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宝塚星組の新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里のお披露公演である、宝塚歌劇星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(6月11日まで)。

ミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』(※以下、『スカーレット・ピンパーネル』)は、1997年にブロードウェイで初演され、大ヒットを記録したミュージカル。バロネス・オルツィの小説「紅はこべ」を原作に、大革命勃発後の恐怖政治の嵐吹き荒れるフランスで、次々と処刑されていく罪なき貴族たちを救うべく、イギリス貴族のパーシー・ブレイクニーが仲間たちと秘密結社を結成し、スリルと知恵で歴史の荒波に立ち向かう冒険活劇の要素と、それによってすれ違う夫婦の心理描写を描いた娯楽作品は、フランク・ワイルドホーンの数々の名曲と共に喝采を集めた。
 
このブロードウェイミュージカルに、ワイルドホーンが宝塚版の為に書き下ろした佳曲「ひとかけらの勇気」を主題歌に据え、王大使ルイ・シャルルの救出劇という新たな軸を加えた、小池修一郎の潤色・演出による宝塚バージョンが2008年宝塚星組により本邦初演。安蘭けい、遠野あすか、柚希礼音らによる上演は絶賛を集め、第16回読売演劇大賞優秀作品賞、第34回菊田一夫演劇大賞を受賞。 続く2010年、霧矢大夢、蒼乃夕妃、龍真咲、明日海りおらによる月組での再演も大好評で、常に再演の呼び声の高い 宝塚歌劇の人気演目に成長を遂げた。また、昨年、石丸幹二、安蘭けい、石井一孝らの出演による、梅田芸術劇場企画・制作の男女版の上演も大ヒットを飛ばしていて、日本ミュージカル界全体でも、広く愛される作品として定着している。
 
今回の上演は、そんな作品の宝塚歌劇での3演目であり、本邦初演である08年の星組公演時に、新人公演で主人公パーシー・ブレイクニーを演じ、一躍スターダムに躍り出た紅ゆずるが、星組のトップスターとしての披露公演で、再びパーシーを演じるという、ドラマティックな邂逅による舞台となっている。

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【STORY】

1794年のフランス、パリ。1789年に起こったフランス大革命から数年が経ったパリの街では、ロベスピエール(七海ひろき)を指導者とするジャコバン党によって、貴族たちが次々と捕らえられ、公正な裁判もないままに断頭台へと送られる日々が続いていた。そんなフランス革命政府の敷く恐怖政治に異を唱える人物がいた。彼の名はパーシヴァル・ブレイクニー(パーシー・紅ゆずる)。イギリス貴族である彼は、誰にもその正体を知られぬまま、赤い星型の花「スカーレット・ピンパーネル」と名乗り、無実の罪で処刑されていくフランス貴族を密かに救い出しては、国外に亡命させる活動を続けていた。
 
そんな日々の中でパーシーは、コメディフランセーズ劇場の花形女優マルグリット(綺咲愛里)と恋に落ち、二人は電撃的に婚約。海を渡りイギリスでパーシーの妻となる道を選んだマルグリットは、最後の舞台で観客に別れの挨拶をしていた。だが、思いあまって革命政府を批判する発言をしたマルグリットに、ロベスピエールは怒り、配下の公安委員ショーヴラン(礼真琴)が公演の中止と劇場の閉鎖を言い渡す。かつてマルグリットとショーヴランは革命の夢を追い、共に闘った同士だったが、マルグリットは恐怖政治に疑義を感じ、ショーヴランはロベスピエールのもと、粛清の道を突き進むことが革命の成功をもたらすと信じ、互いの道は遠く離れていた。
それでもマルグリットとの絆は切れていないと思いこむショーヴランは、劇場の閉鎖を解くことの引き換えに、反共和派の貴族で「スカーレット・ピンパーネル」の正体を知る人物と目されているサン・シール侯爵(夏樹れい)の居所を教えろとマルグリットを脅す。悩んだ末、マルグリットは侯爵に決して危害を加えないという条件で、侯爵の隠れ家を知らせる手紙をショーヴランに渡してしまう。だが、ショーヴランがそんな約束を履行するはずもなく、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を決して明かさなかった侯爵は、断頭台へと送られる。
 
