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宝塚星組の新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里コンビのプレお披露目公演、マサラ・ミュージカル『オーム・シャンティ・オーム〜恋する輪廻〜』が、有楽町の東京国際フォーラムホールCで上演中だ(18日まで)。

2007年にインド国内で大ヒットし、その後世界各地で上映され、多くの映画ファンに愛されているインド映画の傑作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』。ボリウッドのトップ舞踊監督ファラー・カーン監督、“キング・オブ・ボリウッド”と称されるシャー・ルク・カーン主演、この作品への出演をきっかけにボリウッドのディーヴァとなったディーピカー・パードゥコーンがヒロイン務めるなど、ボリウッドの粋を極めた映画として知られている。今回の星組公演は、そんな作品の舞台化で、宝塚歌劇団が初めて挑むインド映画を元にしたミュージカルとなっている。

【STORY】
1970年代のインド映画界。エキストラ俳優のオーム・プラカーシュ・マキ—ジャー(紅ゆずる)は、人気女優シャンティプリヤ(シャンティ・綺咲愛里)に密かな恋心を抱き、いつか必ずスターになってシャンティを迎えに行ける日を夢見ながら、名前もない役柄を務め続ける毎日を過ごしていた。そんなオームの想いを自身もエキストラ女優だった母のベラ(美稀千種)と、友人で脚本家見習いのパップ—(瀬央ゆりあ)は信じ、応援していた。
ある日、ロケ現場で事故が起こり、炎の中に取り残されかけたシャンティを身の危険も顧みずオームが救い出したことから、2人は急接近。シャンティから「私達は友達よ」と言われたオームは天にも昇る気持ちを抱き、何事か悩みを抱えているらしいシャンティを懸命に励ます。だが、シャンティの悩みとは、敏腕プロデューサーのムケ—シュ(礼真琴)と秘密裏に結婚している事実を世間に公表できずにいるままに、ムケ—シュをめぐる女性関係のゴシップがマスコミを騒がせていることだった。
「手を伸ばせばきっと幸せに届く」というオームの言葉に背中を押されたシャンティは、ムケ—シュに自分たちの結婚を公表して欲しいと懇願するが、すでにシャンティ主演の大作映画『オーム・シャンティ・オーム』の準備が進んでいる今、とても無理な相談だと断られ、遂にムケ—シュの子供を宿していることを打ち明ける。それは映画界で更なる栄光を手に入れようとしているムケ—シュにとって、抜き差しならない事態であり、事の顛末を立ち聞いてしまったオームにも大きな衝撃を与える話だった。進退窮まったムケ—シュは、2人の結婚を盛大に披露しようと言葉巧みにシャンティを呼び出し『オーム・シャンティ・オーム』のセットもろとも、シャンティを焼き殺そうとスタジオに火を放つ。その場に駆けつけたオームは必死でシャンティを救おうとするが、火勢はオーム1人の手に余り、自らも大怪我を負いながら助けを呼びに走り出たところで、大スターのラージェシュ・カプール(壱城あずさ)の車にはねられ、命を落としてしまう。妻の出産に立ち会おうとしていたラージェシュは事故をもみ消し、その日生まれた男の子に奇しくもオームという名をつける。
それから30年。大スターの子として成長したオーム・カプール(紅ゆずる)は、スター俳優としてボリウッドに君臨していて…

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インド映画は日本でも『ムトゥ踊るマハラジャ』がブームになった時期などを経て、仮にじっくりと観たことがないという人にも、なにがしかのイメージとしては浸透しているのではないだろうか。例えるならば突然繰り出した大人数が賑やかに踊り出し、また何事もなかったかのように去っていくシーンに象徴される、ある種の荒唐無稽なパワーと、独特の音楽などは、すでに相当な認知度を得ていると思う。
そんなインド映画の持つ力が、トップスターを中心に何があろうとも主人公が正義であることが貫かれている宝塚の世界と、極近しい親和性があることを今回の舞台『オーム・シャンティ・オーム〜恋する輪廻〜』は見事に証明している。物語はインド映画の世界では定番のひとつでもあるという「輪廻転生」をテーマにしているのだが、それが単なる生まれ変わりの神秘にとどまらない驚きをも秘めていて、冷静に考えるとやや戸惑う展開があるのも事実ではある。
けれどもこの「冷静に考えると」というところが、すでにこの作品とは相いれない思考なのは間違いなく、「どうして?」とか「何故?」とかいう疑問を差し挟んで、理由や理屈を要求するのではなく、提示された事象を、ただ提示されたままに受け留めて、主人公の純粋な恋心にときめき、適役の陰謀に怒り、悲しい別れに涙したあと、主人公の逆襲に歓呼して、煌びやかな歌とダンスがたっぷり盛り込まれた勧善懲悪の物語に浸ることこそが、観劇の正しい在り方なのだと気づかされる。しかも、一種ファンタジーに通じるその世界観が、「大スター」が存在することによって現代の物語として着地できているとなれば、もう成功は見えたようなものだ。スターの輝きがすべてをねじ伏せる物語が、宝塚に向かないはずはない。

