_B5A5981_OK

死後の世界で繰り広げられる抱腹絶倒の人情話と、トップスター紅ゆずるの「紅」色に染まるショーが爽快な意欲作、宝塚星組公演 RAKUGO MUSICAL『ANOTHER WORLD』と、タカラヅカワンダーステージ『Killer Rouge』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(22日まで)。
 
RAKUGO MUSICAL『ANOTHER WORLD』は落語噺「地獄八景亡者戯」「朝友」「死ぬなら今」など、死後の世界を舞台とした作品を基に、宝塚ならではの純愛物語をからめて「あの世」で起こる様々な出来事が描かれた谷正純の作品。誰も知らない死後の世界が、こんなに賑やかで楽しいものだったら本当に良いだろうなと思わせつつ、与えられた命を精一杯生きることの尊さも描いた宝塚ミュージカルになっている。

_B5A5175_OK

【STORY】
大阪の両替商「誉田屋」の若旦那・康次郎(紅ゆずる)は、天空に蓮の花が咲く幽玄の花園で目を覚ます。なんて綺麗なところだろう、でもどうして蓮の花が空で咲いているのか?と疑問に思ったその時、康次郎は思い出す、そう、自分が死んだことを!康次郎は高津神社の境内で出会った、どこの誰ともわからぬ「嬢(いと)さん」に恋い焦がれ、やっとのことで相手が大阪の菓子屋「松月堂」のお澄(綺咲愛里)だと突き止めたものの、想いを募らせ過ぎた恋患いであっけなく命を落としてしまったのだ。
下界を見下ろせば康次郎の亡骸を前に嘆き悲しむ母・於登勢(万里柚美)と、父・金兵衛(美稀ちぐさ)の姿が……と思いきや、金兵衛は恋患いで死んだ息子を恥じ、両替商の跡取りならせめてもの償いに、貸した借金を返さぬままに死んでいった亡者たちから取り立ててこいと、頭詫袋に証文を詰め込み棺桶に投げ入れているところだった。あの世でまでも借金を取り立てろという父親の仕打ちに腹を立てた康次郎は、現世への未練を断ち切り「あの世」で人間らしく暮らそうと決意する。
そんな康次郎の前に「誉田屋」の手伝(てったい)・喜六(七海ひろき)が現れる。何故お前までがあの世へ!?と驚く康次郎に、喜六は康次郎が死んだ責任を取らされ、五日前に捌いた鯖の刺身をあてに自棄酒を煽っていたところ、鯖にあたってコロリとあの世にやってきたと話し、「松月堂」のお澄も康次郎への恋患いで身罷ったと話す。お澄もあの世にいるのならば、なんとしても閻魔大王(汝鳥怜)の裁きで極楽と地獄に分けられる前にお澄を探し出さなければ!と、康次郎は喜六と共に冥途の旅に出る。その道中であり余る金を持て余しこの世の遊興三昧に飽き飽きして、わざわざフグの肝を食べてあの世へとやってきた、江戸の米問屋「寿屋」の若主人・徳三郎(礼真琴)率いる賑やかな一行や、いつか極楽にいき福の神に生まれ変わりたいという夢を持ちながら「冥途観光案内所」の案内人を務めている貧乏神(華形ひかる)等、旅は道連れ世は情けと賑々しく仲間を増やしていく康次郎。やがて、古今の美女たちが一堂に会して踊る「美人座」で、あの世にも大流行しているというインフルエンザで休演中の静御前に代わって踊る、新入りの菓子屋の娘が評判を呼んでいると聞き、それはお澄に違いない!と、駆け付けた「美人座」でついにお澄に再会。この世で果たせなかった「夫婦」となる約束をあの世で交わしあった康次郎とお澄の純愛話は、「美人座」の呼び物となり満員札止めの盛況が続く。だが「美人座」の大繁盛を妬んだ他の小屋から手が周り、康次郎は冥途の新入りにも関わらず異例の早さで閻魔大王の裁きの場に呼び出されることになって……。

