IMG_0726

ビゼーのオペラ等で、魔性の女、ファムファタールとしてのイメージが定着している「カルメン」の物語に、謝珠栄が新たな光を当て、カルメン役に花總まり、ドン・ホセ役に松下優也、ほか豪華キャストの出演で綴られるミュージカル『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』が、池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演中だ(4月8日まで。のち4月11日〜21日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演)。

IMG_0788

ミュージカル『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』は、19世紀に書かれたメリメ原作の「カルメン」をベースに、小説、オペラの中では自由奔放な魔性の女として描かれてきたカルメンが、ロマ族としての誇りと、束縛を嫌う魂と、運命の恋の相手であるドン・ホセに抱いた想いにスポットを当てた、演出・振付の謝珠栄独自の視点で描かれる、謝珠栄版「真実のカルメン」が創造された作品となっている。

IMG_0748
IMG_0315

【STORY】
1880年頃──フランス人の学者ジャン(福井晶一)は、魔性の女として伝えられる「カルメン」の人生に深い関心を抱き、真実のカルメンを求めて、生前のカルメンを知る人物を探し続ける中で、1人の老人(団時朗)に出会う。はじめは頑なに口を閉ざしていた老人は、ジャンの懇願に折れて、訥々とカルメンが生きた日々を語り始める。
1830年スペインのセビリア。若気の至りの過ちから故郷を遠く離れざるを得なかった青年ドン・ホセ(松下優也)は、セビリアで生まれ変わり、新しい人生を歩もうと軍隊に入隊。軍の規律に忠実に、熱心に務めを果たし伍長に昇進していた。だがそんなある日、ロマ族の女工カルメン(花總まり)に出会い、一瞬にして激しい恋に落ちたことで、ホセの人生は再び大きく旋回する。誰の指図も受けず、世の中の規範に縛られないカルメンと共にいることは、ホセ自身が世の中のあらゆる規範を踏み外していくことに他ならなかった。ホセの上司スニーガ中尉(伊礼彼方)、カルメンの夫ガルシア(KENTARO)、イギリス貴族ローレンス(太田基裕)。次々に現れる、カルメンの魅力にとり付かれた男たち、カルメンがその視線を投げかける男たちを、愛故に嫉妬に狂ったホセは遮二無二排除しようとする。神に背き、罪を重ねる自分に懊悩しながらも、カルメンを独占したいという想いから逃れられないホセ。だが、カルメンにとって何にも耐え難いのは、その束縛だった。「私って女はきっとあんたを不幸にする」愛に溺れ身動きの取れなくなったホセに、出会いのはじめからそう言い放っていたカルメンは、遂にホセと自分との逃れ得ぬ運命に終止符を打とうとして……。

IMG_0698

演出・振付の謝珠栄がそもそも「カルメン」に関心を抱いたのは、1999年宝塚歌劇宙組で初演された柴田侑宏作『激情─ホセとカルメン─』の演出・振付を担当した時だったそうだ。この時、謝はメリメの原作、また『激情』で描かれる男性の視点から見たカルメン像を、女性である自らの視点でとらえ直したいという想いを募らせ、2008年に朝海ひかる主演で上演された『Calli〜炎の女カルメン』を創り出した。そこから10年。ロマ族として生まれたカルメンの、生まれ付いた民族の血が、彼女をどのようにつき動かしたのか?に、より深く切り込みたいとの願いがこめられて生み出されたこの『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』では、更にカルメン像が神格化され、ドン・ホセとの運命の恋に、命を賭すカルメンの姿には、驚くほどのロマンが込められた。

IMG_0290

「ジプシーと呼ばれる流浪の民の由来はさだかではない。彼らの中でもロマと呼ばれる民族は、北インドに起源があると言われ、千年を超える時をさすらい続けている。祖国をもたず、どこにいても異邦人としてしいたげられ、差別されてきた。だが、彼らは民族の誇りを胸に、ロマとして生まれ、ロマとして生き、ロマとして死ぬ。その不屈の魂に敬意を表して、彼らを『ロマーレ』と呼ぶ」

