
その鍛劍祠を守る役目である護印師(ごいんし)の兄妹・丹衡(たんこう・桃堂純)と丹斐(たんひ・綺咲愛里)は、兄が剣の柄を、妹が鍔を身につけ聖剣・天刑劍を守っていたが、聖剣や宝剣に並々ならぬ執着を示す玄鬼宗(げんきしゅう)の頭目・蔑天骸(べつてんがい・天寿光希)の手下、殘凶(ザンキョウ・大輝真琴)に襲われ、決死の戦いの末に兄・丹衡は瀕死の重傷を負い柄を奪われるも、「鍔さえ揃わなければ天刑劍が蔑天骸の手に落ちることはない、逃げ延びろ!」と妹・丹斐に天刑劍の運命を託して絶命。丹斐は深手を負いながらも辛くもその場を逃れる。
一方、寂れた仏堂の前で、折からの雨に石仏に立てかけられていた傘を持ち去ろうとした旅人・殤不患(しょうふかん・七海ひろき)は、鬼鳥(きちょう)と名乗る煙管を手にした謎の美丈夫(紅ゆずる)に「借りを返す覚悟はあるのか?」と話しかけられる。御仏に捧げられた傘を手にした以上、この先の旅路で誰であれ最初に出会った人に御仏に代わって慈悲をかけることになるという鬼鳥の言葉通りに、殤不患の前に深手を負ったままの丹斐が現われる。彼女を追ってきた殘凶と渋々ながらも剣を交えた殤不患は、見事殘凶を討ち果たす。丹斐から聖剣・天刑劍を巡る争いの一部始終を聞いた鬼鳥は、鍔を守り抜き奪われた柄を取り返すことが自分の使命だと語る丹斐に快く協力を申し出るが、厄介事に関わるのはごめんだと、殤不患はその場を後にする。だが鬼鳥は殤不患との再会までに長い時間はかからないことを確信していた。
果たせるかな丹斐を助け殘凶を殺したことで、玄鬼宗から命を狙われる立場になってしまっていた殤不患は、一夜の宿を求めた宿場で襲われ、助太刀に飛び出した血気盛んな若者・捲殘雲(けんさんうん・礼真琴)と、彼が憧れる弓の名手・狩雲霄(しゅうんしょう・輝咲玲央)と出会う。だがこれもまた鬼鳥の筋書き通りで、彼らは蔑天骸の居城七罪塔(しちざいとう)の結界を破る為に必要な人物たちだった。鬼鳥は夜魔の森に住む妖魔・刑亥(けいがい・夢妃杏瑠)、残忍な殺し屋であり、自らの命を狙っている殺無生(せつむしょう・麻央侑希)までを味方に引き入れ、それぞれの思惑を秘めたかりそめの仲間たちは、共に七罪塔を目指すが……

IMG_0513

伝家の宝刀『ベルサイユのばら』を例に引くまでもなく、宝塚歌劇はこれまでにも様々な漫画、アニメ、ゲーム等、まずビジュアルありきの作品の舞台化で数々の成功を納めている。近年では『ポーの一族』『はいからさんが通る』『天は赤い河のほとり』等の記憶が新しいし、原作ファンからも「神レベル」と称され、宝塚ファンのみならず原作ファンも多く客席に詰めかけた『るろうに剣心』『ルパン三世』『戦国BASARA』─真田幸村編─『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』等、宝塚歌劇としては一見異色と思われる作品群でも、高い評価を得て、新たなファンの獲得に成功してきた。
 
まして今回の作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』が、10月20日〜28日に台北、11月2日〜5日に高雄で上演される宝塚歌劇第3回台湾公演の為の演目であることを考えれば、台湾で愛され日本でも多くのファンを持つ冒険ファンタジーに原作を求めた脚本・演出の小柳奈穂子の視点は確かなものだったと言えるだろう。正直各キャラクターの名前を1回で聞き覚えるのはかなり難しいし、スピーディなアクション満載の2.5次元舞台に見慣れてしまった今の日本では、どうしても殺陣が緩やかに感じられる部分は残る。けれども、エクスカリバー伝説にも通じる「聖剣」を巡る争いという主筋がわかりやすいし、紅ゆずるの役どころのように偽名を名乗り、本名が別にあるというキャラクターや、通り名のあるキャラクターも宝塚ファンならスターで見分けられる利点があり、面白く観ることができる。
何より、こうしたキャラクターありきの作品に欠かせない、キャラクターと演者の個性のすり合わせを最優先事項にしていると思えるキャスティングの妙と、宝塚スターの優れたビジュアル再現率が、ストーリーを見事に運んでいる様が心憎い。

