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平成のゴールデンコンビと謳われ、雪組を牽引してきたトップコンビ早霧せいな、咲妃みゆの退団公演となる、宝塚雪組公演かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(23日まで)。

まず芝居は、かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』。鬼才川島雄三監督が1957年に発表した、日本映画史に燦然と輝く同名代表作を、宝塚歌劇団が初めてミュージカル化して上演した。「居残り佐平次」を中心に「品川心中」他いくつかの古典落語を組み合わせ、実在した品川の遊郭・相模屋を舞台に起こる様々な人間模様を軽妙なタッチで描いた傑作映画を、川島監督を崇拝し、監督のようなプログラムピクチャーの作り手になりたいと熱望して、劇作家の道を志したという小柳奈穂子が、念願の作品に取り組めた喜びが浮かび上がるような舞台となっている。

【物語】
時は幕末、文久二年のこと。北の吉原と並び称された南の品川宿に、その海鼠壁から土蔵相模と呼ばれた旅籠「相模屋」があった。その相模屋にある日佐平次(早霧せいな)という町人がふらりとやってきて、仲間たちと豪勢な芸者遊びに興じるが、仲間からわずかの割り前を受け取った佐平次は、寝屋へ誘う女郎おそめ(咲妃みゆ)も遠ざけて悠々と1人寝を決め込む。実はこの佐平次、お大尽遊びができる金など全く持ち合わせていなかったのだ。翌朝、堂々と居残りを決め込んだ佐平次は、番頭や若い衆顔負けの仕事ぶりで相模屋を駆け回り、次々と起こる騒動を持ち前の度胸と才覚で解決していく。そんな日々の中で、はじめは恥をかかされたとお冠だったおそめや、異人館焼き討ちの計画を練る高杉晋作(望海風斗)ら長州藩士たちとも交友を深めた佐平次は、いつしか廓の人気者となるが、実は佐平次は誰にも明かしていない秘密を抱えていて……

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映画と同じ軽妙なナレーションからはじまる舞台は、とにかく勢いが良く、弾むテンポにあふれている。基本的に群像劇なので登場人物が大変多く、雪組の豊富な人材がきめ細かく登用されていて、組の勢いがそのまま作品に現れているのも良いし、佐平次のキャラクターを1曲で表す「居残り稼業」。おそめと佐平次が新しい世界を夢見る「ここではないどこか」。佐平次、おそめ、高杉晋作がそれぞれの明日を目指す「朝陽の向こう」など、ミュージカルナンバーがいずれも佳曲揃いで、小柳が原作映画を巧みにミュージカルの世界に乗せた手腕が光る。
特に「朝陽の向こう」は、「トリデンテ」とも称されて雪組の一時代を築いた早霧、咲妃、望海体制のラストランにまことに相応しい美しい場面で、この場面があることによって、原作映画では、佐平次が1人でどこまでも生き抜いて行こうと駆けだすラストシーンであるのを、佐平次とおそめが共に手を取り合って走り去るという、トップコンビの退団に寄せた展開への書き換えが、自然になる効果ともなっていた。非常によく考えられたウェルメイドな世話物に仕上がっていて、さすがは作家が長年愛した世界だけのことはある。おそらく小柳としてはある意味本懐を遂げた仕上がりだったろう。その熱量の高さは客席からもひしひしと感じられた。

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ただ、作品の出来栄えが優れていることは十二分に評価した上で、どうしても胸の底に小さな違和感が残る。それは、平成のゴールデンコンビと謳われ、そのコンビとしての存在を愛し、惚れ込み、今、最後の別れの時、過ぎ去っていく1日、1日を、時間よ止まれと叶わぬ願いを持ちながら過ごしているだろう多くの観客を生んだ、早霧せいなと咲妃みゆという、宝塚史上に残る名コンビの退団公演に、この作品が最も相応しいものだったのだろうか?という思いだ。
もちろん、佐平次の軽妙洒脱な味わいと、胸のうちにある真実の思いを演じるのに、当代のトップスターの中でも最も相応しいのは早霧だったと思う。娘役という領域からは確実に外の位置にある、失った板頭の地位の復権を目指す女郎おそめにしても、憑依型の突き詰めた芝居をする咲妃あったればこそ成立したものに違いない。芝居巧者の2人がいてこそ、この作品が宝塚ミュージカルとして生れ出ることができた。その挑戦への勝利は見事なものだ。
かつて同じ雪組のトップスターだった一路真輝も、退団公演に大きな賭けだった黄泉の帝王トートを演じ、それが今日宝塚の財産となった『エリザベート』を生み出している。何より宝塚百年の歴史は、そうした果敢な挑戦の上にこそ築き上げられた栄光の軌跡だ。それも十分わかっている。それでも心のどこかではやはり、早霧と咲妃の2人が共にいるだけで、共に笑いあい、見つめあってくれているだけで観ている者も幸福になれたこのコンビの集大成には、宝塚王道の男役と娘役、プリンスとプリンセスの恋物語を、宝塚という夢の園にいる間にしか叶わないロマンチックな、永遠に心に残るラブシーンを期待していたと言ったら、それはこれだけ完成度の高い作品を用意した小柳に、あまりに酷な望みだろうか。実際のところこれは、仮にこの作品が2人の通過点だったとしたならば、全く、何一つ感じなかっただろう思いだから、つくづく宝塚という世界で劇作家を貫くのには、難しい問題が多々あると思う。作家が本懐を遂げることと、去りゆくトップコンビに本懐を遂げさせること、引いてはこの夢の世界の住人を愛した観客に悔いはないと言わせること。この両立が叶う道さえあれば、これに勝るものはないに違いないのだが。

