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元宝塚雪組トップスター早霧せいなの、宝塚退団後初主演ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』が大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマ・シティで上演中だ(5月27日まで。のち、6月1日〜10日東京・TBS赤坂ACTシアターで上演)。

『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』は1942年製作の同名映画を原作に、1981年『シカゴ』『キャバレー』等、数多くの傑作ミュージカルを手がけたジョン・カンダー&フレッド・エッブの華やかな楽曲により、ブロードウェイで初演されたミュージカル。その年のトニー賞で最優秀主演女優賞(ローレン・バコール)、最優秀助演女優賞(マリリン・クーパー)、最優秀脚本賞(ピーター・ストーン)、最優秀楽曲賞(ジョン・カンダー&フレッド・エッブ)の4冠に輝き、日本ではその翌年、鳳蘭、古谷一行のコンビにより『ミズ ことし最高の女性』の邦題で初演されている。今回の公演は実にそれ以来36年ぶりの上演だが、仕事と家庭の両立に悩むヒロインの姿が、むしろ現代により通じるテーマを持った作品となっている。

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【STORY】
その年に最も輝いた女性に贈られる「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の授賞式会場。今年の受賞者に選出された人気ニュースキャスターのテス・ハーディング(早霧せいな)は、万雷の拍手に応えながらも心の中は、風刺漫画家の夫サム・クレッグ(相葉裕樹)への不満でいっぱいだった。テスはサムとの出会いのきっかけとなった、わずか8ヶ月前の出来事に思いを馳せる。
ことの発端は、テスがチップ・サリスベリー(原田優一)と毎朝放送しているニュース番組のコラムで「漫画を幼稚で低俗な表現」と批判したことだった。この番組をたまたま漫画家仲間と観ていたサムは、テスを皮肉ったキャラクター「テシー・キャット」を自作漫画に登場させ反撃。怒り心頭に発したテスが秘書のジェラルド(今井朋彦)に「常に正しいのは私!」と息巻いている折も折、事務所を訪れたのはなんとサム本人。互いに相手への怒りをぶちまけるはずが…あろうことか、二人はひとめ見るなり電撃的な恋に落ちてしまった!
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早速ディナーに出かけようとする二人。だが、ロシア人の世界的バレエダンサー、アレクセイ・ペトリコフ(宮尾俊太郎)がニューヨーク公演を行うという報せをきっかけに、テスの元には次々に急を要するニュースが舞い込んでディナーはお流れに。
衝撃的な一目惚れもこれまでか?と思われたが、互いを思う気持ちは強く、自分の漫画家仲間とも和解し「女でも男と同じ」と仕事に邁進するテスに、ますます惹かれていくサム。二人はそれぞれに上手くいかなかった1度目の結婚の経験を話し合い、新たな人生のパートナーはお互いだと思い決め、遂に結婚する。
だが、甘い結婚生活がはじまったはずのその日から、テスのアパートにはひっきりなしに人が出入りし、二人だけになることすらできない。更に亡命を決意したアレクセイまでが飛び込んできて大混乱。二人の気持ちは徐々にすれ違っていき、ジェラルドとテスのハウスキーパーのヘルガ(春風ひとみ)は、この結婚がほどなく破綻することを予感する。そんな中アレクセイが下したある決断が、テスの心に大きな波紋を投げかけて……。

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つい最近「台頭する女性演出家の特集を考えているのですが」というお話を頂いて「でもその『台頭する女性演出家』というくくりがもうちょっと時代にそぐわないのではないでしょうか?」と申し上げたことがある。実際「女流作家」とか「女優」という言葉も、徐々に使われなくなっているほど、女性の社会進出を特別なものと捉えるそれ自体が、時代錯誤に感じられるのが今の世の中の流れだ。そういう観点から見ると、この作品の主人公テス・ハーディングの言動「私は女だけど男なの!」や、幸福な安心、団欒などお呼びじゃない、まして夫など必要ない、1人でも生きていける!という趣旨のタイトル曲「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」には、物語が作られた1981年という時代を感じさせるものが多い。やはり当時は、今よりずっと第一線で男性と肩を並べて働く女性が希少価値でありながら、そんな自分に誇りを持っているテス自身にしてからが、女は結婚して家庭を守り子供を産み育ててやっと一人前という、社会全体が否応なく共有していた価値観から解き放たれていない、どこかでコンプレックスを持っていることが如実に表われている。
けれどもそれを、あぁ、古い時代の物語ね…と微笑ましく片付けられないのもまた本当のところだ。「総務大臣・女性活躍担当、内閣府特命大臣(男女共同参画)」という仰々しい役職を作らなければならないほど、社会は男女共同参画にはほど遠い状況にしか置かれていない。しかも女性活躍という言葉の影で、仕事も家事も子育ても介護もと、女性に要求されるものは増えていくばかり。「手伝おうか?」というパートナーの言葉に、我慢の限界がキレたという話も頻繁に聞かれるのが実情だ。もちろんそうでない男性も多くいるだろうが、あくまでも家事や子育てや介護は女性の担当パートで、男性も共に担うのではなく、仕事の合間にできるだけ「手伝う」もの、という考え方は想像以上に根深いようだ。結果として社会でも活躍し、更に家庭でも従来の主婦業もやりこなす、謂わばスーパーウーマンでいることを望まれる女性が、パンクしかけてしまうのも無理はない。

