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珠城りょう率いる月組選抜チームのパワー弾けるミュージカル『雨に唄えば』が、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(4日まで)。

ミュージカル『雨に唄えば』は、1952年に大ヒットしたジーン・ケリー主演の同名ミュージカル映画を1983年にロンドンで、1985年にブロードウェイで舞台化し、今尚愛され続けている作品。宝塚歌劇では2003年に安蘭けい主演の星組で初演、2008年に大和悠河主演の宙組で再演されていて、今回はその宙組公演から10年の時を経ての上演となった。

【STORY】
1927年サイレント映画黄金期のハリウッド。モニュメンタル映画の看板スター、ドン・ロックウッド(珠城りょう)は、リナ・ラモント(輝月ゆうま)とのコンビでヒット作品を連発していたが、時代や設定を変えただけで同じ内容のラブロマンス映画に出演し続けている自分の仕事と、ドン&リナの人気を煽ろうと宣伝部が仕掛けた「二人は私生活でもゴールイン寸前」というゴシップを信じこんでいるリナの恋人気取りの態度とに心底うんざりしていた。そんなドンを常に励ましていたのは、親友でピアニスト兼作曲家のコズモ・ブラウン(美弥るりか)。かつてボードビルの舞台で歌い踊っていた時代の相棒だった二人は、立場が変わり成功を納めても変わらぬ友情を育み続けていた。
そんなある夜、コズモに代役を頼み、1人街歩きを楽しんでいたドンは、目ざとく彼を見つけたファンから逃れる為、たまたま居合わせた1人の女性キャシー・セルダン(美園さくら)の恋人を装いその場をやり過ごす。だがキャシーはドンの振る舞いに抗議。スターならば何でも許されると思ったら大間違い、サイレント映画のスターは台詞ひとつなく、ただパントマイムをしているだけで到底役者とは言えない、と酷評して去っていく。だが、初めて自分を特別扱いしなかったキャシーの面影は、逆にドンの心に強く残り、やがて運命に導かれるように再会した二人は互いに恋に落ちてゆく。
そんな折も折、ハリウッドにもトーキー映画の波が押し寄せ、モニュメンタル映画もドン&リナの新作「闘う騎士」を急遽トーキー映画で撮影することになる。だがリナは人前で挨拶をさせることさえ宣伝部が避けてきたほどの悪声の持ち主だった。当然ながら「闘う騎士」試写会は大失敗。この映画が公開される6週間後には自分の名声も終わりだと落ち込むドンを、いつものように励ましていたコズモがある名案を思い付き、キャシーも諸手をあげて賛成するが……

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この作品と、その元になった映画を観る度に思うことなのだが、アメリカの古き良き時代のストーリーの逞しさと、あくまでもハッピーな在りようにはただただ感嘆させられる。映画がサイレントからトーキーへと生まれ変わった時代と言えば、映画界にとっては間違いなく革命が起きた時代で、新たなスターが生まれ、映画の可能性が大きく広がった影で、ルドルフ・ヴァレンチノをはじめとしたサイレント映画の大スターが「英語の台詞を流麗に話せなければならない」という新たな要求の前に、敗れ去っていった格闘の歴史がある。もちろんスタッフ陣にとっても、製作会社にとっても、この大変革がどれほど困難な挑戦の連続だったかは想像に難くない。
けれどもこの作品がそうした全てを、何もかもひっくるめて笑い飛ばして、あくまでも前向きで元気でハッピーなエンターテインメントに仕上げているのには恐れ入る。ドンがトーキー映画の大失敗に将来を悲観して自宅が抵当に取られると嘆くと、コズモが明日は日曜だから週明けまでは大丈夫だと保証(?)したり、ドンが職を失うと言えば、コズモがまた靴磨きでも新聞売りでもできるさと答える。それじゃあ全然励ましになっていない、という気がするのはこちらの感性がウエットなせいで、生きていれば必ず朝がきて、また良いことがある!と歌う「GOOD MORNING」の清々しさや、なくてはならないものだけれども、外出の日に降っているとちょっと憂鬱という雨の日を、最高のハッピーに変えてしまう「SINGIN' IN THE RAIN」には、アメリカのエンターテインメントがある時代まで確かに持っていた王道の力が漲っている。スーパーバレエダンサーとして一世を風靡したアダム・クーパーが、鮮やかなミュージカル俳優デビューを果たしたロンドン製作のバージョンでは、この雨の中のダンスに12トンもの本水が降り注ぎ、舞台も客席もずぶぬれで大騒ぎ!の一大ページェントが繰り広げられてもいて、これは2014年、17年と来日公演が行われているからご覧になった方も多いだろう。とにかく万事に陽気で、アグレッシブなパワーがあふれるミュージカルなのだ。

