ロナン(小池徹平)&オランプ(神田沙也加)
ロナン(加藤和樹)&オランプ(夢咲ねね)

帝国劇場での東宝版初演時、完売の熱狂の嵐を巻き起こしたミュージカル『1789─バスティーユの恋人たち─』待望の再演舞台が、有楽町の帝国劇場で上演中だ(5月12日まで。のち、6月2日〜25日大阪・新歌舞伎座、7月3日〜30日福岡・博多座でも上演)。

『1789─バスティーユの恋人たち─』は、『太陽王』『ロックオペラ モーツァルト』等の話題作を次々と世に送り出してきたプロデューサー、ドーヴ・アチアとアルベール・コーエンの手によって2012年にフランスで開幕した、フランス人がフランス革命を描いたミュージカル。作品はたちまちにして大評判を呼ぶメガヒット作品となり、日本では2015年に小池修一郎潤色・演出により宝塚歌劇団月組で初演。更に、2016年男女版としての上演となった帝国劇場での東宝版初演も、鮮烈な音楽と演出、魅力的なキャスト陣の好演が熱狂を生み、開幕するや否やチケットが全日程ソールドアウトするという伝説的な舞台となった。
今回は、そんな作品が2年ぶりに帰ってきた待望の再演で、主人公ロナン・マズリエ役の小池徹平・加藤和樹のWキャストをはじめとした多くの続投キャストに加え、新キャストとして、フランス王妃マリー・アントワネット役に宝塚版『1789─バスティーユの恋人たち─』でロナン役を演じた龍真咲、革命家ロペスピエールに三浦涼介、革命を阻止するべく奔走する財務大臣ネッケルに磯部勉、アントワネットの取り巻きの貴婦人ポリニャック夫人に渚あき、等の新キャストを加え、更にパワーアップした舞台が展開されている。

2幕「武器をとれ」革命家たち

【STORY】
貧困に喘ぐ民衆を他所に、王族・貴族といった極一部の特権階級が贅沢に溺れる18世紀末のフランス。ボース地方では干ばつが続き、税金を払うことのできなかった農民たちが、ペイロール(岡幸二郎)のもたらした国王の名のもとの命により、土地を没収された上投獄されようとしていた。その場に駆け付けた農夫ロナン・マズリエ(小池徹平・加藤和樹Wキャスト)は、連行されかかる父親を助けようとするが、ペイロールの指示で放たれた銃弾はロナンをかばった父親に命中し、父は言葉もなく息絶えてしまう。父を殺され、土地も奪われたロナンは復讐を誓ってパリに向かい、残された妹のソレーヌ(ソニン)も兄の後を追って故郷を去る。
だがパリでも民衆はパンもなく飢えに苦しみ、助けを求めていた。そんなパリ市民を前に、今こそ救いの手を待つのではなく、革命を起こし世の中を変えるべきだと訴える代議士のロベスピエール(三浦涼介)、弁護士のデムーラン(渡辺大輔)と出会ったロナンは、はじめは反発していた彼らの語る「すべての人民は自由であり平等であるべきだ。革命によってそんな世界を手に入れよう」という理想の世界に目を開かれ、彼らの紹介で印刷工として働きながら、革命がもたらす未来に希望を抱くようになる。
一方、ヴェルサイユ宮殿では王妃マリー・アントワネット(凰稀かなめ・龍真咲Wキャスト)が、夜を徹してギャンブルに興じる仮装舞踏会が盛大に開かれていた。政略結婚でオーストリアから嫁ぎ、国王ルイ16世(増澤ノゾム)との間に3人の子供をもうけたアントワネットだったが、錠前作りを趣味とする内気な王の誠実さだけでは、生きている実感を覚えることができず、スウェーデンの貴族フェルゼン(広瀬友祐)との愛に溺れていた。しかも二人の関係は、最早公然の秘密となっていて、密かに王位簒奪を狙う王弟アルトワ(吉野圭吾)は、手先としている秘密警察のラマール(坂元健児)と、その部下トゥルマン(岡田良輔)、ロワゼル(加藤潤一)に、王妃のスキャンダルの確たる証拠をつかんでこいと命じ、革命を阻止すべく財政立て直しに奔走する財務長官ネッケル(磯部勉)の進言にも、王が耳を貸さぬよう画策していた。そんなラマールの動きを察知していた、アントワネットの取り巻きの貴族ポリニャック夫人(渚あき)は、王太子ルイ・ジョセフの養育係オランプ(神田沙也加・夢咲ねねWキャスト)に案内役を命じ、アントワネットとフェルゼンの密会を、大胆にも革命家や娼婦のたまり場となっているパレ・ロワイヤルで果たそうと図る。
そのパレ・ロワイヤルでは、ロナンがデムーランの「人民に自由を!」と訴えた論文を密かにビラとして印刷し、デムーラン、彼の婚約者のリュシル(則松亜海)、仲間の革命家ダントン(上原理生)らと、更に友情の輪を広げていたが、ダントンから「商売女だが本気で惚れている」と紹介された女性を見て愕然とする。それは娼婦となっていた妹のソレーヌだった。「革命による未来なんて絵空事で、理想だけでは生きていけない」と言い放つソレーヌ。妹の境遇を変えたのは彼女を故郷に1人置き去りにした自分だ、との後悔の念にかられたロナンは、更にアントワネットとフェルゼンの密会現場に遭遇し、やり場のない怒りからフェルゼンと争いになったばかりか、アントワネットを守る為にオランプがついた苦し紛れの嘘の為にラマールに囚われ、「人民に自由を!」とのビラを持っていたことを理由に、危険思想の政治犯としてバスティーユ監獄に送られてしまう。
ロナンを監獄で待ち受けていたのは父の敵ペイロールだった。「革命家をきどってるのはブルジョワの子息たちで、彼らは貴族に嫉妬しているだけだ。お前たち貧しい農民のことなど考えてはいない」激しい拷問の中でペイロールに投げつけられた言葉に、ロナンの心は乱れる。だが、そんなロナンを命賭けで助け出しに来たのは、なんとロナンを窮地に落としたはずのオランプで……

