一幕ラスト

約半世紀に渡り、英国に繁栄をもたらした女王エリザベス1世。彼女が女王になるまでの苦難の道程と、あったかも知れない恋を描き出した、ミュージカル『レディ・ベス』が有楽町の帝国劇場で上演中だ(18日まで。のち、大阪梅田芸術劇場メインホールにて11月28日〜12月10日まで上演)。

ミュージカル『レディ・ベス』は、『エリザベート』『モーツァルト!』で日本にウィーンミュージカルブームを巻き起こした、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイと、いずれの作品でも日本版潤色・演出を務めた日本ミュージカル界のヒットメーカー小池修一郎がタッグを組み、2014年に世界初演の幕を開けた作品。
ヘンリー8世の娘として生まれながら、母アン・ブーリンは処刑され、異母姉メアリー・チューダーとの相克の中、女王として即位するまでに、波乱の日々を過ごした若き日のエリザベス女王“レディ・ベス”を主人公に、彼女の人生を取り巻いた人々を個性豊かなミュージカルナンバーで描き出した一編として、高い関心を集めた。
今回はそんな作品の3年ぶりとなる再演で、メインキャストは初演オリジナルキャストが続投。ブラッシュアップされた演出とストーリー展開に新曲も加えた、より完成度の高い作品となっている。

花總・山崎

【STORY】
16世紀イギリス。
ヘンリー8世の王女として生まれたレディ・ベス(花總まり、平野綾・Wキャスト) は、母親のアン・ブーリン(和音美桜)が反逆罪で処刑された為、家庭教師ロジャー・アスカム(山口祐一郎)、養育係キャット・アシュリー(涼風真世)ら、数少ない味方となる人々と共に、ハートフォードシャーで暮らしていた。
ある日、時の英国女王であり、ベスの異母姉であるメアリー・チューダー(未来優希、吉沢梨絵・Wキャスト)の側近、大司教スティーブン・ガーディナー(石川禅)が、家宅捜索と称して押し入ってくる。熱心なカトリック信者であるメアリーの即位を快く思わない人々は、プロテスタントを信仰しているベスこそ真の女王に相応しいと考えていて、ガーディナーはカトリックにとって脅威となる可能性のあるベスを排除する機会を狙っていたのだ。
ガーディナーはベスが父王ヘンリーから受け継いだ、今は禁書となっているプロテスタントの聖書を所持しているのを発見。女王への反逆の明確な証拠品として押収して去っていく。王女を王女とも思わない振る舞いに憤慨したベスは、ガーディナーから父の形見を取り戻そうと、森の近道に馬車を走らせて後を追う。
だが、難路に馬車が脱輪。立ち往生したベスは、若き吟遊詩人ロビン・ブレイク(山崎育三郎、加藤和樹・Wキャスト)と出会う。自分とは全く異なる世界に住んでいるロビンの自由闊達さに、ベスは反発しながらも惹かれていき、ロビンも身分の違う王女という垣根を越えて、ベスを思うようになる。

平野・加藤

だが、星の動きを読むロジャー・アスカムは「貴女はこの国を統べる運命の元に生まれている」と預言し、1人の女性として生きることを考えてはいけないとベスを諭す。
一方、メアリー女王がスペイン大使シモン・ルナール(吉野圭吾)を通じて、スペイン王子フェリペ(平方元基、 古川雄大・Wキャスト)との結婚を進めていることが広まると、英国民の反メアリーの気運は一層高まり、ベスを王位に就けるべく反乱を起こす者たちが現われる。すぐさま鎮圧されたこの反乱にベスは全く無関係だったが、ガーディナーはこの機を逃さず、ベスを反乱の首謀者として捕らえ、ロンドン塔に送る。
この門をくぐれば、生きて外に出ることはないと言われるロンドン塔で、ベスは悪夢にうなされながら、これまで自分を日陰者の境遇に落とした憎い母親と思い込んでいたアン・ブーリンも、自分と同じように無実の罪を着せられたのではないかと考えはじめ、そんなベスをアンの霊がただ静かに見守っていた。
ところが、絶対絶命と思われたベスに、思いがけない救いの手が伸びる。それはメアリー女王との婚礼の為にイギリスへとやってきたスペイン王子フェリペだった。政略結婚の為に英国入りしたフェリペ王子は、この婚礼に英国民がどの程度理解を示しているかを探ろうと、王子随行の貴族を名乗り市民に接触。情報を集めた相手が偶然にもロビンとその仲間たちだったのだ。ベスが国民に熱い支持を得ていることを知ったフェリペは、メアリー女王との婚姻の条件として、ベスをロンドン塔から出すことを要求。これによってロンドン郊外のウッドストックへ移されたベスを追ったロビンは、遂にベスと再会、二人だけの時間を持つ。だが、あと一歩で公にベスを処刑できる機会を失したガーディナーが、今度こそベスを抹殺せんともくろみウッドストックに現れて……

