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元宝塚宙組トップスターで、女優として活躍中の凰稀かなめの、退団後初主演作品であるミュージカル『花・虞美人』が、TBS赤坂ACTシアターで開幕した(31日まで。のち4月15〜16日愛知県芸術劇場大ホール、4月22日〜23日大阪・森ノ宮ピロティホールでも上演)。

『花・虞美人』は、中国の群雄割拠時代の興亡の歴史を描いた『三国志』で知られ、「四面楚歌」の語源ともなった項羽と劉邦の物語から、絶世の美女として語り継がれている謎多き実在の人物、虞美人を主人公に、空想の翼を広げて彼女の波乱万丈の人生と貫いた愛を描いたオリジナルミュージカルだ。

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【STORY】

紀元前221年、史上初の中国統一を成し遂げた奏の始皇帝(奥田圭悟)の時代、圧政に苦しめられ、苦役を強いられる庶民の不満は日に日に高まる一方であった。そんな時代にありながらも、小さな村で穏やかに暮らす村一番の美貌の持ち主と謳われる娘・虞(凰稀かなめ)は、劉邦(ユナク)との結婚を明日に控え、幸福の絶頂の中にあった。だが、そんな2人を見た老婆は、劉邦はやがて世の民の為軍を率いて戦い、虞はその美しさ故に結婚はできず、苦難の人生を歩むと予言する。
その忌まわしい予言通り、翌日、まさに結婚式が執り行われようとしている最中に、始皇帝の軍隊が現れ、皇帝の慰み者にと、虞をはじめとした村の娘たちを連れ去ろうとする。必死で虞を守ろうとした劉邦だったが、多勢に無勢の軍隊を阻むことは叶わず、虞の父親は殺され、泣き叫ぶ虞は兵士たちに連れ去られてしまう。

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虞の美貌は始皇帝の目に留まり、気に入りの女人として傍近くに置かれるが、虞は一言も言葉を発さぬまま恨みを募らせ、ある夜始皇帝の暗殺を試みるものの失敗。今しも殺されかけた寸前、楚の旗を立てた項羽(黒川拓哉、池田努Wキャスト)が攻め込み、始皇帝を討ち果たす。項羽は虞に、もう自由の身なのだから案ずることなく故郷に帰れ、と告げるが女性の貞節が最も重んじられていたこの時代、穢れた身で劉邦の元に帰ることなど考えられない虞は死を望む。その様子を見た項羽はそれならば自分と来い、面白い世界を見せてやろうと虞を誘い、行くあてのない虞はその言葉に従う。だが、その直後、燃え盛る宮殿に駆けつけたのは劉邦と手勢だった。なんとか虞を探し出そうとした劉邦だったが、見つけ出したのは、かつて自分が虞に送ったひなげしの髪飾り。この戦闘の中で虞は亡くなってしまったと思いこんだ劉邦は、ただ悲嘆にくれる。

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始皇帝が倒れ、楚の国の王となった懐王(小野健斗)を頂き、項羽は天下統一へと立ち上がる。そんな項羽に、軍師范増(大澄賢也)は、懐王の血縁の女性呂雉(高橋由美子)との縁組を勧めるが、項羽は断る。項羽の中には虞の存在が日増しに大きくなっていたのだ。一方、項羽軍から逃亡していた韓信(石橋直也)は、劉邦に軍師として迎えられ、呂雉との政略結婚を劉邦に進言する。虞は死んだとばかり思いこんでいる劉邦はその提案を受け入れ、懐王から将軍に任ぜられる。
互いに大きな勢力となった項羽と劉邦は、天下統一に向けて義兄弟の契りを交わすが、懐王は2人に奏の国の皇帝が拠とする関中を別方向から攻めさせ、勝利した方を関中王とすると告げる。そこには皇后になろうとする野望に燃えた呂雉の計略が隠されていた。
そんな権謀術数が渦巻く戦いの中、虞は今尚愛し続けている劉邦への思いと、命の恩人である項羽への恩義とを抱えたまま項羽につき従うが、ついに長くすれ違っていた劉邦との再会の時が訪れて……