2幕ラストシーン全景

1789年という年がフランスにとって、引いては世界にとってどれほど重要な意味を持つかは計り知れない。ここには生まれながらにして階級による差別をうけ、あらゆる不正、不平等が渦巻く社会をただ諦観し嘆くのではなく、そんな世界を根底から覆そうとして闘い、自由と平等を人民1人1人が勝ち取った輝かしい瞬間が存在しているのだ。もちろん「自由、平等、博愛」を目指したフランス革命が、のちにたどった苦難の道程もまた、歴史の事実が厳然と示してはいる。この作品の中で、高らかに革命の理想を謳った「革命の兄弟」たちは、やがて対立し、決裂し、粛清の嵐の中で友の手によって次々に断頭台へと送られ、また送った側もクーデターにより、同じく断頭台の露と消えていく。繰り返される革命と独裁。ことはフランスのみではなく、世界中でこの不幸な輪廻は終わりを見せようとはしない。主権人民を定めた民主主義をもってしても、それを遂行する人民の、民度の高さに見合った社会しか形成することができないのは、否定しようがない悲しい現実だ。「愛と平和に満ちた輝く世界」は、人類にとってあまりにも遠い彼方に霞んでいる。
けれどもだからこそ、理想の世界を信じることを決して諦めてはならない、ひとつひとつの命が、理想を信じる心が明日の歴史を創るのだ、と歌い上げる終幕のナンバー「悲しみの報い」に至るこの作品、『1789─バスティーユの恋人たち─』が訴える想いの深さ、尊さに胸が震えるのを止められない。理想を諦めない勇気を忘れない限り、希望はきっと潰えはしない。その「希望」をこの作品は舞台上に鮮やかに描き出してくれる。
何よりも素晴らしいのは、その理想と希望を追い求める舞台が、完璧なエンターティンメントの中で繰り広げられることだ。フレンチロックで奏でられるあらゆるテイストが詰まった、魅力的でキャッチーな音楽。ミュージカルの舞台としては、極めて革新的なそのデジタルサウンドに乗せた、迫力あるダンスシーン。良い意味でのケレン味にあふれた豪華な衣装とセット。更に、激動の世界で燃え上がる恋人たちのロマン。育まれる友情と渦巻く人間模様。それらが創り出す醍醐味に身を委ねていれば、決して何を難しく考えることもないまま、立場を異にしていた全ての登場人物が等しく列をなす終幕に、人が人として持つべき理想と尊厳が心に深く満ちてくる。この見事さ、美しさは何ものにも代えがたい。
 
