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宝塚花組の二番手男役スターとして活躍している芹香斗亜の、待望の東京初主演作品である、宝塚花組公演アクションステージ『MY HERO』が、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(23日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティで4月2日〜10日まで上演)。

ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊ものなど、数多くの名作を生んでいる「特撮ヒーローもの」と呼ばれるジャンルは、子供たちばかりでなく、大人にも根強いファンを持つ日本の一大ムーブメントの1つだ。今回、作・演出の齋藤吉正は、そんな世界に着目。敢えてかなり劇画チックに舵を切ることで、宝塚の世界観と特撮ヒーローの融合を図った異色作となっている。

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【STORY】
かつて全米中の子供たちを虜にした伝説のヒーローMASK☆Jを、再び映画として蘇らせる『MASK☆J The Movie』の制作発表会見が、華やかに行われていた。主人公MASK☆Jを演じるのは、人気絶頂のイケメン俳優ノア・テイラー(芹香斗亜)だ。子供たちの夢を叶えるヒーローを演じることに意欲満々な挨拶を続けるノアだったが、実は子供が大嫌いな彼は、この仕事に対して真摯な気持ちなど持ち合わせていなかった。
というのも、ノアの父親ハル・テイラー(綺城ひか理)は、かつてMASK☆Jのスーツアクター(マスクをつけて変身後のヒーローを演じる、顔の出ないアクション俳優)として、伝説のスタントマンと呼ばれた存在だったが、撮影中の事故で死亡。幼くして父親を失ったノアは、世の中に顔も出せず、危険なアクションシーンだけを演じてきた父に対する屈折した思いから、スーツアクターを軽蔑し、必ず顔の出るスター俳優になろうと決意し、今日の地位を得ていたのだ。その為、自身のスーツアクターを務めているテリー・ベネット(鳳月杏)に対しても、ねぎらいの言葉ひとつかけるでなく、高慢な態度を取り続けていて、私生活にも大きな乱れが生じていた。
だが、そんなノアのスターを鼻にかけた享楽的な生活は、スポンサーがらみの致命的なスキャンダルで一変する。『MASK☆J The Movie』の主演は降板。これまで何かとノアをかばってきた事務所からも縁を切られ、たちまちにしてスターの座を転げ落ちるノア。『MASK☆J The Movie』があれだけ馬鹿にしていたテリーを主演に改めてクランクインするという話も、ノアはただ歯噛みして聞くしかなかった。
しかも、ひょんなことから知り合った元テニスプレイヤ—であり元グラビアアイドルのポジティブな女性クロエ・スペンサー(朝月希和)が、マネージャーとして懸命に取ってきた仕事は、なんと遊園地のヒーローショーのスーツアクターだった。どんなに落ちぶれてもスーツアクターにだけはなりたくない、父親の二の舞はご免だ!と抵抗するあまり、ノアは段取りをロクに覚えないままにマスクをつけてショーに出演し、ショーをめちゃくちゃにしてしまう。
そんなノアに「あなたは私の夢を壊した!」と泣きながら訴えたのは、福祉学を学ぶ学生マイラ・パーカー(音くり寿)だった。彼女の言葉から、伝説のヒーローMASK☆Jに本気で夢を見る人たちがいることを悟ったノアは、真剣にマスクをつけ、ヒーローを演じるようになる。そこには自分を本物のヒーローだと思い、声援を送ってくれる子供たちがいた。マスクの中から父親が見ていた景色、自分が知らなかった世界に、次第に気づかされていくノア。けれども、マイラがボランティアを務めるシルバーホーム「ネバーネバーランド」に持ちあがった新興企業「スマイルカンパニー」による買収話が、意外やノアがスターの座を追われたきっかけとなった、スキャンダルの暴露と関連していることがわかりはじめ……

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おそらく子供の頃に、鮮やかに変身し、悪の秘密結社や、怪獣たちをカッコよく倒すヒーローたちに憧れた…という記憶を持つ人は、かなり多いのではないだろうか。それだけでなく「仮面ライダー」に代表される長い歴史を誇って来た特撮ヒーローものは、子供と一緒に画面を食い入るように見つめている母親たちの熱狂的な支持を集めて、数多くのスター俳優を生み出し続けている。けれども一方で、変身後のヒーロー、マスクの下で本人の顔を知られることなく、颯爽とヒーローを演じるスーツアクターの存在が、脚光を浴びることは極めて稀だ。
そんな世界にスポットを当てた齋藤吉正のアイディアは、なかなかに卓越したものだったと思う。特に、広く顔を知られることこそが大切で、常に美しく在ることが正義の宝塚スターと、決して顔を知られてはいけないスーツアクターを結び付けた発想は、誰しもができるものではなく、作家の意欲的な挑戦として評価できる。齋藤得意の映像でスタートする展開も、アメリカンコミックから飛び出したような快調なテンポ感を生んでいて、好感が持てた。
 