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作品に接してまず感じるのは、激動の群雄割拠の時代、更に国名、地名、人名、が数多く乱れ飛ぶ物語世界にあっても、ストーリーが実にわかりやすく伝わってくる嬉しい驚きだった。特に虐げられた民衆の描写からはじまる数々のミュージカルナンバーが、場面場面に効果的に取り入れられ、猛スピードで進んで行くドラマ世界を支えたのは、音楽がドラマを運ぶミュージカルならではの方法論を、作劇がきっちりと押さえているからこそのことだ。長く「三国志」を愛し、いつかはその世界観を音楽にしてみたいと念願していたという、作曲・音楽監督の鎌田雅人が、脚本に描かれる人物と場面をよく理解して、幾多の楽曲を書き下ろしたことも功を奏していて、オリジナルミュージカルならではの強みを感じさせた。

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そして、何よりもこの物語を波乱万丈なものにしているのは、項羽の寵姫として常に項羽と共にあり、所謂「四面楚歌」の中、最期の戦いに趣く項羽が憂いを残さぬように自害した、という記述だけが知られている虞美人を、元々は劉邦の許嫁の娘であった、とした発想の豊かさだ。これによって、多くの小説などで取り上げられてきた「項羽と劉邦」、2人の武人の国盗り物語に、「虞」という絶世の美女をめぐる三角関係が横たわることになったのは、優れた仕掛けだったと思う。
中でも劉邦だけでなく、計略によって虞も、項羽と凌ぎを削っている劉邦は同名の別人であり、許嫁の劉邦は亡くなったと思いこまされている、つまり互いが互いを亡くなったと思いながら、それでも尚愛し続け、あと一足のところで顔を見ることなくすれ違いを続けているというもどかしさが、全く不自然でなく劇中に展開されていたのに感心した。これによって、クラシックな時代劇に相応しいロマンスの香りが立ち上り、王道の悲恋物語が描かれていく様が美しい。全体が中央から上手、下手に広がる階段だけのセットによって進んで行くのも、舞台面のスペースが広く取れる利点となって、殺陣の迫力が増していて、衣装の豪華さも際立ち、思い切った簡略化がむしろ想像力を喚起させる面白い効果をあげていた。

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そんな作品のヒロインとして登場した凰稀かなめの美しさが、舞台の根幹を支えている。まず何よりも美貌の持ち主でなければ成立しないだろう、劉邦、項羽をはじめ、作中の人物たちからことごとく愛される役どころを素直に納得させたのは、宝塚時代から広く知られていた凰稀の美しさあってこそだ。更に、その美貌の中に柔らかさが備わっている持ち味が、流転の人生をたどる「虞」という女性の中に生きていて、常につきつめた表現を示してきた深い芝居心と共に、愛と恩義の中で揺れ動きながら、自らの進むべき道を選び取って行く虞の芯の強さを十二分に表している。特に、劉邦に対してはどこまでも可憐な乙女であり、項羽に対しては荒ぶる魂を守る聖母のようである、それぞれの居方が明確だから、虞が決して単純に劉邦から項羽に想いを移したのではないことが、台詞で説明されるまでもなく伝わるのは素晴らしい美点だった。これによって、虞という女性の生き様が、非常に健気で共感の抱けるものになっていたと思う。それらを含めて、女優としては2作目の舞台にして、凰稀が全く違和感なく自然体で舞台に位置し、しなやかな姫役者ぶりを発揮したことを喜びたい。数々の衣装の着こなしも実に美しく、「女優・凰稀かなめ」の今後の活躍に、更なる期待が高まった。

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そんな虞をひたすら思い続ける劉邦を演じたユナクは、優しく温かい好青年を想起させる個性が、戦さに向かうことすらも虞への深い愛故という、この作品世界の中の劉邦像に打ってつけ。長髪の鬘や、赤を基調にした衣装も良く似合い、長身で甘い二枚目というビジュアルの良さも手伝って、悲恋物語のプリンスとしての存在感が抜群だった。ほぼ初めてだという殺陣シーンも果敢にこなし、「超新星」のリーダーとしてだけでなく、舞台俳優としてのユナクが、作品を重ねるごとに成長している頼もしさも感じさせた。

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一方の雄、項羽は黒川拓哉と池田努のWキャスト。この日は池田の出演だったが、登場シーンから非常にワイルドで豪胆な役作りで、ユナクの劉邦と好対照なのがまず面白い。そういう人物が虞にだけ見せる弱さや、脆さがきちんと表現できているのが、次第に項羽を見守らなければならないと虞が思い至る過程を、すんなりと納得させる一助にもなっている。「21世紀の石原裕次郎を探せ!」オーディションをきっかけにこの世界に出てきた人ならではの、豪快なアクション、殺陣シーンも見事で、歌唱力が伸びてくれば十分ミュージカルにも進出できる人材になるのではないか。今後に期待したい。一方の黒川拓哉は、音楽大学声楽科出身者のみで構成されるボーカルグループ「LE VELVETS」のメンバーだけに、劇中項羽が虞への秘めた恋心を歌うナンバーなどは、さぞ素晴らしく映えることだろう。見比べる妙味も大きいWキャストになること必定だ。

