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舞台芸術集団・地下空港の最新作『ポセイドンの牙』Version蛤が、10月13日に紀伊國屋ホールで幕を開けた(21日まで)。
 
地下空港は、1999年の旗揚げ以来、[劇場に旅をする]をテーマに、空間芸術と比喩的寓話を融合させたオリジナルの演劇スタイルを確立している。全作品の脚本・演出を手がける主宰の伊藤靖朗は、2014年にはウェールズ国立劇場の招聘を受けて渡英。現地でのリサーチを経て、2016年に発表した音楽劇『赤い竜と土の旅人』では、「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の準グランプリを受賞。2017年3月には、移動型参加型演劇『Safaring The Night』を上演するなど、意欲的な作劇で高く評価されている。今回の舞台は、2016年5月に紀伊國屋ホールで上演された『ポセイドンの牙』の改訂版にあたる。

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物語の中心となる陽気な男子高校生たち「スイサンズ」。そのリーダー格の須永宇宙期役に初舞台となる前田航基。親が牧師のインテリ道井磨多井役に初演にも出演していた原嶋元久。貝類オタクの葛崎賢人役に小早川俊輔。エロで頭がいっぱい生方英役に小松準弥。スイサンズのバカ筆頭・萩原安打尊役に森田桐矢。
また、ヒロインとなるスイサンズの憧れの武闘派美少女・寅一知花役に山下聖菜。高校生らと宝物を取り合う怪物達深海の使者・ドローナ役に森山栄治。深海の戦士・カルナ役に汐崎アイル。土地を買い漁る外資系エリート・岸部秀夫役に渡辺和貴。ポセイドンの妻に西丸優子が出演。
さらにスイサンズたちの担任教師、豊玉エリー役に、元宝塚歌劇団トップ娘役の愛原実花。海神ポセイドン役にはキャラメルボックスの看板俳優の岡田達也など豪華出演陣が揃う。

この公演の初日前に、プレス向けの公開ゲネプロと囲みインタビューが行われた。
 
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【あらすじ】
ナカツ県の乙亀(オトガメ)市にある水産高校に通う陽気なバカ男子仲間スイサンズたちはある日、自治体の資金難から母校がなんと防衛人材育成高校(男子校)へと変わる計画を聞く。海と夢と女子を愛するスイサンズはそれを阻止するべく、乙亀市海外のスニオ岬の海底に沈むと伝わる「黄金の釣針」を手に入れようと画策。しかし期を同じくして、海底に沈む太古の神々がその「釣針」をめぐり動き出すのであった…。

冒頭から客席まで巻き込んで物語が始まる。スイサンズのメンバー、須永、道井、生方、葛先、萩原や寅一らが客席に乱入。舞台上手から教師の豊玉エリーがマイクで英語を喋りながら登場。テスト結果をスイサンズのメンバーに配っていくつもりらしいのだが、その結果は…スイサンズでは、煩悶するインテリこと道井磨多井のできが一番良く、スイサンズのリーダー格の須永宇宙期の結果が最低だとわかる。

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そのまま豊玉先生は、水産高校は漁獲高の減少で、ナカツ県は125億円の財政赤字に陥り、乙亀防衛人材育成きぼう高校に名前が変わることが告げられる。しかも男子校。おまけに兵士育成学校だという。スイサンズは一斉にブーイング。さらに資金を提供してくれるのは、インドラインベストメントという化学プラント工場を建設するいかがわしいグローバル企業。それが豊玉先生から高らかに告げられると、ダンスミュージックがかかり、海洋汚染や性的欲求や戦争を例えるラップが始まる。深いテーマ性とポップなエンターテインメントを併せ持つ海洋冒険ファンタジーのスタートだ。