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そんな現代の目線で見ると、この作品のヒロイン・テスの心情には、深い共感を抱かずにはいられない。もちろん作品がミュージカル・コメディ—だから、テスの行動もカリカチュアされていて、サムの台詞を借りれば「君は極端なんだよ!」という部分も多い。それでも仕事に責任を持つことと、運命的な恋人との出会いとの狭間で、時間と気持ちの配分をコントロールできないテスのドタバタぶりは、それがコメディ—であるからこそ、どこか切ない香りを有している。だからこそ、軽やかな音楽とテンポの良い台詞の応酬に笑いながらも、テスをなんとか理解して欲しい、彼女に幸せになって欲しいと願う気持ちは、作品が作られた時代以上に、今の女性が強く感じるところだと思う。
そのテス役に早霧せいなを得たことが、この舞台の根幹を握っている。宝塚雪組のトップスターとして絶大な人気を誇った早霧は、その男役時代から常に、クールな美しさと求道者を思わせるピンと張り詰めた真っ直ぐさの中に、びっくりするほど熱血漢な舞台に対する情熱と、いたずらっ子のような軽やかさを併せ持っている独特の個性が愛されてきた人だ。そのクールとホットという相反する魅力が、しゃかりきに頑張るテスが、内面に持っている心もとなさ、弱さをあくまでも深刻になり過ぎずに描き出すことに成功している。舞台のセンターで全体を率いる力にもやはり絶大なものがあるし、様々な衣装も美しく着こなし、テスのある意味で素っ頓狂な部分も、早霧本来のコメディエンヌぶりと合致したのも奏功して、宝塚退団後のミュージカル初主演を爽やかに飾っていた。この作品の初日を前に早くも次作『るろうに剣心』での主演が発表になったが、宝塚時代に演じた役柄を外部でもう一度という、前人未踏のビッグサプライズな挑戦がまた早霧らしい。「女優」という言葉ではくくれない、オンリーワンの表現者として、今後も様々な可能性を追求してくれるだろう未来がこのテス役からにじみ出ていて、今後がますます楽しみになった。

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そのテスと電撃的な恋に落ちる風刺漫画家サム・クレッグには相葉裕樹が扮した。漫画家がアーティストとして一段下に見られていた…というのは、それこそ時代を感じさせるが、現代でも新聞の風刺漫画家に対する政治家の気持ちなどは、案外こんなものかも知れない。相葉の持ち味には優しい温かさがあって、それがこうした振り回される役柄によくフィットするが、ここ数年大作ミュージカルで大役を経験してきた蓄積が確実に本人の中に生きていて、柔らかな雰囲気の中にあるサムの気骨をも巧みに表現している。テスを愛するが故に捻じれていく心情がよく伝わり、テスの気持ちもわかるが、サムの気持ちもまたわかる、という心境に素直にさせられた。何よりやはり相葉の二枚目俳優としての姿の良さには、テスが一目惚れする男性に相応しい説得力があり、歌唱力もますます向上していて、ミュージカル界の貴重な若手俳優としての地歩を着実に固めている。サムと自作のキャラクター「それが何?」が決まり文句の猫カッツとの会話も楽しく、乘峯雅寛の軽快な装置と松澤延拓の映像がサムとカッツのやりとりを面白く描き出したのも収穫だった。

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テスに、引いてはテスとサムの結婚生活に多大な影響を与えるロシア人バレエダンサー、アレクセイ・ペトリコフの宮尾俊太郎は、言わずと知れたKバレエ カンパニーの現役プリンシパル。これまでにも『ロミオ&ジュリエット』の「死のダンサー」等ミュージカルの舞台や、自身が中心となるユニット「Ballet Gents」などでの多彩な活動を展開している人だが、今回は歌も台詞もあるミュージカル俳優としての出演で、新たな魅力を見せている。踊ればもちろんのことだが、立ち姿ひとつからして世界的バレエダンサーという役柄に説得力があり、作品に与えた厚みは絶大。これぞ二枚目!というマスクの持ち主でもあり、是非今後もこうしたチャレンジを積極的に続けて欲しい。ちなみにアレクセイという役柄が、非常にシンプルに愛を訴える人物に描かれていること。更に、彼が劇中で取る行動には、この作品が東西冷戦時代のただなかで描かれたものだけに、アメリカのエンターテイメントの懐の深さを感じる。これは是非、作品を楽しく観終わった後に、改めて反芻して欲しい。