そんな顛末を露知らぬまま、イギリスに戻ったパーシーとマルグリットは、大勢の友人たちに祝福され、結婚式を挙げていた。だが、幸福の絶頂にあるパーシーは、「スカーレット・ピンパーネル」として共に行動している友人デュハースト(壱城あずさ)から、フランスでサン・シール侯爵が処刑されたことを知らされる。侯爵の隠れ家を知っていたのはパーシー、デュハースト、もう1人の「スカーレット・ピンパーネル」の仲間であるフォークス(天寿光希)、マルグリットの4人だけだった。新婚の妻を疑うことなど思いも及ばないパーシーだったが、やがてその疑惑は紛れもないものとなる。

マルグリットへの愛と懐疑との間で懊悩するパーシーは、その思いをねじ伏せるが如く、更に信頼できる仲間を増やし、再びフランスへ渡る。彼の最も大きな目的は、王大使ルイ・シャルル(星蘭ひとみ)の奪還だった。パーシーと行動を共にする者の中には、マルグリットの弟アルマン(瀬央ゆりあ)もいたが、パーシーはマルグリットの安全の為と説き、アルマンにもマルグリットに自分たちの正体を明かさないよう固く言い渡す。そんな日々の中で、突然人が変わったようによそよそしくなった夫に戸惑うマルグリットの元へ、フランス政府特命全権大使となったショーヴランが再び現れる。
ショーヴランはなんと、パリで活動するアルマンを捕らえた。弟の命を救いたければ、「スカーレット・ピンパーネル」の正体を探る手伝いをしろと、更なる脅しをかけてきた。パーシー、マルグリット、ショーヴラン、それぞれの愛と思惑は、フランスとイギリスを股にかけて揺れ動いていき……。

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7年ぶりに、宝塚歌劇版の『スカーレット・ピンパーネル』に接して改めて感じるのは、潤色・演出の小池修一郎の鮮やかな仕事ぶりだ。原作小説の「紅はこべ」、更に、昨年梅田芸術劇場の企画・制作で、ガブリエル・バリーの潤色・演出で上演された、よりブロードウェイ版に近い『スカーレット・ピンパーネル』の記憶が鮮烈な時期であるだけに、宝塚版の為に書き下ろされた主題歌「ひとかけらの勇気」をパーシーの行動の軸に置き、その最終目標を王大使ルイ・シャルル奪還に据えた、作劇の見事さが際立つ。そこには如何にも宝塚に相応しい、ヒーローのヒーローたる真っ直ぐな意志が明確に見えていて、冒険活劇としての妙味と、スピード感が増幅される効果となって表れている。更になんと言っても『ベルサイユのばら』を伝家の宝刀とする宝塚歌劇において、王妃マリー・アントワネットの遺児であるルイ・シャルルが、無事に国外に逃げ延びたというエピソードが、どれほど観客の心をつかんだかは計り知れない。この優れた着眼点を持った『スカーレット・ピンパーネル』が、引いては、宝塚に『ベルサイユのばら』とはまた違った視点の、フランス大革命ものを描き出す原動力となったことは間違いないだろう。
この作品の成功があったればこそ、のちに小池自身が手がけた『1789〜バスティーユの恋人たち』や、植田景子の『ジャン・ルイ・ファージョン─王妃の調香師─』、小柳奈穂子の『ルパン三世─王妃の首飾りを追え』、原田諒の『瑠璃色の刻』が生まれ、更に今年11月、生田大和が『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』を発表することが決まっている、宝塚歌劇の「フランス大革命ものシリーズ」とも呼びたいほどの、あらゆる角度から、それぞれの切り口で、若手作家たちがフランス大革命に題材を求める道が開かれたと言っても過言ではない。
もちろん、大劇場空間をいっぱいに使って、ブレイクニー邸の図書室がデイドリーム号の甲板になる爽快感を頂点とする、劇場機構の巧みな使い方や、パーシー、マルグリット、ショーヴランの三角関係の美しい描き方も含め、宝塚版ならではの構築の見事さも健在で、梅田芸術劇場版の為に書き下ろされ、今回、七海ひろきが演じることで役の比重が大きくなったロベスピエールの為に宝塚版にも採用された新曲を、「ロベスピエールの焦燥」として取り込んだ巧みさ(梅芸版は、ロベスピエールを演じる役者がイギリス皇太子プリンス・オブ・ウェールズも二役で演じたので、全く曲の置かれた設定が違うとは言え)は、アレンジャーとしての小池修一郎の力量と才気を、再確認させるものに他ならなかった。