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舞台はすべてがクリーム色を基調としており、小道具もクリーム色、そしてジャンクなものを組み合わせた近未来的な舞台美術。舞台から吊り下げられたものは海に漂着した人工物だろう。海洋汚染の化学物質で漂白されてしまったように見える。客席にも舞台装置があり、出演者は客席や舞台を行ったり来たりする。
シーンが変わって、病室の風景になる。ベッドに寝ているのは須永の母(野々目良子)。須永は母からある話を聞く。乙亀の古い言い伝えで、スニオ岬に黄金の釣り針が沈んでおり、それで巨万の富を築ける伝説があるらしい。その話に乗って海洋実習でその岬にいくから探してみると告げる。そして帰り道、道井が美少女の寅一知花と真剣に話し合っているのを見てしまう…。舞台は次第に暴風に変わっていく。

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時を同じくして、海中では海神ポセイドンが、かつて敵対したドローナ(森山栄治)とカルナ(汐崎アイル)と戦闘をしている。ポセイドンが暴風雨は起こすと、ドローナは高濃度ヨウトネウムというポセイドンの能力を奪う汚染物質の入ったミサイルを発射させる。ミサイルの発射先はインドラインベストメントの化学プラントからで、そこからインドラインベストメントの工場長岸部秀夫が、ドローナの息子であることがわかる。ミサイルによってポセイドンの能力は奪われ、暴風雨が収まっていくのだが、海は汚れてしまう。

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海洋実習に来たスイサンズのメンバーたちは、元海女で水産加工業者のコシノトメ(鎹さやか)にアサリの捌き方を習うが、アサリの様子がおかしい。化学プラントの建設で、スニオ岬のあるワタツ湾ではダイオキシンが検出されたり物騒なことが起こり始めていて、その影響だとコシノトメが嘆く。そんな中、スイサンズのいるスニオ岬付近の海岸に、ワカメを大量に巻きつけたポセイドンが現れ、海の神としての能力は毒のせいで失われたが、海底には黄金の牙があると教えてくれる。そしてそれは海底の宮・ウツノミヤにあるというのだ。伝説が現実の話になり盛り上がるスイサンズたち。彼らはポセイドンと一緒に海の底に潜って行く…。

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寓意と冒険譚の混じり合ったファンタジックな物語は、ポセイドンの妻であるアムピトリテ(西丸優子)に出会ったり、イカ議長(竹岡常吉)が宮を取り仕切っていたり、アムピトリテの手下のアワビ(大塚由祈子)は、かつてスイサンズの葛崎に助けられたことがあったりと、次第にテンションがマックスになって行くのだが、その様子は遊園地のアトラクションに乗っているようで楽しい。

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須永宇宙期の前田航基は、初舞台ながらセリフがきちんと届き、ストーリーテラーとしての才能を発揮させ、スイサンズのリーダー役として舞台を引っ張る。
道井磨多井の原嶋元久はインテリだが堅物で、密かに知花を想っているいじらしさを感じさせつつ、宇宙期を体を張って助ける勇敢な少年をきりっと演じている。
小早川俊輔の葛先賢人は、アワビと仲良くなってしまうなど無類の貝類オタクぶりが面白い。また父親のプラント工場に勤める葛先棚蔵(野田孝之輔)が、外資プラント側に操られてしまうのを止めようと奮闘する姿が清々しい。

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小松準弥の生方英は、エロでチャラいキャラだが、仲間がピンチになれば真っ先に救いに走る。その切り替えが様になっていて魅力的だ。
萩原安打尊の森田桐矢はスイサンズのお馬鹿筆頭だが、自分が何よりメンバーのことを思っているという自負を感じさせて、カッコいい。
スイサンズのメンバーはそれぞれお互いを想い、いたわり、助け合う。経験が少なくて不器用だが、必死に危機を乗り越えようとする姿で人と人の繋がりや存在意義を見せてくれる。

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寅一知花の山下聖菜は、父親がボクシングジムを経営している超武闘派ということで、殺陣も見事にこなしながら、一本気で不器用な女子を見事に演じている。