 平野・加藤b

すべてが星の定める運命のもとに動いていることを現す、回転する天文時計の上で繰り広げられる物語は、大筋では変わらないものの、初演の流れが細かく整理されている。最も大きな変化としては、語り部でもあるロジャー・アスカムが冒頭に歌うこの物語の人物関係を、子役が演じるリトル・ベスと、リトルメアリーを含めて視覚的に提示した点だった。特にカトリックとプロテスタントの根深い宗教対立は、もちろん詳しい方も多いだろうが、一般的には日本人にとって難しい部分が多く、これを「離婚が許されないカトリック」「離婚、再婚が許されるプロテスタント」という、非常に簡潔な一面のみをクローズアップして見せたのは、演出の小池修一郎の英断だったと思う。これによって、父王が自分の母親からベスの母親に心を移し、母と離婚する為にプロテスタントに改宗し母と自分を捨てた、というメアリー女王から見たことの成り行きが視覚的に示され、こんないきさつがあったのなら、確かにメアリーはプロテスタントも異母妹のベスも許しがたいだろう、とすんなり思えるのはやはり大きなことだった。細かく言えば、同じ年ごろの子役が演じる為に、リトル・メアリーとリトル・ベスの年齢差がわからない、などの意見もあるとは思うが、エリザベス1世が英国で最も偉大な女王と呼ばれる名君であることは周知のこととしても、異母姉メアリーとの確執には、どうしてもそこまで馴染みがない観客も一定数いるだろうから、ある意味の単純化はミュージカル作品にとって効果的だった。

更に、全体の主人公をタイトルロールの「レディ・ベス」に集約する脚本・演出・音楽の改変がなされていて、劇場が帝国劇場であるだけに、女優芝居華やかなりし頃を彷彿とさせるような流れになったことで、物語が格段に観易くなっている。やや過剰かな?と思えた初演のコメディタッチも品良く後退して、偉大な女王が生まれるまでの、若き日のレディ・ベスの人生にストーリーがスッキリとまとまっていて好感を持った。特に、終幕のベスとロビンのデュエット曲が改変されたことで、ロビンがベスの背負っている運命、ノブレス・オブリージュ(高貴な身は義務を伴う)を理解し、この恋は互いの胸の中に永遠に消えないと歌い上げながら、女王に敬意を払うに至る心情の変化がわかりやすくなり、ロビンからある種の駄々っ子めいた面が取り払われたことは大きかった。この再演でベスが揺るぎない主人公になって尚、ロビンがむしろ初演よりも良い男として作中に立って見えるのは、偉大なエリザベス女王の人生に「あったかも知れない秘めたる恋」の、美しさにつながっていた。

そうした、作品の細かい変化に、初演からの3年間で役者たちが経て来た蓄積が、濃い陰影と深みを与えている。

花總ソロb

タイトルロールのレディ・ベスは、花總まりが、宝塚時代から変わらない「当代の姫役者」としての力量を発揮している。本来の持ち味が気品高い人なだけでなく、一挙手一投足にまで徹底的に創り込まれたプリンセスとしての風格があり、『エリザベート』などの主演経験も大きく作用し、可憐で美しい生まれながらの王女を体現していた。

平野ソロb

一方の平野綾は、ある意味王位から遠ざけられていたが故に自由に生きいきと生きていた王女が、真のプリンセスとしての自覚に目覚め、遂にクイーンとなるまでの変化が巧み。この3年間で舞台女優としての蓄積と研鑽を重ねたことがよくわかる、初演時とは格段に進歩した舞台ぶりを披露していて目を瞠る。二人のアプローチが異なるだけに、これは実に見応えのあるWキャストとなった。