群像劇である『1789─バスティーユの恋人たち─』が、あらゆるジャンルから集まったいくつかの世代の男女で演じられることに、より親和性があったのも一助となったし、「革命の兄弟」「武器をとれ」等、秀逸な佳曲が加えられたこの東宝版の舞台が帝国劇場に、ミュージカル界に革命を起こし、熱狂を巻き起こしたあの2年前の季節が、決して偶発的なものではなかったことを、この再演の舞台は証明して見せている。そればかりか、潤色・演出の小池修一郎以下、優れたスタッフとキャストが2年間に蓄えた力と、新たな力による化学反応がもたらしたものには、より深く大きな輝きがあった。

ロナン・小池徹平

そんな作品で主人公ロナンを演じた小池徹平は、これまでのキャリアでも舞台芸術への意欲的な取り組みを見せていた人だが、この主演舞台を経て、更に多くの優れた作品への登場機会が増し、その経験がワイルドな力強さとなって表れている。どちらかと言えば上背のある方ではなく、男性に使う褒め言葉ではないかも知れないが、それでもキュートと表現したくなるような整った顔立ちに精悍さが加わり、舞台のセンターを務める姿が飛躍的に大きくなったことに感嘆した。歌唱力にもますます磨きがかかっていて、ミュージカルスターとしても頼もしい存在になっている。

ロナン・加藤和樹

一方の加藤和樹も、帝国劇場初主演だったこの作品以降、やはり数々の大作に出演してきたことである意味の力みがほぐれ、どこか朴訥としたロナンを造形したのが印象的だった。それによってロナンのピュアな面が強調され、オランプとの恋に落ちる様にロマンティックな香りが強くなっているのも発見で、そう単純ではないものの、初演の小池と加藤の持っていた雰囲気が、互いに逆転したような面白さが生まれている。やはり歌唱力も格段に向上していて、見応えがある。

神田沙也加オランプ・
 
ロナンと恋に落ちるオランプは、神田沙也加が勝気で気丈な女性としての表現をストレートに届けていながら、決して強すぎる印象にならないのは、彼女の持つ天性の愛らしさとの絶妙な塩梅故だろう。菊田一夫演劇賞を受賞した『キューティ・ブロンド』をはじめこの2年間も、そして今後も『マイ・フェア・レディ』等、大きな舞台の仕事が続くが、その重用に得心がいくヒロインぶりで、更なる飛躍を楽しみにしている。

オランプ・夢咲ねね

もう1人のオランプ夢咲ねねは、王太子の養育係という己の役割に誇りを持った、毅然とした女性の雰囲気が前に出るようになったのが新鮮。宝塚で培ったドレスさばきや、美しい立ち居振る舞いはそのままに、恋する乙女というよりは恋する女性と呼びたい雰囲気が立ち上ったのは、宝塚独特の娘役芝居が彼女の中で、良い意味で消化された故だろう。女優としての進化を感じさせるオランプの造形が美しい。

アントワネット・凰稀かなめ(「神の裁き」)

王妃マリー・アントワネットの凰稀かなめは、フェルゼンへの恋に心を占められている初登場時点から、王太子を失い、革命の嵐の前で、妻として、母として、何よりフランス王妃としての自覚に目覚めていく過程が、鮮やかに浮かび上がる芝居面の深化が顕著。ギロチンが落ちる未来を暗示したシーンで、毅然と振り返り舞台奥へと歩み去っていく場の位取りの高さは、さすがに大舞台でトップスターを務めた人ならでは。歌唱面が充実すると更に役幅が広がるだろう。期待したい。

アントワネット・龍真咲(「すべて賭ける」)

一方、初登場のアントワネット龍真咲は、宝塚退団後シンガーとしての活動に軸足を置いていた経験が生きて、高音の楽曲も安定しているのが強み。芝居面でのアントワネットの変化は緩やかだが、基本的にソフィア・コッポラが描いたアントワネット像に近く、プログラムで役柄の解釈を「時代を象徴したお人形」と語っていた役作りの方向性がよく出ていた。宝塚版ロナンのオリジナルキャストの彼女が、アントワネットをこう解釈したのも面白い。

