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新しい四姉妹による『細雪』が、日本橋浜町の明治座で3月4日開幕した!
昭和十年代の大阪船場を舞台に、戦争に向けて大きく変わろうとしている時代の中にあって、それぞれの矜持を貫く四姉妹の姿を描いた不朽の名作である。(4月2日まで)

谷崎潤一郎原作、菊田一夫脚本により、1966年に初演の幕を開けた『細雪』は、以来50有余年、数々の名女優たちが、華を競い受け継がれ、女優芝居の金字塔として輝き続けている。
今回の上演はその38演目にあたり、2009年の公演から次女・幸子役を演じてきた賀来千香子が長女・鶴子役に、2011年の公演から三女・雪子役を演じてきた水野真紀が次女・幸子役に、そして初役として元宝塚トップスターの2人、紫吹淳が三女・雪子役、壮一帆が四女・妙子役を演じる、新たな四姉妹が揃った、新生『細雪』の誕生であると同時に、初日に上演回数1500回に達した記念の公演ともなっている。

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【物語】 
昭和十年代の大阪船場。徳川の時代から続く木綿問屋・蒔岡商店には、美しい4人の姉妹がいた。先代の父から譲り受けた家業の暖簾を守り、格式を重んじる長女・鶴子(賀来千香子)。分家して神戸・芦屋に住まいを構え、妹たちを優しく見守る次女・幸子(水野真紀)。数多の縁談を断り続け、婚期が遠のいていく三女・雪子(紫吹淳)。ハイカラで活発、人形作家としての自立の道を切り拓いて行こうとしている四女・妙子(壮一帆)。時代が戦争に向けて大きく動き出している中でも、優雅さと誇りを忘れない美しき四姉妹は、それぞれの思いでそれぞれの人生を歩んでいた。
だが、ついに日中戦争が勃発。時代の流れに乗り遅れた蒔岡商店も、取引先の倒産と共倒れになる形で倒産してしまう。それでも本家の威厳を捨てきれない鶴子。待望の2人目の子供を流産した悲しみの淵にいる幸子。度重なる見合いの破談に傷付きながら、尚運命の人にめぐり会えることを待ち続ける雪子。芦屋が見舞われた例を見ない大水害の折、自分を助け出してくれた時の傷が元で亡くなった恋人を思い、悲嘆にくれる妙子。姉妹たちは自分たちのいる世界が古き良き時代が、すでに過去のものになりつつあることを感じ初めていた。それでも姉妹たちは美しくあることを貫く。その姿は散るからこそ美しい、満開の紅枝垂桜のようだった…。

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三幕からなる舞台は、大阪上本町の蒔岡家の本家、神戸芦屋の蒔岡家の分家に、ほぼ集約されて進んでいく。唯一の外の世界は四女・妙子が個展を開いた神戸・鯉川筋の画廊がただ一度登場するのみで、昭和十二年の春から、十四年の春までの二年間に、四姉妹に降りかかった様々な困難、大きな時代のうねりが二つの家の中に限定された描写だけで、全く無理なく進んでいくことに、改めて感心させられる。
純日本家屋の本家と、洋館作りの分家、それぞれがきちんと2階にも上がることのできるしっかりとした作りで、蒔岡家の格式を感じさせてくれる。姉妹たちの衣装をところ狭しと虫干しする華やかな場面、水害に見舞われる嵐の夜の抑制の効いた描写、そしてすべてを見守る桜。隅々までに贅を尽くされた舞台から、静かに、だからこそ確かに立ち上る高貴な香りは圧巻で、今後これだけの舞台を新たに作ることができるのだろうか、と思わされるほどだ。ここには、芝居見物が特別なハレの日のものだった時代の、美しさが隅々にまで詰まっている。