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その中で、前述したように早霧の佐平次の縦横無尽の活躍ぶりには、素直に見惚れる。本来は胸の病を抱え死を決意して流れて来た品川で、再びまだまだ生き抜いて行こうという活力を得ていく佐平次の変化を、他者と接している時のあくまで軽妙な立ち居振る舞いと、ふと1人になって見せる孤独の影とを、絶妙に活写していて感嘆させられる。羽織をつかった相当に難度の高い所作も、難しいことをやっているとは全く感じさせずにこなしていて、「あっぱれ!」の一言。「日本物の雪組」を率いた早霧ならではの、自力を感じさせる軽やかさだった。
一方の咲妃も、板頭の座を奪われた女郎こはるとの大立ち回りもあり、人気回復の最終手段とばかりに心中を持ちかけた相手をあっさり見捨てる変わり身の早さといい、宝塚の娘役を完全に振り切った役柄に堂々と対峙したのは、やはりこの人の深い芝居心のなせる業だろう。それでいて決して愛らしさを失わないのが咲妃ならでは。トップコンビとして考えれば、多いとは言えないポイント、ポイントの芝居の中で、2人が共に駆け去っていくラストシーンに無理なく、互いの関係を寄り添わせていったコンビの力も光った。

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高杉晋作の望海は、作品中最も二枚目な役柄に、貫禄と凄味を与えていて心憎いほど。仲間たちとのやりとりにも自然にリーダーの風格があり、星乃あんりのこはるとの間に、深い思いがあるのでは?と感じさせたのも良い彩りになっている。何より、佐平次とのやりとりに早霧と望海が重ねてきた日々が投影されて見えることが、味わいを深めた。これも前述した通り、早霧、咲妃、望海で歌われる「朝陽の向こう」の美しさは比類なく、原作通りだから仕方がないとは言え、終幕のおそめの墓探しのくだりがやや過剰に思われるほど、宝塚としてのカタルシスを持った名シーンとなっていた。

更に、群像劇であるこの作品の何よりの美点として、多くの雪組生が大活躍しているのが目に耳に楽しい。相模屋の若旦那徳三郎の彩風咲奈は、よく考えるとかなりどうしようもないぼんぼんなのだが、そこに憎めない愛嬌がにじみでるのは、彩風の芝居力とスター性の賜物。こういう役柄を品を崩さずに演じられる男役に成長していることを、改めて印象づけていて素晴らしかった。次期トップ娘役に決まっている女中おひさの真彩希帆の、しっかり者ぶりとの対比も良く出ている。長州藩士の久坂玄瑞の彩凪翔も、キリリとした二枚目の作りできちんと若い藩士たちが一目置く人物を造形している。次代を担う望海にとっても、ますます頼もしい男役の戦力になることだろう。同じ長州藩士たちはいずれも生き生きとしているが、中でも志道聞多の煌羽レオの的確な演じぶりが光る。タイミングと運に恵まれず、惜しくも新人公演主演を逃した人だが、本来ルックスも自力も十分に備わっているので、今回の活躍は嬉しい限り。この調子で組のアクセントとなっていって欲しい。また、こはるを巡って実の親と争いになる清七の永久輝せあは、もうこの役柄が如何にも軽く見えるほどのスター性と勢いに驚かされた。末頼もしいホープとして、ますます伸びていってくれることだろう。

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また、退団者にも大きな役柄があるのは、これは小柳の座付き作家としての粋なはからいで、こはるの星乃あんりは、咲妃と真っ向勝負する役柄を、実に魅力的に演じている。むしろ子役が似合うほどの愛らしい娘役だった星乃が、こんなにも艶やかな娘役となって去っていくことが惜しまれてならない。まだまだ可能性のあった人だと思うが、最後にこの大役を手にできたことが何よりだった。高杉の望海との言葉に出さない思いの交感も良い。おそめの心中相手に選ばれてしまう貸本屋金蔵の鳳翔大は、どこまでも朗らかでおおらかな芸風が、人の好い金蔵に打ってつけだった。彼女のキャリアの中の金字塔は『るろうに剣心』の相楽左之助なのは間違いないが、この金蔵も彼女でなければできない味わいを残した役柄となっていたのが嬉しい。長州藩江戸詰め見廻役鬼島又兵衛の香綾しずるは、『ドン・ジュアン』の亡霊役の快演と言うより、更に怪演とも言いたい演技が鮮烈で、雪組の重石的存在としてより一層活躍してくれるだろうと信じていただけに、このタイミングでの退団には驚きを禁じえなかったが、この時代では年かさになる男性を、おかしみを秘めて楽々と演じていて、更に退団が惜しまれた。