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また、若い俳優たちが多く躍動している座組にあって、貴重な重石になっているのが項羽の軍師范増の大澄賢也。大澄と言えば、まずは何を置いてもその秀でたダンス力が1番に思い出されるが、今回はそのダンスをほぼ封印して尚、いぶし銀の存在感と台詞術とで、策謀に長け項羽と共に天下を獲らんとする軍師を、堂々と演じていて感嘆させられる。特に項羽と袂を分かつソロナンバーを、切々と歌い上げた歌唱力は瞠目すべきもので、大澄が優れたダンサーであると同時に、優れたミュージカル俳優であることを再認識させてくれる好演だった。

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もう1人、愛に殉じる虞との対照として描かれる、ひたすらに大望を抱く女性呂雉の高橋由美子は、権力への欲望を漲らせた燃え滾るような表現が、小柄で愛らしい外見とのギャップを生んで、強烈に目を引く力になっている。今回の作品世界の中で、非常にわかりやすい敵役のキャラクターを凄味をもって演じきり、脚本が求めた役割を堂々と果たしていた。

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他に、有名な「韓信の股くぐり」の場面も用意されている、劉邦の軍師韓信の石橋直也の理知的な役作りが光るし、虞の弟で姉を思うあまり波乱も引き起こす、子期の松田凌の生一本なひたむきさ、劉邦の親友、樊かい(※口へんに會)の岡田亮輔の実直さと共にある爽やかさ、宦官・趙高の桑野晃輔の二転三転する役柄の豊かな表現、意に染まない命令を下さざるを得ない懐王の小野健斗の、美しき鬱屈、暴君始皇帝の奥田圭悟の狂気、そして、宗義の今井ゆうぞうの「歌のお兄さん」としてのイメージを見事に覆す悪役ぶり等々、多彩なキャスト陣も充実。歴史ドラマの大河の中に、切ないロマンが浮かび上がる見応えあるミュージカルとなっている。

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 初日を翌日に控えた3月25日、通し舞台稽古を前に、ヒロイン虞を演じる凰稀かなめと、劉邦を演じるユナクが、それぞれ囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

【凰稀かなめ 囲みインタビュー】

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凰稀 皆様、本日はお忙しい中ありがとうございました。いよいよ明日から始まります。スタッフの方々、出演者一同、精一杯頑張っていきたいと思いますので、温かいご声援よろしくお願い致します。
──初日を迎える心境はいかがですか?また、稽古中に新たな発見などはありましたか?
突きつめてやっていたので、発見は山ほどありました。本当に演出家、出演者とぶつかりあいながら今日まで稽古をしてきたので、その成果が出るのではないかと思います。とてもシンプルな舞台なので、皆の魅力がすごく発揮される舞台になっていると思います。その辺も楽しんで頂けたらと思っています。
──演じられる虞姫という役とご自分との共通点はありますか?
共通点ですか?(笑)そうですね。温かく、大きく、見守るところじゃないかなと思います。
──項羽役は黒川拓哉さんと池田努さんのダブルキャストですが、それぞれの魅力は?
お二人ともワイルドなんですけれど、池田さんはワイルドさの中にも温かさがある熱い男ですが、最後に向かっていくにつれて弱さが出てくるんです。それでも必死にやっていく、とても人間らしい項羽になっていると思います。黒川さんは身長も大きいですし、ワイルドはワイルドなんですけど、たぶん黒川さんの人間性、純粋な優しいところが、今回のお芝居の中に出てきていて、一生懸命なところとか、そういう部分がとても項羽っぽいなと。逆に黒川さんの方が最初は可愛い感じなんですけど、後半に向けてどんどん男らしく成長していく項羽になっていると思います。
──ユナクさん演じる劉邦についての印象はどうですか?
ユナクさんは普段からお優しいです。色々とやってくださいます。今回恋人同士の役で、結婚して夫婦になる直前という関係なので、色々なお話をして普段からそういう風に見えるように接したりしていて。本当にレディーファーストなんです。それが劉邦様にすごく合っているというか、劉邦様そのものという感じです。
──宝塚退団後初主演ということですが、意気込みは?
宝塚ではトップスターという立場にいさせて頂いて、毎公演そうだったんですけれど、自分がトップだからといってどうこうというのはあまりなくて。作品の中でどういう風にこの組をとか、自分を、相手をということばかりを考えていたので、「座長」という言葉に気負いを感じないように自分で意識しつつも、皆さんとコミュニケーションを取りながら舞台上で一緒に戦っていきたいなと思います。 
──作品への手応えはどうですか?
手応えは十分あります。でもお客様が入ったらまた空気も変わってくると思いますし、お客様と一緒にこの先、また新たに作っていきたいなと。今は自分たちの中で色々やっていますけれど、絶対に空気って変わるものなので、一緒に楽しんで一緒にその時代を過ごしていけたらいいなという風に思っています。