_B5A5328_OK

谷正純という劇作家には一風変わったところがあって、様々な日本物の作品で人情にあふれた人生の機微を描き出すかと思うと、一転、ドラマの展開の中でほとんどの登場人物が死んでしまうという、凄惨な物語を創り出すことも多く、作家の中で両者のカタルシスはどうつながっているのだろう?と常々不思議に思っていた。そんな振り幅の大きな谷作品の中で、突出して高い評価を得てきたのが『なみだ橋 えがお橋』『くらわんか』『やらずの雨』『雪景色』といった落語噺を基にした作品群で、その楽しさと同時にたくましさを感じさせる人生賛歌が、様々な試みをすべて「宝塚歌劇」の大枠の中に取り込んで咀嚼してしまえる劇団の懐の深さの中で、両極端とも見えるチャレンジを続けて来た作家の真骨頂として輝いていたのが印象深い。
そんな落語を題材にしたミュージカルを谷が満を持して大劇場で、しかも死後の世界「あの世」を題材に選んで上演すると聞いた時には、ずいぶんと思い切った試みをと驚く気持ちもあった一方で、谷の落語ものならきっと楽しいに違いないという信頼感が勝ったものだったが、幕を開けたRAKUGO MUSICAL『ANOTHER WORLD』は、まさに作家谷正純が大劇場で放ったクリーンヒットと言える快作。捧腹絶倒の中にホロリとさせる感動もある宝塚ならではの娯楽作品になっている。
考えてみればANOTHER WORLD=あの世に行ってみて帰ってきたという人は誰もいない。人はどこから来てどこに帰るのかの真実を、知っている人はいないだろう。だからこそその神秘には畏敬の念と共に恐れがあり、その恐れに救いを求める宗教が人にとって大きな拠り所ともなってきた。けれどもここで描かれるANOTHER WORLDには、とにかく前向きで明るい楽しさが詰まっている。「美人座」には古今の美女が集って舞を舞っているし、鬼が襲ってきても鬼退治で有名な桃太郎も渡辺綱も坂田金時も揃っている。更に、冥途歌舞伎座では十二代の市川團十郎が揃って各役を演じる「仮名手本忠臣蔵」が上演されているというのには爆笑させられたし、真打ち冥途歌劇団では男役スターが踊り、ラインダンスが華やかに繰り広げられて、『ベルサイユの蓮』が近日上演予定とのこと。この明るさ、煌びやかさはどうだろう。もちろん地獄八景の苦しみさえも笑い飛ばそうという落語噺の力強さを底本にしているとは言え、それが宝塚歌劇でしかできない華やかさに昇華されていて、ベテラン座付作家としての谷の力量を改めて感じさせた。何より大切な誰かを見送った経験のある人ならば、こんなに楽しい賑やかなところで愛する人が過ごしていると思えるだけで、温かい気持ちが満ちてくるはずで、これほど美しいANOTHER WORLDを堂々と描けるのは、宝塚歌劇を於いて他にない。

_B5A5412_OK

そんな作家谷正純に会心作を生み出させる原動力になったのが、主演の紅ゆずるの存在そのものであることは論を待たない。これまではいくら紅ゆずるというスターが卓越したコメディーセンスを持ち、豊かなサービス精神で場を盛り上げることに長けているからといって、宝塚歌劇でセンターを張るスターに、いつまでもコメディーリリーフを期待するのは違うのではないか?という気持ちがどこかにあったものだが、この『ANOTHER WORLD』の登場で、そんな杞憂もすべて雲散霧消するのを感じた。それほど紅の康次郎は膨大な台詞を澱みなく話し、想い人を追って駆け回り、徹底的に上方の「つっころばし」の滑稽味を持ちながら、ちゃんとスターで、ちゃんと二枚目だった。この離れ業は誰にでもできるというものではなく、紅の当意即妙の変幻自在ぶりにはただ感嘆するのみ。一生懸命に生きようと決意するラストシーンまで、紅ワールドの力量全開で、揺るぎない代表作を勝ち得た快演となった。

その康次郎が恋するお澄の綺咲愛里は、ドラマの半ば過ぎという遅い登場でも康次郎が探していたのはこの人だ!という印象を保ち続けたのが、トップ娘役の矜持を感じさせる。お澄という役柄は時にギョッとするような発言もしているのだが、持ち前の愛らしい顔立ちでなんとなく騙されて、あくまでも愛らしい「嬢さん」におさまってしまえるのが綺咲の綺咲たる所以。声質が意外にもアルトなのも今回の役柄には効果的で、愛くるしさの中に密かな良い意味の毒が潜む綺咲の個性が活かされたヒロインぶりだった。

