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有名ヘアサロンを舞台に、美しき美容師たちが「カリスマの紋章(クレスト)」を懸けて、激しくも熱い競争の日々を駆け抜ける姿を描いた、舞台『クレスト☆シザーズ』が、5月10日池袋のサンシャイン劇場で開幕した(5月13日まで。のち、5月17日〜19日、大阪・サンケイホールブリーゼでも上演)。

舞台『クレスト☆シザーズ』は、連載型新作マンガ配信アプリ「GANMA!」にて2016年1月より好評連載中の、イケメン美容師たちの日々の戦いと成長を描くwebコミック、hekiyu『クレスト☆シザーズ』の初舞台化作品。脚本・演出の山本こうきによる、舞台オリジナルキャラクターも登場し、客席をもしばしば巻き込んでの、熱い青春ドラマが展開されている。

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【STORY】
家庭環境に恵まれず、人生に夢も希望もない元ホストの青年・新田勇希(赤澤遼太郎)は、ヤクザに追われているところを、伝説の美容師・白波高正(吉岡佑)に助けられ、白波がオーナーの美容室で働くことになる。だが、入店した美容室『ハイクレスト』は、美容師たちが日々激しい競争を繰り広げている超有名店。モデルやタレントの来店も多く、雑誌等メディアにも数多く取り上げられる一方で、小さなミスひとつで、即刻クビを言い渡される美容師もまた、後を絶たない。
その『ハイクレスト』で、雑用の見習いから美容師への道を歩みはじめた勇希は、自分の人生に夢と希望を取り戻す為に、店のトップの証である紋章を持つ、ハイフロアのトップスタイリスト「クレスター」を目指す決意をする。だが勇希の前には「クレスター」の座に最も近いスタイリスト戸川那智(松田岳)、彼と凌ぎを削る美堂律(金井成大)、競馬が趣味で豪放磊落な松原洋平(小南光司)、カードで未来を占える吉田ケイ(櫻井圭登)ら、技術にもセンスにも長けたスタイリストたちと、彼らのサポートをする咲野緑(松本ひなた)、岡昭彦(川村玲央)、中嶋基(佐藤信長)ら、多くの先輩たちが立ちふさがっていた。
そんな厳しい環境の中、勇希は修行を続けていたが、ある日『ハイクレスト』のビジネス展開に常日頃高い関心を寄せている実業家・一葉蘭(蒼乃夕妃)から、キュートなアイドル花谷夢(大原優乃)と、モード系モデル水桐アサ(出口亜梨沙)のヘアメイクを戸川と美堂に競わせ、多くの支持を得た方が雑誌の表紙を飾る、という企画が持ち込まれ、フロアを取り仕切る真季エミリアン(井深克彦)の号令一下、店全体は対決ムード一色になる。その渦中で戸川の補佐をすることを命じられた勇希は、戸川がヘアメイクを担当する水桐が抱えていたある秘密を偶然知ってしまい……

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病院と美容院は1度馴染みになってしまうと、なかなか他に目を向けられない、という時代はさほど遠くない過去に確かに存在していた。やはり自分の身体のどの部分であるにせよ、人にすべてを委ねるというのは、かなりデリケートなものだから、ある意味のお得意様になってしまって、細かい注文をするまでもなくこちらの要望を理解してくれている相手がいる安心感には、大きなものがあったからだ。
けれども、今や病院はセカンドオピニオンを患者の側が常に権利として持っておく必要があるし、ヘアサロンと呼ばれるのが一般的になった美容院は、美容師たちにランクがあり、そのランクに従って高額になっていく指名料がある、非常にオープンに可視化された競争社会になっている。
そんなヘアサロンを「昼間のホストクラブ」と称して、そこに集う美容師たちの切磋琢磨と、追いつ追われつの弱肉強食の人間模様を描こう、というこの作品の着眼点は非常に面白く、その原作世界を更にイケメン俳優たちが集う舞台作品にした仕掛けは、実に巧みなものだった。実際こうしたコミックや、アニメを原作の舞台化作品に接する度に、日本の若手俳優たちの美しさ、カッコよさ、個性の輝きには驚嘆させられる。
 
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しかも、この舞台がとても良いのは、かなりドロドロとした人間模様を描きながらも、登場人物たちの誰もが、一面的でわかりやすい悪役になっていないことだ。もちろん物語の展開上足を掬い、また掬われる決してフェアではない駆け引きも繰り広げられるのだが、その仕掛けた人間がいつしか因果応報のように失墜しているかと思うと、また一方ではちゃんと手を差し伸べられる展開も待っていて、最後には清々しい、胸にしみる感動が立ち現れる。特にただヘアカットの技術力や、接客のプロフェッショナルぶりだけを賛美するのではなく、最も卓越した美容師であり、美容室は「なりたい自分になれる場所」だと提起しているのが素晴らしい。これによって、ハラハラドキドキの展開と共に、心を温めてくれる舞台が成立したのは感動的だった。

