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児童文学の傑作であり、スタジオジブリのアニメーションをはじめ、数々のメディアで取り上げられてきた『魔女の宅急便』が、装いも新たにミュージカルの舞台となって、新国立劇場・中劇場で開幕した(4日まで。のち8月31日〜9月3日まで大阪の梅田芸術劇場シアタードラマシティでも上演)。

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「魔女の宅急便」は、児童文学作家の角野栄子が1982年〜2009年の27年間に渡り執筆した全6巻の児童書。1989年に宮崎駿監督により、スタジオジブリが制作したアニメーション映画が大ヒットし、日本はもちろん、世界的に愛される作品となった。その後、1993年〜1996年には蜷川幸雄演出によりミュージカル化。2014年に実写映画化、そして2016年にはイギリス・ウェストエンドにて舞台化が行われるなど、様々なクリエーターの手によって、今尚大きな広がりを見せ続けている。

今回のミュージカル版は、そんな原作をもとに、新進気鋭の若手制作チームによる新脚本・新演出で繰り広げられる新生『魔女の宅急便』。ヒロインの魔女の女の子キキに「東宝シンデレラ」の上白石萌歌、空を飛ぶことに憧れる少年トンボにジャニーズJrの阿部顕嵐、キキの理解者となるパン屋のおかみさんおソノに宝塚で星組と雪組でトップ娘役を歴任した白羽ゆり、そのほか強力なキャスト陣が揃っての上演となっている。

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【STORY】
街の人々が皆家族同然で、人間と魔女が共に住むことを誰もが当然のこととして受け留めている小さな街で育った、魔女の女の子キキ(上白石萌歌)は、古くから伝わる魔女の世界の習わしにのっとり、13歳になった満月の夜、相棒の黒猫・ジジ(小林百合香、夏鈴・Wキャスト)と共に魔女のお母さんコキリ(岩崎ひろみ)、お父さんオキノ(横山だいすけ、中井智彦・Wキャスト)と暮らした家を離れて旅に出る。キキは自分で新しい町を見つけ、1年後には自力で暮らせるようにならなければならない。けれども、空を飛ぶ魔法しか知らないキキは、ようやく降り立った新しい町コリコで、故郷とは全く異なる大きな町での価値観の違いや、魔女であることに対する好奇の目や偏見に驚き、苦しむ。その中で、空を飛ぶことに憧れる少年トンボ(阿部顕嵐)との交流や、キキを家に迎え入れてくれたパン屋のおソノさん(白羽ゆり)に励まされながら、自立の道を探していく。

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そんなある日、キキは大急ぎで届けたいものがある、という女性から頼まれたプレゼントをなんとか約束した時間通りに届けられたことで、空を飛べることが人の役に立ったと喜ぶ。そんなキキを見ていたおソノさんの提案で、飛べることを生かしお届けもの屋さん「魔女の宅急便」を始めたキキは、次第にたくさんの依頼を引き受けるようになるが、それが仕事である以上、人の喜ぶ顔が見たいと願うキキの思い通りには、なかなかことは進まない。更に、何かとちょっかいを出してくるトンボへの淡い恋心も、まだまだ子どものキキには上手く咀嚼することができない。そうしたストレスが重なり、次第に体調を崩してしまったキキのもとへ、町長から町の1年で一番大きな行事に関わる、緊急の仕事が舞い込む。キキは無事にその依頼を果たせるのか。そしてトンボとの淡い恋の行方は……。

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まるで絵本を開くような美しいシルエットからはじまる舞台は、幕開きから音楽にのせて物語の世界観を実にスムーズによどみなく伝えてくれる。もちろんキキが空を飛び旅に出る幾多の場面では、ワイヤーアクションや、プロジェクションマッピングによる雄大な背景などが取り入れられているが、それ以上に印象的なのが、多くの重要な役どころを含めて多彩に活躍するアンサンブルの面々のレベルが非常に高いことで、彼、彼女たちが歌い踊り、ドラマを的確に運んでくれる様が心地よい。
それはつまり良質なミュージカルとしてのクオリティを、この作品が非常に高いレベルで保っている証でもあって、劇団四季で研鑽を積んだのちに、オリジナルミュージカルの制作に力を注いでいる演出・脚本・振付の岸本功喜、作曲・音楽監督・歌唱指導の小島良太の、ミュージカルのノウハウを知り尽くしている手腕が光った。
そのことが、スタジオジブリによるアニメーション版があまりにも広く認知されている作品を、今、改めて舞台化するという、相当な勇気がいっただろう企画を可能にする力になっているのは間違いない。この舞台には、魔法や、空を飛ぶ夢や、何よりも互いを思いやる心が生む奇跡を、素直に信じさせてくれる、ストレートに胸をうつ温かな煌めきが詰まっている。

