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2017年7月23日、宝塚歌劇団雪組トップスター早霧せいなが、相手役の咲妃みゆ、鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんり、蒼井美樹の同時退団者と共に宝塚に別れを告げた。

2001年『ベルサイユのばら2001─フェルゼンとマリー・アントワネット編』で初舞台を踏んだ早霧は、新人公演主演を果たした『NEVER SAY GOODBYE』『維新回天・龍馬伝!』、バウ・ワークショップ初主演の『殉情』等をはじめとした数々の作品を経験した宙組時代を経て、09年雪組に組替え。『ニジンスキー』では、天才バレエダンサーヴァーツラフ・ニジンスキー、『双曲線上のカルテ』では不治の病を背負った医師フェルナンド=デ・ロッシを、早霧ならではのクールビューティな男役ぶりで活写した、優れた主演作を残しながら、音月桂、壮一帆と二代のトップスターを二番手男役の立場で支え、14年満を持して雪組トップスターに就任。相手役となった咲妃みゆとの、まるで絵に描いたような美しいコンビぶりと、熱血漢な男気にあふれたパッショネイトな個性で、雪組を牽引してきた。
特に『伯爵令嬢』『ルパン三世』『るろうに剣心』『ローマの休日』と、不動の人気を誇る劇画、アニメ、また世界的名画の世界を宝塚ミュージカルとして上演した数々の作品で、原作ファンにも宝塚ファンにも好評を博す見事な舞台を披露して、宝塚の枠を広げる大きな功績を残してきた。中でも相手役の咲妃みゆとの、互いが互いをリスペクトし、常に高めあいながら同じところを見つめ、手に手を取って走り続けるコンビとしての美しさと、巧まずして現れる厚い信頼感は、二人が共にいてくれるだけで舞台に幸福感を立ち昇らせ、「平成のゴールデンコンビ」と称えられるものとなっていった。
一方、歌唱力抜群の二番手男役スター望海風斗を含めた三人の関係もまた、「宝塚が誇るトリデンテ」とも呼ばれ『星逢一夜』『私立探偵ケイレブ・ハント』など、宝塚オリジナル作品、『Greatest HITS!』『La Esmeralda』などのショー作品も絶好調。退団作品となった『幕末太陽傳』『Dramatict“S”』まで、早霧時代のすべての本公演チケットが東西でソールドアウトするという、宝塚103年の歴史始まって以来の快挙を成し遂げるに至る、雪組の新たな伝説を作り上げた。

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そんな早霧の男役最後の日を飾るサヨナラショーは、大階段に真紅の衣装の早霧が現れるところから開幕。赤の衣装がストレートに想起させる『ルパン三世』から「ルパン三世のテーマ」を洒脱に歌う。早霧のスレンダーな体躯が、アニメのルパンの細身と見事に合致したトップ披露公演が目に浮かび、話題になったルパンステップをこの日も軽やかに決めてくれた。そこから、同作品の「My Dear Queen's Diamond」を皮切りに『星影の人』の「生きるときめき」、『星逢一夜』の同名曲、『哀しみのコルドバ』の「コルドバの光と影」、『るろうに剣心』の「不殺の誓い」「微笑みを交わして」と、雪組トップスターとして演じた様々な作品と役柄のナンバーがメドレーで歌われていく。曲調が変わるごとに、後ろを向いて振り返った早霧が、一瞬にして沖田総司から天野晴興に、更にエリオ・サルバドールにと、表情から纏う雰囲気までを変えていく様に圧倒される。
 
メドレーの最後は咲妃との名コンビのはじまりでもあった『伯爵令嬢』の「ジュ・テーム、愛さずにはいられない」。ストレートロングの黒髪の早霧演じるアランが、咲妃演じる金髪のコリンヌに所謂「壁ドン」をした瞬間の、宝塚ならではの胸キュン感が蘇るようだった。そのまま早霧と入れ替わって上手花道に、そのコリンヌを演じる咲妃が登場。懐かしい台詞も交えながら「翼、広げて」が、可憐なソロで歌われる。この展開の流れも絶妙で、まるで砂糖菓子のように愛らしい一対の出発点が見事に蘇らせていた。