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そんな作品で星組トップスターとしての披露を飾った紅ゆずるは、前述したように、初舞台から7年目までの若手だけで上演される、宝塚独自の「新人公演」という一夜限りの公演で、その初舞台から7年目のラストチャンスにして、初主演を勝ち取り、パーシー・ブレイクニーを体当たりで演じたことによって、今日トップスターにまで上り詰めるに至った人だ。宝塚というところは、初舞台間もなくから抜擢に次ぐ抜擢で、スターダムを駈け上がる人材がいる一方で、何か1つの大きな当たり役を得たことによって、一夜にして宝塚人生が全く変わるという人材もいる、リアルに劇的な世界を有している劇団だ。そこには、長くこの歌劇団を見続けている人々だけが、知ることのできるドラマが内包されていて、その一夜にして宝塚人生が変わった代表格が紅ゆずるというスターだった。
なにしろ08年初演時の新人公演のパーシー役は、紅にとって「はじめて銀橋を1人で渡った」機会だったほどで、あの一夜の成功がなかったら、今日大羽根を背負って、組全体を率いる「星組トップスター紅ゆずる」は、宝塚に存在しなかっただろう。そんな人材が、宝塚スターとしての人生を180度変えた同じ作品で、トップスターとしての披露を果たしている。この巡り合わせのドラマの前には、すべてが平伏す。フランク・ワイルドホーンの、どこまでも伸びる美声と豊かな声量なくしては歌いこなせないミュージカル・ナンバー、つまりは今の時代のミュージカルの主流となる楽曲の数々の歯ごたえの強ささえ、紅の持つドラマには敵わない。だからこそ、パーシー・ブレイクニーを出世作としたトップスターが生まれ出たことを、ただ素直に寿ぎたい。中でも紅の持ち味が「男とお洒落」のナンバーを、これまでの誰よりもウィットに富んだ色合いにしたことは、紅のパーシー独自のものだったし、そこから全体に軽快さと、洒脱さが作品に加味されたことも興味深かった。とりわけ、パーシーの変装であり、所謂コテコテに演じることも十分できるスパイ・グラバンの演技に、ある種の抑制がきちんと効いていたのは、宝塚のトップスターとなった紅の的確な判断として評価できる。洒脱なエスプリをもった、紅色に染まる新たな星組がますます楽しみになった。

その紅の相手役となった綺咲愛里も、これがトップ娘役としての正式なデビュー。これまで紅との共演経験も多く、とびきり愛らしいキュートな小顔が、紅との絶妙な好バランスを生んでいる。フランスの大女優であり、かつて革命の闘士でもあったマルグリットは、宝塚の娘役としては相当な難役に入るし、どちらかと言えばこれまで大人の個性の娘役が担当してきた役柄でもあるから、現代のアイドルに通じるルックスの綺咲には手強いものだったと思うが、台詞発声がもともとアルト系だったことや、化粧法の工夫などで、役に果敢に近づくことに成功している。何より紅との相性が良いというのは、トップコンビとしての可能性を大いに広げるものに違いなく、ここからはじまる二人を中心とした星組の未来に期待を抱かせた。

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もう1人の大役ショーヴランには、これも今回から男役二番手スターとなった礼真琴が扮した。何しろこの役は初演の柚希礼音の当たり役、柚希がのちに宝塚10年に1人の大スターと称されるスターに至る、文字通り男役として化けた役柄としての記憶が鮮烈で、その柚希に憧れて宝塚に入った礼が、ここでショーヴランを演じるということにも、やはり宝塚世界ならではのドラマがあり、感慨深いものがある。マルグリットと男女の関係にあったということを、宝塚の枠組の中で見事に香り立たせて見せた柚希の色気にはやはりまだ及ばないが、そこを目指していることはよく見て取れるし、豊かな歌声は今回の上演の白眉。いずれ『ロミオとジュリエット』のロミオや、『1789─バスティーユの恋人たち』のロナンなど、青年の輝きが似つかわしい役どころを演じる礼を観てみたいという希望は、おそらく多くの観客が持っているものだと思うが、その日の為にも、ここでショーヴラン役を演じた経験が必ずや生きてくることだろう。期待したい。