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更に、こうした海外ミュージカルの楽しさは、主役カップルだけではなく、様々なキャラクターにも多彩な持ちナンバーがあることで、テスの秘書ジェラルドの今井朋彦と、ハウスキーパーのヘルガの春風ひとみのデュエット「やっぱりね」は、必聴の聞きもの。テスのスケジュールを完璧に把握しているジェラルドの、「スーパーウーマン」であるテスを崇拝する、自分だけがテスの全てを理解していると自負する、ねじくれた愛情表現を絶妙に表現する今井。やはり「ジャーナリスト、テス・ハーディング」に誰よりも輝いて欲しいと願っていて、それを邪魔するものは例えテスの結婚相手であろうと排除したいヘルガを、相変わらずため息ものの演技力で表わす春風。この二人が、テスとサムの結婚生活が暗礁に乗り上げていることを確認し、語り合いながらやがて大ミュージカルナンバーとして歌い上げていく流れが、ミュージカル好きのツボを突くこと請け合いだ。

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また、テスのニュース番組の相棒チップの原田優一が、舞台に出て来ただけで「この人物はにはかなり癖がある」ことを放ってくる強烈な個性には、目を釘付けにさせられる。ちょっとした言葉を二度重ねて言うだけで、捧腹絶倒の可笑しみを生むのは、原田の才能と言う以外にない。チップとしての出番はさほど多くなく、ずいぶん贅沢な使い方だなと思わせたが、もうひと役サムの描く猫のキャラクターカッツも演じていて、毒舌風味の台詞も楽しめる。実はそれ以外にももうひとつ、是非、是非、注目して欲しい出番があるのだが、これは観てのお楽しみに。あまりにも馴染んでいて、ひょっとしたら初見では気がつかないかも?という恐れがあるので、舞台をよく隅々まで観て頂きたい。気づいた途端に感動するか、驚いて二度見するか?も含めて、必見の場面になっている。

贅沢な使い方と言えばもう1人、テスの離婚した夫の再婚相手ジャンの樹里咲穂は、物語の終盤近くになっての登場だが、彼女の誠実でおおらかな持ち味が、ジャンのテスに対する憧憬を全く皮肉にも卑屈にも見せなかったのが素晴らしい。テスとジャンがお互いを羨んで歌う「となりの芝は青い」が、お互いを立てると見せて自分を誇示しているナンバーではなく、本気で互いの芝を青く思っているナンバーにちゃんと聞こえるのは、宝塚OG同士という早霧と樹里の中にある信頼感が大きく寄与したと思う。早霧もこのナンバーが最もストンと声が出ていて、良い場面になった。もちろんここに至るまでに樹里も様々な場面で踊り、作品を底支えしている。


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また、テスの元夫ラリーの田村雄一、サムの漫画家仲間フィルの俵和也、アボットの大野幸人、エリスの木内健人、ピンキーの新井俊一、漫画家仲間の行きつけの店のマスター・モーリーの角川裕明、幕開きの授賞式で第一声を発する会長の池谷京子等々、共演者も充実。彼らはもちろんアンサンブルの面々にも、個々必ず目を引く場面と役柄を作っている演出の板垣恭一の、隅々にまで行き届いた如何にもアメリカンなようでいて、実は緻密な演出も面白く、イキの良い生演奏と、桜木涼介振付の多彩なダンスシーンに彩られたテンポの良いミュージカルが、弾ける楽しさの中に今日性を秘めた舞台となっている。

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【コメント】

初日を前に意気込みを語るコメントが、早霧せいな、相葉裕樹、宮尾俊太郎の3名から届いた。

早霧せいな
こうやってウィッグを付けて、衣裳をまとって、お化粧もして、いよいよ始まるんだなと実感しています。とても華やかなナンバーで、生のオーケストラでも演奏が行われているので、お客様がはいったら更に盛り上がっていくんだろうなと思っています。是非生の舞台を生で味わって頂きたい!やはり、劇場にいらして下さい。テス・ハーディング、早霧せいながお待ちしております。是非来てね!!

相葉裕樹
とても楽しく明るく笑えて、そして心が“きゅん”となるようなラブ・コメディミュージカルが出来たと思っています。きっとお客様が入られたら、劇場が笑いに包まれるだろうと期待しています。皆さんを『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』ワールドに引き込めるようにサムとして責任を果たしていきたいと思います。是非劇場に足をお運び下さい。

宮尾俊太郎
改めて歌うことと踊ることの両立は難しいと思いました。体の使い方が真逆で、自然と入ってしまうバレエのスイッチをあえて外さなくてはいけないのが難しいなと。呼吸もバレエの時と歌う時は全然違います。ここに来るまでに、チームの色々な方に助けて頂きました。今回は、お客様が、「あ、そっちで来たんだ!」「そういう役作りなんだ!」というキャラクターで行きますので、このアレクセイのキャラクターをお楽しみにして劇場に来て下さい。すごくいっぱい踊ります!

 〈公演情報〉
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ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』
作曲◇ジョン・カンダ—
作詞◇フレッド・エッブ
上演台本・演出・訳詞◇板垣恭一
キャスト◇早霧せいな、相葉裕樹、今井朋彦、春風ひとみ、原田優一、樹里咲穂、宮尾俊太郎(Kバレエ カンパニー) ほか
●5/19〜27◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉12.500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888(10時〜18時)
●6/1〜10◎東京・TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席12.500円 A席8.500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10時〜18時)
〈公式ホームページ〉 http://www.umegei.com/womanoftheyear/



【取材・文/橘涼香 撮影/森好弘】



『銀河鉄道999』
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