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破局寸前の不倫カップルと、偶然居合わせることになった男の妻の友人夫妻と、そのまだらボケの母親が繰り広げる一夜の顛末を描いた『大人のけんかが終わるまで』が、シアター1010のプレビュー公演と愛知、静岡、岩手公演を終え、いよいよ7月14日より、日比谷のシアタークリエで開幕する(29日まで。のち大阪、広島、福岡、愛媛、兵庫公演もあり)。

『大人のけんかが終わるまで』は、『アート』『大人は、かく戦えり』などの、シニカルな大人の会話劇を描きトニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞などに輝く、フランスの劇作家ヤスミナ・レザの最新コメディ。鈴木京香、北村有起哉、板谷由夏、藤井隆、麻実れいの豪華キャスト陣に、『炎 アンサンディ』等で文化庁芸術祭賞大賞や読売演劇大賞最優秀演出家賞など数々の受賞歴を誇る上村聡史の演出、演出家・俳優とマルチに活躍する劇作家岩松了の上演台本と、最強の布陣での日本初上演となった。

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【STORY】
不倫関係にあるアンドレア(鈴木京香)とボリス(北村有起哉)は、ある夜、レストランの駐車場で車を停めたまま揉めていた。ボリスが妻のお気に入りだというレストランで久々のディナーを摂ろうとしたことに、アンドレアが「デリカシーがない」と不満を爆発させたのだ。二人の言い合いは収拾がつかず、レストランには入らないまま車を発進させようとしたその時、駐車場にふらふらと歩み出て来た老女イヴォンヌ(麻実れい)に接触してしまう。あわや交通事故か!?と肝を冷やした二人だったが、幸いイヴォンヌは驚いて倒れただけで怪我はなく、心底安堵したのも束の間、イヴォンヌの息子のエリック(藤井隆)の事実婚の妻フランソワーズ(板谷由夏)が、偶然にもボリスの妻パトリシアの長年の親友だったことから、互いの間には口に出せない思いを察した大人同士のヒリヒリとした空気が漂う。だが、人の好いエリックは、イヴォンヌの誕生祝いの為にやってきていたレストランに「折角だから一杯」と、ボリスとアンドレアを誘ってしまう。
微妙な空気の中、上辺は平静を装い祝いの乾杯をしあう5人。だが次第にイヴォンヌの認知症、世話をするフランソワーズのストレス、そんな苦労に無頓着なエリックのマザコンぶり。更に、事業拡張の失敗から経済的に追い詰められているボリス、シングルマザーとしてのこれからとボリスの煮え切らない態度に情緒不安定になっていくアンドレアと、それぞれが抱えている問題が次々に明るみに出ていき……。

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この作品の原題『Bella figura(ベラ フィギュラ)』は、「表向きは良い顔をする」という意味のイタリア語の表現だそうだが、邦題を『大人のけんかが終わるまで』としたことが、実に巧みに作品のすべてを表している。開幕からスムーズに紹介されていく登場人物たち5人の関係性と、それぞれの想いが複雑に絡み合い、時には言い過ぎるほどハッキリと口に出し、また時には顔では笑って態度で嫌悪感をにじませる等、大人ならではのバトルがどこに向かうのか。まさに大人のけんかが終わったあとに何が見つかり、何がわかるのか?から目を離すことができない。
それぞれの言い分がぶつかり合う中には、相当に辛辣な口論も繰り広げられるのだが、そこに思わず爆笑させられてしまう場面や、ハッと胸を突かれるような驚きの場面、更に哀しみのこもった台詞など、作劇の中に喜怒哀楽がバランスよく組み込まれていて、戯曲の完成度の高さはさすがの一言。レストランの駐車場、室内、化粧室と回り舞台を効果的に使った転換もスムーズで、演出の上村聡史、上演台本の岩松了をはじめとした優れたスタッフワークが光っている。特に全国を回る公演であるため、多分に抽象的でありつつ細部を本格的に創り込んでいる長田佳代子の装置が、作品の実存感を高めているのも印象的だ。

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そして何よりも、この作品に集結したキャスト5人が、それぞれに絶妙な味わいと力量を発揮して、作品の演劇的興奮を高めている様が素晴らしい。

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アンドレアの鈴木京香は、精神安定剤が手放せなくなっているほどギリギリの心理状態にある女性像を的確に表して尚、美しさと気品を失わないのが魅力。それによって事態を相当にややこしくさせている、言ってしまえばかなりの確率で周りを引っかき回しているアンドレアが、微塵も嫌な女に見えないばかりか、孤独なんだろうな、本当はやっぱりまだボリスのことが好きなんだろうな、と彼女の心情にシンパシーを感じさせて見事だ。アンドレアに好感が持てるかどうかで、作品全体の印象も相当に異なるだろうことを思うと、鈴木の好演は非常に大きなものがある。

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ボリスの北村有起哉は、膨大な台詞が飛び交う作品世界の中では、比較的聞き役に回ることが多い役どころを、味わい深い存在感と懐の深い演技力で支えている。アンドレアの罵声を黙って聞いている姿にもボリスの中で感情が蠢ているのが手に取るように伝わるから、遂にキレて大声を出した時にも全く唐突感がない。劇中ボリスが置かれている状況の厳しさが次第に明らかになっていく哀切にも深い痛みがあり、彼の未来がどうなるのかひとつをとっても、作品の展開に釘付けにさせられる力を発揮していた。

