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老舗中の老舗デパート、三越百貨店日本橋本店の中にある、今年、開場90周年を迎えた三越劇場で、デパートを舞台にした新作オリジナルミュージカル『デパート!』が上演中だ(7日まで)。

この作品は、かつてデパートでの買い物が憧れだった時代から、若い世代にファストファッションや、ネットショッピングが主流となっている今の時代を迎えて、なお燦然と輝くデパートを舞台に、働く人々、お客様、様々な思いと事情を抱えた「人の集まる場所」で繰り広げられる人間模様を描いたミュージカル。
演出にミュージカル俳優として活躍中の原田優一、脚本に緻密で軽快な会話劇を得意とする脚本家・演出家の登米裕一、作曲・音楽監督にミュージカル『Color of Life』の伊藤靖浩と、いずれも新進気鋭の若きクリエーターたちが集い、日本の新しいオリジナルミュージカルの創造に力を注いだものとなっている。

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【STORY】
創業130年を迎えるスクエアデパート。そこにはいつも変わらぬホスピタリティーあふれた接客と、格式あるここでしか手に入らない逸品を備えた品ぞろえの、風格ある老舗デパートならではの日常が続いている。
だが、従業員たちは笑顔の下でそれぞれに、異なる悩みを抱えていた。
お得意様係のモリス(太田基裕)は、社長のファーガソン(畠中洋)の息子。つまりゆくゆくはこの老舗デパートの経営に関わるべき青年だが、真面目一方で要領が悪い。今日もモリスは「季節に叶ったここにしかないものを売ってくれ」という常連客オズマン(浜畑賢吉)と、その妻ミセスオズマン(出雲綾)への対応に四苦八苦。そんな息子にこのデパートが守っていけるのかと、ファーガソンも頭を抱えている。
一方、フロアマネージャーのビビ(シルビア・グラブ)は、スクエアデパートの伝統と格式を重んじるあまり、大胆な改革には極めて慎重。時代に合わせた新たな企画が必要だと主張する部下のナミ(前島亜美)と、意見の対立が続いていた。そんなデパート内の微妙な空気をすべて察知しているインフォメーション係のマリ(愛加あゆ)は、今日も噂話に花を咲かせているが、地方からデパートを訪ねてきたピート(染谷洸太・橋本真一Wキャスト)が、売り場に案内した自分に一目惚れをしたことには全く気付いていない。それだけでなく、役者を志すもオーディションに落ち続け、警備員のアルバイトがやめられないイギー(岡田亮輔)も、マリをイケてるなと、軽く意識している。
そうした人間模様をデパートの創業者の霊であるトト(畠中・二役)が見つめている中、デパートが1年で最も忙しいクリスマスセールに向けて、あらゆる問題が連鎖し、ついに大騒動に発展してゆき……。

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かつて「デパートに行く」という行為自体が、紛れもなく「ハレの日」だった時代があることを、知らない世代も多くなっているのかも知れない。けれども確かに「よそゆき」のお洋服を着て(この「よそゆき」という言葉自体すでに極めて死語に近いと思うが)、家族揃ってデパートに出かける1日、そこでの買い物や、食事、屋上での遊具遊びなどのすべてが、特別な贅沢と、家族の幸福の象徴だった時代が、そう遠くない過去には確かにあったのだ。それは、テレビも電話も音楽も、すべてが家族のだんらんの中ではなく、個々それぞれの閉じた楽しみとなっている現代、洋服はファストファッション、買い物はスマホやパソコンからネット通販が、当たり前になっている今となっては、まるで別の世界に思える郷愁だ。
そんな、デパート栄光の時代の風格を今も残す日本橋三越本店にある、三越劇場。世界初の百貨店の中の劇場として誕生し、創立90年を迎え、創設当時のままのロココ調の内装を守り続ける劇場で、デパートを舞台にしたオリジナルミュージカルを創ろう。この原田優一が発想した粋な仕掛けが、作品の根幹を支えている。風格あるデパートの中を通って、デパートの中にある劇場で、デパートの物語を観る。「アテガキ」という言葉は通常演じる役者を想定して書かれた役柄や、脚本に使われるが、この作品はまさに、三越劇場そのものに「アテガキ」されている、居心地の良さがある。デパートを愛する創業者の霊が今もここにとどまっているという設定が、全く突飛に感じられないのは、この劇場が持つレトロさと重み故のことだ。