その点で今回10年ぶりに宝塚の舞台に蘇った『雨に唄えば』は、非常に正しいショーアップがなされていた。特に、「SINGIN' IN THE RAIN」のナンバーで本水が使われることが主流になり、役者の着替えや舞台の清掃などの為に、このタイトルナンバーまでを1幕に入れてしまう必要が生じて以来、この作品の難しさはドラマの大きな動きの部分がほぼ1幕で語られてしまうことにあった。物語のハッピーオーラが明確なだけに、リナの懸命の悪だくみが成功しないことは完全に見えていて、ドラマツルギ—としてのバランスは必ずしも良くない。だが、それが宝塚の手にかかると、2幕でコズモがミュージカル映画の構想を語る「ブロードウェイ・メロディ」のショー場面の華やぎが、謂わばお手の物の輝きを示すから、2幕にもちゃんと大きな山場があると感じることができる。特にショー作家として安定した作品を創り続けている中村一徳の演出が、ショーアップのツボを心得ていることが大きく、KAZUMI-BOYの振付と共に2幕を大いに支える力になった。他にも玉野和紀のタップダンス指導と振付、関谷敏昭の装置等、美しく軽やかなスタッフワークの良さが舞台に際立っている。

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そんなステージの中心に立つドン・ロックウッドの珠城りょうの持ち味が、この役柄に殊の外よく合っていて惹きつけられる。珠城の舞台には抜擢されはじめた下級生時代からすでに、骨太な貫禄が感じられていたものだが、特にサイレント映画の大スターという今回の役柄が、彼女の真っ直ぐで正統派の、これぞ王道のスターぶりに合致した効果は見逃せない。ドンが少年時代から大スターとなった現在までを語る序盤のシーンは、それこそ今なら「経歴詐称」と叩かれるに違いない粉飾だらけのものだが、スターにはプライベートを秘匿する権利があり、情報網も限られていた時代ならではの大物感の中に、生一本な真面目さという芯が通っているのが、珠城ドンのしっかりとした個性になっている。これによって、ドンがキャシーのことをずっと気にかけているという設定にも真実味が生まれて、非常に誠実な好人物のドンとして、月組の『雨に唄えば』を創り上げた功績には大きなものがあった。

そのドンの長年の盟友であるコズモ・ブラウンは、これまで主としてコメディ・リリーフとしての役割りを担ってきた大役だが、そこに美弥るりかが入ることによって、コメディアンとしてだけでなく、ドンの華やかな相棒としての側面がより深まって感じられたのが新鮮だった。ビッグナンバーの「MAKE'EM LAUGH」はもちろん、ドンとのタップダンス、芝居のやりとりすべてに華があり、ここまでドンとコズモにバディ感が生まれたのは、宝塚の過去の上演だけでなく、来日公演等を通じてもこの月組パーションが突出していたと思う。トップに次ぐ強力な男役がいることが、宝塚歌劇が面白くなる大きな要素のひとつだが、今の月組はその意味で群を抜いていて、美弥の存在はやはり月組にとって、ひいては宝塚にとって貴重の一語だ。

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この二人のコンビ感が強いだけに、ドンと恋に落ちるキャシー・セルダンの美園さくらは大変だったと思うが、歌唱力に秀でているという役柄に説得力を与える歌声がまず美しい。メイン3人に全員歌える人が揃ったのも、宝塚の過去の上演の中で初めてで、『雨に唄えば』のナンバーであることを離れて、スタンダードナンバー化している楽曲が非常に多いこの作品の魅力を伝えていた。芝居もよく考えられているし、フィナーレの珠城とのデュエットダンスの髪型が一番顔立ちに映えて美しかったので、ビジュアル面の研鑽も積めば更に伸びてくることだろう。