他に、相模屋を切り盛りする夫妻の梨花ますみと奏乃はるとの、奏乃が入り婿という関係性が二人によく合っていたし、おそめに借金の返済をせっつくおくまの舞咲りんのアクの強い演技は捧腹絶倒。非常に贅沢な汝鳥怜、悠真倫の専科勢の投入を含めて、雪組が総力を結集した群像劇となっている。

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そこから一転、かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』は、ショースター(Show Star)として輝く、早霧せいな(Seina Sagiri)が率いる、雪組(Snow troupe)の魅力を、共通する「S」をキーワードに詰め込んだショー作品で、中村一徳の作。組の人員の総力戦で押してくる中村作品の常のスタンスを守りつつ、後半から怒涛のように早霧、咲妃コンビのサヨナラ一色になる、これぞ退団公演のショーという作りに大きなカタルシスがある。

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中でも、Bryant Baldwin振付によるジャジィーなカッコよさにあふれる「Song&Dance」の小粋なスピード感はため息ものだし、雪組の次代を担う望海と真彩の顔見世、彩風、彩凪、永久輝と、やはり次世代の重要人物たちを押し立てつつ、早霧&咲妃コンビが創り上げた現雪組の集大成も存分に魅せるバランス感覚が絶妙。特に雪組カラーのペパーミントグリーンで描かれる「Snow Troupe・絆」は、2人と共に退団する鳳翔、香綾、星乃、桃花ひな、蒼井美樹への贐あり、早霧と咲妃のデュエットダンスありと、もう涙なくしては見られない美しさ。早霧が雪組生全員と1人1人目を合わせていく時間、その間トップスターが客席に背を向けることになる時間が、ここまで尊く温かく感じられる劇団は、宝塚をおいて他にないだろう。舞台だけでなく、客席を含めたすべてが宝塚という幻想共同体を担っていることが、改めて感じられる得も言われぬ名場面だった。

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「別れの曲」で踊られる早霧と咲妃の名残の純白のデュエットダンスの後ろに「See you Again Sagiri」=「また会いましょう!」との電飾を配してくれた心憎いばかりの配慮と共に、宝塚のショー作家中村一徳の白眉たる作品に仕上がっていて、去りゆくトップコンビと今しか見られない、早霧が率いた雪組の残像を鮮やかに残す、優れたショー作品となっている。

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また初日を前に、通し舞台稽古が行われ、雪組トップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが、囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

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まず早霧から「今日はお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。千秋楽まで雪組公演の宣伝をよろしくお願いします!」と朗らかな笑いを誘う挨拶があった。

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続けて咲妃が「本日は通し舞台稽古をご覧頂きまして本当にありがとうございます。最後まで雪組一丸となって頑張って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」との挨拶があり、続いて記者の質問に答えた。

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その中で、宝塚としては異色な『幕末太陽傳』に取り組んだ気持ちを問われた早霧は、退団公演がこの作品、この役に決まった時には戸惑いもあった、としながらも退団公演を意識せず新たな挑戦をできる舞台に取り組めたと、意欲的。映画らしさと同時に宝塚らしさも備えた作品になっていると自信を見せた。

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また咲妃も退団公演の役が女郎役ということに、ファンの方々も驚いたようだったが、取り組むにつれおそめが素敵な女性だと思えて、早霧さんと同じくやりがいを感じている、とこのコンビらしく互いが同じ地点を見つめていることをにじませていた。

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特に、ショーのデュエットダンスでは、振りとしてさほど大がかりなことをしていない中で、どこか芝居のように見せられるのが3年間コンビを組んできた自分たちならではのものになっているのではないか、と早霧が語ると、とても一言では語れない思いがある…と咲妃が思いを込めて早霧を見つめる一幕も。更に雪組全員と瞳を合わせる場面では、日々グッとくるものがあり、パワーをもらっていると語る早霧の、組への思いがあふれでるよう。そんな早霧とコンビを組ませて頂いたからこそ、様々な挑戦ができたと語る咲妃の視線に、早霧がわざと知らん顔をして場が笑いの渦に包まれるなど、最後の日まで温かく絵のように美しいトップコンビの絆が感じられる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇雪組公演
かんぽ生命ドリームシアター ミュージカル・コメディ『幕末太陽傳』
〜原作 映画「幕末太陽傳」(C)日活株式会社 監督/川島雄三 脚本/田中啓一、川島雄三、今村昌平〜
脚本・演出◇小柳奈穂子
かんぽ生命ドリームシアター Show Spirit『Dramatic“S”!』
作・演出◇中村一徳
出演◇早霧せいな、咲妃みゆ ほか雪組
●2017/6/16日〜7/23日◎東京宝塚劇場?
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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