_B5A5540_OK

現世の放蕩三昧に飽き飽きして「あの世」へやってきた徳三郎の礼真琴は、上方の二枚目の康次郎に対して江戸のいなせを担う役どころ。キメにキメた所作も粋だし、何より高い歌唱力が実は相当難易度の高い持ちナンバーを、そうとは気づかせずに楽々と歌っているのに地力を感じさせる。遊びという遊びを尽くした人が「恋の為なら死ぬという奴は大勢いたが本当に死んだ人を見たのははじめてだ」と康次郎に肩入れするという流れも面白く、悠々と舞台に位置していた。

康次郎の冥途旅のはじめの供となる喜六の七海ひろきは、微笑ましい天然ぶりが板についていて、学年を考えると驚くほど可愛らしく、台詞のないところでもそのふわふわパタパタした動きに度々目を奪われた。渋いナイスミドルも堂々と演じる七海が、こういう役どころにも楽々と染まるのは驚異的で、宙組時代にいきなりヒロインに抜擢されていっぱいいっぱいだった『風と共に去りぬ』のスカーレットから、ここに至るまでに七海が示した進歩と進化には惚れ惚れするばかり。美しき実力派として更に貴重な存在になっている。
 
また専科から特出の華形ひかるの貧乏神は『くらわんか』で華形自身が演じた役どころで、知っている人には更に思い入れが深まる粋な配役。福の神になれて良かったねと心から思えるし、もちろんこの作品だけを観ても華形の温かい持ち味が活かされていて舞台の彩を深めている。「めいど・かふぇ」の茶屋娘・初音の有沙瞳は可愛らしい外見を裏切るドスの効いた役柄を巧みに演じ、歌唱力も万全。三途の河の船頭・杢兵衛の天寿光希が、渡し賃が六文から六両に値上がりしている!と息巻くのが、康次郎が持たされた借金の証文につながるのも面白く、天寿の手堅い演技が展開をよくつなげている。

_G0A6682_OK

彼らを含めた康次郎ご一行様以外は、星組の多彩なスターたちがワンポイントで登場する上に、ほとんど特殊メイクに近い状態なので、あの人はどこ!?で大忙しになる公演でもあるのだが、その中でも大きな役どころ赤鬼赤太郎の瀬央ゆりあが、いくら凄んでもあまり怖くないのが瀬央らしさと共にスターらしさを感じさせるし、青鬼青次郎の麻央侑希のおおらかさも良い。閻魔大王の裁きの場で自らが裁かれてしまう右大臣・光明の漣レイラと左大臣・善名の紫藤りゅうも変化をよく現していて、ドラを叩く紫藤の姿の良さが光る。赤鬼赤三郎の桃堂純、赤鬼赤五郎の天華えまも冥途に最初に登場する鬼として目を引くし、桃太郎の極美慎の美しさがこの装束に生かされた。この公演で退団する小五郎の十碧れいや、蔦吉の白鳥ゆりやが特殊メイク班でないのも、座付き作者の配慮として美しい。それらの中で閻魔大王の愛人艶治の音波みのりが、現世では虞美人だったとわかる美貌の娘役ならではの役どころで、星組に音波がいる強さを感じさせる。

もちろん専科から特出の閻魔大王の汝鳥怜の存在感、廉次郎の母・於登勢の万里柚美、父・金兵衛の美稀千種のベテラン勢も適材適所。美稀には「冥途歌劇団」のスター役もあり、やり甲斐も大きいことだろう。何よりも桜の若衆と美女の「チョンパ」ではじまるオープニングから、徹頭徹尾宝塚の良さが生きたANOTHER WORLDが展開された、紅ゆずる率いる星組ならではの娯楽作品となったのが素晴らしかった。

_B5A5871_OK

そんな楽しさに弾けた作品の後に控えたのが、タカラヅカワンダーステージ『Killer Rouge』で齋藤吉正の作。今年三回目となる宝塚歌劇台湾公演でも上演されるショー作品で、「素晴らしい」「格好良い」「魅了する人」などを意味するスラング“Killer”と、紅ゆずるのその名もズバリ紅色=“Rouge”をテーマに展開される、スピーディーなショー作品だ。
幕開けから「紅」が印象的な舞台は「Rouge」一色。もちろん場面によっては他の色も様々に出てくるのだが、観終わってみると「紅色」が脳裏に焼き付いているのは、紅ゆずるその人の多彩なエンターテイナーぶり故に違いない。芝居のつっころばしの雰囲気とはガラリと変わったキレの良いこれぞ宝塚スターのカッコよさを見せたかと思うと、ゴミ袋をさげた冴えないサラリーマンが一転してスーパー刑事「Killer Rouge」に変身する等、紅ならではのシーンがたっぷり。高価な宝石を奪う女怪盗「Mask of Rouge」に七海ひろきが扮したのも、美貌と共に良いアクセントになっている。