その筆頭が、はじめ鬼鳥(きちょう)と名乗る、博識かつ狡知に長けた謎多い人物・凜雪鴉(りんせつあ)に扮した紅ゆずる。常にくゆらせている煙管の煙で術を仕掛けたり、幻覚を見せるなどの技を持つものの、基本的に手練手管で人を操り、人を動かす人物で、自らはほとんど戦わない。全てに恵まれた人特有の何もかもが手に入る世界に飽き飽きしていて、刺激のある面白いと思えることをひたすら求めている美丈夫だから、所謂高みの見物を決め込むことが極めて多く、アニメーションでならとても個性的な人気の出るキャラクターなのも納得だが、極めて限られた上演時間の舞台で主人公として位置することは、相当にハードルの高い人物設定だ。けれどもこの役柄をきちんと主役として存在させてしまえるところが紅の強みで、男役としてはかなり高めに作った台詞発声と、天性の雰囲気作りで、凜雪鴉をトップスターが演じる役柄にちゃんと見せた力量はたいしたもの。これだけ動きの少ない役どころで真ん中を張れるのは並み大抵のことではなく、『ANOTHER WORLD』に続いて、トップスター紅ゆずるの真価を観た心持ちがした。

IMG_0781

丹翡(たんひの)綺咲愛理は、バービー人形のような抜群の頭身バランスと小顔が、最大限に活かされた役柄に巡り会い、どんなに気丈に振る舞っても強くなり過ぎず健気になる、愛らしい持ち味で役柄を美しく見せている。礼真琴演じる捲殘雲(けんさんうん)に一目惚れされる設定だが、礼との並びもとてもよく似合う上に、紅の凜雪鴉(りんせつあ)、七海ひろきの殤不患(しょうふかん)が、それぞれの思惑がありつつも、彼女に手を貸していく流れを極自然に納得させる、可憐さが大きな武器となった丹翡だった。

その丹翡に恋をする捲殘雲(けんさんうん)の礼真琴は、天下に名を馳せたいと願っている血気盛んな若者役で、久々に本人の学年と個性に合った役柄を溌剌と演じている。非常に早い時点で組の二番手男役になった為に、どうしても大人の役柄が回ってくることが多く、急速に貫禄も身につけているが、こうした猪突猛進の若者役はやはり礼の輝きを際立たせて実に伸びやか。約1時間半の上演時間にキャラクター紹介からストーリーの顛末、更に妖術までを詰め込んでいる関係上、ミュージカルナンバーは少なめなのだが、捲殘雲が英雄になりたいと故郷を旅立つシーンからはじまる冒頭に歌唱力も活かされていた。

IMG_0872

そして、義にも人情にも厚く腕も立つ殤不患(しょうふかん)の七海ひろきは、宝塚的に言うなればWトップが演じてもおかしくない、実質主人公とも言える役柄を、悠揚迫らぬ余裕さえ漂わせて演じているのに舌を巻いた。ストーリーの展開で大切なところは、ほとんど殤不患が担っているという大役中の大役を、ここまで七海が自然体で表出しているのに接すると、場を与えればこれだけ光の輝ける人がこのポジションにいる星組の贅沢さを改めて痛感させられる。凜雪鴉(りんせつあ)とはまさに対照的な人物で、だからこそ凜雪鴉が彼に興味を持ち物語が続いていくだけに、紅に対して絶対に位負けしては成立しなかった役柄を、七海が堂々としかも美しく描き出したことに拍手を贈りたい。改めて大切に遇して欲しいと願うや切の男役だ。

