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ドラマティックダンスの第一人者であり振付家の上田遙が、シェイクスピア四大悲劇の最後の大作『マクベス』を元に新しい表現をめざす舞台、『FLAMENCO マクベス』〜眠りを殺した男〜が、5月23日からシアター1010で上演中だ。(27日まで)
 
出演者として、日本ダンスエンターテインメント界のトップランナー東山義久、元宝塚のトップスターでそのダンス力が高く評価されている水夏希、そしてフラメンコ界の至宝、世界の小島章司が共演する話題作である。また、この作品は、DIAMOND☆DOGS(以下D☆D)の結成15周年記念シリーズの公演で、2014年秋に圧倒的評判を呼び、昨年も再演された『サロメ』の第二弾として企画されたもの。ファンタジックにしてゴージャスな「ドラマティック・スーパー・ダンス・シアター」というコンセプトで『マクベス』を再構築、自分の主人ダンカン王を殺してしまうマクベスとその夫人を通して、人間の心の弱さ、闇の深さをフラメンコダンスなどで表現していく。
 
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【STORY】
魔女たちが人間の愚かしさを笑いながら幕を開けると、地に眠る”骨”が、一人の武将マクベスの物語を語り始める。”骨”は道化。人間の苦しみ、憎しみ、悲しみを一身に背負いながら、おどけて馬鹿を演じている。常にマクベスの近くにいてマクベスの本心を言い当てる”骨”。マクベスは常に戦場にあって死と向かい合っているときが一番輝いている。
しかし、そこに”神”=”運命”が現れる。黄金に輝く王冠(権力)をマクベスに見せ、マクベスの心を試す。夫人はその王冠をマクベスに被せるために悪魔に魂を売り渡し、闇の世界へと身を投じていく。やがてマクベスも夫人の闇の力と”骨”の囁きで魂を地獄に落とし、王冠を手に入れる。
しかしその瞬間から、マクベスは輝きを失い、王冠を守るために親友であるバンクォーを殺し、欲望の泥沼に沈んでいく。夫人はついに正気を失い、元の世界に戻ってくることはなく死んでいく。
マクベスはその淵で踏みとどまり、”運命”と最後の決着をつけるための戦いに挑む。その戦いの場に身を投じたとき、マクベスは自分自身を取り戻し、自分の死に様を”運命”に見せ、己の輝きを取り戻すのである。

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つねに新しい解釈で古典に挑み、ドラマティックなダンス世界を創出し続けている上田遙らしく、この『FLAMENCO マクベス』も、戯曲の基本的なストーリーラインは生かしながら、登場人物の大胆なカットとオリジナルなラストシーンで、斬新な、だが説得力ある『マクベス』の世界を立ち上げている。 
 
原作にも出てくる人物は、マクベス夫妻と、ダンカン王、マクベスの親友バンクォーとその息子フリーアンス、加えてマクベスが放つ刺客くらいで、3人の魔女は2人だけで、ダンカン王の息子たちも貴族マクダフやその妻子も登場しない。その代わりマクベス夫妻に大きな影響を与えるものとして、”骨”と”運命”という大きな力を持つオリジナルな2つの存在が登場する。この構図によってマクベスの最後の戦いとその死に、原作とは異なる意味づけが行われている。
つまり「魔女の予言」によって王位を得、その予言の呪縛で滅んでいくマクベスではなく、”運命”に翻弄されながらも、最後は”運命”に戦いを挑む意志的なマクベス像で、ある意味、演じる東山義久の等身大に近いマクベス像が浮かび上がるのだ。 
 
また、ともすれば裏切りと殺戮の血なまぐささばかり残りがちなこの戯曲世界が、土俗的で血と魂で踊る「フラメンコ」という表現によって、欲望や情念の業火に灼かれる人間たちの物語となり、それゆえの無残さや哀切ささえ漂わせる。そんな身近なドラマとしての『マクベス』こそ、おそらく上田遙がこの作品で目指したものであり、『サロメ』でもコラボレートした東山義久とともに創り上げたかった世界にほかならないのだ。

