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太平洋戦争の混乱期に、色鮮やかなイラストで女性たちに光と希望を与え続けた天才クリエーター・中原淳一に中山優馬が扮する話題作『それいゆ』が、池袋のサンシャイン劇場で上演中だ(11日まで。のち福岡・小倉の北九州芸術劇場中劇場で14日〜15日、兵庫・新神戸オリエンタル劇場で19日〜23日まで上演)。

『それいゆ』は、戦中戦後の暗い時代にあって、夢を忘れなければ現実を生きることが難しい女性たちに、暮らしもファッションも心も美しくあれ、というメッセージを発し続けた挿絵画家・人形作家の中原淳一の人生を描いた作品。2016年の初演の大好評を受けて、同じ中山優馬主演で、愛原実花ほか1部キャストを入れ替えての再演となった。

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【物語】
太平洋戦争が日本全土に暗い影を落としていた1940年、中原淳一(中山優馬)は若くして挿絵画家・人形作家としての確固たる地位と人気を得ていた。戦に勝つためには、すべての贅沢は敵と見なされていたこの時代に、大輪のひまわりの花のように美しい女性たちの挿画を淳一が描き続ける雑誌『少女の友』は、多くの少女たちに夢と希望を与えるバイブルで、いつか舞台女優になる夢を抱きながら、生家の困窮と向き合っている大河内舞子(桜井日奈子)も、淳一の挿絵を心の支えにどうにか現実と折り合いをつける日々を過ごしていた。
そんなある日『少女の友』編集長の山嵜幹夫(佐戸井けん太)は、淳一に「挿絵の少女画をモンペ姿で描いてくれないか?」と持ちかける。「中原淳一の描く少女画は敵性文化。かつ華美にして優雅、これは時局に合わない」との軍部からの圧力を受けた山嵜は、淳一の画風の変更か、雑誌からの追放かの苦渋の決断を迫られていたのだ。懇願する山嵜に対し、淳一はあっさりと「ならば辞めます」と言い放つ。「美しく生きる」という信念を貫くことこそが、自らの使命だと信じる淳一にとって、時局にあった機能性だけを追求したモンペ姿の女性を描くことは、到底受け入れられることではなかった。激昂した山嵜と物別れになったあと、舞子や、淳一に歌の才能を高く評価されたことで、時代の荒波の中で歌うことを諦めていた心を奮起させた天沢栄次(施鐘泰)、自身もイラストレーターである助手の桜木高志(辰巳雄大)、『少女の友』の担当編集者の元内弥生(愛原実花)ら、淳一を慮る人々は、難局の中で創作の場を自ら切り開き、信念のままに突き進もうとする淳一をただ見守るしかなかった。戦中戦後の激動の時代、「美しく生きる」という信念を抱きながら活動を続ける淳一の、生涯をかけて貫こうとした思いの行方は?、そしてその果てに辿り着いた結末とは……?

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鮮やかな色使いと、今見てもモダンで華やかな女性たちを描き続けた中原淳一の存在は、様々な形で紹介され、多彩なグッズなども数多く発売されているから、現代の女性たちにも広く知られていると思う。けれども、中原が生きた戦中戦後の暗黒の時代に、これだけ優雅で華やかな絵柄を描き続けることが、どれほどの困難を伴うものだったかに、実感を持てる世代は年年歳歳少なくなっているのが現実だ。この舞台は、そんな困難の中にあっても、人は姿も心も「美しく生きる」べきだとの信念を貫き通す中原淳一の姿と戦いと苦悩を、丁寧に紡ぎだしていて、改めて中原が唱え続けた尊いメッセージに気づかせてくれるものになっている。しかもそこには大量消費やブランド信仰など、誰もが持っているものを持っていれば安心、という現代の風潮への厳しい批評眼も込められていて、ふと己を振り返る心持ちにさせられた。特に、人から押し付けられた価値観に染まってしまって、いつかそれが自分が選び取ったものだと思いこんでしまう恐ろしさについて、劇中の中原が力説する件には、今の世の中に最も大切なメッセージが込められていて、胸に深く刺さるものがあった。