そして、今回、この人の為に役柄が膨らませられた、つまり新星星組にとって欠くべからざる存在であることが、改めて印象づけられたのが、ロベスピエールの七海ひろき。フィナーレまである宝塚には、全体の上演時間に制限がある関係上、大きなスターである七海がロベスピエールを演じるからには、いっそ梅田芸術劇場版のようにプリンス・オブ・ウェールズとの二役をさせてもいいのではないか?と思ったものだったが、とにかくロベスピエールの氷の美貌があまりにも際立っていて、誰かとてつもなく美しい人が視野をかすめた…と思うと、ほぼ例外なく七海だったのには舌を巻いた。その為、決して多いとは言い難い出番の数々がどれも印象的なものになったし、難曲中の難曲である新曲「ロベスピエールの焦燥」も、小池の構成の見事さと、本人の美しさが克服していて、まさに「美は正義なり」。宝塚の至上命題を体現する人材として、今後も是非大切に遇して欲しいスターだ。

そしてプリンス・オブ・ウェールズを演じた専科の英真なおきは初演以来の登板だが、今回コメディリリーフ的な面がわずかに後退して、皇太子はパーシー=スカーレット・ピンパーネルであるということを、実は察知しているな、と感じさせる陰影が前に出たのが面白かった。これは紅の洒脱さが勝ったパーシーとの対比としても良い効果で、さすがはベテランの妙味。冒頭スカーレット・ピンパーネルに救われる伯爵夫人の組長・万里柚美、革命政府のピポー軍曹の副組長・美稀千種も、初演以来の登板で、それぞれに深みを得た演じぶりが年月を感じさせる。
一方、マルグリットの弟アルマンの瀬央ゆりあには上り坂の勢いがあるし、この公演から星組生となったマリーの有沙瞳との並びも麗しい。有沙は組替えが1つの良い転機になったようで、実にスッキリと美しくなった。持ち前の歌唱力も光り、星組での活躍が楽しみだ。パーシーに最も近しい友人デュハーストとフォークスに、紅の盟友とも言える壱城あずさと天寿光希が配されているのも、やはり紅が内包する宝塚のドラマを更に高める効果があったし、彼女たちに、十碧れいや、麻央侑希、紫藤りゅう、綾凰華、天華えま、の星組の男役群の中心を形成するきら星たちが集った「ピンパーネル団」の華やかさも目に楽しい。彼ら全員に恋人がいることで、音波みのり以下、娘役たちにもスポットが当たるのも宝塚版ならではの美点。トップコンビの幸福感あふれるデュエット・ダンスに帰結する、フィナーレの展開も美しく、宝塚版『スカーレット・ピンパーネル』独自のオーラを感じさせる公演となっている。

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また、初日を前に通し舞台稽古が行われ、新トップコンビ紅ゆずると綺咲愛里が囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

紅は「大劇場でのお披露目公演も終えまして、東京では新たな気持ちで挑みたいと思っております。そしてちょっとずつ演出というか役作りが変わっておりまして、それをどんどん膨らませていきまして毎日、毎公演全力投球でいきたいと思っております」
 
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また綺咲が「大劇場を終えて私もまた新たな気持ちで役に思い切ってぶつかっていきたいと思いますし、1回1回の公演を大切にそして精一杯千秋楽まで進化し続ける舞台を努めたいなと思っております」

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とそれぞれに力強く挨拶。トップ披露公演に向かう意気込みの大きさを感じさせた。

特に、印象的だったのは、フィナーレのデュエットダンスの幸福感に満ちた様子を紅が「本当に綺咲を可愛いと思っている」と語ると、綺咲が「二回目の結婚式だと思っています」と答えたことで、コンビとしての2人と、劇中の役柄としての2人、双方が相まってあのハッピーオーラが劇場中に充満したのだなと感じられ、ここから歩みはじめるトップコンビへの期待が大いに高まった。

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また「大羽根を背負って見える景色は?」と問われた紅が「孤独だと感じる人もいらっしゃると聞いていましたが、私にはなんて美しい景色なんだろうという風に映りました、毎日そう感じています」と答え、トップスターという地位に就いた人だけが見ることのできる景色が、紅にとってひたすらに美しいものであることに、感動を覚える時間となっていた。
 
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尚、囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に7月9日発売の「えんぶ」8月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇星組公演
ミュージカル 『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
THE SCARLET PIMPERNEL 
Book and Lyrics by Nan Knighton  Music by Frank Wildhorn 
Based on the Novel “The Scarlet Pimpernel” by Baroness Orczy 
Original Broadway Production Produced by 
Radio City Entertainment and Ted Forstmann 
With Pierre Cossette, Bill Haber, Hallmark Entertainment and 
Kathleen Raitt 

潤色・演出◇小池 修一郎
出演◇紅ゆずる、綺咲愛里 ほか星組
●5/5日〜6/11日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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