058GOA4789

宝塚星組の二番手男役として活躍する礼真琴の、東京での初主演となる『ATERUI─阿弖流為』が、新装なった日本青年館ホールで上演中だ(6日まで)。

『ATERUI─阿弖流為』は、2000年に吉川英治文学賞を受賞した高橋克彦の小説「火怨 北の燿星アテルイ」をもとに、大野拓史が宝塚ミュージカルに仕上げた作品。8世紀、東北へ支配領域を拡大しようとした大和朝廷が蝦夷討伐に乗り出す中、蝦夷の「人」としての誇りを守る為に朝廷軍に立ち向かった、若きリーダー阿弖流為の生きざまが描かれている。

【STORY】 
8世紀。東北地方で発掘される豊かな金鉱を得ようと、東北を支配領域に治めるべく朝廷は蝦夷討伐に乗り出していた。ある夜、その朝廷に与し蝦夷を裏切ったと思われていた伊治の蝦夷の長・伊治公鮮麻呂(壱城あずさ)は、各地の蝦夷の長を集め、自らの命と引き換えに参議・紀広純(輝咲玲央)の首を取る計画を打ち明ける。鮮麻呂が朝廷に与していたのは、全てこの機会を得る為の身を挺した偽りだったのだ。その尊い犠牲による図り事を聞く長の息子たちの中に、ひと際強い光を放つ眼差しを持った若者がいた。彼こそが、胆沢の長の息子であり、のちに蝦夷の命運を担う阿弖流為(礼真琴)だった。 
鮮麻呂の遺志を受け継いだ阿弖流為は、仲間と共に蝦夷の為に立ち上がることを決意する。だが、多勢に無勢の朝廷軍と戦うことを無謀だと思う阿弖流為の父の従者・飛良手(天華えま)は、朝廷に蝦夷の動きを内通することで生き残りを企てるが、阿弖流為の熱い説得によって翻意し、忠実な側近となる。阿弖流為の想いはただ一つ。蝦夷を獣同然に扱い、同じ人とは見なさない朝廷に、蝦夷も同じ人だと認めさせることだった。 
そんな中、阿弖流為は、黒石の蝦夷の長の跡継ぎ・母礼(綾凰華)と、その妹佳奈(有沙瞳)に出会う。天性の軍略の才を持つ母礼は、以後阿弖流為の片腕の軍師となり、その知略に長けた奇襲作戦と阿弖流為の勇猛果敢な働きぶりは、蝦夷に度重なる勝利をもたらす。嫁いだ先が朝廷軍に襲撃され寡婦となっていた佳奈は、阿弖流為に希望を見出し、阿弖流為もまた佳奈に惹かれ、二人は深く心を寄せるようになる。
だが、続く敗戦に業を煮やした朝廷は、都随一の武人と謳われる坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)に、蝦夷征伐を任じる。欲に溺れず、ただ桓武天皇(万里柚美)の命を受けた武人としての役目を全うしようとする田村麻呂には、これまでのような奇襲作戦は通用しない。阿弖流為は身を捨てて蝦夷を守ろうとした鮮麻呂の遺志に思いを馳せ、ある策略を講じる決意をして……。

107L3A4849

8世紀に実在した蝦夷の勇者阿弖流為の生きざまは、様々な形で映像化や、舞台化がなされてきた。特に東北地方が未曾有の大災害に見舞われた東日本大震災の後には、東北の復興を応援しよう!という趣旨のもとに、多くの作品が生まれている。そんな中にあって、宝塚歌劇が改めて阿弖流為を主人公にしたミュージカル作品を作るに当たり、原作に求めたのが高橋克彦の「火怨」だったことが、まず何よりも優れた選択眼と言えるものだった。
と言うのも、原作小説は上下巻、1000ページにも及ぶ大作だが、読み進めて感嘆するのが、出てくる若者たちが、いずれ劣らぬ良い男ばかりだということなのだ。阿弖流為と言えば、当然対に出てくるのは坂上田村麻呂ということになるが、軍師の母礼、腹心の部下となる飛良手をはじめ、それこそ今流行りの乙女ゲームもかくやとばかりに、良い男のオンパレード。おそらく読めば誰かしらタイプの男性が見つかるだろうというほど、友情に厚く、義に熱い男たちが繰り広げる闘いが迫力たっぷりに描かれていて、これはカッコ良い男を演じさせたら右に出る者のない、宝塚の男役の為にあるような題材に違いなかった。

その原作の特性を、脚本・演出の大野拓史が良く生かしている。何しろ原作が大長編なので、そのどこを切り取るか?によって作品の印象は全く異なるものにもなるところを、阿弖流為を軸に蝦夷の良い男たちをくまなく網羅し、舞台に設置された特大の映像パネルを駆使して、読みにくい漢字の多い登場人物の紹介から、場所の移り変わり、自然描写までをスピーディに押し進めた手腕はたいしたもの。更に阿弖流為の成長物語でもあるが故に、原作小説では下巻になってやっと登場する坂上田村麻呂も実に自然に物語の序盤から登場させ、阿弖流為の好敵手としての立場を明確にしていたし、徹底的に男の物語の原作には描かれていない、ヒロイン佳奈の心理や人生を書き加えるなど、宝塚版ならではの改変も当を得ている。これは資料を深く読み込む劇作家大野の特徴が吉に出た好例で、高橋恵と玉麻尚一のどこかアニメソングにもつながる高揚感を持った音楽の数々の力も加わり、徹底的なエンターティメント作品に仕上がっていた。これによって主人公の辿る結末がわかっている物語が、暗く沈んで終わることを防ぐことにもつながったし、阿弖流為の選ぶ決断の基に鮮麻呂の存在があったことを、制約のある時間の中できちんと書き込んだ故の成果でもあった。