そんな作品で、信念の人中原淳一に扮した中山優馬の、硬質な美と鋭さを併せ持った真っ直ぐな芸風が、作品の芯に相応しい存在としてそそり立っている。誰もが国民服を着、モンペ姿でいることが美徳とされた時代に、真っ白のスーツに、カラフルな色合いの蝶ネクタイという出で立ちで登場する中原の、天才であるが故の特異さや、信念を貫くことを自分だけでなく周りの人間にも強いてしまう厳しさを十二分に作中に描いて尚、中原が決して傲慢にも、冷たくも見えないのは中山の持つスター性によるところが大きい。それはすなわち中原淳一という天才クリエーターが持っていたはずのカリスマ性に、直結するものに他ならず、初演から1年を経ずしての再演を成し遂げた原動力となったことにも納得の主演ぶりだった。究極の美を求め続ける中原が、苦悩の中で見せる孤独感の表出も見事で、何よりこうした時代があり、中原淳一というクリエーターが如何に時代と闘いながら己の信ずる道を全うしたかを、人気アイドルでもある中山が主演したことによって、若い世代に広く知らしめる機会にになったことは、非常に大きな意義があった。脚本の古家和尚、演出の木村淳、美術の中村知子ら、スタッフワークの真摯さと共に、企画そのものにも拍手を贈りたい。

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そんな中原の生き様と時代に翻弄される人々では、流転の人生を強いられながら中原の描く美しき女性たちへの憧れを、心の底に持ち続けた大河内舞子の桜井日奈子が、本人の持ち味にぴったりのふっくらと柔らかい乙女の姿から、家の為にした望まぬ結婚からどん底の暮らしを経て、再生していくまでを、様々な表情で描き出している。この舞台で女優デビューをした桜井にとって、この再演の機会もまた貴重な経験であったろうことはもちろんのこと、どこかにクラシックな持ち味があるのも作品に良くあっていて、将来に期待を抱かせた。
作品の語り部的存在でもある歌手の天沢栄次の施鐘泰は、時代の価値観にがんじがらめになっていた冒頭から、中原に感化されていき、最後には唯一の理解者ともなる人物を温かく演じている。役柄に相応しい美声も実に効果的で、これぞ適材適所の配役。起用に応えた好演が素晴らしい。
孤高の存在であるが故に、ある意味世間とは相容れない中原をサポートし続ける桜木高志の辰巳雄大は、非常に難しい天才との付き合いの中で、言うべきことは言いつつ結局は補佐している人の優しさがよく伝わってくる。この人物の気苦労が容易に想像できるだけに、後半の中原との意見の食い違いの切なさが増し、役柄の行動に同情できるのは、辰巳の存在感と役作りあってのことだろう。

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中原に心酔する編集者元内弥生の愛原実花は、決して多いとは言えない出番の中で、的確に役柄の思いを伝える演技力が際立った。編集長と中原との間に立って、なんとか場を納めようとしたり、また編集長の本音をズバリと言い当てたりする芝居の中で、あくまでも中原の才能を信じている女性としての立ち位置が揺るがないことが、作品の大切なポイントとなっている。モンペ姿でも尚光るスタイルの良さも健在で、良い助演だった。
舞子の夫となる五味喜助の金井勇太は、徹底的な俗物を堂々と活写。美を求める中原との対比を表す存在として、十二分なインパクトがあり、その姿が臆面もなく下卑ているが故に、終幕の心根にハッとさせられる大きな役割を果たしていた。中原のようにどんな時代にあっても信念を貫ける人が稀なことを思うと、この人物の行動は軽々しく非難できず、更に哀切を伴ったのは金井の地力に違いない。
もう1人、中原の才能を高く評価するが故に、そのブレない生き方に嫉妬も覚えていく編集長、山嵜幹夫の佐戸井けん太は、自身に十分能力がありながら、天才を前にして気持ちが揺れる、謂わばインテリジェンスからくる懊悩をよく表現している。特に時代が移り行く中で、役柄が重ねた年輪、老いを自然に身にまとっていく演技が絶妙で、さすがはベテランの味わい。作品の重石となっていた。