_B5A5817_OK

もちろんトップ娘役綺咲愛里も冒頭の銀橋からの初登場を含めて大活躍。童話の世界が様々に混線する「赤ずきんちゃん」の愛らしさと変身の妙も楽しめる。ここでオオカミに扮する礼真琴の茶目っ気も楽しいし、メインシーンの「TANGO ROUGE」では高い身体能力も示して盤石。この場面で相手役を務める音波みのりの礼とのバランスが抜群で、学年的には難しいと知りつつも、音波トップ娘役待望論が絶えないのも納得の美しさを披露している。歌唱力に優れた有沙瞳もますます洗練されてきて艶やか。

_B5A5920_OK

また、瀬央ゆりあの存在感がひと際大きくなり、「POST ROUGE」では一場面を悠々と支えてより頼もしい男役になってきた。麻央侑希の男役スターとしての大きさはやはり魅力だし、いつまでも清新さを失わない紫藤りゅうに男役の色気が出てきたのも発見で、アピール力抜群の天華えま、美貌の極美慎と共に勢いを感じさせる。小桜ほのか、星蘭瞳の娘役有望株もよく目立っているし、専科の華形ひかるがショーにも出演して、持ち前のダンス力が活かされたのも嬉しく、見せる歌が歌えるようになったのはやはり経験の賜物だろう。

_B5A6129_OK

何より退団の十碧れいやにサヨナラショーのようなシーンが用意され、白鳥ゆりやも特段に目立つ配置になっているのに、齋藤の宝塚愛と美徳を感じる。これがきちんとあるから、アニソンや図らずも追悼の趣を帯びた西城秀樹のヒット曲や、及川光博の「紅のマスカレード」などJPOPが多数織り込まれている齋藤好みの選曲が悪目立ちすることなく、宝塚歌劇のショー作品に融合した効果は見逃せない。「桜」にちなんだヒット曲のサビ部分をある意味臆面もなくつないだラインダンスの編曲もいっそ清々しく、攻めの姿勢を貫きつつ、台湾でもきっと喝采を浴びるに違いないと確信できる仕上がりのショー作品となった。

_B5A6264_OK

初日を控えた通し舞台稽古のあと、星組トップコンビ紅ゆずると綺咲愛里が囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

_B5A6207_OK

で、作品の見どころを問われた紅は「芝居とショーのギャップ」を挙げて、多彩なショー場面を含めて本人も変身の妙を楽しんでいることが伺えた。また「関西弁のお芝居は少ないので、大阪をますます好きになってもらえるのでは?」と東京公演への意欲を見せた。

_B5A6216_OK

綺咲は「お芝居もショーもスピード感があり、お客様が観終わった時に『ああ、楽しかった』と思って頂けるものにしたい」とこちらも意欲的なコメントを披露。

_B5A6251_OK


自身のお気に入りと、互いのシーンで好きなところは?との問いには、紅と綺咲双方がフィナーレナンバーから続く、ラストのデュエットダンスを挙げ、囲み取材にこの衣装を選択した2人の息もピッタリ。紅から見た綺咲のお気に入りシーンが「赤ずきんちゃん」、綺咲から見た紅のお気に入りシーンがだめんずサラリーマンの「紅パパ」と、双方変身の醍醐味があるシーンを選んだところも面白く、トップコンビの絆の深さを感じさせる時間となっていた。

_B5A6246_OK
_B5A6244_OK

尚、囲み取材の詳細は舞台写真の別カットと共に9月9日発売の「えんぶ」10月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚星組公演
RAKUGO MUSICAL『ANOTHER WORLD』
作・演出◇谷正純
タカラヅカワンダーステージ『Killer Rouge』
作・演出◇齋藤吉正
出演◇紅ゆずる、綺咲愛里 ほか星組
●6/22〜7/22◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】  




えんぶ最新号販売中!
kick shop nikkan engeki