IMG_0497

冒頭、フランス人学者ジャンに扮した福井晶一によって語られるこのモノローグが、ある意味では舞台のすべてを象徴している。作品の中でドン・ホセをはじめ、カルメンに魅入られる男たち、中でもカルメンの真実を知ろうとする、この舞台のストーリーテラーでもあるジャンは、謝珠栄の分身に他ならない。おそらく、1999年の出会いから、誰よりもカルメンに魅入られてきたのは謝本人で、彼女の目の中に映るカルメンの、その心根の美しさには驚嘆させられる。ここで描かれるのは、籠に入れられたら死んでしまう、ロマ族である自らの血と、ホセへの愛の狭間で、辿る道はただ1つしかなかった、血と愛に殉じたカルメンの姿だ。
もちろんこれは謝の目に映るカルメン像であり、ジャンが「あくまでも想像でしかない」「これは私の仮説です」、と繰り返しながら披露する「真実のカルメン」に、違和感を覚える観客も当然いるだろう。だが、1人のクリエーターが、20年に至る年月「カルメン」という女性に思いを寄せ続けて、たどり着いたのがこの「カルメン」であるのならば、その思いの深さにはもって銘すべきものがある。ここに描かれたカルメン像は、クリエーターの愛そのものだ。

IMG_0222

そう考えた時に、この作品のカルメンに、1999年の『激情─ホセとカルメン─』で同役を演じた花總まりが、再び登場したのにも、ひとつの運命を感じる。当代の姫役者である花總まりが演じた数々の役柄の中で、宝塚時代にも異色のものとして異彩を放っていたのが、このカルメン役だったが、今回の謝珠栄版で描かれた「真実のカルメン」には、その花總の姫役者としての資質こそが、最も似つかわしいものだった。1点これは花總本人の問題では全くなく、脚本上の問題として、歌詞では「あたし」の一人称が台詞では時折「あたい」になるのが気になったものの、この『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』ならではのカルメン像として、花總の存在は最も理に適ったものに違いなかった。

IMG_0410

ドン・ホセの松下優也は、朴訥で一途な故に、カルメンへの愛に溺れ転落していく男性の哀しみと苛立ちをよく表現している。作品が白人男性のホセと、ロマ族のカルメンとの間にある障害の多さを描いている関係から、やむを得なかったのはわかるのだが、素の黒髪よりも、舞台の明るい髪色がもうひとつハマらず、折角の整った容姿を引き立てる色合いに研究の余地は残るが、現代の若手二枚目俳優で、観る者にここまで素朴な印象を与えられるのは貴重な資質。役者としての重要な武器になりそうだ。

IMG_0556

また、カルメンを巡る男たちのキャスティングが非常に贅沢なのもこの座組の特徴で、自信に満ち溢れ、女性としてのカルメンの魅力に惹かれながらも、ロマ族である彼女をハッキリと蔑視してもいるという、典型的なイヤな奴を堂々と演じた伊礼彼方の色悪ぶりは、カルメンとホセを追い詰める何よりの要素となったし、イギリス貴族ローレンスの太田基裕は、登場人物の中で階級も育ちも異次元である人種としての居住まいが実に巧み。良い意味で浮いていることが大きな効果をあげている。松下を含めたこの三人で、ホセのトリプルキャストというのも、演者の負担に目をつぶらせてもらえるとしたならば、観てみたかったなと思える布陣だった。

IMG_0742
IMG_0775

彼らの中で、ガルシアのKENTAROのアクの強さと、骨太な押し出しが際立ち役柄に相応しかったし、語り部である老人の団時朗の、動きが少ない中での存在感はやはりベテランの妙。更に、分けても贅沢な使い方だったジャンの福井晶一に至っては、もったいない気持ちさえ抱いたが、謝の分身という役柄であるからこその起用でもあるのだろう。ソロナンバーに群を抜く安定感があり、作品の質を高めた。

IMG_0760
IMG_0233

他に、一洸、神谷直樹、千田真司、中塚皓平、宮垣祐也のダンサー陣が、謝作品ならではのダイナミックなダンスに、芝居にと脇を固めた力も見逃せず、謝珠栄バージョンの「カルメン」、『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』の創造に寄与していた。

IMG_0651
IMG_0198

【フォトレビュー】
IMG_0377
IMG_0366
IMG_0440
IMG_0580
IMG_0658
IMG_0660
IMG_0185

〈公演情報〉

666_play_image1

ミュージカル『Romale ロマーレ〜ロマを生き抜いた女カルメン』
演出・振付◇謝珠栄
原作◇小手伸也
上演台本◇高橋知伽江
音楽監督・作曲◇玉麻尚一
作曲◇斉藤恒芳、小澤時史
出演◇花總まり/松下優也/伊礼彼方、KENTARO、太田基裕/福井晶一/団時朗
一洸、神谷直樹、千田真司、中塚皓平、宮垣祐也
●3/23〜4/8◎東京芸術劇場プレイハウス
〈料金〉S席12,500円 A席9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039
●4/11〜21◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉全席指定 12,500円(税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888


【取材・文・撮影/橘涼香】



シラノ・ド・ベルジュラックお得なチケット販売中!


kick shop nikkan engeki