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【ユナク囲みインタビュー】

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──初日を迎える心境は?
初めて時代劇を演じるのでプレッシャーもあるんですけど、皆とすごく仲良く1か月半くらい頑張って稽古してきたので、やっと見せられる、良かったなと思いました。ただ、今の心境はちょっと緊張しています。
──凰稀さんが、「レディーファーストな優しい方で、ユナクさんは劉邦にピッタリ」とおっしゃっていましたが、劉邦を演じるにあたって心がけたことは?
台本をもらって、今回虞美人が主人公なので、項羽と劉邦という話よりは、テーマは「虞」という女性がどうやって生きてきたかなんですね。それを演出家さんが想像して創られたので、僕も劉邦がどういう恋愛してきたのか、自分なりに色々研究しました。項羽と差があった方がいいかなというのもあったし、項羽がストレートで激しい部分があるので、僕はロマンチックな感じでいきたいなと思って、そういう感じでやっています。 
──項羽は黒川拓哉さんと池田努さんのダブルキャストですが、それぞれ違いはありますか?
池田さんの項羽は、暴れた感じというか激しい項羽。黒ちゃん(黒川)は強さを内面的に持っている項羽です。池田さんは強さを外に出しているんですけど、黒ちゃんは心に持っている強さというか。だから話し方とかアクション、仕草も全然違うので面白いですよ。まったく違うんです。真逆なので。僕も両方楽しめるので楽しいです(笑)。二人とも身長も大きくてカッコいいので、ライバル的な存在でいいなと思ってやっています。
──ユナクさんご自身のおすすめのシーンはありますか?
そうですね。劉邦という役の僕にとっては、ラストシーンに気持ちがすごく入っています。想像するだけで考えるだけで涙がでるくらい悲しいシーンがあって、そのラストシーンが一番オススメです。
──今回の髪型と衣装についての感想は?
こういう衣装は初めて着たんですけど、僕が台本を見たときのイメージも劉邦は「赤」だなって思ったんですよ。赤って、(超新星の)グループの中のカラーも僕はレッドなので、リーダーシップもあっていいなと思うし、僕だけけっこう厚着なんですよ。皆、けっこう薄着で涼しいと思うんですけど、僕カーペットみたいな感じで(笑)。着るだけで暑がっているくらい厚着なんですけど、これを着ているだけで劉邦になったなと思います。ロングの髪はジャケット写真では撮ったことがあったんですけど、あれも鬘だったので今回は2回目ですけど、うーん、ちょっとなんていうか仕草が女性ぽくなるというか…(ロングの髪を指にくるくる絡ませながら)ちょっとこうなるのが、自分でも面白いです(笑)。頑張りますので、よろしくお願いします。

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〈公演情報〉
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ミュージカル『花・虞美人』
脚本◇岡本貴也
脚本協力◇長谷川晃示
演出◇花・虞美人製作委員会
演出協力◇本間憲一
演出協力補◇西祐子 
作曲・音楽監督◇鎌田雅人
振付◇麻咲梨乃
出演◇凰稀かなめ、ユナク(超新星)、黒川拓哉(LE VELVETS)・池田努(Wキャスト) 、松田凌、岡田亮輔、石橋直也、桑野晃輔、今井ゆうぞう、小野健斗、奥田圭悟、高橋由美子、大澄賢也 他
●3/26〜31◎東京・赤坂ACTシアター
●4/15〜16◎名古屋・愛知県芸術劇場大ホール
●4/22〜23◎大阪・森ノ宮ピロティホール
〈料金〉プレミアムシート 13,000円 S席 11,000円 A席 7,000円 (全席指定・税込)
http://www.hana-gubijin.jp/




【取材・文・撮影/橘涼香】 






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