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トップスター朝夏まなとと共に、宙組の中心を成してきたトップ娘役実咲凜音の退団公演となる宝塚宙組公演ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(30日まで)。

ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』は、「鉄道員」「壬生義士伝」など数々の傑作小説を世に送り出した作家浅田次郎のベストセラー「王妃の館」を原作に、宝塚歌劇ならではの演出を加えて作り上げられたミュージカルで、脚本・演出を担当する田渕大輔の大劇場デビュー作品。太陽王ルイ14世が残した「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)」を舞台に、曰く付きのツアーに参加した個性豊かな登場人物たちが織りなす人間模様をコミカルに描きながら、それぞれが新しい明日への一歩を踏み出す姿が綴られていく。

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【STORY】

パリ、シャルル・ド・ゴール空港の到着ロビー。ここには今日も花の都パリを目指し、世界中から多くの旅行者たちが訪れている。そんな観光客の中に、日本からのツアーの一行がいた。かつて17世紀フランスに君臨した太陽王ルイ14世の居城であり、現在は一見客お断りの高級ホテルとして旅行者たちの垂涎の的になっている「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」に宿泊できるという、パックツアーには有り得ない夢の企画に大金を投じた彼らは、いずれも一筋縄ではいかない個性的な面々ばかり。中でも、恋愛小説の鬼才と謳われる著名な小説家、北白川右京(朝夏まなと)は、団体行動を嫌って度々行方をくらまし、このツアーを企画した弱小旅行会社の社長兼添乗員の桜井玲子(実咲凜音)を手こずらせていた。
だが、玲子の悩みは、右京の単独行動よりも、更に大きなところにあった。と言うのも、玲子の経営する旅行会社は倒産寸前の状態にあり、その危機を乗り越える為に彼女は、このツアーに大きなブラフを仕掛けていたのだ。それは、右京たちが参加している「光ツアー」のメンバーだけでなく、旅行者の社員である戸川光男(桜木みなと)がアテンドし、時を同じくしてこのパリに到着した格安料金の「影ツアー」の一行と双方に、「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」の同じ客室を使用させ、ダブルの利益を得ようという奇策だった。
実は超高級ホテルである「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」も、現在深刻な経営難に陥っていて、これはホテル側と玲子が、互いの起死回生の為にタッグを組んだ計画的なダブルブッキングだったのだが、そう簡単にことが進むはずはない。客室に落ち着いた途端、小説を書きたいからディナークルーズには参加しない、と言い張る右京と玲子が押し問答をしている最中、同じ部屋を使う影ツアーの宿泊客が現れ、すんでのところで鉢合わせになったが為に、右京はこのからくりを悟ってしまう。
すべては終わったと観念した玲子は、右京に心から侘びてツアーの中止を申し出るが、以外にも右京はこの計画に加担する代わりにツアーを続行することを希望した。傍目にはセレブな人気作家を気取っている右京だったが、その実、現在小説家として大きなスランプに陥っている彼は、「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」への滞在をきっかけに、ルイ14世を主人公にした恋愛小説を書きあげることで、なんとか苦境を脱しようとしていたのだ。しかも、そんな右京の前には、客室の肖像画からルイ14世(真風涼帆)その人の亡霊が現れ、右京はルイの言葉から、太陽王にも秘めたる恋があったことを知ってしまう。これ以上の創作のヒントはない!利害の一致した右京と玲子は、ツアーの完遂を試みるが、「光ツアー」と「影ツアー」それぞれの旅行者たちは、2人が想像もしていなかった事情を様々に抱えていて……

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作品に接してまず、感じたのはパリの街、そしてルイ王朝華やかなりし頃のロココ文化と宝塚の親和性の驚異的な高さだった。舞台はパリだが、登場人物はほとんど日本人ばかりという設定の中に、いきなり17世紀ロココの世界が展開されて、ここまで違和感がない舞台を創れるのは、宝塚を置いて他にはないだろう。これはまず第一には、「王妃の館」という小説を宝塚で上演しようという企画自体の発想の勝利だし、更にその原作世界の中から「宝塚化」に向けた美しいアレンジを巧みに施した脚本・演出の田渕大輔の見事な手腕の賜物だった。
例えば原作世界では桜井玲子(この役名も原作とは異なる)と戸川光男は元夫婦だし、光ツアーの観光客でトランスジェンダーのクレヨン(本名:黒岩源太郎・蒼羽りく)が失恋した相手は、パリの現地ガイド・ピエール(和希そら)なのだが、それら宝塚にとってはやや複雑すぎる人間関係を綺麗にカットして、本来は群像劇である作中から、右京と玲子を主人公としてピックアップし、作中に実際に起こる出来事に話を集中させることに成功している。
更に何よりも大きかったのは、原作では右京が描く小説世界、謂わば「劇中劇」ならぬ「小説中小説」としてのみ描かれていたルイ14世を、右京たち登場人物の目に映る亡霊として登場させ、作品世界の現実の中に引っ張り込んだことだ。これにより、ルイが300年もの間失った恋の相手を探し続けている、という実に宝塚らしい美しい展開が加味され、前述したロココ世界との見事な親和性と相まって、宝塚でしか描けない「王妃の館」が出来上がったことは賞賛に値する。ここ最近の宝塚作品としては、1、2を争うほど多くの役どころを登場させ、しかもそれぞれのドラマがある設定をきちんとさばき、誰もが成長し、新しい明日に向かっていく結末へと導いた田渕の手腕には、注目すべきものがあった。盆や、セリ、銀橋、花道など、宝塚大劇場ならではの舞台機構も巧みに使いこなしていて、これが大劇場デビューとは末頼もしい人材が現れたものである。新しい才能の将来に期待したい。