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マクベスの東山義久は、そんな意図にふさわしく優れた将軍であるという軸を保ち、凜とした武将らしさや気品を漂わせながら、罪を犯すことになる自分に煩悶する。しなやかなで強靱なダンスは、夫人とのデュエットダンスをはじめ、役柄からか男性性を強く感じさせてくれる。

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マクベス夫人の水夏希は、愛と欲望のため魂を売り渡す盲目的で母性的な女性で、その意味では普遍性のあるリアルな存在である。夫人のソロは彼女の波立つ内面を表現するものが多く、動きもドラマティックな表現力で踊る。なかでも血まみれの手をした夫人の狂気のダンスは圧巻。

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”骨”の森新吾は、物語を俯瞰して伝える語り部であり、人間の本質を見抜く道化。軽々とした道化の動作や、アイロニカルでいびつな精神を、変幻自在な身体表現で伝えて、その役割りを十二分に果たしている。

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将軍バンクォーの中塚晧平は、ともに戦場で戦ってきたマクベスの親友という、格の大きなダンスを踊っている。また、王の死からマクベスに不信を抱くにいたる心理描写や、子を持つ父の思いなども的確な表現で伝える。

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この舞台に参加しているD☆Dのほかの4人のメンバーも、それぞれその個性を生かしている。小寺利光は劇場中を走り回る「伝令」で歯切れよく物語の進展を伝え、和田泰右は夫妻から放たれる「刺客」として、冷たい殺気を漂わせる。”骨”とともにマクベスを惑わす「魔女」の咲山類とTAKAは、有名な「きれいは汚い、汚いはきれい」をモチーフにした歌唱の面白さなど、歌い手としての本領を発揮している。

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ダンカン王の箆津弘順は、日本有数のフラメンコダンサーならではのみごとな足さばきと、王としての威厳や品格があって、歴史劇としてのこの作品の重みにもなっている。
 
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バンクォーの息子、未来の王となるフリーアンス役には、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー』のタイトルロールを演じ、昨年の『サロメ』でも上田作品に登場した木村咲哉。無邪気さとともに貴族の気品も感じさせ、伸びやかで軸の確かなダンス力で観客の視線を釘付けにする。

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今回のタイトルに付けられた「フラメンコ」をそのまま象徴する存在といっても過言ではないのが、”運命”を演じる小島章司。繊細でありながら力強く、内側からの波動で空間を支配するそのフラメンコは、まさに魂の踊りそのもの。ラストシーンの東山マクベスとの対峙は、命をぶつけ合うような緊迫感に満ちている。
 
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その小島章司の踊りとともに奏でられる岩田卓也の尺八の音色が、幽玄を奏でて美しく絶品。さらに和太鼓の橋口隆之とドラムの樹がそれぞれのリズムと音で場面を彩る。
フラメンコダンサーの柳谷歩美、松田知也、山形志穂、また殺陣やアクロバティックなダンス、アクションなどの羽鳥翔太、小山圭太、出来田和哉、島田連矢、甲斐祐次、東間一貴、田卷篤ら鍛えられたコロスたちが、舞台空間に厚みを加える。
 
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激しい動きにも損なわれない美しい衣裳(朝月真次郎)。左右に演奏台を置き、中央は能舞台に見立てて、シンプルでありながら奥深い舞台美術。様式性も感じさせながら自由に空間を使い、踊り、飛び、跳ねる肉体の輝きを存分に伝える「上田遙」の熱い情熱で、また1つ、シェイクスピアの「新しいマクベス」が華開いた。
 
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〈公演情報〉
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DIAMOND☆DOGS 15TH Anniversary Series 
Dramatic super dance theater Flamenco
『マクベス 〜眠りを殺した男〜』
台本◇上田遙/河内連太 
演出・振付◇上田遙 
音楽◇T-LAYLA
出演◇東山義久 水夏希 木村咲哉 森新吾 小寺利光 中塚晧平 和田泰右 咲山類 TAKA 
箆津弘順 小島章司 ほか 
●5/23〜27◎THEATER 1010 
〈料金〉9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉キョードー東京 0570-550-799(平日11:00〜18:00 土日祝10:00〜18:00)




【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】



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