016GOA4081

そんな作品で「主演・礼真琴」という大クレジットが映像に出たほどの華やかな東京初主演となった礼真琴の阿弖流為が、非常に柄に合っている。元々原作を読んでいる時から、礼の声で台詞が聞こえてくるという現象に陥ったくらい、この役は合うだろうという予感があったが、それが見事に的中して、血気盛んな熱い男が、リーダーとして成長し、身を捨てても蝦夷の誇りを守るに至る流れを、的確に表現している。星組の若き二番手スターとなってから、黒い役が続いていて、それはもちろん男役礼真琴の成長には役立つものではあろうと思いつつも、若々しいヒーローも観たいとも願っていた時期だけに、豊かな歌唱力と俊敏な身体能力が共に生かされた阿弖流為は打ってつけだった。新しい劇場のこけら落とし公演の大任を任され、それをきちんと代表作と呼べるものに仕上げた礼の自力に、改めて感心する主演ぶりだった。

067GOA4802
 
ヒロイン佳奈の有沙瞳は、嫁ぎ先の里が滅ぼされ、朝廷に復讐を誓う寡婦という、原作とは全く異なる設定を、陰影深く演じて見応えがある。佳奈がただの良妻賢母ではないヒロイン像になったことで、作品全体にも深みが増したし、礼との並びも良く似合って美しい。星組に加入以来、柔らかさと愛らしさを増していて、歌唱力も十分。ますます楽しみな娘役に成長している。

更に、この作品で礼に負けず劣らずの存在感を示したのが、坂上田村麻呂の瀬央ゆりあ。礼主演の公演で二番手格の役柄を演じたのは『鈴蘭(ル・ミュゲ)─思い出の淵から見えるものは─』に続いて二度目となるが、その『鈴蘭』から約1年半、ここまで男役スターとしての押し出しと、華やかさを身に着けていたとは、と、驚かされる変貌ぶりに感嘆した。朝廷の中で唯一蝦夷を「人」として認め、尊重もしている武人を堂々と演じていて、礼に対して全く不足がない。こうなってくると持ち前の容姿の良さも光ってくるから、逸材揃いの95期生の中に、また1人目が離せない男役スターが育ってきた格好だ。期待したい。

083GOA4869
 
そして、前述したように良い男揃いの登場人物の中では、やはり母礼の綾凰華が目を引く。原作小説の中では完全に二番手の役柄であることもあって、沈着冷静な軍略の天才として、全体の中でのカラーの違いが鮮明に描かれ、綾もまたその役の性格をよく表している。正直、プログラムにこの人の扮装写真がないのが、なんとも不自然なほどの大役を手中に納めているから、新天地となる雪組での活躍が楽しみだ。飛良手の天華えまは、はじめは阿弖流為に対して反旗を翻し、それがあったからこそ最後まで阿弖流為につき従う重要なポジション。顔立ちがソフトな人だけに、阿弖流為を裏切ろうとする描写がもう一息鋭くても良いか?と思わせはするが、腹心の部下として阿弖流為に心酔する様はきちんと伝わり、若手ホープらしい明るさが印象的だった。また、阿弖流為の仲間の中では伊佐西古のひろ香祐の骨太さが光ったし、阿弖流為に対して距離を取る蝦夷である諸絞の音咲いつきも、少ない描写で阿弖流為への屈折した思いをよく表現している。この公演を最後に娘役への転向が発表されているが、男役として有終の美を飾っていて、娘役・音咲いつきの誕生にも期待が膨らんだ。
他に、桓武天皇で男役に回った万里柚美、どこにいても愛らしく、娘役の良心とも鑑とも思える坂上全子の音波みのりをはじめ、何しろ最下級生の鳳真斗亜まで、出演者全員に役があるという大野の脚色が、それぞれの今後にどれほどの糧になったかと思うと、この作品に出演したメンバーの幸運を思わずにはいられない。分けても特筆すべきは鮮麻呂の壱城あずさで、阿弖流為の生きざまの指針となる、つまりはこの作品の骨子となる人物を、決意と哀惜を込めて演じていて、壱城の多彩な経歴の中でも屈指と言える名演だった。

そんなすべてのメンバーに働き場の多い充実した作品が、礼を筆頭に星組の明日を担うだろう人材に用意されたことを喜びたい舞台となっている。



〈公演情報〉
宝塚星組公演『ATERUI─阿弖流為』

原作◇高橋克彦「火怨 北の燿星アテルイ」(講談社文庫刊)
脚本・演出◇大野拓史
出演◇礼真琴 ほか星組
●7/31〜8/6◎日本青年館大ホール
〈料金〉S席 7,800円 A席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




妃海風コンサート2017






kick 

shop 

nikkan 

engeki