続いて、大階段に早霧を中心とした白に雪組カラーの緑をぼかした衣装の男役たちが登場し『La Esmeralda』から「Mambo No5」が印象的な掛け声と共にダイナミックに踊られる。早霧のクール・ビューティな外見の中にある、誰よりもパッショネイトな熱い魂が、この男役たちとのナンバーにさく裂するようだ。そこから曲調が滑らかに流れ、早霧と咲妃による『Greatest HITS!』の名場面中の名場面「Over the Rainbow」に乗せたデュエットダンスが繰り広げられる。すべての戦いを終わらせる術はただ愛のみである、と訴えたこのデュエットダンスは、数多ある早霧と咲妃による忘れ難い名シーンの中でも、最高のものと言っても過言ではない愛と幸福感にあふれたものだっただけに、ここでの再現は別れを惜しむ観客への、二人からの何よりのプレゼントにも感じられた。改めて観ても、涙なくしては見られない美しいシーンだった。

デュエットダンスの余韻が残る中、望海風斗を中心に、この公演で退団する鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんり、蒼井美樹が『La Esmeralda』から「愛のエスメラルダ」を賑やかに歌う。いつでもどんなタイミングでも、退団する生徒を見送る時に、惜別の想いがわかないことなどないが、ここにいる5名は雪組の中で特に大きな光を放ってきた個性的な面々だけに、明るい曲の調べの中に尚、寂しさが募った。
そんな曲が終わると、鮮やかなコバルトブルーの衣装に身を包んだ早霧と咲妃が登場。『ルパン三世』の「自由(リベルテ)」『私立探偵 ケイレブ・ハント』の「シティラプソディ・デュエット」『ローマの休日』の「本当の二人、本当の物語」がメドレーで歌い継がれていく。トップコンビが同時退団するサヨナラショーは、これまでも数々行われてきているが、コンビのデュエット曲にここまで多くの時間が割かれたのはあまり記憶がなく、やはり早霧と咲妃が特別のコンビだったことが、愛おしい思い出と共に刻みこまれた。

ここからサヨナラショーはいよいよクライマックスに。1人残った早霧がやはり『ローマの休日』から「約束の場所」を切々と歌う。早霧の演じたジョーと咲妃の演じたアン王女の永遠の別れと、生涯消えない奇跡の出会いの思い出を描いたこの曲には、わかりすぎるほどわかっている『ローマの休日』のラストで、こんなに泣かされるとは思わなかったというほど泣かされたものだったが、このハートフルな歌詞はまさに今の早霧と彼女を愛した観客たちに通じるもの。客席を埋めた緑の星型のペンライトが放つ、美しい光の海までが涙に揺れるようだった。
そして最後は、出演者全員が居並ぶ舞台に早霧が合流して『Greatest HITS!』の同名曲が歌われる。「いつか音楽が、すべての国境も、民族の違いをも超えて人々を1つに結ぶ、そんな夢を信じている」と、本当に夢のような、だからこそ決して忘れてはいけない尊い想いをテーマとしたこのショーの主題歌は、早霧率いる雪組がつないだ絆を体現する素晴らしい楽曲で、早霧が創り上げた雪組の輪が、舞台上にキラキラと輝いて写った。ここに集った、全国で中継を見つめた、更にそれぞれの務めの中で、今日この時を惜しんでいたすべての人の想いを代弁する電飾の文字「See you Again Sagiri!」に彩られ、サヨナラショーの幕は下りた。涙なくしては見られない、素晴らしい時間だった。

興奮冷めやらぬ舞台に、雪組組長梨花ますみが登場し、この日退団するメンバーの略歴や、コメントを述べ、緞帳に懐かしい映像が映し出されていく。そして再び緞帳が上がると、そこは最後のセレモニーの場。蒼井美樹を先頭に、宝塚の正装である黒紋付と緑の袴姿の退団者たちが、1人ずつ最後の大階段を下りてくる。挨拶はそれぞれに出会った人への感謝や、宝塚への愛が語られる真摯なもので、宝塚人生に悔いなしと清々しく語ってくれる姿に、こちらの寂しさがわずかに癒される想いがした。
そして、6人目に咲妃が登場。常にどこかのんびりした口調が印象に残る話し方とはまた違った1本芯の通った話ぶりで、相手役の早霧への感謝も込めた挨拶をする姿に、宝塚トップ娘役としての咲妃の集大成を感じさせた。
いよいよ、最後の時間となり、雪組生全員からの「ちぎさん!」という呼びかけに、「はい!」と答えて現れた早霧も、やはり同じ紋付袴姿。このセレモニーでは男役トップスターは黒燕尾服などを選択するケースも多いが、日本物を数多く手掛けてきた早霧の袴姿は実に清新で、早霧せいなという男役トップスターが最後に大階段を下りるのに、やはり最も相応しい装いに感じられた。惜別の言葉を述べる早霧の表情には万感こもるものがあり、彼女が創った雪組の時代の残像が煌めいていて、名残りを惜しむ観客からの、鳴りやまぬ拍手に応えるカーテンコールが長く続いた。