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そんな作品で主人公北白川右京を演じた朝夏まなとは、物語の大きなベクトルをルイの恋物語が担い、更に起承転結の「転」の部分を、莫大な負債を抱えてパリで心中する為にツアーに参加した下田夫妻(寿つかさ、美風舞良)が握っているという、主人公としてはかなり難しい展開の中で尚、揺るぎない主役として劇中のセンターに位置し得たことに感嘆する。特に、冒頭から中盤まで、変わり者の人気小説家という設定を、長い手足を駆使した朝夏ならではのアクションでエキセントリックに現しているからこそ、流行作家であることにしがみつこうとするあまりにルイを傷付けたことを悔い、下田夫妻を救う為に奔走するうちに、ただ小説を書くことを愛していた自分の純な部分を取り戻し、更に成長していく。そんな右京の変化が美しく伝わる表現が胸に染みる。特にルイを騙すつもりはなかった、という告白が決して言い訳ではないことが伝わる、真摯な演技が、宝塚の北白川右京像を見事に具現していた。

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一方、桜井玲子の実咲凜音は、自分の会社とキャリアを守ろうとがむしゃらに突き進む女性が、ふと立ち止まった、その瞬間の、諦めだけではない、どこかで肩の荷が下ろせた安堵をきちんと見せていて好感が持てる。『エリザベート』のタイトルロールを務め上げたトップ娘役の退団作品と考えると、いささか軽い役にも思えるが、『王家に捧ぐ歌』のアイーダの後に『メランコリック・ジゴロ』のフェリシアを演じた時同様、パワー全開の一直線ではないからこその、柔らかな魅力がある。何より、どこかさばさばとした現代感覚や潔さといった、実咲凜音という娘役が宝塚に登場した時の、新鮮な個性が思い出される役柄だったことは、結果として彼女の退団公演を思い出深いものにもしていた。最後に朝夏の右京と、日本に帰ってからまた新しい関係がはじまる、という展開も宝塚版だけの工夫で、朝夏&実咲の集大成に相応しい余韻ある終わり方が素晴らしい。

そして、この作品を宝塚ならではのものにし得た、ルイ14世に扮した真風涼帆は、彼女独特の大きな芸風が「太陽王」に打ってつけ。コスチュームもよく似合い、堂々とした立ち居振る舞いで作品世界の空気を一気に変えてしまうのには舌を巻く。朝夏が次公演での退団をすでに発表していて、今後ますます注目が集まること必至の男役だが、悠揚迫らぬスター性は頼もしい限りだ。そのルイが300年思い続けている月の女神ディアナの伶美うららも、少ない出番で絶大なインパクトを残すことに成功していて、ドレス姿も美しく、やはり「美は正義なり」の宝塚を体現する娘役だと感じる。東京公演の演出変更で、2人の息子プティ・ルイ(遥羽らら)も加わって、3人が絵姿になる終幕も当を得ていて、より完成された大団円になった。ルイの侍従ムノンの松風輝も滋味深い良い芝居をしているだけに、ショーを休演しているのが気がかりだが、1日も早い全快を祈っている。
 
