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永遠の命を持つとされる原初の吸血種「TRUE OF VAMP」=TRUMP(トランプ)の存在を軸に、「永遠の命」に翻弄される者たちを描くゴシックファンタジーの新作ミュージカル『マリーゴールド』が、池袋のサンシャイン劇場で上演中だ(9月2日まで。のち9月7日〜9日まで 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでも上演)。

劇作家・末満健一がライフワークとして2009年より展開する、「永遠の命」に翻弄される者たちの悲哀を描くゴシックファンタジー『TRUMP』は、末満自身の演劇ユニット「ピースピット」での初演の後、同ユニット、また俳優集団D-BOYSによる「Dステ」他において、キャスト・演出を変えこれまでに4回の上演を重ねている。

その後、ハロー・プロジェクトによる「演劇女子部」で『TRUMP』の3000年後を描いた『LILIUM─リリウム少女純潔歌劇─』、劇団Patchによる14年前を描いた『SPECTER』、更に2017年上演のシリーズ第4弾『グランギニョル』と、描き続けられる『TRUMP』ワールドは、いずれも大ヒットを記録。熱狂的な支持を集めている。

今回の新作『マリーゴールド』は、そんな『TRUMP』シリーズが2019年に誕生10周年を迎えるに向けたアニバーサリー企画の第1弾で、シリーズ初のミュージカル作品。TRUMP=永遠の命を持つとされる原初の吸血鬼「TRUE OF VAMP」の存在を追い求める、血と命と愛を巡る物語が展開されている。

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【STORY】
周囲との関係を断絶しているマリーゴールドの花に囲まれた屋敷。この屋敷の主人は人気小説家のアナベル(壮一帆)。だが、彼女が吸血種「ヴァンプ」を扱う小説をペンネームで書いていることすらも、知っているのは担当編集者であるコリウス(東啓介)等一握りの人々だけで、アナベルの娘ガーベラ(田村芽実)も、この館から外に出ることを一切禁じられ、窓からマリーゴールドの花が咲き乱れる庭を眺めることさえ、アナベルから厳しく咎められている状態だった。
他に館に出入りするのは、身体の弱いガーベラの主治医であり、アナベルの幼馴染ヘンルーダ(吉野圭吾)と、アナベルの妹のエリカ(愛加あゆ)だけだったが、ヘンルーダが治療以外にガーベラに関わることも、エリカが屋敷に出入りすることもアナベルは頑なに拒否し、エリカは仲睦まじい姉妹だった姉との関係を壊したのは、姪のガーベラの誕生故だと、姪を疎ましく思っていた。
また一方コリウスは、気高く聡明なアナベルにいつしか作家と担当編集者という関係以上の想いを抱くようになり、「ガーベラを守る」という行為から、アナベルを解き放ちたいという願いに執り付かれていく。だが、鋭敏な感性を持つガーベラは、自分に対するそんな周囲の憎悪に気づいていて、しばしば精神の安定を欠いていた。そんなガーベラにヘンルーダは「ガーベラの花言葉は『希望』で、アナベルにとって君は希望なんだ」と言い聞かせる。
そうした日々の中で、アナベルとガーベラは互いだけが互いを愛する対象だと固く手を取りながら生き続けていたが、ある日アナベルの小説の熱狂的なファンだという少年ソフィ(三津谷亮)と、その親友ウル(土屋神葉)が、コリウスの後をつけてアナベルの屋敷のある街へとやってくる。更にアナベルの描く小説の題材が反社会的なものだとして、彼女をマークしていた公安警察のベンジャミン(宮川浩)も現れ、マリーゴールドの花に囲まれた閉ざされた屋敷の中だけで完結していたアナベルとガーベラの暮らしは大きく揺らぎはじめ……。

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舞台は、一見しただけで不思議な美しさと同時にうっすらとした恐ろしさをも醸し出す、マリーゴールドの花を象徴的に使ったセットの中ではじまる。もちろんシリーズものなので、永遠の命を持つとされる原初の吸血種「TRUE OF VAMP」=TRUMP(トランプ)の存在と、不死の能力が消滅している吸血種「ヴァンプ」、そして人類、というこの作品の世界観を理解する必要はあるが、それを台詞さえきちんと聞いていればよい形で、しかも決して説明的でなく提示している末満健一の脚本が巧みだ。しかもこれが初ミュージカルという形でありながら、台詞から音楽への運び、またダンスシーンの挿入などが非常に自然で、終幕に向かって緊迫感を増していくドラマにほど良い息継ぎを与えていて、『TRUMP』シリーズとミュージカルという表現形態との親和性を感じた。

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その仕上がりの滑らかさに大きく寄与したのが、ミュージカルの世界での活躍が顕著な出演者の面々で、アナベルの壮一帆は、元宝塚男役トップスターだった人ならではの、押し出しの良さと包容力に加え、持ち前の深い演技力が生き、謎が謎を呼ぶドラマの根幹を支えている。アルトの台詞発声も役柄に相応しく、凛とした中に身を切るような母性を感じさせた。

