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昭和を代表する女流小説家であり劇作家としても活躍、日本の歴史から古典芸能、あるいは社会派の作品まで、その才能を多彩にきらめかせた有吉佐和子。舞台化された作品では『華岡清州の妻』がとくに知られているが、同じく女の闘いを描いた『仮縫』が、5月明治座公演として上演中だ。(28日まで)
 
華やかなファッションの世界を背景に描かれた小説『仮縫』は、1963年に発表され、69年には内藤洋子、岸惠子らの出演で『華麗なる闘い』というタイトルで映画化、「絢爛豪華な女性大作」として好評を博した。今回の明治座公演は、ヒロイン清家隆子(せいけりゅうこ)に檀れい、オートクチュール界の女王として君臨するデザイナー松平ユキに高橋惠子、そして2人をめぐる人物たちに古谷一行、山本陽子、葛山信吾という実力派俳優たちが顔を揃えている。

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【あらすじ】
洋裁学校で学んでいた清家隆子(檀れい)にとってオートクチュール「パルファン」は華やかな別世界であり、そこで働くことなど想像もしていなかった。しかも日本で唯一のオートクチュールの店を経営し、デザイナーとしても高名な松平ユキ(高橋惠子)にスカウトされるなんて――。
「パルファン」の顧客は裕福な家の婦人や有名女優、いわゆる上流階級の人達で占められ、この店でドレスをつくることが彼女たちのステイタスになっていた。ユキの自宅を兼ねている「パルファン」には、運転手兼ドアボーイでユキの弟と称する信彦(葛山信吾)と、謎めいた家政婦たつ(山本陽子)も暮らしていた。初々しいが凜とした美しい隆子は、長身で整った容姿の信彦に度々誘いをかけられるも興味を示さなかった。それよりも、ユキの恋人ではないかと思われる、銀座で画廊を経営する相島昌平(古谷一行)のどこか影のある大人の男に魅力を感じていた。
二年が経った。隆子はユキの経営術や上流階級の人達を引きつける技、オートクチュールの技量を吸収していた。自分に反旗を翻す弟子に対しての、残酷とも思われる仕打ち、ユキのそんな一面も隆子は知った。いつか自分もそんな目に遭うかもしれない。隆子の心の中には予感があった。そしてある時が来たら独立するかもしれない、いや、いつか自分の店を持ちたい。時々そんな夢をみるようになっていた。もともと隆子の才能を認めていたユキは隆子をチーフアシスタントに抜擢した。隆子の夢は一歩ずつ近づいてくる。
一方、ユキはデザイナーとしての才能の枯渇を感じ始めていた。幸いこの店を切り盛りできる隆子が育った。ユキはもう一度新しい感覚を求めてパリへいくことを決心した。日本を留守にしたユキの代行になった隆子の活躍は凄まじいものだった。これからはオートクチュールではない、プレタポルテが時代の先端を行く。そう信じた隆子は相島に相談をしながら着々と準備を進めてゆくうちに二人は愛し合うように──。
いよいよ隆子が企画・デザインしたプレタポルテのショーが三日後に迫った時、突然ユキが帰国し隆子の前にあらわれた。しかもショーはパリですべて準備しデザインした衣裳を持ってきたというのだ。唖然とする隆子にユキはさらなる追い打ちを掛ける。隆子の未来に待っているものは――。

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舞台上には貴族の館のサロンのようなゴージャスな応接間、そこがオートクチュール「パルファン」の仮縫室。「○○様、仮縫でございます」という声とともに、2階の縫製室から一斉に降りてくるグレーのユニフォームを着た縫い子たち。そこから始まる「仮縫」の作業や顧客とのやりとり、それ自体がワクワクするような眺めで、ファッション業界の裏側という非日常的な世界を覗き見る感覚があり、一気に惹きつけられる。

この豪華な邸宅の女主人である松平ユキは、戦後日本の新興成金や戦中を生き延びた上流階級の女性たち、また芸能人や文化人を相手に、オートクチュールつまり「高級注文服」を仕立てて名声を得ている。本名かどうかわからない「松平」という由緒ありげな名字も、彼女をカリスマ化するファクターの1つで、存在に謎めいた魅力を加えている。そんなユキを演じる高橋惠子が、気品としなやかな強さがあって適役だ。ユキは生きるうえで身に着けてきた非情さもあるのだが、それがただの冷酷ではなく、実業家としての判断力と行動力を感じさせてくれる。
 
そのユキの目にとまって縫い子として雇われ、やがて「パルファン」の経営者への野望を抱くデザイナー志望の清家隆子。素朴な洋裁学校の学生が、贅沢で洗練されたユキの世界に出会って、憧れ、染まっていく中で、彼女自身も気づいていなかった野心に目覚め、打算や裏切りを覚えながら、大胆にしたたかに生きていく。隆子という若い女性の成長と変化、その生命力の華やぎと若さゆえの脆さを、檀れいは瑞々しい演技で伝えてくる。

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この2人の女性の闘いが物語の核になっているが、周辺の人間たちにもそれぞれ背景があって、それがこの作品を単なる女の闘いのドラマに終わらせず、人間の生き様そのものを問うスケールまで引き上げている。
その代表的な1人が語り部も兼ねて登場する家政婦のたつ。ユキや信彦との関係は後半になって明かされるのだが、原作より大きく膨らんだという彼女の存在が、高度成長の掛け声にかき消され、忘れ去られようとするあの戦争の傷痕を突きつけてくる。そんなたつ役の陰影を、山本陽子が抑制のきいた存在感と台詞で見事に表現する。
信彦を演じる葛山信吾は、遊び人の青年として振る舞う中に、有名デザイナーを姉に持つことの屈折や、秘められた愛を切なく滲ませる。
ユキの恋人であり、隆子にも想いを寄せられる画廊のオーナー相島昌平は古谷一行。かつて画家を志し挫折した男の哀愁や諦観があり、2人の女性に愛されるに相応しい大人の男の色気を漂わせる。
そのほか、縫い子やドレスを誂えに来るセレブ役を演じる女優たちが、「パルファン」という店の格や優雅な雰囲気、また東京オリンピックに浮き立つ1960年代の日本の空気などを巧みに伝える。
ファッションが題材の舞台だけに、檀れいと高橋惠子が次々に着替える衣裳の豪華さ華やかさに加えて、ユキと隆子がそれぞれデザインした「オートクチュール」と「プレタポルテ」のファッションショーも楽しめる。さらにカーテンコールまで粋なドラマ仕立てになっているなど遊び心満載で、見どころも見応えも十分の娯楽大作に仕上がった。

〈公演情報〉
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明治座5月公演『仮縫』
原作◇有吉佐和子『仮縫』(集英社文庫) 
脚本◇堀越 真 
演出◇西川信廣
出演◇檀 れい 高橋惠子 葛山信吾 山本陽子 古谷一行 ほか
●5/6〜28◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階前方席)12,000円 A席(2階後方席)8,500円 B席(3階席)6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666
〈チケット予約〉http://www.meijiza.co.jp/ticket/
〈HP〉http://www.meijiza.co.jp/lineup/2018/05/

 

【文/榊原和子 写真提供/明治座】



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