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アレクサンドル・デュマの「三銃士」を基に、小池修一郎が全く新しい発想で描きだした、宝塚月組公演三井住友VISAカードシアター浪漫活劇(アクション・ロマネスク)『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(10月8日まで)。

『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』は、今尚世界中で愛され、読み継がれ、幾多の映像、演劇、アニメ、人形劇等々、あらゆるジャンルでの創作が続いている、アレクサンドル・デュマの傑作小説「三銃士」の主人公ダルタニアンと、アラミス、アトス、ポルトスの三銃士が、原作設定のルイ13世時代を飛び出し、フランスのブルボン王朝に燦然と輝く太陽王ルイ14世時代で活躍するという、脚本・演出の小池修一郎の大胆な発想で生み出された爽快なエンターテインメント作品となっている。

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【STORY】
17世紀のフランス。太陽王と称されるルイ14世(愛希れいか)はまだ年若く、母であり摂政であるアンヌ(憧花ゆりの)、その後ろ盾であるマザラン枢機卿(一樹千尋)の助言のもとに国を治めているが、イタリア人であるマザランとそのファミリーがフランスを牛耳っている現状に、国民の不満の声が高まっていた。
そんな国王が隊長を務め、国家と王家を守護する任務にあたっている銃士隊一の剣の使い手ダルタニアン(珠城りょう)は、銃士隊の仲間であり「三銃士」と謳われる、元修道士でありながらも世紀の色男と言われるアラミス(美弥るりか)、銃士隊隊長代理で沈着冷静なアトス(宇月颯)、大酒飲みだが大胆不敵なポルトス(暁千星)との固い友情を育みながら、任務に誇りを持ち日々邁進を重ねていた。
そんなダルタニアンに国王の剣の稽古の師範代を務めよという命がくだる。バレエに夢中の国王ルイは剣の稽古に身が入らず、何かと理由をつけては次々と指南役を罷免し続けていたのだ。三銃士に励まされ、緊張しながら王宮に伺候したダルタニアンは、アンヌ、マザラン、国王のいとこモンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)、マザランの甥で護衛隊隊長のベルナルド(月城かなと)らの見つめる前で、ルイとの手合わせを命じられる。生来ひ弱なルイの指南には手加減を加えるように、と申し渡されていたダルタニアンだったが、次第に熱を帯びた稽古の中で、つい剣を振り払ったはずみでルイを倒してしまう。激昂したルイはダルタニアンを自分の指南役には不適格と断じたばかりか、銃士隊の解散も考えると言い放って去っていく。
その夜、落ち込むダルタニアンを三銃士が慰めていた酒場に、ベルナルド率いる護衛隊が現われ、銃士隊がマザラン枢機卿を侮辱したとして乱闘がはじまってしまう。その騒ぎの中、ダルタニアンはルイーズという娘を助ける。ルイ14世に目通りした話を聞きたがるルイーズに、ダルタニアンは自分が如何に王家と国家を愛し、それを守護する職務に誇りを持っているか、更に、国王はマザランの言いなりになるのではなく、自らフランスを治めるべきだ、そうしないと国民の信頼を失ってしまうと語る。熱心に耳を傾けていたルイーズだったが、ダルタニアンが彼女のことを訊こうとすると、慌てて逃げ帰ろうとし、行かせまいとしたダルタニアンは、思わずルイーズに口づけをする。剣一筋に生きてきたダルタニアンだったが、この一夜の出会いで、ルイーズに心を奪われてしまったのだ。
そんな中、銃士隊に突然の解散命令が下る。狼狽する銃士たちを前に、ダルタニアンは護衛隊に武力を集中する為に、銃士隊解散を狙ったマザランの策略を言い当てるが、三銃士をはじめ誰にも国王の名で発令された命令を取り消すすべはなかった。散り散りになる仲間たち。だが、失職したはずのダルタニアンに、もう1度国王ルイの師範代をせよとの呼び出しがかかる。再びルイと面会したダルタニアンは、ルイが抱えていたブルボン王朝を揺るがす大きな秘密を知ることになって……

