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水夏希が、ドラマティカルシリーズリーディングvol.1と銘打ち、新しい企画を立ち上げた。
これまで『サンタ・エビータ〜タンゴの調べに蘇る魂』(2015年)のエヴァ・ペロン、『サラ・ベルナール〜命が命を生む時〜』(2016年)のサラ・ベルナールと、伝説的な女性の一生にチャレンジしてきた彼女が、今回の企画で取り上げるのは、世界中で愛されているシャンソン歌手、エディット・ピアフ。朗読と彼女の名曲の数々で波乱に富んだその人生を歌い上げる。
よみうり大手町ホールで、5月2日に幕を開けるこの公演を前に意欲に燃える水夏希に、本作の内容や最近の活動についても話してもらった。 

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表現が千差万別で可能性が無限にある
 
──これまでエヴァ・ペロンやサラ・ベルナールなど、ドラマティックな女性を演じてきましたが、今度はピアフということで、女性の一生を演じるのは、水さんのライフワークになりつつありますね。
そうなればいいですね。どの女性の人生もドラマティックで、自分の人生では体験できないようなことを、演劇で追体験していけるという意味では、毎回得るものが大きいので。これからも色々な女性と出会いたいです。
──ピアフといえばシャンソンですが、先日、越路吹雪 三十七回忌特別追悼公演『越路吹雪に捧ぐ』に参加されたばかりで、シャンソンを歌う機会が続きます。
巡り合わせというか、たまたまなんです。ただ、毎年やらせていただいていたコンサートの代わりにこのリーディングシリーズが始まり、まずは歌うこととじっくり向き合おうと思っていたところなので、良いタイミングで続いた感じです。
──『越路吹雪に捧ぐ』では3曲歌って、ピアフの「水に流して」も見事に歌いこなしていました。なかなか難しい曲だったのでは?
楽曲的には、シャンソンはそれほど難しくはないんです。音域も広くないし、リズムとか音程もそんなに複雑ではない。ですから曲としては簡単なのですが、簡単だからこそ、その表現が千差万別で、いかようにも歌えるし、可能性が無限大にあるんです。たとえば「水に流して」の中に「もういいの」というフレーズがありますが、その人にとって何が「もうよくて」、どういうふうに「もういいのか」、その言葉をどう捉えるか、そして自分はどう表現するかは、人によって違ってくる。覚えて歌うこと自体は難しいことではないのですが、それを自分の歌として聞かせるというのがものすごく難しい。
──確かに1曲1曲、ドラマを演じるのがシャンソンだと言われますね。
ドラマがないと歌い流す感じになってしまうんです。とくにこの作品はピアフの人生を追いながら曲が入ってきて、しかもピアフの曲は出会った男性によって生まれるので、その時のドラマとともに曲を歌うことになります。そんなふうにピアフの人生を綴りながら歌っていく形なので、よりドラマチックに1曲1曲を歌うことが必要ですし、そのことで作品自体も盛り上がると思います。
──歌う曲は何曲くらいですか?
全体では7曲です。鼻歌やワンフレーズだけ歌うものもあります。
──その中で好きな曲は?
「群衆」ですね。リズミカルだしドラマティックで、情景が目に浮かびます。ドラマがあると言われるシャンソンの中でも代表のような曲だと思います。ほかの曲も有名なものばかりですが、どれも歌うのは大変で、「愛の讃歌」なども音程はそれほど難しくないんですが、そのシンプルな曲をどれだけ色彩豊かに、丁寧に、繊細な表現で歌えるかで。私はなんて恐ろしいことにチャレンジしようとしているのかと(笑)。
──歌をもっと詰めていきたいという話が出ましたが、3月のミュージカル『アルジャーノンに花束を』は、難易度の高い曲ばかりでしたね。
あの作品の音楽は本当に難しかったです。作曲された斉藤恒芳さんならではの、良い意味で凝った楽曲が多かったので。例えば3度で降りる音程だと思っていたら4度で降りるとか。そういう単純ではないメロディがたくさんありました。
──その難曲をクリアしてのピアフですから、さらに高みを目指すチャンスですね。
エベレストです。そびえ立つ遥かなる山みたいな(笑)。でもそういう、「登るのが絶対無理!」みたいなチャレンジをしなくてはいけない時期は、やっぱり必要ですし、このタイミングでピアフがきたというのは、今、この山に登りなさいということで。
──とにかく登り続けなさいと。
果てしないですが(笑)。シャンソンも知れば知るほど深くて、この深い底はどこにたどり着くのか、誰か教えてくださいというような世界ですが、今できる精一杯をやるしかないので。