他に、中原が求める「究極の美」を観客の想像力に委ねたり、信念を貫き通す中で抱える自己肯定への苦悩や怯えを、マスクの登場人物と人形で表わした幻想的なシーンなど、目を引く仕掛けが随所にあり、すべてが浄化されるラストシーンの美しさと共に、見応えある舞台となっている。

初日を控えた4月5日公開舞台稽古を前に、囲み取材が行われ、主演の中山優馬をはじめ桜井日奈子、施鐘泰(JONTE)辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)、愛原実花、佐戸井けん太など、メインキャストが公演への抱負を語った。

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施鐘泰(JONTE)、桜井日奈子、佐戸井けん太、金井勇太、愛原実花

【囲み取材】

──いよいよ再演と言うことですが、1年を待たずに再演が決まった時にはどう思われましたか?
中山 すごく早い再演だったので、本当にありがたく嬉しく思いました。再演ができるということは、劇場に足を運んで頂いたお客様に評価を頂けたということなので、嬉しいです。
桜井 私はこの舞台で女優デビューさせて頂いたので、そんな舞台の再演でまた皆さんと一緒にお芝居できることが本当に嬉しいです。

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──皆さんと合流した時には喜びもひとしおだったのでは?
中山 本当に先輩方がたくさんいらっしゃる中で、懐かしさもすでにあって、ファミリーの中に帰ってこられたような気分もありました。
──内容はほぼ変わらないのですか?
中山 そうですね。より進化した『それいゆ』になっています。
──衣装も少し変わりましたか?
中山 はい、グレードアップしまして、気合いが表れています。
──役柄としてはどうですか?
中山 素晴らしい役どころを頂いておりますし、お芝居って本当に楽しいなと日々思うことばかりです。
──前回は拝見していて涙が止まりませんでしたが。
中山 ありがとうございます!
──そういうファンの方からの反響も聞こえてきましたか?
中山 嬉しいお声をたくさん頂いて、だからこそこの再演ができるということで、今日ゲネプロ、明日本番とやる気でいっいっぱいです。
──その中でお稽古はまた1からでしたか?
中山 はい、立ち稽古に入るまでから、ガッツリとやりました。
佐戸井 ガッツリだったね。

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──佐戸井さん、再演についてはどうですか?
佐戸井 それは嬉しいですよ。再演できるっていうのはそんなにたくさんある話ではないので、こういうお話を頂いてこのメンバーでまたやれるというのが、本当に嬉しいなと思って、稽古初日などはドキドキしました。
──セリフはすぐ出てくるものですか?
佐戸井 忘れているつもりでも、やってみると結構出てくるじゃないかと。まだまだボケてないなと(爆笑)。
──本当にアットホームな雰囲気ですが、その中で愛原さんは初参加ということですよね?
愛原 はい、緊張したのですけれども、キャスト、スタッフの方々が皆温かくて、なんとかご一緒させて頂けているという感じです。

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──実際入ってみてどんな雰囲気でしたか?
愛原 すごく皆さん仲が良くて、さすがは1つの舞台を創って来た方々で、私も客席で観ていて泣いてしまって、客観的に感動したので、絶対にお客様にもすごく感動して頂けると思います。
──また、前の公演の時には日奈子ちゃんトレーニングがあったと聞いていましたが、今回は?
中山 今回もこの可愛い顔でガッツリやられました(笑)。
──どんなことをしたんですか?
中山 日奈子式トレーニングで、声を出して身体を動かして、鬼教官でした(笑)。
──(笑っている桜井に)笑っていますが、鬼だったんですか?(笑)
桜井 鬼じゃないです(全員爆笑)。
──(全員が口々に「日奈子式トレーニングを知らない人もいるよね?」と言い合うのを受けて)ちょっとここでやってもらえますか?
中山 今ですか?
佐戸井 えっ?ここでやるの?
桜井 じゃう私も一緒にやりますね(全員で両手を広げて腰を落とし、桜井の掛け声と共に「あ〜はい!あ〜はい!」と声を出しながら動く)。
中山 ありがとうございました!(笑いと拍手)。
──シゴキは大丈夫ですか?
桜井 いえ、これから本番なので疲れさせてはいけないので…
佐戸井 (「優しい!」「ありがとう」とまた口々に声があがるのを受けて)本当はこんなもんじゃないんです(笑)
辰巳雄大 もっと楽しそうにやられてますよね(笑)
──そんな鬼教官でありつつ、締まった感じがしますよね?
中山 そうですね。この舞台で女優デビューをされて、そして今回二十歳を越えて1回目の舞台ということで、歴史的な舞台になられたと思うので、そこに一緒に出られるというのはありがたいですね。