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そのボリスの劇中には登場しない妻パトリシアの親友という、ドラマを動かす役どころ、フランソワーズを演じるのは板谷由夏。親友の夫の不倫現場に偶然立ち会う形になってしまった女性の正義感を毅然と表わした冒頭から、やがて自らの抱えるストレスや不満が爆発する感情の振幅をストレートに描いていて見応えがある。彼女の存在と芝居が作品の後味を好転させたのは間違いなく、まだ舞台2作目ながらこの豪華メンバーの中に入って互角に渡り合っての熱演は特筆もの。

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そんなフランソワーズの事実婚の夫で、いささかマザコン気味のエリックの藤井隆の嫌味のなさが、辛辣な台詞が飛び交う作品に柔らかさと可笑しみを増幅させて、効果は絶大だ。特にボリスへの職業的な忠告が親身にはなっているもののあくまでも他人事で、適度な距離感がありつつもちゃんと好い人に見えるという立ち位置は、誰にでもできる技ではない。気づかずに周りをイラつかせ、当の本人は全く違うところでイラついている藤井エリックの面白さと愛嬌が、作品の豊かさを深めている。

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そして、いずれ劣らぬ役者陣の中で、ひと際その存在が輝いているのがイヴォンヌの麻実れい。何度も同じ質問を繰り返し、答えを備忘録に書き留めるものの、すぐに記憶から抜け落ちてしまう。そんなイヴォンヌの、確かに認知症が入っていると思わせる言動の中に、恐ろしいほど的確に真実を見極める鋭い一言が織り込まれていて、その認知の揺れ具合がただただ絶妙。悠揚迫らぬ持ち味もこの役柄に生きていて、言動に大笑いさせられ、またホロリとさせられる。高い評価を得続けている演技派としてだけでなく、役者としてスターとしての大きさすべてを活かした好演で、この作品の根幹を支えている。

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そんな役者5人の丁々発止のやりとりが、演劇を観る喜びを最大限に引き出した好舞台で、シアタークリエの濃密な空間には、さらに映える仕上がりであることは想像に難くなく、芝居好きには必見の舞台となっている。

プレビュー公演初日には、キャスト5人からのコメントも届いた。

【出演者コメント】

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鈴木京香/アンドレア役

いよいよ始まるなという気持ちですが、やはり舞台に立ってみると稽古場の時よりも楽しさが増えてきた感じがします。この客席でお客様が観てくださると思うと、緊張もしますけど、なにより楽しみですね。演出の上村さんのもとで、5人のキャラクターを皆でつくってきたので、私もアンドレアを生き生きとした女性として演じたいですし、どのキャラクターにもイヤな人がいないといいますか、どこか共感してもらえるところがあると思います。すてきなお芝居になっていますので、お客様にはぜひ楽しみに来ていただきたいと思います。

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北村有起哉/ボリス・アメット役

いざ舞台に立って稽古をしていると、そんなに僕自身出ずっぱりではなく、セリフをまくし立てるわけでもないのに、思った以上に疲弊する舞台だなと感じました。ただ、今回ほど不安な部分がない舞台も初めてで、どんなことが起こっても動揺しないで、リラックスして初日に臨めるかなと思います。大人のコメディーと銘打っていますが、それだけではなくて、もっとたくさんいろいろなお土産が出来る、いろいろな想いを残して、余韻に浸れる舞台だと思うので、お客様にはその部分も含めて十分味わってもらいたいです。

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板谷由夏/フランソワーズ・イルト役

今まで稽古場でお稽古をしていましたが、いざ舞台に立つと、空気感といいますか、自分の中の何かが変わるのを感じ、一生懸命に稽古したことや、稽古の時以上のものを出せるように、頑張るしかないと思っています。舞台の上ではずっとケンカをしているので、私は俯瞰で見ることが出来ないのですが、お客様がこの舞台で何を受け取ってくださるのか、私自身すごく興味があるので、観ていただいた方に、ぜひ何か感じとっていただければと思います。

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藤井隆/エリック・ブルム役

舞台稽古では、衣裳をつけさせていただいて、美術セットの中に入らせていただいて、照明の中に立たせていただいて、緊張感がいまMAXの状態です。もう初日を迎えるので、なんとかこの場に慣れるように、努めます! 今は客席に誰もいない状態でお稽古をしてますが、お客様に入っていただいたら、力をいただけるんじゃないかと思っておりますので、どうぞ劇場でお待ちしています。

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麻実れい/イヴォンヌ・ブルム役

初夏にふさわしい、ちょっと大人の辛口コメディーですので、楽しんで演じたいと思います。こういうちょっと辛口の楽しい作品には、私たち自身もそうですが、お客さま方にとってもなかなか出会えないと思うんですね。ですから、日本では女性中心の客層になることが多いですけれども、ぜひこの舞台はご夫妻でいらっしゃると、とても面白いと思います。お二人でいらして、観劇なさって、その後、お二人の時間を過ごす。それには最高の、すてきな幸せな時間をお届けできる作品だと思います。

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〈公演情報〉
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『大人のけんかが終わるまで』
作◇ヤスミナ・レザ
翻訳◇岩切正一郎
上演台本◇岩松了
演出◇上村聡史
出演◇鈴木京香 北村有起哉 板谷由夏 藤井隆 麻実れい
●7/14〜29◎シアタークリエ
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9:30〜17:30)
●8/1◎大阪・岸和田市立浪切ホール
●8/3◎広島・上野学園ホール
●8/5◎福岡・博多座
●8/8◎愛媛・松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
●8/10〜12◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
〈公式サイト〉http://www.tohostage.com/otona/




【取材・文・撮影/橘涼香】


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