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そんな作品の魅力を更に輝かせたのが、キキを演じる上白石萌歌の、なんとも愛らしい舞台姿だ。魔女の少女ならではの黒のワンピースに、頭には赤い大きなリボン。お馴染みの扮装が上白石の可憐な容姿と相まって、まるで童話の世界からそのまま飛び出してきたかのよう。笑顔はもちろん、悲しい顔も、寂しげな表情も、怒った顔でさえもなんとも可愛らしく、キキの故郷の街の人々のように、客席で彼女の成長と冒険の旅を心から応援したい気持ちにさせてくれる。よくぞ登場してくれた!と思うほど、魔女の少女キキに打ってつけで、この日の相棒、黒猫ジジ役の夏鈴との息もピッタリ。歌声も涼やかで、作品をその愛らしさと、懸命さで見事にリードしていた。

空を飛ぶことに憧れ、コリコの町で真っ先にキキと友達になろうとする学生トンボの阿部顕嵐は、爽やかな持ち味と、黒縁のメガネの奥からこぼれ出てくるような、アイドルらしい華やかさが魅力。キキとの交流に、初恋の少年少女の清真な香りが立ち上り、舞台にときめきともどかしさと、だからこその美しさを加味していた。ダンスシーンももちろん鮮やかに決めて、後半の盛り上がりに大きく寄与していた。

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コリコの町でキキに温かい手を差し伸べるおソノさんの白羽ゆりは、全編を通して妊婦姿での登場だから大きな動きこそないが、それでもなお白羽ならではの美しさと、優しさが際立つ。魔女が家にいるって素敵なことだ、と言ってくれるおソノさんは、観客の心に最も近い登場人物でもあり、ポイント、ポイントの出番を印象的に、更にちょっと気風の良い感覚で舞台を引き締めていて素晴らしかった。おソノさんの旦那さんのフクオさん(藤原一裕。なだぎ武とのWキャスト)が、無言の芝居で見守る姿も頼もしい。

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キキのお母さんコキリの岩崎ひろみは、ファミリーミュージカルの先駆的存在である『アニー』の歴代アニー役の1人だけに、お母さんを演じる立場になったのか、と感慨深いものがあるが、よく動く表情で舞台ならではの大きな表現を自然にこなしている力量はやはり確かなもの。また、お父さんのオキノの横山だいすけ(中井智彦とのWキャスト)は、今年3月まで歴代最長出演となる9年間、NHKEテレでうたのおにいさんを務めた人ならではの、子供の目線に寄り添った優しいお父さんの在り方が絶妙。キキを育んだ温かい家庭を、二人の雰囲気が醸し出していて秀逸だった。

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他に、幼いキキ、幼いジジが、現在のキキとジジと同時に舞台に出る構成も巧みだったし、前述したようにアンサンブルの面々の働き場も多く、原作にはないオリジナルなラストシーンも含めて、舞台ならではの魅力に溢れたミュージカル『魔女の宅急便』となっていて、公演期間があまりに短いのがもったいないと感じられる、優れた舞台に仕上がっている。

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【囲みインタビュー】

初日を前にした通し舞台稽古のあと囲み取材が行われ、上白石萌歌、阿部顕嵐、白羽ゆり、岩崎ひろみ、横山だいすけ、藤原一裕が公演への抱負を語った。

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横山だいすけ、岩崎ひろみ、上白石萌歌、白羽ゆり、藤原一裕
 