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ドローナの森山栄治は、ポセイドンのライバルとして対峙し、ストーリーの核となる黄金の牙の重要性を、明晰なセリフで理解させてくれる。
その部下のカルナ(汐崎アイル)は、本来は弓の名手なのだが、古代の戦闘でPTSDを患ってしまっている。そんな複雑な役どころを笑いとともに巧みに演じている。

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外資プラントの岸部役は渡辺和貴で、まさに現代の諸悪の根源のような存在を若きフィクサーといった感じで演じ、現代に渦巻く欲望や悪意を体現する。

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アムピトリテの西丸優子は、ポセイドンの恐妻で息子トリトンを溺愛している女性としての迫力を見せる。
 
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豊玉エリーの愛原実花は、堅物だけれどどこかあっけらかんとしている英語教師役を、テンポと毒のあるセリフと屈託のない表情で魅せてくれる。やんちゃな高校生たちをまとめ、ストーリーが佳境になっていくにつれて重要になる役で、そのメリハリを、時には大人っぽく、時には無垢にあどけなく表現して、この舞台のミューズとしての役割を果たしている。

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海神ポセイドンの岡田達也は、インタビューで自ら「トリックスター」と語っていたように、海の神としての荒ぶる演技でスイサンズを困らせる存在になったり、アムピトリテに怯えたりと、変幻自在の演技力で大きな存在感を感じさせてくれる。

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演出の伊藤靖朗は、テーマとなる軍国化や海洋汚染の問題を、寓話や神話に巧みに織り込みながら、極上のエンターテインメントとして見せていく手腕が見事だ。時には客席をも巻き込みながら、現代の切迫した状況をリアルに理解させる。現代日本の深刻な状況に肉薄しながら、未来へ希望を少しでも探りたいという、強い意志を感じさせてくれる舞台となっている。
 
【囲みインタビュー】

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西丸優子、渡辺和貴、汐崎アイル、森山栄治、小松準弥、森田桐矢、山下聖菜
伊藤靖朗、愛原実花、岡田達也、前田航基、原嶋元久、小早川俊輔
 
この舞台『「ポセイドンの牙」Version蛤』の囲み取材が行われ、前田航基、原嶋元久、小早川俊輔、小松準弥、森田桐矢、山下聖菜、森山栄治、汐崎アイル、渡辺和貴、西丸優子、愛原実花、岡田達也、伊藤靖朗が登壇した。

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伊藤靖朗、前田航基、岡田達也

──前田航基さんは、舞台初出演で、初主演になりますが、舞台に立つ気持ちをお聞かせください。
前田 劇場に入って、先ほど場当たりして板の上に立たせていただきました。7年前に、「まえだまえだ」というお笑いコンビで舞台に上がっていた時は、時間が3分でしたが、今作では2時間も舞台の上で立ち続けることに、責任を感じています。逆にクイックな反応が帰ってくる楽しさを感じつつ舞台の魅力に魅せられています。
──岡田さんは、キャラメルボックスに所属され、様々な舞台に立たれていますが、伊藤靖朗さんの演出の感想を。
岡田 率直に言います。作家さんや演出家さんは、変わった方が多いんです。普通の人はいないかも(笑)。稽古場で驚いたのが、ダメ出しをしていらっしゃったのですが、言葉が止まったあと、ずっと動きだけでダメ出しをするんです。踊り出したと思ってちょっとびっくりしました(笑)。ご本人の中で言葉のニュアンスや全体の動線を整理していたんでしょうね。だんだん伊藤さんのことがわかってきて、描きたい世界観がわかってきました。見せたい絵にこだわりのある演出家さんだという演出で面白く稽古をさせていただきました。
──初演からの続投の原嶋元久さん、2016年の初演と「Version蛤」で大きく違った部分はありますか。
原嶋 主演が変わり、スイサンズのメンバーも変わり、大きくキャストが変わったので、作品に流れる空気感が違います。まるで、パラレルワールドに来たような感覚で、こういう『ポセイドンの牙』もあるんだと実感しました。
 