そしてもう1人、この作品に欠かせない重要な役どころリナ・ラモントには輝月ゆうまが扮した。これまでも真飛聖、北翔海莉と男役の期待株がこの役柄を演じてきたが、それだけに難しいポジションを輝月が十二分に演じたのは賞賛に値する。まずまさかこの顔からこの声が出るとは!?と驚かせられるほど綺麗でないと成り立たない上に、完全なヒールになってしまうとまた違う、適度にヌケている必要もあるという役柄をちゃんと造形して、輝月の力量を改めて示す場になった。特に公演初日から終盤にかけてどんどん華やかさが増したのは、実力派だけに脇に回ることが多かった輝月のキャリアに、センターにいることの経験値が増えた証で、作品にとっても本人にとっても幸運な出会いになったことが何よりだった。
 
また、映画監督ロスコ—・デクスターの蓮つかさは、台詞、仕草全ての間に快調なテンポがあり、ここまで上手い人だったのか!と感嘆させられたし、リナの「友達〜」のゼルダ・サンダースの叶羽時が、歌にダンスに技術の高さを見せていて、ヘアメイクのセンスも抜群。リナの発声指導者ミス・ディンスモアの玲実くれあのカリカチュアされた役作り、映画宣伝部ロッドの春海ゆうの地に足の着いた演技双方が、作品のバランスを絶妙に支えている。惜しくも休演となった佳城葵の代役で、発声コーチを務めた朝陽つばさの大健闘も特筆もので、この公演で退団するメイク係の茜小夏にフィナーレでも目を引く配慮がなされているのは、これぞ宝塚の美徳で作品同様に心温まるものだった。

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ベテラン勢では、撮影所長シンプソンの光月るうが月組副組長となって、ゆったりとした演じぶりと役柄の据わりが格段に良くなったし、この時代を象徴する存在である映画コラムニスト、ドラ・ベイリーで専科から特出した五峰亜季が纏っている宝塚の品格が、この古き良き時代の作品の世界観を創り上げたのはさすが。スターダンサーだった五峰が経験を重ねて貴重な演技者になっていることが素晴らしい。

ひとつ、少年時代のドン白河りりと少年時代のコズモまのあ澪がとても愛らしく目立つだけに、すぐ続くシーンでも少年役として出てくるのがちょっと混乱を招くのが気になったものの、深刻な時代も事柄もすべて歌と踊りで笑い飛ばす、徹頭徹尾ハッピーなミュージカルを月組選抜メンバーが力強く支えたパワーの光る舞台となっていた。

【囲みインタビュー】

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初日を翌日に控えた舞台稽古の後、珠城りょうと美弥るりかによる囲み取材が行われ、二人が公演への抱負を語った。

珠城 皆様本日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。今なんとか無事に舞台稽古を終えてホッとしております。とてもやることが多くてちょっとバタバタしてはいるのですが、でもすごく自分自身もやっていて楽しいなと感じている作品ですし、ご覧になられたお客様にもきっとハッピーになって劇場を後して頂けるるような作品になるのではないかなと思いますので、心を込めて明日から頑張りたいと思います。よろしくお願い致します。 
美弥  (司会に「美弥さんどうぞ」と振られて「え?私も?そうなんだ」と、一瞬笑いながら)本日はお忙しい中ありがとうございます。通し稽古が終わって本当に作品を観て頂く方には、気楽に楽しく観て頂きたいなと思うのですが、意外と結構裏はバタバタしておりまして(笑)、自分が観ていた頃はこんなに大変だとは思っておらず、改めて大変さを実感しております。梅雨の季節ではありますが、皆様に雨が好きになって頂けるような素敵な作品に、(珠城)りょうちゃんを中心に皆で頑張っていきたいと思います。よろしくお願い致します。 