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しかも、そこで艶やかに、あたかも華やかさを競うかのように生きていく四姉妹のそれぞれが、どんなに時代が移り変わろうとも、誇りを貫き、美しく在ることをやめない姿に、今、滅びようとしている、人が本来在るべき姿への憧憬が満ちていて、胸を衝かれずにはいられない。この四姉妹の凛とした矜持には、将来への不安や、不穏な空気が充満していることを感じる今の時代に、忘れてはならないものを思い出させてくれる力がある。本音をさらけ出すことは決して美徳ではない。誇り高く、在るべき姿の為に張る意地こそが、人が人である為に必要な美徳だ。そう教えてくれる『細雪』が、いつまでも上演を重ねていく、人々に常に求められる作品である理由はそこにある。逆に言えば、この作品が求め続けられている間は、まだ日本も捨てたものではない。そんな希望がこの作品には確かに備わっている。

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そうした作品のすべてを体現している四姉妹、代々の名女優たちの歴史にまた新たな名を刻んだ4人が、それぞれに素晴らしい演じぶりで、作品世界に位置している。
 
長女・鶴子役を今回から担った賀来千香子は、いつまでも若く美しく、現代的な役柄も多彩にこなす才気煥発ぶりを、名家に生まれた誇りと、老舗の暖簾を守り抜こうとする鶴子の中に、どっしりと落とし込んだ様が見事だ。さすがに長年『細雪』の世界に身を置いてきた人ならではの格の高さがあり、1500回から更に次の記録へと向かう新生『細雪』を牽引していく力強さと共に、ふと見せる脆さの表現も魅力的だった。

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同じことがやはり今回から次女・幸子に扮した水野真紀にも言えて、『細雪』の世界観に馴染んでいる人ならではの、雅な在り様がなんとも美しい。そもそもの持ち味が和の美人画を連想させる人であることも強みで、姉や妹たちに常に気を配り、優しさに満ちているが故に、時に楯ともなる幸子の気丈さの表現も卓越していた。

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三女・雪子で『細雪』デビューを果たした紫吹淳は、宝塚の男役時代の気障を極めたが故に自由だった姿と、女優としての現在、特にテレビの世界で親しまれている、どこか浮世離れしたキャラクターの双方が、このどんなに傷付いても白馬の王子様を、運命の人を待ち続ける雪子の表現に生きている。いつもどこか夢の中にいるようでいて、決して己を曲げない。儚げに見えて実は4姉妹の中で最も芯の強い女性である雪子を、しっかりと自分のものにした実に鮮やかな好演だった。

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四女・妙子の壮一帆は、姉妹の中で唯一洋装もし、思い切った行動も取る役柄が、女優としての歩みを進める壮の現在と上手くリンクした効果があった。宝塚時代から竹を割ったような爽やかな表現に特段の魅力があった人だが、その勢いが妙子のまっすぐ己の信じるところに向かって行く生き様によく合っていて、妙子が劇中に経験する様々な出来事を経たからこその、終幕の登場もすっきりと決まり、壮ならではの妙子像が構築されているのが頼もしい。
 
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この新たな四姉妹をめぐる男優陣も充実していて、長女・鶴子の夫辰夫は磯部勉のベテランらしい豪快さと滋味深さ。次女・幸子の夫貞之助を演じる葛山信吾の真摯で温かな立ち居振る舞い。

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三女・雪子の"運命の人”である御牧の橋爪淳は、少ない出番で「この人が雪子の王子様だ!」と思わせる気品ある紳士ぶり。四女・妙子をめぐる男たち、啓三郎の太川陽介には、お坊ちゃん育ちらしい役柄の勝手気ままに憎めない愛嬌を加味するスター性があり、カメラマン板倉の川崎麻世は、主要な登場人物の中で1人出自が違うことを的確に表した物腰で、いずれも十二分に役割を果たしている。また脇の役者たちそれぞれの行儀の良い芝居も見逃せない。

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枝垂桜の下に四姉妹が揃う圧巻のラストシーンまで、これまで受け継がれ、そしてこれからも上演が続いていって欲しい、続いていかせなくてはならない、演劇の美学に満ちた舞台となっている。

