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悲劇の女王として名高い、スコットランド女王メアリーと、その愛人として、ともに故国に反旗を翻し追われたボスウェル伯との恋の顛末を中心に、変転に満ちた、波乱万丈のヨーロッパ史を描く物語が、5月29日から6月3日まで、赤坂RED/THEAERで上演中だ。
 
この作品『不徳の伴侶 infelicity』〜女王と愛人、毒婦と奸賊、メアリー・スチュアートとボスウェル伯〜は、作・演出家の荻田浩一が10年以上あたためてきたもので、作曲の福井小百合との共同企画により、朗読(クローゼット)ミュージカルという形での新作上演となる。出演は彩乃かなみ、藤岡正明、百名ヒロキ、舘形比呂一、吉本真悟、そしてシルビア・グラブという、歌やダンスに優れた豪華な顔ぶれとなっている。
 
その舞台で、スコットランド女王で悲劇の王妃として知られるメアリー・スチュアート役の彩乃かなみ、愛人から3人目の夫となったボスウェル伯の藤岡正明、メアリーの2番目の夫ダーンリや息子ジェームズ一世など何役か演じている百名ヒロキ。3人にまだ開幕前の時期に、作品に取り組む気持ちやお互いについてなど話してもらった。
 
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悲劇の女王と呼ばれるけれど
立場の中で精一杯生きた人
 
──それぞれの役について話していただきたいのですが、メアリーは作・演出の荻田さんからぜひ彩乃さんでとお名指しだったそうですね。
彩乃 荻田先生とは宝塚での先生と生徒時代からですから、もう20年以上になります。よく知っていてくださる先生の作品の出られることが、本当に嬉しいです。メアリーという人については、まず調べるところから始まりまして、今、私が生きている世界では考えられないような生涯を生きた人で、5才で父王を亡くして、6才で政変のためにフランスに逃亡したり、その出生ゆえに自分の思いとは全然ちがうところで翻弄されていく人で、高貴な生まれであればあるほどそうだったわけですよね、そういう生まれを受け入れるか恨むかという狭間で生きてきた人だと思います。ただ悲劇の女王とよく言われますけれど、何度も恋をしたり、政治についてもそうですが、その立場の中で精一杯生きたと思いますので、その人間らしさみたいなものをお伝えできたらいいなと思っています。
藤岡 僕の役のボスウェル伯は、3人目の夫なのですが、今回の台本では捉え方が違っていて、史実よりも理性的な部分を持っている人になっています。そこが僕がこの役を面白いなと思うところで、また、とても博学で頭がよくて、兵法なども長けているという。僕はそういう頭の良い役はあまりしてないし(笑)、「伯」という字が付いている役はすごく久しぶりだなと。その後のメアリーの運命を決めるかなり重要な存在なので、大事に探りながら演じていきたいと思っています。
百名 僕は色々な役を演じていますが、メインはメアリーの2番目の夫となるダーンリ卿とメアリーの息子ジェームズ1世を演じます。でも、最初に「百名」という役でも出るんです。
彩乃 ストーリーテラーみたいな役どころですよね。他にもそういう方は何人かいるのですが、私と藤岡さんは1役だけです。
──百名さんは、こういう歴史ものへの取り組みは?
百名 あまり出演していないので、まず歴史を調べることから始めました。ただ、台本になったものは、思った以上に時代とか人間関係とかわかりやすくて、お客様にも、とてもわかりやすく観ていただけると思います。
──荻田さんは百名さんに白い部分と黒い部分をそれぞれ期待しているそうですが。
百名 ダーンリが黒ですね(笑)。でも彼が16才で出てくる場面もあるので、そこは白かもしれません(笑)。
 