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そんな舞台で、主人公の新米美容師・新田勇希を演じた赤澤遼太郎の、人懐っこく信じたものに懸命な持ち味が、役柄のキャラクターと絶妙にリンクしているのが、作品の色を決めたと言ってもいいほどの効果を生んでいる。冒頭からほぼ出ずっぱり。しかも刻々と変化する状況のストーリーテラーの役割も担っている赤澤演じる勇希が、どんなに傷ついても尚、人を信じようとする力が、いつしか人の輪を作り、ぬくもりを生んでいく様が、こうだったら良いな…という夢や希望を舞台に具現してくれる、見事な主演ぶりとなっていた。

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戸川那智の松田岳は、孤高のスタイリストでありつつ、己の才能に自ら疑問も持つ「天才が天才を知る」故の苦悩を、シャープなビジュアルの中にある、松田ならではの人間味ある表現で表わしていて見応えがある。彼とトップの座を争う美堂律の金井成大は、ある意味カリカチュアされたカッコよさ、コームを持つ手が必ず綺麗なポーズの位置に決まる立ち姿が絶妙で、強い印象を残している。

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この二人に続く立場でありながら、常に飄々としている松原洋平の小南光司は、長髪のビジュアルが抜群に似合い、競争心を敢えて露わにしない男の芯の強さを巧みに表出。吉田ケイの櫻井圭登も、優しい台詞回しと声のトーンが、未来が見えるという役柄のミステリアスな部分を、個性的に際立たせた。

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彼らのサポートをする咲野緑の松本ひなた、岡昭彦の川村玲央、中嶋基の佐藤信長は、物語の展開上それぞれ重要な局面を動かす為、詳細には書きにくいのだが、前述したようにそれぞれが役柄の人間味、誰もが持っている善い面とダークな面という複雑さを各々個性的に表現していて、彼ら1人1人のドラマにも興味がわく造形で物語を回していく好演揃いなのが頼もしい。

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フロアマネージャーであり、オーナーの白波の片腕的存在、真季エミリアンの井深克彦は、客席を巻き込んだ展開が随所にあるこの作品の、観客と舞台との距離を縮める役割を一手に握って堂々たるもの。更にそもそも勇希を見出す伝説の美容師・白波高正の吉岡佑は、歩き方、立ち方などの一挙手一投足が、コミックから抜け出したとしか言いようのない完璧なフォルムなのにまず目を奪われる。そのフォルムが一見ラフな雰囲気を纏っているが故に、やはり一見ぶっきらぼうだが、人を見抜く目と真の温かさを持った人物が見事に立ち現れるのに舌を巻いた。

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また、こうした所謂イケメン俳優大集合の舞台でありつつ、女性陣も充実しているのがこの舞台の厚みを増していて、花谷夢の大原優乃が非常にわかりやすい記号としてのアイドルを演じれば、水桐アサの出口亜梨沙が複雑な心理描写のある役柄をきちんと表現して、彼女たちがヘアメイクによって「なりたい自分」を見出す様が鮮やか。

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その姿勢は、舞台オリジナルキャラクターである一葉蘭の蒼乃夕妃にも貫かれていて、元宝塚月組のトップ娘役として、シャープなダンスを大きな武器としていた蒼乃が、芝居一本のこの舞台でも、巧みな演技力で役柄の変化を的確に届けてくれるのが、物語全体を底支えしていた。

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総じて、美容室を出て、綺麗になった自分、なりたい自分を手に入れた時の幸福感と、そこから生まれる笑顔と同じものを、客席で得られる舞台となったのが素晴らしく、実際にヘアカットをするシーンもある役者たちの奮闘も相まって、エンターテイメントでありつつ深い余韻も残る作品となっている。

〈公演情報〉 
クレストシザーズメインビジュアル

舞台『クレスト☆シザーズ』
原作◇hekiyu「クレスト☆シザーズ」(コミックスマート「GANMA!」所載)
監修◇GANMA! (c)hekiyu/COMICSMART INC.
脚本◇演出:山本こうき
出演◇赤澤遼太郎 / 松田岳、小南光司、松本ひなた(Candy Boy)、櫻井圭登、川村玲央、佐藤信長 / 大原優乃 / 吉岡佑、井深克彦 / 蒼乃夕妃 ほか
●5/10〜13◎東京・サンシャイン劇場
〈料金〉7.800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10時〜18時)
●5/17〜19◎大阪・サンケイホールブリーゼ
〈料金〉7.800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(10時〜18時)
http://www.crestscissors-stage.com


【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】




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