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アナベルが守り抜こうとするガーベラの田村芽実は、このシリーズへの出演経験が豊富な人だけに、複雑な心理描写に凄味さえ漂わせる存在感。愛らしく親しみやすい素顔の魅力を封印しきって、役柄に憑依した凄まじさと哀しさが心を揺さぶらずにはおかない、強い印象を残して頼もしい。

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アナベルの担当編集者コリウスの東啓介は、飛びぬけた長身から東だとわかるというほど、個性的なヘアメイクで変身の妙を見せて興味を引かれる。大きな舞台での仕事が続いている、そのひとつひとつの経験が東の地力を着実に高めているのが伝わり、振幅の激しい役柄を十二分に支えていた。

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アナベルの妹エリカの愛加あゆは、姉であるアナベルへの敬慕故に複雑さをはらむガーベラへの愛憎を、渾身の力で演じている。迫力のある低いトーンでの台詞発声が自然で、愛くるしいとさえ思える容姿と声が乖離しないことに女優としての蓄積を感じさせた。壮とは宝塚時代にトップコンビだった深い縁のある間柄だが、姉妹という関係性に違和感がなく、女優同士としての二人の力のこもった邂逅が嬉しい。

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アナベルのファン、ソフィの三津谷亮は、初登場時の明るさがドラマの進展と共に変化していく様を、自在に見せている。登場人物の誰もが秘密を抱えていて、どんでん返しに次ぐ、どんでん返しとも言えるストーリーの展開の中で、一言の台詞、一言の語尾に、のちに「あっ!」と思わせるものを残したのには、三津谷の力量を改めて感じさせた。

そのソフィの親友であるウルの土屋神葉も、ほぼ出番がソフィと共にという流れでありつつ、ソフィとの関係に謎めいたものを残した佇まいがあるのが強み。美しい容姿も目に立ち、経験値の高いメンバーの中で大健闘している。

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公安警察ベンジャミンの宮川浩は、やはり頭抜けた存在感と歌唱力で、作品全体を引き締めている。大作ミュージカル作品への出演経験が豊富だが、こうしたゴシックファンタジーの世界にも巧みに染まるのが、さすがはベテランの妙味。舞台全体の重石とも言える存在だった。

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ガーベラの主治医ヘンルーダの吉野圭吾は、妖しい狂気を感じさせる役どころもこなせば、温かいお父さん役も務めるというこちらも役幅の広さが、控え目で温かく心の中に屈折も持っているヘンルーダを的確に描き出している。彼がガーベラに花言葉を教える、作品にとって重要な位置づけのミュージカルナンバーを、客席に印象的に届けた功績も大きい。

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他にも出演者それぞれに大きな働き場がある人の使い方もよく考えられていて、何より、冒頭から一見話が飛んだと思える場面の提示や、投げかけられた謎がすべて綺麗に回収されて尚、まだまだ奥深い物語があると思わせるシリーズものとしての強さと、ミステリアスなゴシックファンタジーの世界が強烈なインパクトを持っていた。劇作家末満健一のライフワークとも言えるこのシリーズが、熱狂的人気を得ている理由、その魅力を改めて感じさせる舞台になっている。

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初日に向けて、壮一帆、田村芽実、作・演出の末満健一からのコメントが届いた。

【初日コメント】

壮一帆
本作はTRUMPシリーズ初のミュージカルということで、楽曲も豊かで華やかです。
稽古場で仕上がったものに衣裳と照明が加わることで、より一層、ワクワクして頂ける作品に仕上がっていると思います。
ストーリーでは母娘、それを取り巻く人たちの人間模様が奥深く表現されているので、こちらも楽しみになさってください。
キャストはそれぞれに甘えることなく集中力を持って、稽古に取り組んできました。
カンパニーの力が凝縮された最高の舞台を皆様にお届けいたします!

田村芽実
TRUMPシリーズへの出演は4作目となりますが、今回も世界観に圧倒されました。
これぞ、《圧倒的美演劇》だと思っています。皆様の心をえぐります。どうぞお楽しみください。

末満健一
この作品を一言で述べるならば「母娘の愛の物語」です。でも出来上がった作品は、そんな言葉では言い表わせないほど生半可なものではなくなってしまいました。稽古をしながら思ったことは、愛には即効性と遅効性のものがあり、また致死量があるということ。壮一帆さんと田村芽実さんの演じる母と娘が、その致死量の愛の物語を身震いするような深度で体現してくれています。どうか、死ににきてください。

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〈公演情報〉
ミュージカル『マリーゴールド』TRUMPシリーズ 10th ANNIVERSARY
作・演出◇末満健一 
音楽和田俊輔
出演壮一帆、田村芽実、東啓介、愛加あゆ、三津谷亮、土屋神葉、宮川浩、吉野圭吾
●8/25〜9/2◎サンシャイン劇場
●9/7〜9◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
東京 サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (全日10:00〜18:00)
大阪 キョードーインフォメーション0570-200-888(全日10:00〜18:00) 



【取材・文/橘涼香 写真提供/ワタナベエンターテインメント】




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