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宝塚花組の男役スターとして進境著しい柚香光の東上初主演作品である、宝塚花組公演ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』が日本青年館ホールで上演中だ(30日まで)。

「はいからさんが通る」は1975年〜77年に「週刊少女フレンド」で連載された大和和紀の少女漫画。大正浪漫華やかなりし頃の東京を舞台に、未だ女性の生き方に大きな制約があった時代に、快活にひたむきに生きる「はいからさん」花村紅緒と、祖父母の代からの許婚で、日本人の父とドイツ人の母の間に生まれた眉目秀麗で笑い上戸の陸軍少尉、伊集院忍との運命の恋が描かれる、波乱万丈な王道ラブコメ。作品は連載当時から大人気を博し、アニメ化、舞台化、テレビドラマ化、実写映画化と、時代を超えて様々なメディアに取り上げられ、本年から来年にかけて新たな劇場版アニメーションも公開予定の、不朽の名作として少女漫画の歴史に燦然と輝き続けている。
宝塚歌劇では、1979年に平みちの伊集院忍、花鳥いつきの花村紅緒他の出演で、テレビドラマが作られているが、以来、40年近く待望論の絶えなかった舞台化が遂に実現。宝塚期待の男役スター柚香光の東上初主演公演として上演されることになった。

【STORY】
時は大正七年、春四月。陸軍少尉・伊集院忍(柚香光)は幼い頃に定められた許婚のもとを初めて訪ねる道すがら、自転車で暴走してくる少女に遭遇。派手にひっくり返って、赤いリボンを捻じ曲げたまま、自分に猛抗議をしてきた「ハイカラ娘」を、まるでつむじ風のようだ、と感じる。
そのハイカラ娘こそが、忍の運命の相手・花村紅緒(華優希)だった。かつて忍の祖父と紅緒の祖母は二世を誓った恋人同士だったが、御一新の世に、公家の家柄の伊集院家と、代々徳川家に仕えた旗本の花村家の婚礼は叶わず、二人はやむなく引き裂かれてしまう。その別れに際して二人は、いつの日か身分や家柄に縛られない平和な世が来た暁には、ふたつの家をひとつにしようとの誓いを立てる。だが、両家に生まれたのは共に男の子。二人の願いは、三代目である忍と紅緒に引き継がれたというのだ。
恋も結婚も自分で選ぶ!良家の殿方の申し入れを待つような人生はまっびら!と思っていた紅緒には、到底納得できない話だったが、両家も、更に忍も結婚してから愛を育めば良いと、この婚約になんら不満はない様子。たまりかねた紅緒は、忍に恋している同級生の華族令嬢・北小路環(城妃美伶)、幼馴染で紅緒を慕う歌舞伎の女形役者・藤枝蘭丸(聖乃あすか)の協力のもと、伊集院家の嫁としては到底受け入れられない娘の烙印を押されるべく、嫁入り修行の行儀見習いに入った伊集院家で大騒動を繰り返すが、それらの顛末を面白がるばかりの忍を筆頭に、伊集院家の人々に次第に愛されていく。しかも紅緒自身がいつしかそんな忍に惹かれていく自分に戸惑いを覚えるようになる。だが、そんな中、忍と紅緒の婚約披露の席で起きた騒動から紅緒は伊集院家を飛び出し、酔った勢いで忍の亡き戦友の内縁の妻である柳橋の芸者・吉次(桜咲彩花)にからんでいた陸軍中佐・印念(矢吹世奈)に酒を浴びせかけてしまう。駆け付けた忍のとりなしでその場は収まり、二人は互いの気持ちが更に深く近づいたことを悟るが、忍の上官であった印念中佐は憤懣やるかたなく、そこに配属された者はやがてシベリア戦線に送られることを承知で、忍を小倉連隊へと転属させる。
自分の為に、忍が左遷されたことに苦しむ紅緒を励ました忍は、今度東京に戻った時には正式に結婚しようと誓いを交わして紅緒の元を去るが、ほどなくしてシベリアの前線に送られる。その極寒の地で忍は、孤立した小隊を守る為決死の脱出を試みるが、傷ついた部下・鬼島軍曹(水美舞斗)を助けに戻った際コサック兵に襲われ行方知れずとなってしまう。
やがて、紅緒のもとに忍戦死の報せが届き……。