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更に、とにかく登場人物が多いので、宙組メンバーの多くが働き場を得ていることが嬉しい中で、大団円のすべてを握る金沢貫一の愛月ひかるの、思い切りの良い演技は喝采もの。宝塚の二枚目男役としては、かなり酷な「秘密」を抱えている役柄だが、彼女の芝居のおおらかさがその「秘密」をも笑い飛ばせる効果になっている。相手役のミチルの星風まどかも、ショートパンツから伸びる足も健康的で、良く柄に合った。戸川光男の桜木みなとは、小心者の添乗員の告白に影ツアー全員が加担してやる展開に、納得できる好青年ぶりで役を支えたし、そこに思惑を秘めていることをきちんと表した丹野夫妻の凜城きらと彩花まりも達者。専科から出演の元定時制高校教師・岩波の一樹千尋の、重石としての役割はやはり貴重だし、その妻正枝の花音舞が、違和感なく一樹に添っていてこれは嬉しい驚き。物語の重要な山場を作る下田夫妻の寿と美風が、組長、副組長ならではの深い芝居を見せたのに、全く引けを取らない右京の編集者早見リツ子の、純矢ちとせの上手さも際立つ。彼女に恋をするピエールの和希そらの、パリジャンぶりも実に決まっていた。
そして、特筆すべきはクレヨンの蒼羽りく。本来女性が男性を演じる「男役」が当たり前に「男性」として存在する宝塚の中で、その男役が男性でありながら、性自任は女性のトランスジェンダーを演じるというハードルは恐ろしく高い。実際、これまで特に現代劇で、こうした役柄が宝塚作品に登場することは極めて稀だったと思うが、そのハードルを軽々と、むしろ楽しそうに乗り越えていて驚かされた。これは蒼羽自身が男役として、1つの完成された形を手の内に入れているからこそできた離れ業だろう。宙組の貴重な戦力として、今後も大切にして欲しい人材だ。そんなクレヨンに愛される警官、近藤誠の澄輝さやとも、如何にも堅物な真面目人間が、クレヨンに感化されていく流れを、台詞がないところでもよく表現している。原作の書かれた年代がかなり前なので、LGBTに対する侮蔑的な言葉がどうしても出てくるのだが、過度のひっかかりを与えなかったのはたいしたもの。硬質な美しいマスクも役柄をよく助けていて、良い組み合わせの2人だった。

何よりも、誰かの為に笑う、そして自分の為に笑うことの尊さが、ポップなコメディからしみじみと立ち上る終幕が美しく、宝塚版ならではの『王妃の館』が完成していることを喜びたい。

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そんな作品の後に控えたのが、スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』で中村暁の作。人々が非日常の空間に集う FESTA(祭り)をテーマに、リオのカーニバル、中欧・北欧に伝わるヴァルプルギスの夜、スペインの牛追い祭り、日本のYOSAKOIソーラン祭りなど、世界各地の FESTAを描いた各場面が、宙組のパワー漲るメンバーによって繰り広げられていく。

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所謂お国めぐり形式で、レビューとしては王道中の王道の作りだが、「祭り」に特化したことによって、各場面場面の色合いが明確に分かれつつ、どの場面も盛り上がりと勢いがあるのが嬉しい。中でも、朝夏の闘牛士と蒼羽の牛が繰り広げるダンサー同士ならではの高度なダンスは見ものだし、真風と実咲が組んだことで新鮮さが出たストーリー性のあるシーンも面白く、愛月を中心とした若手男役たちの場面の颯爽とした雰囲気も良い。何よりも「YOSAKOIソーラン」の「ソーラン」と宙組をかけて「ソーラン、宙組!」と盛り上げた中詰めは、長く語り草ともなろう宙組でしかできない名場面となった。

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一転、澄輝と桜木の歌からはじまるフィナーレは、退団する実咲と男役たちの場面あり、伶美中心のロケットあり、と宙組のスターたちを立てつつ、朝夏まなとの頭文字「M」の隊形に揃った男役たちからはじまる大階段の黒燕尾のダンス、そしてトップコンビの名残のデュエットダンスと、盛りだくさん。朝夏&実咲コンビのフィナーレを飾る花束のように、宙組の総力を挙げた見応えあるレビューとなっている。

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また、初日を前に、囲み取材も行われ、宙組トップコンビ朝夏まなとと実咲凜音が、公演への抱負を語った。

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その中で、芝居について、個性豊かなキャラクターが暴れ回る作品の中から、心温まるラストに至る流れで明日への活力を得て頂けたら嬉しいと朝夏が語ると、コメディならではの難しさがあるので、新鮮さを大切にしたいと実咲が語るなど、それぞれ作品への思いの深さを感じさせる一コマも。

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一方ショーについては、それぞれにお気に入りのシーンがありつつ、「でもやっぱりソーラン宙組!が好きです!」と一致した答えに至って、コンピのあうんの呼吸は健在。

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更に、次公演での退団を発表した朝夏に心境を尋ねる質問もあった中で「今はとりあえず実咲を無事に送り出すことが私の使命だと思いますので、 しっかりとサポートしたいです」と朝夏がキッパリと答えたのがなんとも印象的。退団時期が重ならなかったからこそ、コンビとして互いを尊重しようとする姿勢がにじみでる、朝夏&実咲コンビの美しきラストランに思いを馳せる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は、5月9日発売の「えんぶ6月号」に舞台写真の別カットと共に掲載致します。どうぞお楽しみに!

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〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
ミュージカル・コメディ『王妃の館─Chateau  de la Reine─』
原作◇浅田次郎 「王妃の館」(集英社文庫刊)
脚本・演出◇田渕大輔
スーパー・レビュー『VIVA! FESTA!』
作・演出◇中村暁
出演◇朝夏まなと、実咲凜音 ほか宙組
●2017/3/31日〜4/30日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001

※Chateau  の「a」には「^」がつきます。





【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】





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