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音楽があることで
お客様と歩幅を合わせやすくなる
 
──今回は朗読ミュージカルということですが、ミュージカルでは定評のある方々ばかりですね。
藤岡 まずは彩乃さんでしょ。
百名 お二人ともすごいですよ。
──ミュージカルであることの良さや難しさは?
彩乃 メロディラインが美しいことで、お客様に心地よさを与えられると思いますが、歌う側からすると、あまり曲が綺麗すぎると何を歌っていたのか歌詞が伝わらないということもあるので、そこは技術を駆使するしかないのですが。今回は心情を歌う部分だけでなく、情景とか情勢を細かく伝えるところもあるので、きちんと伝えたいと思っています。それから私は自分が劇場へ行ったときに、オーバーチュアだけで泣けてくることがあって。音楽の強さみたいなもの、それを歌うことを通してお伝えできるのが幸せだなと思っているんです。
藤岡 音楽のすごさってあるからね。
彩乃 今回だと、危機迫る状況とか、音楽で伝えてくれたりするので、そこにうまく乗っていけたらいいなと思っています。
藤岡 なんでミュージカルなのかということなんですけど、僕はディズニーランドだと思っているんです。そこでは、さも現実らしい虚構が起きていて、ドラマティックな夢みたいなところに連れて行ってくれる。そういうものの1つのツールが音楽で、たとえば劇場に入ったときから、すでに夢に入って行くのだと思うのですが、さらにオーバーチュアを聞いたときから物語に入り込む、そして現実を忘れる。そのためのツールが音楽なんです。
彩乃 とくに今回はシリアスな物語ですから、音楽があることで、エンターテインメントになることで救われる部分がありますね。
藤岡 朗読劇ということに加えて歴史劇の重さで、お客様を置いて行きかねないのですが、音楽があることで、お客様と歩幅を合わせやすくなるんです。
彩乃 そうなんです! 素晴らしい解説(笑)。
百名 そのあとで話すのはつらいんですけど(笑)、僕はミュージカルはここ1年くらいの間に何作か出演していて、出演する側としては技術がいるなと思います。歌だけでなく、芝居もダンスの技術も必要で、本当に総合芸術だなと。
──ショーなどで歌だけ歌っているときとお芝居の中で歌う場合とは違いますか?
百名 かなり違います。物語の中のナンバーは作曲家の方が緻密に作られているのを感じますし、僕はまだまだ技術が追いついてないなと。演出家さんや作曲家さんに教えていただく中で、自分で解釈して歌っているだけではダメなんだというのをすごく感じます。まず音程とリズムを丁寧に、そこをもっと磨くのが今の僕の課題だと思います。

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声質も口の開け方?も
似ている2人
 
──お互いについても話していただきたいのですが。彩乃さんについては?
藤岡 僕はシアタークリエのコンサートでご一緒したことがあって、なんていう素敵な声なんだろうと。
彩乃 『ルドルフ・ザ・ラストキス』のデュエット!大好きでした!
藤岡 「それ以上の…」という曲だよね。
彩乃 そう! それです。私は藤岡さんと声質が合うような気がするんです。
藤岡 僕もそう思いました。声質もですけど、口の開き方からして合うんです。
彩乃 そんなところを見てるんですか?(笑)
藤岡 クラシックの方はすごく喉を開けるじゃないですか。僕はポップスをやっているのでそんなに開けないんです。彩乃さんも綺麗なファルセットとか出しているのに顔が崩れない。
彩乃 ああ、わかります。それは宝塚時代から気をつけていました。
藤岡 それに歌だけでなく人柄の良さがすべてに滲み出てるなと。本当に良い女だなと思います。
彩乃 そんなに褒められると居どころがない感じです(笑)。
百名 僕は彩乃さんとは今回が初めてですが、はじめましての時から気さくに話しかけてくれて、宝塚の方なのにと。
彩乃 そんな(笑)、みんな気さくですから大丈夫ですよ!
──藤岡さんについてはいかがですか?
彩乃 先ほどの続きなんですけど、寄り添える歌い方なんです。ドラマティックな曲は1人で歌い上げてしまいがちなのですが、すごく寄り添ってくださるんです。お互いに思い合えるような歌い方をしてくださって。
藤岡 それは僕の包容力です!
彩乃 はい。そうです(笑)。あとは呑んべえさんです。フランクにお酒の場に誘ってくださるし、一緒に楽しく呑める方なんです。それに稽古場ではムードメーカーで皆さんの空気を変えてくださるところが素敵です。
百名 僕も、このあとにある舞台で2作ご一緒するのですが、その前にこの公演でご一緒できて嬉しいです。すごくご縁があるんだなと。周りの方に伺うと「楽しい人」と皆さんおっしゃるので、お会いするのを楽しみにしていたんです。それから、以前、舞台を拝見したとき、なんてすごい歌声だろうと感動して、動画サイトで検索して歌っていらっしゃるのを聞いたりしていたんです。
藤岡 えっ本当に!? 嬉しいな。
百名 僕こそご一緒できてすごく嬉しいです(笑)。
 
