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元宝塚雪組トップスターで、現在女優として活躍を続ける水夏希が、エディット・ピアフを語り、歌い、演じるドラマティカルシリーズリーディングvol.1『パンク・シャンソン〜エディット・ピアフの生涯〜』が、5月2日、よみうり大手町ホールで開幕した(6日まで)。

エディット・ピアフはフランスが最も愛したと称される国民的歌手。「愛の讃歌」「バラ色の人生」「水に流して」など、今尚歌い継がれるシャンソンの名曲の数々と、歌と恋に生きた波乱に満ちた人生は、これまでも多くの舞台作品となって世に送り出されている。中でも美輪明宏主演による『愛の讃歌 エディット・ピアフ物語』や、大竹しのぶ主演による『ピアフ』は、それぞれのライフワークとも呼べる熱量の高さで、再演を重ねる作品としてよく知られた存在だ。

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そんなピアフの生涯に新たに取り組むにあたって、水夏希と構成・演出の鈴木勝秀が選んだ手法が、リーディングドラマ、朗読劇だったことがまず面白かった。舞台には、黒いドレスを着た小さな少女のようなマネキン人形がいる。そこへアコーディオンを演奏するアラン・パットンが登場し、やがて水夏希と、2人の男性が登場。この人形がピアフその人の身長とほぼ同じなのだという説明がなされる。これによって、エディット・ガシオンという名の無名の歌い手が、「ピアフ=小さな雀」という名で世に知られる偉大な歌手になっていく、その経緯が視覚的に印象づけられたのは、幕開きの巧みな導入になった。

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そこからは、大きな動きがない中で、ピアフの人生がリーディングで語られていく。前述した二つのピアフを描いた作品に共通していた、ピアフの激烈とも、苛烈とも感じる生き様が、ここでは語りの中に込められることによって、どこか精緻に、静謐になるのが、非常に新しい感覚として伝わってくる。とりわけ、恋多き女性、常に新しい恋を求め、1人ではいられないピアフの生き様、名声を保つ為に陥って行く薬物依存、そうしたドロドロとした面ももちろんきちんと描かれつつ、恋愛関係が終わった後も、ピアフが彼らと友情を保ち続け、彼らもまたピアフに生涯曲を提供し続けたことや、献身的にピアフを守り続けたマネージャーのルイ・バリエに代表される、ピアフとは男女の間柄にはならなかった男性もまた、ピアフを深く愛し続けたことなどが、むしろ煌めいて立ち上ってくるのが新鮮だった。
 
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その美しさを生んだ要因は、多くを観客の想像に委ねるリーディング・ドラマの特性と同時に、ピアフを演じ、語り、歌った水夏希の、理知的で清心な持ち味によるところが大きい。宝塚退団後、ミュージカル、コンサート、ダンス主体の公演等々、様々なステージで磨かれてきた「女優・水夏希」の美しさと艶めきが、このほぼ動きのない作品の中で、むしろハッキリと形を成して立ち現れた感覚が強烈だ。

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そこには「読む」という制約された表現の中だからこその豊かさと、演じ手の個性の双方が共に際立つ
効果があった。中でも、水がピアフの代表的なシャンソンを歌う時、立ち上がる、また机に横座りをする、そんな小さな動きと照明の変化にも、それまでの舞台が静かに進むからこそのインパクトがあって歌唱の説得力も際立つ。シャンソンは本人の年輪と経験が加味される毎に味わいが増すジャンルであることを併せて、良い分野への1歩を踏み出したと思う。5年後の水夏希、10年後の水夏希が、この作品に取り組んだ時に、作品からどんな香りが立ち、歌にどんな色が加わるか、想像しただけでドキドキするような気持ちにもなった。インタビューによれば、演出の鈴木勝秀が「あまり稽古をしないように」という趣旨の指示を出しているそうだが、その意図がよくわかる、今の水夏希が演じ、語り、歌うピアフ、つまりは、水の「今」を堪能できる舞台になっていると感じた。

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そんな舞台を共に飾るのが、いずれも日替わりキャストで、この日は福井貴一と渡辺大輔の出演。大雑把に分ければ、ピアフと関わった年長の人物を福井が、若い人物を渡辺が受け持つ形だが、それだけでなく、所謂ナレーターの部分も、実に巧みに2人が分担していて、澱みない構成が巧みだ。
ミュージカルの世界で若く、美しい二枚目としてデビューし、長く活躍してきた福井も、年輪を重ねて滋味深い紳士となり、こうした作品の重石として場を引き締めているのは感慨深く、気品ある持ち味がやはり舞台によく表れている。

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一方、そのミュージカルの世界に、今現在、若く美しい二枚目として存在している渡辺が、これまでの舞台から放ってきたパワー全開の勢いが、ここでは静かに体内に籠められていて、新たな魅力を見せていたのが素晴らしい。佇まいに誠実さがあるのも好ましく、渡辺本人にとってもこの舞台は非常に貴重な経験になったのではないか。ここからの彼の活躍がますます楽しみになった。

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この男性2人の共演者には、山路和弘、石橋祐、辻本祐樹(※「辻」の正式表記は一点しんにょう)、牧田哲也が名を連ねていて、顔ぶれによって全く違った舞台を観ることができるだろう。別の組み合わせも是非観てみたい。何よりも、水夏希が新たに取り組んだ舞台が、将来への可能性をたっぷりと感じさせてくれたことが嬉しく、「ドラマティカルシリーズ リーディング」が、長く続いてくれることを期待したいステージとなっている。
 
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〈公演情報〉
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ドラマティカルシリーズ リーディングvol.1
『パンク・シャンソン〜エディット・ピアフの生涯〜』
構成・演出◇鈴木勝秀
アコーディオン◇アラン・パットン
出演◇水夏希/福井貴一・山路和弘・石橋祐
日替わりゲスト◇辻本祐樹・牧田哲也・渡辺大輔(五十音順)
※5/6  14時回は出演者4名での特別バージョンとなります。
●5/2〜6◎よみうり大手町ホール
〈料金〉8,900円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日 11:00〜17:00/土日祝休)

 



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【取材・文・撮影/橘涼香】