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6人の女優と1人のダンサーが、1人の女性の人生を描く舞台『この熱き私の激情〜それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』が、天王洲銀河劇場で上演中だ(19日まで。そののち、広島、北九州、京都、豊橋で公演)

わずか8年間に、心の内側に秘めた怒りを爆発させ、熾烈で思わず目をそらしたくなるほどの作品を執筆し、36歳の若さで自ら命を絶ったカナダ・ケベック州生まれの女性作家ネリー・アルカン。
この作品は、彼女の世界を、本、映画、舞台で紹介するビッグプロジェクト「Discover Nelly Arcan」の最後を飾る一編で、ネリー・アルカンが残した4編の小説をコラージュし、カナダ人演出家マリー・ブラッサールが舞台化したもの。出演する松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、霧矢大夢の女優6名が、それぞれガラスで閉じられたキューブ体の部屋に入り、お互いに顔も見えないまま、イヤーモニターから聞こえる音、共演者の台詞だけを頼りに、ネリーの孤独、慟哭、女性であることの苦悩を演じ、台詞のセッションを奏で、ダンサーの奥野美和が、象徴的に各部屋を行き交うという、非常に斬新で、官能的で、かつ難度の高い舞台となっている。

そんな作品の初日を前に、出演の松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢と、演出のマリー・ブラッサールが、開幕直前会見に臨み、娼館の飾り窓とも、ショーウィンドウとも取れる、舞台上に置かれた10個のキューブを前に、新たな挑戦となる公演への抱負を語った。
 
【登壇者挨拶】

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マリー・ブラッサール
 
皆様、本日はお集り頂きどうもありがとうございます。こうして素晴らしい皆様とご一緒に初日を迎えることができて、光栄に思っております。少し作品についてお話しさせてください。ネリー・アルカンはとても知性あふれる若い女性で、作家でした。彼女は自分の作品の中でも描いていますが、自分を生きているには相応しくない人間だと感じることがとても多かったんです。ネリー・アルカンは皆様ご存知の通り、36歳という若さで自殺をしてしまいました。私は今こうして日本の皆さんに、彼女の深み、また知性を共有できることを嬉しく思っておりますし、自分自身とても感動しています。こうして素晴らしい女優の皆さん、そしてダンサーの奥野美和さんと、ネリー・アルカンが表現してきた作品を皆様にお見せできる、彼女へのオマージュを皆様にお届けできることをとても嬉しく思います。
 
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松雪泰子
 
今日までマリーさんと稽古を重ねてきて、どこまでこの作品を表現できるのか、今、とても緊張感を持っておりますが、良い初日を迎えられるようにと思っております。

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小島聖 
ここにいる皆様とご一緒させて頂いているのですが、全く顔が見えず、声だけの交流しかないというのは、なかなかセクシーで良いものだなと思っております。マリーさんには言葉と身体がつながっているようにと言われているので、それを胸に今日の初日を迎えたいと思います。
 
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初音映莉子
 
ネリーの36年の人生がなかったら、今、自分はここにいないんだなと。ネリーの人生が私に与えてくれた、マリーや、日本人のスタッフ、素晴らしい共演者の方達との出会いに感謝しながら、ネリーの魂を自分の中にグッとこめて演じたいと思います。

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宮本裕子 
本当にあっという間の5週間で、稽古場を去りたくないという思いがとても強く、マリーをはじめスタッフ、キャストの方達とすごく楽しい、でも俳優としての自分としてはこんなに苦しく、久々にガツンときたネリーの人生でした。製作発表の時には「真綿で首を絞められるような感じだ」と言ったのですが、いざ稽古が進んでいくと真綿が水を含んでいた感じで、自分の役者人生を破壊されかねないと思うほど、衝撃的な稽古でした。ネリーを感じながら、本番をやっていきたいと思います。
 
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芦那すみれ
 
今回の舞台を通して、この素敵な先輩たちと一緒に、またマリーと海外のクルーと一緒に過ごした時間が、自分の中ですごく楽しかったです。でも楽しいだけで終わってはいけなくて、今日からが本番だという気持ちの中に、楽しい気持ちもちょっと忘れないでやっていけたらいいのではないか?と思っています。皆さんにも楽しんで頂けて、何かを感じて帰って頂けたら、それが一番いいなと思っています。
 
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奥野美和
 
私は失われた部屋の女というキャラクターを演じさせて頂くのですが、私にとって演劇作品に出演するのは初めてのことで、今日初日を迎えるまで皆さんにアドヴァイスを頂いて、出来立てほやほやの状態でもあります。ですから本番1回、1回を集中した濃い時間を過ごして、私にはとても難しいことだった演劇と、ダンスの身体表現をしっかり習得して、1日1日を過ごしたいと思います。
 
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霧矢大夢
 
ネリーの心の闇、怒りや苦しみ悲しみを表現するということは、自分自身の闇に向き合うことでした。稽古中苦しかったり、今、初日を迎える瞬間が怖い気も致しますけれども、皆様の前で、客席からの力をパワーに変えて、素晴らしいキャストの皆様とネリーを伝えていきたいと思います。