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荻田浩一が本気で
新しいことをする舞台
 
──では百名さんの印象を。
藤岡 僕が24才のとき、こんなだったらいいなと思うんですよ。すごく真面目で礼儀正しくて。礼儀正しさって形だけだと透けてみえる場合があるんですが、でも彼はその場を取り繕うためにやってるんじゃないのがわかる。本当に良い子なんだと。
百名 透けてみえないようにがんばります(笑)。
彩乃 爽やかオーラがあるなと。それはすごくいいことで。
百名 ありがとうございます。
──珍しい名前ですが、百名というのは自分でつけた芸名だそうですね。
百名 地元が沖縄なんですけど、沖縄にある百名山という、山や海がすごく綺麗な場所の名前をいただいて、それと俳優として沢山の役をやれたらという思いでつけました。
藤岡 いい名前だね。
彩乃 本当に!
──仲の良いこのカンパニーで、この舞台に取り組んでいるわけですが、最後に意気込みを。
百名 僕はミュージカルを始めてまだ経験は浅いのですが、この『不徳の伴侶』の世界で何役も生きられることを楽しみながら、公演を一生懸命がんばりますので、ぜひ観にきてください。
藤岡 この作品は荻田浩一さんが10年も温めてこられた作品であり、赤坂RED/THEAERという凝縮された空間の中で壮大なストーリーを演じるという、また荻田浩一が本気で新しいことをやろうとしている舞台です。ですから荻田船長の方向に力を合わせていきたいと思っています。皆様、どうぞお楽しみに。
彩乃 日本で新作オリジナルミュージカルはあまり多くない中、それを作り上げる1人になれたことは嬉しいです。荻田先生が温めてこられた作品で、ぜひと言っていただけたことはとても有り難いなと。20年以上のお付き合いで、私の軌跡を見てきてくださってうえで、今の私にということですから、それに全力で応えたいです。この素敵な仲間たちと、沢山の素敵な音楽とともに、素晴らしい作品をお届けしたいと思っています。ぜひ劇場へお越しください。
 
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あやのかなみ○群馬県出身。97年宝塚歌劇団に入団、05年に月組のトップ娘役に就任、08年『MEAND MY GIRL』で退団。以降、女優として活躍中。最近の主な舞台は、ミュージカル『天翔ける風に』、ミュージカル『ひめゆり』、TAKARAZUKA WAY TO 100th ANNIVERSARY『DREAM, A DREAM』、『ONE-HEART MUSICAL FESTIVAL 2013夏』、ミュージカル『何処へ行く』、『セレブレーション100! 宝塚』、『マホロバ』、『SUPER GIFT』、『クリエンターレ!』、『夜の姉妹』、ロシア文化フェスティバル2016『バレエ ガラ 夢 コンサート 2016』『オフィリアと影の一座』ミュージカル『アニー』ミュージカル『マディソン郡の橋』など。9月からミュージカル『マリー・アントワネット』への出演が控えている。
 
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ふじおかまさあき○東京都出身。2001年に音楽デビュー。05年『レ・ミゼラブル』マリウス役でミュージカルデビュー。舞台を中心に活躍中。最近の主な出演作は、『タイタニック』『グランドホテル』『ジャージー・ボーイズ』『ミス・サイゴン』『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』(以上ミュージカル)、『欲望という名の電車』など。8月に『宝塚BOYS』teamSEA、10月にミュージカル『タイタニック』再演への出演が控えている。
 
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ひゃくなひろき○沖縄県出身。2017年『ボクが死んだ日はハレ』で舞台デビュー。以降、舞台を中心に活躍中。戦国シェイクスピア『マクベス』、ジェットラグプロデュース『終わらない世界』、舞台『GANTZ:L』、ミュージカル『マタ・ハリ』など。このあと8月に『宝塚BOYS』teamSEA、10月にミュージカル『タイタニック』への出演が決まっている。
 
 〈公演情報〉
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『不徳の伴侶 infelicity』〜女王と愛人、毒婦と奸賊、メアリー・スチュアートとボスウェル伯〜 
作・演出◇荻田浩一
作曲・音楽監督◇福井小百合
出演◇彩乃かなみ 藤岡正明 百名ヒロキ 舘形比呂一 吉本真悟 シルビア・グラブ
●5/29〜6/3◎赤坂RED/THEATER
〈お問い合わせ〉https://www.team-infelicity.com/



【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり】 



『大人のけんかが終わるまで』
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