左より藤山扇治郎、北翔海莉

「誰にでも、守りたいものがある!」 
若き日の緒方洪庵と在天の姫・東儀左近。別世界に生きる二人は「天然痘を無くしたい」という同じ思いを持ち、ともに大坂(当時の表記)の闇を切り裂いていく──。
医術の道に希望を抱く若き日の緒方洪庵と、大坂の町を陰で守る闇の組織「在天」の姫・東儀左近が活躍する痛快娯楽時代劇、『蘭〜緒方洪庵 浪華の事件帳〜』。この舞台が、5月6日、大阪松竹座で幕を開けた。(13日まで。そののち、5月16日から20日まで新橋演舞場で上演)
「昭和の喜劇王」と称され、松竹新喜劇を牽引した藤山寛美の孫・藤山扇治郎が主演、元宝塚トップスターの北翔海莉が共演、さらに久本雅美や石倉三郎も出演するという豪華な顔ぶれの舞台だ。
その作品で男装も見せて大活躍する北翔に、この公演への取り組みと宝塚退団後の活動などを話してもらったインタビューを、上演中の大阪松竹座の舞台写真とともにお届けする。

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勇ましい姿と本来の女性の顔と

──宝塚退団から
もう1年半近く経ちました。退団1作目のミュージカル『パジャマゲーム』では、女性らしい姿も見せてくれました。
そう見えていたら嬉しいです(笑)。今回は男装の麗人役で、一見するとまた後戻りですが(笑)、素敵な作品で、大好きな立ち廻りもありますし(笑)、お話をいただいたときは大喜びしました。
──剣道はずっと続けていたそうですね。
退団公演の『桜華に舞え−SAMURAI The FINAL−』のために自顕流を習い始めたのですが、ずっと続けたいなと思ったので、時間を見つけて鹿児島まで通って稽古していたんです。流派の違いがありますので、同じように刀を持っての立ち廻りですが、奥深さを感じています。でも、午前中に立ち廻りの稽古に行ってから稽古場に向かう日々は、とても充実してました!(笑)
──原作もお読みになったそうですね。
原作も読ませていただきましたし、ドラマも拝見しました。作者の築山桂先生にもお会いしましたが、東儀左近という役は、昼は饅頭屋の娘で、夜になると大坂の地を守る闇の組織「在天別流」の姫という2つの顔を持っていて、そこがまず魅力的だなと思いました。舞台となる場所は大坂ですが、私は宝塚時代、意外と大阪の話というのに縁がなかったので、そこも新鮮でした。大坂の地を守るという役柄は、とても気に入っています(笑)。
──女性でありながら男装するという役柄も、宝塚の男役と重なります。
とくに私は、オフでは本来の女性の自分で生きてきましたし、そのままの感覚でファンの方々とも接していたんです。ですから舞台で男を演じる北翔海莉と、ふだんの女性の北翔海莉と2つの顔があったのですが、それがそのまま東儀左近という役に重なって、左近の勇ましい姿と本来の女性という部分の、どちらも楽しんでいただけるのではないかと思っています。
──左近の女性である部分は、緒方章(洪庵)さんとの関係に出てくるのかなと。
そうですね。原作では洪庵さんが左近に心惹かれるという設定になっていますが、二人の仲がどうなるかは、観るまでのお楽しみにしていてください(笑)。
──この作品は青春群像劇のような部分もありますね。
謎解きのサスペンス要素だけでなく、恋のときめきとか甘さもありますし、それぞれが進まなければいけない道、守らなければいけないもの、それに宿命とか、そういう切ない部分もあります。左近がなぜ男装の麗人として生きていかなくてはいけないのか、そこにこの作品のもう1つのドラマがあると思いますし、そこを感じていただけるような役作りが必要だと思っています。
──北翔さんは宝塚時代から演技派で知られていましたが、役へのアプローチはどんなふうに?
今回もそうですが、自分の中でイメージがしっかりできていれば、あとは演出家の方の方向性を理解して付いていくだけなので。今回も演出の錦織(一清)さんとしっかりコミュニケーションを取ることが一番大事だと思ってきました。
──錦織さんの演出はいかがですか?
普通のお芝居だけでなくショーやミュージカルも作られていて、すごくアイデア豊かな方ですよね。稽古場でも実践しながら、次から次にどんどん新しいセリフも出てきて。その人に合ったセリフや動きをつけてくださるので、毎日が新鮮な稽古で、稽古場に寝泊まりしたかったくらいです(笑)。カンパニーがひとつになって、笑いが絶えない稽古でした。
──今回は歌もあると伺いました。
扇治郎さんと二人で録音までさせていただいて、CDを出す話にまでなりました!  幕開きの扇治郎さんと歌う「名所案内大坂ラプソディー」は、この舞台を象徴するような明るく楽しい歌で、時代劇ですが、ロック調なんです(笑)。
──ソロでも歌われる場面があるとか?
ソロでは「東儀左近のテーマ」を歌わせていただきます。サンスクリット語で始まる低音部分から、盛り上がりのソプラノまで音域広く情感豊かなメロディで、歌詞にもテーマ性が込められている素敵な歌です。女でありながら、男の姿をしている男装の麗人・左近という、役柄ならではの歌になっています。退団してからこうしてまた、私の演じる役のために新曲を用意していただけるということが、とてもうれしいです。

