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幻想的で日本の古典的な妖しさを漂わせる、芥川賞作家・平野啓一郎の代表作『一月物語』が、音楽と身体表現を織り交ぜて贈る珠玉の朗読劇として、3月7日〜12日よみうり大手町ホールで上演される。
 
『一月物語』は、明治三十年、奈良県十津川村を舞台に、神経衰弱の気鬱を逃れ、独り山中をさまよう青年詩人・真拆が、いつしか現実と夢界の裂け目に迷い込み、運命の女と出逢う、幻惑的な物語。この香気を放つ小説を、文学的でありつつポップでロックな創作スタイルが高い評価を得ている谷賢一が構成・演出し、小劇場ミュージカルから壮大なオーケストラまで幅広いジャンルを手掛けるかみむら周平の音楽・演奏によって、夢幻朗読劇として生まれ出る。
その作品で、運命の女・高子を演じるのが元宝塚雪組トップスターで、現在女優として多彩な活動を続けている水夏希。朗読劇にも積極的に取り組んでいる彼女ならではの、新しい夢幻の世界が広がるにちがいない。そんな彼女に、作品に感じている魅力、宝塚時代の盟友である彩吹真央、初顔合わせとなる久保田秀敏という、刺激的なWキャスト、バレエダンサーの横関雄一郎との共演への期待、更に、演出の谷賢一への期待など、公演への意気込みを語ってもらった。

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読めば読むほど味わい深い原作世界

──新たな朗読劇という形で、朗読劇には多く取り組まれていますね。
そうですね、嬉しいことに色々とご縁を頂いています。
──その中で今回は、平野啓一郎さんの代表作『一月物語』の朗読劇ということですが、まず原作にはどんなイメージを?
最初に思ったのが、文体が難しい!ということでした。ざっと読んで雰囲気は感じられたのですが、やはりきちんと読まなければと思い、わからない言葉などを調べながら読んでみたら、あまり現代では使われないような昔の漢字も多かったので、ですから第一印象はなかなか入りにくかったという感じでしょうか。でも難しい漢字が使われている分、文字自体が持っている雰囲気や、イマジネーションを喚起されるものが確かにあるんです。敢えて当て字が使われているところなどにも意味があると感じるので、読めば読むほど面白い作品だなと。読書というのは基本的にそうですけれども、この作品はとりわけ文章から情景が浮かんでくるのが印象的でした。
──その漢字を敢えて映像で出したりもするそうですね。
演出の谷賢一さんが、奇想天外な発想をされる方だと思うので、どう表現されるのか楽しみです。原作では私の役の登場は後半になってからですが、そのあたりにも色々構想がおありだろうと思います。バレエダンサーの横関雄一郎さんも出演されるので、ただ座って本を読むというものにはならないですし、作品自体もリアリティがありつつファンタジー色が濃いので、そこをどう融合させるのかも見どころになると思います。
──演じる「誘う女」高子についてはどうですか?
高子の母がなぜ蛇に魅入られてしまったのかを、探っていきたいと思っています。正解というか答えはないとは思うのですが、自分自身として腑に落ちるものはやはり必要になりますから、深く考えていきたいです。原作の中にも高子の台詞というのは少なくて、こう見えるという描写に寄って描かれているものの方が多いので、そこをどう具現化していくかが大切だと思います。

男役彩吹真央VSファムファタール水夏希 

──共演のキャストの方々で、特に注目されるのが、彩吹真央さんと久保田秀俊さんが真拆役でWキャストということなのですが。
それは私も同じです!(笑)「えっ?これどうなるの?」と。特にゆみこ(彩吹)は退団してから、あまり男っぽい役柄をチョイスしてこなかったと思うので、驚きもありましたが、やはり朗読劇ということで、声を聞いて想像して頂くという意味では、とても面白いWキャストになると思います。
──彩吹さんとの共演は懐かしさもありつつ、今回はまた別の期待があります。
ゆみこ(彩吹)が男性役で、私は女性役で、更に男性を惑わすファムファタールという存在でもあるので、ゆみことそういう関係性で演じるのか!と思うと、楽しみなのと同時に、ちょっとこそばゆいような気持ちもあって(笑)。彼女は作品ごとに役をとても細かく掘り下げてくる人なので、どう準備してくるかも楽しみです。
──そこからまた久保田さんに替わることによって、全く違うものになるでしょうね。
本物の若い青年ですからね!イケメンですし(笑)。私は今回初めてご一緒するのですが、劇中の高子も、真拆のことは知っているようで知らなくて、会ったことがないのに呼び寄せるという感覚に近いのですから、どこまで心でつながることができるか、そこが大事かなと思っています。
──これは絶対に両方を観なければ!という気持ちになりますね。
本当にそう思います。全然違うものになりますから。