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その後、退団記者会見に臨んだ早霧は「宝塚の舞台を無事に終えて卒業することが出来ました。本当にありがとうございました。お忙しい中お集まり頂き光栄です。よろしくお願い致します」と挨拶。記者の質問に応えて、宝塚の男役としての最後の日の、想いを語った。

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その中で、「動員記録を打ち立てた要因は?」との問いに、「宝塚には5つの組があり、そこに70人〜80人の生徒がいる。その1人1人が輝けば輝くほど、宝塚を観たいと思ってくださるお客様が増える。だから全員が輝くことを常に考えてきたので、そのあたりではないか」と、決して新記録樹立が自分だけの功績ではなく、組子あってのものだと語り、また相手役の咲妃についての問いには「どんな時にも傍にいてくれた。彼女なくして今の自分はない」と言い切るなど、常に周りへの感謝を忘れない受け答えに、男役スターとしてだけでなく、早霧の人間性の素晴らしさが現れて深い感銘を与えた。 

特に、サヨナラショーの構成について「雪組の主演男役として立たせて頂いた作品からという思いと、私のサヨナラショーであるのと同時に、一緒にトップコンビとなって、共に卒業する咲妃と、共に創るサヨナラショーでもあると思ったので、二人のデュエット曲などに於いては彼女の希望も多いに入っています」と語る姿に、サヨナラショーの構成の真意を見る思いがして、改めて、男役としての大きさと男気を感じさせていた。

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それでも「男役最後の日に、ウルっとしたことがありましたか?」との問いに「毎日続けてきた何気ない挨拶も今日が最後なのかと思うと…」と言葉にした刹那、その情景が蘇ったのか涙を浮かべるシーンも。早霧が如何に深く、濃く、宝塚の男役を愛してきたかが、会場全体に伝わる記者会見となっていた。

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この日、近隣施設等の工事の為に、通行が制限されていた東京宝塚劇場前も、無事サヨナラパレードが行える場所が確保され、蒸し暑い7月の、更に小雨もパラつく時間もあった劇場前には、約8.000人の別れを惜しむ人々が集い、その熱気で更にあたりはむせ返るよう。その中を、1人、また1人と退団者たちが多くの拍手に迎えられ、劇場前を歩み去っていく。愛らしいピンクを基調とした花を持った咲妃が、その花に負けないとびっきりの愛らしい笑顔で場を後にすると、劇場前の空気が最高潮になる中早霧が登場。ファン1人1人の声と瞳を受け留めるようにゆっくりと歩み、多くの記者の求めに応じて笑顔を見せたのちに、早霧の雪組のトレードマークとなった「絆!絆!」の声に送られ、早霧せいなは「私の全てでした」と語った宝塚から、飛び立っていった。想いと想いがあふれる惜別の1日が終わりを告げた。

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そんな深い思い出の中に浸る暇もなく、新雪組トップコンビ望海風斗と真彩希帆を中心とした新たな雪組が始動し、この日宝塚を去っていった咲妃みゆ、鳳翔大、香綾しずるの、新しいステージの情報も早くも聞こえてきている。宝塚はこうして、100年を超える歴史を紡いできたのだ。きっと、今後について問われて「それは軍の機密事項です」と茶目っ気たっぷりに語って名言を避けた早霧の次の歩みも、遠からず発表されるであろうと期待している(と同時に、ゆっくりする時間も持って、たくさん美味しいものを食べて欲しいとも願ってやまない)。決してこの1日が別れだけの日ではなく、新しい出会いの日なのだとも信じている。けれどもそれとは全く別次元で、早霧せいなと咲妃みゆという「平成のゴールデンコンビ」が宝塚に残した数々の美しい軌跡を忘れることはないだろう。100年の歴史に燦然と刻まれた、愛すべきコンビに改めて大きな拍手を贈りたい。
 
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尚、早霧せいな退団記者会見の詳報は、9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!

※舞台写真は後日、追加掲載します。
  
蒼井美樹サヨナラパレード
蒼井美樹(撮影:住川絵理)
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星乃あんり
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桃花ひな
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香綾しずる
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鳳翔大
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咲妃みゆ
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早霧せいな


【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/宝塚歌劇団】



妃海風コンサート2017






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