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そして、デパートが今抱えている、栄光の時代が過ぎていった現代に、それでも買い物はデパートでなければならないと、顧客に思ってもらえる最大の方策は何か?という問題が、この作品の人間関係の中にも、きちんと投影されているのが絶妙だ。登場人物が抱える世代間ギャップ、思いの違い、対立が、守るべきものと変えていくべきもの、更に、決して変えてはいけないものを浮かび上がらせていく。その最後に残るのは、人と人が対面することでしか育まない体温のあるぬくもりと、愛。あらゆる世代の異なる考え方を持つ「デパート」が舞台だからこそ、この真意が無理なく浮かび上がる様が美しい。

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そう思って観れば、ここに集った役者たちの経歴や年齢もまた、見事に多岐に渡っている。東宝ミュージカル、宝塚歌劇団、劇団四季、音楽座、2.5次元等々。日本が、現在のミュージカル全盛時代を作り上げるのに、欠かせなかったカンパニーや、ジャンルのベテランから新進までが、新しいオリジナルミュージカルを創る為にそれぞれの力を発揮し、想いをつなげている。しかも誰もが見事に歌い、踊る力も持ち合わせているから、全編の多くが歌で綴られるミュージカル創りに無理がない。基本的に群像劇だから、すべての人に見せ場があり、役者個々のやり甲斐も大きいだろうし、人と人が創り出すぬくもりがダイレクトに伝わってくる良さは、舞台作品ならではのものだ。

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その中で太田基裕の華と繊細な持ち味が、文句なしに応援したい青年像をきちんと描いたし、前島亜美の歯に衣着せぬ物言いが嫌味にならないのは、本人のアイドル性の賜物。クルクルとよく変わる表情がコケティッシュでありつつロマンチックなのは愛加あゆならでは。幻想シーンのダンスも美しい。

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また、現代を代表している役柄の岡田亮輔が見せる変化が、作品のロマンにつながれば、染谷洸太の一本気さが役柄の純真をよく支えている。個性の異なる橋本真一がどう演じるのかも楽しみだ。彼ら若手の活躍を受け留める面々も、畠中洋が二役を八面六臂の活躍で見せれば、シルビア・グラブはこれぞショー・ストップ!の大ナンバーを歌い上げる。そんな彼女に負けず劣らずの美声披露する、出雲綾の温かさも厚みを加え、ミュージカルの生き証人浜畑賢吉の存在が見事な重石となる。十全なカンパニーが日本のオリジナルミュージカルの創造に寄与している。

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生演奏による音楽もミュージカルの良さを伝えていて、新しいオリジナルミュージカルの創造の、第一歩が刻まれたことを何よりも尊びたい舞台となっている。
 
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〈公演情報〉
チラシ表面

ミュージカル『デパート!』
演出◇原田優一
脚本◇登米裕一
音楽◇伊藤靖浩
出演(50音順)◇出雲綾、太田基裕、岡田亮輔、シルビア・グラブ、染谷洸太(Wキャスト)、橋本真一(Wキャスト)、畠中洋、浜畑賢吉、前島亜美、愛加あゆ
●11/1〜7◎日本橋・三越劇場(日本橋三越本館6階)
〈料金〉S席8,500円 A席7,000円(全席指定・税込)
〈劇場お問い合わせ〉三越劇場 0120-03-9354(10:30〜18:30)



【取材・文・撮影/橘涼香】


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