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──伊藤靖朗さんの特徴は、現代に対する問題を舞台芸術やファンタジックな寓話を通して描かれると聞いています。今回の作品を通して伝えたいことは?
伊藤 稽古に入ってからも国際的に色々な事件が起こりました。これは2016年に初演した芝居ですが、そこから1年も経たないうちに、戦前の中に生きている、あるいは戦前を我々が作り出してしまっていると一層感じるようになりました。作家としては、初演よりも、時代に対して物語の願いをぶつけていきたい気持ちを強く持っています。Version蛤で意識したことは、全体のストラクチャはそれほど変わっていないのですが、より一層、お客さん自体の中に一歩進んでいく演出を選ぼうとしました。それほど危機感を持ってこの作品に臨んでいます。
──皆さん意気込みを。
前田 初めて本読みをしたのが9月11日です。早いもので1ヶ月が過ぎました。初舞台で、右も左もわからず、みなさんに迷惑をおかけすることもたくさんあったと思いますが、諦めることなく、暖かく見守ってくださったみなさんの期待に答えられる9日間にしたいです。お客さんにも僕たちのエネルギーやメッセージをしっかり持って帰っていただけるように頑張りたいと思います。
原嶋 周りが変わって新しい道井磨多井の側面を見せられたらいいですね。主演の航基をしっかり横から支えられるように、スイサンズとしてもこの作品を盛り上げていけるように、千秋楽まで頑張りたいと思います。
 
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小早川
 先日24歳の誕生日を迎え、毎日この作品の深さを感じながら、お客さんに楽しんでいただくために、生まれ変わったようにバチバチにやっていきたいと思います。

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小松
 僕の役の英くんはエロ、チャラ、バカという三拍子が揃っていて、思春期の男子高校生を全部つまらせた役なので、男子校になるのを阻止するため、女子のためにパワフルに冒険したいと思います。

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森田
 さっき、バカを取られましたが、僕がバカ役です(笑)。バカなりのパワーでスイサンズを盛り上げて、あっという間の2時間だったと思えるような作品にしたいです。

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山下
 唯一ちゃんと戦う役をいただいています。そのコントラストを出していけたら嬉しいです。

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森山
 久しぶりにがっちりメイクをさせていただいていますので、このメイクに負けない芝居をしていきたいと思います。 

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 汐崎 僕はお師匠役の森山栄治さんとご一緒させていただいて、さらに岡田達也さんという先輩にも恵まれ、座長は前田航基くんという推進力を持った方が一番前を走っていただいているので、その一員になれるように頑張りたいと思います。楽しんでいる人間を見るのは楽しいのですが、楽しいだけの作品ではありません。この作品の奥底を噛み締めながらご声援をお願いいたします。

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渡辺 本番に入ってからも岸部秀夫なりの正義とラブを追求していきたいと思います。

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西丸 
ポセイドンの恐妻で女王様なので、威厳を持って演じられたらと思っています。重いテーマの中で楽しんでいただける少しコミカルな部分を作っています。一回一回の公演を丁寧にこなしたいと思います。

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愛原
 キャスト・スタッフの皆様の力強いパワーとみずみずしさで、稽古場から毎日勉強させていただきました。
 
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岡田
 テーマはしっかりしたもので、重たいものが根底に流れている作品ですが、我々がやっているのはエンターテインメントなので、楽しくこのお芝居を観ていただけたら嬉しいですね。
 
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〈公演情報〉 
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メディアミックス・ジャパン プロデュース公演
『ポセイドンの牙』Version蛤
作・演出◇伊藤靖朗
出演◇前田航基 原嶋元久 小早川俊輔 小松準弥 森田桐矢 山下聖菜/森山栄治 汐崎アイル 渡辺和貴 西丸優子/野田孝之輔 野々目良子 竹岡常吉 鎹さやか 大塚由祈子/愛原実花 岡田達也
●10/13〜21◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般 7,500円 18歳イカシート4300円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉メディアミックス・ジャパン03-6804-5456(平日12:00〜18:00)



 
【取材・文・撮影/竹下力】




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