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基本的に舞台空間を縦三段で展開できるように作りつけられた一杯飾りのセットに、映像を組み合わせて舞台は展開するのだが、何よりも驚かされたのはコミックスにして全8巻、しかも大正7年のシベリア出兵からはじまり、関東大震災をクライマックスとする長大な原作世界のすべてを、2時間半の作品にまとめあげた脚本・演出の小柳奈穂子の手腕だった。原作世界が大河ドラマの場合、多くはそのどこかに焦点を絞って作品が作られるものだし「はいからさんが通る」の過去の映像などの作品群も、ほとんどがそうした手法を取っている。だが、今回の宝塚版に際して原作の大和和紀氏から、物語全体を舞台化して欲しいとの要望があったそうで、その原作者の想いを見事に具現化し、しかも単なるダイジェスト版に陥ることなく、波乱万丈な激動の時代に、運命の恋を貫く忍と紅緒の姿を浮かび上がらせた小柳の仕事ぶりは、賞賛に値する。これによって、それぞれにスピンオフが作られるほど、良い男揃いの原作世界の人気キャラクターが、ほぼ舞台に網羅されることになったし、何よりも、才色兼備でなくドジでおっちょこちょいのヒロインが、様々なタイプのイケメン登場人物すべてから愛されるという、1970年代の少女漫画の、王道ラブコメに共通した世界観を、決して否定はしないままほんの僅かに後退させ、過酷な運命の中で、自ら未来を切り開いていくヒーローとヒロインの歴史大河ドラマ色を前に出した視点が効いていた。この世界観なら、永遠に変わらないようでいて、やはり少しずつ色を変えている現代の「乙女の夢」に、作品がすんなりと着地することができる。これは、今やこうした長大な原作ものを宝塚化する作業においては、確実に一、二を争う小柳奈穂子の面目躍如たるもので、軽快なリズムとテンポをもった主題歌にのって、登場人物が勢ぞろいする冒頭からフィナーレまで、1つの無駄もなくスピード感を保って舞台が進む様はあっぱれだった。

そんな作品の中で、原作のキャラクターに扮した花組の面々の、原作再現率の高さがいずれも完璧なばかりでなく、演じたスターの個性も決してかき消えていないことがすばらしい。

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その筆頭が言うまでもなく伊集院忍に扮した柚香光。日本陸軍の軍服姿で舞台のセンターに登場した刹那から、「生き少尉」という最大級の賛辞を大和氏から贈られたのも納得の、完璧なビジュアルを披露。日本陸軍の軍服だから、当然ながら宝塚で通常スターが履く膝までを隠す丈でなく、極普通のロングブーツなのだが、それでも長い手足のスタイルは全く損なわれることなく美しく、彫りの深い顔立ちも混血の少尉そのままだ。しかも、どんなに気障に決めても嫌味にならない二枚目男役の押し出しの中に、素の茶目っ気とどこかやんちゃな少年性が覗く柚香の個性が、笑い上戸という原作設定の忍に打ってつけで、その明るさが際立つからこそ、物語後半の悲痛な表現も生きてくる。踊れる人ならではの身体能力の高さも、漫画世界が動き出した姿にピッタリのキレの良さを示していて、実際、ここまで全てが整った東上初主演も珍しいというほどの、文字通りの代表作を一気に勝ち得たのは、、やはり柚香光というスターが星を握って生まれてきた人である証だろう。話題性1つを取っても十分大劇場で通用した作品を、敢えて短期の別箱公演にぶつけてきた歌劇団の力の入り方も含めて、今後柚香がどこまで大きなスターとなっていくか、その輝く道程がハッキリと見えた公演として、長く語り継がれるものになるに違いない。

その相手役、と言うよりも、原作世界の揺るぎない主人公・花村紅緒には、華優希が抜擢された。花組の直近の大劇場公演『邪馬台国の風』新人公演のヒロインで注目を集め、そのまま一気に紅緒役へと駆け上がった、謂わばシンデレラガールで、当然ながらまだ技術的に拙いところも見受けられるものの、むしろそれすらが紅緒らしさに通じる、体当たりの熱演が清々しい。宝塚のオリジナル作品のヒロインと比べても、格段に出番も多く、役割も大きい紅緒を一心不乱に演じている華を、微笑んで見守る柚香から、自然な包容力が生まれる力にもなっていて、この抜擢は大正解。誰もが応援せずにはいられない、愛すべき紅緒像を描き出していて、『ハンナのお花屋さん』の舞空瞳同様、花組娘役の台風の目になりそうだ。注目していきたい。