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【質疑応答】

──マリーさんはご自身も女優として活動されていますが、この1ヶ月間日本の女優たちとの仕事はいかがでしたか?
マリー 日本の女優の皆様とお仕事ができるということで、謙虚な気持ちで楽しくお稽古をさせて頂いてきました。皆様1人1人素晴らしい女優さんで、深い知性と才能をお持ちの方達とご一緒できて本当に嬉しかったです。今回演出をする上でわかったことは、演出家というのは台詞の話し方を1つ1つ指導する訳ではなくて、パフォーマーが言葉の真実により深く近づける為のお手伝いをする、そういう仕事なんだということを改めて実感致しました。そして私が気づいたのは、どこの国の人間であっても、知性的な意味で近づくことができれば、言語の違いは壁にはならないということを感じました。
──作品から感じ取って欲しいメッセージなどは?
マリー この作品は、正確なメッセージをお客様に届けたいという訳ではありませんが、この作品を観ることによって、ネリー・アルカンというアーティストの作品をまた深く見直し、現代の女性が置かれている状況、立場を皆で一緒に見直せればなと思っております。それとこの作品は現代社会におけるプレッシャーというものも提示しています。メディアから与えられるプレッシャー、また自分以上の何かにならなければならないという、概念によるプレッシャーが表されています。それは世界共通のものだと思いますし、男女共にあるプレッシャーだと思います。この作品を観た後で、ネリー・アルカンの詩的な言葉に感動すると共に、そういうことについても内省して頂き、お客様に考えて頂ければと思っています。なので、観て頂くお客様には是非感動して頂きたいです。それは詩的な表現であったり、インスピレーションであったり、是非、闇ではなく光を持ち帰って頂きたいと思います。

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──この5ヶ月間、心を引き裂かれるようなテキストと向き合い、テクニカルを含めて大変な稽古だったと思いますが、この稽古中に最も苦労した点や、また新しい発見などありましたら教えてください。
霧矢 この部屋の中から出ないで皆様の呼吸を感じながら、それぞれが個々のようでいて、同じ空気を感じなければいけない、という演劇手法がまず初めてで難しくて、それは未だに課題でもあります。先ほども言いましたように、ネリーの闇を深く深く探求していくと、本当に自分もズンと落ちそうになるところを、今マリーがおっしゃったように光に変える、そのパワーに持っていくことが難しくもあり楽しくもあります。
奥野 さっき言ったことと重複してしまうかも知れませんが、私は演劇作品が初めて、デビューの作品だということでした。でも私も演技の手法が初めてでしたが、今回の作品では皆様にも演技だけではなく、身体表現もあったり、後はこの美術と、歌もあり、色々なジャンルが混ざったような作品ですので、自分がどのように作品の一部として溶け込めるか?というのが、わかっているつもりでやはり理解に時間がかかります。これは公演中もずっと考えてパフォーマンスをしないと、なかなか身体に入っていかないと思うので、そこを頑張っていきたいと思っています。
芦那 ネリーは大人の女性なので、大人の女性であって欲しいというところが、自分にとって一番ネックでした。
宮本 私がいるのが死の部屋で、ネリーが死んだあとの部屋なんですけれども、死というものとすごく向き合わなければいけないので、ここに今ネリーがいるのかも知れない、天国にも地獄にもまだ行っていないのでは?ネリーってまだいるのかな?と思ったり、自分が死んだらどこに行くのだろう?と思ったり、死をすごく考えさせられています。これは本番が終わるまでずっと向き合うことなので、体力がいるなと思っています。
初音 台本を読んでいて、ネリーの言葉がグサッと刺さってきて泣いてしまったりもしました。彼女の思いと対峙することが最初はすごく辛かったです。あとは、部屋に入っているので、皆の声を聞きながら芝居をしたり、実際に舞台に来て照明が入って初めてわかることもあって。部屋の前にあるガラスなんですが、中に入るとまるで鏡のように見えて、客席はいっさい見えない状態なんです。鏡に対峙して話している感覚なので、ネリーもこういう経験をしたんだろうな、と感じています。
小島 言葉を単純に覚えた方が楽なのですが、シンプルに捉えてそれをしないということが、とても大変でした…いえ、大変です(笑)。