左より北翔海莉、藤山扇治郎

出会わなければいけない人とは、きちんと出会っている

──先ほど『パジャマゲーム』の話も出ましたが、宝塚を退団してから、コンサートやディナーショーだけでなく、新作能『マリー・アントワネット』や、藤間勘十郎さんの文芸シリーズなど、バリエーション豊かに活動していますね。
なんでも挑戦してみようと思っているんです。宝塚歌劇を卒業した今、自分にどんな引き出しがあるかまだわからないので、まずはやってみようと。自分には無理だと思ってやらないでいたら、一生できないままで終わってしまいますから。まずは逃げないこと、それが大事だと思っています。 
──新作能では間狂言という形で、先輩の未沙のえるさんとの問答や舞踊が楽しかったです。
本当に良い経験をさせていただきました。国立能楽堂に立たせていただくことなど滅多にないことですし、さらに人間国宝の梅若玄洋先生と同じ板の上に立たせていただき、稽古場から拝見させていただくなど、すべて貴重な機会で有り難かったです。
──藤間勘十郎さんの文芸シリーズでは、芝居と日本舞踊で登場しましたが、長く続けている日本舞踊も北翔海莉の魅力の1つですね。
日本舞踊も立ち廻りも、宝塚歌劇団で教えていただいて、せっかく修業してきたものなので、卒業と同時にそれをなくしてしまったらもったいないですから。まだまだわかっていない所作などもありますし、その世界の一流の方々から教えていただける現場は本当に有り難いです。この『蘭』もそうですが、昨年の12月あたりから和物の作品で皆さんの前に登場することが続いていて、もちろんブロードウェイミュージカルもまた挑戦していきたいと思っていますが、和物の舞台というのは上演されること自体少なくなっていますから、和物の舞台が出来る機会は大切にしていきたいと思っています。
──女性役を演じるようになって感じた男役との違いは?
意外と違わない気がします。自分ではすごく大変かなと思っていたのですが、役を作っていくのは、男性でも女性でも一緒ですし、歌とかダンスも基本的には大きな違いはないなと。あまり大きな壁とかハードルは感じないでやっています。
──ソプラノが無理なく出せることに驚きました。
宝塚在団中から出ていたんです。もちろん男役では低い声を出していましたけど。私はジャズを歌うので好きで、ジャズのスキャットって3オクターブくらい出ないと、遊びが全然できないんですね。そのために歌える音域の訓練はいつもしていたんです。そのおかげで、ミュージカルで女性のキーに変わっても、まったくしんどさもなく挑戦できたことはよかったなと思っています。
──自顕流もですが、次々に技術を習得して磨いていく、その熱意はどこからきているのでしょうね?
趣味なんです(笑)。というより、ステージに立つからにはできるだけ良いものをお見せしたいし、その道のプロにはなれないですけど、本物を理解した上でそのとき出来る環境の中で限界まではやってみたいなと思うんです。
──つまり努力ということなのでしょうが、努力し続けるモチベーションはどこにあるのかなと。できない自分を許せないとか?
それもありますけど、教えてくださる方々と相性が合うのが一番大きいと思います。私はすごく恵まれていて、お師匠さんにあたるそれぞれのジャンルの先生が、本当に教え方が上手で、相性が合うんです。そういう意味では雅楽の龍笛も、フラメンコもタップも社交ダンスも、すべて先生に恵まれているなと。
──その1つ1つを糧にして役者北翔海莉が育ってきたわけですね。
下級生の頃に、龍笛を習っていた先生が「四天王寺で僕が踊るから観においで」と言ってくださって、私はたまたま休みだったので観に伺ったんです。そしたらその笛の先生が4人で踊っていらして、「雅楽の演奏者なのに舞いもするんだ!!」とびっくりしたんです。今回、『蘭』のお話をいただいてドラマ版を観たときに、同じようなシーンが出てきて、「ああ、あのとき観たのはこれだったんだ!左近はこういうことをする人なんだ」と。今まで色々な方々が私に見せてくださっていたものは、自分の人生において必ず必要になってくるものばかりで。ひと場面ひと場面、あ、あのシーンだということが、よくあるんです。
──それは北翔さん自身が呼び寄せているのだと思います。
やはり出会いなんですよね。そのときに出会わなければいけない人ときちんと出会っているなと思います。今回も初めましての方々が多いのですが、卒業してから巡り会う方々によって、新しい北翔海莉を作っていただこうと思っています。