山崎ソロb

そんなベスと恋に落ちる吟遊詩人ロビン・ブレイクは、山崎育三郎が華やかなルックスと、甘い雰囲気を活かして実に軽やか。元々ミュージカル界のプリンスの1人だが、初演からの3年間で一般知名度が飛躍的に高まっただけに、多彩な魅せ方も会得していて、なんともチャーミング。「自由」を体現する役柄にますます相応しくなった。

加藤ソロ
 
もう1人のロビン、加藤和樹は、無頼の流れ者を気取っていても、根が真っ直ぐで誠実な人物であることがよく伝わる演じぶりで目を引く。この期間に彼も『1789〜バスティーユの恋人たち』での帝国劇場主演をはじめ、大きな作品を次々に経験してきた力が、ロビンを懐深い人物に見せる効果になった。この二人のWキャストも全く色合いが違い、ベス二人とのそれぞれの組み合わせでまた見え方が異なるので、ついつい様々な組み合わせで再見したくなる魅力を生んでいた。

花總・石川・涼風・山口

ベスの教育係のキャット・アシュリーの涼風真世は、ソロナンバーの「大人になるまでに」を実に巧みにたっぷりと歌っていて、曲の難度があたかも高くないかのように聞かせる力量が相変わらず素晴らしい。温かな雰囲気もよく出ている。また、ストーリーテラーも担う家庭教師ロジャー・アスカムの山口祐一郎は、もうその存在だけで作品が豊かになるほどの、何か「山口祐一郎」というひとつのキャラクターであり、ジャンルとなっている存在感を放っていて、いてくれるだけで安心な気持ちになる。作品の中で虐げられているはずのベスの方が、メアリーより環境が豊かに見えるのは、この二人の存在故だろう。

未来・平方
平野・吉沢

その対比として、孤独を抱えていることが感じられるメアリー女王は、未来優希が迫力の歌唱と貫禄で、吉沢梨絵が美しさの中にある憎しみの表出で、やはりそれぞれのメアリーを活写。「悪魔と踊らないで」の歌い方もそれぞれ個性的で、こちらのWキャストも実に面白い。

古川・吉野

もう一組のWキャストフェリペ王子は、平方元基の押し出しが格段に良くなり、初演から変わらぬ古川雄大の圧倒的な美しさと、全く甲乙つけ難い王子像で、やはり是非双方を観て欲しいWキャスト。再演の改変で持ちナンバーが一部カットになったが、二人共に出番の多寡に左右されない本人たちのスター性で役を膨らませているのが頼もしい。フェリペの衣装は相当に難易度が高いものだが、二人共に見事に着こなしているのもあっぱれだ。

花總・和音

他にアン・ブーリンの和音美桜の歌唱力はやはり絶大だし、シモン・ルナールの吉野圭吾の良い意味のアクとワイルドさ、ガーディナー大司教の石川禅の食わせ者感が、いずれもベスに立ちはだかる敵として効果的で、再演版の改変で骨太な雰囲気が増したのによく合っている。さらに、ロビンの仲間たち加藤潤一、寺元健一郎、石川新太をはじめ、大谷美智浩、中山昇、秋園美緒、真記子等々、日本のミュージカル界を支える面々がコーラスに厚みを与え、「秘めた想い」「神よ祝福を与えん」「晴れやかな日」など、作品を盛り立てる大ナンバーを聞かせ、世界初演から3年、格段に進歩した2017年版の『レディ・ベス』に寄与していた。 

山崎・アンサンブル

〈公演情報〉
L109641-0001-001-0621
ミュージカル『レディ・ベス』
劇作・脚本・作詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽◇シルヴェスター・リーヴァイ
演出・翻訳・修辞◇小池修一郎
出演◇花總まり、平野綾(Wキャスト) / 山崎育三郎、加藤和樹(Wキャスト) / 未来優希、吉沢梨絵(Wキャスト) /平方元基、 古川雄大(Wキャスト) / 和音美桜 / 吉野圭吾 / 石川禅 / 涼風真世 / 山口祐一郎 / 他 
●10/8〜11/18◎帝国劇場 
〈料金〉S席 13500円 A席 9000円 B席 4000円 
〈お問い合わせ〉帝国劇場:03-3213-7221 
●11/28〜12/10◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席 13500円 A席 9000円 B席 5000円 
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800 
http://www.tohostage.com/ladybess/
 


【取材・文/橘涼香】



『夢一夜』お得なチケット販売中!
kick shop nikkan engeki