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松雪 私もまず「ピュタン」という小説を読みまして、あまりにもネリーの痛みが深すぎて。とにかく死に向かっていく彼女の精神状態を考察し、読み進めていくと、自分の中にある潜在的な痛みが、彼女の持っている痛みとフィットする瞬間がありまして、その度にかなり苦しくて身動きが取れなくなる時間が相当ありました。本当に怖くて、死に向かっていく精神状態を捕まえるのが、とても困難でしたし、自分が台詞を通して体現していくという段階になってからは、苦労の連続でした。でも言葉自体というものはとても美しいので、それをまず皆様にしっかりお伝えしたいなということのみで、稽古場でやっておりました。あとはマリーさんと皆さんと稽古をしていく中で、本当にこの劇自体が全体で1つなんだということがハッキリとわかりますし、私達はイヤーモニターを通してしかお互いの言葉が聞こえないのですけれども、そこからエネルギーが積み重なってすべて、最後の私の死に至るまでの時間が、個々でありながら全体として1つだということがすごく大事だと思いました。美術、照明、マリーさんの演出を含めて、すべて計算されているこの劇構造に圧倒されつつも、皆様にお伝えできたらという思いでいます。
──それぞれ、ズバリ見どころを一言でお願いします。
松雪 この劇全体を通して、見事に調和が取れた瞬間だと思っているので、見どころはすべてという感じです。
小島 女性っていいなと思います。
初音 自分の人生を振り返ることができるところだと思います。
宮本 日本で観たことのない手法、演劇表現が見られることだと思います。
奥野 美術と演出と身体表現すべてが融合した、コンセプトに沿ったジャンルが、融合された瞬間が見どころだと思います。
芦那 私は稽古場で皆様のお芝居を観させて頂いて感じていたことなのですが、松雪さんが演じられる、自殺するところに向けて皆のお芝居が少しずつ重ねられていくので、影の女のところが見どころだと思いますし、そこから死んだ女の(宮本)裕子さんが出てくる、2人が変わる瞬間が曲もおどろおどろしくて、是非注目して観て頂きたいです。
霧矢 女はしなやかで、美しくて、強いというところを感じて頂きたいです。
──代表して松雪さんにお伺いします。女性の心情を描いた作品ですが、男性が観る上で何かアドヴァイスはありますか?
松雪 霧矢さんがおっしゃったように女性は強く、美しいと感じて頂ければと思います。

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続いて、舞台上で3つの場面が公開され、それぞれ、演出のマリー・ブラッサールからシーンの説明があり、この斬新な舞台の一端が立ち現れた。

【公開場面1】

マリー まず皆さんにお見せするのが「悲しみの仮面」というシーンです。このテキストの中で、ネリー・アルカンは「自分は美しくもなく、醜くもない」という言葉を繰り返し言っています。自分は生きるに値しない人間だという思いが籠められています。なので、結論として自分で自分の人生を終わらせるという方向に向かっていきます。これは作品の中で「失われた女、失われた歌」という場面ですね。

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前衛的な音楽が流れ出し、それぞれの部屋に入った女たちが台詞のセッションを奏ではじめる。「私は美しくない、醜くもない」「どっちつかずで上手くいかない」「身体」「まなざし」「時と共に私は醜くなる。事態は好転しない」「悲しみに飲みこまれていく私の顔」等々の言葉が、連なり、重なって発せられる。各部屋が完全に仕切られている為に、徐々に誰が今言葉を発しているのかも、定かではなくなる眩惑感がなんとも独特だ。

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【公開場面2&3】

マリー 次に皆様にお見せ致しますのは「娼婦たちは自殺を宣告される」という歌です。この歌の中でネリー・アルカンが話しているのは「娼婦というのは消えた後、長い間消えたことを周りに気づいてもらえない。それはまるで消滅した星のようだ」という言葉です。そこに続いて「影の部屋」のシーンの「影の歌」に今日は続けます。これは「影の部屋の女」を演じている松雪泰子さんが歌います。この歌の中では、ネリー・アルカンが死について語り、やがて首つりについて歌います。一部を抜粋してお見せします。

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リズムが強く響き、各部屋の女たちは「娼婦は自ら命を絶つと宣告されている」「自分を殺す!」「死んだ星が光る」「娼婦たちは死んだ星の光」などと、ある者は語り、ある者は叫びながら、激しく動く。「天文学者は言う、死んだ星の光はどんなに遠くても1番眩しい」「1番眩しいのは死ぬ時」「自分の1番いいものを手放すのは死ぬ時」女たちの動きはますます激しくなり、天空の部屋ではこの部屋の女小島聖と、現実的には部屋にいない「失われた女」の奥野美和が絡み合う。やがて言葉をリズムがかき消していき、部屋の灯りが1つ1つ消えていく。

闇の中から「影の部屋の女」松雪泰子が浮かび上がる。幼少時に言い含められた父からの警句、それに応えて「私がお父さんに愛される、良い子でいますように」という祈りのような台詞が消えると、影の部屋の女は首つりについての歌を語るように、つぶやくように歌い、それがいつか祈りの言葉となっていく。
 
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ステージが闇に包まれて、約15分弱の場面公開が終了。ただ、実際に舞台を目にしている時間は、もっと極端に短いように感じられ、このあまりにも刺激的な舞台の世界観の鋭さが伝わってくるようだった。この作品は、2017年の演劇界にとって、1つの「事件」ともなりうる舞台と言えそうだ。


〈公演情報〉
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PARCO Production
『この熱き私の激情〜それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』
原作◇ネリー・アルカン 
翻案・演出◇マリー・ブラッサール    
翻訳◇岩切正一郎
出演◇松雪泰子 小島聖 初音映莉子 宮本裕子 芦那すみれ 奥野美和 霧矢大夢
●11/4〜19◎天王洲 銀河劇場
他、広島、北九州、京都、愛知にて上演
〈お問い合わせ〉パルコステージ 03-3477-5858 
                



【取材・文・撮影/橘涼香】




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