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【囲み取材】

初日を翌日に控えた3月3日、通し舞台稽古が行われ、四姉妹を演じる賀来千香子、水野真紀、紫吹淳、壮一帆が囲み取材に応えて、作品への抱負を語った。

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壮一帆、水野真紀、賀来千香子、紫吹淳

──いよいよ明日から初日ということで今の意気込みをお願いします。
賀来 新しい四姉妹になりまして1ヵ月ちょっとお稽古をさせて頂いて、良いお稽古ができましたし、4人の親睦も深まりましたので、いよいよだなという気持ちで心をこめて頑張りたいと思います。
水野 初日が1500回上演の日なので、その舞台に立たせて頂くということを非常に光栄に思っております。新生『細雪』ということで、今回お着物もすべて新調しております。ピカピカの着物を見て頂けることもウリでございます(笑)。
紫吹 歴史ある『細雪』に初めて出させて頂くので光栄であると同時に、背筋が伸びる気持ちで、ひと足早く明治座の方で桜を見に来て頂けますので、そして桜のように咲いている私たちも見て頂けたらなと思います。
 珍しくと言いますか、とても緊張しています。色々勝手が違うところがあったので。でも客席で舞台稽古を拝見していた時に、賀来さんと水野さんが醸し出される『細雪』の世界観というものを、オーラをすごく感じたので、私も頼もしいお姉様方についていって、『細雪』の姉妹の1人としてこの公演に花を添えられるように、集中して頑張っていきたいと思いました。
──4人で親睦を深めたとのことですが、どんなことをなさったのですか?
賀来 プロデューサーさんとか、演出家の方とご一緒にご飯を食べたりですとか、あと稽古場でも4人が近くに座っていましたので、それぞれのキャラクターでよくね(4人で頷きあう)、皆面白いんです。
紫吹 お姉ちゃんが一番面白いわ。
賀来 あなたに言われたくないわ(笑)。でも本当に姉妹のように仲が良いのですが、良い緊張感もあって、やはり作品が良いと皆モチベーション高く、真摯な形でお稽古に望んでいました。
──賀来さんは前回まで高橋惠子さんが演じていた長女役ということで、プレッシャーなどはありましたか?
賀来 それはありますね。どうしても高橋さんの鶴子が自分の中に残像として残っていたり、高橋さんの台詞が音として残っていますので、そのありがたみやら、寂しさは置きながら、自分の鶴子を作るようにと、演出家の方やプロデューサーの方が言ってくださいましたので、皆そのようにしたと思います。

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──水野さんは賀来さんの次女役を引き継ぐという形になりましたが。
水野 はい、私は四半世紀以上前からこの『細雪』は観続けて来たんですね。20歳の頃から。女優さんが変わる度に観ておりまして、最初は新珠三千代さん、あと、古手川祐子さんだった時もありますし、そして賀来さんと観ておりましたので、もちろんプレッシャーもあるのですが、ちょっと自分にわくわくしてしまうというか、どんな幸子になっていくんだろうか?という楽しさがありました。
──紫吹さんが今度は水野さんがなさっていた三女役を今回新しくということですが、いかがですか?
紫吹 世の中では、私結構「お嬢キャラ」とか言われていますけれど(笑)、本当のお嬢様になった気持ちで、本当のお嬢様だな、お嬢様って大変ねと。
賀来 そうなんだ(笑)。
──どんなところが大変なのですか?
紫吹 すべてです。4人の中でも特におとなしいという役なので、かなり頑張ってます(笑)。
賀来 おとなしくするのに頑張っているの?
紫吹 おとなしくするのと、あとは品格を持って、その中でも芯を持ってというところで、歴代たくさんの女優さんが演じられていますけれども、私なりの雪子を苦労しながら作っていますので、是非観にいらしてください。
──壮さんは一番下の四女ということでいかがですか?
 活発な役ということなんですけれども、どうしても活発過ぎてしまうところがあって、今日の舞台稽古も大変なことになったんですけど(笑)。振り袖でお芝居をしたことがなくて、立ち座りの時に踏んでしまったりですとか、慣れない草履で滑ったりですとか、スタッフさんを含めて大騒ぎになってしまいました。
水野 振り袖を着る前から「男」だったのよね(笑)。
 はい(笑)。
紫吹 振り袖を着る機会がなかなかないのよね。私は20歳になる前から宝塚に入っていて男役だったので、振り袖を着る機会がなくて…(壮に)着たことある?
 撮影ではあるんですけど。
紫吹 私撮影でもないから、今こうやって綺麗なお着物を着させて頂いて20歳の気持ち(笑)。
賀来 (笑って)可笑しいでしょう? この4人を仕切るので、良い感じの笑いがね。