この七海を筆頭に、やはりキャラクターに人材を当てはめていったならではの大役に恵まれたスターたちが多くいるのも嬉しいことで、殺無生(せつむしょう)の麻央侑希は、抜群のプロポーションを活かしただけでなく、こせついたところのない大きな存在感が、原作の人気キャラクターの造形を的確なものにしたし、狩雲霄(しゅうんしょう)の輝咲玲央は、原作ファンから間違いなく絶賛を浴びるだろう見事なキャラクター再現率で地力を発揮。蔑天骸(べつてんがい)の天寿光希は、あまり大柄な人ではないことを全く感じさせないボスキャラぶりが卓越していて、その手下獵魅(りょうみ)の有沙瞳、凋命(ちょうめい)の天華えまが、同期生ならではのコンビネーションで黒い役柄を魅力的に見せ、それぞれ良いアクセントとなっている。廉耆(れんき)の美稀千種、刑亥(けいがい)の夢妃杏瑠、殘凶(ざんきょう)の大輝真琴ら、上級生が底支えする中、丹斐(たんひ)の兄・丹衡(たんこう)の桃堂純が、物語の端緒となる非常に重要な場面を立派に務めたのが印象的だった。

IMG_1062_1

そんな出演者の卓越したキャラクター造形が光る作品のあとに控えたのがタカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge/星秀☆煌紅』(アメイジングスター☆キラールージュ)で齋藤吉正の作。4月〜7月まで『ANOTHER WORLD』と共に星組が上演していた『Killer Rouge』をベースに、新場面を加えたこちらも台湾公演用のショーステージとなっている。
トップスター紅ゆずるにちなんで、 Rouge(紅)色で染まる冒頭から、テンポ良く一気呵成。人数が半分になっていることを感じさせないばかりか、オケボックスのない日本青年館のステージから、客席に届く圧はむしろ高まっているのでは?と思わせるショーアップの連続が楽しい。

IMG_1216

礼真琴のオオカミに綺咲愛里の赤ずきんちゃんをはじめ、賑やかに童話の登場人物たちが集うシーン、紅のスーパー刑事と黒髪ロングヘア—で更に艶やかな七海ひろきの女怪盗の攻防シーンなど、お馴染みとなった人気場面に加え、礼、綺咲、天華えまで歌われるロックシンガートリオや、スモークに包まれた幻想的な舞台で黒燕尾の紅が歌い踊る新場面も快調。中でも「紅子、海を渡る」と題された、紅演じる客席案内係「紅子」の久々の登場に、テンションの上がる観客も多いことだろう。

IMG_1475

紅の話術の素晴らしさにはますます磨きがかかっていて「二階の皆さんには見えているのかしら、それが何より気がかりだわ」と「紅子」が気遣いたっぷりなことが、おそらく見切れる観客の多いはずの二階席の空気も掌握することは間違いない。ここで登場する他のメンバーもとても可愛らしく微笑ましい。その紅はもちろん、大車輪の活躍の綺咲、キレまくるダンスがひと際秀逸の礼、あまりにも美しい男役ぶりが光る七海はじめ、選抜メンバーが大活躍。天華のジャンプアップした存在感、桜のラインダンスのセンターの有沙瞳などに加え、夕凪りょう、湊璃飛、希沙薫等の活躍も目を引く。

IMG_1642

中でも新場面の紅のソロから、男役群舞、娘役群舞、中心スターたち、そしてトップコンビのデュエットダンスまで息もつかせぬフィナーレナンバーはいつ観ても圧巻。この熱いショーの感触を更に熱くする絶大な効果をあげる構成に感嘆する。
総じて芝居、ショー共に台湾公演での喝采が予見できる仕上がりになったのが嬉しく、彼の地での成果を心待ちにできる舞台となっている。

IMG_1287

〈公演情報〉宝塚歌劇星組公演
異次元武侠ミュージカル『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』
〜虚淵玄 原案・脚本・総監修「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」より〜
(c)2016-2018 Thunderbolt Fantasy Project
 
脚本・演出◇小柳奈穂子
タカラヅカ・ワンダーステージ
『Killer Rouge/星秀☆煌紅』(アメイジングスター☆キラールージュ)
作・演出◇齋藤吉正
出演◇紅ゆずる、綺咲愛里 ほか星組
●9/13〜24◎日本青年館ホール
〈料金〉S席 8,800円、A席 6,000円 
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文・撮影/橘涼香】


えんぶ最新号


kick shop nikkan engeki