ロナン、オランプ、そしてアントワネット。それぞれのWキャストが非常に個性的で、見比べる妙味も大きく、更に、何を重視するかで組み合わせを選べる楽しみもあり、『1789─バスティーユの恋人たち─』をリピートしたくなる大きな要因のひとつになっている。

ロベスピエール・三浦涼介

革命家ロベスピエールに新たに扮した三浦涼介は、1幕の初登場時には常に志を同じくする人々と共にある、という柔らかな雰囲気をまとっているところから、事態が進むに連れてエキセントリックさが加わっていく様が、この人物がのちに独裁者となり、恐怖政治の時代をフランスに招くことの片鱗を感じさせて目を引く。適度にシャウトが混ざる歌い方がソロをとるナンバー「誰の為に踊らされているのか?」にベストマッチしたのも大きな効果になっていて、大任を見事に果たしている。劇中ロベスピエールにのみ特定の恋人との描写がなく、初演時には恋人たちの叫びを歌った「サ・イラ・モナムール」でだけ、突然アンサンブルの女性とペアになるのにかなりの唐突感があったが、今回は台詞こそないものの、細かい恋人との描写が加えられていて、三浦が優しい瞳を投げかける様にも革命家たちといる時とは別の魅力があり、良い改変になった。

ダントン・上原理生

ダントンの上原理生は、豪放磊落で登場しただけで舞台に明るさをもたらす人物像が、本人の持つ熱い個性とよくあっていて伸びやか。それでいて革命家としての信念には揺るぎないもののある男の造形がしっかりしていて、意外にも完全なソロナンバーがなかったり、革命家としての登場も遅いことを忘れさせるほどの存在感が、更に骨太になっている。人情に厚く、娼婦であるソレーヌを本気で愛する、職業や立場になんら頓着せず、人間を愛する魅力的な男である上原のダントンがいることが、革命家にも、革命思想そのものにも厚みを与えていて、作品の重要なピースになっている。

デムーラン・渡辺大輔

デムーランの渡辺大輔は、まず何よりも他者の目線に立ち、相手を慮ろうとするデムーランの心根の優しさが、温かい笑顔にこぼれでるのが魅力。更に、初演時は豊かな声量に任せている面があった歌唱力に長足の進歩があり、非常に安定したのが大収穫。こうなると元々の声質の良さも俄然生きてきて、東宝版で加えられた革命が最後の一線を越える重要なナンバー「武器をとれ」のソロが高らかに響き渡り、これは再演版全体の質を高めたと言えるほど大きな力になっていた。2年間でこれだけの進歩を示してくれていることが嬉しく、今後への期待が膨らんだ。

ロナン(加藤和樹)&ソレーヌ(ソニン)

ロナンの妹ソレーヌのソニンは、「夜のプリンセス」「世界を我が手に」というビッグナンバーを持つ役柄を、渾身の演技と歌唱力で支えている。ソレーヌの出番は非常にポイント、ポイントで飛んでいて、しかも出てくる度に本人の置かれている境遇や心境が変わっているという、大変難しい役柄だが、そんなソレーヌを1人の女性として筋を通したのは、ソニンの存在感の賜物。この役柄こそWキャストが望ましいのでは?と思うほどのパワーを必要とするが、では誰が?と考えるとソニンしか思い浮かばない。例えば中川晃教にも言える「ソニンというジャンル」とも呼べる存在で、『1789─バスティーユの恋人たち─』大成功に寄与した大きさを改めて感じさせていた。

アントワネット(凰稀かなめ)&フェルゼン(広瀬友祐)

アントワネットの恋人フェルゼンの広瀬友祐は、この再演の舞台に接して「フェルゼンってこんなに出番が少なかったのか?」と思わせられたことに、まず大きな感動を覚えた。初演時にはよくぞこれだけ美しく、軍服の似合う日本人の俳優がいたものだ、という事実に感動したことを思い出すと、この2年間で役者広瀬友祐が培い、高めて来た実力と存在感に感服する。恋に一途な姿に切なさがあり、歌唱力も格段の進歩を示していて、この貴族の青年にアントワネットが恋に落ちることを、至極当然だと納得できる美丈夫ぶりだった。

ペイロール伯爵(岡幸二郎)&ロナン(たぶん小池)