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浪漫活劇=アクション・ロマネスクと題されたこの作品には、その言葉通りのロマンと冒険がぎっしりと詰まっている。それは開幕していきなりアラミスの美弥るりか、アトスの宇月颯、ポルトスの暁千星、そして真打ちダルタニアンの珠城りょうがそれぞれセリ上がりながら歌い継ぎ、多くの銃士隊員の壮大なダンスナンバーへと発展する「All for One」1曲で、まず心をわしづかみにされる魅力だった。
ここで、ダルタニアンをはじめとした銃士たちの衣装が、ブルーデニムという軽やかさも良い。デニム生地を使った衣装というとフレンチミュージカルの『ロミオとジュリエット』や、最近ではバウホール作品の『パーシャルタイムトラベル 時空の果てに』等が思い出されるが、その中でも作品の世界観を一目で表わしたという点において、この銃士隊にブルーデニムを使った判断が効いていた。アニメの主題歌もかくやとばかりのキャッチーな音楽(太田健)、衣装(有村淳)と、聴覚と視覚で、ルイ14世時代に活躍するダルタニアンと三銃士という、デュマの原作にも、史実にもとらわれない、宝塚版だけの『All for One』が怒涛のように展開することを、一気に認知させてくれる。
そこからはもう、物語のテンポの良さと、東京宝塚劇場のステージ、セリ、階段、盆、銀橋、花道といた舞台機構のすべてを縦横無尽に使い尽くした見事な転換とで、一気呵成に進むドラマに魅せられていくばかり。時に『ロミオとジュリエット』だったり、時に『るろうに剣心』だったり、時に『スカーレット・ピンパーネル』だったりと言った、小池修一郎が手掛けてきたこれまでの作品を思わせる仕掛けが出てくることも、むしろ喜びにつながっていくほど舞台は弾みに弾む。レイピアの殺陣をはじめとした効果音の使い方もテンポの良さを増幅させるし、特に台詞からミュージカルナンバーに至る流れが、1拍の無駄もなく全くひっかかりがないのは驚嘆すべきことだ。海外ミュージカルの潤色・演出で宝塚歌劇のみならず、日本のミュージカル界の巨星となっている小池の、ミュージカル創りのノウハウが如何に優れたものであるかが、図らずもしっかりとこの舞台に現れていて胸躍った。

しかも何よりも良いのは、17世紀のフランスを舞台にしながら、この作品が王道の「ラブコメ」を貫いていることで、冒険活劇とブルボン王朝とラブコメが、ここまでしっくりと馴染む世界は宝塚をおいて他にないだろう。もちろん重厚な悲劇も、新たな挑戦作もそれぞれに魅力があるが「ああ正しい宝塚を観た!こんな作品が観たかった!」という気持ちになれる王道作品には、やはり代え難い魅力がある。

その満足感の中に、このドラマの登場人物たちが、珠城りょう、愛希れいかのトップコンビ以下、月組の陣容にピッタリとハマった、あてがきの見事さが大きく寄与していることも見逃せない。スターが作家に愛されている作品ほど、観客が幸せになれるものはないのだ。

その1番手はもちろんダルタニアンの珠城りょうで、ガスコーニュ生まれで、父親の教育のもと剣の道に邁進し、国王と国家を守る銃士隊の一員であることに誇りを持つ真っ直ぐな青年という設定が、まるで珠城その人のようにマッチして個性を輝かせている。元々どっしりとした貫禄を下級生時代から持っていた人だが、月組の未来を担うべく早くから次々に大きな役柄を演じ続けていた中で、基本的に各時代のトップスターよりも上背があり、体躯もしっかりしていたから、学年よりずっと大人の役が回ってくることが多く、どこか影のある役も多かった。それだけに、このダルタニアンの清々しさ、おおらかな優しさが、珠城本来の魅力を開花させた様には目の覚めるばかりの効果があった。「この地上の何処かに」の晴れやかで、伸びやかな歌声も心地よく、トップスターとして2作目の公演で、早くも真価を発揮したのが嬉しい。