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大阪松竹座と新橋演舞場、歴史ある劇場に立つ光栄と緊張

──私生活も伺おうと思ったのですが、宝塚時代より逆に仕事に追われているそうですね。
去年1年は本当に忙しくて、歌劇団での生活のほうがラクだったなと(笑)。宝塚では1つの作品に3ヶ月間没頭できますけれど、外ではいくつかの作品を同時並行して進めて、しかも私は企画・構成から手がけるので。自分で作ることが好きなので仕方ないのですが、結局、自分で忙しくしているんです(笑)。
──宝塚ではスターであることが一番大きな仕事で、周りがすべて用意してくれますね。そういう意味では花園だったのでは?
本当に恵まれていましたし、その良さも十分味合わせていただきました。でも私にとってトップ時代が一番華やかだったかというとそんなことはなくて、あくまでも自分の人生という階段の途中の一段でしかないんです。今はそこからさらにまた上に行くところなので。
──さらに先へ、上へということですね。今、抱いている夢はありますか?
やりたいことは沢山あるのですが、今回共演する藤山扇治郎さんが会見のときに「お客様の心の薬になるようなステージを」とおっしゃっていたのですが、私も同じで、歌1つでもダンス1つでも、沢山の方々に少しでもエネルギーを届けることができたらいいなと。どんな場でもその気持ちを忘れないで、舞台に立ちたいです。
──話は逸れますが、扇治郎さんの伯母にあたる藤山直美さんは、北翔さんにとって憧れの役者さんだそうですね。
自分がお芝居に迷っていたときに、直美さんのお芝居を観て感動して、そこから大阪松竹座に通うようになったんです。その松竹座の売店で藤山寛美さんのDVDセットを見つけて全部買って、片っ端から観ました。お芝居の間(マ)というのはこういうものなんだと思いましたし、寛美さんは喜劇の方なのに二枚目をされると格好よくて、すごく勉強させていただきました。
──色気のある方でしたね。北翔さんのコメディセンスは寛美さんや直美さんから学んだわけですね。
足元にも及びませんが(笑)。マをここまでためてからだと効果的なんだとか。DVDなのですり切れることはないので(笑)、何回も何回も巻き戻して見ていました。
──扇治郎さんはその寛美さんのお孫さんですから、待望の共演ということですね。
マニアックなお話ができるのが嬉しいです(笑)。「寛美さんのこの作品のこの引っ込みの面白さ、わかりますか?」とか聞くと「わかります!」と返してくださるので、それだけで感動します(笑)。
──そんなお二人が中心となっているこの『蘭』、観る方へのメッセージを改めてぜひ!
大阪松竹座と新橋演舞場に立たせていただけることは、私にとって夢でしたので、本当に光栄です。そして、これだけ歴史ある劇場に立つ以上、失敗するわけにはいかないのでプレッシャーもありますが、皆さまに納得していただけるような舞台にしたいと思っています。何よりも「もう一回観たい」と思っていただけるような舞台を作ること。それが私たちの仕事ですから、共演者の方々とそれを目指して一生懸命に稽古してきました。ぜひ、大阪松竹座と新橋演舞場へお運びください。

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ほくしょうかいり○千葉県出身。1998年宝塚歌劇団に入団、『シトラスの風』で初舞台。翌99年月組に配属。03年『シニョール ドン・ファン』で新人公演初主演、06年『想夫恋』でバウホール公演単独初主演。同年、宙組へ組替え。12年に専科へ異動後は、各組の公演に出演し、主要な役を次々と務めた。15年星組へ異動、全国ツアー公演『大海賊』『Amour それは…』でトップに就任。16年11月『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』で惜しまれつつ退団。17年9月のミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』で女優活動をスタート。「〜薔薇に魅せられた王妃〜 新作能『マリー・アントワネット』〜薔薇に魅せられた王妃〜」、「藤間勘十郎文芸シリーズ其ノ参『恐怖時代』『多神教』」などに出演。

左より荒木宏文、北翔海莉
左より久本雅美、石倉三郎、藤山扇治郎、北翔海莉

〈公演情報〉
#08
 
『蘭 〜緒方洪庵 浪華の事件帳〜』
原作◇築山桂「禁書売り」「北前船始末」(双葉文庫)より
脚本◇松田健次
演出◇錦織一清
音楽◇岸田敏志
出演◇藤山扇治郎 北翔海莉
荒木宏文 佐藤永典 上田堪大
宮嶋麻衣 高倉百合子 ゆーとぴあ・ピース
渋谷天笑 丹羽貞仁 笠原章 
神保悟志 久本雅美 石倉三郎
●5/6〜13◎大阪松竹座
〈料金〉1等席:11,500円 2等席:7,000円 3等席:4,000円(全席指定・税込)
●5/16〜20◎新橋演舞場
〈料金〉1等席11,500円 2等席7,000円 3階A席4,500円 3階B席3,000円 桟敷席12,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00〜18:00)0570-000-489または 東京 03-6745-0888 大阪 06-6530-0333)




【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃 舞台写真提供/大阪松竹座】



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