彼らと対峙する人物に、ミュージカル界の大物が揃っているのもこの座組の大きな魅力で、ドラマのすべてのはじまりを作るペイロールの岡幸二郎は、あのどこまでも伸びていく美しい歌声を完全に封印した、ほとんどダミ声に近い歌い出しで驚かされる冒頭のソロ「マズリエの逮捕」からパワー全開。実はロナンの敵ばかりでなく、民衆の完全な敵として立ちふさがっているのはペイロール1人という、負担の大きな役柄を憎々しい大きさで描ききっていて、この人もまた余人に代えがたい存在。突然「本気だぜ」という歌詞が出てくるのが、本来なら違和感があって良いはずのところを、パワフルな歌唱でねじ伏せたばかりか、尚、立ち居振る舞いが優雅なのが貴族としての誇りも感じさせる。喉は大丈夫なのかと案じられるほどだが、終幕一節だけ美しい声も聞かせ、作品を底支えする力は絶大だった。

王位簒奪を狙う王弟アルトワの吉野圭吾の妖しさが群を抜いていて、ブルボンの血をひくものは神と同じだ、と、すべての者を見下している様に、どこか狂信的な香りがある。それが鼻持ちならない王族ではなく、得体の知れない狂気紙一重の人物像を的確に示していて、催眠術や媚薬、果てはマジックまで披露する役柄に、コケティッシュな軽やかさも加えたのは吉野ならでは。作品の大きなアクセントとして、更に磨きがかかっている。

アルトワ伯爵(吉野圭吾)ラマール(坂元健児)他秘密警察

アルトワに仕える秘密警察のラマールの坂元健児は、初演時よりもコメディリリーフ的な色合いをやや薄めていて、鋭さもありつつ、作品が求める適度に抜けている感とのバランスが絶妙になった。この人もソロナンバーがほとんどないのが如何にももったいない歌唱力の持ち主だが、それだけに彼が加わったコーラスの厚みは絶品。部下トゥルマンの岡田良輔、ロワゼルの加藤潤一とのコンビネーションも相変わらず快調だ。

また、ルイ16世の増澤ノゾムは誠実で情け深いが故に、讒言に惑わされ選択を誤っていく王の不幸の表現により深みが増し「私は国民を愛している」という言葉が、決して嘘ではなかったことを感じさせる。財務長官ネッケルで初登場の磯部勉が、耳に痛いことを敢えて言う忠臣の悲劇を滋味深く描き出して、王族側から見れば世界が崩れていく哀れさをよく示している。もう1人の初参加、ポリニャック夫人の渚あきは、アントワネットに面と向かった時と、背を向けた時の表情の変化が巧みで、我が身が危ないと悟った刹那、王妃を捨て去ることに何のためらいもない利に敏い女性を、決して品位を落とさずに表現して再演に一層の花を添えていた。また、デムーランの恋人リュシルの則松亜海は、クレジットの扱いよりも実は相当に出番の多い重要な役どころを、初演よりも遥かに大人びた、自らも革命思想を持った女性として描きだすことに成功している。踊りのキレも見事で、女優として着実にステップアップを重ねているのが見て取れた。オランプの父デュ・ピュジェ中尉の松澤重雄は、娘を無条件に信じる父親の懐の大きさを巧みに表現して、終幕に至る重要な人物としての記憶をきちんと作品に残している。もうひと役貴族でありながら平民議員として三部会に臨むミラボー伯爵も演じているが、こちらの造形にはちゃんとあざとさがあるのも面白く、ダンス場面にも果敢に加わって気を吐いた。
他に、長丁場の公演故か、パリの下町の娘シャルロットを演じる子役勢に、東京公演時点ではやや幼さが感じられるが、少女の成長は驚くばかりなので、これは公演を重ねるごとにこなれてくるだろう。
また、半数が入れ替わったアンサンブルの面々の熱演も素晴らしく、ダンスシーンもシャープに整理され、特に2階席から観るとフォーメーションや照明の効果が絶妙なことが如実にわかり、非常にエキサイティング。機会があれば是非2階からの観劇もお勧めしたいが、何よりも作品の持つ圧倒的なパワーが、優れたキャストとスタッフの手で余すところなく表現された感動は大きく、この人類の「希望」を描いた尊い作品が、帝国劇場の、東宝の長いレパートリーとなってくれることを願ってやまない舞台となっている。