ただ一方で、様々なアイディアを詰め込み過ぎたきらいがあるのもまた事実で、中でも謎の新興企業として登場する「スマイルカンパニー」の件が、作品の非現実度をいたずらに高めてしまっているのがどうにももったいない。世界征服の計画がご近所の小狭い買収話からはじまるのは、特撮ヒーローもののある種のお約束でもあって、おそらくはそこに作家のオマージュがあるのではないか?と推察されるが、ノアと亡き父親の関係、ノアと父親の再婚相手である継母との関係、実は病を抱えていたテリーとノアの立場の逆転、更にダブル・ヒロインであるマイラとクロエとの出会いからの様々なエピソードなど、人と人との関わりを丁寧に描いただけで、十分感動作になり得る美しいテーマが作品の中にはあふれている。そこに真っ直ぐに向かう方法も、或いはあったのではないだろうか。特に専科勢を大量投入したという訳ではない若手主体の公演で、シルバーホームの老人たちが、かなりの時間を割いて登場するのは、懸命に演じているスターたちにもやや酷な気がした。

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だが、そうしたあれこれをどうでも良いか、という気にさせるのが、主演の芹香斗亜の、これぞヒーロー!と快哉を叫びたい文句なしのカッコよさだ。驕慢なスターとして登場する冒頭から、そのスターの座を追われ、自虐的な仕事にも取り組まなければならなくなる作中のノアの描写は、決して徹頭徹尾カッコよいものではない。にも関わらず、とにかく芹香はどんな時も、どんな場面でも、自分で自分を「カッコ悪いな」と吐露する時でさえも、抜群のプロポーションと男役度の高さで魅了してくれる。しかもこの人の舞台には鷹揚さと、温かな優しさがあるから、どんな場面も品が落ちない。そんな芹香演じるノアが人間として成長していく、転落からのサクセスストーリーに心躍らないはずがない。もちろんマスクをつけたヒーローとしてのアクションも見事に決まり、爽快な東京主演デビューとなった。バウホール公演での初主演から、今回の東京・大阪での二度目の主演公演まで、スケジュールの巡り合わせで時を要したが、その蓄積があってこその芹香の現在であることを思うと、スターとしての逞しさを感じる。

そんな芹香のノアの影武者的立場から、一転スター街道を昇り始めるテリーを演じた鳳月杏も、花組への加入以来、驚くばかりのスピードで階段を駆け上がっている、本人と役柄がリンクした面白さがあった。特に1幕で多く張られていた役柄の伏線がミステリアスで、何かを秘めている風情が鳳月の個性をよく活かしていたので、ここを脚本が更に効果的に回収してくれれば、より大きな役どころになった可能性もあったと思う。是非そうなって欲しいと思わせるのも、鳳月の魅力あってのことだから、重用の理由もわかろうというもの。芹香と2人でマスクのヒーローを演じるシーンは、互いのプロポーションの良さが引き立て合って素晴らしかった。

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「この物語のヒロインである」という華々しいナレーションと共に登場するマイラの音くり寿は、少女時代にノアの父親と重要な関わりを持っていた役どころ。この「少女時代」というのが、目下音の魅力が最も引き立つところでもあって、彼女の個性を脚本が良く活かしている。過去のトラウマから車椅子生活になっているという設定なので、主なシーンで車椅子に乗ったままの演技になったが、よく動く表情と美しい声で難題に果敢に挑んでいた。一方、元全米901位のプロテニスプレイヤーなる、どう考えても誇れる経歴ではない出自を、あっけらかんと自慢するアメリカン・ガール、クロエに扮した朝月希和は、これまでしっとりとした演技に成果をあげてきていた姿から一転、あくまでもポジティブな女性像が、実に魅力的だったのが大きな収穫だった。基本的に泣き顔の人だと思っていたが、こういうポップな役柄もいけるとなると、役幅がグッと広がるから、このチャンスをきっかけに更に伸びていって欲しい。クロエが元テニスプレイヤーだったことが終幕につながるので、これは是非設定をお忘れなきよう、と言ったところ。
 
ノアの父親ハル・テイラーの綺城ひか理が出番としては多くないながら、非常に重要な登場をしていて、目下大売り出し中の勢いを感じさせる。そのハルの再婚相手のメイベルに芽吹幸奈が扮して、しとやかに添えるのが花組娘役の伝統ならでは。前述の「スマイルカンパニー」は天真みちる、乙羽映見、矢吹世奈が思いっきりカリカチュアして演じていて、役者陣の奮闘には惜しみない喝采を。他に梅咲衣舞、和海しょう、華雅りりか、茉玲さや那、等がそれぞれの持ち場で奮闘していて、盛りだくさんな作品を支えていたし、冴月瑠那以下シルバーホームの老人たちの、タカラジェンヌはかくも健気で真摯な演技者であると示した姿勢に敬意を表したい。総じて出演者全員で、芹香斗亜の東京初主演作品を盛り立てた姿は清々しく、手島恭子のこれぞ特撮ヒーローもの!のワクワク感あふれる音楽と共に、宝塚の美徳を感じさせる公演になっている。

〈公演情報〉
宝塚花組公演
アクションステージ『MY HERO』
作・演出◇齋藤吉正
出演◇芹香斗亜 ほか花組
●3/16〜23◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席 7.800円 A席 5.000円
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
●4/2〜10◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉S席 7.800円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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