そんな珠城に、ルイ14世として対峙する愛希れいかが、入団当初は男役だった経歴を如何なく発揮している。愛希がルイを演じるというところで、ブルボン王朝が抱えている秘密というのは言ったも同然だし、事実作中でもその秘密は非常に早い段階でつまびらかになるのだが、それでもこれは元男役のトップ娘役・愛希れいかがいたからこそ実現した設定なのは間違いない。さすがは昔とった杵柄で、男役姿に違和感がなく、だからこそ真実を明かした心の叫びも真に迫り、壁ドンをはじめとした珠城との少女マンガの世界さながらの恋模様も適度にコミカルで、かつ胸キュンでなんとも愛らしい。バレエシーンもふんだんにあり、余人に代えがたい役柄となった。

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そんな二人を支える、三銃士の面々もそれぞれの個性をよく活かしていて、目に耳に楽しい。世紀の色男、というキャッチフレーズで登場するアラミスの美弥るりかは、その華やかな容姿ばかりでなく、女性への気遣い、髪の跳ね上げ方、足の組み方などの実に細かい部分で、アラミス像を創りこんでいる。この人の華があることによって、ダルタニアンの実直さも活きる効果も生んでいて、美弥ならではの美しきアラミスが見事だった。フィナーレ冒頭の歌手の煌めきも目を奪う。
銃士隊の隊長代理アトスの宇月颯は、銃士隊全員を統括する役柄を、的確な演技力と髭の似合うダンディーなビジュアルで活写している。常に先を読むアトスの行動は、作中でも物語を大団円に導く重要なポジションを占めていて、起死回生の計画を歌い上げる歌唱も十全なら、キレのある動きでの殺陣やダンスも見惚れるばかり。コツコツと精進を重ねてきた実力派が、相応の働き場を得て輝いている姿は、後進の何よりの励みになることだろう。確かな成果を喜びたい。
もう1人の三銃士ポルトスの暁千星は、自身に役柄を近づけたポルトス像を披露。健康的な個性の持ち主だし、元々原作設定にこだわっていない作品だから、大酒飲みではなく、大食漢でも良かったかな?とは思うが、王宮に偵察に行きながら酒瓶に手を伸ばしてしまうという小芝居も楽しく、衛兵姿もとぴっきり可愛い。ダルタニアンを含めた四銃士の個性が、多彩に分かれたのも効果的だったから、暁のポルトスとして面白く観られた。

彼らに立ちはだかるマザランファミリーでは、マザランの甥ベルナルドの月城かなとの比重が大きい。この役を美弥という考え方も或いはあったかも知れない、というほどの役柄だが、主人公の敵方に回ることが多かった美弥が、共に戦う三銃士という配置は新鮮だったし、これが本公演の月組には初加入となる月城にとっても、「壁」をキーワードに徹底的な敵役ではなく、コメディリリーフの香りさえあるベルナルド役に挑めたのは、良い経験となったことだろう。事実大劇場上演時よりずっとコメディの間が良くなっていて、当たり役の蒼紫を思わせる二刀流のサービスまであり、上々の月組デビューとなったのが何よりだった。

マザランファミリーは大人数で、束ねるマザラン枢機卿の一樹千尋の重厚感と食わせ物感は最早絶品の粋だし、ベルナルドの兄フィリップの紫門ゆりやは、本人は香りに慣れすぎて感じなくなっている香水マニアの、はた迷惑感を嫌味なく見せた。姪たちの中ではやはりマリー・ルイーズの早乙女わかばの美貌が光り、こせついたところのないおっとりした芸風が、紫門同様役に生きた。紫乃小雪の愛らしさも目立つだけに退団が惜しまれる。
ベルナルドの護衛隊では、千海華蘭と輝月ゆうまの色濃い造形が光るし、銃士隊から護衛隊に寝返る貴澄隼人と春海ゆうも、重要なアクセントになっている。貴澄はダルタニアンの回想シーンの父親役、輝月はルイの回想シーンのルイ13世役で、それぞれソロも取り、歌唱力も活きた。ソロと言えば、銃士の夢奈瑠音、蓮つかさもそれぞれ良い歌を聞かせたし、やはり退団の輝城みつるに目立つ場面がきちんとある目配りも美しい。

元銃士という位置づけでダルタニアンたちに加担するビゴーの綾月せり、その妻シモーヌの白雪さち花の剣戟一座が重要な関わりをもってくるのも脚本の面白さで、二人が呼び込みでラップを歌うぶっ飛び感も楽しめる。二人に育てられたジョルジュの風間柚乃は、作品のキーマンともいえる役柄を果敢に演じ、演技巧者の片りんを感じさせて末頼もしい。