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──二十歳を越えてということは、お仲間同士でお祝いなども?
中山 皆で寄せ書きをしてプレゼントさせて頂きました。
──何か心に残るものも?
桜井 中原淳一さんの絵の裏に皆で寄せ書きしたものを頂いたんですけれども、金井さんからの「そんなに、連続で、いい仕事、夢のようだ」と書かれたメッセージにズキンと来ちゃって。
金井 「そ」んなに「れ」んぞくで「い」い仕事「ゆ」めのようだ、だよ?これ縦に読んでみて?
桜井 えっ?
辰巳 後ろ見て?後ろ!(ポスターの「それいゆ」を指して)これ、これ!
 「そ」んなに、「れ」んぞくで、「い」い仕事、「ゆ」めのようだ!
桜井 (初めて気づいて)えー!?キャー!!
金井 俺が本当にそんなこと思ってると思ってたのかよ!(笑)思ってるよ!このヤロー(爆笑)。
辰巳 俺も思ってるよ!(笑)
桜井 そうだったんですね!ごめんなさい、知らなかった! 
 やっぱり丸で囲まないとダメだったんだね(笑)。
──皆さんは気づいてたんですよね?
 全員気づいてました。
桜井 すみません!
金井 良かった、良かった、気づいて。
辰巳 忘れ去られるところでしたよね(笑)。

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──こうして可愛い日奈子ちゃんを中心にしつつ、座長としてはまた身を引き締めてということになりますね?
中山 そうですね。本当にこの日を楽しみにしておりましたし、楽しみにしてくれているお客様がいらっしゃいますので、全力を注いで、皆で1つの作品を作りたいなと思います。──まず池袋サンシャイン劇場で、そしてこの後地方にも。
中山 はい、小倉の方にも行かせて頂いて、その後神戸の方にも行かせて頂くので楽しみです。
──何か楽しみにしていることはありますか?
中山 やっぱり地域によってお客様の感性や反応も多少違ったりもするので、それが舞台の良いところで、生の空間で生のエネルギーを受け取れるのが1番楽しみなところです。
──北九州と神戸で、何かピンポイントでは?
中山 ピンポイントというと、やっぱりご飯じゃないですか?神戸は?
佐戸井 南京町とか、中華街ね。
──北九州は?
佐戸井 屋台あるのかな?
辰巳 小倉はどうなんでしょう?
 屋台は博多が有名ですけど。
中山 でもそういうイメージがありますから、色々行きたいですね。
──皆さん仲が良いので、どこかで目撃されるかも?
中山 美しくご飯を食べていたいですね(笑)。
愛原 テーマは!
全員 美しく!
──ではファンの皆様にメッセージをお願いします。
中山 舞台『それいゆ』再演はじまります。本当に全力を注いで稽古をしました。素晴らしい作品に仕上がったと思いますので、是非劇場でお待ちしております。

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〈公演情報〉
『それいゆ』
脚本◇古家和尚
演出◇木村淳(関西テレビ)
出演◇中山優馬
桜井日奈子、施鐘泰(JONTE)、辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)、愛原実花、金井勇太、佐戸井けん太 他
●4/6〜11◎東京・サンシャイン劇場
〈料金〉9,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10時〜18時)
●4/14〜15◎福岡小倉・北九州芸術劇場 中劇場
〈料金〉9,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉スリーオクロック 092-732-1688(平日10時〜18時半)
●4/19日〜23◎兵庫・新神戸オリエンタル劇場
〈料金〉S席 9,000円、A席、6,000円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
〈お問い合わせ〉 梅田芸術劇場 06-6377-3888(10時〜18時)
 
 http://www.ktv.jp/event/soleil/index.html



【取材・文・撮影/橘涼香】




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