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視覚で提示しないからこそ、想像力が喚起される朗読劇

──様々に携わっている朗読劇の魅力についてはどうですか?
やはりお客様が自由に想像できるということですね。私たちはその想像の手助けをして、色々なイメージを持って帰って頂く。おそらくお客様は私たちの演じた以上のイマジネーションを持たれると思うんです。言葉だけだからこその広がり、言葉から想像する音やビジュアルは、「この世界はこれです」と視覚で提示する以上の広がりがあるので、作品もやはり広がりのあるものに仕上がると感じます。
──水さんは踊らないのですか?
踊らないんです。今回、横関さんがご出演されるので「私も踊りたいです」と言ったのですが、谷さんに「いえ朗読ですから」と言われて(笑)。踊らなくてけっこうです、みたいな感じでした(笑)。
──実は観客側としてもちょっと期待していました。
私は踊る気満々だったんですけれどね(笑)。となると、本当に言葉だけですし、先ほども話に出たように原作の言葉が難しいものが多いので、それをきちんとお客様にお伝えする為には、読む側が相当しっかりイメージして、きとんと伝えようという意志を持つ必要があります。一方で、その難しい言葉自体が持っている響きによって、作品の世界観がより鮮明になると思うんです。明治という時代設定とか熊野古道とか、山の上にポツンとあるお寺とか、そういう雰囲気を感じて頂けるようにしたいですね。でも、私は踊りませんが(笑)、横関さんの踊りは本当素晴らしいので、稽古場で間近で拝見できるなんて夢のようです。きっとその素晴らしいダンスから伝わるものも多いと思います。私自身、今少し時間に余裕があるので、原点に立ち返って考えることも多いのですが、やはり力が抜けているということが、一番大切ではないかと。そして、それは歌も踊りも芝居も同じだと思います。もちろん自分が目指すところというのは必要ですが、それが明確にわかった上で力を抜いて自由に、フレキシブルにできることがベストだなと。横関さんのダンスを見ているとまさにその通りなんです。力強いのにきちんと力が抜けているから、伸びやかで、空間を動かすというのはこういうことなんだ!と思えます。ですから、得も言われぬ『一月物語』の世界観を、踊りで自在に表現してくださると思います。

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出会いというものはそのすべてがご縁

──踊りと言えば、水さんご自身も『Pukul』に取り組んで、初めてのダンスも多くあったと思いますが。
後遺症が大変でした(笑)。やっと復活しましたけれど、あちこち痛くて(笑)。でも謝珠栄先生は愛にあふれた先生ですし、メンバー全員が先生のやり方をわかった上で、その思いに応えたいと一丸となっていました。先生が提示してくださるものに必死でついていって、「いいね!」と言ってもらうために一生懸命になるというピュアな空間でした。稽古期間や稽古の仕方も宝塚時代を彷彿とさせるものでしたし、劇場にも宝塚時代のお客様がたくさんいらしてくださったので、温かい年末だったなと思います。
──男性キャストも出演していましたが、女性キャストは宝塚OGだけという、ありそうでない舞台でしたね。
そうなんです。でも違和感は全くなくて。男性キャストの皆さんが謝先生とお仕事をたくさんしていらしたこともあって、宝塚のことをよく理解してくださる方ばかりでした。岡(幸二郎)さんにいたっては、「この方も元タカラジェンヌだった?」と思うほどで(笑)。
──岡さんはご自分でも「元タカラジェンヌ」とおっしゃってますね。
 (笑)そういうノリの良さもあって、1つの空気感で固まったカンパニーでした。出会ったことのない世界観や、初めてご一緒する方によって、自分が刺激を受けることもすごく大切だなと改めて思いました。
──そういう意味で、良い流れで今回の朗読劇につながりましたね。
今回の公演はとてもご縁を感じることが多いんです。私は熊野古道は、まだ行ったことがないのですが、でもいつか行きたいとずっと思っていた場所なんです。今住んでいるところの氏神様も熊野神社で、そこにもご縁を感じています。熊野は神々の住む場所と言いますし、きっとこういう物語を書かずにはいられないような神秘的な場所なのだろうと思うので。
──惹かれていた場所の物語にめぐり合ったわけですね。
ただ、この作品に限らずすべてはご縁だなと思うんです。これまでの作品もそうですし、共演者の方も、スタッフの方も、出会いというもの、そのすべてがご縁ですので、その1つ1つを大事にしていきたいと思っています。