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相手役とその日のセッションで作っていく


──今回の演出は鈴木勝秀さんすが、とても演劇的な演出家ですね。
スズカツ(鈴木勝秀)さんとは、『7DOORS〜青ひげ公の城〜』(12年)でご一緒させていただいて以来になります。いつかまたご一緒にと思っていましたが、念願叶って今回実現しました。いろいろ話し合って、それこそセッションをしながら作っていくことが出来る方なんです。
──スズカツさんは音楽マニアでもありますね。
そうなんです! 音楽が好きでいらっしゃるから「朗読も音楽だと思ってるんです」とおっしゃって、「セリフも音楽です」と。セリフという音楽が流れている中に、歌がドーンと立ち上がるようにしたいそうです。
──共演の方は日替わりで、それぞれ実力派や若手演技派の方ばかりですね。『サンタ・エビータ』もそうでしたが、朗読劇も相手役と息を合わせて芝居することが大事なのでしょうね。
ただ、スズカツさんは何度も何度も稽古をする方ではないんです。とくにリーディングは2回ほど合わせたら本番になります。だからこそ、その日のキャストの皆さんのセリフをよく聞いて、その場の空気を共有しながら会話することが必要で。その日その日のセッションが生まれてくるところに面白さがあるし、スズカツさんはそれをものすごく信じていらっしゃるんです。
──セッションするためには、台本を体に入れておかないといけないのでしょうね?
それがスズカツさんは、「自分でもそんなに稽古しないでください」とおっしゃるんです(笑)。そうは言っても、ピアフの人生を演じるわけですから、ちゃんと作り上げていかないとできないのですが。大事なのはその場で相手役の方と会話することで、基本的に「見る」とか「聞く」というのは、視界に入っているだけではなく「しっかり見る」ことであり、聞こえているではなく「ちゃんと聞く」ことなので、まずは相手役さんがおっしゃっていることを、よく聞くことが一番必要だと思います。
──台本を読みつつ、その場で感情を表現するわけですから、なかなか難しい作業ですね。
でも、動きがないことでセリフに集中できるというのはあります。動きで助けられることも沢山ありますが、たとえば立った瞬間にさっきまで覚えていたセリフが言えなくなるとか、そういうこともありますから。それに、お客様も目に入る情報が少ないぶん、想像力で補ったり、自分の中で世界観をふくらませていただける部分もあって、そういう意味では、本当にお客様との共同作業だなと思います。