【囲み会見】 

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初日を前に囲み取材が行われ、ロナン役の小池徹平と加藤和樹、オランプ役の神田沙也加と夢咲ねね、マリー・アントワネット役の凰稀かなめと龍真咲が作品への抱負を語った。

──小池さん、神田さん、凰稀さん、代表して役柄について教えてください。
小池 ロナン・マズリエは、ボース地方という田舎で暮らしている農民という設定なのですけれども、父親を殺されたことをきっかけにパリに出て行くことを決意し、そこで出会った仲間と共に自由や平等、愛を知りまして、それを求めて革命を起こそうと奮闘する、真っ直ぐな熱い青年です。
神田 オランプ・ドゥ・ピュジェという役で、マリー・アントワネット様のご子息であらせられる、ルイ・ジョセフ王太子様の養育係として王室に仕えております。その中でロナン・マズリエと出会って、色々な気持ちや葛藤が芽生えていき、成長していく女性の役です。
凰稀 フランスの王妃でございます。簡潔!(笑)
──続投キャストである皆さんの感じている手応えは?
小池 そうですね、手応えと言うか、まずはやっぱりお客様の前に立たないとわからない部分もあると思うのですが、やはりその続投組と言いますか、新しい風を吹かせてくださる方もいらっしゃる中で、前回やっている分、より今回各々が2年前に演ったものよりも更にブラッシュアップしている感じは、稽古場からすごく出ていると思っています。非常にこのWキャストの、和樹との良い意味での違いもより感じながら、お客様に楽しんで頂けるのではないかなと思っていて。良い感じだと思います!
加藤 稽古を重ねてきてですね、初演にはなかった熱というものをすごく感じております。それはやっぱり(演出の)小池(修一郎)先生を筆頭に、僕ら続投組、そして新しく加わったメンバーからも色々な化学反応が起きて、初演よりも熱い熱を皆様に届けられるのではないかなと思っております。小池徹平君も今言ったんですが、それぞれのWキャストで全然違う色が見えるので、それも楽しみにして頂ければと思います。
神田 もう初演から2年もたったのかということに本当にびっくりしています。2年たったからといって、何かを変えていかなきゃとか、新しいことを絶対やらなきゃということではなく、2年間の間に勉強させて頂いたこと、経験したことが私自身の中にあると自分で信じて、役により真摯に向き合うということだけを考えて最後までやっていきたいなと思っております。
夢咲 1度経験している作品なのに、初めて通した時にすごい息切れや疲労感があって、こんなにも大変なものだったのかなと改めて実感しています。それと共に、毎回本当に新しいものが生まれているなと思っているので、新鮮な気持ちで公演が出来るのではないかなと思っております。
凰稀 皆さんが言った通りなのですけれども、1日1日この役をやるごとに、全然違う感情が生まれてきたりしていますので、お客さまの前にまず立ってみて、お客さまと一緒にこの作品をもっともっと作り上げていきたいと思っております。
──新キャストの龍真咲さんは、宝塚版ではロナン役を演じられましたが、今回マリー・アントワネット役で初参加にあたって感じていることは?
 やはりこの『1789』という作品に対して、ロナンからの視点の先入観というものが大きかったので、最初この役をやらせて頂くことが決まった時には、それを取り払うことが大変だったのですけれども、今、こうしてお稽古して、生々しいリアルな男性のロナンを間近で感じることが出来て、すごく興奮するし、この作品が愛される意味というのを良い意味で感じられるな、と思いながらお稽古しておりました。色々お話して、私がロナンを演じた3年前に、もしこのお二人のロナンと出会っていたら、もっとこうだよ、ああだよと自分に言いたいな、思いたいなということが多々ありましたが、時間を経てこの作品が自分の中ですごく大きな存在感を持っているんだなということを日々実感しております。
──男性キャストのお二人にお伺いします。大変アクションの多い作品ですが、体力には自信がおありですか?
小池 体力ですか?(笑)2年前よりは身体の節々はちょっと痛いかなというのは本当にあるんですよ。ダンスも激しいですし、足腰にくるので、2年前より身体のケアを意識して、終わったらちょっと冷やしたりとか、色々しないとだめだなと感じていますね。肺がね…(ね、と加藤を見る)