──いよいよ今日からはじまりますね!
上白石 そうですね。昨日から舞台稽古だったのですが、昨日はどちらかと言うと場当たりなので、今日はじめて全部の場面を通してお芝居したので、その分気持ちの部分もつながったし、私自身も舞台の上で成長しているような気がしました。6時半からの(本番の)公演では、もっと楽しめるんじゃないかなと思います。
──お二人は初共演ですよね?
上白石・阿部 はい。
──どうですか?普段のジャニーズの舞台とはかなり違いますが。
阿部 全く違うので、皆さんに支えてもらって、学ばせて頂いております。初めてのことだらけで、僕は戸惑ってもいますが、歌もお芝居も上手い皆さんなので、盗ませて頂いている感じです。
──お稽古していていかがでしたか?
阿部 僕は幕から見ているのですが、ここの動きいいなとか、このセリフ回しいいな、と思うところを自分流に取り入れて、真似させてもらったりもしています。
──ちなみにどなたの?
阿部 だいすけさんの一番最後のセリフがあるんですけど、すごく意識しています。
横山 あー、それは嬉しいですね。
──だいすけさんも「うたのおにいさん」を卒業してこのミュージカルに。
横山 そうですね。僕も新しい環境の中で、こうして素晴らしいキャスト、スタッフの皆さんとご一緒することができて、毎日毎日が楽しい稽古でしたし、外ではこういう感じなんだな!という気持ちで、毎日新鮮な気持ちでやれていたのが自分としても楽しかったです。
──うたのおにいさん時代とはまるで違いますよね。
横山 そうですね。今回おにいさんから「お父さん」になったので、お父さんとしてどういう風に居ればいいのかな?というのをキキちゃんの演技を見ながら、舞台の中では表現していないところでもどういう風にキキちゃんと関わりをもっていたのかな?とか、コキリさんとの夫婦感もどうやって出していけばいいのかなと考えました。
──お二人で相談されたりも?
横山 相談と言うよりは感じることが多いかな?と。
岩崎 ずっと一緒のシーンなので、なるべく嘘のない関係と言いますか、仲の良い家族になるように普段から会話するようにしていました。

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──世のお母さんの中には「だいすけロス」が広がっているとも。
横山 そう言われると少し恥ずかしいのですが、世の中のお父さんとお母さんの気持ちを少しでもつかんで、娘を笑顔で送り出してあげられる存在になれたらいいなと思っていて、「だいすけロス」と感じてくれている、「子供との時間を大切にしています」というような皆さんの声を、自分の力にして臨ませて頂きました。夫婦感としては「今日の料理何食べたい?」みたいな。
岩崎 舞台でもずっと喋っていますね。今(舞台稽古では)3回噛みましたけど(笑)。
横山 反省会をします!
──上白石さんは原作の「魔女の宅急便」を読んだ印象は?
上白石 私はジブリ作品のアニメーションで知っていて、大好きなのですが、このお話を頂いた時からジブリの世界観のイメージが固まってしまうのを避けて、映画は敢えて観ずに小説を読んで役作りをしました。
──どんな印象でしたか?
上白石 原作のキキの絵は髪が長くて大人びた印象があったので、このショートヘアも新しいキキを感じて、アニメで観るよりも自分の中で絵を想像するようにしました。
──阿部さんはどうですか?とても有名な原作ですが。
阿部 僕も知ったのは同じくジブリ作品からなんですけれども、原作も読んで、僕は上白石さんとは違って逆にアニメを観て自分なりにトンボを自分の中に落とす、ジブリ作品とは全く同じにはならずに解釈する為に、1回見直してどうやったら自分のトンボができるかを考えたりしました。
──ジャニーズのメンバーとは違って女性も多い舞台ですね。
阿部 一番気にしたのは着替えで、僕普通に楽屋の前とかで脱いじゃうんですけど、それはなるべく控えようかなと(笑)。普段(男性ばかりなので)周りの目を気にせずに脱いでしまう癖がついているので。
──白羽さんそのあたりはどうですか?
白羽 私も宝塚出身なので、女性ばかりの世界で堂々と着替えていましたから、そこは敢えて見ないように(笑)。
──役柄については?
白羽 おソノさんは、私全編通して妊婦役という舞台は初めてなので、今回は本当に挑戦だなと思っているのですが、お稽古場から10代の萌歌ちゃんと顕君のセリフにキュンキュンしていて。一番最初に合わせたところから、少しずつ慣れてきて、舞台稽古、そして本番もきっと違う空気になる、その空気が全部正解だと思うんです。その空気を共有できることが、おソノさんとして2人を見守る、「頑張って!」という気持ちにお稽古場から自然になれたので、そういう意味ではおソノさんという役柄に巡り合えて本当に良かったなと思えますし、藤原さんの安心感もすごくあるので本番が楽しみです。