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そんな確信を脚本・演出の小柳奈穂子はきちんと持っていたのだろう。舞台はインド映画ならではの煌びやかさと、起伏の激しい展開を直球に提示しつつ、何よりもこの公演が星組の新トップスターとなった紅ゆずるの、プレ披露公演であるいうことに徹底的にフォーカスして進んでいく。その一念に徹した潔さは爽快ですらあって、さすがは二番手時代の紅に『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』という揺るぎない代表作を用意した演出家ならではの、行き届いた目配りに感心させられた。それは、『キャッチ・ミー…』で紅の父親役を演じた専科の夏美ようが、今回の舞台ではすでに亡くなっている主人公オームの父親の遺影として、写真出演していることや、2幕で大スターとなっているオームが出演しているCM看板に、これまでの紅の主演作品の扮装写真が違和感なく網羅されているなどの、心憎い仕掛けばかりでなく、全編に渡り、芝居で、歌で、ダンスで新トップスター紅ゆずるを徹頭徹尾盛り立てる構成が心憎い。更にその手法がすなわち、インド映画のセオリーにも合致しているのだから、これは見事な企画の勝利と言えるだろう。

そんな作品で、新トップスターとして華々しく登場した紅が、実に多彩な表情を見せてくれるのが、なんとも目に楽しい。これまで紅ゆずるというスターが培ってきたパブリックイメージの中で、最も大きな認知度を得ているだろう、ちょっとおどけた表情はもちろん、どこか寂し気でピュアな顔、穏やかな優しさ、激しい感情の振幅の表現、そして、思いっきり気障に決めた姿等々。エキストラ俳優からスター俳優へと生まれ変わる役柄の、1幕と2幕の設定変化ばかりでなく、それぞれの幕の中にも、紅の様々な魅力と、表情が見えて飽きさせない。1つの作品の中で、これだけ万華鏡のように多彩なスターの魅力が堪能できるのも珍しく、従前からのファンにはもちろん、星組トップスターとしての紅の魅力に、この作品で改めて気づける人も多いことだろう。本拠地宝塚大劇場での披露公演に向けて、実に良いスタートを切ったことが頼もしい。

そうした多面的な表情で魅せる紅に対して、相手役となった新トップ娘役綺咲愛里の、ぶれない美しさが良い対照を成している。1幕では大スター女優、2幕ではその女優にそっくりなスターに憧れる娘を演じ分けるが、スター女優の時にはやや低めに発声している台詞の声に自然さがあり、2幕との対比も鮮やか。何よりスレンダーなプロポーションとキュートな小顔が、紅との相性抜群。まずビジュアル面からコンビとしての並びの良さが秀でていて、今後様々な形で二人三脚をしていく2人の豊かな可能性が感じられたのが何よりだった。

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そして、やはりこの公演から星組の二番手男役として登場した礼真琴が、果敢に難役に挑んでいる。二番手の男役にはしばしば色濃い敵役が回ることもあるとは言え、今回の野心家のプロデューサー・ムケ—シュほどの敵役は、宝塚オリジナルの脚本ではまず登場してこないだろう。それほど言ってしまえば救いようのない悪役で、未だどこかに可愛らしさも秘めている若き男役スターの礼にとっては、高いハードルだったと思うが、定評ある歌唱力はもちろんのこと、台詞発声の豊かさがその挑戦を大きく助けている。聞いていて実に気持ちの良い、ビロードのような手触りを感じさせる声に、大人のワルの造形が支えられていて、ここでこれだけの難題をクリアしたことは、礼にとって大きな財産となると思う。今後に期待したい。

他に母親の息子に対する大きな愛を表現した美稀千種、大スターをカリカチュアして見せた壱城あずさ、映画監督とその息子のワガママぶりで「七光り」の力関係をくっきりと提示した如月蓮と十碧れいや、相変わらずの美声が貴重な夏樹れいなど、星組の個性的な面々の中で、主人公の親友パップ—に扮した瀬央ゆりあの躍進ぶりが一際目を引き、新トップコンビ誕生と共に星組に新しい風が吹いてきていることを強烈に印象づけていた。

何より舞台全体が煌めいているとも思えるゴールドを基調とした衣装と、インド舞踊の特徴を巧みに取り入れた振付が作品の個性を際立たせていて、宝塚とインド映画双方の良いところが、タイトル通りのマサラ(インドのミックススパイス)な味付けで、新生星組の始動を飾ったのが喜ばしく、組の明るい未来が予見できる公演となっている。

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〈公演情報〉
宝塚歌劇星組公演
マサラ・ミュージカル
『オーム・シャンティ・オーム 〜恋する輪廻〜』
(C)Red Chillies Entertainments Pvt Ltd./Asian Films Co.,Ltd.

脚本・演出◇小柳奈穂子
出演◇紅ゆずる 綺咲愛里 ほか星組
●1/6〜18◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席 8,800円 A席 6,000円 B席 3,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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