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──賀来さんはやはり座長としてまとめないといけないと思うのですが。
賀来 いえ、もうこれは4人が座長ですし、ただ自分が一番年上だということと鶴子役ということが重なっておりまして、高橋さんが「鶴子は大変なのよ。蒔岡家を守るから」とおっしゃっていたのがよくわかります。良い意味でピンと背筋が伸びております。
──今回新キャストに元宝塚トップスターの方をお2人迎えての『細雪』なので、新しく踊ったりするシーンが入るのかな?と。
賀来 踊って頂きましょうか(笑)、ねぇ?
 そうしたらもれなく、お姉ちゃんたちが相手役をしてくださることに(笑)。
紫吹 そうです、もちろん(笑)。
水野 でも最後の方にちょっと「あ、宝塚」ってね。
賀来 そうなのよ!
水野 感じさせる場面もあるので、そのあたりも。
紫吹 でもそれはずっと幸子お姉ちゃんがやってきたことで(笑)。
水野 響きが違う!(笑)
賀来 そう、響きがね。
 そうなんですか?
賀来 来た、来た、来た!とね(笑)。
紫吹 声大きいですか?
水野 「あ、宝塚」って思うわよね。
賀来 (手を羽のようにひらひらさせて)こうしようかと思った。(笑って壮に)いいのよ、出て来ても!一緒に(笑)。
 はい!(笑)
紫吹 ハモって(笑)。
──見どころいっぱいのようですね。 
賀来 本当に見どころいっぱいです。1500回代々皆様に受け継がれて、お客様もリピーターの多い『細雪』ですので、ひと足早く桜を皆様と共有させて頂きたいと思います。

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──この枝垂桜のセットがとても特徴的ですが、どんなシーンで使われるのですか?
紫吹 それは見てのお楽しみです。
賀来 クライマックスね。
水野 20歳の時にこれを見て「あ」と胸をドキュンと衝かれて、リピーターになりました。
──それくらい印象的なシーンなのですね。
賀来 私も今日、舞台稽古の途中、客席で拝見していて、自分が出させて頂くのですけれど、綺麗だな〜と思って、動画を撮ったほどでした。
──明日の初日で1500回ということで、改めてそこまで上演が続く『細雪』の魅力とは?
賀来 やはりお着物だったり、桜だったり、大阪の船場の言葉だったり、これだけ華やかなものがなかったことと、今、日本らしい舞台が少なくなって来ましたよね。皆さんがお好きな、残しておきたい、忘れたくないものが凝縮されているような、綺麗なことも大事な舞台が、皆さんを引きつけているのではないかと私は思っています。
──今日は3月3日のひなまつりですが、楽屋で何かなさいましたか?桜餅とかは?
賀来 誰か差し入れしてくださらないかしら(笑)。
 待ってます!
紫吹 今日はそれどころではなかったので。
水野 本当に大変な1日でね。
賀来 そうですね。でもおひな様は出しました。どうぞ皆様、明日の初日からよろしくお願い致します。
3人 よろしくお願い致します。

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〈公演情報〉
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『細雪』
原作◇谷崎潤一郎
脚本◇菊田一夫
潤色◇堀越真
演出◇水谷幹夫
出演◇賀来千香子 水野真紀  紫吹淳 壮一帆 他
●3/4〜4/2◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階前方席)13,000円 A席(2階後方席)9,000円 B席(3階2階前方席)席)6,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10時〜17時)



【取材・文・撮影/橘涼香】


『細雪』 




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