王宮ではアンヌの憧花ゆりのの重石がありつつ、ちょっとした台詞で笑わせる緩急が光るし、スペイン王女マリア・テレサの海乃美月のコケティッシュな演じぶりも巧み。肖像画通りの難しい髪型を再現しているが、十分愛らしく公演毎に綺麗になっていて、娘役としてますます磨きがかかってきた。ルイお抱えの振付師リュリの佳城葵も良い味を出しているし、ボーフォール公爵の光月るうが極自然に大物感を発揮して、マザランに格負けしていない。

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そして、特筆すべきはモンパンシェ公爵夫人の沙央くらま。専科転出後、更に進境著しい演技派男役だが、小池作品では過去も様々な女性役を演じてきていて、今回はそれらすべての経験がつぎ込まれたかのような、美しく、艶やかで、思い込みが激しく憎めないという女性像を生き生きと演じ、出てくる度に場を浚う快演だった。公演中に次に出演が決まっている雪組公演での退団が発表され、ファンの心中やいかばかりかだし、フィナーレのグラマラスビューティぶりを見ると、これからまだまだたくさんの可能性を秘めていた人だと思えるだけに、ここでの退団発表は無念だが、『All for One』大成功の一翼を担った功績は長く記憶されることだろう。男役に戻っての集大成となる次公演の大いなる成果を祈っている。

と、とても書ききれないほどの役があり、そのすべてで出演者一同がそれぞれのカラーで舞台に息づいたことが嬉しく、宝塚の宝塚たる魅力にあふれた、爽快なオリジナルミュージカルが生まれたことを誇らしく思える舞台となっている。


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また、初日を前に囲み取材も行われ、月組トップコンビ珠城りょうと愛希れいかが公演への抱負を語った。

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はじめに珠城りょうが「本日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。今日から東京公演がはじまります。大劇場では本当に多くのお客様にお越し頂いて、 皆様が楽しんでくださったのが私達にも伝わり、大変気持ちのいい公演期間でございました。 東京公演でもたくさんのお客様に楽しいひと時をお届けできるように頑張って参りたいと思います。本日は短い時間ではございますが、よろしくお願い致します」と挨拶。

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続いて愛希れいかが「本日はお忙しい中お集まりくださいまして、誠にありがとうございます。私自身もこの公演をさせて頂き、とても楽しくて、本当にワクワクして毎日公演をさせて頂きました。東京の皆様にもそういう気持ちがしっかりと伝わるように「明日からも頑張ろう!」という気持ちになってもらえるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します」と挨拶。続けて記者の質問に答えた。 
 
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その中で、特に苦労した点は?という質問に珠城が、やはりこの世界ならではのレイピアを使った殺陣が、剣の長さもあり西洋剣術の独特さもあり、はじめはとても大変だった。と語ると、愛希がルイ14世の声を如何に低く発声するかに腐心したという、それぞれこの公演ならではの特徴をあげて振り返っていた。

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また、お互いに好きなシーンは?との問に、珠城が愛希のルイ14世の出生の秘密が明かされる「呪われた運命」を挙げると、愛希が珠城のダイナミックな立ち回りを挙げて、それぞれの目線で互いの魅力を語りあう、和やかな空気に場が和んだ。

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一転フォトセッションでは、愛希がルイ14世の衣装だったこともあって、男役同士のようなキリッとした空気感が立ち昇り、この公演限定の雰囲気が醸し出されたのが印象的な時間となっていた。

またこの日は特別に、作・演出家の小池修一郎の囲み取材も行われ、小池から見た珠城&愛希をはじめとした月組の魅力や、潤色・演出作品と、オリジナル作品のそれぞれの作り方の違いなどが、真摯な言葉で語られる貴重な内容となっていた。

囲み キメ

この珠城&愛希、小池修一郎の囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に11月9日発売の「えんぶ」12月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演
三井住友VISAカードシアター アクション・ロマネスク(浪漫活劇)
『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』
脚本・演出◇小池修一郎
出演◇珠城りょう、愛希れいか 他月組
●9/1〜10/8◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.000円 S席8.800円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-00-5100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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