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──藤原さんは頼れる存在で?
藤原 喋っていいですか?(全員笑)ここでは喋っていいですか?劇中は一切喋ってないので(笑)。安心感を持っていただけているなら僕も良かったです。
──プライベートでもお子さんが生まれられて。
藤原 そうですね。ブライベーとでも劇中でも生まれて。お稽古期間中に、演出の岸本さんから「もし稽古の日に奥さんの陣痛が来たらうちの稽古はいいですからね」と言って頂いていて、本当に稽古の日に準備していたら陣痛が来まして、言ってもらえていたので休ませてもらって立ち会うことができました。劇中ではちょっと立ち会えなかったですが(笑)。
──それは役作りの上でも貴重な経験に。
藤原 そうですね。
白羽 色々教えて頂いたりしました。
藤原 ちょっと妊婦さんの立ち方とか、うちの奥さんだけかもしれませんが結構ガニ股になってたんでね(笑)。このお腹の大きさなら何ヶ月ですねとか。
──すごく良いタイミングでしたね。
白羽 本当に! こんなタイムリーなことって!と皆でお祝いもできて、それもまた温かくで良いなと思いました。
──舞台で全くセリフがないというのは。
藤原 正直初めてのことで、咳払い1回だけなんです。だから何パターンも咳払いの練習をしました(笑)。
岩崎 マイクチェックも咳払いでね(笑)。
藤原 そうこれ(ピンマイクを示して)嫌がらせなのかな?と思ったんですけど(笑)。
──では身体全体で演技するということで。
藤原 そうです。2時間通してボディランゲージをやっていますので、そこを見て欲しいてす。
──役作りの苦労などは?
藤原 なかったです。プライベートでもお父さんになりましたので。
──記念すべき舞台になりましたね。
藤原 本当にプライベートとこんなにシンクロすることがあるんだなとありがたいです。

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──さぁ、いよいよあと3時間でお客様が入られますが。
阿部 早いなというのが率直な感想ですが、僕的には今までやってきたことを信じてやっていくしかないですし、本番は楽しんでやることが一番だと言われ続けてきたので、僕はキキちゃんと「はじめまして」からスタートして、最後には告白されるという役なので、ちゃんと舞台上で心を揺さぶらないとなと思っています。
──心揺さぶられそうですか?
上白石 稽古をしていくと、トンボとキキって、最初キキは「ふん!」としていて、演出の岸本さんから二人はなるべくこのキキとトンボの状態でいたいと言われていて。でも稽古中に色々な相談をしていると仲良くなってしまうので、最初のシーンの初々しさをどうやって出そうか?ということをすごく自分なりに考えました。
阿部 「はじめまして」って言い合ってね。
上白石 そう、毎日「はじめまして、よろしくお願いします」から始めていました。でも最終的にはトンボを救うというところにつなげなければならないので、自分の中に色々な引き出しをもって、そのどの引き出しからも感情が出るように気持ちを創っているつもりです。
──阿部さんのファンの方も大勢いらっしゃると思いますが、その視線などは気になりますか?
上白石 たぶん舞台上に立っている時は私はキキでしかないし、トンボでしかないので、ステージには「魔女宅」の世界しか広がっていないので、緊張もしないし、私はキキとして息を吸うたけです。
阿部 僕も袖にいる時からずっとトンボです。トンボになりきって、周りの皆さんとの会話も公演中はトンボっぽく話すように意識しています。トンボのままっていうのは同じです。
──大阪公演もありますか、まだ皆さんで食事に行ったりなどは?
藤原 今のところ僕の知る限りまだないです。僕が誘われていない可能性もありますが(笑)。
岩崎 お稽古が大変だったので、とりあえず東京を終えて、大阪に行ったらどこかに連れていって頂こうかなと。ちょうど顕嵐君の誕生日がね。
阿部 そうなんです。僕大阪公演の前日に誕生日で20歳になります。
──じゃあ19から20歳になる時にこの公演が。
阿部 そこもすごく誕生日の次の日から公演ということは、20歳になった次の日からの舞台なので、今から思い入れがあります。
──10代最後の舞台をどんな舞台にしたいですか?
阿部 やっぱり10代ならではのフレッシュさを残しつつ、まぁ20歳になってもフレッシュですけど(笑)、大人と子供の狭間をトンボなりに表現したいと思います。
──では皆さんにメッセージを。
上白石・阿部 『魔女の宅急便』観に来てください!待ってます!!

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〈公演情報〉
ミュージカル『魔女の宅急便』
原作・監修◇角野栄子 
脚本・演出・振付◇岸本功喜 
作曲・音楽監督◇小島良太 
出演◇上白石萌歌、阿部顕嵐(ジャニーズJr)、白羽ゆり、岩崎ひろみ、横山だいすけ/中井智彦[Wキャスト]、藤原一裕(ライセンス)/なだぎ武 [Wキャスト]他 
●6/1〜4◎東京・新国立劇場 中劇場
〈料金〉S席10,500円 A席8,000円
●8/31日〜9/3◎大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシテイ
〈料金〉S席10,500円 A席8,000円
〈お問い合わせ〉アークスインターナショナル 0798-34-5377(平日13時〜18時) 
〈公式ホームページ〉http://www.musical-majotaku.jp/




【取材・文・撮影/橘涼香】




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