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──ハッピーな気持ちになれるとのことですが、見どころを教えてください。
珠城 見どころは全部と言いたいところなのですけれども、本当に1人ひとりのキャラクター、役名がある人たちだけではなく映像を撮影しているスタッフとか、ちょっとした役で出ている子たちも、細かいところまで役づくりをして、生き生きとお芝居をしてくれています。また、ミュージカルナンバーがすごく沢山ありますので、きっと『雨に唄えば』という作品をご覧になられていない方でも、曲だけは知っているという方もたくさんいらっしゃると思いますので、 そういったダンスナンバーも魅力なのではないかと思います。 
美弥 りょうちゃんが言ってくれたように、沢山の名曲があります。 1幕ラストは本当に雨が降っていて、舞台稽古で初めて私たちも雨が降っているのを見たのですが、結構どしゃ降りで(笑)。大雨警報が出そうなくらいの雨なのでドキドキしながら見ていたのですが、袖にハケてきたりょうちゃんは「楽しかった〜」みたいな感じで戻ってきたので「すごい!」と思ったのですが、(珠城に)どうですか?
珠城 そうですね。お稽古場では水があると想像してやっていたので、実際にやってみると気持ち良く、どんどん高揚していくというか、それによって自分もより嬉しくて幸せな気持ちになります。今まで雨って「憂鬱だな」と思うことが多かったのですが、この作品を通して「雨も嫌いじゃないな」と思えるようになりました(笑)。

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──雨は実際に体験してみてどうでしたか?
珠城 結構すごいどしゃ降りなんです!でもこの季節にはちょうどいい温度で。 
美弥  本当に!?
珠城 冷たすぎずぬる過ぎず気持ちがいいです。でも結構どしゃ降りなので、まつ毛だけは死守したいと思っていますが(笑)。最後は帽子も取ったりしていますし、あの場面の衣装は濡れると色が変わっていく生地になっているので、そこも見て頂けたらいいなと思います。 
──美弥さんは大ナンバーがありますが、その場面の感想を教えてください。
美弥 前回の星組さん、宙組さんとは、大道具や小道具がちょっと変わってニューバージョンなのですけれども、とにかくずっとマラソンを走り続けている感じで、とてもやりがいのあるナンバーです。本当に皆との息が合わないと完成しない場面なので、皆で色々なことを相談しながらタイミングとかを細かくやっていきたいです。でも観ている人にはこちらの大変さなんてどうでも良くて(笑)、クスッと笑って頂けるような場面になればいいなと思います。 

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──ショーとの二本立て作品と変わらないほどの体力が必要な作品ではないかと思いますが、特にタップダンスなどはいかがでしたか?
珠城 ここに来るまでが大変で、毎日美弥さんと「1日1回はタップシューズを履こう!」と言って、2人で毎日練習してきたので、その成果が少しでも出ていればいいなと思いながらやっております。(美弥に)どうですか?
美弥 ドキドキするよね!今回はタップシューズにもマイクをつけて頂いていて、すごく鮮明にね。
珠城 はい、音が!
美弥 ある意味失敗しても鳴ってしまうので、そこはちょっとドキドキしたりしますが、でも本当に2人で一生懸命お稽古してきたので、その成果が皆様に伝わると嬉しいです。 

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──2人のコンビがかなり重要になってくると思いますが、お互いの魅力は?
珠城 最近、お芝居を通して関係を深めていったり、『All for One』ではもともと仲間としてやっていたりとか、お芝居ですごく深い関係性の役をさせて頂いてからの幼馴染みという役なので、すごく安心感があります。 
美弥 ありがとうございます!私も学年の差はあるのですが、それをお互いが感じさせず、心の会話と言いますか。お芝居もそんなに2人で細かく相談をするタイプではなくて、お互いがやってきたことを 「そうやるんだ、じゃあ自分はこうしてみようかな」と自然とやっている感じなので、言葉が少なくても友情関係が見えていくというところに繋がればいいなと思っております。

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〈公演情報〉 
宝塚歌劇 月組公演
ミュージカル 『雨に唄えば』
演出◇中村一徳
出演◇珠城りょう ほか月組
●6/16〜7/4◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席8,800円 A席6,000円
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100 (10時〜18時)



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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