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夢みたいな愛を最後まで求め続けたピアフ

──ピアフという人そのものについては、どんな印象が?
本当に歌と愛に生きた人だと思います。次々に男性を変えていった女性が、時代や国を超えて何故これだけ愛されるのかというと、彼女の歌の素晴らしさはもちろん、根本に愛を求めていたということが共感を呼ぶのではないかと。自分も惜しみなく愛を与えるし、相手にもそれを要求していく。そういう生き方は簡単にはできないですよね。
──台本にも「結婚ぐらいでは彼女の愛は満足しなかった」という台詞が出てきますね。
たぶん彼女にとって結婚は本当はどうでもよくて、自分のことを自分が要求する形で愛してくれる人を求めていたのではないかと。彼女は出生を祝福されなかった人で、愛を知らないまま人生がスタートしてしまった。知らないから、「そんな夢みたいなこと」と言われるような愛を、真摯に純粋に求め続けて、でも最後まで「夢」だったから得られなかったのかなと。彼女が求める愛の正解は、どこにもなかったのかもしれないという気がします。
──愛に苦しんだピアフですが、歌だけはいつも身近にありましたね。
そうですね。お酒と薬と病に侵されても歌い続けられたのは、彼女に与えられた才能だと思います。歌をやめることも選べたけれど、選ばない、そんなことは選べやしない。彼女には当たり前のことだったんだろうなと思います。
──表現をすることを知ってしまった人は、やめることができなくなる。そこは水さんも同じでは?
興味が尽きないんですよね。シャンソンでもダンスでも、もっとこんな表現ができるのかなとか、こんなこともできる、あんなこともしたい、あんな世界を見てみたいとか。私はどちらかと言えば飽きっぽいんですけど(笑)、こんなにも続けられる仕事があったのだと。いつのまにか続けていたし、たぶんやめる選択肢もゼロではなかったと思いますが、他の仕事だったらこんなに続けられたかどうか。
──興味が尽きないというのは幸せですね。また新しい課題が生まれるわけですから。
少し前までは、たとえば観劇するのも仕事のためという部分が大きかったんです。でも今は知りたいんですよね。私以外の人がどんな発声をするのか、どんな動きをするのか、総じて、どんな表現をするのか知りたいんです。
──演じることも、どんどん面白くなっているのでは?
今は、自分の感情を解放するのが課題で。宝塚では自分の感情に蓋をして生きることが当たり前で、それで別に苦しくもなかったし、そうすることが大事だったと思っています。でも今は、色々なワークショップなどを経験する中で、自分の感情にちゃんとフォーカスすること、自分は今どう思っているのか、どんな感情なのか、そこの制約を解除していくことが、これからお芝居を続けていくためにすごく必要だなと。それがないと自分の感情を使えないんです。とくに今回はそれができないとピアフを演じられないと思うので。
──また新しい水夏希が見られそうですね。最後に改めて意気込みを。
私というよりピアフの人生を見てほしいです。今回はとくにそう思います。もちろん私が演じるので自分以外の何者でもないのですけど、でも私の体を使って、声を使って、ピアフをお届けしたいなと。お客様が、ピアフの人生を一緒に体感できるような時間になればいいなと思うんです。客観的に「そういう人だったんだ」というのではなく、ともに生きていただいて、ともに感情を揺さぶられるような時間になればいいなと思います。
 
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みずなつき○93年宝塚歌劇団入団。07年『エリザベート』のトート役で雪組トップスターに就任、10年に宝塚を退団。最近の舞台は、リーディングドラマ『サンタ・エビータ〜タンゴの調べに蘇る魂』、音楽朗読劇『幸せは蒼穹の果てに』、DANCE OPERA『マスカレード2015 〜 FINAL』、30-DLUX『新版 義経千本桜』、『Honganji』、ENTERTAINMENT ORIGINAL MUSICAL SHOW『RHYTHM RHYTHM RHYTHM』、DANCE LEGEND vol.3 BAD GIRLS meets FLAMENCO BOYS『FLAMENCO CAFE DEL GATO』、ブロードウェイミュージカル 『CHICAGO 宝塚歌劇OGバージョン』、プレミア音楽朗読劇『VOICARION〜女王がいた客室〜』、『サラ・ベルナール』〜命が命を生む時〜、『エリザベートTAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、越路吹雪三十七回忌特別追悼公演『越路吹雪に捧ぐ』など。7月にはミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』への出演が控えている。
 
〈公演情報〉
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ドラマティカルシリーズ リーディングvol.1
『パンク・シャンソン〜エディット・ピアフの生涯〜』
構成・演出◇鈴木勝秀
アコーディオン◇アラン・パットン
出演◇水夏希/福井貴一・山路和弘・石橋祐
日替わりゲスト◇辻本祐樹・牧田哲也・渡辺大輔(五十音順)
※5/6  14時回は出演者4名での特別バージョンとなります。
●5/2〜6◎よみうり大手町ホール
〈料金〉8,900円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音協 03-5774-3030(平日 11:00〜17:00/土日祝休)

 



【取材/榊原和子 文・撮影/竹下力】





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