加藤 そうだね。
小池 重いです(周りが笑うので)。いや、本当に!(笑)大変だよね。
加藤 初めてダンスナンバーを稽古であたった時に、「あ、意外と身体が覚えてるし、スムーズにいけたな」って思ったんですよ。そうしたら結構翌日に来まして、やっぱり2年という時間を自分の中でしっかりと感じながら、今、徹平ちゃんも言いましたが、身体のケアというものを十分に気をつけてやらないといけないと思います。何分長い公演なので、1人1人がそういうところを気をつけてやっていければなと思っております。
──女性キャストの方々、この公演はお衣装がとても素敵だとお客様からの声も多いのですが、皆さんがお衣装を着られての気持ち、またご苦労などは?
神田 本当にお客様と同じで、『1789』の再演をやらせて頂くにあたって、この美しいドレスたちを着させて頂けるということも、楽しみにしていたんです。なので毎日舞台稽古などで着させて頂いて、こんなにディテールが綺麗だったなとか、袖なども薔薇になっていたりして、こういうところに見惚れているので、普段着とは着心地やフィット感も違いますが、そんなすべてを楽しんでいますから苦労はありません。全部好きです。
夢咲 私もこんなに豪華な衣装たちが並んでいるものを見るだけでテンションがあがります。アクセサリーのひとつひとつもとても可愛いくて。オランプは同じデザインにもかかわらず、(Wキャストの二人で)生地が違っていたり、色味が少し違っていたりするので、そういうところも見て楽しんで頂けるのではと思います。
凰稀 そうですね。多分この作品の中で一番豪華なのがマリー・アントワネットだと思います。一番最初のゴンドラで登場するシーンの白いドレスが一番重くてですね。
 ね〜。
凰稀 2年ぶりに着ても、やっぱり腰にくるなと(笑)。
 わたくしは、いつも着ておりますので、苦労点などはございません(一同が爆笑するのにも涼しい顔で)。いつもどおりです(一同笑)。
──小池さん「WaT」でずっとユニットを組んでいらしたウエンツ瑛士さんが出演する日生劇場公演『リトル・ナイト・ミュージック』も開幕するのですが、エールがあれば。
小池 すみません、僕らも明日初日なのでそちらにかまっていられる余裕はあんまりないんですけれども(笑)。まあ劇場も近いですし、和樹が頑張っている間に観にいこうかなと思っておりますので、はい(笑)。頑張って欲しいなと思います。
──神田さんは菊田一夫演劇賞を受賞されましたが。一言。
神田 どうもありがとうございます(会場全体から拍手)。個人的に長年、ひとつの目標としていた賞でしたので、本当に知らせを聞いた時は泣きましたし、すごく嬉しかったですけれども、舞い上がらずに地に足を付け、その受賞に自信や誇りを持ち、みんなと調和するパワーに変えて『1789』に貢献していけたらと思います。ありがとうございます。私事ですみません。
──では、小池さん、加藤さん改めて意気込みをお願いします。
小池 いよいよ明日から始まりますけれども、全員が胸を張ってお客さまにお贈りできる作品になっていると思います。本当に皆で一体となってこの『1789』という作品を盛り上げていきたいと思いますので、一緒に熱くなりたいなと思っております!よろしくお願いします。
加藤 2年前に「ミュージカル界に革命を起こす」と銘打って上演された作品でしたが、また新たな革命を皆さまにお届けすることが出来ると思っておりますので、是非ご期待ください。ありがとうございます。

〈公演情報〉
1789チラシ
 
『1789─バスティーユの恋人たち─』
潤色・演出◇小池修一郎
出演◇小池徹平/加藤和樹(Wキャスト)、神田沙也加/夢咲ねね(Wキャスト)、凰稀かなめ/龍真咲(Wキャスト)
三浦涼介、上原理生、渡辺大輔、ソニン、吉野圭吾、坂元健児、広瀬友祐、岡幸二郎 ほか
●4/9〜5/12◎帝国劇場
〈料金〉S席13,500円  A席9,000円  B席4,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)
●6/2〜25◎大阪・新歌舞伎座
●7/3〜30◎福岡・博多座
〈公式サイト〉www.tohostage.com/1789/


【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】



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