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朗読劇の概念を超えたなんでもありの舞台に

──今回の演出の谷さんとの出会いもまた興味深いですね。
舞台は度々拝見していて、この方は止まらないタイプだなと思っていたんです。きっと話も止まらないし(笑)、稽古も止まらない。1日中芝居のことを考えているタイプの方だなと感じるので、その世界にどっぷりつかっていきたいです。
──水さんの新しい面も引き出してくださるでしょうね。
すごく期待しています。最初にご挨拶した時も面白かったんです。谷さんが演出された作品の楽屋で大空さんと話してらっしゃる時に、お話の中で「今度水夏希さんとご一緒するんです」とおっしゃっていたので、横から「すみません、水夏希です」って言ったんです(笑)。本当にたまたまで。そしたら「おぉ〜!」って、この表現はちょっと失礼かもしれませんが、一見チャラい感じで(笑)。谷さんというお名前からは、どうしても宝塚の谷正純先生が思い浮かぶので、もう少し重い感じの方を勝手に想像していたんですよね(笑)。でもそういう、ちょっと軽い感じの谷さんが(笑)、実はこの『一月物語』のような幻想世界に精通していらして、頭脳明晰で、様々な知識をお持ちで、演劇に対して深い愛情があって。そういう方とご一緒に作品づくりが出来ることは、すごく幸せだなと思います。
──かみむら周平さんの音楽も含めて、新しい朗読劇の舞台になりそうですね。では改めて、この舞台を楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。
良い意味で朗読劇の概念を超えた、なんでもありの舞台になると思います。精神論も入ってくるような作品で、「何をもって自分というのだろうか?」というようなことも出てきますし、作品を通して自分と向き合うことになると思います。原作を読んでからご覧になるのも楽しいと思いますし、原作を読んでいなくても、風が吹いたり、水が流れたりするさまをこの舞台で感じていただけるはずです。平野啓一郎さんのファンの方は、それぞれ持たれているイメージがおありだと思いますが、そこは朗読劇なのでイメージを限定しませんし、原作世界をさらに拡げるものになると思います。聴覚はもちろん、視覚的にも、文学的にも、心に残る作品になると思いますし、絶対に面白いものになると思います。劇場でお待ちしております。

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みずなつき○千葉県出身。1993年宝塚歌劇団入団、2007年雪組男役トップスターに就任。2010年退団後は、舞台を中心に活動中。主な出演舞台は『7DOORS〜青ひげ公の城』、『客家〜千古光芒の民』、『屋根の上のヴァイオリン弾き』、『新版 義経千本桜』、『FLAMENCO CAFE DEL GATO』、ブロードウェイミュージカル『シカゴ』宝塚OGバージョン、『エリザベートTAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』『パンク・シャンソン』〜エディット・ ピアフの生涯〜』ミュージカルコメディ『キス・ミー・ケイト』『ラストダンス−ブエノスアイレスで。〜聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』『Pukul』など。4月6日、7日にCOTTON CLUB LIVE 『Middle of the journey』、5月にDRAMATIC SUPER DANCE THEATER FLAMENCO 『マクベス〜眠りを殺した男〜』、6月〜8月にミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』の全国ツアーが控えている。
 
〈公演情報〉
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夢幻朗読劇『一月物語』  
原作◇平野啓一郎
構成・演出◇谷賢一
音楽・演奏◇かみむら周平
振付◇宝満直也
出演◇水夏希 横関雄一郎(バレエダンサー) 榊原毅 
彩吹真央・久保田秀敏(Wキャスト)
●3/7〜12◎よみうり大手町ホール 
〈アフタートークショー〉
・3/8(木)19:00 水夏希・久保田秀敏
・3/9(金)15:00 水夏希・彩吹真央
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日11:00〜17:00)
〈公式HP〉http://ichigetsu.com/



【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】



帝劇ミュージカル『1789』
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