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そんな紅緒を思う、良い男軍団では、職業夫人として編集者を目指す紅緒が務める出版社の編集長・青江冬星の鳳月杏の存在感が際立つ。物語の展開上、主な出番はほぼ2幕からなのだが、日本人で巻き毛のロングヘア—の男性という、これぞ漫画世界の登場人物を悠々と表出していて、出番の遅さを全く感じさせない力には舌を巻く。出版社の名前が「冗談社」というネーミングからもわかる通り、女性に触れられると蕁麻疹が出るという、単なる二枚目なだけではないカリカチュアされた設定も、抜群のプロポーションで余裕にこなし、紅緒を巡って忍と三角関係になる終盤のドラマをよく支えていた。
キャラクターの再現率という点では、こちらもピカイチの鬼島森悟の水美舞斗は、馬賊の装束の着こなしも完璧で、一見強面だが、信義に厚く、情も深い男の中の男を骨太に演じて見応えがある。特に、やはり柚香との同期ならではの阿吽の呼吸が、少ない出番で忍と鬼島の絆を現す原動力になっていて、これはキャスティングの妙。男役としてますます力をつけていて、この人の主演作も是非観てみたい。
紅緒を慕っているだけでなく、紅緒が幼馴染の彼を守ろうとすることでドラマが動くキーパーソンでもある藤枝蘭丸の聖乃あすかは、何よりも美しい男役であることが、この役柄に生きている。まだ男役として発展途上なことも、歌舞伎の女形である蘭丸を演じるには効果的な要素になっていて、振袖姿もなんとも艶やか。作品の重要なポジションをしっかりと務めていた。

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また、ヒロイン経験のある娘役が、それぞれの役柄に力を発揮しているのも大きな要素で、北小路環の城妃美伶は、華やかな容姿と洗練された娘役芸が、お転婆でじゃじゃ馬という設定の紅緒との対比をよく現し、役柄の存在価値を高めている。2幕冒頭の「モダンガール」のナンバーも豊かな歌声で盛り上げ、新しい生き方を模索する華族女性を見事に表現していた。芸者・吉次の桜咲彩花も、たおやかでいながら一本筋の通った気風の良さも持ち合わせた柳橋の芸者を、馥郁と演じていて、作品の良いアクセントになっている。若手娘役が台頭している花組だが、やはり彼女たちの地力は貴重で、今後も大切に遇して欲しい。もう1人、後半の鍵を握る女性ラリサに扮した華雅りりかも、難しい役どころを悲しみと哀れさを保って表現していて好感が持てる。出番の多寡としても今回のラリサの塩梅は絶妙で、粘着質の嫌な女に陥らなかったのは、小柳の筆と華雅の端正な演技故だろう。

難しい役どころと言えば印念中佐の矢吹世奈も、忍と紅緒の運命を流転させる陰湿な男を精一杯演じていて、まだ新人公演学年の男役であることを考えると、超のつく好演。原作とは異なり役柄に救いがあるのも小柳の優れた配慮で、良い経験になったことと思う。力のある人だからこそこういう役柄が回ってくるが、爽やかな持ち味が似合う役も観てみたい。更に、こちらも原作再現率が高く、しかもコメディリリーフとしても秀逸なのが、牛五郎の天真みちる。この人の一挙手一投足に可笑しみがあり、かつ温かい個性は貴重の一語で、作品に豊かさを与える力になった。如月の毬花ゆめも、漫画が動き出したかのような造形で惹きつける。もちろん、専科から特出の伊集院伯爵の英真なおきの、権高さの中にある愛らしさの表出は喝采ものだし、そんな英真に対して全くひけをとらない演じぶりを示した伊集院伯爵夫人の芽吹幸奈、紅緒の父・花村政次郎の冴月瑠那らの好演も見逃せず、和海しょう、春妃うらら、亜蓮冬馬ら、ポイントの出番の面々も個性をよく発揮していて、軽やかに弾む舞台を支えていた。

たったひとつの惜しまれる点は、これだけの話題作でありながら公演期間が短く、チケット入手の困難さが壮絶を極めたことで、希望しながら観劇が叶わなかった観客も多くいたことと思う。柚香光の代表作になるのは論を待たないから、いずれかの時期でもっと大きな劇場、ゆくゆくは大劇場での上演も検討して欲しいと切に願うが、そんな願いを持てる優れた作品を生み出した花組メンバーにまずは拍手を贈りたい仕上がりとなっている。


〈公演情報〉
宝塚花組公演 ミュージカル浪漫『はいからさんが通る』
原作◇大和和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート)
脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇柚香光 ほか花組
●10/24〜30◎日本青年館ホール
〈料金〉S席 6,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォシメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



誰か席に着いて
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